コンテンツにスキップ

血液検査

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
血液検査検体の容器。管理のためにバーコードラベルが貼付されている。

血液検査(けつえきけんさ、英語: blood test)とは、血液を材料として行う臨床検査検体検査)であり、 診断・病態の把握・治療方針の決定・経過の判定などを目的として行われる。 主に静脈血を用い、目的とする検査により、全血、血清、血漿を使い分ける。 検査項目は、血液学、生化学、免疫学、遺伝子関連、微生物学など広い分野にわたる[1]:3-4,18-266

血液検査のプロセス

[編集]

血液検査は、必要な検査の選択に始まり、血液の採取、検体の前処理、検査の実施と結果報告から構成されている[1]:3-4

血液の採取:採血法と血液の種類

[編集]

血液検査の多くは静脈から採血した静脈血で実施されるが、動脈血毛細管血で実施されるものもある。血液ガス分析は動脈血で実施されるのが通常である[注 1]。 また、小児で静脈からの採血が困難な場合や本人が採血する場合(例えば血糖自己測定や検体測定室)などは毛細管血が用いられることがある[1]:18-24

検体の前処理と検査に用いる血液成分

[編集]

検査により使用する血液成分が異なるため、血液は目的とする検査に適合した容器に採取し、遠心分離などの前処理で必要な血液成分を得てから検査を実施する[2][1]:18-24

全血
全血とは血球と血漿を含む血液であるが、検査の対象とする際は抗凝固剤を加えて凝固を防止するのが通常である(迅速検査、血液培養など例外はある)。血算末梢血塗抹検査などの血液学的検査の多くは赤血球・白血球・血小板などを含む全血で行われる。末梢血塗抹検査は全血をスライドガラスに塗抹して血液塗抹標本を作成し染色して検査を行う。血中の細菌などを検出する血液培養は静脈または動脈から採血した血液をそのまま検査対象とする。
血漿
血漿は血液に抗凝固剤を加えてから遠心して血球を除いて得られた上清である。凝固検査の多くは血漿を材料とする(凝固したあとには正確な結果が得られないため)。生化学検査の多くは血漿でも実施可能であり、凝固に要する時間が不要でより迅速に実施できるが、項目によっては抗凝固剤や血漿中のフィブリンの影響を受ける[1]:20-21
血清
血液が凝固したあとに遠心分離機で遠心し、血球やフィブリンを除いて得られた上清である。生化学的検査の多くは血清を材料とする。血清用の採血容器は、凝固促進剤や血清分離を容易にするための血清分離剤(ゲル)が添加されていることが多い[1]:20-21
血球成分
血液型などの輸血検査は赤血球と血漿または血清の両方を用いる[1]:292-296。ヘモグロビンA1cは全血を材料として赤血球中のヘモグロビンの糖化の程度を検査する[1]:142。遺伝子検査では白血球などの細胞の染色体や含まれるDNAを検査の対象とする[1]:303-315

検査の実施

[編集]

血液検査の前処理や検査の実施は検査室で臨床検査技師が実施することが多いが、迅速性を要する検査(血液ガス分析血糖など)は診療現場で医師や看護師などが実施することがある( 臨床現場即時検査(point of care testing, POCT))。また、血糖自己測定においては患者自身が血液を採取して測定する[3]

結果の解釈

[編集]

血液検査の結果は、医師により、基準値を参考に病歴身体所見・他の検査結果などと合わせて総合的に解釈される[4][1]:5-13

主要な血液検査

[編集]

血液を材料として行う検査は非常に多種・多数にわたり、 対象とする臓器・生理機能・疾患領域などにより分類されている。 日常的によく実施される血液学的検査・生化学検査以外に、 止血・凝固、内分泌、免疫、血中薬物濃度、遺伝子、微生物など、広汎な分野の検査が含まれる[注 3][1][5]。 以下に代表的なものをあげるが、臨床検査 § 検体検査の分類も参照されたい。

血液学的検査

[編集]

血液学的検査は、血液細胞(血球)の検査と血栓・止血関連(凝固・線溶系)の検査に大別される[1]:28-51,51-76[5]

血球の検査
血球の数・大きさなどを調べる全血球計算(血算、CBC)や白血球分画、血液細胞の形態を観察する末梢血塗抹検査などがある[1]:28-51[5]
血栓・止血検査
止血能に関する検査としてPTAPTTフィブリノーゲン血栓に関する検査としてFDPD-ダイマーなどがある[1]:51-76[5]

生化学検査

[編集]

生化学検査では、血液中の各種の酵素の活性、代謝産物・電解質・タンパク質などさまざまな成分の定量により、各臓器や代謝システムを評価する。 日常診療でよく用いられる項目として、肝機能関連(AST(GOT)、ALT(GPT)、ALPγ-GTなど)、 腎機能関連(尿素窒素(BUN/UN)、クレアチニンなど)、 糖代謝(血糖HbA1cなど)、 脂質(中性脂肪総コレステロールHDLコレステロールLDLコレステロールなど) などがある。 その他、タンパク質(血清総蛋白アルブミンなど)、電解質(Na、K、Cl、Ca、Pなど)血液ガス分析、 各種の疾患マーカー(骨代謝マーカー腫瘍マーカーなど)など非常に多数の項目が含まれる[1]:77-206[5]

内分泌検査

[編集]

血液で多数のホルモンの測定が可能である。 よく測定されるものとして、甲状腺関連(TSHや遊離チロキシン(FT4)など)、副腎関連(コルチゾールレニンアルドステロン)、膵関連(インスリンなど)、性腺関連(エストロゲンテストステロンなど)、下垂体ホルモン(成長ホルモンプロラクチンなど)がある[1]:137-174[5]

血中薬物・毒物濃度検査

[編集]

抗てんかん薬フェニトインバルプロ酸ナトリウムカルバマゼピンなど)、抗菌剤(バンコマイシンなど)など、治療域と中毒域が近い薬物の投与量調整(治療薬物モニタリング(TDM))のために、各種の薬物やその代謝産物の血中濃度の測定が行われる。その他、エタノールや各種の薬物・毒物の血中濃度検査が行われることがある[1]:206-212[5]

免疫学的検査

[編集]

免疫や炎症に関連するタンパク質の検査(CRP免疫グロブリン補体サイトカインなど)、細胞性免疫関連検査、アレルギー関連検査( アレルゲン特異IgEなど)、自己抗体検査(抗核抗体など)、感染症免疫学的検査(HCV抗体など)など、多数の項目がある[1]:213-232[5]

免疫血液学的検査

[編集]

主に輸血に関連する免疫血液学検査として、ABO血液型検査RhD血液型検査クームス試験不規則抗体検査交差適合試験 などがある[1]:291-302[5]

遺伝子関連検査

[編集]

血液を材料とする遺伝子関連検査には、病原体核酸検査C型肝炎ウイルスHIVなど)、白血病悪性リンパ腫など造血器腫瘍の遺伝子変異を検出する体細胞遺伝子検査、臓器移植のためのHLAタイピング、単一遺伝子疾患の診断のための遺伝学的検査などがある[1]:233-266,303-315[5]

微生物学的検査

[編集]

菌血症敗血症など、血中に細菌真菌が存在する可能性がある場合は、原因菌を特定するために血液培養が行われる。 その他、マラリアなどでは血液を塗抹鏡検して原虫を検出することもある[1]:233-266[5]

研究

[編集]

血液検査関連の研究・技術開発においては、新たな検査項目の開発に加え、高侵襲検査の血液検査による代替補完と血液検査自身の低侵襲化・代替技術の開発が進められている。

高侵襲検査を代替・補完する血液検査

[編集]

生検(バイオプシー)羊水検査など、侵襲が高くリスクを伴う検査を血液検査で代替・補完する研究が行われている。 例としては、リキッドバイオプシー(血液中に循環している腫瘍細胞成分の検査)[6]無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)(母体血液中の胎児由来DNAの検査)[7]などがあげられる。

血液検査の低侵襲化・代替技術

[編集]

血液検査は医療には不可欠であるが、人体を穿刺するという侵襲を伴うため、 この侵襲を減らす、あるいは代替する検査法が研究されている。 既に広く用いられている例としては血液ガス分析の情報の一部を非侵襲的に測定するパルスオキシメータ酸素飽和度)が挙げられるが、 他の検査についても、血液以外の体液(皮下間質液唾液など)の利用や光・電磁波などを用いる検査法の実用化や研究が進められている。

グルコース
糖尿病の持続グルコースモニタリング目的で皮下に細い針を刺入して間質液のグルコース濃度を測定する装置は既に実用されている[8]。さらに、近赤外光[9]や電波[10]を用いて穿刺なしにグルコースを測定する研究が行われている。
ヘモグロビン
スマートフォンによる爪床の写真を解析して血中ヘモグロビンを推定し貧血のスクリーニングを行う研究も進められている[11]
唾液
血液以外の体液を利用するものとして、唾液を材料とするステロイドホルモンなどの生体物質測定も研究されている[12]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. 血液ガス分析検査項目のうち、酸塩基平衡にかかわるものは動脈と静脈でそれほど差がないので、検査の目的によっては静脈血で検査を実施することがある
  2. 患者はO型Rh(D)陽性。左の2本(患者赤血球に抗A抗体・抗B抗体)は赤血球凝集なし。中央の患者赤血球に抗D抗体を加えたものは凝集。右の2本は試薬のA型赤血球とB型赤血球に患者血漿を加えたもので凝集が見られる。
  3. ここで示した血液検査の分類は、固定的なものでなく、同一の項目が立場により複数の分野に分類されることもある。例えば、免疫学的検査の各種タンパク質の定量は、実務的には生化学検査の一部として実施されることが多い。

出典

[編集]
  1. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 高木康, 山田俊幸, 大西宏明 編『標準臨床検査医学』(第5版)医学書院、2023年。ISBN 978-4260049672
  2. 検体検査のサンプリング”. 臨床検査のガイドライン(日本臨床検査医学会). 2026年4月12日閲覧。
  3. 松尾収二「2.POCT(point of care-testing)の現状と将来」『日本内科学会雑誌』第100巻第11号、2011年、3175–3181頁、doi:10.2169/naika.100.3175
  4. 検査データの読み方と考え方”. 臨床検査のガイドライン(日本臨床検査医学会). 2026年4月12日閲覧。
  5. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 臨床検査技師国家試験出題基準 令和7年版”. 厚生労働省. 2026年4月12日閲覧。
  6. 吉岡祐亮, 落谷孝広「リキッドバイオプシーがもたらす新たながん診断法の可能性」『日本老年医学会雑誌』第57巻第2号、2020年、99–108頁、doi:10.3143/geriatrics.57.99
  7. 菊地範彦「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」『信州医学雑誌』第71巻第6号、2023年、445–447頁、doi:10.11441/shinshumedj.71.445
  8. 持続グルコースモニタリングデバイス適正使用指針”. 日本糖尿病学会. 2026年4月12日閲覧。
  9. Gómez-Peralta, F., Luque Romero, L. G., Puppo-Moreno, A., Riesgo, J. (December 2024). “Performance of a Non-Invasive System for Monitoring Blood Glucose Levels Based on Near-Infrared Spectroscopy Technology (Glucube®)”. Sensors 24 (23): 7811. doi:10.3390/s24237811. ISSN 1424-8220.
  10. Hirsch, I. B., Tirosh, A., Navon, A. (1 September 2024). “Noninvasive Real-Time Glucose Monitoring Is in the Near Future”. Diabetes Technology & Therapeutics (SAGE Publications) 26 (9): 661–666. doi:10.1089/dia.2024.0009. ISSN 1520-9156 2026年4月12日閲覧。.
  11. Mannino, R. G., Sullivan, J., Frediani, J. K., George, P., Whitson, J., Tumlin, J., Lyon, L. A., Tyburski, E. A., Lam, W. A. (May 2025). “Real-world implementation of a noninvasive, AI-augmented, anemia-screening smartphone app and personalization for hemoglobin level self-monitoring”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 122 (20): e2424677122. doi:10.1073/pnas.2424677122. ISSN 1091-6490.
  12. Boroumand, M., Olianas, A., Cabras, T., Manconi, B., Fanni, D., Faa, G., Desiderio, C., Messana, I., Castagnola, M. (October 2021). “Saliva, a bodily fluid with recognized and potential diagnostic applications”. Journal of Separation Science 44 (19): 3677–3690. doi:10.1002/jssc.202100384. ISSN 1615-9306 2026年4月12日閲覧。.

関連文献

[編集]


関連項目

[編集]