ツルレイシ
ツルレイシ | ||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ツルレイシ
| ||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||||||||
学名 | ||||||||||||||||||||||||
Momordica charantia L. var. pavel Crantz | ||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||
ツルレイシ、ニガウリ | ||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||
Bitter melon |
ツルレイシ(蔓茘枝、学名:Momordica charantia var. pavel)は、未熟な果実を野菜として利用するウリ科の植物である。また、その果実のこと。一般的にはニガウリ、ゴーヤーなどと呼ばれる。
名称について
和名の「ツルレイシ」は、イボに覆われた果実の外観と、完熟すると仮種皮が甘くなるという2つの形質が、ムクロジ科の果樹であるレイシ(ライチ)に似ていることに由来する。つまり、蔓性の植物体に実るレイシの意味である。果肉が苦いため「ニガウリ」とも呼ぶ。農学・園芸学ではツルレイシを用いることが多い[1]が、生物学では近年[いつ?]ニガウリを用いることが多い[2]。
沖縄本島ではニガウリのことを「ゴーヤー」と呼ぶのが一般的で、沖縄料理ブームの影響もあり、全国的にも「ゴーヤー」または「ゴーヤ」を使用することが多くなっている。「ゴーヤ」という呼称が普及していった経緯は諸説ある。
九州・南西諸島各地に地方名があり、沖縄県では沖縄本島(首里・那覇方言や今帰仁方言など)で「ゴーヤー[3][4][5]」、宮古島(宮古方言)で「ゴーラ[6][7]」、八重山(八重山方言)で「ゴーヤ[8][9]」、熊本県をはじめとする九州の大部分では「ニガゴリ」又は「ニガゴーリ」、鹿児島県奄美大島では「トーグリ」[10]、長崎県諫早地方[11]、鹿児島県本土では「ニガゴイ」などと呼ばれている。諫早地方では「ニガウイ」の名称も併用される[11]。
以上のように多くの名称が用いられているが全て同じ種類の植物で、つまり標準和名ニガウリ、別名ツルレイシ(蔓茘枝、学名:Momordica charantia var. pavel)である。ただ、広く流通する現代では幾つかの栽培品種が存在し、品種によって苦味の強さにも差があり、九州地域で栽培されてきた細長い品種は苦味が強く、沖縄地域で栽培されてきた太いものは苦味が穏やかである傾向がある[12]。前者の細長い品種を「ニガゴイ」ないし「ニガゴリ」、後者の太いものを「ゴーヤー」と栽培されてきた地域のそれに習い、呼び分ける場合もある。
中国語では 苦瓜 (kǔguā、クーグア)や 涼瓜 (liángguā、リァングア)などと呼ばれ、広東料理、台湾料理などで日常的に食用にするだけでなく、焙煎してお茶として飲用することもある。広東語では菩薘(pou4 daat6、ポウダーッ)と呼ばれる場合もある。 英名の bitter melon も苦い瓜の意味である。
沖縄方言の普及
2001年から2007年まで放送された、沖縄県の小浜島と沖縄本島などを舞台にしたNHK連続テレビ小説『ちゅらさん』により沖縄の文化が注目されるようになり、また、ドラマで擬人化したマスコット「ゴーヤーマン」が登場して、ゴーヤーの名が広まった。また、沖縄料理の中でも特に人気のある料理であるゴーヤーチャンプルーの材料として、全国的に需要が増加した。現在では沖縄料理に限らず様々な料理に利用されるようになり、日本各地で日除けの目的でも栽培が行われるようになった。
特徴
つる性の一年生草本。成長すると長さ4 - 5mになる。果実は細長い紡錘形で長さ20~50cm、果肉を構成する果皮は無数の細かいイボに覆われ、両端は尖り、未成熟な状態では緑、熟すと黄変軟化し裂開する(収穫しても、常温で放置しておくと同じ状態となる)。完熟した種子の表面を覆う仮種皮は赤いゼリー状となり甘味を呈する。腐敗しているわけではなく食すこともできるが、歯ごたえのある食感は失われる。元来野生状態では、この黄色い果皮と赤くて甘い仮種皮によって、果実食の鳥を誘引し、さらに糞便によって種子散布が行われる。
原産と栽培地
原産地は熱帯アジア。日本では南西諸島と南九州で多く栽培されているが、今日ではさらに広い地域での食用栽培が盛んである。沖縄県産がシェアの3割を占める。なお、1990年までは沖縄本島産のものが、1993年までは八重山産のものがウリ類の大害虫ウリミバエの拡散防止のため、域外への持ち出しが禁止されていた。不妊虫放飼によるウリミバエの根絶に成功したことにより、沖縄県外へ出荷することが可能になり、沖縄県における生産量の拡大につながった[13]。)。近年[いつ?]では夏バテに効く(体を冷やす)健康野菜・ダイエット食品としての認知度が上がり、日本全国で栽培されるようになった。
栽培方法
この節には独自研究が含まれているおそれがあります。 |
この節は中立的な観点に基づく疑問が提出されているか、議論中です。(2013年8月) |
本州全域でも、梅雨以降の夏場で日照が強くて気温が高く、雨も豊富な時期であれば、露地でキュウリなどの在来作物同様に種を蒔いて栽培することができる。栽培に際しては、棒や網などを立て掛けて巻きつけるようにして栽培する。本州での栽培も数年前から定着しているため、首都圏ではスーパーマーケットの野菜売り場などでも購入が可能である。
なお、緑色の実は種も未成熟なので、家庭で栽培する場合には、丸々一本を採種用に黄色くなるまで放置するか、園芸店などで種を購入した方がよい。ただし、最近[いつ?]はF1品種が多いため、完熟させて種を採取しても、今年と同様に実が育成するとは限らない。F1品種の疑いがある場合は種や苗を購入すべきである。
比較的病害虫に強く、日照と気温と十分な水さえあれば、肥料や農薬はほとんど使わなくても収穫が得られ、家庭菜園の作物にも適している。
このためもあってか、2010年前後から緑のカーテン(グリーン・カーテン)と呼ばれる日除けのために栽培されることが多くなった。
丈夫で栽培は容易である反面、大きく育ち過ぎるのが欠点である。つまり栽培に必要なスペースと土の確保が問題になる。十分な収穫を得るには、地面に植える場合は畝幅が1,2メートルで株の間隔は1メートル以上必要。農家の場合はその2倍以上のスペースを確保することが多い。鉢で栽培するには一株当たりの土の量は最低80リットル理想的には100リットル程度必要である。根が多くの酸素を消費するため直径が広く出来るだけ浅い鉢が良い。鉢植えに適さない植物である。
植え付け後は、本葉が8枚程度開いたときに本葉5~6枚残して枝先(親つる)を切り取り脇芽(子つる)を数本伸ばす。これは親つるより子つるの方が実が着きやすいため。地植えの場合はほとんど水やりの必要は無い。台風の後は茎葉や実が傷ついて弱っているので、傷ついた実を早めに摘み取ってやると回復が早い。
実の色は葉と同じクロロフィルなので、光が当たらないとモヤシのように色が薄くなって見た目が悪くなる。そこで、葉の陰にある実を外側へ移動して光を当てて色をよくする。
なお、連作障害がある点にも注意すべきである。
成分
100 gあたりの栄養価 | |
---|---|
エネルギー | 79 kJ (19 kcal) |
4.32 g | |
糖分 | 1.95 g |
食物繊維 | 2.0 g |
0.18 g | |
飽和脂肪酸 | 0.014 g |
一価不飽和脂肪酸 | 0.033 g |
多価不飽和脂肪酸 | 0.078 g |
0.84 g | |
ビタミン | |
ビタミンA相当量 |
(1%) 6 μg |
チアミン (B1) |
(4%) 0.051 mg |
リボフラビン (B2) |
(4%) 0.053 mg |
ナイアシン (B3) |
(2%) 0.280 mg |
ビタミンB6 |
(3%) 0.041 mg |
葉酸 (B9) |
(13%) 51 μg |
ビタミンB12 |
(0%) 0 μg |
ビタミンC |
(40%) 33.0 mg |
ビタミンE |
(1%) 0.14 mg |
ビタミンK |
(5%) 4.8 μg |
ミネラル | |
カルシウム |
(1%) 9 mg |
鉄分 |
(3%) 0.38 mg |
マグネシウム |
(5%) 16 mg |
リン |
(5%) 36 mg |
カリウム |
(7%) 319 mg |
ナトリウム (塩分の可能性あり) |
(0%) 6 mg |
亜鉛 |
(8%) 0.77 mg |
他の成分 | |
水分 | 93.95 g |
成分名「塩分」を「ナトリウム」に修正したことに伴い、各記事のナトリウム量を確認中ですが、当記事のナトリウム量は未確認です。(詳細) | |
| |
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 出典: USDA栄養データベース(英語) |
独特な苦味があるので、好き嫌いが分かれる野菜として知られ、種子に共役リノレン酸を含むことが知られている。主に未成熟な果皮を食用とし、ビタミンCなどの水溶性ビタミンを多く含むことや、健胃効果もある苦味タンパク質(苦味成分として、モモルディシン(momordicin)、チャランチン(charantin)、コロソリン酸、ククルビタシン(cucurbitacin))を含む。苦味成分は果皮表面の緑色の部分に集中している。ワタの部分が苦いという俗説があるが、誤りである。[14]
調理
ツルレイシは九州と南西諸島以外の地方では近年[いつ?]まで一部の地域を除いてはあまり一般的な食材ではなかったが、現在はゴーヤーチャンプルーをはじめとする沖縄料理の食材として広く知られている。健康野菜としての認知度が上がるにつれてテレビなどで調理法が紹介され、昨今では「ゴーヤーチャンプルーの素」などのレトルト調味料も登場している。
苦味を抑えたい場合は
- 苦味の少ない品種を選ぶ
- 表面の緑色の層を削り落とす
- (調理方法によるが)2 - 3mm幅くらいの薄切りにして熱湯でさっと下茹でする
- 少量の塩を振って揉んでしばらく置き、水分を出した後軽く洗う。もしくは塩水に漬け一晩置く
- 米のとぎ汁で茹でこぼす
- 鰹節はゴーヤの苦みを低減する作用があるので、鰹節をまぶす[15]
などの手順がある。
薩摩料理、奄美料理をはじめとする南九州の郷土料理でも好まれる食材であり、九州ではおひたし・和え物でよく食べられる。鶏肉とキャベツと炒めたり、揚げて天ぷらやチップスにもする。奄美群島では蘇鉄味噌(なりみす)を使った和え物もよく食べられる。
種や綿ごと実を薄切りにし、乾燥させてから焙じた後に細かく砕いたものは、ゴーヤー茶として沖縄県で販売されている。味はほうじ茶に似て苦味は無い。
よく洗って種と綿を除いてミキサーにかけ、風味を整えるために蜂蜜などを加えて青汁のように飲む場合もあるが、こちらは栄養補助食品のイメージが強い。干した物を切干大根のように戻して煮物に使うこともできる。
広東料理では炒め物以外に、トウチなどの風味をつけた蒸し物、スープの具のなどにもされる。台湾料理でも「鳳梨苦瓜雞(台湾語:オンライコーコエケー)」のようにパイナップル、鶏肉と煮込んだスープがある。広東、香港、台湾などには苦味の少ない白い苦瓜もあり、スープにはこちらが選ばれることが多い。台湾では梅干の漬け汁を利用して漬物にすることもある。白い苦瓜のジュースは台湾や香港の屋台でも提供されている。
ベトナム料理でも「Mướp đắng(ムオッダン)」などと称して炒め物、スープなどにされるが、特に南部では正月料理の一品として使われることが多い。タイ料理でもスープにされる場合がある。
インド料理、スリランカ料理、マレー料理ではスパイスで風味をつけたものを水分が飛ぶまであげたものや、たまごと一緒に炒めたものがカレーの副菜として現地で売られている。
医学的知見
血糖に対する作用
ラットでの動物実験で血糖降下作用が認められているが、人間に換算すると9.5kg/bodyという非現実的な摂取量であった。人に対する3つの無作為化比較試験のメタ解析では、ニガウリの摂取によりII型糖尿病の改善を認めなかった。カナダでの健康な男性5名を対象とした単盲検クロスオーバー無作為化プラセボ比較試験でも、血糖低下や食欲抑制などの効果は無かった。ツルレイシの消費量が多いはずの沖縄県での2000年の糖尿病死亡率は県別で男女とも2位であったことも指摘されている[16]。ただし小児においてニガウリ茶の摂取において低血糖性による昏睡や痙攣があったという報告もある(安全性の項を参照)
癌に対する作用
抗腫瘍作用(白血病、乳がん)、ラット結腸の突然変異誘発物質の変異原性の抑制が確認されている[17]。2013年、コロラド大学癌センターが、マウス実験により膵臓癌への効果が認められたと発表した[18]。
安全性
通常の食品として適切に摂取する場合は安全だと考えられている[19]。しかし薬効を期待して、種子や果汁を意図的に多く摂取した場合、下記のような危険情報が報告されている。また妊娠中の人に関しては流産の危険が増すために、食材をしても摂取すべきではないとされる[19]。
- ニガウリ摂取により、下痢、胃腸障害、上腹部痛が生じる可能性があるとされている[20]。動物実験では果肉と種子の摂取により肝障害が起こることが判っている[21]。
- 糖尿病薬治療中の人は種子の摂取により、血糖降下剤の作用増強効果の可能性が示唆されている[22][21]。
- ニガウリ種子と外皮に毒性のあるレクチンが含まれる[19]。種子にはモモカルンが含まれており、動物実験で堕胎作用が確認されている[19]。このため流産誘発作用があるとして妊婦は摂取すべきではないとされる[21][23]。授乳中の女性についても安全性は確認されていない。受精12日後の妊娠マウスに0.02-0.05 mgのモモルカリンを腹腔内投与したところ、90%の胎児が死亡したとされる[24]。またニガウリ果汁を毎日摂取したマウスは、妊娠率が90%から20%に低下することが知られている[19]。
- ニガウリ種子の摂取による頭痛も知られている。またニガウリ種子によってソラマメ中毒症状が起こることが知られており、グルコース-6-リン酸脱水素酵素 (G6PD) 欠損症の人は種子を摂取すべきではないとされる[19]。
- ニガウリ茶の摂取によって、小児に痙攣や低血糖昏睡が発生した報告がある[19]。
- LD50 (半数致死量)は、ニガウリ果実抽出物を投与:マウス腹腔内681 mg/kgである[19]。
脚注
- ^ 種苗法における「農林水産植物の種類」や参考文献に挙げた園芸図鑑など。
- ^ BGPlants YListや参考文献に挙げた植物図鑑・目録など[リンク切れ]
- ^ 首里・那覇方言音声データベース 琉球大学附属図書館沖縄言語研究センター
- ^ 今帰仁方言音声データベース 琉球大学附属図書館沖縄言語研究センター
- ^ 多和田真淳監修・池原直樹著 『沖縄植物野外活用図鑑 第2巻 栽培植物』 新星図書出版・1979年・135頁(旧石川市の呼称として記載されている)。
- ^ 宮古方言音声データベース 琉球大学附属図書館沖縄言語研究センター
- ^ 奥平博尚 『宮古方言散歩路(平良的表現)』 新報出版・1996年・65頁。
- ^ おきなわ伝統的農産物データベース 沖縄県農林水産部流通政策課
- ^ 八重山毎日新聞2005年5月11日
- ^ 奄美方言音声データベース
- ^ a b 『諫早地方方言集』 諫早方言の会・2000年・87頁。
- ^ ゴーヤー大好き「ゴーヤーといってもいろいろある」
- ^ 中国四国あぐりレター 第244号 2012(平成24)年5月8日 中国四国農政局
- ^ “ゴーヤーはどこが苦いのか”. 2016年3月11日閲覧。
- ^ かつお節によるゴーヤの苦味低減 日本食品科学工学会誌 Vol.55 (2008) No.4 P186-190
- ^ 高橋久仁子『フードファディィズム メディアに惑わされない食生活』中央法規、2007年、pp.55-56
- ^ 蒲原聖可『サプリメント事典』(平凡社、2004年)、pp.298-299
- ^ Bitter melon juice prevents pancreatic cancer in mouse modelsUniversity of Colorado Cancer Center, March 12, 2013
- ^ a b c d e f g h 健康食品等の素材情報データベース ニガウリの項
- ^ The effect of Momordica charantia capsule preparation on glycemic control in type 2 diabetes mellitus needs further studies.
- ^ a b c Pharmacist’s Letter/Prescriber’s letter Natural Medicine Comprehensive Database (2010)
- ^ 蒲原聖可『サプリメント事典』(平凡社、2004年)、p.299
- ^ Herbs&Natural Supplements 3e
- ^ Contraception. 1984 Jan;29(1):91-100.4
関連項目
参考文献
- 白井祥平著 『沖縄園芸植物大図鑑 3 有用植物』 沖縄教育出版・1980年。
- 多和田真淳監修・池原直樹著 『沖縄植物野外活用図鑑 第2巻 栽培植物』 新星図書出版・1979年。
- 初島住彦・天野鉄夫 『増補訂正 琉球植物目録』 沖縄生物学会・1994年。