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'''幻覚剤'''(げんかくざい |
'''幻覚剤'''(げんかくざい)とは、脳神経系に作用して[[幻覚]]をもたらす[[向精神薬]]のことである。呼称には幻覚剤の原語である中立的な'''ハルシノジェン'''(Hallucinogen)や、より肯定的に表現した'''サイケデリックス'''(Psychedelics)、神聖さを込めた'''エンセオジェン'''(Entheogen)がある。その体験はしばしば[[サイケデリック体験]]と呼ばれる。体験は、神秘的な、あるいは深遠な体験が多く、神聖さ、肯定的な気分、時空の超越、語りえない(表現不可能)といった特徴を持つことが多い。宗教的な儀式や踊り、[[シャーマニズム|シャーマン]]や[[精神科医]]による[[心理療法]]に用いられる。宗教、文学作品や音楽、[[アート]]といった[[文化]]そのものに影響を与えてきた。 |
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典型的な幻覚剤は、[[LSD (薬物)|LSD]]や、[[シロシビン]]を含む[[マジックマッシュルーム]]、[[メスカリン]]を含む[[ペヨーテ]]などのサボテン、[[ジメチルトリプタミン|DMT]]と[[ハルミン]]の組み合わせである[[アヤワスカ]]である。[[メチレンジオキシメタンフェタミン|MDMA]]はこれらとは異なる<ref name="pmid25818246"/>。''DSM-5''では、[[ケタミン]]は解離作用が強いため幻覚剤の下位の別の分類に分けられ、[[大麻]]は幻覚剤に含めない。 |
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== 概要 == |
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植物性の[[アルカロイド]]には、幻覚をもたらすものがあり、古来から様々な目的で用いられてきた。天然の植物の状態のものはナチュラルドラッグ、化学合成されたものはケミカルドラッグと呼ばれる。幻覚剤の作用成分は、脳内の[[神経伝達物質]]と類似の構造を持っている。 |
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21世紀に入り臨床試験が再び進行しており、サイケデリック・ルネッサンスと呼ばれる。特に[[うつ病]]、[[不安障害]]、[[薬物依存症]]の治療に使える可能性を示している{{sfn|Past and future|2017}}。継続投与を行わずとも持続的な治療効果を生じている<ref name="pmid25818246"/>。幻覚剤の使用は、精神的な問題の発生率の低下<ref name="pmid23976938"/>、自殺思考や自殺企図の低下と関連している<ref name="pmid25586402"/>。幻覚剤が依存や[[嗜癖]]を引き起こすという証拠は非常に限られたものである{{sfn|Past and future|2017}}。 |
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幻覚剤を摂取することによって、意識状態に変容が起こり[[変性意識状態]]といった意識の状態に導かれる。しばしば視覚や聴覚や感覚に幻覚を見せ、また聴いた音が視覚に影響するなど[[共感覚]]が起こることもある。そして、体験が終わったあとにも精神性に影響を与えることもある。幻覚剤の研究家である[[テレンス・マッケナ]]は、幻覚剤は6時間で5年分の心理療法をやってしまうドラッグだと表現している<ref>キャシー・ソコル「コンピュータと人と幻覚剤」樋口真理訳『エスクワイア日本語版』1998年3月、46-52頁。</ref>。ハーバード大学での統計では200人ほどのうち、85%が人生においてもっとも啓示に富んだ体験であると感じている<ref name="FLASHBACKS-117">ティモシー・リアリー 『フラッシュバックス-ティモシー・リアリー自伝』 山形浩生訳、久霧亜子訳、明石綾子訳、森本 正史訳、松原永子訳、1995年。ISBN 978-4845709038。117頁。(原著 ''FLASHBACKS'', 2nd edition, 1990)</ref>。 |
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幻覚剤は古来から用いられてきた。20世紀に入ってから幻覚剤の化学合成やそれに伴う研究が展開され、特に1940年代から1960年代に大きく展開した。1960年以降、幻覚剤は[[薬物乱用|乱用]]が問題視され、所持や使用が法律で禁止されているものも多い。国際的に[[向精神薬に関する条約]]で規制されるが、同条約第32条4項によって植物が自生する国における、少数の集団に伝統的に魔術または宗教的な儀式として用いられている場合には、条約の影響は留保される。日本では一部の既存の違法薬物と類似の構造をもつ[[デザイナードラッグ]]が1990年代後半に[[脱法ドラッグ]]として流通したが、その後取締りが強化され法律や条例による規制が行われ、規制と新種の登場のいたちごっこを繰り返してきた。 |
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幻覚をもたらす植物の発見や歴史的考察は、JPモルガン銀行の副社長で菌類の研究家であった[[ロバート・ゴードン・ワッソン]](以降、R・G・ワッソンと略記する)の貢献が大きい<ref name="rg-soma">R・G・ワッソン、W・D・オフラハティ 『聖なるキノコソーマ』 徳永宗雄訳、せりか書房、1988年。ISBN 978-4796701570。275-283頁の訳者あとがき (原著 ''soma divine mushroom of immortality'')</ref>。 |
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== 作用 == |
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{{See also|サイケデリック体験}} |
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幻覚剤を摂取することによって、意識状態に変容が起こり[[変性意識状態]]といった意識の状態に導かれる。しばしば視覚や聴覚や感覚に幻覚を見せ、また聴いた音が視覚に影響するなど[[共感覚]]が起こることもある。そして、体験が終わったあとにも精神性に影響を与えることもある。幻覚剤の研究家である[[テレンス・マッケナ]]は、幻覚剤は6時間で5年分の心理療法をやってしまうドラッグだと表現している<ref>キャシー・ソコル「コンピュータと人と幻覚剤」樋口真理訳『エスクワイア日本語版』1998年3月、46-52頁。</ref>。ハーバード大学での統計では200人ほどのうち、85%が人生においてもっとも啓示に富んだ体験であると感じている<ref name="FLASHBACKS-117">ティモシー・リアリー 『フラッシュバックス-ティモシー・リアリー自伝』 山形浩生訳、久霧亜子訳、明石綾子訳、森本 正史訳、松原永子訳、1995年。ISBN 978-4845709038。117頁。 ''FLASHBACKS'', 2nd edition, 1990.</ref>。幻覚性のキノコの成分であるシロシビンの体験からは、神秘的な、あるいは深遠な体験が多く、神聖さ、肯定的な気分、時空の超越、語りえない(表現不可能)といった特徴があった<ref name="pmid23316089">{{cite journal|last1=MacLean|first1=Katherine A.|last2=Leoutsakos|first2=Jeannie-Marie S.|last3=Johnson|first3=Matthew W.|last4=Griffiths|first4=Roland R.|title=Factor Analysis of the Mystical Experience Questionnaire: A Study of Experiences Occasioned by the Hallucinogen Psilocybin|journal=Journal for the Scientific Study of Religion|volume=51|issue=4|pages=721–737|year=2012|pmid=23316089|doi=10.1111/j.1468-5906.2012.01685.x|url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3539773/}}</ref>。 |
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治療研究の歴史からは、難治性の神経障害、特に[[うつ病]]、[[不安障害]]、[[薬物依存症]]、死と関連した心理的な困難(末期がんなど)に可能性があることを示している{{sfn|Past and future|2017}}。典型的な幻覚剤や、MDMAでは継続的に投与せずとも効果が持続する<ref name="pmid25818246">{{cite journal|last1=Danforth|first1=Alicia L.|last2=Struble|first2=Christopher M.|last3=Yazar-Klosinski|first3=Berra|last4=Grob|first4=Charles S.|title=MDMA-assisted therapy: A new treatment model for social anxiety in autistic adults|journal=Progress in Neuro-Psychopharmacology and Biological Psychiatry|volume=64|pages=237–249|year=2016|pmid=25818246|doi=10.1016/j.pnpbp.2015.03.011|url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0278584615000603}}</ref>。 |
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13万人の統計調査から、過去1年間における幻覚剤(LSD、マジックマッシュルーム、メスカリン)の使用者は精神的な問題の発生率の低下に関連していた<ref name="pmid23976938">{{cite journal|last1=Lu|first1=Lin|last2=Krebs|first2=Teri S.|last3=Johansen|first3=Pål-Ørjan|coauthors=et al.|title=Psychedelics and Mental Health: A Population Study|journal=PLoS ONE|volume=8|issue=8|pages=e63972|year=2013|pmid=23976938|pmc=3747247|doi=10.1371/journal.pone.0063972|url=https://doi.org/10.1371/journal.pone.0063972}}</ref>。約19万人からの統計調査では、典型的な幻覚剤の使用が、自殺思考や自殺計画、自殺企図の低下と関連し、他の違法薬物を使用しないことはさらにこの可能性を高めていた<ref name="pmid25586402">{{cite journal|last1=Hendricks|first1=Peter S|last2=Thorne|first2=Christopher B|last3=Clark|first3=C Brendan|coauthors=et al.|title=Classic psychedelic use is associated with reduced psychological distress and suicidality in the United States adult population|journal=Journal of Psychopharmacology|volume=29|issue=3|pages=280–288|year=2015|pmid=25586402|doi=10.1177/0269881114565653}}</ref>。また約1500人からのオンライン調査では、生涯における典型的な幻覚剤(LSD、マジックマッシュルーム、メスカリン)の使用は、自然とのつながりを感じ環境に配慮した行動に関連する<ref name="pmid28631526">{{cite journal|last1=Forstmann|first1=Matthias|last2=Sagioglou|first2=Christina|title=Lifetime experience with (classic) psychedelics predicts pro-environmental behavior through an increase in nature relatedness|journal=Journal of Psychopharmacology|volume=31|issue=8|pages=975–988|year=2017|pmid=28631526|doi=10.1177/0269881117714049}}</ref>。 |
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一般的な副作用は、不安、吐き気、嘔吐、心拍や血圧の増加である{{sfn|Past and future|2017}}。[[フラッシュバック (薬物)|幻覚剤後知覚障害]]は、シロシビンやアヤワスカを用いた最近の近代的な臨床試験では報告されていない{{sfn|Past and future|2017}}。 |
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幻覚剤が依存や[[嗜癖]]を引き起こすという証拠は非常に限られたものである{{sfn|Past and future|2017}}。[[耐性 (薬理学)|耐性]]は急速に形成され、[[離脱]]症状が起こることは確認されていない{{sfn|Past and future|2017}}。精神的依存はまれだと考えられるがそのための研究は少ない{{sfn|Past and future|2017}}。 |
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==幻覚剤の種類と歴史== |
==幻覚剤の種類と歴史== |
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''[[精神障害の診断と統計マニュアル|DSM-5]]''では、幻覚剤関連障害の中に、ケタミンを含むフェンサイクリジン類による解離性のある幻覚剤と、それ以外であるLSD、メスカリン、シロシビン、MDMA、[[ジメチルトリプタミン]] (DMT) 、[[サルビア・ディビノラム|サルビア]]などに大きく分類しており、[[大麻]]は幻覚剤に含めず大麻関連障害として別個である。 |
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植物性の[[アルカロイド]]には、幻覚をもたらすものがあり、古来から様々な目的で用いられてきた。天然の植物の状態のものはナチュラルドラッグ、化学合成されたものはケミカルドラッグと呼ばれる。幻覚剤の作用成分は、脳内の[[神経伝達物質]]と類似の構造を持っている。 |
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幻覚をもたらす植物の発見や歴史的考察は、JPモルガン銀行の副社長で菌類の研究家であった[[ロバート・ゴードン・ワッソン]](以降、R・G・ワッソンと略記する)の貢献が大きい<ref name="rg-soma">R・G・ワッソン、W・D・オフラハティ 『聖なるキノコソーマ』 徳永宗雄訳、せりか書房、1988年。ISBN 978-4796701570。275-283頁の訳者あとがき。 ''soma divine mushroom of immortality''.</ref>。 |
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===自生する植物の利用=== |
===自生する植物の利用=== |
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アメリカ大陸のシャーマンは[[アヤワスカ]]という飲料やサボテンの[[ペヨーテ]]を用いている。[[ペルー]]では幻覚成分の[[メスカリン]]を含むサボテンの{{仮リンク|多聞柱|en|Echinopsis pachanoi|label=サンペドロ}}がある。アメリカ中西部やメキシコに自生するメスカリンを含むペヨーテは生や乾燥させて食され、サンペドロは煮詰めた成分が摂取される。[[アマゾン熱帯雨林]]のシャーマンは、植物を煮出して[[アヤワスカ]]を作るが、これには、[[ジメチルトリプタミン]](DMT)と[[モノアミン酸化酵素阻害薬]]である[[ハルミン]]が含まれ、相互作用で効力を発揮する。アヤワスカは2-6時間前後効力を発揮し、その間は自我が停止するといわれる。 |
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アメリカ大陸のシャーマンは[[アヤワスカ]]という飲料やサボテンの[[ペヨーテ]]を用いている。 |
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[[ペルー]]では幻覚成分の[[メスカリン]]を含むサボテンの[[サンペドロ・サポテン|サンペドロ]]がある。アメリカ中西部やメキシコに自生するメスカリンを含むペヨーテは生や乾燥させて食され、サンペドロは煮詰めた成分が摂取される。[[アマゾン熱帯雨林]]のシャーマンは、植物を煮出して[[アヤワスカ]]を作るが、これには、[[ジメチルトリプタミン]](DMT)と[[モノアミン酸化酵素阻害薬]]である[[ハルマリン]]が含まれ、相互作用で効力を発揮する。アヤワスカは2-6時間前後効力を発揮し、その間は自我が停止するといわれる。 |
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中米の[[メキシコ]]には、幻覚をもたらす成分の[[シロシビン]]を含む俗に[[マジックマッシュルーム]]と呼ばれるキノコが自生し、シャーマンにより宗教儀式や治療に用いられている。アステカの[[ナワトル語]]で神のキノコという意味のテオナナカトルとも呼ばれる。このようなキノコは、メキシコが16世紀初頭にスペインによって植民地化され、カトリック教会によって規制された。カトリック教会では、こうした幻覚は悪魔がもたらしていると考えたためである。日本に自生する幻覚性のキノコには[[ワライタケ]]や[[ヒカゲシビレタケ]]がある。日本でも、『[[今昔物語集]]』の中で[[マイタケ]]を食べ幸せな気持ちになって踊りだすというエピソードがあり、こうしたキノコとの関連も言及される。ほかの幻覚成分である[[イボテン酸]]を含むキノコには[[ベニテングタケ]]がある。 |
中米の[[メキシコ]]には、幻覚をもたらす成分の[[シロシビン]]を含む俗に[[マジックマッシュルーム]]と呼ばれるキノコが自生し、シャーマンにより宗教儀式や治療に用いられている。アステカの[[ナワトル語]]で神のキノコという意味のテオナナカトルとも呼ばれる。このようなキノコは、メキシコが16世紀初頭にスペインによって植民地化され、カトリック教会によって規制された。カトリック教会では、こうした幻覚は悪魔がもたらしていると考えたためである。日本に自生する幻覚性のキノコには[[ワライタケ]]や[[ヒカゲシビレタケ]]がある。日本でも、『[[今昔物語集]]』の中で[[マイタケ]]を食べ幸せな気持ちになって踊りだすというエピソードがあり、こうしたキノコとの関連も言及される。ほかの幻覚成分である[[イボテン酸]]を含むキノコには[[ベニテングタケ]]がある。 |
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インドの[[ヴェーダ]]という聖典に登場する、霊感を与える[[ソーマ]]という飲み物には幻覚作用があるといわれ、シロシビンを含むキノコかベニテングタケが入っていたのではないかと考えられている |
インドの[[ヴェーダ]]という聖典に登場する、霊感を与える[[ソーマ]]という飲み物には幻覚作用があるといわれ、シロシビンを含むキノコかベニテングタケが入っていたのではないかと考えられている{{sfn|ジョン・ホーガン|2004|p=259}}。 |
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古代[[ギリシャ]]では、毎年秋に[[エレウシスの秘儀]]を行う習慣が1000年以上も続いていた |
古代[[ギリシャ]]では、毎年秋に[[エレウシスの秘儀]]を行う習慣が1000年以上も続いていた{{sfn|ジョン・ホーガン|2004|p=259}}。エレウシスの周辺の池には、リゼルグ酸を含む麦角菌が存在するので、これが幻覚剤としてエレウシスの儀式で使われたのではないかという見解もある<ref>「LSDの父吠える A・ホフマン」遠藤徹訳『ユリイカ』 1995年12月、72-80頁。</ref>。 |
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[[アフリカ]]では幻覚成分[[イボガイン]]を含む植物イボガが宗教儀式に用いられていた。 |
[[アフリカ]]では幻覚成分[[イボガイン]]を含む植物イボガが宗教儀式に用いられていた。 |
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ほかに。 |
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* モーニング・グローリー、オロリウキ ([[リゼルグ酸アミド]]:LSA) |
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* [[サルビア・ディビノラム]] (サルビノリンA) |
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===幻覚剤の歴史研究家=== |
===幻覚剤の歴史研究家=== |
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R・G・ワッソンは幻覚剤についての研究考察を出版してきた。それらは1957年にベニテングタケがヨーロッパ民族に与えた影響を調査した ''Mushrooms, Russia and History''、1969年にバラモン教聖典『[[リグ・ヴェーダ]]』に登場するソーマはベニテングタケであると主張する『聖なるキノコソーマ』(''soma divine mushroom of immortality'') 、1974年にメキシコのマジックマッシュルームについて調査である ''Maria Sabina and her Mazatec Mushroom Velada''、1978年にはエレウシスの秘儀と麦角菌の調査である ''The Road to Eleusis'' である<ref name="rg-soma" />。R・G・ワッソンの研究以前は植物の存在が公になっていなかったものも多い。 |
R・G・ワッソンは幻覚剤についての研究考察を出版してきた。それらは1957年にベニテングタケがヨーロッパ民族に与えた影響を調査した ''Mushrooms, Russia and History''、1969年にバラモン教聖典『[[リグ・ヴェーダ]]』に登場するソーマはベニテングタケであると主張する『聖なるキノコソーマ』(''soma divine mushroom of immortality'') 、1974年にメキシコのマジックマッシュルームについて調査である ''Maria Sabina and her Mazatec Mushroom Velada''、1978年にはエレウシスの秘儀と麦角菌の調査である ''The Road to Eleusis'' である<ref name="rg-soma" />。R・G・ワッソンの研究以前は植物の存在が公になっていなかったものも多い。 |
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テレンス・マッケナは、『神々の糧』 |
テレンス・マッケナは、『神々の糧』{{sfn|テレンス・マッケナ|2003}}や、『幻覚世界の真実』<ref>テレンス・マッケナ『幻覚世界の真実』京堂健訳、第三書館、1995年。ISBN 978-4807495061。''True hallucinations'', 1993</ref>のような著書でさまざまな幻覚性の植物や薬物について歴史的考察や文化への影響を分析している。 |
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===成分の抽出と化学合成=== |
===成分の抽出と化学合成=== |
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メスカリンは、1898年前後にドイツ人化学者のヘフターが発見し、1919年にE・シュペートが合成した。1912年、ドイツのメルク社が[[メチレンジオキシメタンフェタミン]](MDMA)を合成したが社外に発表されなかった。1938年にスイスのサンドス研究所(現・[[ノバルティス]])の化学者である[[アルバート・ホフマン (化学者)|アルバート・ホフマン]]が[[リゼルグ酸ジエチルアミド]](LSD-25)を合成し、その後5年間研究されなかったが1943年に再びとりあげたところ、おそらく指の皮膚から吸収され偶然に幻覚作用が発見された |
メスカリンは、1898年前後にドイツ人化学者のヘフターが発見し、1919年にE・シュペートが合成した。1912年、ドイツのメルク社が[[メチレンジオキシメタンフェタミン]](MDMA)を合成したが社外に発表されなかった。1938年にスイスのサンドス研究所(現・[[ノバルティス]])の化学者である[[アルバート・ホフマン (化学者)|アルバート・ホフマン]]が[[リゼルグ酸ジエチルアミド]](LSD-25)を合成し、その後5年間研究されなかったが1943年に再びとりあげたところ、おそらく指の皮膚から吸収され偶然に幻覚作用が発見された{{sfn|A・ホッフマン|1984|pp=16-20}}。ホフマンによる幻覚の内容は、視覚に入るものは歪曲し、強烈な色彩が万華鏡のように変化し、音にあわせて視覚が変化するというものであった{{sfn|A・ホッフマン|1984|pp=20-26頁}}。 |
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[[1952年]]、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の[[製薬会社]]であるパーク・デービス社により麻酔薬として[[フェンサイクリジン]](PCP)が開発された。1956年、チェコの化学者ステファン・ソーラはDMTを合成している |
[[1952年]]、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の[[製薬会社]]であるパーク・デービス社により麻酔薬として[[フェンサイクリジン]](PCP)が開発された。1956年、チェコの化学者ステファン・ソーラはDMTを合成している{{sfn|テレンス・マッケナ|2003|pp=284-285}}。 |
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1950年代に、R・G・ワッソンは、メキシコのインディオの信頼を得て儀式で用いられているキノコを摂取したところ、幾何学模様の幻覚がもたらされた。1957年には、R・G・ワッソンとその妻は『ライフ』誌にその発見を掲載し大衆に広く認知されることとなった |
1950年代に、R・G・ワッソンは、メキシコのインディオの信頼を得て儀式で用いられているキノコを摂取したところ、幾何学模様の幻覚がもたらされた。1957年には、R・G・ワッソンとその妻は『ライフ』誌にその発見を掲載し大衆に広く認知されることとなった{{sfn|テレンス・マッケナ|2003|pp=284-285}}。このキノコからパリとアメリカで幻覚をもたらす成分を抽出しようとしたが、成果が出ず、似たような幻覚を起こすLSDを合成したアルバート・ホフマンの元へ送られた。1958年{{sfn|テレンス・マッケナ|2003|pp=284-285}}、ホフマンは抽出成分を動物実験で試すが反応が見られないため自分で摂取したところ、抽象的な形と鮮やかな色彩が激しく揺れ動き変化するという幻覚が起こったため幻覚成分として発見され、この成分にシロシンとシロシビンという名前をつけた{{sfn|A・ホッフマン|1984|pp=139-140}}。ホフマンによれば、シロシン、シロシビンとLSDは似たような物質で違いといえば作用量と作用時間であり、LSDが8-12時間、シロシビンは4-6時間作用し、どれも脳内物質の[[セロトニン]]と近似の物質である{{sfn|A・ホッフマン|1984|pp=141-143}}。 |
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1962年にはパーク・デービス社はPCPの代用物として麻酔薬の[[ケタミン]]を合成している |
1962年にはパーク・デービス社はPCPの代用物として麻酔薬の[[ケタミン]]を合成している{{sfn|サイケデリック・ドラッグ|1979|p=65}}。[[ケタミン]]は一般的には獣医で用いられる麻酔薬だが、1時間ほど自我を停止させるという体験をもたらすとされる。 |
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1960年代に、化学者の[[アレクサンダー・シュルギン|アレクサンダー・サーシャ・シュルギン]]が[[MDMA]]を合成したが他の強い作用をもたらす化合物を探していたため研究されず、1973年に別の研究者がサーシャの方法で合成し広まっていった<ref>「an interview with nicholas saunders」『zavtone』2号、97年4月、22-23頁。</ref>。 |
1960年代に、化学者の[[アレクサンダー・シュルギン|アレクサンダー・サーシャ・シュルギン]]が[[MDMA]]を合成したが他の強い作用をもたらす化合物を探していたため研究されず、1973年に別の研究者がサーシャの方法で合成し広まっていった<ref>「an interview with nicholas saunders」『zavtone』2号、97年4月、22-23頁。</ref>。 |
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[[画像:DNA double helix vertikal.PNG|thumb|90px|[[デオキシリボ核酸|DNA]]の[[二重らせん構造]]]] |
[[画像:DNA double helix vertikal.PNG|thumb|90px|[[デオキシリボ核酸|DNA]]の[[二重らせん構造]]]] |
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1940年代にLSDが研究目的で出回りはじめ、1950年代には[[精神医学]]や[[アメリカ中央情報局]](CIA)による[[洗脳]]や自白の実験の[[MKウルトラ]]計画でとりあげられ、このような研究は極秘で行われていた |
1940年代にLSDが研究目的で出回りはじめ、1950年代には[[精神医学]]や[[アメリカ中央情報局]](CIA)による[[洗脳]]や自白の実験の[[MKウルトラ]]計画でとりあげられ、このような研究は極秘で行われていた{{sfn|アシッド・ドリームス}}。R・G・ワッソンがメキシコでキノコの調査をしていたときCIAの諜報部員につきまとわれるということがあり、ワッソンとホフマンによる迅速なシロシビン成分の特定がなければ公にならなかったかもしれないともいわれる<ref>テレンス・マッケナ『幻覚世界の真実』京堂健訳、第三書館、1995年。ISBN 978-4807495061。 ''True hallucinations'', 1993.</ref>。 |
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1950年代には、アルフレッド・M・ハバド大尉が世界平和に貢献すると思い、政治家や科学者や警察など広範に赤字でLSDを配った |
1950年代には、アルフレッド・M・ハバド大尉が世界平和に貢献すると思い、政治家や科学者や警察など広範に赤字でLSDを配った{{sfn|アシッド・ドリームス|pp=51-57}}。ハバド大尉が開発したLSDによる精神療法であるサイコリティック療法を精神科医のオズモンドが広めた{{sfn|アシッド・ドリームス|pp=60-62}}。 |
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精神科医の[[ハンフリー・オズモンド]]にハクスリー自らが幻覚剤のモルモットとなることを申し出 |
精神科医の[[ハンフリー・オズモンド]]にハクスリー自らが幻覚剤のモルモットとなることを申し出{{sfn|アシッド・ドリームス|p=53}}、1953年の春、幻覚剤のメスカリンによる実験が開始された<ref name="知覚の扉159">オルダス・ハクスリー 『知覚の扉』 河村錠一郎訳、平凡社《平凡社ライブラリー》、1995年9月、159-168頁。ISBN 978-4582761153。 ''The Doors of Perception 1954 & Heaven and Hell'', 1956.</ref>。その翌年1954年に『[[知覚の扉]]』が出版され、学者一族としての観察精神と作家としての筆の確かさを下地に、神秘主義者の認識と幻覚剤による体験を絵画への言及も通して哲学的に考察した。『知覚の扉』は、60年代の意識革命の発端として評価が高く、 |
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ハーバード大学の幻覚剤の研究者である[[ティモシー・リアリー]]の意識革命の理論の素地となり、リアリーの後継的な存在であるの[[テレンス・マッケナ]]にも大きな影響を与えた<ref name="知覚の扉159" />。同じような頃、世界中で麻薬の使用実態を調べ実際に摂取していた<ref name="FLASHBACKS-117" />作家の[[ウィリアム・S・バロウズ]]は、友人の[[アレン・ギンズバーグ]]に[[アヤワスカ]]の体験について手紙を送っている<ref name="知覚の扉159" />。バロウズによれば中毒性の強い[[モルヒネ]]や[[阿片]]を麻薬と呼んで、幻覚剤と区別し、あらゆる幻覚剤は使用者に聖なるものとみなされ宗教的になるが麻薬はそうではないとしている<ref>ウィリアム・バロウズ 『裸のランチ』 鮎川信夫訳、河出書房、2003年。ISBN 978-4309462318。8-9頁。 |
ハーバード大学の幻覚剤の研究者である[[ティモシー・リアリー]]の意識革命の理論の素地となり、リアリーの後継的な存在であるの[[テレンス・マッケナ]]にも大きな影響を与えた<ref name="知覚の扉159" />。同じような頃、世界中で麻薬の使用実態を調べ実際に摂取していた<ref name="FLASHBACKS-117" />作家の[[ウィリアム・S・バロウズ]]は、友人の[[アレン・ギンズバーグ]]に[[アヤワスカ]]の体験について手紙を送っている<ref name="知覚の扉159" />。バロウズによれば中毒性の強い[[モルヒネ]]や[[阿片]]を麻薬と呼んで、幻覚剤と区別し、あらゆる幻覚剤は使用者に聖なるものとみなされ宗教的になるが麻薬はそうではないとしている<ref>ウィリアム・バロウズ 『裸のランチ』 鮎川信夫訳、河出書房、2003年。ISBN 978-4309462318。8-9頁。 ''the naked lunch'', 1959.</ref>。 |
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1956年、ハクスリーとの文通でハンフリー・オズモンドが[[サイケデリック]]という言葉を思いついた |
1956年、ハクスリーとの文通でハンフリー・オズモンドが[[サイケデリック]]という言葉を思いついた{{sfn|サイケデリック・ドラッグ|1979|p=28}}。翌年1957年に、精神分析学会でこの言葉を紹介した<ref>ロバート・アントン・ウィルソン『コスミック・トリガー-イリュミナティ最後の秘密』 武邑光裕訳、八幡書店、1994年。42頁。ISBN 978-4893503176。 ''cosmic trigger'', 1977.</ref>。 |
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1959年に最初のLSDの国際会議が開かれたとき、CIAはLSDは人の精神を狂気に追いやると主張し、創造性を高めるといった心理学者による主張を否定した |
1959年に最初のLSDの国際会議が開かれたとき、CIAはLSDは人の精神を狂気に追いやると主張し、創造性を高めるといった心理学者による主張を否定した{{sfn|アシッド・ドリームス|pp=73-75}}。 |
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LSDは[[1953年]]に発表された[[デオキシリボ核酸|DNA]]の二重らせん構造の着想を与えた<ref>[http://wiredvision.jp/archives/200601/2006012006.html LSDを学問的に論じる国際シンポジウム(下)] (WIRED VISION 2006年1月20日)</ref>。LSDは、芸術家の[[アンディ・ウォーホル]]のアートにも影響を与えた<ref>[http://www.swissinfo.ch/eng/swissinfo.html?siteSect=43&sid=543152 LSDの発明者、ホフマン氏を訪ねて] (swissinfo, January 12, 2001 - 2:58 PM)</ref>。 |
LSDは[[1953年]]に発表された[[デオキシリボ核酸|DNA]]の二重らせん構造の着想を与えた<ref>[http://wiredvision.jp/archives/200601/2006012006.html LSDを学問的に論じる国際シンポジウム(下)] (WIRED VISION 2006年1月20日)</ref>。LSDは、芸術家の[[アンディ・ウォーホル]]のアートにも影響を与えた<ref>[http://www.swissinfo.ch/eng/swissinfo.html?siteSect=43&sid=543152 LSDの発明者、ホフマン氏を訪ねて] (swissinfo, January 12, 2001 - 2:58 PM)</ref>。 |
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1960年代、[[ハーバード大学 |
1960年代、[[ハーバード・シロシビン計画|ハーバード大学で幻覚剤の研究]]を行っていた心理学者の[[ティモシー・リアリー]]が、[[コンコード刑務所実験|刑務所の受刑者に対して行った臨床実験]]では、シロシビンの摂取によって神や愛について語られるようになり対立がなくなった{{sfn|マーティン・トーゴフ|2007|p=121}}。ハーバード大学の研究者らは、次第に[[チベット仏教]]の経典の一つである『チベット死者の書』が幻覚剤の起こす幻覚体験のガイド本として非常に役に立つものだという見解に至り、幻覚剤を用いる内容に書き直し『[[チベット死者の書サイケデリック・バージョン]]』<ref>ティモシー・リアリー、リチャード・アルパート、ラルフ・メツナー 『チベットの死者の書-サイケデリック・バージョン』 [[菅靖彦]]訳、1994年。ISBN 978-4893503190。 ''The Psychedelic Experience'', 1964.</ref>として出版している。この本には、ティモシー・リアリーが研究してきたセットとセッティングの理論の、幻覚剤の摂取体験に際して、幻覚剤の選択と投与量や自他の心構えと周囲の環境が重要であるということについても書かれている。1960年代には、LSDが大量に流通し幻覚体験が[[ヒッピー]]ムーブメントの素地となっていた。こうしたムーブメントは[[サマー・オブ・ラブ]]とも呼ばれる。LSDはアシッドと俗称され[[サイケデリック・ロック|アシッド・ロック]]といった音楽シーンも作り出した。40万人を導引した[[ロックフェスティバル]]の[[ウッドストック・フェスティバル]]でもLSDが流通したといわれる。 |
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1965年に、LSDを体験したオーガスタス・オーズリーは大学を中退しLSDの工場をつくり、オーズリーブルースと呼ばれるバッドマンの絵が描かれた高品質のLSDを安価を製造し世界中に流通した<ref>トム・ウルフ 『クール・クールLSD交感テスト』 飯田隆昭訳、1971年。201-203頁</ref>。LSDは1966年にアメリカの法律で禁止された。オーズリーがFBIに逮捕されると、スカリーとオーズリーの弟のティムがその意思を引き継ぎ、オレンジサンシャインという名で流通させたが、起訴されたときにはスカリーはLSDの摂取によって心が優しくなるので流通させたとし、また製造したのはLSDではなくALD52という近似の化学構造を持った物質であると主張した |
1965年に、LSDを体験したオーガスタス・オーズリーは大学を中退しLSDの工場をつくり、オーズリーブルースと呼ばれるバッドマンの絵が描かれた高品質のLSDを安価を製造し世界中に流通した<ref>トム・ウルフ 『クール・クールLSD交感テスト』 飯田隆昭訳、1971年。201-203頁</ref>。LSDは1966年にアメリカの法律で禁止された。オーズリーがFBIに逮捕されると、スカリーとオーズリーの弟のティムがその意思を引き継ぎ、オレンジサンシャインという名で流通させたが、起訴されたときにはスカリーはLSDの摂取によって心が優しくなるので流通させたとし、また製造したのはLSDではなくALD52という近似の化学構造を持った物質であると主張した{{sfn|アシッド・ドリームス|pp=275-279, 333}}。 |
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ジョン・グリッグスはティモシー・リアリーの著書を読み、永遠なる愛の |
ジョン・グリッグスはティモシー・リアリーの著書を読み、[[永遠なる愛の共同体]]というLSDとマリファナを安価に流通させる組織を結成し、組織は国際的な麻薬流通組織となったが、グリッグスは猛毒の[[ストリキニーネ]]の混ざったシロシビンを摂取して死亡した<ref>ティモシー・リアリー 『フラッシュバックス-ティモシー・リアリー自伝』 山形浩生訳、久霧亜子訳、明石綾子訳、森本 正史訳、松原永子訳、1995年。ISBN 978-4845709038。405-406頁。 ''FLASHBACKS'', 2nd edition, 1990.</ref>。ストリキニーネの混じった麻薬は殺害を目的として渡されるものである<ref>ウィリアム・バロウズ 『裸のランチ』 鮎川信夫訳、河出書房、2003年。ISBN 978-4309462318。22頁。 ''the naked lunch'', 1959.</ref>。後にCIAのロナルド・スタークが永遠なる愛の共同体の代表となり、スイスの隠し金庫に稼ぎを預金していた。LSDの安価な製造法を開発し永遠の愛の兄弟団にその製造法を提供したリチャード・ケンプは、永遠なる愛の共同体の後継として1970年代にイギリスでLSDを流通させ、1970年代半ばに逮捕されたが、その裁判の公判記録によって安価なLSDの製造法が広まっていった{{sfn|アシッド・ドリームス|pp=333-334}}。歌手の[[ジョン・レノン]]は、暗殺される直前にCIAはLSDによってわたしたちをコントロールしようとしたが結果として自由を与えた言っている{{sfn|アシッド・ドリームス|pp=333-334}}。 |
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ニューメキシコ大学のリック・ストラスマンによれば、60人の被験者の半数近くがDMTの摂取によって地球外生物に遭遇したと主張している |
ニューメキシコ大学のリック・ストラスマンによれば、60人の被験者の半数近くがDMTの摂取によって地球外生物に遭遇したと主張している{{sfn|ジョン・ホーガン|2004|pp=252-253}}。テレンス・マッケナは、DMTがエイリアンと遭遇する次元を誘発すると考えていた<ref name="compsy">キャシー・ソコル「コンピュータと人と幻覚剤」樋口真理訳『エスクワイア日本語版』1998年3月、46-52頁。</ref>。脳科学者でLSDやケタミンの研究を行っていた[[ジョン・C・リリー]]はケタミンの摂取によって、地球外知性体とコンタクトしたと述べている<ref>J・リリィ、F・ジェフリー 『ジョン・C・リリィ生涯を語る』 中田周作訳、ちくま学芸文庫。358-369頁。</ref>。アヤワスカの摂取によって異次元に行き、体の半分が人間以外の生物であるような存在に接触するといわれる<ref>[[グラハム・ハンコック]]、エハン デラヴィ『人類の発祥、神々の叡智、文明の創造、すべての起源は「異次元(スーパーナチュラル)」にあった』 徳間書店、2006年10月、ISBN 978-4198622466。</ref>。 |
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1970年代には、テレンス・マッケナが、マジックマッシュルームの栽培に関する本を出版し、アメリカでこうしたキノコの入手が容易になっていった。テレンス・マッケナは、リアリー本人にも「1990年代のティモシー・リアリー」と呼ばれるほどこうした意識革命の文化に影響力をもった存在になっていった |
1970年代には、テレンス・マッケナが、マジックマッシュルームの栽培に関する本を出版し、アメリカでこうしたキノコの入手が容易になっていった。テレンス・マッケナは、リアリー本人にも「1990年代のティモシー・リアリー」と呼ばれるほどこうした意識革命の文化に影響力をもった存在になっていった{{sfn|マーティン・トーゴフ|2007|p=465}}。 |
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1960年代のLSDによる[[カウンター・カルチャー]]の若者は、コンピュータや先端科学も利用するカウンター・カルチャーである[[サイバーパンク]]へと変容していった<ref>清野栄一・構成「特別インタビューティモシー・リアリー&伊藤譲一-コンピュータで脳をぶっ飛ばせ!」『GQ JAPAN』1993年11月</ref>。また、このリアリーを発端とする意識の自由を求める思想は1980年代以降も有力に機能しているとも評価されている<ref>[[東浩紀]]「サイバースペースはなぜそう呼ばれるか」『情報環境論集S』2007年8月。ISBN 978-4062836265。</ref>。[[WIRED (雑誌)|WIRED]]といった雑誌やウェブサイトでその流れが継続されている。 |
1960年代のLSDによる[[カウンター・カルチャー]]の若者は、コンピュータや先端科学も利用するカウンター・カルチャーである[[サイバーパンク]]へと変容していった<ref>清野栄一・構成「特別インタビューティモシー・リアリー&伊藤譲一-コンピュータで脳をぶっ飛ばせ!」『GQ JAPAN』1993年11月</ref>。また、このリアリーを発端とする意識の自由を求める思想は1980年代以降も有力に機能しているとも評価されている<ref>[[東浩紀]]「サイバースペースはなぜそう呼ばれるか」『情報環境論集S』2007年8月。ISBN 978-4062836265。</ref>。[[WIRED (雑誌)|WIRED]]といった雑誌やウェブサイトでその流れが継続されている。 |
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1990年前後にはインドの[[ゴア州|ゴア]]でしばしばLSDを用いて行われていた[[ゴアトランス]]などのダンス・パーティが[[サイケデリックトランス]]へと発展した。 |
1990年前後にはインドの[[ゴア州|ゴア]]でしばしばLSDを用いて行われていた[[ゴアトランス]]などのダンス・パーティが[[サイケデリックトランス]]へと発展した。 |
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===21世紀=== |
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薬物規制分類のスケジュールIとは、医学的検証のない薬物の規制分類であり、1960年代のムードでは幻覚を生じさせるというだけで医学的研究を行わないままに、幻覚剤はこのような分類に押し込まれた{{sfn|テレンス・マッケナ|2003|p=314}}。 |
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作家の[[オルダス・ハクスリー]]は、著書『知覚の扉』の中で、ケンブリッジ大学の哲学者[[C・D・ブロード]]が哲学者の[[アンリ・ベルクソン]]を解釈した説をよりどころとしている<ref name="知覚の扉">オルダス・ハクスリー 『知覚の扉』 河村錠一郎訳、平凡社《平凡社ライブラリー》、1995年9月、159-168頁。ISBN 978-4582761153。(原著 ''The Doors of Perception 1954 & Heaven and Hell'', 1956)</ref>。人間は本来宇宙のあらゆることが知覚できるが、脳などの「減量バルブ」を通して個体の生存のために必要な情報だけに絞っている<ref name="知覚の扉" />。しかし、精神修行やメスカリンなどによってそれをバイパスさせ、超感覚的な知覚や異常な色彩感覚などを体験すると説明した<ref name="知覚の扉" />。リアリーによれば、そういった減量バルブは日常的な行動を起こすためには必要な機能である<ref>ティモシー・リアリー「ニューエイジの現在形」菅靖彦・インタービュアー『イマーゴ』1993年11月、198-207頁。</ref> |
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21世紀に入り、既存の[[精神科の薬]]の治療効果の限界から再び幻覚剤に注目が集まって研究が行われており、サイケデリック・ルネッサンスと呼ばれている。 |
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また、オルダス・ハクスリーは、幻覚剤は『[[聖書]]』に出てくる[[知恵の樹]]の実で[[バチカン]]などの意識の管理者が使用を阻止してきた物質であり<ref>ティモシー・リアリー 『フラッシュバックス-ティモシー・リアリー自伝』 山形浩生訳、久霧亜子訳、明石綾子訳、森本 正史訳、松原永子訳、1995年。ISBN 978-4845709038。66頁。(原著 ''FLASHBACKS'', 2nd edition, 1990)</ref>、聖職者が歴史を通じて容赦なく弾圧してきたものである<ref>マーティン・トーゴフ 『ドラッグ・カルチャー-アメリカ文化の光と影(1945〜2000年)』 宮家あゆみ訳、清流出版2007年。ISBN 978-4860292331。125頁。(原著 ''Can't Find My Way Home'', 2004)</ref>。リアリーによれば、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教においては自分自身で考える人間が増え無秩序な状態になることを阻止して簡単なルールを教え、それを守らせることで秩序を保つことが権威者の目的であったので、意識を変化させる顕微鏡や望遠鏡、幻覚性のある植物を禁止してきたということである<ref>ティモシー・リアリー「新化するヒューマンカルチャー」『テクノカルチャー・マトリクス』96-97頁。1994年4月。ISBN 978-4871882590。</ref>。しかし、幻覚剤は大量の未知の情報のカオスをもたらし<ref>マーティン・トーゴフ 『ドラッグ・カルチャー-アメリカ文化の光と影(1945〜2000年)』 宮家あゆみ訳、清流出版2007年。ISBN 978-4860292331。467頁。(原著 ''Can't Find My Way Home'', 2004)</ref>、そうしたカオスは脳を再プログラミングする状態に整えてしまうという<ref>菅靖彦「Timothy Learyカオスの美学」『STUDIO VOICE』216号、1993年12月号、43頁。</ref> |
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課題は資金であった。治験のための近代的な[[ランダム化比較試験]] (RCT) を実施するには、数百万ドルの費用を要し、本来は実施するためには特許による市場独占(製薬会社などによる開発)が必要であり、さらには国際的な規制がこれをさらに高額にする{{sfn|Past and future|2017}}。しかし、LSDやシロシビンでは特許が失効しており臨床試験は実施しがたいと思われていたが、社会的情勢の変化を反映してアメリカや欧州の団体は研究資金を提供しはじめ、このような運動は大衆の創造力を駆り立てる幻覚剤の魅力とソーシャルメディアとが組み合わさって進展してきた{{sfn|Past and future|2017}}。こうして現代的な手法(RCT)で有効性を安全性を実証すれば、規制の再分類が続くと考えられる{{sfn|Past and future|2017}}。 |
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LSDを合成した化学者の[[アルバート・ホフマン (化学者)|アルバート・ホフマン]]は、幻覚剤による恍惚状態は宗教的な[[悟り]]に似ており、自我と外界との境界が取り払われ、創造主と被造物という[[二元論]]ではなく生命が一つであるということを体験させるので、[[瞑想]]を補助するのに使われるのがふさわしいと述べている<ref>A.ホッフマン『LSD-幻想世界への旅』 堀正訳、榎本博明訳、福屋武人、新曜社、1984年、ISBN 978-4788501829。249、260頁、262。(原著 ''LSD-MEIN SORGENKIND'', 1979)</ref>。 |
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アメリカの[[リック・ドブリン]]率いる{{仮リンク|幻覚剤研究学際協会|en|Multidisciplinary Association for Psychedelic Studies}} (MAPS)、イギリスの[[アマンダ・フィールディング]]率いる[[ベックリー財団]]は、情報提供とコミュニティの形成を通じて、こうした研究のための資金集めを行い、実際に研究を実施してきた。 |
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[[デヴィッド・アール・ニコルズ]]は幻覚剤の研究者で、{{仮リンク|灰色市場|en|grey market}}[[デザイナードラッグ]]の生産者はニコルズの著作物が新しいデザイナードラッグを生み出すのに「特に有用な」手引きだと形容した<ref>{{cite web|last=Whalen|first=Jeanne|title=In Quest for 'Legal High,' Chemists Outfox Law|url=http://online.wsj.com/article/SB10001424052748704763904575550200845267526.html|date=Oct 30, 2010|work=[[The Wall Street Journal]]|accessdate=10 September 2013}}</ref>。{{仮リンク|25I-NBOMe|en|25I-NBOMe}}は、彼が生み出し、新型のLSDとして2010年代に規制されたもののひとつである。実際に強い効果を生じる量よりも少ない、ごく少量を摂取する[[幻覚剤のマイクロドージング]]は、2010年代の流行である<ref name="非合法化から50年">{{cite web |author=Jesse Jarnow |title=非合法化から50年 LSDの今:サイケデリック・ルネサンスはLSDをどう変えたのか |url=http://rollingstonejapan.com/articles/detail/27136 |date=2016-11025 |publisher=Rolling Ston 日本版 |accessdate=2017-4-22}}</ref>。 |
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==哲学的考察== |
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作家の[[オルダス・ハクスリー]]は、著書『知覚の扉』の中で、ケンブリッジ大学の哲学者[[C・D・ブロード]]が哲学者の[[アンリ・ベルクソン]]を解釈した説をよりどころとしている<ref name="知覚の扉">オルダス・ハクスリー 『知覚の扉』 河村錠一郎訳、平凡社《平凡社ライブラリー》、1995年9月、159-168頁。ISBN 978-4582761153。 ''The Doors of Perception 1954 & Heaven and Hell'', 1956.</ref>。人間は本来宇宙のあらゆることが知覚できるが、脳などの「減量バルブ」を通して個体の生存のために必要な情報だけに絞っている<ref name="知覚の扉" />。しかし、精神修行やメスカリンなどによってそれをバイパスさせ、超感覚的な知覚や異常な色彩感覚などを体験すると説明した<ref name="知覚の扉" />。リアリーによれば、そういった減量バルブは日常的な行動を起こすためには必要な機能である<ref>ティモシー・リアリー「ニューエイジの現在形」菅靖彦・インタービュアー『イマーゴ』1993年11月、198-207頁。</ref> |
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また、オルダス・ハクスリーは、幻覚剤は『[[聖書]]』に出てくる[[知恵の樹]]の実で[[バチカン]]などの意識の管理者が使用を阻止してきた物質であり<ref>ティモシー・リアリー 『フラッシュバックス-ティモシー・リアリー自伝』 山形浩生訳、久霧亜子訳、明石綾子訳、森本 正史訳、松原永子訳、1995年。ISBN 978-4845709038。66頁。 ''FLASHBACKS'', 2nd edition, 1990.</ref>、聖職者が歴史を通じて容赦なく弾圧してきたものである{{sfn|マーティン・トーゴフ|2007|p=125}}。リアリーによれば、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教においては自分自身で考える人間が増え無秩序な状態になることを阻止して簡単なルールを教え、それを守らせることで秩序を保つことが権威者の目的であったので、意識を変化させる顕微鏡や望遠鏡、幻覚性のある植物を禁止してきたということである<ref>ティモシー・リアリー「新化するヒューマンカルチャー」『テクノカルチャー・マトリクス』96-97頁。1994年4月。ISBN 978-4871882590。</ref>。しかし、幻覚剤は大量の未知の情報のカオスをもたらし{{sfn|マーティン・トーゴフ|2007|p=467}}、そうしたカオスは脳を再プログラミングする状態に整えてしまうという<ref>菅靖彦「Timothy Learyカオスの美学」『STUDIO VOICE』216号、1993年12月号、43頁。</ref> |
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LSDを合成した化学者の[[アルバート・ホフマン (化学者)|アルバート・ホフマン]]は、幻覚剤による恍惚状態は宗教的な[[悟り]]に似ており、自我と外界との境界が取り払われ、創造主と被造物という[[二元論]]ではなく生命が一つであるということを体験させるので、[[瞑想]]を補助するのに使われるのがふさわしいと述べている{{sfn|A・ホッフマン|1984|pp=249, 260, 262}}。 |
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==心理療法== |
==心理療法== |
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{{See also|en:Psychedelic therapy}} |
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1986年に幻覚剤の研究協会のMAPS<ref>[http://www.maps.org/ Multidisciplinary Association for Psychedelic Studies] {{en icon}}</ref>や、1993年にメスカリンの発見者の名を冠したヘフター調査研究会<ref>[http://www.heffter.org/ Heffter Research Institute] {{en icon}}</ref>が設立されている。 |
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1986年に幻覚剤の研究協会のMAPS<ref>[http://www.maps.org/ Multidisciplinary Association for Psychedelic Studies] {{en icon}}</ref>や、1993年にメスカリンの発見者の名を冠した{{仮リンク|へフター調査研究所|en|Heffter Research Institute}}<ref>[http://www.heffter.org/ Heffter Research Institute] {{en icon}}</ref>が設立されている。 |
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ロシアの薬物乱用の専門治療を行う精神科医のエフゲニー・クルピツキーは20年間にわたり、麻酔薬のケタミンを幻覚剤として利用するアルコール依存症の治療を行ってきたが、111人の被験者のうち66%が少なくとも1年間禁酒を継続し、対象群では24%であった |
ロシアの薬物乱用の専門治療を行う精神科医のエフゲニー・クルピツキーは20年間にわたり、麻酔薬のケタミンを幻覚剤として利用するアルコール依存症の治療を行ってきたが、111人の被験者のうち66%が少なくとも1年間禁酒を継続し、対象群では24%であった{{sfn|ジョン・ホーガン|2004|p=210}}などのいくつかの報告<ref>E. M. Krupitsky et al. "[http://www.eleusis.us/resource-center/references/acamethod.php The Combination of Psychedelic and Aversive Approaches in Alcoholism Treatment: The Affective Contra-Attribution Method]" ''Alcoholism Treatment Quarterly'' 9(1), 1992</ref><ref>E. M. Krupitsky et al. [http://www.eleusis.us/resource-center/references/kpt10yrs.php Ketamine Psychedelic Therapy (KPT): A Review of the Results of Ten Years of Research] ''J Psychoactive Drugs.'' 1997 Apr-Jun;29(2), pp165-83. Review.</ref>がある。また、ケタミンはヘロインの依存症患者に対しても薬物の利用を中断する効果が見られた<ref> |
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Krupitsky EM, Burakov AM, Dunaevsky IV et al. "Single versus repeated sessions of ketamine-assisted psychotherapy for people with heroin dependence" ''J Psychoactive Drugs'' 39(1), 2007 Mar, pp13-9. PMID 17523581</ref><ref>E. M. Krupitsky et al. [http://www.eleusis.us/resource-center/references/ketamine-psychotherapy-heroin.pdfKetamine psychotherapy for heroin addiction: immediate effects and two-year follow-up] (PDF),''Journal of Substance Abuse Treatment''23, 2002, pp273-283</ref>。アヘンの禁断症状を減衰させるという報告もある<ref>Jovaisa T, Laurinenas G, Vosylius S, Sipylaite J, Badaras R, Ivaskevicius J (2006). "Effects of ketamine on precipitated opiate withdrawal". Medicina (Kaunas) 42 (8): pp625-34. PMID 16963828</ref>。1990年代の研究では、アヤワスカの摂取によって、アルコールや麻薬の常習や暴力行為を減らす傾向が見られた |
Krupitsky EM, Burakov AM, Dunaevsky IV et al. "Single versus repeated sessions of ketamine-assisted psychotherapy for people with heroin dependence" ''J Psychoactive Drugs'' 39(1), 2007 Mar, pp13-9. PMID 17523581</ref><ref>E. M. Krupitsky et al. [http://www.eleusis.us/resource-center/references/ketamine-psychotherapy-heroin.pdfKetamine psychotherapy for heroin addiction: immediate effects and two-year follow-up] (PDF),''Journal of Substance Abuse Treatment''23, 2002, pp273-283</ref>。アヘンの禁断症状を減衰させるという報告もある<ref>Jovaisa T, Laurinenas G, Vosylius S, Sipylaite J, Badaras R, Ivaskevicius J (2006). "Effects of ketamine on precipitated opiate withdrawal". Medicina (Kaunas) 42 (8): pp625-34. PMID 16963828</ref>。1990年代の研究では、アヤワスカの摂取によって、アルコールや麻薬の常習や暴力行為を減らす傾向が見られた{{sfn|ジョン・ホーガン|2004|p=213}}。 |
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MAPSの支援でPTSDや末期ガン患者の心理的な不安症状に対してMDMAの投与研究が行われた<ref>[http://wired.jp/wv/archives/2004/10/01/%E5%B9%BB%E8%A6%9A%E5%89%A4%E3%81%AE%E6%B2%BB%E7%99%82%E8%87%A8%E5%BA%8A%E8%A9%A6%E9%A8%93%E3%80%81%E6%9C%AC%E6%A0%BC%E5%8C%96%E3%81%B8%E4%B8%8A/ 幻覚剤の治療臨床試験、本格化へ(上)] (WIRED.jp、2004年10月1日)</ref>。 |
MAPSの支援でPTSDや末期ガン患者の心理的な不安症状に対してMDMAの投与研究が行われた<ref>[http://wired.jp/wv/archives/2004/10/01/%E5%B9%BB%E8%A6%9A%E5%89%A4%E3%81%AE%E6%B2%BB%E7%99%82%E8%87%A8%E5%BA%8A%E8%A9%A6%E9%A8%93%E3%80%81%E6%9C%AC%E6%A0%BC%E5%8C%96%E3%81%B8%E4%B8%8A/ 幻覚剤の治療臨床試験、本格化へ(上)] (WIRED.jp、2004年10月1日)</ref>。 |
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2008年にはMAPSの支援でLSDを病で死を目前にし精神的な意味を求めている患者に投与する研究が行われる<ref>[http://www.swissinfo.ch/jpn/science_technology/detail.html?siteSect=511&sid=8590193&cKey=1199430329000&ty=st LSDをガン末期症状の患者に投与する試み。] (swissinfo、2008年1月7日-15:26)</ref>。 |
2008年にはMAPSの支援でLSDを病で死を目前にし精神的な意味を求めている患者に投与する研究が行われる<ref>[http://www.swissinfo.ch/jpn/science_technology/detail.html?siteSect=511&sid=8590193&cKey=1199430329000&ty=st LSDをガン末期症状の患者に投与する試み。] (swissinfo、2008年1月7日-15:26)</ref>。 |
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== 他の幻覚剤 == |
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{{See also|en:List of psychedelic drugs}} |
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;ケミカルドラッグ |
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<!--頻繁に言及されるものを載せてください--> |
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* [[LSD (薬物)|リゼルグ酸ジエチルアミド]]:LSD(俗称アシッド) |
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* [[フェンサイクリジン]]:PCP(俗称エンジェルダスト) |
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* [[ケタミン]]:[[解離性麻酔薬]](俗称スペシャルK) |
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* [[ジゾシルピン]]:MK-801([[NMDA型グルタミン酸受容体#アゴニスト・アンタゴニスト|NMDA受容体アンタゴニスト]]/[[統合失調症]]の[[モデル生物|モデル動物]]を作成する際に使用される) |
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;ナチュラルドラッグ (括弧内は成分名) |
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* [[マジックマッシュルーム]] ([[シロシビン]]) |
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* [[ペヨーテ]] ([[メスカリン]]) |
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* [[アヤワスカ]] ([[ハルマリン]]、[[ジメチルトリプタミン]]:DMT) |
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* [[サルビア・ディビノラム]] (サルビノリンA) |
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* [[ベニテングタケ]] ([[イボテン酸]]、[[ムッシモール]]) |
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* エペナ樹脂、ヨポ ([[ジメチルトリプタミン]]:DMT) |
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* モーニング・グローリー、オロリウキ ([[リゼルグ酸アミド]]:LSA) |
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* イボガ ([[イボガイン]]) |
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;デザイナードラッグ |
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* [[メチレンジオキシメタンフェタミン]]:MDMA(俗称エクスタシー) |
* [[メチレンジオキシメタンフェタミン]]:MDMA(俗称エクスタシー) |
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* [[MDA]] |
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* [[α-メチルトリプタミン]]:AMT |
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* [[METHYLONE]] |
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* [[5-MeO-DMT]] |
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* [[2,5-ジメトキシ-4-エチルアンフェタミン]]:TMA |
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* [[TMA-2]] |
* [[TMA-2]] |
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==出典== |
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==参考文献== |
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* [[デザイナードラッグ]] |
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*{{Cite book|和書|author=ジョン・ホーガン||title=科学を捨て、神秘へと向かう理性|translator=竹内薫 |publisher=徳間書店|date=2004|isbn=4-19-861950-6|ref=harv}} ''Rational mysticism'', 2003. |
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* [[サイケデリック]] |
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*{{Cite book|和書|author=テレンス・マッケナ|translator=小山田義文、中村功|title=神々の糧―太古の知恵の木を求めて|publisher=第三書館;|date=2003|isbn=4-8074-0324-9|ref=harv}} ''Food of Gods'', 1992 |
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* [[ヒッピー]] |
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*{{Cite book|和書|author=マーティン・A.リー、ブルース・シュレイン|translator=越智道雄|title=アシッド・ドリームズ―CIA、LSD、ヒッピー革命|publisher=第三書館|date=1992|isbn=4-8074-9203-9|ref={{sfnRef|アシッド・ドリームス}} }} ''Acid Dreams: The CIA, LSD, and the Sixties Rebellion'', 1985. |
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* [[薬物乱用]] |
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*{{Cite book|和書|author=マーティン・トーゴフ|translator=宮家あゆみ|title=ドラッグ・カルチャー-アメリカ文化の光と影(1945~2000年)|publisher=清流出版|date=2007|isbn=978-4-86029-233-1|ref=harv}} ''Can’t Find My Way Home'', 2004. |
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*{{Cite book|和書|author=[[レスター・グリンスプーン]]、ジェームズ・B. バカラー|translator=杵渕幸子、妙木浩之|title=サイケデリック・ドラッグ―向精神物質の科学と文化|publisher=工作舎|date=2000|isbn=4-87502-321-9|ref={{sfnRef|サイケデリック・ドラッグ|1979}} }} ''Psychedelic Drugs Reconsidered'', 1979 |
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== 関連項目 == |
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*[[オルダス・ハクスリー]] |
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*[[アルバート・ホフマン (化学者)|アルバート・ホフマン]] |
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*[[ロバート・ゴードン・ワッソン]] |
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*[[ティモシー・リアリー]] |
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*[[テレンス・マッケナ]] |
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*[[ロバート・アントン・ウィルソン]] |
*[[ロバート・アントン・ウィルソン]] |
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*{{仮リンク|ジョナサン・オット|en|Jonathan Ott}} |
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*[[バーニングマン]] |
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==参考文献== |
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*[[トリップシッター]] |
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*[[テレンス・マッケナ]] 『神々の糧』 小山田義文訳、中村功訳、2003年。ISBN 978-4807403240。 (原著 food of the gods, 1992) |
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*[[レスター・グリンスプーン]]、ジェームズ・B. バカラー 『サイケデリック・ドラッグ-向精神物質の科学と文化』 杵渕幸子訳、妙木浩之訳、工作舎、2000年。ISBN 978-4875023210。 |
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*ジョン・ホーガン 『科学を捨て、神秘へと向かう理性』 [[竹内薫]]訳、徳間書店、2004年11月。ISBN 978-4198619503。(原著 Rational mysticism, 2003) |
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*マーティン・A.リー、ブルース・シュレイン 『アシッド・ドリームズ-CIA、LSD、ヒッピー革命』越智道雄訳、第三書館、1992年、ISBN 978-4807492039。(原著 ACID DREAMS The CIA, LSD and the Sixties, and Beyond, 1985) |
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==外部リンク== |
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*[http:// |
*[http://www.erowid.org/ Erowid] {{en icon}} 総合情報サイト[[エロウィド]] |
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*<!-- name="pmid27454674"-->{{cite journal|last1=Garcia-Romeu|first1=Albert|last2=Kersgaard|first2=Brennan|last3=Addy|first3=Peter H.|coauthors=et al.|title=Clinical applications of hallucinogens: A review.|journal=Experimental and Clinical Psychopharmacology|volume=24|issue=4|pages=229–268|year=2016|pmid=27454674|pmc=5001686|doi=10.1037/pha0000084|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5001686/}} 引用文献550に及ぶ臨床研究のまとめ。 |
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*[http://www.erowid.org/ Erowid] {{en icon}} 総合情報サイト |
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*[http://maps.org/ MAPS: Multidisciplinary Association for Psychedelic Studies] {{en icon}} |
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*[http://www.bekkoame.ne.jp/~alteredim/ オルタードディメンション研究会] |
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2018年2月3日 (土) 12:51時点における版
幻覚剤(げんかくざい)とは、脳神経系に作用して幻覚をもたらす向精神薬のことである。呼称には幻覚剤の原語である中立的なハルシノジェン(Hallucinogen)や、より肯定的に表現したサイケデリックス(Psychedelics)、神聖さを込めたエンセオジェン(Entheogen)がある。その体験はしばしばサイケデリック体験と呼ばれる。体験は、神秘的な、あるいは深遠な体験が多く、神聖さ、肯定的な気分、時空の超越、語りえない(表現不可能)といった特徴を持つことが多い。宗教的な儀式や踊り、シャーマンや精神科医による心理療法に用いられる。宗教、文学作品や音楽、アートといった文化そのものに影響を与えてきた。
典型的な幻覚剤は、LSDや、シロシビンを含むマジックマッシュルーム、メスカリンを含むペヨーテなどのサボテン、DMTとハルミンの組み合わせであるアヤワスカである。MDMAはこれらとは異なる[1]。DSM-5では、ケタミンは解離作用が強いため幻覚剤の下位の別の分類に分けられ、大麻は幻覚剤に含めない。
21世紀に入り臨床試験が再び進行しており、サイケデリック・ルネッサンスと呼ばれる。特にうつ病、不安障害、薬物依存症の治療に使える可能性を示している[2]。継続投与を行わずとも持続的な治療効果を生じている[1]。幻覚剤の使用は、精神的な問題の発生率の低下[3]、自殺思考や自殺企図の低下と関連している[4]。幻覚剤が依存や嗜癖を引き起こすという証拠は非常に限られたものである[2]。
幻覚剤は古来から用いられてきた。20世紀に入ってから幻覚剤の化学合成やそれに伴う研究が展開され、特に1940年代から1960年代に大きく展開した。1960年以降、幻覚剤は乱用が問題視され、所持や使用が法律で禁止されているものも多い。国際的に向精神薬に関する条約で規制されるが、同条約第32条4項によって植物が自生する国における、少数の集団に伝統的に魔術または宗教的な儀式として用いられている場合には、条約の影響は留保される。日本では一部の既存の違法薬物と類似の構造をもつデザイナードラッグが1990年代後半に脱法ドラッグとして流通したが、その後取締りが強化され法律や条例による規制が行われ、規制と新種の登場のいたちごっこを繰り返してきた。
作用
幻覚剤を摂取することによって、意識状態に変容が起こり変性意識状態といった意識の状態に導かれる。しばしば視覚や聴覚や感覚に幻覚を見せ、また聴いた音が視覚に影響するなど共感覚が起こることもある。そして、体験が終わったあとにも精神性に影響を与えることもある。幻覚剤の研究家であるテレンス・マッケナは、幻覚剤は6時間で5年分の心理療法をやってしまうドラッグだと表現している[5]。ハーバード大学での統計では200人ほどのうち、85%が人生においてもっとも啓示に富んだ体験であると感じている[6]。幻覚性のキノコの成分であるシロシビンの体験からは、神秘的な、あるいは深遠な体験が多く、神聖さ、肯定的な気分、時空の超越、語りえない(表現不可能)といった特徴があった[7]。
治療研究の歴史からは、難治性の神経障害、特にうつ病、不安障害、薬物依存症、死と関連した心理的な困難(末期がんなど)に可能性があることを示している[2]。典型的な幻覚剤や、MDMAでは継続的に投与せずとも効果が持続する[1]。
13万人の統計調査から、過去1年間における幻覚剤(LSD、マジックマッシュルーム、メスカリン)の使用者は精神的な問題の発生率の低下に関連していた[3]。約19万人からの統計調査では、典型的な幻覚剤の使用が、自殺思考や自殺計画、自殺企図の低下と関連し、他の違法薬物を使用しないことはさらにこの可能性を高めていた[4]。また約1500人からのオンライン調査では、生涯における典型的な幻覚剤(LSD、マジックマッシュルーム、メスカリン)の使用は、自然とのつながりを感じ環境に配慮した行動に関連する[8]。
一般的な副作用は、不安、吐き気、嘔吐、心拍や血圧の増加である[2]。幻覚剤後知覚障害は、シロシビンやアヤワスカを用いた最近の近代的な臨床試験では報告されていない[2]。
幻覚剤が依存や嗜癖を引き起こすという証拠は非常に限られたものである[2]。耐性は急速に形成され、離脱症状が起こることは確認されていない[2]。精神的依存はまれだと考えられるがそのための研究は少ない[2]。
幻覚剤の種類と歴史
DSM-5では、幻覚剤関連障害の中に、ケタミンを含むフェンサイクリジン類による解離性のある幻覚剤と、それ以外であるLSD、メスカリン、シロシビン、MDMA、ジメチルトリプタミン (DMT) 、サルビアなどに大きく分類しており、大麻は幻覚剤に含めず大麻関連障害として別個である。
植物性のアルカロイドには、幻覚をもたらすものがあり、古来から様々な目的で用いられてきた。天然の植物の状態のものはナチュラルドラッグ、化学合成されたものはケミカルドラッグと呼ばれる。幻覚剤の作用成分は、脳内の神経伝達物質と類似の構造を持っている。
幻覚をもたらす植物の発見や歴史的考察は、JPモルガン銀行の副社長で菌類の研究家であったロバート・ゴードン・ワッソン(以降、R・G・ワッソンと略記する)の貢献が大きい[9]。
自生する植物の利用
アメリカ大陸のシャーマンはアヤワスカという飲料やサボテンのペヨーテを用いている。ペルーでは幻覚成分のメスカリンを含むサボテンのサンペドロがある。アメリカ中西部やメキシコに自生するメスカリンを含むペヨーテは生や乾燥させて食され、サンペドロは煮詰めた成分が摂取される。アマゾン熱帯雨林のシャーマンは、植物を煮出してアヤワスカを作るが、これには、ジメチルトリプタミン(DMT)とモノアミン酸化酵素阻害薬であるハルミンが含まれ、相互作用で効力を発揮する。アヤワスカは2-6時間前後効力を発揮し、その間は自我が停止するといわれる。
中米のメキシコには、幻覚をもたらす成分のシロシビンを含む俗にマジックマッシュルームと呼ばれるキノコが自生し、シャーマンにより宗教儀式や治療に用いられている。アステカのナワトル語で神のキノコという意味のテオナナカトルとも呼ばれる。このようなキノコは、メキシコが16世紀初頭にスペインによって植民地化され、カトリック教会によって規制された。カトリック教会では、こうした幻覚は悪魔がもたらしていると考えたためである。日本に自生する幻覚性のキノコにはワライタケやヒカゲシビレタケがある。日本でも、『今昔物語集』の中でマイタケを食べ幸せな気持ちになって踊りだすというエピソードがあり、こうしたキノコとの関連も言及される。ほかの幻覚成分であるイボテン酸を含むキノコにはベニテングタケがある。
インドのヴェーダという聖典に登場する、霊感を与えるソーマという飲み物には幻覚作用があるといわれ、シロシビンを含むキノコかベニテングタケが入っていたのではないかと考えられている[10]。
古代ギリシャでは、毎年秋にエレウシスの秘儀を行う習慣が1000年以上も続いていた[10]。エレウシスの周辺の池には、リゼルグ酸を含む麦角菌が存在するので、これが幻覚剤としてエレウシスの儀式で使われたのではないかという見解もある[11]。
アフリカでは幻覚成分イボガインを含む植物イボガが宗教儀式に用いられていた。
ほかに。
- モーニング・グローリー、オロリウキ (リゼルグ酸アミド:LSA)
- サルビア・ディビノラム (サルビノリンA)
幻覚剤の歴史研究家
R・G・ワッソンは幻覚剤についての研究考察を出版してきた。それらは1957年にベニテングタケがヨーロッパ民族に与えた影響を調査した Mushrooms, Russia and History、1969年にバラモン教聖典『リグ・ヴェーダ』に登場するソーマはベニテングタケであると主張する『聖なるキノコソーマ』(soma divine mushroom of immortality) 、1974年にメキシコのマジックマッシュルームについて調査である Maria Sabina and her Mazatec Mushroom Velada、1978年にはエレウシスの秘儀と麦角菌の調査である The Road to Eleusis である[9]。R・G・ワッソンの研究以前は植物の存在が公になっていなかったものも多い。
テレンス・マッケナは、『神々の糧』[12]や、『幻覚世界の真実』[13]のような著書でさまざまな幻覚性の植物や薬物について歴史的考察や文化への影響を分析している。
成分の抽出と化学合成
メスカリンは、1898年前後にドイツ人化学者のヘフターが発見し、1919年にE・シュペートが合成した。1912年、ドイツのメルク社がメチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)を合成したが社外に発表されなかった。1938年にスイスのサンドス研究所(現・ノバルティス)の化学者であるアルバート・ホフマンがリゼルグ酸ジエチルアミド(LSD-25)を合成し、その後5年間研究されなかったが1943年に再びとりあげたところ、おそらく指の皮膚から吸収され偶然に幻覚作用が発見された[14]。ホフマンによる幻覚の内容は、視覚に入るものは歪曲し、強烈な色彩が万華鏡のように変化し、音にあわせて視覚が変化するというものであった[15]。
1952年、アメリカの製薬会社であるパーク・デービス社により麻酔薬としてフェンサイクリジン(PCP)が開発された。1956年、チェコの化学者ステファン・ソーラはDMTを合成している[16]。
1950年代に、R・G・ワッソンは、メキシコのインディオの信頼を得て儀式で用いられているキノコを摂取したところ、幾何学模様の幻覚がもたらされた。1957年には、R・G・ワッソンとその妻は『ライフ』誌にその発見を掲載し大衆に広く認知されることとなった[16]。このキノコからパリとアメリカで幻覚をもたらす成分を抽出しようとしたが、成果が出ず、似たような幻覚を起こすLSDを合成したアルバート・ホフマンの元へ送られた。1958年[16]、ホフマンは抽出成分を動物実験で試すが反応が見られないため自分で摂取したところ、抽象的な形と鮮やかな色彩が激しく揺れ動き変化するという幻覚が起こったため幻覚成分として発見され、この成分にシロシンとシロシビンという名前をつけた[17]。ホフマンによれば、シロシン、シロシビンとLSDは似たような物質で違いといえば作用量と作用時間であり、LSDが8-12時間、シロシビンは4-6時間作用し、どれも脳内物質のセロトニンと近似の物質である[18]。
1962年にはパーク・デービス社はPCPの代用物として麻酔薬のケタミンを合成している[19]。ケタミンは一般的には獣医で用いられる麻酔薬だが、1時間ほど自我を停止させるという体験をもたらすとされる。
1960年代に、化学者のアレクサンダー・サーシャ・シュルギンがMDMAを合成したが他の強い作用をもたらす化合物を探していたため研究されず、1973年に別の研究者がサーシャの方法で合成し広まっていった[20]。 サーシャは、既存のドラッグの分子構造を若干変えた薬物であるデザイナードラッグを多く作り出したが、その中に幻覚剤も多く含まれている。サーシャは200種類あまりの幻覚成分やデザイナードラッグの合成方法や心理的な研究結果についてまとめた代表的な著作 PiHKAL[21] と TiHKAL[22] を出版している。デザイナードラッグのひとつである2-CBは、量が少ないときにはMDMAのような効果で、多い時にはLSDのような幻覚をもたらすともいわれる。
サーシャは2050年までに幻覚剤が新たに2000種類ぐらい増えるのではないかと述べている[23]。
近代文明への影響
1940年代にLSDが研究目的で出回りはじめ、1950年代には精神医学やアメリカ中央情報局(CIA)による洗脳や自白の実験のMKウルトラ計画でとりあげられ、このような研究は極秘で行われていた[24]。R・G・ワッソンがメキシコでキノコの調査をしていたときCIAの諜報部員につきまとわれるということがあり、ワッソンとホフマンによる迅速なシロシビン成分の特定がなければ公にならなかったかもしれないともいわれる[25]。
1950年代には、アルフレッド・M・ハバド大尉が世界平和に貢献すると思い、政治家や科学者や警察など広範に赤字でLSDを配った[26]。ハバド大尉が開発したLSDによる精神療法であるサイコリティック療法を精神科医のオズモンドが広めた[27]。
精神科医のハンフリー・オズモンドにハクスリー自らが幻覚剤のモルモットとなることを申し出[28]、1953年の春、幻覚剤のメスカリンによる実験が開始された[29]。その翌年1954年に『知覚の扉』が出版され、学者一族としての観察精神と作家としての筆の確かさを下地に、神秘主義者の認識と幻覚剤による体験を絵画への言及も通して哲学的に考察した。『知覚の扉』は、60年代の意識革命の発端として評価が高く、 ハーバード大学の幻覚剤の研究者であるティモシー・リアリーの意識革命の理論の素地となり、リアリーの後継的な存在であるのテレンス・マッケナにも大きな影響を与えた[29]。同じような頃、世界中で麻薬の使用実態を調べ実際に摂取していた[6]作家のウィリアム・S・バロウズは、友人のアレン・ギンズバーグにアヤワスカの体験について手紙を送っている[29]。バロウズによれば中毒性の強いモルヒネや阿片を麻薬と呼んで、幻覚剤と区別し、あらゆる幻覚剤は使用者に聖なるものとみなされ宗教的になるが麻薬はそうではないとしている[30]。
1956年、ハクスリーとの文通でハンフリー・オズモンドがサイケデリックという言葉を思いついた[31]。翌年1957年に、精神分析学会でこの言葉を紹介した[32]。
1959年に最初のLSDの国際会議が開かれたとき、CIAはLSDは人の精神を狂気に追いやると主張し、創造性を高めるといった心理学者による主張を否定した[33]。
LSDは1953年に発表されたDNAの二重らせん構造の着想を与えた[34]。LSDは、芸術家のアンディ・ウォーホルのアートにも影響を与えた[35]。
1960年代、ハーバード大学で幻覚剤の研究を行っていた心理学者のティモシー・リアリーが、刑務所の受刑者に対して行った臨床実験では、シロシビンの摂取によって神や愛について語られるようになり対立がなくなった[36]。ハーバード大学の研究者らは、次第にチベット仏教の経典の一つである『チベット死者の書』が幻覚剤の起こす幻覚体験のガイド本として非常に役に立つものだという見解に至り、幻覚剤を用いる内容に書き直し『チベット死者の書サイケデリック・バージョン』[37]として出版している。この本には、ティモシー・リアリーが研究してきたセットとセッティングの理論の、幻覚剤の摂取体験に際して、幻覚剤の選択と投与量や自他の心構えと周囲の環境が重要であるということについても書かれている。1960年代には、LSDが大量に流通し幻覚体験がヒッピームーブメントの素地となっていた。こうしたムーブメントはサマー・オブ・ラブとも呼ばれる。LSDはアシッドと俗称されアシッド・ロックといった音楽シーンも作り出した。40万人を導引したロックフェスティバルのウッドストック・フェスティバルでもLSDが流通したといわれる。
1965年に、LSDを体験したオーガスタス・オーズリーは大学を中退しLSDの工場をつくり、オーズリーブルースと呼ばれるバッドマンの絵が描かれた高品質のLSDを安価を製造し世界中に流通した[38]。LSDは1966年にアメリカの法律で禁止された。オーズリーがFBIに逮捕されると、スカリーとオーズリーの弟のティムがその意思を引き継ぎ、オレンジサンシャインという名で流通させたが、起訴されたときにはスカリーはLSDの摂取によって心が優しくなるので流通させたとし、また製造したのはLSDではなくALD52という近似の化学構造を持った物質であると主張した[39]。
ジョン・グリッグスはティモシー・リアリーの著書を読み、永遠なる愛の共同体というLSDとマリファナを安価に流通させる組織を結成し、組織は国際的な麻薬流通組織となったが、グリッグスは猛毒のストリキニーネの混ざったシロシビンを摂取して死亡した[40]。ストリキニーネの混じった麻薬は殺害を目的として渡されるものである[41]。後にCIAのロナルド・スタークが永遠なる愛の共同体の代表となり、スイスの隠し金庫に稼ぎを預金していた。LSDの安価な製造法を開発し永遠の愛の兄弟団にその製造法を提供したリチャード・ケンプは、永遠なる愛の共同体の後継として1970年代にイギリスでLSDを流通させ、1970年代半ばに逮捕されたが、その裁判の公判記録によって安価なLSDの製造法が広まっていった[42]。歌手のジョン・レノンは、暗殺される直前にCIAはLSDによってわたしたちをコントロールしようとしたが結果として自由を与えた言っている[42]。
ニューメキシコ大学のリック・ストラスマンによれば、60人の被験者の半数近くがDMTの摂取によって地球外生物に遭遇したと主張している[43]。テレンス・マッケナは、DMTがエイリアンと遭遇する次元を誘発すると考えていた[44]。脳科学者でLSDやケタミンの研究を行っていたジョン・C・リリーはケタミンの摂取によって、地球外知性体とコンタクトしたと述べている[45]。アヤワスカの摂取によって異次元に行き、体の半分が人間以外の生物であるような存在に接触するといわれる[46]。
1970年代には、テレンス・マッケナが、マジックマッシュルームの栽培に関する本を出版し、アメリカでこうしたキノコの入手が容易になっていった。テレンス・マッケナは、リアリー本人にも「1990年代のティモシー・リアリー」と呼ばれるほどこうした意識革命の文化に影響力をもった存在になっていった[47]。
1960年代のLSDによるカウンター・カルチャーの若者は、コンピュータや先端科学も利用するカウンター・カルチャーであるサイバーパンクへと変容していった[48]。また、このリアリーを発端とする意識の自由を求める思想は1980年代以降も有力に機能しているとも評価されている[49]。WIREDといった雑誌やウェブサイトでその流れが継続されている。
MDMAは視覚に幻覚はもたらさず、共感性を高めるという特徴がある。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の患者に対して共感性を高めるといわれるMDMAを投与する治療研究が行われた。1984年頃、アメリカのテキサス州で大量生産され流通したが、同年アメリカで違法薬物に認定された。
1980年代後半より、スペインのイビサ島で電子音音楽シーンからアシッド・ハウスとしてLSDが流通する音楽シーンとしてリバイヴァルされた。MDMAは、1980年代後半のイギリスのレイヴシーンに影響を与えた。これはセカンド・サマー・オブ・ラブとも呼ばれる。LSDだけでなくMDMA(エクスタシー)の使用も増加していった。レイヴシーンはその後、アメリカの主にサンフランシスコへ飛び火した。テレンス・マッケナによれば、レイブはハイテク化したヒューマンビーインである[50]。そして、2000年前後には、レイブシーンはドイツのベルリンで100万人以上が参加するラブパレードというイベントにも発展している。
1990年前後にはインドのゴアでしばしばLSDを用いて行われていたゴアトランスなどのダンス・パーティがサイケデリックトランスへと発展した。
21世紀
薬物規制分類のスケジュールIとは、医学的検証のない薬物の規制分類であり、1960年代のムードでは幻覚を生じさせるというだけで医学的研究を行わないままに、幻覚剤はこのような分類に押し込まれた[51]。
21世紀に入り、既存の精神科の薬の治療効果の限界から再び幻覚剤に注目が集まって研究が行われており、サイケデリック・ルネッサンスと呼ばれている。
課題は資金であった。治験のための近代的なランダム化比較試験 (RCT) を実施するには、数百万ドルの費用を要し、本来は実施するためには特許による市場独占(製薬会社などによる開発)が必要であり、さらには国際的な規制がこれをさらに高額にする[2]。しかし、LSDやシロシビンでは特許が失効しており臨床試験は実施しがたいと思われていたが、社会的情勢の変化を反映してアメリカや欧州の団体は研究資金を提供しはじめ、このような運動は大衆の創造力を駆り立てる幻覚剤の魅力とソーシャルメディアとが組み合わさって進展してきた[2]。こうして現代的な手法(RCT)で有効性を安全性を実証すれば、規制の再分類が続くと考えられる[2]。
アメリカのリック・ドブリン率いる幻覚剤研究学際協会 (MAPS)、イギリスのアマンダ・フィールディング率いるベックリー財団は、情報提供とコミュニティの形成を通じて、こうした研究のための資金集めを行い、実際に研究を実施してきた。
デヴィッド・アール・ニコルズは幻覚剤の研究者で、灰色市場デザイナードラッグの生産者はニコルズの著作物が新しいデザイナードラッグを生み出すのに「特に有用な」手引きだと形容した[52]。25I-NBOMeは、彼が生み出し、新型のLSDとして2010年代に規制されたもののひとつである。実際に強い効果を生じる量よりも少ない、ごく少量を摂取する幻覚剤のマイクロドージングは、2010年代の流行である[53]。
哲学的考察
作家のオルダス・ハクスリーは、著書『知覚の扉』の中で、ケンブリッジ大学の哲学者C・D・ブロードが哲学者のアンリ・ベルクソンを解釈した説をよりどころとしている[54]。人間は本来宇宙のあらゆることが知覚できるが、脳などの「減量バルブ」を通して個体の生存のために必要な情報だけに絞っている[54]。しかし、精神修行やメスカリンなどによってそれをバイパスさせ、超感覚的な知覚や異常な色彩感覚などを体験すると説明した[54]。リアリーによれば、そういった減量バルブは日常的な行動を起こすためには必要な機能である[55]
また、オルダス・ハクスリーは、幻覚剤は『聖書』に出てくる知恵の樹の実でバチカンなどの意識の管理者が使用を阻止してきた物質であり[56]、聖職者が歴史を通じて容赦なく弾圧してきたものである[57]。リアリーによれば、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教においては自分自身で考える人間が増え無秩序な状態になることを阻止して簡単なルールを教え、それを守らせることで秩序を保つことが権威者の目的であったので、意識を変化させる顕微鏡や望遠鏡、幻覚性のある植物を禁止してきたということである[58]。しかし、幻覚剤は大量の未知の情報のカオスをもたらし[59]、そうしたカオスは脳を再プログラミングする状態に整えてしまうという[60]
LSDを合成した化学者のアルバート・ホフマンは、幻覚剤による恍惚状態は宗教的な悟りに似ており、自我と外界との境界が取り払われ、創造主と被造物という二元論ではなく生命が一つであるということを体験させるので、瞑想を補助するのに使われるのがふさわしいと述べている[61]。
心理療法
1986年に幻覚剤の研究協会のMAPS[62]や、1993年にメスカリンの発見者の名を冠したへフター調査研究所[63]が設立されている。
ロシアの薬物乱用の専門治療を行う精神科医のエフゲニー・クルピツキーは20年間にわたり、麻酔薬のケタミンを幻覚剤として利用するアルコール依存症の治療を行ってきたが、111人の被験者のうち66%が少なくとも1年間禁酒を継続し、対象群では24%であった[64]などのいくつかの報告[65][66]がある。また、ケタミンはヘロインの依存症患者に対しても薬物の利用を中断する効果が見られた[67][68]。アヘンの禁断症状を減衰させるという報告もある[69]。1990年代の研究では、アヤワスカの摂取によって、アルコールや麻薬の常習や暴力行為を減らす傾向が見られた[70]。
MAPSの支援でPTSDや末期ガン患者の心理的な不安症状に対してMDMAの投与研究が行われた[71]。 2003年には、シロシビンを群発頭痛に治療投与する研究や、ヘフター調査研究会の支援した研究では強迫性障害の患者に対して良好な結果が得られた[72]。 PTSDに対してMDMAを投与する心理療法は何度か行われ良好な結果を得られており、2006年10月よりMAPSの支援により行われた研究では幸福感が高まり心理的トラウマに立ち向かうことができた[73]。 2008年にはMAPSの支援でLSDを病で死を目前にし精神的な意味を求めている患者に投与する研究が行われる[74]。
他の幻覚剤
- メチレンジオキシメタンフェタミン:MDMA(俗称エクスタシー)
- 2C-I
- α-メチルトリプタミン:AMT
- 5-MeO-DMT
- TMA-2
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関連項目
外部リンク
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- 団体