全身性エリテマトーデス

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全身性エリテマトーデス
Butterflyrash.jpg
狼瘡における両側頬部にわたる蝶形紅斑
分類及び外部参照情報
ICD-10 L93, M32
ICD-9 710.0
OMIM 152700
DiseasesDB 12782
MedlinePlus 000435
eMedicine med/2228 emerg/564
Patient UK 全身性エリテマトーデス
MeSH D008180

全身性エリテマトーデス(全身性紅斑性狼瘡、英語: Systemic lupus erythematosus; SLE, ドイツ語: Lupus erythematodes)とは、全身の臓器に原因不明の炎症が起こる、自己免疫疾患の一種である。膠原病の1つとして分類されている。

全身性は文字通り体中どこにでも症状が起こることを意味し、エリテマトーデス紅斑エリテマ)症を意味し、本疾患に特徴的に生じる皮疹に由来する。英語の病名中にあるlupusはラテン語で狼の意であり、「狼に噛まれたような」と称されるSLEの皮膚症状より名づけられたものであるが、日本語と中国語で狼瘡と呼ばれる事はある。lupusの語は「CNSループス」「ループス腎炎」などで見られる。

疫学[編集]

SLEの発生頻度は女性10に対して男性が1である。また発症年齢は出産適齢期と重なる15-40歳が好発であるため、エストロゲンなどの女性ホルモンの関与が疑われている。人種的には、アジア人・黒人が白人より多いとされる。

膠原病の中では、関節リウマチに次いで2番目の頻度で見られる疾患である(ただし、シェーグレン症候群の軽症も含めた患者数は十分把握されておらず、実際にはそれより少ないと考えられる)。

病因[編集]

発症のそもそもの原因については、今のところ分かっていない。

遺伝因子[編集]

双生児研究によると、一卵性双生児では14-58%の疾患一致率を認めるが、二卵性双生児では10%に満たない。これはSLEの発症における遺伝因子の強い影響力を意味していると捉えられる。古典的遺伝マーカーとして、HLA-DRB1*1501が全人種で関連を認められている(HLA-DRB1*0301は白人で強い関連を認めるが、他人種では認められない)。ゲノムワイド連鎖解析がこれまで11件行われているが、互いに指し示された領域が異なっていて明確な結論は得られない。それらのメタアナリシスによれば1、6、11番染色体上に疾患感受性遺伝子が存在する可能性がある。

ヒトゲノム上のほぼすべての一塩基多型 (SNP)を網羅する研究において、HLA領域のほか、IRF5ITGAMKIAA1542PXKFCGR2APTPN22STAT4各遺伝子[1]BLK[2]TNFAIP3[3] 上に信頼性の高い関連が報告された。これらのうち少なくともIRF5STAT4BLKTNFAIP3などについてはアジア人においてもSLEの発症と関連するほか、アジア人において特有に認められた危険因子も報告されている[4]。また、これらのうちSTAT4などはSLEのみならず関節リウマチなど複数の自己免疫性疾患と関連していることが報告されてきている。今後は具体的にSLEを引き起こす過程の分子生物学的な研究、後述する多様な病態それぞれとの関連の解明、さらには治療法の開発が待たれている。

環境因子[編集]

過去のウイルス感染が免疫系に影響を及ぼし、SLEの原因となるという仮説は明確に確認されていないもののサポートする証拠がいくつかある。たとえばSLE患者では一般に健常者と比較してEBウイルス抗体価が高い。また、トリパノソーママイコプラズマの感染により抗核抗体が出現する事が観察されている。これらは総じて分子模倣とされる学説である。

  • 強い日光への暴露後にSLEを発症したり、SLE病勢の増悪が見られる事から、紫外線照射が免疫系に与える影響を発症原因の一つと考える説もある。
  • ケイ酸への暴露、喫煙がSLEの発症リスクを高めるとする報告がある。

最新の知見[編集]

最新の知見によると、ゲノムのうちの遺伝子以外の部分は遺伝子のスイッチのON・OFFに関与していると判明した。その部分が異常を起こすと、自己免疫系の疾患になることがある。

一見無関係ないくつかの病気は、調節回路を共有していることがわかった。すなわち慢性関節リウマチ、1型糖尿病、狼瘡およびその他の自己免疫疾患がそれだ。この事実は、ひとつの薬がそれらすべてに有効である可能性を示唆している。[5]

症状[編集]

全身症状[編集]

  1. 発熱
  2. 易疲労感
  3. 体重減少
  4. 多臓器病変

部分症状[編集]

皮膚・粘膜症状
頬から鼻にかけての蝶形紅斑
  • 蝶形紅斑(バタフライ・ラッシュ)
    • 頬から鼻にかけてかかる丘疹状の紅斑で特異的な症状であるが、感度は高くなく、半分程度である。狼のような外見を呈するというが、そこまで至る例は稀。
  • 多形滲出性紅斑
    • ディスコイド疹、亜急性皮膚エリテマトーデス(SCLE)、lupus profundusなど
  • レイノー症状
    • 本症の25%に見られる。
  • 光線過敏
    • 本症の大半で見られ、しばしば初回の診察のきっかけとなる。
  • 口腔潰瘍
  • 脱毛
筋肉・関節症状
  • 関節炎・関節痛
    • 対称性。なお、ジャクー関節症と呼ばれるが可逆性の関節変形をきたすことはあるが、関節リウマチと異なり関節破壊は起こさない。
  • 筋肉
    • 多発性筋炎とのオーバーラップを疑うような筋炎、本症独自の症状とおもわれるミオパチーまであるが、まれでありむしろ治療薬であるステロイドの副作用(ステロイドミオパチー)のほうがよく見られる。
腎症状
  • ループス腎炎。腎不全の原因となりえるため治療法が存在しなかった時代には最大の死因であった。タンパク尿浮腫(むくみ)など症状があり、ネフローゼ症候群に発展することもある。血尿からはじまることはまれである。他の腎疾患(膜性増殖性糸球体腎炎膜性腎症など)の病像を呈する上、その疾患経過は予測不能である。分類法として世界的にWHO分類が用いられている。現在では透析療法によって、死亡の原因となることはない。
神経症状
心血管症状
  • 漿膜炎としての心外膜炎や、リーブマン・サックス心内膜炎心筋炎を発症することがある。心外膜炎は、重症であれば心タンポナーデの原因となる。
  • 近年は、ステロイドの副作用の影響を除外してもなお、本症そのものが虚血性心疾患の増悪因子であることが明らかとなっている。
肺症状
消化管症状
血液症状
脳血管障害による症状
  • 視神経が傷害され急に失明することもある。初期症状は不眠や集中力低下とも言われるが多彩で一言で言い切れるものではない。急性の経過、慢性の経過、ありとあらゆることが起きうる。ループス頭痛(lupus headache)と呼ばれる頭痛も起こす。
肝臓、膵臓
  • 特にルポイド肝炎とよばれる慢性肝炎がおきるが、本疾患に特徴的な病理学的変化があるわけではない。本症そのものによる症状であるのかどうかについて疑問を呈する向きもあるが、本症発症時には肝機能障害があらわれるのが通常である。
    • 本症による膵炎がおこることもある。いっぽうステロイドの副作用としても膵炎が起きうる。
腹膜
  • 漿膜炎としてのループス腹膜炎の頻度は高くない。
膀胱
  • 自己免疫的に生じる間質性膀胱炎がおきることがあり、ループス膀胱炎と称される。炎症は膀胱を超え腹膜、腸におよび、初期症状は腸症状であるとされる。日本で初めて提唱された概念であるが国際的にはあまり認知されていない。

合併疾患[編集]

一般に膠原病は、他の膠原病を合併しやすい傾向がある。もっとも多いのは抗リン脂質抗体症候群である。シェーグレン症候群も合併しやすい。そのほか皮膚筋炎多発筋炎全身性強皮症との合併もある。特に後者との合併は、それぞれの診断基準を完全に満たすならオーバーラップ症候群といわれるし、すべての診断基準を不完全にしか満たさないものの中には混合性結合組織病という別の疾患に診断されるものもある(この疾患が完全に別の疾患であるのか、単に各膠原病の不全型にすぎないのかは議論があるが、日本では別の疾患としてとらえられ、厚生省の特定疾患の一つに挙げられている)。

検査[編集]

脳梗塞、肺塞栓などが生命予後を左右する。

診断[編集]

通常アメリカリウマチ学会の診断基準(1982年[6]および 1997年改定[7])に従って診断する。感度、特異度とも90%をこえる診断基準である。また、特定疾患の申請においても本診断基準が採用されている。
2012年に改定された[8]

経過[編集]

2014年現在、全身性エリテマトーデス(SLE)を根治する治療法は見つかっていない。急激にSLEが増悪(「フレア・アップ」と呼ばれる)することもあれば、何も起こらない場合もある。

上記の長い病変リストのうちどれかが急におこったり、急におさまったり、慢性症状となったり、中には病気としての勢いが終息した後も後遺症として残る場合がある。しかし、継続的に医療機関に受診していれば、今後新たな症状の発生を予測できなくとも、現段階で何かがおこりはじめているということについては予測することができる。また、早期治療介入によって病状をおさえ、発病後も発病前同様にそれまで通りの生活を続けることが可能となった。

病勢が悪化する原因はたいてい不明だが、日焼けしたりストレスにさらされたとき、サルファ剤を服用したとき(現在よく処方されている薬としては、糖尿病のスルホニルウレア剤など)には病勢が悪化しやすいと考えられている。

病気の勢いについて、医師の主観ではなく客観的に評価する試みがあり、SLEDAI(スレダイ)などといったスコアリングシステムを用いることがある。

SLEと妊娠との関係について、妊娠によりSLEが悪化することが分かっている。したがってSLEがコントロールされていないときに妊娠を計画することまたは無計画に妊娠することは勧められない。しかし、十分にコントロールされ、継続的に医療機関の診察を受けていれば、妊娠、健康な新生児の出産は十分可能なことが現在ではわかっている。

治療[編集]

SLEはかつて死に至る病であったが、1950年代のステロイド系抗炎症薬(ステロイド)の登場とともに生存率QOLのいずれにおいても劇的に改善した。

本症におちいった患者は、安定していても終生少量のステロイド(プレドニゾロン)を服用しつづける必要がある。これについては、厳密に科学的または疫学的な根拠があるわけではない。というのも、本症に対してステロイドの投与をやめてみる医者などというものが存在しないからである。とはいっても、自発的に内服をやめてしまった患者の観察などにより、おそらく終生飲み続けなければいけないであろうことは国際的なコンセンサスとなっている。このコンセンサスは強力であって、たとえば他の膠原病である皮膚筋炎多発性筋炎ベーチェット病などではステロイドをやめることは可能といわれているが、特に全身性エリテマトーデスにおいてのみ不可能であると考えられている。逆に、終生ステロイドを飲み続けていると、本症を完全におさえこんだまま一生を終えることはまれではないであろう。むしろそういったケースではステロイドの副作用(浮腫うつ状態白内障)が目立つことになるわけである。

本症を急激に発症した最初のときと、CNSループス、ループス腎炎や血液学的異常(血小板減少など)の急激な増悪(フレア・アップ)がおこったときには、強力な治療が行われる。高用量のステロイド内服、ステロイドパルス療法、シクロフォスファミドパルス療法などが行われ、そのほか病態に応じては血漿交換免疫グロブリン大量投与が行われることがある。また、アザチオプリンメトトレキサートシクロスポリンを使用する場合もある。

米国ではミコフェノール酸モフェチルが、副作用が少ない効果的な治療薬として注目されている(この場合の「副作用が少ない」とは基本的にはシクロフォスファミドの副作用を対照としたものだが、さらにはステロイドの副作用をこれら免疫抑制剤の併用によって減らしたいという思惑が、現在の欧米の膠原病診療全体の趨勢として感じられる。日本でも2015年より承認された)。

発熱、皮膚症状の増悪などマイナーな病勢の悪化に対しては、中等量のステロイド投与や、ステロイドの軟膏を使用することが多いと思われる。関節痛に対しては非ステロイド性抗炎症薬で様子を見ることもある。

そのほか病態に応じたさまざまな生活指導が行われる。たとえば、光線過敏症がある場合には日光を避ける生活が必要となる。腎症がわるければタンパク制限などが必要となる。

近年は自己幹細胞の移植による治療法が研究されており、さらにヒトゲノムの解読により新たな治療法の研究が加速している。全身性エリテマトーデスに係る治療法は今まさにブレークスルーしつつある段階との指摘もある。新しい治療法としてリツキシマブ造血幹細胞移植が脚光を浴びている(いずれも日本国内での適応はない)。

シクロホスファミド(CYC)はループス腎炎に対して効果がある。

Houssiau FA et al. (2004) Early response to immunosuppressive therapy predicts good renal outcome in lupus nephritis: lessons from long-term followup of patients in the Euro-Lupus Nephritis Trial. Arthritis Rheum 50: 3934–3940 PMID:15593207。90人のループス腎炎患者を、日本で言うCYCパルスとCYCセミパルスとにランダムに振り分けたランダム化二重盲検試験。維持療法としてはアザチオプリン(AZA)を使用している。73ヶ月のフォローアップで、両群に有意な差はなかった。

ミコフェノール酸モフェチル(MMF)はシクロフォスファミド(CYC)と同等の効果があり副作用は少ない。また、タクロリムスもループス腎炎に適応を有している。

Ginzler EM et al. (2005) Mycophenolate mofetil or intravenous cyclophosphamide for lupus nephritis. NEJM. 353: 2219–2228. PMID:16306519。141人のループス腎炎患者を対象とし、MMFとCYCにランダムに振り分けたランダム化二重盲検試験。MMF群は、有意に完全寛解が多く、部分寛解は両群同等で、合計の寛解率は有意にMMF群のほうが高かった。MMF群には下痢の副作用が多いほか、CYCよりも目立つ有害事象はなかった。

副作用[編集]

予後[編集]

かつてステロイド薬が一般化する前(1950年頃まで)は診断後、患者の多くは5年以内に死亡していた。しかし現在、治療法の進展により90%以上の患者が健康な人と同様、発病後も永きにわたって天寿を全うすることが可能となった。また、その多くが比較的症状も安定している。

死亡原因としては、初期には(疾患そのもの、あるいは治療による)免疫不全による感染症が多い。一方、後期にはむしろ虚血性心疾患による死亡が増えており、ステロイドによる副作用のひとつとして数えることができるかもしれない。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ The International Consortium for Systemic Lupus Erythematosus Genetics (SLEGEN). Genome-wide association scan in women with systemic lupus erythematosus identifies susceptibility variants in ITGAM, PXK, KIAA1542 and other loci. Nat Genet 2008;40:204-10.
  2. ^ Hom, G et al. Association of systemic lupus erythematosus with C8orf13-BLK and ITGAM-ITGAX. N Engl J Med 2008; 358: 900–9.
  3. ^ Graham, RR et al. Genetic variants near TNFAIP3 on 6q23 are associated with systemic lupus erythematosus. Nat Genet 2008;40:1059-61.
  4. ^ Han, JW et al. Genome-wide association study in a Chinese Han population identifies nine new susceptibility loci for systemic lupus erythematosus. Nat Genet 2009;41:1234-37.
  5. ^ 原文は英文
  6. ^ Tan EM, et al. The 1982 revised criteria for the classification of systemic lupus erythematosus. Arthritis Rheum 1982;25:1271-7.
  7. ^ Hochberg MC, et al. Updating the American College of Rheumatology revised criteria for the classification of systemic lupus erythematosus. Arthritis Rheum. 1997; 40:1725.
  8. ^ Petri M, et al. Derivation and validation of the systemic lupus international collaborating clinics classification criteria for systemic lupus erythematosus. Arthritis Rheum 2012; 64(8):2677-2686.

外部リンク[編集]