心肺蘇生法

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心肺蘇生法(しんぱいそせいほう、cardiopulmonary resuscitation, CPR)は、呼吸が止まり、心臓も動いていないと見られる人の救命へのチャンスを維持するために行う循環の補助方法である。心臓マッサージ[1]を主に行い、熟練者は呼吸の補助方法である人工呼吸も行う。

心肺蘇生法(以下CPRと略)は、特殊な器具や医薬品を用いずに行う一次救命処置(Basic Life Support, BLS)と、BLSのみでは心拍が再開しない場合に、救急車内や病院などで救急救命士医師が気管挿入や高濃度酸素、薬剤投与も用いて行う二次救命処置(Advanced Life Support, ALS)の範囲がある。またBLSの範囲でも救急車内や病院などで行うCPRと、市民救助者が救急車が来るまでの間に行うCPRは異なる。訓練を受けていない市民救助者と訓練をうけている市民救助者でも一部異なる。ここでは市民救助者によるBLSの範囲のCPRについて解説する。

CPRの意義[編集]

CPRとはへの酸素供給維持である。脳自体には酸素を蓄える能力がなく、呼吸が止まってから4~6分で低酸素による不可逆的な状態に陥る。そのため一刻も早く脳に酸素を送る必要がある。

人間の脳は2分以内に心肺蘇生が開始された場合の救命率は90%程度であるが、4分では50%、5分では25%程度となる(カーラーの救命曲線参照)。したがって、救急隊到着までの数分間(5~6分)に、「現場に居合わせた人」(「バイスタンダー」「市民救助者」と呼ぶ)によるCPRが行われるかどうかが救命率に大きく関わる。

胸骨圧迫[編集]

胸骨圧迫(きょうこつあっぱく)とは、一般に心臓マッサージと云われるものである。

心肺蘇生法の中心を成す対処法で、心停止した人の胸の心臓のあたりを両手で圧迫して血液の循環を促す。 胸骨の下半分、胸の真ん中に手の付け根を置き両手を重ねて、圧迫する。を真っ直ぐ伸ばし、100〜120回/分の速さで継続出来る範囲で強く、圧迫を繰り返す。ガイドラインでは「胸が約5cm沈むように圧迫するが、6cmを超えないようにする」とあるが、その場で測れる訳ではないので、継続出来る範囲で「強く」で良い。押したらしっかりと胸を元に戻す。訓練を受けていない救助者はAED、または救急隊到着までハンズオンリーCPR[2]、つまり胸骨圧迫だけを続ける。
極力ほかの人を巻き込む。秒単位で12345と数えてもらう等でもよい。5秒の間に8回以上なら100回/分以上を満たしている(後述)。数えることに応じてもらえれば、胸骨圧迫を代わってもらえる可能性が高い。疲れてきたらまわりの人に1分間だけでも代わってもらう。「強く早く」を維持するためにも交代は必要である。胸骨圧迫を中断する時間を最小限にする。 心肺蘇生の国際ガイドライン(2010年改訂)では、心肺蘇生法の中で胸骨圧迫の迅速な開始と、中断の最小化がもっとも重要視されるようになった。

なお「心臓マッサージ」は外科医師が胸を切開し手で直接心臓を揉むという方法であって、胸骨圧迫は心臓マッサージではないという意見もあるが誤解である。胸を切開して行う心肺蘇生法は開胸心(臓)マッサージ、開胸CPRといい、二次救命処置(Advanced Life Support; ALS)に含まれるが、それに対して開胸せずに行う心臓マッサージを閉胸心マッサージということがある。その閉胸心マッサージの中で、医師や看護師、救急隊員以外の一般市民が救急車が来るまでの間に行う一次救命処置(Basic Life Support; BLS)として推奨されている心臓マッサージが、この胸骨圧迫である。

日本における成人へのCPRの実施例[編集]

以下に意識・呼吸ともに無い場合のCPRを行う手順の概略をJRC ガイドライン2015に沿って記す。 CPRは厳密にはAEDを含まないが、実際には不可分であるため、ここではAEDも含めたBLSの範囲で手順を説明する。各手順の詳細は一次救命処置(BLS)を参照されたい。

1. 安全を確認

二次災害を防ぐため、まず周囲の安全を確認する。

2. 意識の確認

意識の有無を確認する(両手で両肩を叩きながら、相手の耳元で「大丈夫ですか!?」と呼びかける。また、証明書類などから名前がわかっている場合には、「○○さん、大丈夫ですか!?」と呼びかけると、より効果的である。

3. 応援を呼ぶ

119番に通報。訓練を受けていない人は、その場で自分で携帯から119番通報をすれば、何を確認してどうすればよいかのアドバイスが得られる。そのアドバイスの中にAEDの手配、及び以下のCPRのやり方が含まれる。
極力まわりの人を巻き込む。例えばAEDを取りに行ってもらう、119番通報した際に電話を切らずに指示を仰ぐ(電話口で通信指令員に相談する)。

4. 呼吸の確認

見た範囲で規則的で正常な呼吸をしているか。呼吸していれば回復体位。判別不能、不自然な呼吸、または10秒以内に確認できなければ「呼吸無し」として扱う。不自然な呼吸、例えばしゃくりあげるようなゆっくりとした不規則な呼吸は「死戦期呼吸」といい、心停止(心室細動)直後数分の間に約半数の人に起きる。これを「呼吸有り」と安心してしまうと大切な救命のチャンスを逃してしまう。呼吸の確認に迷ったらすぐに胸骨圧迫をする。

5. 心臓マッサージ(胸骨圧迫)(Circulation, C)

前述。

6. 気道確保(A:Airway)

訓練を受けていない市民救助者は行わなくてよい。
訓練を受け、自信のある市民救助者の場合は、仰向けに寝かせた状態で片方の手で額を押さえ、もう片方の人差し指と中指で顎を上に持ち上げる(頭部後屈顎先挙上法)ことにより行う。口の中に異物があれば除去する。
感染防止用フェースシールド[3]

7. 人工呼吸(B:Breathing)

訓練を受けていない市民救助者は行わなくてよい。
訓練を受け、自信のある市民救助者の場合は、鼻を押さえ胸部がふくらむよう息を約1秒吹き込む。この際、感染病防止の観点から専用のポケットマスク等を患者の口に取り付ける[4]。人工呼吸を行う間隔は胸骨圧迫30回毎に2回が目安。ただしこのための胸骨圧迫の中断は10秒以内とする。

8. AEDによる除細動(D:Defibrillation)

AEDが到着したら使用する。体が濡れていれば拭き取る。それ以外の手順はAEDの音声ガイダンスに従えば良い。公共の場に配備されているAEDは一般の人でも使えるように操作を自動化しており、電気ショックが必要であるかどうかもAEDが心電図を解析し自動的に判断する。

なお、アメリカ心臓協会(AHA)のTVコマーシャル では、一般市民向けにもっと簡略化して「まず救急へ通報、次に胸の真ん中を強く早く押す」、だけを強調している。そして「早く」、つまり胸骨圧迫のテンポについては、ディスコ映画の「サタデー・ナイト・フィーバー」の名曲「ステイン・アライヴ」を推奨している。この曲のテンポは1分間に103回で、思い出しながら押すと約113回/分であったということから採用された。「強く」の程度については触れていない。とっさの場合には深さの検証など出来ないし、CPRの講習で4~5cm(旧ガイドライン)といっても初心者はおおむねそれより弱い。従って「強く」だけ意識してもらえれば良いということである。

ハンズオンリーCPR、すなわち胸骨圧迫だけでも良いとするのは、人工呼吸への抵抗感からCPRを躊躇する人が多いので、胸骨圧迫だけで良いならCPRの実施率が上がる点、さらに、目の前で倒れた人の場合は、倒れて10分以内の救急車が来るまでの時間なら、人工呼吸をためらい胸骨圧迫を中断するより、絶え間ない胸骨圧迫の方が救命率が高いか、変わらないことがあげられる。心臓マヒなどで目の前で倒れた人以外は、完璧なCPRを行っても救命率は低い。

ガイドライン2015での変更点[編集]

ポイントは胸骨圧迫を極力早く行うこととその中断を最小にすることである。またすべての救助者が訓練の有無に関わらずCPRを実施することが可能なように手順を分かりやすくしたことである。また119番側では連絡をしてきた者に胸骨圧迫のみのCPRを指導するべきであるとした[5]。手順の主な変更は次の通り。

  • 胸骨圧迫の深さが「4~5cm程度」、「少なくとも5cm以上」を経て「5cm以上で6cmを超えない」に。(小児や乳児の場合は胸の厚みの1/3)
  • 胸骨圧迫のテンポが「100回/分程度」、「少なくとも100回/分以上」を経て「100回~120回/分」に。
  • 胸骨圧迫は『押したらしっかりと胸を元に戻す』が強調された。圧迫と圧迫との間で力を入れたり、もたれかかったりしない。止まってしまった心臓の代わりに血液を循環させるイメージを持ち、適切な圧迫と圧の解除する。
  • 胸骨圧迫の中断が10秒を超えないようにすることが強調された。AEDの電極パッドを貼る際も胸骨圧迫を継続する事が望ましいので、心肺蘇生はなるべく複数人で助け合って行うように。
  • 呼吸が異常と感じた場合は心停止状態とみなして、ためらわず胸骨圧迫するように改訂された。傷病者を発見したら正常な呼吸かどうか、意識があるかの確認をするが、この時不自然と感じたり、心停止かどうか迷った場合にはすぐにCPR(心肺蘇生法)を開始する。
  • 脈の確認はガイドライン2005から不要。医療従事者でも正確ではなくかつ時間を要する。市民救助者には心理的抵抗感も大きい。
  • 胸骨圧迫の位置は「胸の真ん中」。「両乳首の真ん中」より即座に判りやすく[6]、判断が容易であるので圧迫開始が早くなる。衣服の上からで良い。
  • 人工呼吸の訓練を受けており、それを行う意思がある救助者は、全ての成人心停止傷病者に対して胸骨圧迫と人工呼吸を実施することを提案している。

脚注[編集]

  1. ^ 通常「心臓マッサージ」といわれるものは、正確には「胸骨圧迫」。
  2. ^ ハンズオンリーCPRに関するAHA勧告声明を参照
  3. ^ フェースシールドの紹介
  4. ^ AEDの中にはたいていは透明ビニールシートでできたフェイスシールドが入っている。ただしこれは直接口を付けることへの心理的抵抗を減らす目的のものであって、吐瀉物などをブロックする効果は無いか、または十分ではない。
  5. ^ JRC(日本蘇生協議会)には日本赤十字社や消防庁も加わっている。
  6. ^ 乳頭と乳頭を結んだ線上というのは信頼性に欠けるとする。「胸の真ん中」は誤差が少ない。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

メッセージビデオ[編集]

広報サイト[編集]

その他、BLSのガイドライン等については一次救命処置の外部リンクを参照