伊藤詩織
いとう しおり 伊藤 詩織 | |
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生誕 | 1989年(33 - 34歳)[1] |
別名 | Shiori |
職業 | ジャーナリスト[2]、映像作家、起業家 |
代表作 | 『Black Box』文藝春秋 |
受賞 | 2018年度ニューヨーク・フェスティヴァルドキュメンタリー部門銀賞(監督)スポーツ&レクリエーション部門銀賞(カメラ) |
公式サイト | Shiori Ito Official Site |
伊藤 詩織(いとう しおり、1989年〈平成元年〉 - )は、日本のフリージャーナリスト[2]、映像作家[3]。
性的暴行の被害(後述)を受けた1人として#MeToo運動で知られ、伊藤の証言やインタビューが複数の海外メディアで報道された[4][5][6][7][8][9][10]。
経歴[編集]
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1989年(平成元年)[1]に神奈川県[11]で生まれ、建築関係に従事する父と専業主婦の母に妹[12]と弟[12]がいる[11]。9歳時にモデル[11][13]を務め、日本の短大卒業後に2014年にニューヨークにある大学[14]でジャーナリズム[11]と写真を学んだ[15]。 帰国後の2015年からインターンとしてロイター[16][17]で働く。
2017年10月18日に、伊藤詩織名義で自身の性暴力被害を訴える『Black Box』を文藝春秋から発売した。
エコノミスト、アルジャジーラなどで活動[18]し、ディレクターを務めて日本の孤独死を扱った「Undercover Asia: Lonely Deaths」(チャンネルニュースアジア制作)が「2018年度ニューヨーク・フェスティヴァル」でドキュメンタリー部門銀賞[18]を、カメラを担当して改造オートバイレースに熱中するペルー軍兵士を取材したコカとペルー人のドキュメント[19][18]「Witness - Racing in Cocaine Valley」(アルジャジーラ英語版、放送日:2017年2月5日、監督:Lali Houghton、Nick Ahlmark)がスポーツ&レクリエーション部門銀賞を、それぞれ受賞した[20][21][18]。2018年6月から、ロンドンを拠点に主に海外メディアで活動する[18][22]。2018年6月22日にTBSラジオでシエラレオネの女性器切除について取材した内容を[18]報告した。
2020年9月23日、TIME誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出された。紹介文は東京大学名誉教授の上野千鶴子が執筆し、「(彼女による、)性的暴力の勇敢な告発で日本人女性の人生を永遠に変えた。政治的権力に近い被告人は刑事訴追を免れたが、彼女は12月に民事訴訟を勝ち取った」などと評価した[23][24]。
山口敬之による性的暴行事件[編集]
2015年4月3日、当時TBSテレビの政治部記者でワシントン支局長だった山口敬之と、都内で会食した。しかし、飲酒後に記憶を失い、深夜から4日早朝にかけてホテルで準強姦被害を受けたとして山口を訴えた。
2015年4月30日、伊藤は警視庁へ被害届を提出した[25][26]。刑事訴訟では2016年7月に嫌疑不十分で不起訴となり、検察審査会も不起訴相当と議決した。
2017年9月28日、伊藤は山口に対して1,100万円の損害賠償を求める民事訴訟の訴状を提出した[27]。そして2017年10月18日に手記「Black Box」を出版して24日に日本外国特派員協会で会見した[28]。
2022年1月25日、東京高裁は「山口敬之が同意なく性行為に及んだ」と認め、賠償金として約332万円の支払いを山口に命じた。一方、「(山口が)デートレイプドラッグを使った」とした点は真実と認められず、55万円の賠償を命じた。2022年7月に最高裁で双方の上告が棄却され、高裁判決が確定した[29]。
経過[編集]
2017年5月、伊藤は刑事訴訟での不起訴について検察審査会へ審査を申し立てた。2017年9月に東京第6検察審査会は不起訴を覆すだけの理由がないとして「不起訴相当」と議決し、伊藤の申し立ては認められなかった[30]。伊藤は、2020年9月22日に、「刑事部長の判断で執行が止まった」、「告訴した男性は安倍総理と非常に近い記者」、「親安倍派と言われる人たちから強いバッシングを浴びました」と述べている[31]。
山口による反訴[編集]
2017年10月26日、山口は月刊『Hanada』で手記「私を訴えた伊藤詩織さんへ」を発表して伊藤の主張を全面的に否定した[32]。また、同年2月に「伊藤さんの記者会見での発言などで社会的信用を奪われた」と主張して慰謝料1億3000万円と謝罪広告の掲載を求めて反訴した[33]。
2019年12月20日、山口は虚偽告訴等罪と名誉毀損罪の容疑で伊藤を告訴したと発表した[34]。2020年9月、伊藤はこの件で警察から取り調べを受けたと自身のFacebookで述べている[35]。2020年9月28日に伊藤は東京地検へ書類送検されたが[36]、2020年12月25日に不起訴処分が決定した[37]。
判決[編集]
2019年12月18日、一審・東京地裁〈鈴木昭洋裁判長〉は山口、伊藤の双方の訴えを同時に審理し、伊藤の請求を認めて330万円の支払いを山口に命じ、山口の反訴は「名誉毀損には当たらない」と請求を棄却した[38][39][40]。2020年1月6日、山口はこの東京地裁の判決を不服として東京高等裁判所へ控訴した[41]。
2022年1月25日、二審・東京高裁〈中山孝雄裁判長〉は「山口が同意なく性行為に及んだ」と述べ、一審・東京地裁の判決を追認した。賠償として、治療関係費としての約2万円を加えた約332万円の支払いを山口に命じた。一方、伊藤が著書などで「デートレイプドラッグを使った」と表現した部分について「真実と信じる相当の理由もない」と述べ、伊藤に名誉毀損、プライバシー侵害の賠償として55万円の支払いを命じた[42]。山口、伊藤の双方がこの二審・東京高裁の判決を不服として最高裁に上告した[43]。
2022年7月7日、最高裁判所〈山口厚裁判長〉は憲法違反などの上告理由がないとして伊藤・山口双方の上告を棄却し、東京高裁での判決が確定した[29]。
Twitter上での誹謗中傷被害[編集]
Twitter上で伊藤を誹謗中傷する者も多く、伊藤は複数の投稿者を名誉棄損などで民事提訴している。
はすみとしこ及び2人の男性[編集]
2020年6月8日、2017年5月から2019年12月にかけて漫画家はすみとしこが発信したツイートで名誉を傷つけられたとして、はすみとリツイートした2人の男性に770万円の損害賠償と当該ツイートの削除などを請求する訴状を東京地方裁判所へ提出した[44][45]。2021年11月30日、はすみに88万円、リツイートした2名にそれぞれ11万円の賠償を命じる地裁判決が下された[46][47]。2022年11月10日、はすみに110万円、リツイートした1名(もう一方の男性は控訴せず)に22万円の賠償を命じる高裁判決が出た[48]。
杉田水脈[編集]
2020年8月20日、2018年6月から7月にかけて伊藤を中傷する多数のツイートに対し賛同を意味する「いいね!ボタン」を自由民主党衆議院議員の杉田水脈が押したことにより名誉感情を傷つけられたとして220万円の損害賠償を請求する訴状を東京地方裁判所へ提出した[49]。2022年3月25日、東京地方裁判所は「いいねボタン」が必ずしも肯定的な感情を表すものではないとし伊藤の訴えを退けた[50]。伊藤は控訴し、2022年10月20日、東京高等裁判所は逆に伊藤の主張を認め、杉田に55万円の支払いを命じた[51]。
大澤昇平[編集]
2020年8月20日、当時東京大学大学院特任准教授だった大澤昇平に対して、名誉毀損にあたるツイートをしたとして110万円の損害賠償を求める訴状を東京地方裁判所に提出した[49]。2021年7月6日、東京地方裁判所は「違法な名誉毀損行為に当たる」と指摘し、33万円の支払いを命じるとともに、「原告の名誉権を侵害し続けている」として、ツイートの削除を命じた[52]。
著書[編集]
- 伊藤詩織『Black Box』文藝春秋、2017年10月18日。ISBN 978-4163907826。
- 【繁体中文版】 伊藤詩織 著、高秋雅 訳『黑箱: 性暴力受害者的真實告白』高寶國際、2019年3月6日。
- 望月衣塑子; 伊藤詩織; 三浦まり; 平井美津子; 猿田佐世『しゃべり尽くそう!私たちの新フェミニズム』梨の木舎、2018年9月10日。ISBN 978-4816618055。
- 伊藤詩織『裸で泳ぐ』岩波書店、2022年10月27日。ISBN 978-4000615624。
メディア出演[編集]
- 「伊藤詩織はレイプで日本の沈黙を破った: - 結果は残酷だった」、テレビトーク番組『スカヴラン』2018年2月16日、スウェーデン・テレビ、ノルウェー放送協会[53][54]
- 「世界で最も寿命が短い国の1つ『シエラレオネ』〜ジャーナリスト伊藤詩織さんの現地取材報告」『荻上チキ・Session-22』、TBSラジオ、2018年6月20日。[18]
- 「Japan's Secret Shame (日本の秘められた恥[55])」、テレビドキュメンタリー番組 、制作・True Vision、2018年6月28日、BBC Two、英国放送協会(BBC)[56][57]
- 「TOKYO SLOW NEWS」、TOKYO FM、2020年4月 - 、木曜第1週・第5週出演
- 「デモクラシータイムス」『著者に訊く』、YouTube、2023年2月21日
脚注[編集]
- ^ a b 伊藤詩織 2017, p. 21.
- ^ a b 伊藤詩織 2017, pp. 249, 奥付.
- ^ Abe’s biographer raped junior colleague Shiori Ito in Japan’s #MeToo case The Times 2019年12月19日
- ^ (フランス語)Philippe Mesmer (2017年10月30日). “Le combat de Shiori Ito, agressée sexuellement dans un Japon indifférent”. 『ル・モンド』ウェブ版. 2018年1月8日閲覧。
- ^ Shiori Ito, l'affaire de viol qui secoue le Japonフィガロ紙ウェブ版 2017/12/27
- ^ (英語)Ryan Takeshita & Kaori Sasagawa (2017年11月1日). “Why a Japanese Journalist Went Public with Her Rape Allegation”. オンラインメディア『ハフポスト』. 2018年1月8日閲覧。
- ^ Japan's #MeToo MomentBBC World Service - Business Matters 12月15日
- ^ Hon vågar gå först i Japans #metoダーゲンス・ニュヘテル紙ウェブ版 2017年12月23日
- ^ Shiori, la giornalista che denuncia lo stupro e sfida i tabù del Giapponeコリエーレ紙ウェブ版 2017年12月28日
- ^ She Broke Japan’s Silence on Rape ニューヨーク・タイムズウェブ版及び翌日紙面 2017年12月29日
- ^ a b c d “Shiori Ito, la vérité kamikaze” (フランス語). Libération.fr (2019年4月28日). 2019年4月30日閲覧。
- ^ a b 伊藤詩織 2017, p. 22.
- ^ 伊藤詩織 2017, p. 24.
- ^ 伊藤詩織 2017, pp. 20, 38.
- ^ 伊藤詩織 2017, pp. 5, 18, 35.
- ^ Multiracial Miss Japan hopes to change homeland's thinking on identity Reuters 2015年4月2日
- ^ Tokyo issues Japan's first same-sex partner certificates Reuters 2015年11月5日
- ^ a b c d e f g 『世界で最も寿命が短い国の1つ『シエラレオネ』〜ジャーナリスト伊藤詩織さんの現地取材報告』TBSラジオ、2018年6月20日 。2019年12月20日閲覧。
- ^ Racing in Cocaine ValleyAl Jazeera
- ^ Witness - Racing in Cocaine ValleyNew York Festivals
- ^ Piece #1 - Undercover Asia: Lonely DeathsNew York Festivals
- ^ David McNeill (2018). “Justice Postponed: Ito Shiori and Rape in Japan”. The Asia-Pacific Journal 16 (15) 2020年10月20日閲覧。.
- ^ “伊藤詩織さん、TIME誌「世界で最も影響力のある100人」に選ばれる 大坂なおみ選手も”. ハフポスト (2020年9月23日). 2020年9月23日閲覧。
- ^ “伊藤さんと大坂が「世界で影響力のある100人」”. 日刊スポーツ (2020年9月23日). 2020年9月23日閲覧。
- ^ INC, SANKEI DIGITAL (2019年7月8日). “伊藤詩織氏「やめてと言った」 元記者への賠償請求訴訟”. 産経ニュース. 2019年10月20日閲覧。
- ^ INC, SANKEI DIGITAL (2017年10月13日). “暴行被害訴える28歳女性が手記出版 詩織さん、姓も公表”. 産経ニュース. 2019年10月20日閲覧。
- ^ 元TBS記者側、争う姿勢 伊藤詩織さん民事訴訟朝日新聞 2017年12月5日
- ^ “「レイプ被害の救済システム整備を」 伊藤詩織さん会見:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル. 2019年10月20日閲覧。
- ^ a b “伊藤詩織さんの性被害、元TBS記者への賠償命令が確定 最高裁決定”. 朝日新聞DIGITAL (2022年7月8日). 2022年7月9日閲覧。
- ^ “伊藤さん「抵抗した」 性暴力訴訟 「法に触れず」山口氏反論”. 東京新聞 TOKYO Web. 2019年10月20日閲覧。
- ^ https://news.yahoo.co.jp/articles/7485aebee243e09c9c24edb296236e3c2e75cc86
- ^ 山口敬之 (2017-12). “独占手記 私を訴えた伊藤詩織さんへ”. Hanada (19): 254–273 .
- ^ “山口敬之氏、性的暴行巡り月刊Hanadaで伊藤詩織さんに反論 (弁護士ドットコム)”. LINE NEWS. 2019年10月20日閲覧。
- ^ 山口敬之氏が伊藤詩織さんは「容疑者」と発言、双方の争い続く(2019年12月20日)
- ^ “伊藤詩織さん、虚偽告訴などの疑いで書類送検…元TBS記者が刑事告訴” (2020年10月28日). 2020年10月26日閲覧。
- ^ “伊藤詩織さん、書類送検…元TBS記者が虚偽告訴などで刑事告訴”. 弁護士ドットコムニュース. 弁護士ドットコム (2020年10月26日). 2020年10月28日閲覧。
- ^ 「虚偽」と訴えられていた伊藤詩織さん、不起訴。性被害をめぐり、その思いは【独自インタビュー】Buzzfeed
- ^ 性暴力被害訴訟の判決は12月18日 伊藤、山口両氏が意見陳述 産経新聞 2019年10月7日
- ^ 伊藤詩織さんへの賠償命じる 性暴力被害巡り東京地裁 共同通信2019年12月18日
- ^ 元TBS記者に330万円賠償命令 性的暴行訴訟―東京地裁 時事通信 2019年12月18日
- ^ 元TBS記者の山口氏が控訴 伊藤詩織氏の一審勝訴受け 朝日新聞2020年01月06日
- ^ “「性行為に同意なし」、控訴審判決も伊藤詩織氏の性被害認定”. 朝日新聞デジタル. 2022年1月25日閲覧。
- ^ “山口敬之さん側も上告 「同意なく性行為」不服”. 産経ニュース. 2022年2月7日閲覧。
- ^ “伊藤詩織氏が漫画家らを提訴 ツイッターへの投稿めぐり”. 朝日新聞デジタル (株式会社朝日新聞社). (2020年6月8日) 2020年6月8日閲覧。
- ^ “ジャーナリストの伊藤詩織さん会見 ネット上の誹謗中傷で提訴(2020年6月8日)”. THE PAGE (2020年6月8日). 2021年7月28日閲覧。
- ^ “伊藤詩織さんへの中傷ツイートをRT、11万円の賠償命令 投稿主はすみとしこさんには88万円賠償命令”. 弁護士ドットコムニュース. (2021年11月30日) 2021年11月30日閲覧。
- ^ “伊藤詩織さん中傷ツイート訴訟、漫画家らに賠償命令 東京地裁”. 毎日新聞. (2021年11月30日) 2021年11月30日閲覧。
- ^ “「RTも名誉毀損」判断維持 伊藤詩織氏が訴えた訴訟で東京高裁”. 朝日新聞. (2022年11月10日) 2022年11月10日閲覧。
- ^ a b “伊藤詩織さん、杉田議員を提訴 中傷ツイートに「いいね」多数―東京地裁”. 時事ドットコム. 時事通信社 (2020年8月20日). 2020年8月20日閲覧。
- ^ “中傷ツイートへの「いいね」に名誉侵害は認めず 伊藤詩織さんが杉田水脈衆院議員に敗訴、東京地裁”. 東京新聞 TOKYO Web. 2022年3月25日閲覧。
- ^ SNS「いいね」賠償命令 自民・杉田議員産経新聞
- ^ “伊藤詩織さんを「偽名」とツイート、元東大特任准教授・大澤昇平さんに賠償命令【UPDATE】”. HUFFPOST. 2022年7月9日閲覧。
- ^ “北欧の児童書を使って考えるーー伊藤詩織さんが出演した北欧のトーク番組で、司会者達はなぜ彼女を責めなかったんだろう?――北欧では性暴力がどのように認識されているのか?”. ハフポスト (2018年3月5日). 2018年6月24日閲覧。
- ^ (英語)日本語字幕付き“伊藤詩織はレイプで日本の沈黙を破った: - 結果は残酷だった スカヴラン”. YouTube Skavlan (2018年2月19日). 2018年6月24日閲覧。
- ^ “「日本の秘められた恥」 伊藤詩織氏のドキュメンタリーをBBCが放送”. BBC (2018年6月29日). 2018年7月4日閲覧。
- ^ (英語)“Japan's Secret Sham”. BBC Two. 2018年6月24日閲覧。
- ^ (英語)“Japan's Secret Shame - Shiori Ito's story”. BBC Two. 2018年7月4日閲覧。
参考文献[編集]
- 伊藤詩織『Black Box』文藝春秋、2017年10月18日。
関連項目[編集]
- #MeToo
- フラワーデモ
- 中村格 - 山口を逮捕しないと逮捕状執行の寸前に決裁した(逮捕令状は発付されていた)。
- はすみとしこ - はすみが発したセカンドレイプに法的対応すると、伊藤は2019年12月18日に外国人記者クラブで言及した。
外部リンク[編集]
- Shiori Ito Official Site
- Shiori Ito (shiori0515) - Facebook
- Shiori Ito (@photograshiori) - Twitter
- Shiori Ito - Vimeo
- Hanashi Films
- Hanashi Films (@hanashifilms) - Twitter
- 伊藤詩織さんの民事裁判を支える会