時間外労働

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時間外労働(じかんがいろうどう)とは、労働基準法上においては、法定労働時間を超える労働のこと。通常は、就業規則などで定められた所定労働時間を超えて労働すること。同じ意味の言葉に、残業(ざんぎょう)、超過勤務(ちょうかきんむ)、超勤(ちょうきん)がある。

  • 以下労働基準法は条数のみ、または法と記す。

時間外労働が許される場合

日本の法令において、時間外労働が許されるのは以下の3つのうち、1つ以上に当てはまる場合に限られる。

  • 災害その他避けることができない事由によって、臨時の必要がある場合において、使用者が行政官庁の許可を受けた場合(事態急迫の場合は、事後に届け出る。)(第33条第1項)。
  • 官公署の事業(一部の事業を除く)に従事する国家公務員及び地方公務員が、公務のために臨時の必要がある場合(第33条第3項)。
  • 法第36条に基づき、使用者とその事業場の労働者の過半数で組織する労働組合又は事業場の労働者の過半数の代表者とが時間外労働、休日労働について協定を書面で締結し、これを行政官庁に届け出た場合(いわゆる三六協定(さぶろくきょうてい・さんろくきょうてい))。

三六協定を締結していても、それだけでは監督官庁からの免罰効果しかなく、時間外労働をさせるには、協定以外に就業規則等に所定労働時間を超えて働かせる記述があって始めて業務指揮の根拠となる。さらに、三六協定を締結していない場合には、上二項に該当する場合にのみ時間外労働が許されるのであり恒常的に残業をさせることは法の趣旨に違反する。しかし、恒常的な残業を協定した三六協定を締結し所轄労働基準監督署に届出をしてしまえば、恒常的な残業であっても法違反にはならない。尚、超過勤務手当てが支給されないのに超過勤務を強要することは、サービス残業に該当する。こういった諸要件を具備した上で、指揮命令をうけた労働者が正当な事由なく時間外労働を拒否した場合、使用者から賠償請求等を求められることがある。

休日労働との兼ね合い

所定休日のうち、週1回または4週4日(変形週休制)の法定休日における労働時間は時間外労働に含まれず休日割増賃金の対象となる。法定以上に付与する法定外休日における労働時間は、休日割増賃金相当の額が支払われても休日労働とはならず、法定労働時間内か時間外労働にあたるかの判断の対象となる。

法定休日が就業規則等に特定されていなくとも、所定休日労働における3割5分増し以上の賃金を払うとした対象日のうち、週の最後の1回または4週の最後の4日をもって法定休日と定めたものとして扱われる[1]

割増賃金

時間外労働を行った場合、通常の労働時間(休日労働の場合は、労働日)の賃金の2割5分以上5割以下の範囲内で政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない(第37条第1項)。政令において定める率の最低限度として、時間外労働は2割5分、休日労働は3割5分ととしている[2]

また、使用者が午後10時から午前5時まで[3]の間に労働させた場合においては、通常の労働時間における賃金の計算額の2割5分以上[4]の率で計算した割増賃金を支払わなければならない[5]。なお、休日労働とされる日に時間外労働という考えはなく、何時間労働しても休日労働の範疇である。

割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金(1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金等)は算入しない(第37条第4項)。これらは限定列挙であって、これにあてはまらない賃金は、労働に付帯するものとしてすべて計算の基礎に含まれる。

平成22年4月施行改正法においては、時間外労働が月間60時間超となった場合、上の率は5割となる。なお中小企業への適用は3年猶予される。

年俸制による時間外労働

年俸制の場合でも同法では時間外労働をした場合には年俸とは別に時間外手当を支給しなければならなことになっている。しかし、あらかじめ時間外の割増賃金を年俸に含めて支給することもできる(例:1ヶ月に45時間の時間外労働を含めて年俸制で支給する)。実際に時間外労働が発生しなくても支払われるこの割増賃金を「みなし残業手当」などと呼ぶこともある。この場合でも、その決定明記した時間外労働時数を超えて時間外労働をした場合については、毎月払いの原則があるため、その差額をその月の給与に加算して支払わなければならない。

時間外労働の把握方法

労働基準法32条では週40時間、各日につき8時間を超えて労働させてはならないと規定し、37条では、その超えた時間に対する割増賃金の支払いを規定している。したがって、条文上、論理的には上記の時間を1秒でも超えた場合は37条の適用対象となる。しかし、裁判例で秒単位の割増賃金の支払いを命じたものは存在しない[6][7]

時間外労働の制限

時間外労働は、無制限にできるものではなく、坑内労働等厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は1日において2時間以内とされている(第36条第1項但し書)。また、満18歳未満の年少者には時間外労働は認められていない(第60条)。それ以外には日において制限はなく、労使が協定で折り合えば翌日の始業時刻までの15時間が理論的に可能である。

1日を越え3か月以内の期間、および1年においてはそれぞれ限度時間が設けられている。また1年単位の変形労働時間制であって3か月を超える期間において定めた場合、限度時間はさらに制限されている[8]

ただし次の業務においては限度時間の適用はなく、この後に述べる特別条項を結ばなくとも労使の締結した時間による時間外労働が可能である。

  • 工作物の建設等の事業
  • 自動車の運転の業務
  • 新技術・新商品等の研究開発の業務
  • 季節的要因等により事業活動若しくは業務量の変動が著しい事業若しくは業務又は公益上の必要により集中的な作業が必要とされる業務として厚生労働省労働基準局長が指定するもの(ただし1年の限度時間は適用)

特別条項

三六協定を締結するにあたり、労使が妥結すれば、上述の制限時間を越えた時間数を設定することができる。ただし、具体的に臨時の事情が生じた場合に限り、日を超えて3か月以内の期間、1年、それぞれの上限を伸張できる。日においてはそもそも上限がない。時間外労働は臨時的に行うものという法律の趣旨から回数も半数回に限ると行政指導が行われている(例:月単位に制限時間を設けていれば、年12回のうち6回に限る)[8]。しかし、法律上の明記はなく、半数回を超える協定を届けられても、行政指導は行われるものの最終的には届出を拒否することができない。適用も個人単位(事業所単位でない)であるので、人を交代して配置すれば事業場としては1年を通じて上述の制限時間を超えた労働者を配置することができる。この条項は、労働基準監督署への協定届に盛り込んでおく必要がある。

平成22年4月施行改正法においては、時間外労働が36協定で定めるところの限度時間超となった場合の割増率の記載が義務付けられ、2割5分を超える率を定めることが努力義務となる。なお60時間超の場合と異なり中小企業への猶予はなく、前述の除外業務以外すべての特別条項に適用される。

日本では、労使協定さえ届け出れば、時間外労働を制約する絶対的な法律上の上限はない。

労働時間等に関する事項の適用除外

同法第41条では、労働時間等に関する事項について適用除外とするものがある。

  • 別表第1第6号又は第7号に掲げる事業に従事する者
    • 別表第1第6号:土地の耕作若しくは開墾又は植物の採植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業(林業を除く)
    • 別表第1第7号:動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業
  • 事業の種類のかかわらず監督若しくは管理の地位にあるもの又は機密の事務を取り扱う者
  • 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

所定労働時間の時間外労働

就業規則、労働協約で定められた各事業所の労働時間(法定労働時間を超えない所定労働時間)を超えて行われる時間外労働は、法定労働時間を超える時間外労働と一致しないことがあり、そのうち法定労働時間の枠内で行われる時間外労働については、同法上、三六協定を必要とせず、また、割増賃金の支払いも義務付けられていない。しかし、日において超えていなくても、週において、あるいは、変形労働時間制にあっては変形期間において、法定労働時間を超過していないか、確認する必要がある。割増義務のない所定時間外労働における賃金の支払い根拠は就業規則他に定めるところによる。

立ち入り調査

労働基準監督署が立入り調査をする場合、概ね月に100時間以上の時間外労働をしていると時間外労働を減らすよう指導される。また2月から6月の平均で80時間を超える時間外労働をしていると過労死の危険性が高くなるとされている。但し、立入り調査は主に書類上のチェックであり、労働記録が残らないサービス労働を含めたチェックは困難である。時間外の記録を厳正につけている企業が摘発され、サービス労働のため時間外労働の証拠がない企業が摘発を免れることもある。そのため、ビルの入退出時間をビル警備会社に確認したり、職場のパソコンやサーバの使用ログから実質的な労働時間を調べることもある。

指導される場合

  • 1ヶ月 100時間を超える場合。
  • 直近の6ヶ月間 月平均80時間を超える場合。

なお、三六協定やその特別条項の範囲内での残業であれば、100時間を超える時間外労働をさせていても法違反ではないため勧告されることはない。

国際労働機関

国際労働機関の第一号条約(日本は未批准)では、例外規定はあるが「家内労働者を除いた工業におけるすべての労働者の労働時間は1日8時間、1週48時間を超えてはならない」と決められている[9]。 主な批准国は、オーストリア、ベルギー、カナダ、フランス、ギリシャ、イタリア、ルクセンブルグ、ポルトガル、スペイン、ニュージーランド、スロバキア、チリ、イスラエル[10]

脚注

  1. ^ 平成6年1月4日労働省基発第1号
  2. ^ 労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令
  3. ^ 厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域または期間については午後11時から午前6時まで
  4. ^ 時間外労働が深夜に及ぶ場合は5割以上、休日労働が深夜に及ぶ場合は6割以上
  5. ^ 法第37条第3項、同法施行規則第20条
  6. ^ 裁判所判例検索
  7. ^ LexisNexisJP法令検索システム
  8. ^ a b 労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準(平成10年12月28日労働省告示第154号)
  9. ^ 1919年の労働時間(工業)条約(第1号)”. ILO. 2012年4月8日閲覧。
  10. ^ Convention No. C001”. ILO. 2012年4月8日閲覧。

関連項目