PCM音源

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PCM音源(ピーシーエムおんげん)は、コンパクトディスクなどで扱われるパルス符号変調技術を用いたデジタルシンセサイザー音源方式のひとつ。

目次

[編集] 概要

あらかじめメモリに記録しておいたPCM波形(サンプル)を再生することで音を生成する装置を示す。電子楽器においてのPCM音源とは、例えば楽器の音などを録音・メモリへ蓄積しておき、鍵盤の押鍵やMIDIのノートオン信号などに応じて所望の音程のPCM波形をメモリから再生する音源方式を示す。1988年コルグから発売されたシンセサイザーであるM1に採用され、後に電子ピアノやシンセサイザーなどの電子楽器の音源方式のひとつとして広く普及している。

PCM音源はメモリの量が十分あれば任意の波形を発音できることが長所である。対してFM音源やアナログモデリング音源等の他の音源方式と比べ、メモリに収録した波形を変化させることは、単純にボリュームや音階を変化させることを除けば困難であり、シンセサイザーとしての音作りの自由度などでそれら他の音源方式に分を譲る点がある。

[編集] 歴史

歴史的経緯として、PCM音源方式のシンセサイザーの誕生は、1970年代のディジタルオルガンの発明や、初期のディジタル音楽ワークステーション開発にさかのぼる事ができる。

[編集] 海外 (1970年代-)

 1969年ロックウェルのラルフ・ドイチュは、電卓と同様、電子楽器でディジタル革命を起こす事を思い立ち、アーレン・オルガンと提携してディジタル・オルガン開発を進めた。そして1972年アーレン コンピュータ・オルガンを発売、1974年には子会社RMIからHarmonic Synthesizer[1]を発売した。

 1975年頃世界各地で、音楽製作全般をコンピュータ上で行う「ディジタル音楽ワークステーション」の開発が開始された。1979年登場したフェアライトCMIシンクラビアIIは、おそらく世界初となるサンプラー機能 と 再合成機能 他を提供し、1980年のLINN LN-1ディジタル・ドラムマシンや、1982年のイミュレータと共に、初期のサンプリング音楽の流行を形成した。 登場当時のサンプラーは、サンプル時間や表現能力に制限が多く、トラック編集技術の延長線上で「簡単に音階演奏する装置」として扱われる事も多かった。1980年代半ばに、ディジタル音楽ワークステーションは初期のDAW機能を提供するようになり[2]、現在フェアライトは業務用DAW機器メーカへと生まれ変わっている[3]

 普及価格帯の製品では、1985年Ensoniq MirageAKAI S-612といった一連のサンプラーが登場し、サードパーティの手によるサンプリング・ライブラリ提供と共に、音色入替え可能なPCM音源の一種として普及した。 なお初期のサンプラー単体製品は、単純なサンプル録音/編集/再生に特化しており、単体では音色の作り込みに難があった。しかしその後、シンセサイザー機能やエフェクター機能を取り込み、複雑な音色作りや繊細な表現も可能な「楽器」へと進化した。そして現在、ソフトウェア上で数GBのサンプルを駆使し、高価な生楽器の音を手軽に再現する「ツール」へと発展している。

 1980年 PPG Wavecomputer 360は、Wavetable(正確にはWave Sequence)と呼ばれる64種の波形を自由に切り替えて音色変化を得る方式を採用した[4]。また1981年PPG Wave 2.0では、アナログシンセサイザーと同様フィルタやエンベロープを追加し、ディジタル/アナログ併用のハイブリッド・シンセサイザーを完成した[5]。 その後1982年PPG Wavetermでディジタル音楽ワークステーションに進化、1986年PPG HDU (Hard Disk Unit)でDAW機能を提供[6]、同年参考展示のPPG Realizerは DAW機能に加え、他のシンセ(minimoogDX-7)をソフトウェア的にモデリングする機能も統合したが[7]、1987年PPG倒産により商品化されなかった。このPPG Realizerの機能は、後継会社Waldorfと提携したDAWソフト会社 スタインバーグにより、1996年 VST(Virtual Studio Technology)として実現され現在広く普及している。

[編集] 国内 (1980年代-)

 一方、国内楽器メーカは一部を除き、ディジタル技術への対応が全般に遅れがちだった。

1987年ローランドがD-50というサンプル・ウェーブをレイヤーできるLA音源方式シンセを発売した。後に発売されたコルグ社のM1は、サンプルを幾重にも重ねて発音するレイヤー(コンビネーション)機能やVDF(Variable Digital Filter、フィルター)やVDA(Variable Digital Amplifier、エンベロープ)を備え音作りに幅を持ち合わせている。このVDFやVDAによって、ただ鍵盤に楽器音を並べて再生するだけにとどまらず、VDFによって音の明るさを調整したり、VDAによって音の立ち上がりやその消え方といったパラメータを変化させたりすることができる。また、ローランドのJV-1080やJV-2080のように拡張カードを差し替えて膨大な音色を扱えるようにした機種もある。録音された音を鍵盤に割り振る作業というのは難しく、コストがかかるため、80年代末になって商品化されたが、音階を伴わないリズムマシンに関しては、いち早く80年代初頭からPCM音源は採用されていた。ローランドのTR-909という1983年に発売されたリズムマシンはタムやスネアといった太鼓系の音はアナログ音源だが、ハイハットやシンバルといった金物系の音はPCM音源を採用していた。また、80年代半ばにFM音源のDXシリーズで一世風靡したヤマハでも、リズムマシンのRXシリーズにはFM音源ではなく、PCM音源を採用していた。

VDFでは、録音された楽器音を削って暗くすることしかできず、VDAで調整可能な時間的変化も限られた範囲での調整となるため、前述の通り音作りの幅が狭い。この点を克服するため、80年代末から90年代の初頭にかけて、シンセサイザーのメーカー各社は工夫を重ねた。ヤマハではFM音源とハイブリッド型のRCM音源を開発し、PCM波形をFM変調できるSY99を発売する。またコルグの01/Wシリーズではウェーブシェーピングという波形を変調できる方法を採用した。また同社のWAVESTATIONシリーズでは、波形を繋ぎ合わせることで時間的に変化できるようにした。そしてローランド社ではアナログシンセイザーと同じように波形を変調できるリングモジュレータを搭載した。しかし、90年代後半以後、波形ROMの容量の増加による、PCM音源の音質の向上、そして、様々な奏法の演奏自体を波形として収録可能になったこと、ハイブリッド音源の音作りの難解さなどの理由からヤマハのEX5など一部の機種を除き、このような工夫を施したPCM音源のシンセサイザーは姿を消していった。

PCM音源は楽器メーカーによってその呼び名が異なっている。ヤマハ社のAWM2音源、ローランド社のRS-PCM音源、LA音源、コルグ社のaiスクエアシンセシスやAccess、HIなどと呼ぶ音源方式はいずれもPCM音源である。これらは各社が開発したチップセットや、サンプルの圧縮方法、ひいてはサンプルされた元の音の違い、フィルターの有無等を明示する為の商業用の商標であると考えてよい。

[編集] エンターテインメント

一方、家庭用ゲーム機におけるPCM音源は、スーパーファミコンの64Kバイトなど、メモリ容量の少なさという厳しい制約がついてまわるため、波形の時間的な変化などは苦手としている。例外として、アーケードゲームの一部は膨大な容量をPCM波形に割いている。なお、楽器としての使用ではなく、単純な音声の再生(セリフの発音など)に関しては、PCM音源のバッファを一時バッファとして使い、DMA転送で連続してデータを送り込みながら再生することで、バッファ容量以上の時間の音声の再生を実現することが多かった。 一方でDVDメディアなどからストリーム再生をするときには容量の制約はほぼなくなるが、ローディング時間増などのデメリットがある。家庭用ゲーム機の多くは、この2種類を用途により使い分けている。

[編集] 脚注

  1. ^ synthmuseum.com: RMI Harmonic Synthesizer
  2. ^ 1985年Synclavier "Direct to Disk" option
  3. ^ フェアライトジャパン: Fairlight Japanについて
  4. ^ ppg.synth.net: PPG WaveComputer 360A
  5. ^ ppg.synth.net: Wave2.0
  6. ^ synthmuseum.com: PPG Hard Disk Unit
  7. ^ synthmuseum.com: PPG Realizer, proun.net: PPG Realizer

[編集] 関連項目