現行犯

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

現行犯(げんこうはん)とは、犯罪を行っているところ、ないしその直後を現認された状況を指す概念。また、現行犯人のことを現行犯ということもある。

現行犯人[編集]

現行犯人(げんこうはんにん)とは現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者を言う(刑事訴訟法212条1項)。現行犯ということもある。

現行犯人を逮捕する(現行犯逮捕)には、令状(逮捕状)は不要である(憲法33条、令状主義の例外)。これは、犯罪を行っている場面ないしその直後を現認されており、不当な逮捕が行われる可能性が低いとされるためである。しかし、実際には犯罪を行っている場面を現認していなくても犯罪後の経過時間が短いと判断されれば現行犯という扱い(準現行犯)として逮捕することが認められているため、誤認逮捕が多い。[要出典]四日市ジャスコ誤認逮捕死亡事件はこれが起きた実例である。現行犯として逮捕したものの、現行犯逮捕の要件を充足していなかった場合は、裁判官により勾留請求が却下される。その場合、被疑者はただちに釈放される。

また、司法警察職員警察官等)、検察官検察事務官でない者(私人)であっても逮捕することができる(憲法33条・刑事訴訟法213条)。私人の現行犯人逮捕にあっては、直ちに司法警察職員か検察官に引き渡す義務が生じる(同214条。分かりやすく記すと、取り押さえたらすぐに110番するなりして警察官を呼び、引き渡せばよい。義務を怠った場合は逮捕・監禁罪になる)。司法警察職員のうち司法巡査巡査が相当)が現行犯人を引き渡された場合は、速やかに司法警察員巡査部長以上が相当)に引致しなければならず、逮捕者の氏名住所と逮捕事由を聞き取らなければならない(刑事訴訟法215条)。

なお、一般のニュース報道では多くの民放が、このケースでは「現行犯逮捕」という表現を用いているが、NHKでは数年前[いつ?]から「**の疑いでその場で逮捕」という表現に改めている。

準現行犯[編集]

準現行犯(じゅんげんこうはん)とは、一定の条件に当てはまる者が、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる場合をいう。犯罪行為の直後でなくても、時間的近接性が認められればあたる。この場合は、現行犯人とみなされ(刑事訴訟法212条2項)、令状なく私人でも逮捕することができる(準現行犯逮捕)。

具体的には以下の事由に該当する者が、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる場合である。

  1. 犯人として追呼されているとき(犯人と明確に認識している者に追跡されているような場合。「ドロボー!」と叫ばれて追いかけられている等)。
  2. 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき(盗品を所持していたり、殺人に使ったと思われる血のついたナイフを所持しているような場合)。
  3. 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき(返り血を浴びたような大量の血痕が服についているような場合)。
  4. 誰何(すいか)されて逃走しようとするとき(警察官に職務質問のため声をかけられて・または巡回中の姿やパトカーを見て逃げ出すような場合)。

現行犯逮捕に関する要件[編集]

(準)現行犯逮捕を含む逮捕は、後日の刑事裁判における公判維持のために、被疑者の身柄と犯罪の証拠を保全するために行われる身柄拘束であり、刑事訴訟法に厳密な規定がある。

なお現行犯人については、未だ検察官、検察事務官及び司法警察職員に引致されていない場合には「被疑者」とは呼ばれず単に「犯人」と呼ばれる。現行犯逮捕の場合には、法定刑の軽微な事件[1]である場合には、犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合、または被疑者等が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるときに限って現行犯逮捕を行うことが許されている(刑訴法217条)。

逮捕の理由となっている犯罪が法定刑の軽微な事件(前記)である場合には、例えば被疑者が身分証明書を提示する等して住所氏名を明らかにし、かつ逃亡するおそれがないと認められる場合には、犯人を現行犯逮捕をすることはできない。

犯人の現に行ったまたは現に行ったと推定される罪について、法定刑が軽微なものでない場合には、前記のような身分不祥や逃亡に関する要件はない。もっとも、被疑者が逃亡するおそれまたは証拠を隠滅するおそれがあることは、「逮捕の必要性」と呼ばれる(「逮捕の必要」とも。逮捕の項を参照)。逮捕の必要性は、本来は逮捕状による逮捕を可能とする要件(刑事訴訟規則143条の3参照)であるが、現行犯逮捕にもこの要件が必要であると考えるのが学説の多数である(裁判例には、必要とするものと不要とするものとがある)。

法定刑の軽微な事件[編集]

上記における法定刑の軽微な事件とは、「30万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、2万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪」に関する事件であり、現行の日本の刑法体系においては、罪刑全体としては少数派に属する。

私人による現行犯逮捕における実力の行使[編集]

司法警察職員、特に警察官が犯人等を逮捕する場合において、犯人等が抵抗や逃走した場合には、状況とその者の罪状に応じて警察官職務執行法に基づき武器の使用を含めた制圧手段を取ることが認められている。

これに対して私人が逮捕行為を許容されるのは、犯人が明らかに前述の現行犯(準現行犯を含む)に該当し、なおかつ現行犯逮捕に関する要件を満たしている時に限られる。その上で犯人が抵抗や逃走した場合に法律上認められる実力の行使であるが、最高裁判例では「現行犯人から抵抗を受けたときは、逮捕をしようとする者は、警察官であると私人であるとをとわず、その際の状況からみて社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力を行使することが許され」るとしている。(最判昭和50年4月3日・昭和48(あ)722・刑集29巻4号132頁)

ただしどの程度であれば社会通念上認められるかは結局犯罪の現場における総合的な状況によるのであり、また犯情に比して結果が重大であれば、実力を行使した側の罪責は免れ得ない。2007年9月11日には、ゲームカード店で商品を万引きした男が店員に取り押さえられ、その際に抵抗したため店員が羽交い締めにして意識不明にさせ、のち死亡した事件が起きており、店員は傷害致死罪で逮捕されている[2]

法律的には一見盗犯等防止法も併せて問題ないかのように見えるが、実際には、万引きを咎められ拘束を受けた場合に抵抗したと言う事実と、羽交い締めにして意識不明にさせ結果死亡させたと言う事実との間において、正当防衛における相当性と武器対等の原則を欠き、前述最高裁判例の「社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力」を越えるものである。

また盗犯等防止法に関しても「犯人ヲ殺傷」が許されるのは、「盗犯ヲ防止シ又ハ盗贓ヲ取還セン」として「自己又ハ他人ノ生命、身体又ハ貞操ニ対スル現在ノ危険ヲ排除スル為」であり、結局店員の場合においては、犯人が積極的に店員に暴行を働き店員の生命又は身体を危険ならしめようとしていたのであれば別段、私人逮捕による制圧時に対して消極的に抵抗したに過ぎず、たとえその消極的抵抗が違法なものであったとしても、「現在の危険」は商品に対する損害と、私人逮捕による制圧時に抵抗されたと言う2点しか存在していなかったのであり、総合的に見て相当性を欠く行為であると言わざるを得ず、結果として店員の制圧行為により致死を招いた結果は罪責を免れない。(盗犯等防止法は正当防衛の相当性の要件を緩和する規定であるが、これは無制限に緩和する趣旨ではない(最二決平成6年6月30日・平成6(し)71))

脚注[編集]

  1. ^ 30万円(刑法暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、2万円)以下の罰金拘留又は科料に当たる罪に関する事件。
  2. ^ http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070918i404.htm

関連項目[編集]