イズン

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ニルス・ブロメールによって描かれた、リンゴを持つイズンと夫ブラギ(1846年)
ローレンツ・フローリクによって描かれた、『オージンのワタリガラスの呪文歌』の一場面。イズンとロキ、ヘイムダル、ブラギ(1906年)

イズン[1]古ノルド語: Iðunn)は、北欧神話に登場する女神の一柱。イドゥン[2]イズーナ[3]とも呼ばれる。『スノッリのエッダ』第一部『ギュルヴィたぶらかし』第26章によれば、アース神族に永遠の若さを約束する黄金の林檎の管理人で、の神ブラギの妻でもある[4]

概要

アイルランドの詩人パードリック・コラム英語版による再話では、青空の様に真っ青な瞳と、晴れやかで優しげな美しい容姿を持っており[5]、性格は無邪気でお人好しだった[6]とされている[注釈 1]

『スノッリのエッダ』第二部『詩語法』は次の物語を伝えている。ある日、イズンは、ロキの手引きにより、巨人スィアチスカジの父)にリンゴともどもアースガルズの外、巨人たちの国ヨトゥンヘイムへとさらわれてしまう。常若のリンゴを失ったアース神族の神々は老い始めるのだった[8]

神々の怒りに触れ、イズンを巨人から取り戻すよう課せられたロキは、フレイヤから借りたの羽衣で鷹に変身し、スィアチの宮殿スリュムヘイムから彼女を見つけ出した。ロキはイズンに対して素早く変身の呪文を唱え、彼女を一個の胡桃に変えてしまい、そのまま爪に挟んで運び去った。スィアチは、に姿を変えて追いかけたが、あと少しのところでアース神たちの用意した屑の火に翼を焼かれて墜落し、神々に倒された[8]。ロキの呪文で胡桃にされたイズンは本来の姿に戻してもらい、年老いた神々にリンゴを配った。

古エッダ』の『ロキの口論』第17が伝えるところでは、イズンは自分の兄を殺した男を抱いたとされる[9]

別の伝承では、イズンがある日ユグドラシルの高い枝から転落してニヴルヘイムへ落下したという。この時のことが『オージンのワタリガラスの呪文歌』にも唄われた。ブラギをはじめ神々が彼女を捜し、ニヴルヘイムで横たわっているのを見つけた。神々は、冷え切った彼女の体を、オージンから預かった白い熊の毛皮で包んだ。イズンは寒さに震えながらもアースガルズへ戻ることを拒んだため、やむなくブラギだけが彼女の傍らに残ったという。この物語について、一部の学者は、イズンの転落は秋の落葉を、白い毛皮は雪を、沈黙し音楽も奏でなくなったブラギは鳥の歌声が聞こえない様子を象徴すると考える。しかし松村武雄はこれを行き過ぎた推察だとしている[10]

脚注

注釈

カール・ラーションが描いた、娘ブリータ扮するイズン。
  1. ^ この再話では、ローキ(ロキ)はフリッガ(フリッグ)が所有するハヤブサの羽でつくった服を借りてハヤブサに変身し、イズーナ(イズン)をシアッシ(スィアチ)の元から連れ出す際には自身の魔法で彼女を胡桃ではなくスズメに変身させて一緒に脱出している。[7]

出典

  1. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』などで確認した表記。
  2. ^ 山室静『北欧の神話 神々と巨人のたたかい』(筑摩書房〈世界の神話 8〉、1982年ISBN 978-4-480-32908-0)で確認した表記。
  3. ^ 『北欧神話』(コラム)で確認した表記。
  4. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』246頁。
  5. ^ 『北欧神話』(コラム)33-34頁。
  6. ^ 『北欧神話』(コラム)34-35頁。
  7. ^ 『北欧神話』(コラム)24-44頁(第一部第3章「イズーナとリンゴ。ローキが神々をあぶないめにあわせた話」)。
  8. ^ a b 『「詩語法」訳注』1-3頁、『エッダ 古代北欧歌謡集』67頁(「スキールニルの旅」訳注9)・74頁(「ヒュミルの歌」訳注8)。
  9. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』82頁。
  10. ^ 『北欧の神話伝説』222-226頁。

参考文献