エルキュール・ポアロ

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エルキュール・ポアロポワロとも、Hercule Poirot)はアガサ・クリスティ作の推理小説に登場する架空の名探偵。ベルギー人。シャーロック・ホームズなどと同様、時代を越え現在にまで至る支持を得た名探偵のひとり。

目次

[編集] 概要

ホームズ以来のそれまでの推理小説の主人公から一線を画した探偵であり、滑稽ともいえるほどの独特の魅力で高い人気を誇る。クリスティが生み出した代表的な探偵と同時に、一般的にも著名な名探偵の一人である。33の長編、54の短編、1つの戯曲に登場し、ミス・マープルシリーズと並んでクリスティが生涯書き継ぐ代表シリーズとなった。しかし、クリスティ自身は自伝の中で「初めの3、4作で彼を見捨て、もっと若い誰かで再出発すべきであった」と述べている。また、作者の投影であるオリヴァ夫人の作品に対するポアロの書評という形で「当初はベルギーについてほとんど何も知らなかった」とも述べている。

ポアロ作品では、自身が創作したベジタリアンのフィンランド人探偵スヴェン・イェルセンをもてあましているアリアドニ・オリヴァー夫人なる女流推理作家が登場するが、その描写からクリスティの分身と考えられている。孫のマシュー・プリチャードの証言では、クリスティはポアロにうんざりしていたが、出版社などに半ば強制される形でシリーズを書きついでいた[1]

日本では第二次世界大戦前から紹介されており、現在でも日本語でほぼ全てのポアロ作品を読める。

[編集] 人物設定

19世紀中頃(死亡年から逆算して、およそ1844年頃)に生を受け、ベルギー南部のフランス語圏(ワロン地方)出身とされている。名前のエルキュールHerculeは、ギリシア神話に登場する怪力の英雄ヘラクレスのフランス語綴り。ベルギー警察官として活躍し、署長にまで出世した後、退職していた。第一次世界大戦中、ドイツ軍の侵攻によりイギリスに亡命することを余儀なくされる。亡命者7名と共に、イギリスの富豪夫人(エミリー・イングルソープ)の援助を受けて、スタイルズ荘のそばにあるリーストウェイズ・コテージで生活をしていた。そこで、以前にベルギーで知り合っていた友人のアーサー・ヘイスティングズ大尉と再会し(1916年7月17日)、殺人事件を解決する(『スタイルズ荘の怪事件』)。その後、イギリスでヘイスティングズ大尉と同居し、探偵として活躍し、数多くの難事件を解決する。

ヘラクレスの名とは反対の小男(背丈は5フィート4インチそこそこ)で、緑の眼に卵型の頭、黒髪で、ぴんとはね上がった大きな口髭をたくわえている(晩年は頭頂部が完全に禿げ上がった)。「灰色の脳細胞」を十全に活用できる賢さを持つと自認し、自らを世界最高の探偵であるとする自信家である。『第三の女』で若い女性に「お年寄り」といわれたときには大変ショックを受けていた。女性には優しく、物腰柔らかで、若者たちの恋愛の成就を図るキザな紳士であり、また、常に整理・整頓を心掛け、身なり(特に口髭)に注意を払い、乱雑さには我慢できない。

捜査に際しても彼一流の手法をとる。ホームズ流の現場の地面にはいつくばって証拠品を集めるやり方を、「猟犬じゃあるまいし」と小ばかにし、容疑者たちとの尋問や何気ない会話に力点を置き、会話から人物の思考傾向・行動傾向を探る。ただし、物的証拠を見落さず、軽視することもなく、それらと心理分析を組み合わせ、「灰色の脳細胞」を駆使したプロファイリングに似た洞察により、真犯人を言い当て、数々の難事件を解決する。

事件の真相に近づくと、「私の灰色の小さな脳細胞(little grey cells)が活動を始めた」と口走るのが癖。また、いつも行動を共にするヘイスティングズ大尉にも「あなたの灰色の脳細胞を使いなさい」とよく諭している。フランス語圏出身のため、興奮すると訛ったり、英語の合間合間にフランス語を混ぜたりする。ポアロ自身は、英語がまともに話せないふりをして英国人を油断させるのだと言っている。いかにも外国的で、時として滑稽とも見えるポアロの言動に、英国人の容疑者たちは油断し、事件解決の手がかりとなる言葉を洩らしてしまうことも多い。ただし、フランス人と間違われることをひどく嫌う。船や飛行機が苦手。

引退して悠々自適に生活し、カボチャ(正確にはペポカボチャの一種で外見が冬瓜に似る)を育てるのが夢で、実際に『アクロイド殺し』などでそのような生活を実現しているが、難事件・怪事件が彼に引退を許さず、また彼自身も実際には隠棲生活には適応できない様子である(『アクロイド殺し』では不意に癇癪を起こし、せっかくのカボチャを塀越しに投げ捨てるという暴挙に及んでいる)。

なお、親友のヘイスティングズは、1937年の『もの言えぬ証人』あたりまでは、語り手となってポアロのいわゆる「ワトスン」役を務めることがしばしばで、彼の何気ないひと言がヒントとなり、ポアロが事件を解決に導くのもほとんど定番となっている。ヘイスティングズのほかに複数の作品に登場する人物として、友人の女流推理作家アリアドニ・オリヴァ夫人(作者自身がモデルであるといわれる)、バトル警視、レイス大佐(『ひらいたトランプ』、『ナイルに死す』)、有能な秘書ミス・レモン、ロンドン警視庁のジャップ主任警部や後期にはスペンス警視(『満潮に乗って』、『マギンティ夫人は死んだ』)などが登場している。

最後の登場作品である『カーテン』において、実は前半生の職業であった警察官、また後半生の職業であった探偵業とは相容れないであろう殺人を自身が2度犯したと告白し、他界している。没後の1974年ニューヨークの新聞の死亡欄にポアロの名前が載った。(死亡年齢は、推定130歳で、欧州人としてはまれに見る長寿であった。)

[編集] シリーズの登場人物

アーサー・ヘイスティングズ
初期の事件における相棒。作品におけるワトスン役。詳細はアーサー・ヘイスティングズを参照。
ジャップ主任警部
ロンドン警視庁の主任警部。ベルギー警察時代のポアロと一緒に捜査したことがある(1904年のアバークロンビー偽造事件や、「アルタラ男爵」の事件)。真実に迫るという点でポアロは彼に不満を感じているが、警察官としての手腕については評価している。ジャップの方は、数々の事件を手伝ってもらっているためにポアロには好意的である。
ミス・レモン
ポアロの秘書。神経質で機械的な女性だが、秘書としては有能。姉がいる(『ヒッコリー・ロードの殺人』)。初登場はシリーズ外の『パーカー・パイン登場』で、パインの秘書を務めている。
ヴェラ・ロサコフ伯爵夫人
帝政ロシア時代に貴族だった女性で、堂々とした振る舞いにポアロから「非凡な女性」と評価されている。彼女自身もポアロに対して数少ない恐ろしい男という旨のことを述べている。
初登場は短編「二重の手がかり」。その後『ビッグ4』に「ビッグ4」の手先として登場する。『ヘラクレスの冒険』ではロンドン市内で「地獄」というナイトクラブを経営している。
アリアドニ・オリヴァ
フィンランド人探偵のシリーズで有名な女性推理作家。アリアドニもまたギリシャ神話の登場人物の名前である。初登場は『パーカー・パイン登場』に収録の『退屈している軍人の事件』。『ひらいたトランプ』、『マギンティ夫人は死んだ』、『死者のあやまち』など、推理小説家という観点でポアロに意見を述べる。ノンシリーズの長編『蒼ざめた馬』にも登場する。クリスティ自身がモデルとされる。
ゴビィ
世界中に情報網を持つ探偵。ポアロの依頼を受けることもある(『青列車の秘密』、『葬儀を終えて』など)。決して、人の目を見て話さない。

[編集] 家族

作中でしばしばポアロは自分の家族について言及するシーンがあるが、どこまで事実かは不明(推理に必要な情報を引き出すための嘘と見えるから)。実際に作中に彼の家族(ないし親族)が登場したことはない。

ビッグ4』では一卵性双生児の兄弟・アシル(Achille、アキレウスのフランス語読み)がいるとされ、自分より頭が良いとポアロは述べている。その彼は実際に作中に登場するが、後にポアロの変装と判り、その後、ポアロはアシルは実在しない旨のことを述べている。その後、『ヘラクレスの冒険』では「兄弟がいたんじゃないのか?」という問いに対して「ほんの短い間のことだったがね」と答えている。またポアロの「偉大な探偵に兄弟はつきもの」というセリフは、シャーロック・ホームズの兄マイクロフトを意識したものであろう。

ポアロ自身についても、ロザコフ伯爵夫人に惚れていたような描写はあるものの、生涯独身を貫いたため、妻子はいない。

[編集] 「ポアロ」表記

日本では "Poirot" について「ポアロ」と「ポワロ」の二つの表記が存在するが、フランス語でoiは「ォワ」という感じに発音するため、後者のほうが原音に近い。以前は「ポワロ」と表記することが多かったが、「ポアロ」表記をしている早川書房が翻訳独占契約を結んだため、「ポアロ」という表記が世間に広まった。

[編集] 登場作品

初登場はクリスティの処女作『スタイルズ荘の怪事件』(1920)。以後『カーテン』(75)まで長編は33編、また50編以上の短編に登場(他にクリスティ自身がポアロ作品を数編戯曲化している)。代表的な作品は『アクロイド殺し』『オリエント急行の殺人』『ABC殺人事件』など。

『カーテン』はポアロ最後の作品だが、実際には1943年に書き上げられたポアロ22作目の長編である。彼女はこの作品を書き上げた後で金庫に封印し、自身の死後に刊行するよう出版社と契約した。しかし、1975年10月になって出版社にせき立てられる形で『カーテン』は発表され、奇しくもその数ヶ月後にクリスティは亡くなった。『カーテン』の舞台であるスタイルズ荘は、アガサのデビュー作にしてポアロが初めて登場した作品でもある『スタイルズ荘の怪事件』の舞台と同じ場所であり、『カーテン』というタイトルには、「ポアロという探偵の人生の幕を引く」という意味が込められている。

[編集] 長編

[編集] 短編

早川書房のクリスティー文庫を基準に挙げる。太字はポアロ物だけで構成された短編集。

  • 1924年:ポアロ登場
  • 1937年:死人の鏡
  • 1939年:黄色いアイリス
    • バグダッドの大櫃の謎 - The Mystery of the Bagdad Chest
    • あなたの庭はどんな庭? - How Does Your Garden Grow ?
    • 黄色いアイリス - Yellow Iris
    • 船上の怪事件 - Problem at Sea
    • 二度目のゴング - The Second Gong
  • 1947年:ヘラクレスの冒険
  • 1950年:愛の探偵たち
    • 四階のフラット - The Third-Floor Flat
    • ジョニー・ウェイバリーの冒険 - The Adventure of Johnnie Waverly
  • 1951年:教会で死んだ男
    • 戦勝記念舞踏会事件 - The Affair at the Victory Ball
    • 潜水艦の設計図 - The Submarine Plans
    • クラブのキング - The King of Clubs
    • マーケット・ベイジングの怪事件 - The Market Basing Mystery
    • 二重の手がかり - The Double Clue
    • 呪われた相続人 - The Lemesurier Inheritance
    • コーンウォールの毒殺事件 - The Cornish Mystery
    • プリマス行き急行列車 - The Plymouth Express
    • 料理人の失踪 - The Adventure of the Clapham Cook
    • 二重の罪 - Double Sin
    • スズメ蜂の巣 - Wasps' Nest
  • 1960年:クリスマス・プディングの冒険
    • クリスマスプディングの冒険 - The Adventure of the Christmas Pudding
    • スペイン櫃の秘密 - The Mystery of the Spanish Chest
    • 負け犬 - The Under Dog
    • 二十四羽の黒つぐみ - Four-and-Twenty Blackbirds
    • 夢 - The Dream
  • 1997年:マン島の黄金
    • クリスマスの冒険 - Christmas Adventure

[編集] 戯曲

[編集] 映像作品

映像作品ではアルバート・フィニーピーター・ユスティノフアルフレッド・モリーナデヴィッド・スーシェなどが演じ、映画、TVシリーズなどが作られた。中でもデヴィッド・スーシェが演じるTVシリーズ『名探偵ポワロ』は、「もしアガサが見たら最も気に入っただろう」と言われる程の人気作になり、現在ではスーシェ演じるポワロが一般的なポアロ像となっている。

[編集] 関連事項

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