特別司法警察職員
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
特別司法警察職員(とくべつしほうけいさつしょくいん)とは、警察官(一般司法警察職員)ではないが、職務上必要な時に司法警察の権限を行使できる特定の行政庁の職員等の総称。主に、海上保安官、麻薬取締官、労働基準監督官など[1]。
一般司法警察職員との相違
一般の警察官は司法警察としての職務を行うために必要なほぼすべての権限が与えられている。したがって、警察官以外の者に司法警察の権限を与える法整備がなされているのは以下の条件が主な要因となっている。
- 本来の職務を遂行中、違法行為の第一発見者となりやすい境遇にあり、その場面を警察官が監督することが困難であるため。
- 本来の職務上保有している、捜査にも有用な専門的知識・技術が警察では教導できない。
場合によっては、おとり捜査など、法律によって警察官よりも強力な権限を付与されている場合もある。
なお、特別司法警察職員が捜査をしている事件を一般の警察官が捜査できないということはなく、警察も同じ事件を合同で捜査したり独自に捜査したりすることもある[2]。
また、主として陸上を管轄するために組織されている警察の装備や能力では対処できない、ないし対処が困難な場面を想定して設けられた海上保安官のように、司法警察権の範囲が限定されず、単に行使すべきエリアのみを限定した特別司法警察職員の制度もある。さらに海上保安官には、公海における海賊の船舶や海賊放送を行う船舶などを領海の外において拿捕する権限のほか、これらに乗船している者を逮捕する権限や船内にある財産を押収する権限など、国際法に基づく権限[3]も付与されている。これらは同条約および国際慣習上、各国の海軍や沿岸警備隊等に相当する機関(日本においては海上保安庁がこれにあたる)が所掌すべき職務とされているところ、日本の現行法制の下では警察庁ないし都道府県警察は海上警察の権限を有していないため、別途法令の規定により海賊行為への対処に必要な措置を実施する権限が付与されている場合を除いてはこの権限を行使しえない[4][5][6]。
特別司法警察職員にも、一般司法警察職員と同様に司法警察員と司法巡査との区別がある。
一覧
個別の根拠法によるものの他、司法警察職員等指定応急措置法(昭和23年法律第234号)第1条が追認する大正12年勅令第528号「司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等ニ関スル件」によっても指定されている。また、刑事訴訟法第190条の規定にも根拠がある。
- 個別法によるもの
- 陸・海・空自衛隊警務官(自衛隊法 第96条第1項) - 拳銃等武器携帯権限あり
- 海上保安官(海上保安庁法 第31条) - 拳銃等武器携帯権限あり
- 麻薬取締官・麻薬取締員(麻薬及び向精神薬取締法 第54条第5項) - 拳銃等武器携帯権限あり・また同法第58条に基づき警察官には認められないおとり捜査が許されている
- 労働基準監督官(労働基準法 第102条) - 捜査権および逮捕権あり・武器携帯権なし・ただし手錠、捕縄、腰縄は武器とはみなされないため必要性がある場合に限り携帯可
- 皇宮護衛官(警察法 第69条) - 拳銃等武器携帯権限あり
- 船員労務官(船員法 第108条、船員災害防止活動の促進に関する法律 第62条) - 捜査権および逮捕権あり
- 漁業監督官又は漁業監督吏員(漁業法 第74条第5項) - 捜査権および逮捕権あり・特殊警棒と手錠のみ携帯権限あり、拳銃その他銃器の携帯・使用の権限はなし(漁業取締船の項目を併せて参照のこと)
- 鉱務監督官(鉱山保安法 第49条) - 捜査権および逮捕権あり
- 鳥獣の保護又は狩猟の適正化に関する取締りの事務を担当する都道府県の職員(鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律 第76条)
- 刑事施設の長、刑事施設の職員(=刑務官)(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律 第290条) - 拳銃等武器携帯権限あり
- 「司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等ニ関スル件」によるもの
なお、第3条第4号の「営林局署」は「森林管理局署」と、「農林事務官」は「農林水産事務官」と、「農林技官」は「農林水産技官」とされる(司法警察職員等指定応急措置法第1条後段)。
廃止されたもの
- 帝国林野局の廃止のため
- 帝室林野局出仕(司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等ニ関スル件 第3条第1号及び第9号)
- 宮内省廃止のため
- 猟場管守の事務を担当する宮内省出仕・同職員(司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等ニ関スル件 第3条第2号及び第10号)
- 日本国有鉄道職員(旧運輸省所管)
- 北海道庁職員 2000年に地方技官及び地方事務官制度が廃止された。
- 北海道庁ノ営林区署勤務ノ二級又ハ三級ノ地方技官及三級ノ地方事務官(司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等ニ関スル件第3条第6号)
- 公有林野の事務を担当する北海道庁の地方事務官・同技官(司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等ニ関スル件第3条第7号)
- 北海道庁河川監守たる地方事務官(司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等ニ関スル件第3条第14号)
- 2000年に地方技官及び地方事務官制度が廃止された。
- 狩猟取締の事務を担当する庁府県の地方技官(司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等ニ関スル件第3条第8号)
- 経済監視官 1949年に経済監視官の制度が廃止された。
- 経済監視官補たる地方事務官(司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等ニ関スル件 第3条第14号)
- 海上公安官
- 経済査察官(昭和22年勅令193号「経済安定本部令」)
- 専売公社監視員
- 郵政監察官(日本郵政公社法 第63条第3項) - 郵政監察官は捜査権限及び逮捕状を含む令状の請求権・検察官に対して被疑者および事件を送致する権限(身柄送検および書類送検のいずれもなし得る)を有するが、自身のみで逮捕状を執行する権限はもたず、郵政監察官が逮捕状を執行する必要があると判断するときは、一般司法警察職員に逮捕させ(この「させ」は使役であることから、逮捕状執行の要否を判断するのは郵政監察官の権限であり、この場合の一般司法警察職員は逮捕の「執行機関」となる。そのため、用語の用法としては一般司法警察職員への逮捕の「依頼」・「要請」というよりは「指示」に近いニュアンスを持っている)、その上で司法警察員として一般司法警察職員から引致を受ける形を採る(日本郵政公社法第63条第4項ないし第5項)。ただし、現行犯逮捕は単独で可能であり、この場合においては、被疑者を留置する必要があると思料するときはこれを最寄りの留置施設に留置するだけでよい(同条第6項)。
司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等ニ関スル件によるものとしては廃止され、個別法に移行したもの
- 監獄又ハ分監ノ長タル者及看守タル者ヲ除クノ外監獄職員タル二級又ハ三級ノ法務庁事務官(司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等ニ関スル件 第3条第1号)
- 看守タル法務庁事務官(司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等ニ関スル件 第3条第11号)
脚注
- ^ 司法警察職員等指定応急措置法第1条及び大正12年勅令第528号で権限を与えられた船長や船員等の一部の民間人を例外として含む
- ^ それぞれが独自捜査をする場合は管轄・手柄争いが生じる事もある
- ^ 海洋法に関する国際連合条約第105条・第107条・第109条など
- ^ 海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律第5条
- ^ 沿岸国は、海洋法に関する国際連合条約の規定に従い無害通航権を行使して旗国以外の領海を航行する船舶に対してその航行を容認しなければならないが、無害でない通航を防止するため、自国の領海内において必要な措置をとることができる(海洋法に関する国際連合条約第25条第1項)。
- ^ 公海上を航行する軍艦・政府の非商業的役務にのみ使用される船舶(政府公船)は旗国以外の管轄権を免除されるが(同条約第95条および第96条)、乗組員が反乱を起こして支配している軍艦又は政府の船舶が海賊行為を行っている場合はこれらの規定の適用は排除され、私有の船舶が行う海賊行為とみなされる(同条約第102条)。また軍艦・政府公船は当然に公海からの許可を得ていない放送を行うことができない(同条約第109条第1号参照)
- ^ 厳密には「職務に関して刑事訴訟法の一部準用を受ける日本国有鉄道職員」であり、「刑事訴訟法上の司法警察職員」ではない・詳細は当該項目を参照
関連項目
- 巡視船/巡視艇
- 漁業取締船
- アメリカ合衆国の警察#特別な法執行機関
- 連邦捜査局
- 麻薬取締局
- アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局
- アメリカ動物虐待防止協会 - アメリカでは動物愛護団体などの民間団体にも司法警察権が付与されている場合がある。
- 憲兵/国家憲兵
- 法務官
- 警察/警察官
- 行政警察活動
- 公安職/行政職
外部リンク
- 特別司法警察職員等との関係 首相官邸ホームページ
- 司法警察職員等指定応急措置法 法令データ提供システム