スクリーニング (医学)

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医学におけるスクリーニング: screening)は、ターゲットとなる集団に対して実施する共通検査によって、目標疾患の罹患を疑われる対象者あるいは発症が予測される対象者をその集団の中から選別することをいう。 対象集団は通常、疾患の自覚がないかまたは疾患があっても症状が軽微で気がついていなかったり潜伏期である対象者が含まれている可能性をもつ集団となる。

スクリーニングの原則[編集]

スクリーニングはそれ自体で完結するものではなく、検査により選別された特定疾患の可能性がある対象者をより精緻な検査・診断治療へつなげる公衆衛生的過程の第一(初期)段階と位置づけ得る[1]。 医学的スクリーニングの基本的な国際基準は、1968年に世界保健機関 (WHO) が発表した、J. M. G. WILSON(イギリス)、G. JUNGNER(スウェーデン)の共同論文が元になっている[2]。この論文で示された原則はウィルソン基準 (Wilson's criteria) と呼ばれ[3]、大筋では現在でも踏襲されている。

スクリーニングのウィルソン基準[3]
  • 重要な健康問題であることを条件とする
  • 疾患状態の自然経過が知られていること
  • 無症状期または潜在期に対する認識が可能であること
  • 検査は実行と判定が簡便で、対象者が受容しやすく、正確で信頼性があり、反応性が高く結果が明瞭にわかるものであること
  • 疾患に対して一般的に認められている処置(治療)が存在していること
  • 早期処置(治療)が効果的であること
  • 誰が処置(治療)するのかという方針が決まっていること
  • 診断/処置にかかる費用の対費用効果が高いこと
  • 症状の発見がその後の対応工程に連続して繋がっていくこと(陽性判定が出た者に対するフォローシステムが確立していること[4]

古典的な1968年のウィルソン基準の後、40年にわたって基準のブラッシュアップが行われてきた。

2008年にWHOから発表されたウィルソン基準以後40年間に提案されたスクリーニング基準のまとめ
  • 検査プログラムは、認識されている必要性に対応しなければならない
  • まず最初に、検査の目的が定められていること
  • 対象となる母集団の定義が定められていること
  • 検査プログラムの有効性に科学的な証拠があること
  • 計画は、周知活動、検査・医療補助・プログラム管理に統一性がなければならない
  • 検査のもつ潜在的なリスクを最小限にするメカニズムを有した高度な品質が保証されていること
  • 計画は、情報に関する権利と守秘性を確保し、自主性を尊重しなければならない
  • 計画は、対象集団の全員が公平にスクリーニングを受ける機会を得られるよう促進すべきである
  • プログラムに対する評価は、事前に計画されていなければならない
  • スクリーニングによって与えられる損失より、得られる利益のほうが勝っていなければならない
Anne Andermann ほか、[5]

また、近年の遺伝子研究進展によるゲノムスクリーニングに対しては、これまでの古典的な基準とは異なる新たなスクリーニングの基準が必要となることをWHOは提言している[5]

スクリーニングの様々なタイプ[編集]

  • マス・スクリーニング:リスク因子のあるなしに関わらず、全員に対し行われるスクリーニング。例えば新生児マススクリーニングは国内で生まれた新生児全員に対するスクリーニングを目標としている[6]
  • マルチプル(多相)・スクリーニング:一度の機会に複数の検査を行う。例えば、会社や学校の健康診断や集団検診など。[7]
  • ハイリスクまたは選択的・スクリーニング:特定のリスクが疑われる集団に対して一度だけ行われるスクリーニング。例えば感染症の流行があった地域の住民検診や、2015年のエボラ出血熱の際の発生国における出国スクリーニング[8]など。[9]
  • ターゲット・スクリーニング:特定のリスク因子をもつ集団に対し一度限りではなく定期的に行われるスクリーニング。例えば、炭鉱労働者に対する定期的な肺検診など。
  • 日和見 (opportunistic)スクリーニング:他の目的で相談しに来た患者に対し行われる限定的なスクリーニング[7]。例えば、2001年から2003年にかけてイギリスで行われた65歳以上の来院患者(約1万5千名)を対象に行われた無作為化比較対照試験(RCT)では、異常のあるなしに関わらず規則的に心電図検査を行う「システマティック・スクリーニング」と、脈診で異常があったときのみ日和見的に心電図検査を行う「日和見スクリーニング」とが比較対照的に検討された[10]

問題点[編集]

  • 2015年にスタンフォード大学医学部予防研究センターが、多くの特定疾患スクリーニングは死亡率を下げるのにほとんど効果がないか、または全くないとする研究を発表し[11]、従来からあるスクリーニングの在り方への種々の疑問[12]に関する論議に、一石を投じた[13]

参考文献/サイト[編集]

出典/脚注[編集]

  1. ^ 1.Screening”. ganfyd (2015年7月3日). 2016年1月26日閲覧。 , 2. Elizabeth Abram、他 (2015年12月1日). “Screening and Diagnostic Tests”. Medscape. 2016年1月26日閲覧。
  2. ^ J. M. G. WILSON 1968.
  3. ^ a b (Wilson criteria)
  4. ^ 新生児マススクリーニングの概要p.4(日本マススクリーニング学会)閲覧.2016-1-27
  5. ^ a b (Anne Andermann 2008)(WHO)
  6. ^ Lesson10 : マススクリーニングとはこども健康倶楽部<監修:原田正平(国立成育医療センター研究所> 閲覧.2016-1-26
  7. ^ a b (u Ottawa)
  8. ^ 西アフリカのエボラ流行に関するIHR緊急委員会の第7回会合における声明2015年10月07日更新(厚生労働省検疫所 FORTH) 閲覧.2016-1-26
  9. ^ 参照(en:Screening (medicine)#Types of screeningoldid=697736468] 15:36, 1 January 2016
  10. ^ 高齢者の心房細動(AF)スクリーニングは日和見的手法でCareNet,2007年9月7日。 閲覧.2016-1-26 リンク切れ用:(原・英語論文)
  11. ^ Stanford Prevention Research Center (2015 Feb;44). Does screening for disease save lives in asymptomatic adults? Systematic review of meta-analyses and randomized trials.. Oxford University Press. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=25596211# 2016年1月26日閲覧。. 
  12. ^ 例えばWhen can a risk factor be used as a worthwhile screening test?1999
  13. ^ 死亡率を下げるスクリーニング検査は「39種類のうち4種類」2015年5月5日(medley). 閲覧.2016-1-26

関連項目[編集]