血液検査

血液検査(けつえきけんさ、英語: blood test)とは、血液を材料として行う臨床検査(検体検査)であり、 診断・病態の把握・治療方針の決定・経過の判定などを目的として行われる。 主に静脈血を用い、目的とする検査により、全血、血清、血漿を使い分ける。 検査項目は、血液学、生化学、免疫学、遺伝子関連、微生物学など広い分野にわたる[1]:3-4,18-266。
血液検査のプロセス
[編集]血液検査は、必要な検査の選択に始まり、血液の採取、検体の前処理、検査の実施と結果報告から構成されている[1]:3-4。
血液の採取:採血法と血液の種類
[編集]血液検査の多くは静脈から採血した静脈血で実施されるが、動脈血や毛細管血で実施されるものもある。血液ガス分析は動脈血で実施されるのが通常である[注 1]。 また、小児で静脈からの採血が困難な場合や本人が採血する場合(例えば血糖自己測定や検体測定室)などは毛細管血が用いられることがある[1]:18-24。
検体の前処理と検査に用いる血液成分
[編集]検査により使用する血液成分が異なるため、血液は目的とする検査に適合した容器に採取し、遠心分離などの前処理で必要な血液成分を得てから検査を実施する[2][1]:18-24。
- 全血
- 全血とは血球と血漿を含む血液であるが、検査の対象とする際は抗凝固剤を加えて凝固を防止するのが通常である(迅速検査、血液培養など例外はある)。血算、末梢血塗抹検査などの血液学的検査の多くは赤血球・白血球・血小板などを含む全血で行われる。末梢血塗抹検査は全血をスライドガラスに塗抹して血液塗抹標本を作成し染色して検査を行う。血中の細菌などを検出する血液培養は静脈または動脈から採血した血液をそのまま検査対象とする。
- 血漿
- 血漿は血液に抗凝固剤を加えてから遠心して血球を除いて得られた上清である。凝固検査の多くは血漿を材料とする(凝固したあとには正確な結果が得られないため)。生化学検査の多くは血漿でも実施可能であり、凝固に要する時間が不要でより迅速に実施できるが、項目によっては抗凝固剤や血漿中のフィブリンの影響を受ける[1]:20-21。
- 血清
- 血液が凝固したあとに遠心分離機で遠心し、血球やフィブリンを除いて得られた上清である。生化学的検査の多くは血清を材料とする。血清用の採血容器は、凝固促進剤や血清分離を容易にするための血清分離剤(ゲル)が添加されていることが多い[1]:20-21。
検査の実施
[編集]血液検査の前処理や検査の実施は検査室で臨床検査技師が実施することが多いが、迅速性を要する検査(血液ガス分析、血糖など)は診療現場で医師や看護師などが実施することがある( 臨床現場即時検査(point of care testing, POCT))。また、血糖自己測定においては患者自身が血液を採取して測定する[3]。
結果の解釈
[編集]血液検査の結果は、医師により、基準値を参考に病歴・身体所見・他の検査結果などと合わせて総合的に解釈される[4][1]:5-13。
- 静脈血(暗赤色)と動脈血(鮮紅色)。
- 血中グルコースの自己測定。
- 血液塗抹標本:左が染色前、右がライト・ギムザ染色後。
- 血液を注入した血液培養ボトル。
- 赤黒い血餅と白い血清分離剤の上に黄色い血清が見えている。
- 抗凝固剤を加えた全血を遠心分離:黄色い血漿と赤黒い赤血球の間に薄い白色のバッフィーコート(白血球や血小板の層)が見える。
- 血液型検査で赤血球の凝集を観察[注 2]
- 血液自動分析装置が稼働している血液検査室
主要な血液検査
[編集]血液を材料として行う検査は非常に多種・多数にわたり、 対象とする臓器・生理機能・疾患領域などにより分類されている。 日常的によく実施される血液学的検査・生化学検査以外に、 止血・凝固、内分泌、免疫、血中薬物濃度、遺伝子、微生物など、広汎な分野の検査が含まれる[注 3][1][5]。 以下に代表的なものをあげるが、臨床検査 § 検体検査の分類も参照されたい。
血液学的検査
[編集]血液学的検査は、血液細胞(血球)の検査と血栓・止血関連(凝固・線溶系)の検査に大別される[1]:28-51,51-76[5]。
生化学検査
[編集]生化学検査では、血液中の各種の酵素の活性、代謝産物・電解質・タンパク質などさまざまな成分の定量により、各臓器や代謝システムを評価する。 日常診療でよく用いられる項目として、肝機能関連(AST(GOT)、ALT(GPT)、ALP、 γ-GTなど)、 腎機能関連(尿素窒素(BUN/UN)、クレアチニンなど)、 糖代謝(血糖、HbA1cなど)、 脂質(中性脂肪、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロールなど) などがある。 その他、タンパク質(血清総蛋白、アルブミンなど)、電解質(Na、K、Cl、Ca、Pなど)、血液ガス分析、 各種の疾患マーカー(骨代謝マーカー、腫瘍マーカーなど)など非常に多数の項目が含まれる[1]:77-206[5]。
内分泌検査
[編集]血液で多数のホルモンの測定が可能である。 よく測定されるものとして、甲状腺関連(TSHや遊離チロキシン(FT4)など)、副腎関連(コルチゾール、レニン・アルドステロン)、膵関連(インスリンなど)、性腺関連(エストロゲン、テストステロンなど)、下垂体ホルモン(成長ホルモン、プロラクチンなど)がある[1]:137-174[5]。
血中薬物・毒物濃度検査
[編集]抗てんかん薬(フェニトイン、バルプロ酸ナトリウム、カルバマゼピンなど)、抗菌剤(バンコマイシンなど)など、治療域と中毒域が近い薬物の投与量調整(治療薬物モニタリング(TDM))のために、各種の薬物やその代謝産物の血中濃度の測定が行われる。その他、エタノールや各種の薬物・毒物の血中濃度検査が行われることがある[1]:206-212[5]。
免疫学的検査
[編集]免疫や炎症に関連するタンパク質の検査(CRP、免疫グロブリン、補体、サイトカインなど)、細胞性免疫関連検査、アレルギー関連検査( アレルゲン特異IgEなど)、自己抗体検査(抗核抗体など)、感染症免疫学的検査(HCV抗体など)など、多数の項目がある[1]:213-232[5]。
免疫血液学的検査
[編集]主に輸血に関連する免疫血液学検査として、ABO血液型検査、RhD血液型検査、クームス試験、不規則抗体検査、交差適合試験 などがある[1]:291-302[5]。
遺伝子関連検査
[編集]血液を材料とする遺伝子関連検査には、病原体核酸検査(C型肝炎ウイルス、HIVなど)、白血病・悪性リンパ腫など造血器腫瘍の遺伝子変異を検出する体細胞遺伝子検査、臓器移植のためのHLAタイピング、単一遺伝子疾患の診断のための遺伝学的検査などがある[1]:233-266,303-315[5]。
微生物学的検査
[編集]菌血症・敗血症など、血中に細菌や真菌が存在する可能性がある場合は、原因菌を特定するために血液培養が行われる。 その他、マラリアなどでは血液を塗抹鏡検して原虫を検出することもある[1]:233-266[5]。
研究
[編集]血液検査関連の研究・技術開発においては、新たな検査項目の開発に加え、高侵襲検査の血液検査による代替補完と血液検査自身の低侵襲化・代替技術の開発が進められている。
高侵襲検査を代替・補完する血液検査
[編集]生検(バイオプシー)、羊水検査など、侵襲が高くリスクを伴う検査を血液検査で代替・補完する研究が行われている。 例としては、リキッドバイオプシー(血液中に循環している腫瘍細胞成分の検査)[6]、無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)(母体血液中の胎児由来DNAの検査)[7]などがあげられる。
血液検査の低侵襲化・代替技術
[編集]血液検査は医療には不可欠であるが、人体を穿刺するという侵襲を伴うため、 この侵襲を減らす、あるいは代替する検査法が研究されている。 既に広く用いられている例としては血液ガス分析の情報の一部を非侵襲的に測定するパルスオキシメータ(酸素飽和度)が挙げられるが、 他の検査についても、血液以外の体液(皮下間質液、唾液など)の利用や光・電磁波などを用いる検査法の実用化や研究が進められている。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 高木康, 山田俊幸, 大西宏明 編『標準臨床検査医学』(第5版)医学書院、2023年。ISBN 978-4260049672。
- ↑ “検体検査のサンプリング”. 臨床検査のガイドライン(日本臨床検査医学会). 2026年4月12日閲覧。
- ↑ 松尾収二「2.POCT(point of care-testing)の現状と将来」『日本内科学会雑誌』第100巻第11号、2011年、3175–3181頁、doi:10.2169/naika.100.3175。
- ↑ “検査データの読み方と考え方”. 臨床検査のガイドライン(日本臨床検査医学会). 2026年4月12日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 “臨床検査技師国家試験出題基準 令和7年版”. 厚生労働省. 2026年4月12日閲覧。
- ↑ 吉岡祐亮, 落谷孝広「リキッドバイオプシーがもたらす新たながん診断法の可能性」『日本老年医学会雑誌』第57巻第2号、2020年、99–108頁、doi:10.3143/geriatrics.57.99。
- ↑ 菊地範彦「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」『信州医学雑誌』第71巻第6号、2023年、445–447頁、doi:10.11441/shinshumedj.71.445。
- ↑ “持続グルコースモニタリングデバイス適正使用指針”. 日本糖尿病学会. 2026年4月12日閲覧。
- ↑ Gómez-Peralta, F., Luque Romero, L. G., Puppo-Moreno, A., Riesgo, J. (December 2024). “Performance of a Non-Invasive System for Monitoring Blood Glucose Levels Based on Near-Infrared Spectroscopy Technology (Glucube®)”. Sensors 24 (23): 7811. doi:10.3390/s24237811. ISSN 1424-8220.
- ↑ Hirsch, I. B., Tirosh, A., Navon, A. (1 September 2024). “Noninvasive Real-Time Glucose Monitoring Is in the Near Future”. Diabetes Technology & Therapeutics (SAGE Publications) 26 (9): 661–666. doi:10.1089/dia.2024.0009. ISSN 1520-9156 2026年4月12日閲覧。.
- ↑ Mannino, R. G., Sullivan, J., Frediani, J. K., George, P., Whitson, J., Tumlin, J., Lyon, L. A., Tyburski, E. A., Lam, W. A. (May 2025). “Real-world implementation of a noninvasive, AI-augmented, anemia-screening smartphone app and personalization for hemoglobin level self-monitoring”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 122 (20): e2424677122. doi:10.1073/pnas.2424677122. ISSN 1091-6490.
- ↑ Boroumand, M., Olianas, A., Cabras, T., Manconi, B., Fanni, D., Faa, G., Desiderio, C., Messana, I., Castagnola, M. (October 2021). “Saliva, a bodily fluid with recognized and potential diagnostic applications”. Journal of Separation Science 44 (19): 3677–3690. doi:10.1002/jssc.202100384. ISSN 1615-9306 2026年4月12日閲覧。.
関連文献
[編集]- “臨床検査のガイドライン”. 日本臨床検査医学会. 2026年4月12日閲覧。
- 高橋和広「血液検査からどこまで病気がわかるか」『化学と教育』第65巻第6号、日本化学会、2017年、294-295頁、doi:10.20665/kakyoshi.65.6_294。