本陣殺人事件

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本陣殺人事件』(ほんじんさつじんじけん)は、横溝正史が著した長編推理小説で、金田一耕助シリーズの第1作である。1946年4月から同年12月まで『宝石』誌上に連載された。横溝は本作で1948年第1回探偵作家クラブ賞を受賞した[1]。2007年1月現在映画2本、テレビドラマ3作品が制作されている。

降り積もった雪で囲まれた日本家屋での密室殺人を描く。


注意:以降の記述で物語・作品・登場人物に関する核心部分が明かされています。免責事項もお読みください。


目次

[編集] あらすじ

昭和12年(1937年11月25日岡山県の旧本陣の末裔・一柳家の屋敷では、長男・賢蔵と久保克子の結婚式が執り行われていた。式には一柳家から賢蔵の母・糸子、三男・三郎、次女・鈴子、分家・良介と久保家から克子の義父・銀造が顔を揃えていた。式は、鈴子が琴を披露するなどして、何事もなく終了した。

その夜遅く、屋敷内に只ならぬ悲鳴と、激しい琴の音が響き渡った。銀造らが夫婦の寝室である離れへ駆けつけると、夫婦が布団の上で血塗れになって斃れていた。庭の中央には血に染まった日本刀が突き刺さっており、周囲には足跡一つ残っていなかった。また、三本指の人間が犯人であるらしい痕跡が残っていた。にもかかわらず、周りに降り積もった雪のために、離れは完璧な密室状態と化しており、そこには犯人の逃げた痕跡が一切なかった。

警察による捜査の結果、前日の夕方、怪しい三本指の男が訪れ、賢蔵に手紙を託したこと、それを見て彼が顔色を変えたことなども判明し、古い怨恨の存在が示唆される。さらに、駅前でその男が一柳家の所在を尋ねたことはその前に家人が知っていたことだった。そのため、三本指の男の行方が注目されるが、その日以降の足取りが全くつかめず、捜査は暗礁に乗り上げる。銀造は独自の捜査のために金田一耕助を呼び寄せる。

金田一はやって来るなり本棚いっぱいの探偵小説に興味を示し、持ち主である三郎とマニア的な会話をする。それから事件現場を調べ、庭のあちこちに、たとえば庭木を支える竹の節が抜いてある、幹に鎌が刺さっているなどの奇妙な点を指摘する。その夜、またも琴の音が響き、事件現場で大けがをした三郎が発見される。そこには、あの三本指の指紋が残っていた。

その頃、克子の友人が現れ、彼女が遊び人とつきあったことがあり、結婚式前に彼に会っていたことを告げ、その男が犯人に違いないと主張した。警察はこの情報に混乱するが、金田一は、これによって大筋が明らかになったらしい。新たな証拠集めを始める。彼は、式の前に死んで埋められた猫の墓から、手首で切り落とされた三本指の手を発見し、人をやって三本指の男を一回り奥の村から探し出させ、家の近くの炭焼き窯から死体を発見した。それは三本指の男であった。

その晩、金田一は一同を事件現場に集め、目の前で事件のトリックを明らかにした。家のそばの水車に琴糸を結びつけ、それを部屋に引き入れてあったのだ。水車が動いたところで、刀に琴糸を巻き付けると、糸に引かれて刀は部屋の外に出て、庭に落ちる仕掛けであった。すなわち、外部の犯人はいなかったのだ。彼は説明を続け、真相は賢蔵が克子が傷物であることを知って結婚を嫌ったが、体面を重視したために結婚をやめることも出来ず、婚礼の晩に彼女を殺して、自殺したのだ。それを推理小説マニアの三郎が知ってしまい、彼の入れ知恵で自殺に見えなくした。また、三本指の男は単なる通り掛かりで、衰弱死したところを賢蔵に見つかり、犯行の予行実験に使われたと推測、その後に三郎が事件を演出するのに使われたと説明した。

なお、三郎の事件は、彼による自演であり、金田一に対する対抗心で行ったものと説明した。

ちなみに、作品の最後は、作者による、作品冒頭の言葉遣いが叙述トリックではないという言い訳に費やされている。

[編集] 解説

横溝の戦後最初の長編推理作品であり[2]、それまで日本家屋には不向きとされていた密室殺人を戦後初めて描いた作品として知られる。また日本の名探偵の代名詞といえる金田一耕助のデビュー作でもある。また、彼とその後何度も組むことになる磯川警部も初登場である。

第二次世界大戦中は軍の指示によって探偵小説は禁止されていたのが、終戦によって可能になったと考えて夢中で書いた、と作者は語っている。そのとき疎開していた農家の天井も柱も長押もすべて紅殻塗りであったことからガストン・ルルー著『黄色い部屋の秘密』を連想させ、日本式家屋での密室殺人が書けないものか考え始め、カーター・ディクスン著『プレーグ・コートの殺人』の四方を泥に囲まれた離れを雪に囲まれた離れに置き換えたらどうかと考えたと、作者は述べている[3]

密室トリックについては、シャーロック・ホームズ・シリーズの「ソア橋」との共通性が指摘されるが、作者自身はロジャー・スカーレット著『エンジェル家の殺人』に着想を得たものだと語っている[4]。トリックに関わる小細工のすべてを琴に結びつけることで怪奇色を演出するとともに、田舎町の本陣という日本の古い伝統を背景に置くことで重苦しく怪しい雰囲気を作り上げる。これらは後続の大作『獄門島』や『八つ墓村』に引き継がれ、より大きく発展させられた。

物語は、岡山県に疎開した作者が人伝いに聞いた話をまとめたという形式をとっている。

実在する地名が使われているためか、現在の文庫本などでは村、川、駅の名前の漢字一文字がそれぞれ伏字となっている(清―駅、川―村、岡―村、久―村、高―川といった具合。なお、それぞれ清音駅、川辺村(現倉敷市)、岡田村(現倉敷市)、久代村(現総社市)、高梁川を表す)。

[編集] 登場人物

[編集] 主要人物

金田一耕助(きんだいち こうすけ)
新進の私立探偵。久保銀造が呼び寄せた。
磯川常次郎(いそかわ つねじろう)
岡山県警の警部。今回の殺人事件を担当する。
久保克子 (くぼ かつこ)
女学校の教師。ある集会で講演をしていた一柳賢蔵と出会い、結婚するが、離れで賢蔵と共に死んでいるのが発見された。
久保銀造 (くぼ ぎんぞう)
果樹園の経営者で克子の叔父。亡き兄の娘の克子を育て上げた。

[編集] 一柳家

一柳糸子(いちやなぎ いとこ)
賢蔵らの母。威厳と誇りを崩さない老婦人。
一柳賢蔵(いちやなぎ けんぞう)
長男で、一柳家の当主で学者。ある集会の講演で久保克子と出会い、それからわずか1年ほどで結婚の意志を伝え、周囲からの反対の声を押し切って結婚するが、離れで彼女と共に死んでいるのが発見された。
一柳妙子(いちやなぎ たえこ)
長女。ある会社員と結婚して、上海に渡航している。
一柳隆二 (いちやなぎ りゅうじ)
次男。大阪の病院に勤務している医者
一柳三郎 (いちやなぎ さぶろう)
三男。兄弟中での不作で、家でごろごろしている。狡猾なところがある。
一柳鈴子 (いちやなぎ すずこ)
次女。病弱で腺病質だが、琴を弾くのは上手である。婚礼の当日で、克子の代わりに琴を弾いた。
一柳良介 (いちやなぎ りょうすけ)
賢蔵らの従兄弟。
一柳秋子(いちやなぎ あきこ)
良介の妻。

[編集] その他

お直(おなお)
一柳家に仕える下働きの老婆。
お清(おきよ)
一柳家に仕える女中。
源七(げんしち)
作男。
周吉(しゅうきち)
一柳家に仕える小作。
白木静子(しらき しずこ)
克子がかつて勤めていた女学校の教師で親友。
清水京吉 (しみず きょうきち)
右頬に大きな傷跡がある、右手が三本指の男。事件の前々日に一柳家までの道を尋ねた。

以上で物語・作品・登場人物に関する核心部分の記述は終わりです。


[編集] 書誌情報

  • 本陣殺人事件(青珠社、1947年)
  • 横溝正史集 探偵小説名作全集4 (河出書房、1956年5月)
  • 獄門島 横溝正史全集3 (講談社、1970年)
  • 本陣殺人事件 (角川書店、角川文庫、1973年4月)
  • 本陣殺人事件 横溝正史全集5 (講談社、1975年3月)
  • 横溝正史集 日本探偵小説全集9 (東京創元社、創元推理文庫、1986年1月、ISBN 4488400094
  • 岡山 ふるさと文学館39 (磯貝英夫 編、ぎょうせい、1994年6月、ISBN 4324038066
  • 本陣殺人事件 日本推理作家協会賞受賞作全集1 (双葉社、双葉文庫、1995年5月、ISBN 4575658006
  • 本陣殺人事件 金田一耕助ファイル2 (角川書店、角川文庫、1996年9月 ISBN 4041304083
  • 本陣殺人事件 (他2編 、春陽堂書店、1997年12月、ISBN 4394395275
  • 本陣殺人事件 蝶々殺人事件 横溝正史自選集1 (出版芸術社、2006年12月、ISBN 488293308X

他多数

[編集] 映像化

小説発表の翌年の1947年に、早くも映画が製作・公開されているが、このとき片岡千恵蔵が演じた金田一は、戦前からの名探偵(明智小五郎など)のイメージを踏襲したスーツ姿で登場する。さらに1975年の2作目の映画版では中尾彬が金田一を演じたが、このときは当時の世相を反映したジーンズ姿で登場した(横溝正史はこの中尾金田一をたいそう気に入っていたという)。

[編集] 映画

三本指の男1947年12月9日
東横映画、監督:松田定次、金田一耕助:片岡千恵蔵
出演/一柳賢蔵:小堀影男、一柳隆二:水原洋一、一柳三郎:青山健吉、一柳鈴子:八汐路恵子、一柳糸子:杉村春子、一柳良介:上代勇吉、久保克子:風見章子、久保銀造:三津田健、久保お徳:松浦築枝、白木静子:原節子、三本指の男:片岡千恵蔵。
本陣殺人事件 (1975年9月27日
ATG、監督:高林陽一、金田一耕助:中尾彬
出演/一柳賢蔵:田村高廣、一柳三郎:新田章、一柳鈴子:高沢順子、一柳糸子:東竜子、一柳良介:伴勇太郎、一柳秋子:山本織江、久保克子:水原ゆう紀、久保銀造:加賀邦男、田谷照三:石山雄大、三本指の男:常田富士男、磯川警部:東野孝彦、白木静子:村松英子

前記の通り、現代に時代設定が変更されている。

[編集] テレビドラマ

横溝正史シリーズ 本陣殺人事件 (1977年5月7日 - 5月21日、全3回、毎日放送系列 金田一耕助:古谷一行
脚本:安倍徹郎、監督:蔵原惟繕
出演/一柳賢蔵:佐藤慶、一柳三郎:荻島真一、一柳鈴子:西崎みどり、一柳糸子:淡島千景、一柳伊兵衛:北村英三、久保克子:真木洋子、久保銀造:内藤武敏、白木静子:松村康世、清水京吉:草野大悟、かね:野村昭子、県警本部長:菅貫太郎、日和警部:長門勇、山田刑事:金井進二
本陣殺人事件 三本指で血塗られた初夜 (1983年2月19日TBS系列 金田一耕助:古谷一行)
出演/一柳賢蔵:西岡徳馬、一柳三郎:本田博太郎、一柳鈴子:牛原千恵、一柳糸子:高峰三枝子、一柳伊兵衛:山内明、久保克子:山本みどり、白木静子:大塚良重、久保銀造:下條正巳、日和警部:ハナ肇
本陣殺人事件 名探偵が挑む怪奇密室殺人の謎!? (1992年10月2日フジテレビ系列 金田一耕助:片岡鶴太郎
出演/一柳賢蔵:本田博太郎、一柳三郎:長岡尚彦、一柳鈴子:小田茜、一柳糸子:佐久間良子、一柳妙子:古手川祐子、久保克子:森口瑶子、女中・秋子:吉行和子、田谷照三:赤井英和、白木静子:牧瀬里穂

[編集] 参考文献

  • 大坪直行(角川文庫『本陣殺人事件』解説、1973年)

[編集] 脚注

  1. ^ 本作とほぼ同時に発表された『蝶々殺人事件』を傑作と評する坂口安吾は、「『蝶々』をおさえて『本陣』に授賞した探偵作家クラブの愚挙は歴史に残るものであろう」と批判している。(小林信彦編『横溝正史読本』 角川文庫、2008年改版を参照)
  2. ^ 作者の戦後最初の作品は、1946年2月に『講談雑誌』に掲載された『人形佐七捕物文庫』の短編「神楽太夫」である。
  3. ^真説 金田一耕助』(横溝正史著・角川文庫、1979年)参照。
  4. ^ 『探偵小説五十年』(横溝正史著・講談社、1972年)および『横溝正史読本』(小林信彦編・角川文庫、2008年改版)参照。

[編集] 関連項目

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