「Ω-3脂肪酸」の版間の差分
編集の要約なし |
編集の要約なし |
||
12行目: | 12行目: | ||
== 概要 == |
== 概要 == |
||
植物及び微生物中では、ω6位に二重結合を作る[[Δ12-脂肪酸デサチュラーゼ]] により[[オレイン酸]]の二重結合を一個増やしてリノール酸を生成することができる。さらに植物及び微生物中では、ω3位に二重結合を作る[[デサチュラーゼ|Δ15-脂肪酸デサチュラーゼ]] により[[リノール酸]]の二重結合を一個増やして[[α-リノレン酸]]を生成することができる<ref name=kinjo>[http://www.kinjo-u.ac.jp/orc/document/topic1.pdf I章 |
植物及び微生物中では、ω6位に二重結合を作る[[Δ12-脂肪酸デサチュラーゼ]] により[[オレイン酸]]の二重結合を一個増やしてリノール酸を生成することができる。さらに植物及び微生物中では、ω3位に二重結合を作る[[デサチュラーゼ|Δ15-脂肪酸デサチュラーゼ]] により[[リノール酸]]の二重結合を一個増やして[[α-リノレン酸]]を生成することができる<ref name=kinjo>[http://www.kinjo-u.ac.jp/orc/document/topic1.pdf I章 最新の脂質栄養を理解するための基礎 ― ω(オメガ)バランスとは?] 『 [http://www.kinjo-u.ac.jp/orc/research/topic.html 脂質栄養学の新方向とトピックス]』</ref>。 |
||
ヒトを含む動物は、[[ステアリン酸]]からオレイン酸を生成する[[Δ9-脂肪酸デサチュラーゼ]]を有してはいるものの、Δ12-脂肪酸デサチュラーゼもΔ15-脂肪酸デサチュラーゼもどちらも有していないので、リノール酸もα-リノレン酸もどちらも自ら合成することができない。このためω-3脂肪酸は、[[ω-6脂肪酸]]とともに[[必須脂肪酸]]となっている。ω-3脂肪酸の欠乏により学習能、視力の低下をきたすことが報告されている<ref name=tottori>前田隆子、高山美佐子ほか「[http://repository.lib.tottori-u.ac.jp/Repository/metadata/2194 妊産婦の血清中脂肪酸と母乳中脂肪酸組成に関する研究-とくに、エイコサペンタエン酸に関する検討]」『鳥取大学医療技術短期大学部紀要』25巻,1996,pp15-24。</ref>。 |
ヒトを含む動物は、[[ステアリン酸]]からオレイン酸を生成する[[Δ9-脂肪酸デサチュラーゼ]]を有してはいるものの、Δ12-脂肪酸デサチュラーゼもΔ15-脂肪酸デサチュラーゼもどちらも有していないので、リノール酸もα-リノレン酸もどちらも自ら合成することができない。このためω-3脂肪酸は、[[ω-6脂肪酸]]とともに[[必須脂肪酸]]となっている。ω-3脂肪酸の欠乏により学習能、視力の低下をきたすことが報告されている<ref name=tottori>前田隆子、高山美佐子ほか「[http://repository.lib.tottori-u.ac.jp/Repository/metadata/2194 妊産婦の血清中脂肪酸と母乳中脂肪酸組成に関する研究-とくに、エイコサペンタエン酸に関する検討]」『鳥取大学医療技術短期大学部紀要』25巻,1996,pp15-24。</ref>。 |
||
⚫ | [[細胞膜]]は流動性を持ち、脂質や膜タンパクは動いている。この流動性は膜の構成物質で決まる。たとえば、[[リン脂質]]を構成する脂肪酸の不飽和度(二重結合の数)に影響され、二重結合を持つ炭化水素が多いほど(二重結合があるとその部分で炭化水素が折れ曲がるので)リン脂質の相互作用が低くなり流動性は増すことになる。例えばDHAは不飽和度が極めて高く細胞膜の流動性の保持に寄与している。例えば、赤血球について、[[動物性脂肪]]に多い[[飽和脂肪酸]]は赤血球膜を硬直化し<ref name="kuri2005maku">栗原毅 『血液サラサラ生活のすすめ-ドロドロにならない食事と過ごし方』 小学館、2005年1月。ISBN 978-4093045810。54-55頁</ref>、逆に魚に多いω-3脂肪酸は赤血球膜を柔軟化する<ref>栗原毅 『血液サラサラ生活のすすめ-ドロドロにならない食事と過ごし方』 小学館、2005年1月。ISBN 978-4093045810。38頁68頁</ref>。神経細胞は、軸索や樹状突起などの凹凸の多い入り組んだ構造を有しているため、膜成分が極端に多くなっている<ref>浜崎智仁「[http://www.kinjo-u.ac.jp/orc/document/topic6.pdf 13:00 〜13:40脂質と精神]」金城学院大学/日本脂質栄養学会共催シンポジウムの抄録 6章p10『 [http://www.kinjo-u.ac.jp/orc/research/topic.html 脂質栄養学の新方向とトピックス]』</ref>{{信頼性要検証|date=2012年10月}}。 |
||
[[栄養学]]的に必須なω-3脂肪酸は、[[α-リノレン酸]](ALA)、[[エイコサペンタエン酸]](EPA)、[[ドコサヘキサエン酸]](DHA)である。ヒトを含めた動物の体内ではΔ6-脂肪酸デサチュラーゼにより18:3(n-3)の[[α-リノレン酸]](ALA)のΔ6の位置に不飽和結合を作り炭素2個伸張して20:4(n-3)の[[エイコサテトラエン酸]]を生成し、Δ5-脂肪酸デサチュラーゼにより不飽和結合を増やして20:5(n-3)の[[エイコサペンタエン酸]](EPA)を生成し、このエイコサペンタエン酸から22:5(n-3)のドコサペンタエン酸(DPA)を経るかSprecher's shuntと呼ばれる経路いずれかを経て22:6(n-3)の[[ドコサヘキサエン酸]](DHA)が生成される(詳細は[[デサチュラーゼ]]を参照のこと。)<ref name=kinjo/>。このようにヒトを含めた多くの[[動物]]は体内で[[α-リノレン酸]]を原料としてEPAやDHAを生産することができるが、α-リノレン酸からEPAやDHAに変換される割合は10-15%程度である<ref name=saitama>岡田斉、萩谷久美子、石原俊一ほか「Omega-3多価不飽和脂肪酸の摂取とうつを中心とした精神的健康との関連性について探索的検討--最近の研究動向のレビューを中心に」『人間科学研究』(30),2008,pp87-96. {{NAID|120001859287}}</ref>。 |
|||
== 健康と栄養学的観点から == |
|||
⚫ | [[細胞膜]]は流動性を持ち、脂質や膜タンパクは動いている。この流動性は膜の構成物質で決まる。たとえば、[[リン脂質]]を構成する脂肪酸の不飽和度(二重結合の数)に影響され、二重結合を持つ炭化水素が多いほど(二重結合があるとその部分で炭化水素が折れ曲がるので)リン脂質の相互作用が低くなり流動性は増すことになる。例えばDHAは不飽和度が極めて高く細胞膜の流動性の保持に寄与している。例えば、赤血球について、[[動物性脂肪]]に多い[[飽和脂肪酸]]は赤血球膜を硬直化し<ref name="kuri2005maku">栗原毅 『血液サラサラ生活のすすめ-ドロドロにならない食事と過ごし方』 小学館、2005年1月。ISBN 978-4093045810。54-55頁</ref>、逆に魚に多いω-3脂肪酸は赤血球膜を柔軟化する<ref>栗原毅 『血液サラサラ生活のすすめ-ドロドロにならない食事と過ごし方』 小学館、2005年1月。ISBN 978-4093045810。38頁68頁</ref>。神経細胞は、軸索や樹状突起などの凹凸の多い入り組んだ構造を有しているため、膜成分が極端に多くなっている<ref>浜崎智仁「[http://www.kinjo-u.ac.jp/orc/document/topic6.pdf 13:00 |
||
[[小腸]]切除や脳障害により経口摂取が行えない様な状態下で、「鱗状皮膚炎」、「出血性皮膚炎」、「結節性皮膚炎」、「成長障害」等の |
|||
⚫ | 欠乏症状が現れる事が報告されている<ref>江崎治、佐藤眞一、窄野昌信 ほか、[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs1983/59/2/59_2_123/_article/-char/ja/ n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取基準の考え方] 日本栄養・食糧学会誌 Vol.59 (2006) No.2 P.123-158, {{DOI|10.4327/jsnfs.59.123}}</ref>。DHAは[[精液]]や[[脳]]、[[網膜]]の[[リン脂質]]に含まれる[[脂肪酸]]の主要な成分である。DHAの摂取は[[血]]中の[[中性脂肪]]([[トリグリセライド]])量を減少させ、[[心臓病]]の危険を低減する。また、DHAが不足すると脳内[[セロトニン]]の量が減少し、[[注意欠陥・多動性障害|多動性障害]]を引き起こすという報告がある<ref>{{cite journal |author=Richardson AJ |title=Omega-3 fatty acids in ADHD and related neurodevelopmental disorders |journal=Int Rev Psychiatry |volume=18 |issue=2 |pages=155-72 |year=2006 |month=April |pmid=16777670 |doi=10.1080/09540260600583031}}</ref>。[[アルツハイマー型痴呆]]<ref>{{cite journal|last1=Oksman|first1=M.|last2=Iivonen|first2=H.|last3=Hogyes|first3=E.|last4=Amtul|first4=Z.|last5=Penke|first5=B.|last6=Leenders|first6=I.|last7=Broersen|first7=L.|last8=Lütjohann|first8=D.|last9=Hartmann|first9=T.|last10=Tanila|first10=H.|title=Impact of different saturated fatty acid, polyunsaturated fatty acid and cholesterol containing diets on beta-amyloid accumulation in APP/PS1 transgenic mice|journal=Neurobiology of Disease|volume=23|issue=3|year=2006|pages=563–572|issn=09699961|doi=10.1016/j.nbd.2006.04.013}}</ref><ref>{{cite journal |author=Uauy R, Dangour AD |title=Nutrition in brain development and aging: role of essential fatty acids |journal=Nutr. Rev. |volume=64 |issue=5 Pt 2 |pages=S24–33; discussion S72–91 |year=2006 |month=May |pmid=16770950}}</ref>や[[うつ病]]などの[[疾病]]に対してもDHAの摂取は有効であるといわれている。{{要出典|date=2013年12月}} |
||
ω-3不飽和脂肪酸の多い魚及びω-3不飽和脂肪酸摂取量が多いグループの[[肝がん]]発生リスクは低くなっている<ref>[http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/3008.html 魚、n-3不飽和脂肪酸摂取量と肝がんとの関連についてJPHC Study 多目的コホート研究] (独立行政法人国立がん研究センター)</ref>。[[魚]]を食べても[[大腸癌]]のリスクは下がらない<ref>[http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/268.html 魚・n-3脂肪酸摂取と大腸がん罹患JPHC Study 多目的コホート研究] (独立行政法人国立がん研究センター)</ref>。ただし、魚由来の[[ω-3脂肪酸]]及びトータルのω-3不飽和脂肪酸摂取量が多いグループの結腸癌リスクは低くなる。[[ω-6脂肪酸]]およびω-3/ω-6比は大腸癌のリスクと関連がみられない<ref>[http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/2797.html n-3およびn-6不飽和脂肪酸摂取と大腸がんとの関連についてJPHC Study 多目的コホート研究] (独立行政法人国立がん研究センター)</ref>。魚を多く食べるグループで虚血性心疾患のリスクが低下する<ref>[http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/279.html 魚・n-3脂肪酸摂取と虚血性心疾患発症との関連についてJPHC Study 多目的コホート研究] (独立行政法人国立がん研究センター)</ref>との研究が有る一方、血中のω3脂肪酸濃度と脳血管疾患発生の関係を調べた観察研究と、ω3脂肪酸サプリの使用と脳血管疾患の関係を調べた無作為化試験においては、有意な関係は見られなかったとする報告がある<ref>[http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/bmj/201211/527751.html 魚の摂取による脳血管リスク低下はω3脂肪酸に由来しない]日経メディカルオンライン 記事:2012.11.16</ref>。全体としては、魚及びω-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量と[[自殺]]リスクとは関連はない。ただし、女性では魚の摂取量が非常に少ない人で自殺のリスクが上昇する。男性の非飲酒者では、EPA・DHAの摂取量が最も多い群で自殺のリスクが上昇する<ref>[http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/2414.html n-3系多価不飽和脂肪酸、及び魚の摂取と自殺との関連についてJPHC Study 多目的コホート研究] (独立行政法人国立がん研究センター)</ref>。 |
|||
⚫ | DHAは[[精液]]や[[脳]]、[[網膜]]の[[リン脂質]]に含まれる[[脂肪酸]]の主要な成分である。DHAの摂取は[[血]]中の[[中性脂肪]]([[トリグリセライド]])量を減少させ、[[心臓病]]の危険を低減する。また、DHAが不足すると脳内[[セロトニン]]の量が減少し、[[注意欠陥・多動性障害|多動性障害]]を引き起こすという報告がある<ref>{{cite journal |author=Richardson AJ |title=Omega-3 fatty acids in ADHD and related neurodevelopmental disorders |journal=Int Rev Psychiatry |volume=18 |issue=2 |pages=155-72 |year=2006 |month=April |pmid=16777670 |doi=10.1080/09540260600583031}}</ref> |
||
ω-3不飽和脂肪酸の多い魚及びω-3不飽和脂肪酸摂取量が多いグループの[[肝がん]]発生リスクは低くなっている<ref>[http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/3008.html 魚、n-3不飽和脂肪酸摂取量と肝がんとの関連についてJPHC Study 多目的コホート研究] (独立行政法人国立がん研究センター)</ref>。 |
|||
[[魚]]を食べても[[大腸癌]]のリスクは下がらない<ref>[http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/268.html 魚・n-3脂肪酸摂取と大腸がん罹患JPHC Study 多目的コホート研究] (独立行政法人国立がん研究センター)</ref>。ただし、魚由来の[[ω-3脂肪酸]]及びトータルのω-3不飽和脂肪酸摂取量が多いグループの結腸癌リスクは低くなる。[[ω-6脂肪酸]]およびω-3/ω-6比は大腸癌のリスクと関連がみられない<ref>[http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/2797.html n-3およびn-6不飽和脂肪酸摂取と大腸がんとの関連についてJPHC Study 多目的コホート研究] (独立行政法人国立がん研究センター)</ref>。 |
|||
魚を多く食べるグループで虚血性心疾患のリスクが低下する<ref>[http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/279.html 魚・n-3脂肪酸摂取と虚血性心疾患発症との関連についてJPHC Study 多目的コホート研究] (独立行政法人国立がん研究センター)</ref>との研究が有る一方、血中のω3脂肪酸濃度と脳血管疾患発生の関係を調べた観察研究と、ω3脂肪酸サプリの使用と脳血管疾患の関係を調べた無作為化試験においては、有意な関係は見られなかったとする報告がある<ref>[http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/bmj/201211/527751.html 魚の摂取による脳血管リスク低下はω3脂肪酸に由来しない]日経メディカルオンライン 記事:2012.11.16</ref>。 |
|||
全体としては、魚及びω-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量と[[自殺]]リスクとは関連はない。ただし、女性では魚の摂取量が非常に少ない人で自殺のリスクが上昇する。男性の非飲酒者では、EPA・DHAの摂取量が最も多い群で自殺のリスクが上昇する<ref>[http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/2414.html n-3系多価不飽和脂肪酸、及び魚の摂取と自殺との関連についてJPHC Study 多目的コホート研究] (独立行政法人国立がん研究センター)</ref>。 |
|||
うつ病が20世紀になって増加しているが[[ω-6脂肪酸]]を多く含む[[植物油]]の摂取が増加したことと軌を一にする。{{要出典|date=2013年12月}} |
|||
日本の患者数の年度ごとの増加傾向には、高齢化やうつ病についての啓発活動による受診率の増加が原因としてあげられる。<ref>[http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/qa/pdf/qa1.pdf うつ病の患者さんは増加しているのでしょうか? 日本うつ病学会]</ref> |
日本の患者数の年度ごとの増加傾向には、高齢化やうつ病についての啓発活動による受診率の増加が原因としてあげられる。<ref>[http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/qa/pdf/qa1.pdf うつ病の患者さんは増加しているのでしょうか? 日本うつ病学会]</ref> |
||
33行目: | 28行目: | ||
ω-3脂肪酸の摂取がうつ病の治療に効果があるか、日本でのエビデンスは希薄である。<ref name="nutsu2012">[http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/mood_disorder/img/120726.pdf 日本うつ病学会治療ガイドライン. II.大うつ病性障害 2012 Ver.1. 平成24年7月26日]</ref> |
ω-3脂肪酸の摂取がうつ病の治療に効果があるか、日本でのエビデンスは希薄である。<ref name="nutsu2012">[http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/mood_disorder/img/120726.pdf 日本うつ病学会治療ガイドライン. II.大うつ病性障害 2012 Ver.1. 平成24年7月26日]</ref> |
||
{{main|うつ病}} |
{{main|うつ病}} |
||
男性より女性のほうが2倍ほどうつ病になりやすいとされている<ref>[[厚生労働省]] [http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/01/dl/s0126-5a.doc うつ病対策推進方策マニュアル(doc)]</ref>。 |
|||
女性の発症率の高さについては、妊娠・出産期・閉経期・月経前([[PMS]]、[[PMDD]]、[[セロトニン]]の減少)の女性ホルモン、[[セロトニン]]の激減がマタニティブルーや産後うつに関与している可能性がある。産後うつは乳児の育児時の[[睡眠]]不足もある。<ref>[http://www.jcptd.jp/public/kind_utsu_2.html#ku07 女性のうつ病 JCPTD]</ref>日本ではうつ病が増加傾向にあるが、女性の高齢化による自然増もある。 |
|||
ヒトは、ω-3脂肪酸を[[デノボ合成]]することはできないが、18炭素ω-3脂肪酸のα-リノレン酸から20-, 22-炭素の不飽和ω-3脂肪酸を形成することができる。これらの不飽和化の増加は、使用される[[不飽和化酵素]]が共通しているため[[リノール酸]]から誘導される必須な[[ω-6脂肪酸]]と共に競争的に起こる。ω-3脂肪酸のα-リノレン酸とω-6脂肪酸のリノール酸はどちらも[[食物]]から摂取しなければならない必須な[[栄養素]]([[必須脂肪酸]])である。体内で起こるα-リノレン酸からの長いω-3脂肪酸の合成はω-6類似体によって競争的に抑制される<ref>[http://dx.doi.org/10.1271/kagakutoseibutsu1962.28.175 必須脂肪酸の栄養生化学]、奥山 治美、化学と生物、Vol. 28 (1990) No. 3 </ref>。したがって、ω-3脂肪酸が食物から直接得られたとき、またはω-6類似体の量がω-3の量を大きく上回らないとき、組織内での長鎖ω-3脂肪酸の蓄積は効率的である。 |
ヒトは、ω-3脂肪酸を[[デノボ合成]]することはできないが、18炭素ω-3脂肪酸のα-リノレン酸から20-, 22-炭素の不飽和ω-3脂肪酸を形成することができる。これらの不飽和化の増加は、使用される[[不飽和化酵素]]が共通しているため[[リノール酸]]から誘導される必須な[[ω-6脂肪酸]]と共に競争的に起こる。ω-3脂肪酸のα-リノレン酸とω-6脂肪酸のリノール酸はどちらも[[食物]]から摂取しなければならない必須な[[栄養素]]([[必須脂肪酸]])である。体内で起こるα-リノレン酸からの長いω-3脂肪酸の合成はω-6類似体によって競争的に抑制される<ref>[http://dx.doi.org/10.1271/kagakutoseibutsu1962.28.175 必須脂肪酸の栄養生化学]、奥山 治美、化学と生物、Vol. 28 (1990) No. 3 </ref>。したがって、ω-3脂肪酸が食物から直接得られたとき、またはω-6類似体の量がω-3の量を大きく上回らないとき、組織内での長鎖ω-3脂肪酸の蓄積は効率的である。 |
||
107行目: | 98行目: | ||
ω-3系脂肪酸の必要量は「[[日本人の食事摂取基準]](2005年版)」で成人では1日に2.0-2.9グラム以上とされており、「[[日本人の食事摂取基準]](2010年版)」では成人では1日に2g程度とされている。摂取上限は示されていないが男性においては[[前立腺がん]]の罹患リスクのためα-リノレン酸の過剰摂取は注意が必要とされている。EPA及びDHAについては1日に合計で1g以上の摂取が望ましいとされている<ref>「[http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4g.pdf 脂質]」『[http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/s0529-4.html 日本人の食事摂取基準」(2010年版)]』pp77-108</ref>。なお、前立腺がんの罹患リスクは、特に乳製品や肉類由来のα-リノレン酸との関連が示唆されている<ref>{{cite journal |author=Giovannucci E, Rimm EB, Colditz GA, ''et al.'' |title=A prospective study of dietary fat and risk of prostate cancer |journal=J. Natl. Cancer Inst. |volume=85 |issue=19 |pages=1571-9 |year=1993 |month=October |pmid=8105097}}</ref>。 |
ω-3系脂肪酸の必要量は「[[日本人の食事摂取基準]](2005年版)」で成人では1日に2.0-2.9グラム以上とされており、「[[日本人の食事摂取基準]](2010年版)」では成人では1日に2g程度とされている。摂取上限は示されていないが男性においては[[前立腺がん]]の罹患リスクのためα-リノレン酸の過剰摂取は注意が必要とされている。EPA及びDHAについては1日に合計で1g以上の摂取が望ましいとされている<ref>「[http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4g.pdf 脂質]」『[http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/s0529-4.html 日本人の食事摂取基準」(2010年版)]』pp77-108</ref>。なお、前立腺がんの罹患リスクは、特に乳製品や肉類由来のα-リノレン酸との関連が示唆されている<ref>{{cite journal |author=Giovannucci E, Rimm EB, Colditz GA, ''et al.'' |title=A prospective study of dietary fat and risk of prostate cancer |journal=J. Natl. Cancer Inst. |volume=85 |issue=19 |pages=1571-9 |year=1993 |month=October |pmid=8105097}}</ref>。 |
||
⚫ | ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の望ましい摂取比率は1:1から1:4であると言われている<ref>Tribole, Evelyn. [http://worldcat.org/oclc/77520775&referer=brief_results"The Ultimate Omega-3 Diet]" New York. McGraw-Hill. 2007 ISBN 978-0-07-146986-9</ref><ref>Lands, William E.M. "Fish, Omega-3 and Human Health" Champaign. AOCS Press. 2005 ISBN 1-893997-81-2</ref>。典型的な西洋での食事ではω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率は 1:10から1:30の間で、ω-6脂肪酸の摂取が極めて高い実態にある<ref>{{cite journal |author=Freeman MP, Hibbeln JR, Wisner KL, ''et al.'' |title=Omega-3 fatty acids: evidence basis for treatment and future research in psychiatry |journal=J Clin Psychiatry |volume=67 |issue=12 |pages=1954–67 |year=2006 |month=December |pmid=17194275}}</ref><ref>{{cite journal |author=Lewis MD, Hibbeln JR, Johnson JE, Lin YH, Hyun DY, Loewke JD |title=Suicide deaths of active-duty US military and omega-3 fatty-acid status: a case-control comparison |journal=J Clin Psychiatry |volume=72 |issue=12 |pages=1585–90 |year=2011 |month=December |pmid=21903029 |pmc=3259251 |doi=10.4088/JCP.11m06879}}</ref>。この原因は、海外で利用される代表的な[[食用油]]の多くが高い比率のω-6脂肪酸が含まれていてω-3脂肪酸があまり含まれていないからである。日本では[[キャノーラ油]]を含む[[菜種油]]が食用油の全生産量の6割を占めており<ref>[http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/oil/index.html 油糧生産実績調査] (農林水産省)</ref>、日本ではω-3脂肪酸の豊富な[[海産物]]が多く消費されているため、海外諸国に比べれば日本の食品中のω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率は高いと推定される。食事中のω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率は、日本の妊婦では1:3<ref name=tottori/>、日本の成人では1:4、アメリカでは1:8の比率となっている<ref>奥山治美、「蛋白・核酸・酵素」、35、275-279、199</ref>。前述のように[[うつ病]]とω-3脂肪酸の関係が指摘されているが、[[WHO]]の統計では、うつ病の[[障害調整生命年]]は、日本が世界最低レベルであり、アメリカが世界最高レベルとなっている(詳細は「[[うつ病#国別データ]]」を参照のこと)。 |
||
ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の望ましい摂取比率は1:1から1:4であると言われている<ref>Tribole, Evelyn. [http://worldcat.org/oclc/77520775&referer=brief_results"The Ultimate Omega-3 Diet]" New York. McGraw-Hill. 2007 ISBN 978-0-07-146986-9 |
|||
⚫ | </ref><ref>Lands, William E.M. "Fish, Omega-3 and Human Health" Champaign. AOCS Press. 2005 ISBN 1-893997-81-2</ref>。典型的な西洋での食事ではω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率は 1:10から1:30の間で、ω-6脂肪酸の摂取が極めて高い実態にある<ref>{{cite journal |author=Freeman MP, Hibbeln JR, Wisner KL, ''et al.'' |title=Omega-3 fatty acids: evidence basis for treatment and future research in psychiatry |journal=J Clin Psychiatry |volume=67 |issue=12 |pages=1954–67 |year=2006 |month=December |pmid=17194275}}</ref><ref>{{cite journal |author=Lewis MD, Hibbeln JR, Johnson JE, Lin YH, Hyun DY, Loewke JD |title=Suicide deaths of active-duty US military and omega-3 fatty-acid status: a case-control comparison |journal=J Clin Psychiatry |volume=72 |issue=12 |pages=1585–90 |year=2011 |month=December |pmid=21903029 |pmc=3259251 |doi=10.4088/JCP.11m06879}}</ref>。この原因は、海外で利用される代表的な[[食用油]]の多くが高い比率のω-6脂肪酸が含まれていてω-3脂肪酸があまり含まれていないからである。日本では[[キャノーラ油]]を含む[[菜種油]]が食用油の全生産量の6割を占めており<ref>[http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/oil/index.html 油糧生産実績調査] (農林水産省)</ref>、日本ではω-3脂肪酸の豊富な[[海産物]]が多く消費されているため、海外諸国に比べれば日本の食品中のω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率は高いと推定される。食事中のω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率は、日本の妊婦では1:3<ref name=tottori/>、日本の成人では1:4、アメリカでは1:8の比率となっている<ref>奥山治美、「蛋白・核酸・酵素」、35、275-279、199</ref>。前述のように[[うつ病]]とω-3脂肪酸の関係が指摘されているが、[[WHO]]の統計では、うつ病の[[障害調整生命年]]は、日本が世界最低レベルであり、アメリカが世界最高レベルとなっている(詳細は「[[うつ病#国別データ]]」を参照のこと)。 |
||
== 含有食品 == |
== 含有食品 == |
||
116行目: | 106行目: | ||
[[動物性脂肪]]にも食餌から供給されたω-3脂肪酸が微量ながら含まれている。また、α-リノレン酸は広葉植物の[[葉]]の[[チラコイド]]の膜組織([[光合成]]に関わる)からも得られる<ref>{{cite journal |
[[動物性脂肪]]にも食餌から供給されたω-3脂肪酸が微量ながら含まれている。また、α-リノレン酸は広葉植物の[[葉]]の[[チラコイド]]の膜組織([[光合成]]に関わる)からも得られる<ref>{{cite journal |
||
|author= Chapman, David J.; De-Felice, John and Barber, James |
|author= Chapman, David J.; De-Felice, John and Barber, James |
||
|journal=Plant Physiol |year=1983 |month=May|volume=72(1)|pages=225–228 |
|journal=Plant Physiol |year=1983 |month=May|volume=72(1)|pages=225–228 |
||
|title=Growth Temperature Effects on Thylakoid Membrane Lipid and Protein Content of Pea Chloroplasts 1 |
|title=Growth Temperature Effects on Thylakoid Membrane Lipid and Protein Content of Pea Chloroplasts 1 |
||
122行目: | 112行目: | ||
|accessdate=2007-01-15}}</ref>。実際、[[ホウレンソウ]]や[[チンゲンサイ]]などの[[青物]]野菜からα-リノレン酸が検出されている。ゆえに、葉は[[草食動物]]の格好のα-リノレン酸の供給源となっている。家畜の飼料として[[牧草]]ではなくα-リノレン酸を余り含有していない[[穀物]]のみを与えると動物性脂肪中のα-リノレン酸の含有率(対リノール酸)が大きく低下することになる。 |
|accessdate=2007-01-15}}</ref>。実際、[[ホウレンソウ]]や[[チンゲンサイ]]などの[[青物]]野菜からα-リノレン酸が検出されている。ゆえに、葉は[[草食動物]]の格好のα-リノレン酸の供給源となっている。家畜の飼料として[[牧草]]ではなくα-リノレン酸を余り含有していない[[穀物]]のみを与えると動物性脂肪中のα-リノレン酸の含有率(対リノール酸)が大きく低下することになる。 |
||
また、[[母乳]]や[[牛乳]]にもω-3脂肪酸が含まれているが、ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸との比率は、母親の食事や[[乳牛]] |
また、[[母乳]]や[[牛乳]]にもω-3脂肪酸が含まれているが、ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸との比率は、母親の食事や[[乳牛]]に与える[[飼料]]によって大きく変化する。 |
||
=== 植物油の脂肪酸組成 === |
=== 植物油の脂肪酸組成 === |
2016年6月17日 (金) 03:15時点における版
この記事には独自研究が含まれているおそれがあります。 |
ω-3脂肪酸(おめが-さん しぼうさん、ω-3 fatty acid、ω3とも表記、オメガ-スリー、Omega-3)または、n-3脂肪酸(n−3 fatty acid)は、不飽和脂肪酸の分類の一つで、一般にω-3位に炭素-炭素二重結合を持つものを指す。
概要
植物及び微生物中では、ω6位に二重結合を作るΔ12-脂肪酸デサチュラーゼ によりオレイン酸の二重結合を一個増やしてリノール酸を生成することができる。さらに植物及び微生物中では、ω3位に二重結合を作るΔ15-脂肪酸デサチュラーゼ によりリノール酸の二重結合を一個増やしてα-リノレン酸を生成することができる[2]。 ヒトを含む動物は、ステアリン酸からオレイン酸を生成するΔ9-脂肪酸デサチュラーゼを有してはいるものの、Δ12-脂肪酸デサチュラーゼもΔ15-脂肪酸デサチュラーゼもどちらも有していないので、リノール酸もα-リノレン酸もどちらも自ら合成することができない。このためω-3脂肪酸は、ω-6脂肪酸とともに必須脂肪酸となっている。ω-3脂肪酸の欠乏により学習能、視力の低下をきたすことが報告されている[3]。
細胞膜は流動性を持ち、脂質や膜タンパクは動いている。この流動性は膜の構成物質で決まる。たとえば、リン脂質を構成する脂肪酸の不飽和度(二重結合の数)に影響され、二重結合を持つ炭化水素が多いほど(二重結合があるとその部分で炭化水素が折れ曲がるので)リン脂質の相互作用が低くなり流動性は増すことになる。例えばDHAは不飽和度が極めて高く細胞膜の流動性の保持に寄与している。例えば、赤血球について、動物性脂肪に多い飽和脂肪酸は赤血球膜を硬直化し[4]、逆に魚に多いω-3脂肪酸は赤血球膜を柔軟化する[5]。神経細胞は、軸索や樹状突起などの凹凸の多い入り組んだ構造を有しているため、膜成分が極端に多くなっている[6][信頼性要検証]。
健康と栄養学的観点から
小腸切除や脳障害により経口摂取が行えない様な状態下で、「鱗状皮膚炎」、「出血性皮膚炎」、「結節性皮膚炎」、「成長障害」等の 欠乏症状が現れる事が報告されている[7]。DHAは精液や脳、網膜のリン脂質に含まれる脂肪酸の主要な成分である。DHAの摂取は血中の中性脂肪(トリグリセライド)量を減少させ、心臓病の危険を低減する。また、DHAが不足すると脳内セロトニンの量が減少し、多動性障害を引き起こすという報告がある[8]。アルツハイマー型痴呆[9][10]やうつ病などの疾病に対してもDHAの摂取は有効であるといわれている。[要出典]
ω-3不飽和脂肪酸の多い魚及びω-3不飽和脂肪酸摂取量が多いグループの肝がん発生リスクは低くなっている[11]。魚を食べても大腸癌のリスクは下がらない[12]。ただし、魚由来のω-3脂肪酸及びトータルのω-3不飽和脂肪酸摂取量が多いグループの結腸癌リスクは低くなる。ω-6脂肪酸およびω-3/ω-6比は大腸癌のリスクと関連がみられない[13]。魚を多く食べるグループで虚血性心疾患のリスクが低下する[14]との研究が有る一方、血中のω3脂肪酸濃度と脳血管疾患発生の関係を調べた観察研究と、ω3脂肪酸サプリの使用と脳血管疾患の関係を調べた無作為化試験においては、有意な関係は見られなかったとする報告がある[15]。全体としては、魚及びω-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量と自殺リスクとは関連はない。ただし、女性では魚の摂取量が非常に少ない人で自殺のリスクが上昇する。男性の非飲酒者では、EPA・DHAの摂取量が最も多い群で自殺のリスクが上昇する[16]。
日本の患者数の年度ごとの増加傾向には、高齢化やうつ病についての啓発活動による受診率の増加が原因としてあげられる。[17]
うつ病患者においてはω-6脂肪酸からアラキドン酸を経て生成される炎症性の生理活性物質であるエイコサノイドのレベルが高いということが示されている[18][19]。シーフードをたくさん摂取するところほど母乳内のDHAは高く、産後うつ病の有病率は低かった。母体から胎児への転送により、妊娠・出産期には母親には無視できないω-3脂肪酸の枯渇の危険性が高まり、その結果として産後のうつ病の危険性に関与する可能性がある。また、うつ病の深刻さと赤血球中のリン脂質におけるω-6のアラキドン酸とω-3のエイコサペンタエン酸(EPA)の比率の間に有意な正の相関が認められた。さらに、健常者と比較してうつ病患者はω-3脂肪酸の蓄積量が有意に低く、ω-6とω-3の比率は有意に高かったことが指摘されている[20]。
ω-3脂肪酸の摂取がうつ病の治療に効果があるか、日本でのエビデンスは希薄である。[21]
ヒトは、ω-3脂肪酸をデノボ合成することはできないが、18炭素ω-3脂肪酸のα-リノレン酸から20-, 22-炭素の不飽和ω-3脂肪酸を形成することができる。これらの不飽和化の増加は、使用される不飽和化酵素が共通しているためリノール酸から誘導される必須なω-6脂肪酸と共に競争的に起こる。ω-3脂肪酸のα-リノレン酸とω-6脂肪酸のリノール酸はどちらも食物から摂取しなければならない必須な栄養素(必須脂肪酸)である。体内で起こるα-リノレン酸からの長いω-3脂肪酸の合成はω-6類似体によって競争的に抑制される[22]。したがって、ω-3脂肪酸が食物から直接得られたとき、またはω-6類似体の量がω-3の量を大きく上回らないとき、組織内での長鎖ω-3脂肪酸の蓄積は効率的である。
項目 | 分量(g) |
---|---|
脂肪 | 10.3 |
飽和脂肪酸 | 2.3 |
16:0(パルミチン酸) | 0.919 |
18:0(ステアリン酸) | 1.273 |
一価不飽和脂肪酸 | 1.89 |
18:1(オレイン酸) | 1.646 |
20:1 | 0.222 |
多価不飽和脂肪酸 | 1.586 |
20:4(未同定) | 0.319 |
22:5(n-3)(ドコサペンタエン酸(DPA)) | 0.374 |
22:6(n-3)(ドコサヘキサエン酸(DHA)) | 0.851 |
項目 | 分量(g) |
---|---|
脂肪 | 9.21 |
飽和脂肪酸 | 2.079 |
14:0(ミリスチン酸) | 0.04 |
16:0(パルミチン酸) | 1.029 |
18:0(ステアリン酸) | 0.999 |
一価不飽和脂肪酸 | 1.659 |
16:1(パルミトレイン酸) | 0.12 |
18:1(オレイン酸) | 1.069 |
多価不飽和脂肪酸 | 1.429 |
18:2(リノール酸) | 0.09 |
18:3(α-リノレン酸) | 0.12 |
20:4(未同定) | 0.47 |
22:5(n-3)(ドコサペンタエン酸(DPA)) | 0.22 |
22:6(n-3)(ドコサヘキサエン酸(DHA)) | 0.45 |
摂取基準
国際的に脂質を評価しているISSFAL(International Society for the Study of Fatty Acids and Lipids)[23]は、2004年には、1日あたりのα-リノレン酸の健康的な摂取量は全カロリーの0.7%(2g)、冠動脈の健康のためにEPAとDHAを合計で最低500mgとしている[24]。日本の1999年の食事摂取基準の報告では、α-リノレン酸を全カロリーの0.5-1.0%(1-3g)、EPAとDHAの合計で0.5%(1-1.5g)が必要だとされた[25]。
ω-3系脂肪酸の必要量は「日本人の食事摂取基準(2005年版)」で成人では1日に2.0-2.9グラム以上とされており、「日本人の食事摂取基準(2010年版)」では成人では1日に2g程度とされている。摂取上限は示されていないが男性においては前立腺がんの罹患リスクのためα-リノレン酸の過剰摂取は注意が必要とされている。EPA及びDHAについては1日に合計で1g以上の摂取が望ましいとされている[26]。なお、前立腺がんの罹患リスクは、特に乳製品や肉類由来のα-リノレン酸との関連が示唆されている[27]。
ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の望ましい摂取比率は1:1から1:4であると言われている[28][29]。典型的な西洋での食事ではω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率は 1:10から1:30の間で、ω-6脂肪酸の摂取が極めて高い実態にある[30][31]。この原因は、海外で利用される代表的な食用油の多くが高い比率のω-6脂肪酸が含まれていてω-3脂肪酸があまり含まれていないからである。日本ではキャノーラ油を含む菜種油が食用油の全生産量の6割を占めており[32]、日本ではω-3脂肪酸の豊富な海産物が多く消費されているため、海外諸国に比べれば日本の食品中のω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率は高いと推定される。食事中のω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率は、日本の妊婦では1:3[3]、日本の成人では1:4、アメリカでは1:8の比率となっている[33]。前述のようにうつ病とω-3脂肪酸の関係が指摘されているが、WHOの統計では、うつ病の障害調整生命年は、日本が世界最低レベルであり、アメリカが世界最高レベルとなっている(詳細は「うつ病#国別データ」を参照のこと)。
含有食品
魚油食品、肝油、ニシン、サバ、サケ、イワシ、タラ、ナンキョクオキアミ等の魚介類は、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)のようなω-3脂肪酸に富んでいる。魚やその他の生物に含まれるDHAの多くは、ラビリンチュラ類の1属である Schizochytrium 属などのような海産の微生物によって生産されたものが、食物連鎖の過程で濃縮されたものである。
種油にはω-3脂肪酸のα-リノレン酸(ALA)が豊富に含まれているものも一部にあり、アブラナ(キャノーラ)、ダイズ、特にエゴマ、アマ、アサなどに含まれている[34]。
動物性脂肪にも食餌から供給されたω-3脂肪酸が微量ながら含まれている。また、α-リノレン酸は広葉植物の葉のチラコイドの膜組織(光合成に関わる)からも得られる[35]。実際、ホウレンソウやチンゲンサイなどの青物野菜からα-リノレン酸が検出されている。ゆえに、葉は草食動物の格好のα-リノレン酸の供給源となっている。家畜の飼料として牧草ではなくα-リノレン酸を余り含有していない穀物のみを与えると動物性脂肪中のα-リノレン酸の含有率(対リノール酸)が大きく低下することになる。
また、母乳や牛乳にもω-3脂肪酸が含まれているが、ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸との比率は、母親の食事や乳牛に与える飼料によって大きく変化する。
植物油の脂肪酸組成
植物油の脂肪酸組成[36][37][38] | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
種類 | 飽和脂肪酸 | 一価不飽和脂肪酸 | 多価不飽和脂肪酸 | オレイン酸 (ω-9) |
発煙点 | ||
多価合計 | α-リノレン酸 (ω-3) |
リノール酸 (ω-6) | |||||
非水素添加 | |||||||
キャノーラ油 | 7.365 | 63.276 | 28.142 | 10 | 22 | 62 | 400 °F (204 °C) [39] |
ココナッツ油 | 86.500 | 5.800 | 1.800 | - | 2 | 6 | 350 °F (177 °C) [40] |
コーン油 | 12.948 | 27.576 | 54.677 | 1 | 58 | 28 | 450 °F (232 °C) [39] |
綿実油 | 25.900 | 17.800 | 51.900 | 1 | 54 | 19 | 420 °F (216 °C) [39] |
オリーブ油 | 13.808 | 72.961 | 10.523 | 1 | 10 | 71 | 374 °F (190 °C) [41] |
パーム油 | 49.300 | 37.000 | 9.300 | - | 10 | 40 | 455 °F (235 °C) [42] |
ピーナッツオイル | 16.900 | 46.200 | 32.000 | - | 32 | 48 | 437 °F (225 °C) [39] |
ひまわり油 (中オレイン種) |
9.009 | 57.334 | 28.962 | 0.037 | 28.705 | 57.029 | 510 °F (266 °C) [39] |
大豆油 | 15.650 | 22.783 | 57.740 | 7 | 54 | 24 | 460 °F (238 °C) [39] |
ベニバナ油 (高オレイン種) |
7.541 | 75.221 | 12.820 | 0.096 | 12.724 | 74.742 | 510 °F (266 °C) [39] |
米油 | 19.7 | 39.3 | 35 | 1.6 | 33.4 | 39.1 | 450 °F (232 °C) [要出典] |
グレープ シード オイル |
9.6 | 16 | 69.9 | 0.1 | 69.6 | 15.8 | 421 °F (216 °C) [要出典] |
アマニ油 (フラックスシードオイル) |
8.976 | 18.438 | 67.849 | 53.368 | 14.327 | 18.316 | 225 °F (107 °C) [要出典] |
ごま油 | 14.2 | 39.7 | 41.7 | 0.3 | 41.3 | 39.3 | 350 °F (177 °C) ~450 °F (232 °C) [43] [要出典] |
水素添加済 | |||||||
綿実油 (水素添加) |
93.600 | 1.529 | 0.587 | 0.2 | 0.287 | 0.957 | |
パーム油 (水素添加) [要出典] |
47.500 | 40.600 | 7.500 | ||||
大豆油 (水素添加) [要出典] |
21.100 | 73.700 | 0.400 | 0.096[36] | |||
値は重量パーセント |
魚介類100g中の主な脂肪酸については魚介類の脂肪酸を参照のこと。
化学
ω-3(またはn-3)は、炭素鎖のメチル末端から数えて3番目の炭素-炭素結合に初めて二重結合が現れるという意味である。
ヒトに必須なω-3脂肪酸は、α-リノレン酸(18:3, ω-3; ALA)、エイコサペンタエン酸(20:5, ω-3; EPA)及び、ドコサヘキサエン酸(22:6, ω-3; DHA)である。これら3種の不飽和脂肪酸は、18, 20, 22の炭素鎖にそれぞれ3, 5, 6ヶ所の二重結合を持つ。すべての二重結合はシス配置である。
多くの天然合成脂肪酸(動物細胞または植物細胞中で合成または変形され、炭素数は偶数)は、それらが容易に変形されるようシス型になっている。トランス型だと炭素鎖がより安定化され、融点が高まる。また、組織中で鎖が凝集したとき、親水性が不足する。このトランス型はアルカリ溶液または数種のバクテリアの反応によって生じる。植物細胞または動物細胞における自然な変換は末端のω-3基にめったに影響を及ぼさない。しかし、ω-3化合物はω-6に比べて末端の二重結合が幾何学的・電気的に露呈しているため脆くなっている。これは天然のシス型において顕著である。
ω-3脂肪酸の一覧
下の表は、自然に見つかるもっとも一般的なω-3脂肪酸の一覧である。
慣用名 | 数値表現 | 組織名 |
---|---|---|
16:3 (n−3) | all-cis-7,10,13-ヘキサデカトリエン酸 | |
α-リノレン酸 (ALA) | 18:3 (n−3) | all-cis-9,12,15-オクタデカトリエン酸 |
ステアリドン酸 (STD) | 18:4 (n−3) | all-cis-6,9,12,15-オクタデカテトラエン酸 |
エイコサトリエン酸 (ETE) | 20:3 (n−3) | all-cis-11,14,17-エイコサトリエン酸 |
エイコサテトラエン酸 (ETA) | 20:4 (n−3) | all-cis-8,11,14,17-エイコサテトラエン酸 |
エイコサペンタエン酸 (EPA) | 20:5 (n−3) | all-cis-5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸 |
ドコサペンタエン酸 (DPA) クルパノドン酸 |
22:5 (n−3) | all-cis-7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸 |
ドコサヘキサエン酸 (DHA) | 22:6 (n−3) | all-cis-4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸 |
テトラコサペンタエン酸 | 24:5 (n−3) | all-cis-9,12,15,18,21-テトラコサペンタエン酸 |
テトラコサヘキサエン酸 (ニシン酸) | 24:6 (n−3) | all-cis-6,9,12,15,18,21-テトラコサヘキサエン酸 |
脚注
- ^ a b c d USDA National Nutrient Database
- ^ I章 最新の脂質栄養を理解するための基礎 ― ω(オメガ)バランスとは? 『 脂質栄養学の新方向とトピックス』
- ^ a b 前田隆子、高山美佐子ほか「妊産婦の血清中脂肪酸と母乳中脂肪酸組成に関する研究-とくに、エイコサペンタエン酸に関する検討」『鳥取大学医療技術短期大学部紀要』25巻,1996,pp15-24。
- ^ 栗原毅 『血液サラサラ生活のすすめ-ドロドロにならない食事と過ごし方』 小学館、2005年1月。ISBN 978-4093045810。54-55頁
- ^ 栗原毅 『血液サラサラ生活のすすめ-ドロドロにならない食事と過ごし方』 小学館、2005年1月。ISBN 978-4093045810。38頁68頁
- ^ 浜崎智仁「13:00 〜13:40脂質と精神」金城学院大学/日本脂質栄養学会共催シンポジウムの抄録 6章p10『 脂質栄養学の新方向とトピックス』
- ^ 江崎治、佐藤眞一、窄野昌信 ほか、n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取基準の考え方 日本栄養・食糧学会誌 Vol.59 (2006) No.2 P.123-158, doi:10.4327/jsnfs.59.123
- ^ Richardson AJ (April 2006). “Omega-3 fatty acids in ADHD and related neurodevelopmental disorders”. Int Rev Psychiatry 18 (2): 155-72. doi:10.1080/09540260600583031. PMID 16777670.
- ^ Oksman, M.; Iivonen, H.; Hogyes, E.; Amtul, Z.; Penke, B.; Leenders, I.; Broersen, L.; Lütjohann, D. et al. (2006). “Impact of different saturated fatty acid, polyunsaturated fatty acid and cholesterol containing diets on beta-amyloid accumulation in APP/PS1 transgenic mice”. Neurobiology of Disease 23 (3): 563–572. doi:10.1016/j.nbd.2006.04.013. ISSN 09699961.
- ^ Uauy R, Dangour AD (May 2006). “Nutrition in brain development and aging: role of essential fatty acids”. Nutr. Rev. 64 (5 Pt 2): S24–33; discussion S72–91. PMID 16770950.
- ^ 魚、n-3不飽和脂肪酸摂取量と肝がんとの関連についてJPHC Study 多目的コホート研究 (独立行政法人国立がん研究センター)
- ^ 魚・n-3脂肪酸摂取と大腸がん罹患JPHC Study 多目的コホート研究 (独立行政法人国立がん研究センター)
- ^ n-3およびn-6不飽和脂肪酸摂取と大腸がんとの関連についてJPHC Study 多目的コホート研究 (独立行政法人国立がん研究センター)
- ^ 魚・n-3脂肪酸摂取と虚血性心疾患発症との関連についてJPHC Study 多目的コホート研究 (独立行政法人国立がん研究センター)
- ^ 魚の摂取による脳血管リスク低下はω3脂肪酸に由来しない日経メディカルオンライン 記事:2012.11.16
- ^ n-3系多価不飽和脂肪酸、及び魚の摂取と自殺との関連についてJPHC Study 多目的コホート研究 (独立行政法人国立がん研究センター)
- ^ うつ病の患者さんは増加しているのでしょうか? 日本うつ病学会
- ^ Smith RS (August 1991). “The macrophage theory of depression”. Med. Hypotheses 35 (4): 298–306. PMID 1943879.
- ^ Hibbeln JR, Salem N (July 1995). “Dietary polyunsaturated fatty acids and depression: when cholesterol does not satisfy”. Am. J. Clin. Nutr. 62 (1): 1–9. PMID 7598049.
- ^ 引用エラー: 無効な
<ref>
タグです。「saitama
」という名前の注釈に対するテキストが指定されていません - ^ 日本うつ病学会治療ガイドライン. II.大うつ病性障害 2012 Ver.1. 平成24年7月26日
- ^ 必須脂肪酸の栄養生化学、奥山 治美、化学と生物、Vol. 28 (1990) No. 3
- ^ ISSFAL (英語) (ISSFAL: International Society for the Study of Fatty Acids and Lipids)
- ^ Cunnane S, Drevon CA, Harris W, et al. "Recommendations for intakes of polyunsaturated fatty acids in healthy adults" ISSFAL Newsletter 11(2), 2004, pp12-25
- ^ 『第六次改定 日本人の栄養所要量―食事摂取基準』健康・栄養情報研究会編、第一出版、1999年。ISBN 9784804108940。53-54頁。
- ^ 「脂質」『日本人の食事摂取基準」(2010年版)』pp77-108
- ^ Giovannucci E, Rimm EB, Colditz GA, et al. (October 1993). “A prospective study of dietary fat and risk of prostate cancer”. J. Natl. Cancer Inst. 85 (19): 1571-9. PMID 8105097.
- ^ Tribole, Evelyn. "The Ultimate Omega-3 Diet" New York. McGraw-Hill. 2007 ISBN 978-0-07-146986-9
- ^ Lands, William E.M. "Fish, Omega-3 and Human Health" Champaign. AOCS Press. 2005 ISBN 1-893997-81-2
- ^ Freeman MP, Hibbeln JR, Wisner KL, et al. (December 2006). “Omega-3 fatty acids: evidence basis for treatment and future research in psychiatry”. J Clin Psychiatry 67 (12): 1954–67. PMID 17194275.
- ^ Lewis MD, Hibbeln JR, Johnson JE, Lin YH, Hyun DY, Loewke JD (December 2011). “Suicide deaths of active-duty US military and omega-3 fatty-acid status: a case-control comparison”. J Clin Psychiatry 72 (12): 1585–90. doi:10.4088/JCP.11m06879. PMC 3259251. PMID 21903029 .
- ^ 油糧生産実績調査 (農林水産省)
- ^ 奥山治美、「蛋白・核酸・酵素」、35、275-279、199
- ^ 『五訂増補日本食品標準成分表脂肪酸成分表編』油脂類、種実類。
- ^ Chapman, David J.; De-Felice, John and Barber, James (May 1983). “Growth Temperature Effects on Thylakoid Membrane Lipid and Protein Content of Pea Chloroplasts 1”. Plant Physiol 72(1): 225–228 2007年1月15日閲覧。.
- ^ a b “USDA National Nutrient database, Release 24,28”. United States Department of Agriculture. 2012/3/26,2016/03/21閲覧。
- ^ “Fats, Oils, Fatty Acids, Triglycerides”. Scientific Psychic (R). 2012年3月26日閲覧。
- ^ 特に引用の表示がない場合、脂肪酸の値はUSDA National Nutrient databaseの値を掲載している。ω3-ω9の値については一部Scientific Psychic(R)の値となっている。
- ^ a b c d e f g Wolke, Robert L. (2007年5月16日). “Where There's Smoke, There's a Fryer”. The Washington Post 2011年3月5日閲覧。
- ^ Nutiva, Coconut Oil Manufacturer,http://nutiva.com/the-nutiva-kitchen/coconut-oil-recipes/
- ^ The Culinary Institute of America (2011). The Professional Chef. New York: Wiley. ISBN 0-470-42135-5
- ^ Scheda tecnica dell'olio di palma bifrazionato PO 64.
- ^ 精製度により発煙点は大きく変わる