被害妄想
被害妄想(ひがいもうそう、英語: Persecutory delusion)とは、妄想性障害のひとつであり、被害の証拠がないのに、自分に被害もしくは危害が及ばされていると確信している妄想[1]。自己関連づけ(実際には自分とは無関係な他者の行動やしぐさを、自分に向けられたものだと被害的に解釈すること)が、被害妄想の一つの側面であるとされる[2]。
妄想性障害においては典型的な症状であり、その訴えは明快で論理的であり体系化されている[1]。怒りの対象に対して行動化をとることもあり、訴訟を起こされるほどのことでも自分が悪いとは思えず、更には敗訴したにもかかわらず自分の悪い部分を認めることが出来ずに逆恨みをし、ときには攻撃・殺害したりすることもある[1]。
一方で統合失調症における陽性症状に見られる被害妄想は、それと対照的である[1]。加害者は、スパイ組織、CIA、秘密警察、フリーメイソン、公安、テロ組織といった漠然とした存在であり、隣家の誰それといった具体的なものではない[3]。盗聴器、電磁波、監視カメラ、テレパシー、ストーカーなどといった概念が登場し、それはプライバシーを暴き、自分を見透かすような存在であるいう訴えとなりうる[3]。
対処・治療方法[編集]
それは妄想である、と言い聞かせる事はうまく行かない場合が多い[4]。妄想には触れずに妄想の結果である不安や不眠などに対処するのが良いとされている[4]。それでもうまく行かない場合は最後の手段として強制入院させる方法がある[4]。
また、被害妄想を抱かせる人に直接聞いて確かめたり被害妄想を抱く状況に実際に関わったりすることで、被害妄想の内容がやはり事実ではなかったということを確認することができ、推奨される対処方法となっている[5]。
なお、被害妄想をなくしたり軽くしたりするための治療については、「統合失調症#治療」を参照。
訴えの例[編集]
ジョン・ナッシュの統合失調症症状は、映画ビューティフル・マインドで描かれ、それは自分を共産主義的陰謀に巻き込もうとしている男がいる、との訴えの形であった。
脚注[編集]
- ^ a b c d B.J.Kaplan; V.A.Sadock『カプラン臨床精神医学テキスト DSM-5診断基準の臨床への展開』(3版)メディカルサイエンスインターナショナル、2016年5月31日、Chapt.7.4。ISBN 978-4895928526。
- ^ 金子一史、「被害妄想的心性と他者意識および自己意識との関連について」 『性格心理学研究』 1999年 8巻 1号 p.12-22, doi:10.2132/jjpjspp.8.1_12, 日本パーソナリティ心理学会
- ^ a b 春日武彦『援助者必携 はじめての精神科』(3版)医学書院、2020年、Chapt.3。ISBN 978-4-260-04235-2。
- ^ a b c “妄想への対処法は直球より変化球”. 精神科医 林公一 (2017年9月15日). 2017年12月3日閲覧。
- ^ 森本幸子、「大学生における被害妄想的観念への対処方略について」『心理学研究』 2008年 78巻 6号 p.607-612, doi:10.4992/jjpsy.78.607, 日本心理学会