診断
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診断(しんだん、英語:diagnosis)とは、診察などを行い健康状態や病状を判断すること。言葉としては生物以外にも用いられている。
概説[編集]
診断は、診察や検査を行い、そこで得られた諸情報を用いて医師などの専門家が、患者の健康状態や病気の状態を判断することである。診断の途中には推論をする段階がある。よって誤診が生じうる。
診断は患者が診察室のドア(やカーテン)の中に入りはじめた段階からすでに始まっている、ともされ、医学部などではそうした教育・トレーニングが行われていることも多い。医師は、患者が診察室に入ってくる段階から、目の前の椅子に着席するまでの間の患者の様子(姿勢、歩き方(歩行速度、歩幅)、四肢の動き、椅子へのすわりかた、表情 等々が正常なのか異常があるのか等々を )をさりげなく観察する。
(患者側も意識するのはこの段階からだが)患者から身体症状に関する訴え(愁訴)を聴きつつ(問診)、(また持病歴を口頭で尋ねたり過去のカルテに記載された病歴・処方歴などを確認しつつ)、患者の身体の状態を細かく注意深く観察する。
近代医療のもっともありふれた(そしてとりかかり的な)検査は(1)血圧測定、(2)脈拍数の確認、(3)聴診器で心音を聴く、である。(これらは非常に簡便に行うことができ、これらで重要な情報が得られることも多いので、広く行われている。[注 1] (患者の数が多く、待合室が混み合ってしまっている時などは、効率を上げるために、上記の3つを行いつつ並行的に患者からの愁訴を聴く、という場合もある。)また舌圧子で舌をおさえつつ喉の奥を確認する、ということもしばしば行う。
医師は仮の推論をし(医師の心の内で、いくつか仮説をたて)、必要と判断すれば、仮説のしぼりこみや 特定の仮説の妥当性を検証するために、あらためて診察や追加の検査を行う。
この段階で行われる検査はたとえば血液検査、検尿、検便、心電図、エコー、唾液検査、呼気検査、膝蓋腱反射の打診などである。またレントゲン検査や、現代の先進国ではCT・MRI検査などが行われることもある。
ありきたりの症状であれば簡単に最終的な判断を得られることもある。医師は医学教育を受けた時点ですでに、ありきたりな症状ならば症状から病名候補を想起できるよう教育を受けており、即座にそれを候補として挙げ(心の内で)検証を行う。また症状から疾病の候補を検索するためのデータベース的な文献も出版されており、医師はしばしば診察室のデスクの棚にそれを備えており、比較的珍しい症状ではそれを助けとする場合もある。だが、珍しい症状や、通常では起こりにくい症状の組み合わせなどを見つけた場合は、複雑な推論をしなければならない場合がある。診断は、場合によっては、(まるで推理小説の探偵やCSIの捜査員のように)断片的な情報から隠された原因や過去の原因を推察・推定する作業になる。したがって診断は一直線に進まない場合があり、(途中まで医師が心の内で強く支持していた)仮説が間違っていたと判断して放棄せざるを得なくなる場合もあり、新たに別の仮説を検証するために、患者に対して特殊な質問を投げかけてその返答内容を吟味したりあるいは新たな検査を追加するなどして仮説を検証する、などといった作業が何度も、複雑な過程で、繰り返されることがある。
診断には推論が入り、推論は誤ることがあるので、診断は誤る場合がある。診断を誤ることは誤診と呼ばれる。医師が行っている診断のうち約10 - 30 %ほどが誤診だと各種調査によって明らかになっている(数字は調査ごとに異なる)。
またまれに、診断がつかない、という場合もある。
健康診断[編集]
歴史[編集]
という判断を無意識のうちに行い、その病気に名前をつけて治療法を探索してきた。しかしそれらは殆ど、先達者の口伝と自分の経験に多くを頼らざるを得なかった。
近代に入り、ヨーロッパでは学術雑誌が医学の世界にも広まり、多くの医師が経験を共有できることになった。また他方では、19世紀末から20世紀にかけてX線写真や顕微鏡をはじめとする技術革新によって、「病気の患者とそうでない人の違い」を発見する手段が飛躍的に広がった。こうして医学は自然科学の仲間入りをしたと言える。
しかしその弊害として、各種検査値の正常/異常に囚われ、ひいては患者のクオリティ・オブ・ライフよりも検査値の正常化を優先して治療しているのではないかという批判が投げかけられるようになった。
問題指向型診断[編集]
これに対する反省として、現在では問題指向型(Problem-oriented:PO)臨床診断が各大学・教育病院で広められつつある。これは1968年に米国の医師ウィードによって提唱されたもので、まず何よりも患者の訴えを最も重要な情報として扱う[1]。
- S(Subjective):患者の訴え(ただし、文字通りに受け取ってはならない)。
- O(Objective):他覚的所見。まず五感を駆使して患者の状態を捉え、さらに各種検査の結果も入る。
- A(Assessment):上記に対する医療者の解釈。
- P(Plan):Aに基づき、今後なすべきこと。
SとOは医療者の主観を交えずに書かなければならない。
この方法の長所は、
- 診療録を書くことを通して患者の問題を洗い出すことが出来る。
- 何が一番の問題かが分かり、優先すべき治療が分かる。
- ほかの医療者とも情報・判断を共有しやすい。
という点にある。
臨床決断分析[編集]
これまでは、ある疾患に対して唯一最良の医療的介入(検査や治療)手段が存在すると言う意識が医療者の間にはあり、従って治療手段決定まで含めた判断プロセスを「診断」とする暗黙の了解があった。そこではシャーロック・ホームズの推理法が成立する。
しかし、根拠に基づく医療が示すのもあくまで確率論的な数字でしかない。診断がつかないうちに治療を始めなければならない緊急事態も存在する。さらにそのような切迫した状況で、延命治療を希望するか拒否するかと言う患者の価値観も重視しなければならなくなって来ている。
こうした不確定要素が多々ある中で、価値判断の方法論を確立すべくHunickとGlasziouが提唱しているのがPROACTIVEモデルである[2]。ここでは医療資源の問題から患者の価値観まであらゆる要素を考慮に入れ、確率論で数値化・自動化できる計算はコンピュータに任せ、最終的な価値判断を行う。
機械の診断[編集]
機械或いはある種の系について異常の有無を判断し、異常があればその種類を同定し、何らかの介入(修理)が必要かどうかを判断する作業を診断と言う。組み込みシステムなどのコンピューターを備えた機械は自己診断機能を持ったものが多い(ハードディスクのSMART、乗り物のオン・ボード・ダイアグノーシスなどが代表的)が、最終的な判断(本当に異常なのか、修理を行うか)を行うのが人間である点は医学と同様である。
脚注[編集]
- 注
- ^ また日本の医療では、医療 側が「診察」という名目の代金を健康保険組合などに請求するのに必要な必要条件となっているので、医師は診察室で患者が目の前の椅子に座ると、なにはともあれ血圧測定・脈拍数確認・心音確認を行う という側面もある。
- 出典
- ^ H.Harold Friedman著 日野原重明監訳 『PO臨床診断マニュアル』メディカル・サイエンス・インターナショナル ISBN 4-89592-294-4
- ^ Myriam Hunink, Paul Glasziou 著 福井次矢 監訳 『医療・ヘルスケアのための決断科学―エビデンスと価値判断の統合』医歯薬出版 ISBN 4-263-20554-5
関連項目[編集]
- 診断学
- 診療
- 診察
- 根拠に基づく医療
- 健康診断
- 在宅健康診断
- 就学時健康診断
- 総合診療医ドクターG - 正しい診断に至るまでをクイズ形式にしたバラエティ番組
- ゼブラ (医学) - アメリカの医療現場で使われる業界用語。一般的な病気に対して、それと似たような症状の稀な、びっくりするような、もしくはセンセーショナルな病気を診断してしまうこと。
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