性的同意

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性的同意(せいてきどうい、英語: sexual consent[1][2])とは、性的な活動を行う際に結ぶ同意である[3][4]。同意のない性的な活動は強姦または性的暴行である、と考えられている[3][4]。1980年代後半に研究者のロイス・ピノーは、性的同意を明白で客観的なものとするためには、性に関して意思の疎通がなされる社会へと変わっていかなければいけない、と論じている[5]。多くの大学で、性的同意についての広報活動が行われている。注意を引く標語や画像が掲げられた創造的な広報活動には、大学内における性的暴行などの問題に対する意識を高める効果がある[6]

カナダにおいて、性的同意は、「信頼や権力、権威」の乱用や搾取、あるいは強要や脅迫がない状態で、「性的な活動を行うという申し立てに対して、自発的に賛成すること」を意味する[7]。性的同意はいつでも取り消すことができる[8]

1990年代後半以降、性的同意に関する新たなモデルが提案されてきた。とりわけ、デヴィッド・S・ホールが「他者によって提案されたり行われたりした事柄を、自発的に承認すること」、「許諾すること」、「意見や感情について賛成すること」と定義し、「イエス・ミーンズ・イエス」といった積極的な同意のモデルが進展した[8]

S・E・ヒックマンとC・L・ミューレンハードは、性的同意とは「言語を介して、もしくは言語以外の手段を介して、性的な活動を行うことへの意欲を示すコミュニケーション」であるべきだ、と述べている[9]。「イエス・ミーンズ・イエス」または「ノー・ミーンズ・ノー」といったモデルにおいては、性的同意にまつわる個々の基本的な状況が必ずしも認識されているわけでないことから、積極的な同意は限定されることがある[3]

Youtubeで性教育動画チャンネルを配信している、助産師の大貫詩織は、著書の中で性的同意について『「断っても大丈夫」という環境』『対等な関係性』『一回の同意で全てに同意するということではない』と要素を説明し、「性的同意を確認する責任はアクションを起こそうとする側にあり、お互いに安心感のある関係を築くことが必要」だと主張している[10]

大学生の活動[編集]

2021年3月、慶應義塾大学の学生団体「Safe Campus Keio」と一般社団法人「Voice Up Japan」の慶應支部が合同で、「同意がない性的言動は性暴力です」と明記した『性的同意ハンドブック慶應』を発行した[11][12][13]。「学内での性暴力は現実に起きているが、入学時のオリエンテーションで性的同意に触れている機会がほとんどない」現実があり、オリエンテーション以外で伝える方法として、ハンドブック作成のきっかけとなった。Safe Campus Keioが学内を調査したところ、「不快なジョークや性の話をされた」り、「同意のない性行為をされた」という声が出てきた。その多くは知人の学生関係で、特に上級生から下級生への性的被害が多かった。しかし、この調査結果から、「被害を受けても学内の相談機関に訴えるケースが少なく、『望まない性的行動』を受けていることが日常的となっている」という。そこで、このハンドブックでは、性的被害を「目撃した第三者」が、できる5つの行動を紹介している。

両団体はSNSでの情報発信や学内での署名運動も行い、後者は「サークルが学校への誓約書と行動計画の提出の義務化」などの成果が上がっている。

関西でも、学生の任意団体「ジェネシス」と京都市男女共同参画推進協会により、性的同意を題材にした『ウィングス京都 ジェンダーハンドブック』が発行された[14]

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 三島あずさ (2018年4月15日). “大学生のみんな「性的同意」の大切さ知って”. 朝日新聞デジタル. 2019年4月7日閲覧。
  2. ^ Cade, Misha (2018年6月11日). “Sexual consent in Japanese: Making it crystal clear that no means no”. The Japan Times. 2019年4月7日閲覧。
  3. ^ a b c Roffee, James A. (2015). “When Yes Actually Means Yes”. Roffee James A., 'When Yes Actually Means Yes: Confusing Messages and Criminalising Consent' in Rape Justice: Beyond the Criminal Law eds. Powell A., Henry N., and Flynn A., Palgrave, 2015. pp. 72–91. doi:10.1057/9781137476159_5. ISBN 978-1-349-57052-2 
  4. ^ a b Beres. A, Melanie (18 January 2007). “'Spontaneous' Sexual Consent: An Analysis of Sexual Consent Literature”. Feminism & Psychology 17 (93): 93. doi:10.1177/0959353507072914. 
  5. ^ Pineau, Lois (1989). “Date Rape: A Feminist Analysis”. Law and Philosophy 8 (217). 
  6. ^ Thomas KA, Sorenson SB, Joshi M. "Consent is good, joyous, sexy": A banner campaign to market consent to college students. Journal of American College Health. 2016; 64(8):639-650
  7. ^ Criminal Code, Canadian (2015). Canadian Criminal Code. http://laws-lois.justice.gc.ca/eng/acts/C-46/page-137.html#docCont.  Retrieved March 13, 2015.
  8. ^ a b Hall, David S. (10 August 1998). “Consent for Sexual Behavior in a College Student Population”. Electronic Journal of Human Sexuality 1. 
  9. ^ Hickman, S.E. and Muehlenhard, C.L. (1999) '"By the Semi-mystical Appearance of a Condom": How Young Women and Men Communicate Sexual Consent in Heterosexual Situations', The Journal of Sex Research 36: 258–72.
  10. ^ シオリーヌ, 大貫詩織 (December 2020). CHOICE 自分で選び取るための「性」の知識. イースト・プレス. pp. 082-087. ISBN 978-4781619378 
  11. ^ 「加害行為かも」。相手が乗り気じゃない性行為、身に覚えない?『性的同意』ハンドブックを大学生が作った | ハフポスト
  12. ^ 慶大生が「性的同意」ハンドブックを作った理由 | リーダーシップ・教養・資格・スキル | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
  13. ^ Sexual consent handbook 性的同意ハンドブック 慶應 on Strikingly
  14. ^ 発行物 | 京都市男女共同参画推進協会 | 京都市男女共同参画センター ウィングス京都

関連文献[編集]

  • Archard, David (1998). Sexual Consent. Westview Press 
  • Cowling, Mark (2017). Making Sense of Sexual Consent. Routledge 
  • Ehrlich, Susan (2003). Representing Rape: Language and Sexual Consent. Routledge 
  • Primoratz, Igor (September 2001). “Sexual Morality: Is Consent Enough?”. Ethical Theory and Moral Practice 4 (3): 201-218. 
  • Refinetti, Roberto (2018). Sexual Harassment and Sexual Consent. Routledge 

外部リンク[編集]