メチレンジオキシメタンフェタミン

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MDMA
IUPAC命名法による物質名
(RS)-1-(benzo[d][1,3]dioxol-5-yl)-N-methylpropan-2-amine
臨床データ
胎児危険度分類 C[1]
法的規制 Prohibited (S9) (AU) Schedule III (CA) CD Lic (UK) Schedule I (US)
投与方法 経口, 舌下腺, 吹き入れ, 吸入蒸気), 注射,[2] 直腸
薬物動態的データ
代謝 肝臓、シトクロムP450オキシダーゼ
半減期 6–10 時間(実際の効果は3–5時間)
排泄 尿
識別
CAS登録番号 69610-10-2
ATCコード None
PubChem CID 1615
ChemSpider 1556
別名 (±)-1,3-benzodioxolyl-N-methyl-2-propanamine;
(±)-3,4-methylenedioxy-N-methyl-α-methyl-2-phenethylamine;
DL-3,4-methylenedioxy-N-methylamphetamine;
methylenedioxymethamphetamine
化学的データ
化学式 C11H15NO2 
分子量 193.25 g/mol

3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン (3,4-methylenedioxymethamphetamine) は、合成麻薬の一種。略称としてMDMA、ほかエクスタシー(EcstasyまたはXTC)という通称を持つ。

心理学者のラルフ・メッツナー英語版がMDMAに対してエンパソーゲン(empathogen、共感をもたらす)という言葉を作った[3]。後により正確な表現としてエンタクトゲン(entactogen、内面のつながりをもたらす)という呼称が提唱され、精神薬理学の分野で採用されている[4]

類似の薬物としてMDA(3,4-メチレンジオキシアンフェタミン)、MDEA(3,4-メチレンジオキシ-N-エチルアンフェタミン)なども知られ、MDMAと同様にエンパソーゲンないしエンタクトゲンへ分類される。

生理的作用[編集]

MDMAは脳内のセロトニン等を過剰に放出させることにより、人間の精神に多幸感、他者との共有感などの変化をもたらすとされる。MDMAを経口的に摂取すると30分から1時間ほどで前述のような精神変容が起こり、それが4~6時間程度持続するとされる。

MDMAを摂取すると、体温をコントロールする機能の喪失による高体温や不整脈などによって重篤な症状を引き起こす場合がある。特に暖かい換気の悪い室内、激しい運動を伴う場合、また大量の発汗を伴い水分補給が十分でない場合などに使用すると合併症を生じやすいとされる。低ナトリウム血症急性腎不全横紋筋融解症などで死亡することもある。また、摂取後に重度の不安(不安障害)、妄想、気分の障害、記憶障害睡眠障害、衝動性の亢進、注意集中の困難などが長期間続くことがある。

乱用と医療用途[編集]

MDMAは1985年まで主にアメリカにおいて心的外傷後ストレス障害 (PTSD) の治療に用いられてきた。PTSDは患者が自身に起きたトラウマ体験を自己の記憶として受容できないことによる疾患だとされているが、MDMAを摂取した状態でカウンセリングを行うことにより、通常の精神状態では許容しがたいトラウマ体験を想起させ、自己に起きた事実であることを受け入れることによって疾患が軽減もしくは治癒するという理論に基づいたものである。こうしたPTSDに対する医療用途に対する報道はアメリカでは広範になされており、2010年に少なくとも138以上のメディアで取り上げられている[5]

しかしMDMAは嗜好品 (recreational drug) としての側面も持ち、濫用が社会問題化したことを受け米国司法省麻薬取締局はMDMAを規制物質法におけるスケジュールI、すなわち濫用性が高く医療用途の見込みのない違法薬物に指定した。現在ではほとんどの国でMDMAは違法薬物とされている。以降MDMAは嗜好品として違法に濫用され続け今日に至るが、依然としてPTSDへの有用性を主張する声も根強く、2001年にはアメリカ食品医薬品局 (FDA) が、2004年にはDEAがPTSD患者へのMDMAの治験を認める措置が取られることとなり、2008年にはフェイズII治験が終了。続いてイスラエル、スイス、カナダでも臨床試験が行われる。しかし依然としてMDMAが濫用性の高い薬物であることには変わりなく、安全性や依存性の検証、濫用防止などクリアしなければならない問題点は多い。

錠剤型麻薬[編集]

錠剤型のMDMA。禁制薬物なので、医薬品なら当然存在する識別用コード番号が打たれていない

「エクスタシー」は本来MDMAを指す隠語である。しかしMDMAは錠剤の形を取って流通する場合が多いため、単に(MDMAを含むと期待される)錠剤型麻薬を総じてエクスタシーと呼ぶことも多い。錠剤型麻薬としては他にも「X」、「E」、「アダム」など多数の俗称を持ち、また日本では、丸い錠剤が多いことから「玉(たま)」、また「X」から転じて「バツ」、「ペケ」の俗称をも持つ。

一般に錠剤型麻薬は違法に製造されるため、MDMA以外の薬物である可能性、また他の成分が混入されている可能性、有害な不純物が残留している可能性などが非常に高く、MDMAの効用を高めるために意図的にパラメトキシアンフェタミンなど、他の薬物を混入することも少なくない。したがって単体としてのMDMAの安全性と錠剤型麻薬の安全性は別個のものとして考えなければならない。錠剤型麻薬の押収量が増加し、世界中で深刻な社会問題となっている。

歴史[編集]

そのダンス音楽との親近性により、1980年代後半からイギリスなどを中心に起こったセカンド・サマー・オブ・ラブブームやレイヴの代名詞として普及する。欧州では近年では価格の低下により若年層への普及が懸念されている。

日本での規制[編集]

日本では、麻薬及び向精神薬取締法によって規制されている。

MDMAの輸入、輸出、製造は1年以上10年以下の懲役。譲受け、譲渡し、所持は7年以下の懲役。施用(しよう、経口摂取など、身体に用いること)は7年以下の懲役となる。
錠剤型麻薬が覚せい剤(アンフェタミンなど)を含んでいた場合、覚せい剤取締法により、譲受け、譲渡し、所持、使用は10年以下の懲役となる。

合成麻薬MDMAは記憶系統の混乱を発生させる要因を作り出す。その作用として神経細胞の破壊及び永続的な(数ヶ月~数年とも言われている)後遺症をもたらす。特に混合成分(合成麻薬と言われる由縁)の内、覚醒剤や亜覚醒剤と併用された場合には複雑な精神面・身体面における害反応があり、前述の多様な記憶障害を引き起こす。

海外で行われたレイヴパーティー等ではときどき死亡者がでているが、全体としては少数である。

脚注[編集]

  1. ^ Stimulants, Narcotics, Hallucinogens - Drugs, Pregnancy, and Lactation., Gerald G. Briggs, OB/GYN News, 1 June 2003.
  2. ^ Methylenedioxymethamphetamine (MDMA, ecstasy)”. Drugs and Human Performance Fact Sheets. National Highway Traffic Safety Administration. 2009年4月16日閲覧。
  3. ^ マーティン・トーゴフ 『ドラッグ・カルチャー-アメリカ文化の光と影(1945~2000年)』 宮家あゆみ訳、清流出版2007年。ISBN 978-4860292331。436頁。
  4. ^ Nichols DE. "Differences between the mechanism of action of MDMA, MBDB, and the classic hallucinogens. Identification of a new therapeutic class: entactogens" J Psychoactive Drugs 18(4), 1986 Oct-Dec, pp. 305-13. PMID 2880944
  5. ^ 138 articles about mdma/ptsd therapy(MAPS、2010年7月30日)