救急車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

救急車(きゅうきゅうしゃ)は、傷病者を病院などの医療施設まで迅速かつ安全に搬送するための車両である。自動車のない時代から救急車は存在し、馬車人力車が用いられていた。自動車が発明されてからは自動車が主流となっている。

なお、日本国内の救急車については日本の救急車を参照。

歴史[編集]

1900年前後の救急車
オーストリア
1920年代の救急車
カナダ
現在の救急車
オーストリア

初めて救急搬送専用の車両が登場したのは、19世紀初めのナポレオン戦争であり、ドミニク・ジャン・ラーレー(Dominique Jean Larrey)が発明したとされる。ナポレオン軍の軍医長に任命されたラーレーは戦傷者への迅速な治療のため軍救急部隊を編成し、戦場にあっても傷病者がいち早く野戦病院へ搬送されるシステムを構築した。このとき傷病者搬送に使用された車両が最初の救急車だとされている。

救急車という呼称(英語の ambulance)は、アメリカ南北戦争の時に始まった。当時は馬車が救急車として使用され馬車救急車(horse ambulance)と呼ばれていた。これらいずれも戦場で負傷した戦士の迅速な治癒を行う上で大きく貢献した。

大衆に自動車が普及し始めた1920年代以降、救急車は自動車をベースに制作されるようになり、20世紀後半以降多くの国・地域で自動車が救急搬送の主要な手段として採用されている。また、陸路を走る救急車を補完するために救急ヘリや救急船などが新たに開発された。ヨーロッパアメリカなどでは地方都市間の距離が長く、山岳地域も多いことから搬送時間短縮のため救急ヘリが広く普及している。
このように地形などの事情で、救急ヘリを使った搬送が多い国もある。

救急車も改良が重ねられており、先進国を中心に高度な救命処置をしながら搬送できるよう車内のスペースを拡大したり、新生児専用の救急車を作るなど、高度な医療機器を積載して全ての年齢層に対応できるよう救命率の向上を図っている。その一方で21世紀に入ってからも開発途上国や紛争が続く地域では十分な数の救急車が整備されていないか、傷病者を救急車で搬送する制度が未だ整備されていない状況が続いている。

救急車の歴史は戦争・軍事と深い関係を持つ。戦時国際法の下で赤十字章をつけた救急車は戦闘中であっても攻撃されず傷病者を搬送することが認められている。ただし、救急車への武器の携行は許されていない(衛生兵は護身・防衛用の拳銃を同僚に預け武装解除してから同乗する必要がある)。

構造・機能[編集]

救急車の車内
ブラジル

本節では、自動車の救急車について説明する。

世界的に見て救急車はトラック[1]をベースにした車両と、商用ワンボックスカーをベースにした車両、商用バンをベースにした車両が大半を占めている。また、各国が定める救急車規格を満たす必要がある。
その為、ベース車両よりも車体強度の向上やサスペンションに専用のチューニング[2]を施している場合が多い。また、規格等により価格がかなり違うことがある[3]

救急医療の
シンボルマーク
スター・オブ・ライフ

救急車は各国の法律に合わせ、緊急車両としてサイレンアンプと青色や赤色、又は橙色、緑色などの回転灯又はLED点滅灯を装備している。
車体には地域の住民や外国人にも救急車だと識別できるよう、「AMBULANCE」、「Emergency Medical Service(EMS)」、「所属名」、「緊急通報用電話番号」、「スター・オブ・ライフ」などのマークが描かれている。
また、救急車は専用の塗装が施されており、ヨーロッパでは黄色を主体に蛍光の黄色と緑、又は橙色のチェック柄模様がライン状に施されている車両が多い。
アメリカでは各都市の消防、病院、民間救急サービスごとに塗装色が違い、白地に青ライン、赤地に白ラインなど色々な車両がある。日本では白地に赤いライン[4]が引かれている車両がほとんどを占めている。
世界的には白色に赤十字の配色である赤色又は蛍光橙色ラインの車両が多い。

ボンネット
描かれている
AMBULANCEの鏡文字
アメリカ

救急車の前面に「AMBULANCE」や「救急」などの文字が鏡文字(裏返し)で描かれていることがあるが、これは救急車が後方から接近している事をルームミラーやドアミラー越しに見た時に認識させるためである。

車内は安定した姿勢で処置が行えるよう広い空間が確保されており、傷病者を収容するためのストレッチャーバックボードネックカラー・処置用の医薬品、AED・、医療用機器・酸素ボンベなどを搭載している。
また、先進国を中心に心電図モニタなど高度な医療機器を搭載する救急車が増えている。

運用[編集]

救急車の運用は、各国の法令により様々な形態をとる。

救急車を運用する機関は、主として医療機関、救急専門機関、消防機関などであるが、国によって状況は大きく異なる。日本やイギリスなどでは、救急は行政サービスの一つとして位置づけられ、自治体や中央政府が主要な救急車運用機関となっているが、アメリカ合衆国などでは、必ずしも救急は行政サービスではなく、行政が救急車を運用している地域もあるが、民間企業(EMS―「緊急医療サービス」)が有料で救急搬送を実施している地域やボランティアが担っている地域も少なくない。

多くの国・地域では、救急車を必要としている人が救急車を迅速に呼べるようにするため、救急車を集中的に管理する施設を設置し、救急車の出動を要請する電話を一元的に管理している。救急車の呼び出しを行うための電話番号は通常の電話番号とは違う緊急電話の取り扱いを行っている国・地域が多く、覚えやすく比較的桁数が少ない電話番号を使用している場合が多い。

救急車に搭乗する人員は、運転手、医師救急隊員などである。国・地域によって、搭乗すべき人員が定められている。運転手も救急現場では救急活動に携わることがほとんどである。また、消防機関や警察が救急車を運用していたり、救急専門機関が設置されて救急車運用を担っている国・地域があるなど、救急車運用の形態は非常に多様である。

救急車は迅速性が求められることから、多くの国・地域で優先走行が認められている。例えば、赤信号でも優先的に進行したり、渋滞時には対向車線を走行する事が可能となっている。

料金・制度[編集]

海外で救急車を要請する場合、ほとんどの国で有料[5]である為、海外旅行の際は保険に入ることを各国の外務省(アメリカは国務省)が推奨[6][7]している。

日本[編集]

  • 救急車を呼ぶ場合、地方自治体の消防本部へ直通でつながる緊急通報用電話番号119」に日本語で伝える必要があるが、
    最近は外国人観光客の増加に伴い英語や中国などに対応する多言語コールセンターを介した同時通訳サービスを導入している消防本部も増えている[8]
    救急車を呼ぶのに国籍・人種・納税の有無は一切問わない。利用料も無料である。
  • 医療機関(病院、診療所、医院、クリニックなど)も、独自の救急車を所有している。患者がその医療機関で外来受診中や入院中に転院搬送が必要になった場合に運用され、患者搬送料金は無料である。
備考
  • 近年では救急車の必要性が低い軽度の症状でタクシー代わりに利用する例が増加している。
  • 出場件数の増加に伴い救急隊が常に出場した状態になり、消防署に殆ど帰ることができない等の問題[9]が発生している。
救急安心センター(電話番号:#7119)では、以上の問題点を解決し、また救急車を呼ぶ判断や医療機関に行くべきかの判断を相談できる窓口として開設された[10]。また、各地方自治体でも救急車の適正利用を呼びかけて救急車の必要性が低い傷病者の利用増加を抑える取り組みをしている。

台湾[編集]

  • 台湾で救急車を呼ぶ場合、日本と同様緊急通報用電話番号「119」に台湾語で伝える必要がある。自治体の消防が運用する救急車が来る。数年前まで無料だったが、軽度の症状で救急車を呼び、救急車の運用に支障をきたす問題が深刻化したため、
    2012年12月に台北市が非重症者の利用を有料化する条例を実施した[11]。費用は600〜1800元とされている。緊急を要する場合は、従来通り無料。
    その後、各地の自治体が追随し、同様あるいは類似の条例が制定された[12]。条例施行後も緊急性を要する場合は、従来通り無料である。
備考
台湾では慈善団体や病院などが保有する合法的な民間救急車以外に、葬儀屋などが違法なニセ救急車を保有している。彼らは交通事故などでの死亡者の葬儀や関連商品を押し売りする目的で、警察無線を傍受して事故現場に駆けつける。
台北市や新北市では取り締まりが徹底しているが、中南部ではこうした偽救急車への注意が必要であるという[13]

中国[編集]

  • 救急車を呼ぶ場合、緊急通報用電話番号「120」又は「999」に中国語で伝える必要がある。中国の救急車は有料で、搬入先の病院で走行距離に応じて料金を請求される[14]
    北京市では、2016年5月から救急車に料金メーターが取り付けられ、初乗り3kmまでが50元(約850円)、その後1km毎に7元課金、となった(以前は統一の料金基準がなかった)。欧米メディアは回り道を懸念している[15]
    地域や病状によって異なるが、意識がある傷病者や傷病者に家族が付き添う場合などでは料金を先払い(チャージ)しなければならない地域もあり、目安の金額より多めに料金を払わないと乗車拒否されることもある(余った分は病院到着後精算)。
    因みに、中国の病院は診察前に自分で一定額のお金を病院に支払わなければならない先払い(チャージ)方式なので、チャージしたお金が無くなると突然治療を止めてしまい、お金を払うまで何もしてくれなくなるので注意が必要である。

オーストラリア[編集]

  • オーストラリアで救急車を呼ぶ場合、緊急通報用電話番号「000」(警察および消防と共通番号)に英語で伝える必要がある。オーストラリア人(オーストラリア国籍)以外の外国人はすべて有料。料金は州によって異なる。
    初乗りは1万円〜6万円程で、タクシーのように搬送距離に応じた加算が行われる為、料金は高額になる場合が多い。
    特に、夜間・休日は割増で更に高くなる為、救急医療の全てをカバーした保険に加入しておく必要がある[16]
    更に、搬送された病院で救急医療を受診し手術や入院をした場合、医療費が数百万円単位の金額になる事があるため注意が必要である。

アメリカ[編集]

  • 救急車を呼ぶ場合、緊急通報用電話番号「911」(警察および消防と共通番号)に英語で伝える必要がある。救急車の料金は州により異なる。搬入先の病院指定は出来ない。
    ニューヨーク州では600ドルほど請求される[17]カリフォルニア州では、基本料金にタクシーのように搬送距離に応じた加算が行われる。
    救急車の中で受ける応急処置にも医療費が発生する。イリノイ州シカゴ市では、一次救命処置の基本料金900ドル、二次救命処置の基本料金は1050ドル、1マイル毎に17ドル課金される[18]
    更に、搬送された病院で救急医療を受診し手術や入院をした場合、医療費が数百万円単位の金額になる事があるため注意が必要である。
  • 民間に有料の救急車派遣会社が存在し、搬入先の病院を選べるサービスがある。

フランス[編集]

  • フランスで救急車を呼ぶ場合、緊急通報用電話番号「15」SAMU(Service d' Aide Medicale Urgente)にフランス語で伝える必要がある。
    SAMUへ通報した場合、通報内容は24時間待機している医師によってトリアージされ、軽傷と判断された場合は電話で応急処置の方法を指導されたあと、自分で近くの診療所へ行くよう促される。
    重症と判断した場合はSAMUのヘリコプターを飛ばすこともある。なお、SAMUの救急車(白主体色)、ヘリコプター共に医師が必ず同乗する。
    救急車の利用料金は地域によって基本料金(約60ユーロ)に走行距離料金(約2ユーロ毎キロメートル)が加算される距離課金式[19]と、30分あたり約250ユーロの利用時間課金式がある。
  • 消防機関緊急通報用電話番号「18」又はEU共通緊急通報用電話番号「112」に通報し消防の救急車(赤主体色)を呼ぶ事も可能だが、フランスでは医師に早期から処置をしてもらえるSAMU への通報が一般的である。
    消防機関による応急手当、搬送の場合は無料。

イタリア[編集]

  • 救急車は公営のものは緊急通報用電話番号「118」又はEU共通緊急通報用電話番号「112」で呼ぶことができ、料金は無料[20]。搬入先の病院指定は出来ない。
    公営で救急車を呼ぶときはほとんど英語が通じないため、イタリア語で伝える必要がある。
  • 民間に有料の救急車派遣会社が存在し、搬入先の病院が選べるサービスがある。
    同じく有料だが私立の総合病院では病院独自の救急車を呼び搬入してもらうサービスもある。私立の総合病院ではほとんどの病院で英語が通じる。

ドイツ[編集]

  • ドイツで救急車を呼ぶ場合、EU共通緊急通報用電話番号の「112」(消防機関)にドイツ語で伝える必要がある。救急車利用料は有料。
    通報内容に応じて医師が同乗する専用の救急車が手配される。医師が同乗する場合は利用料金に約100ユーロ程プラスされる。
    救急車の利用料金は救急隊員の施す応急処置の内容や走行距離によって料金が大きく変わるが、最低でも約300ユーロから500ユーロ程かかる。
    ドイツでは搬送される傷病者以外の一般人は救急車への同乗が許可されていない為(傷病者の家族であっても許可されない)、同行者はタクシーで搬送される病院へ向かう事になる[21]
  • ドイツの救急車は軽症の傷病者を搬送するKrankenwagen(クランケンワーゲン)[22]と、中等症の傷病者を搬送するRettungswagen(レットゥングスワーゲン)[23]
    命にかかわる重症の傷病者を搬送するために医師が同乗するNotarztwagen(ノートアルツトワーゲン)[24]がある。


主なメーカー[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 小型トラック・中型トラック・大型トラック・ピックアップトラック等を含む。
  2. ^ 耐久性・操縦安定性の確保と傷病者や医療機器に大きな振動を与えないようにするため
  3. ^ 例として、日本のトヨタ製高規格救急車(3代目現行型)の車両本体価格が約1千数百万円であるのに対し、外観が全く同じ2B型トヨタ救急車の車両本体価格は約500万円であり、ベース車種が同じでも規格による内部の構造や設備の違いで価格に数百万円の差がでる
  4. ^ ラインが引かれていない自治体もあり、大阪市消防局では「赤いラインは“あかん(=助からない)”に繋がり縁起が悪い」という理由で白色の車体を使用している。また、ラインの色が赤でなく青色(熱海市消防本部)や緑色(亀山市消防本部)の自治体もある。
  5. ^ 無料の場合でも搬入先病院の指定は出来ないため、中心部のホテルや公共交通機関から離れた地域の病院に搬送されてしまう場合もある。
  6. ^ 外国人対象の救急車利用料金や医療費は高額の場合が多いので注意を呼びかけている。
  7. ^ 日本国 外務省 海外旅行保険加入のおすすめ 日本国 外務省ホームページ2018年8月15日閲覧
  8. ^ “119番も多言語対応に 五輪向け100%導入へ ”. 日本経済新聞 電子版 (日本経済新聞社). (2018年7月4日). https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32588840U8A700C1CR0000/ 2018年8月15日閲覧。 
  9. ^ 多忙で、救急隊員が休息や水分補給・食事を取ることができない状況
  10. ^ #7119(救急安心センター事業)関連情報(総務省消防庁)
  11. ^ 台北市政府消防局
  12. ^ 救護車收費%20非就近急救醫院%20要付1600元」『自由時報』2013年6月13日
  13. ^ 緊急呼叫救護車的4大保命招數 」『大家健康雜誌』2007年7月號(台湾医療網に転載)
  14. ^ “今天中国~中国のいま(18) 救急車呼んだら有料”. 西日本新聞 (西日本新聞社). (2017年3月26日). https://www.nishinippon.co.jp/feature/now_of_china/article/317179/ 2017年12月16日閲覧。 
  15. ^ “【海外こぼれ話】北京の救急車、料金メーター付きに 5月導入、「回り道」懸念も”. 産経ニュース (産業経済新聞社). (2016年4月26日). http://www.sankei.com/world/news/160426/wor1604260031-n1.html 2017年12月16日閲覧。 
  16. ^ 世界の医療事情 オーストラリア 病気になった場合(医療機関等)日本国 外務省ホームページ2018年8月15日閲覧
  17. ^ 世界の医療事情 アメリカ合衆国(ニューヨーク)病気になった場合(医療機関等)日本国 外務省ホームページ2018年8月15日閲覧
  18. ^ https://www.cityofchicago.org/city/en/depts/fin/supp_info/revenue/ambulance_bills.html
  19. ^ 世界の医療事情 フランス 病気になった場合(医療機関等)日本国 外務省ホームページ2018年8月15日閲覧
  20. ^ 世界の医療事情 イタリア 病気になった場合(医療機関等)日本国 外務省ホームページ2018年8月15日閲覧
  21. ^ 世界の医療事情 ドイツ 病気になった場合(医療機関等)日本国 外務省ホームページ2018年8月15日閲覧
  22. ^ 日本の2B型標準救急車相当。
  23. ^ 日本の高規格救急車相当。
  24. ^ 日本のドクターカー相当。

関連項目[編集]