福祉乗車証
福祉乗車証(ふくしじょうしゃしょう)とは、地方自治体がその区域内の住民のうち、高齢者や障害者などの交通弱者やひとり親家庭、生活保護世帯、児童養護施設に入所している児童に対し、社会参加を促し福祉を増進するために発行する、特定の区域や事業者の公共交通機関(鉄道・路線バスなど)が利用可能な乗車証である。高齢者向けのものは敬老パスとも呼ばれる。
発行自治体が運営する公営交通(公営鉄道・公営バス)および発行自治体が出資する第三セクター鉄道、地域を運行する民営バス路線が利用可能となることが多い。市区町村の役所窓口などに申請し、対象者の資格を確認して発行される。発行する自治体や対象により乗車証の名称や様式、発行時や乗車時に別途料金を必要とするか否かには違いがある。
従来の福祉乗車証は、紙式定期券のように乗降車の際に提示する乗車証カードや、一枚ずつ切り離して使う紙式回数券タイプが多かったが、近年ではIC乗車カードの普及に伴い、福祉乗車証にもIC乗車カードを導入する例が増加している。第三者による不正使用や転売の防止に加え、IC乗車カードに搭載されているFelicaチップには大量の情報が書き込み可能なため、ストアードフェアシステムによる正確な利用状況の把握が図れる利点がある[1][2][3]。
福祉乗車証による交通機関の利用に対しては、発行自治体から交通事業者に対して助成金が支払われているが、特に高齢者がよく利用する路線バスでは、紙式の敬老パスでは正確な乗車回数や経路などが把握できないため、バス事業者が乗車実績に見合う助成金を受け取っておらず、バス事業者の負担が重い状況が問題となっている[1][2][3]。福祉乗車証(中でも高齢化により発行数が増加の一途をたどる敬老パス)へのICカード導入は自治体や事業者にとってもメリットがあるため、横浜市のように紙式で発行している自治体でもICカード化を進める動きが出ている[1][2][3]。
現在発行されている主な福祉乗車証[編集]
自治体が運営するコミュニティバスのみで利用可能な福祉乗車証は除く。
北海道地方[編集]
- 札幌市
- 札幌市敬老優待乗車証
- 札幌市福祉乗車証:障害者対象(身体・知的・精神)[4]
- 函館市
- 函館市交通局のIC乗車カード「ICAS nimoca」[注釈 1]導入により、2018年4月1日より新制度へ移行。詳細は「高齢者交通料金助成事業」および「函館市障害者等外出支援事業」を参照
- スターICAS nimoca(記名式)へ運賃負担分をポイントバックする形で助成する。付与されたポイントは、専用ポイント交換機でSF残高に交換することにより運賃として利用できる。
- 対象路線は函館市電(箱館ハイカラ號除く)・函館バスの函館市内路線[注釈 2]。高齢者は年度間上限6,000円分の半額助成、障害者は障害の程度や条件別に上限あり・なしの全額または半額助成。
- 函館市交通局のIC乗車カード「ICAS nimoca」[注釈 1]導入により、2018年4月1日より新制度へ移行。
東北地方[編集]
- 青森市
- 高齢者福祉乗車証「いき・粋乗車証」[6]
- 市営バス等福祉乗車証:障害者対象(身体・知的・精神)[7]
- 青森市営バスに無料乗車が可能(一部地区ではJRバス東北との選択制)
- 八戸市 - 八戸市営バス全線・南部バスの八戸市内路線で利用可能[8][9]。
- 仙台市 - 仙台市営地下鉄・仙台市営バス・宮城交通で利用可能[10][11]。
- 仙台市敬老乗車証[10]
- 敬老乗車証専用ICカード(icscaではない)に「100円(または50円)で1000円分のチャージ」という形で支給[10]。
- 通常運賃の「一般用敬老乗車証」、障害者割引運賃が自動的に引き去られる「福祉割引用敬老乗車証」(障害を持つ高齢者向け)の2種類がある[10]。
- 仙台市ふれあい乗車証:障害者対象(身体・知的・精神)[11]
関東地方[編集]
- 東京都
- 東京都シルバーパス:高齢者対象。都営交通および都内の民営路線バス(一部を除く)で利用できる。運賃支払い時に運転手に提示する。発行有料(所得により金額は異なる)、乗車無料[12]。
- 都営交通無料乗車券:障害者など対象(精神障害者を除く)。対象路線は都営交通全線(都営バス、都営地下鉄、都電荒川線、日暮里・舎人ライナー)。券種はPASMO(記名式)・磁気カード式があり、都営交通の窓口で磁気カードをPASMOに変更することも可能。発行無料[13][14]。
- 精神障害者都営交通乗車証:精神障害者対象。2000年10月より開始。対象路線は都営交通全線。券種はPASMO・磁気カード(都営地下鉄、日暮里・舎人ライナーの定期券販売所で発行)、紙式(都営バス・都電の定期券販売所、自治体窓口で発行)の3種類。発行無料、乗車無料[15][14]。
- 川崎市 - 対象路線は川崎市交通局(川崎市バス)全線、民営バスの川崎市内路線。横浜市営バス7系統を除く、川崎市内と横浜市内を跨って利用する場合、乗降停留所のどちらかが川崎市内停留所が含まれていれば乗車可能[16][17](乗車の際に自己申告が必要)
- 高齢者特別乗車証明書:高齢者対象。発行有料(定額)、乗車有料(割引運賃)[18]。
- 高齢者フリーパス(福祉パス):高齢者対象(障害の有無など条件あり)。発行無料、乗車無料[19][18]。
- 川崎市ふれあいフリーパス:障害者対象(身体・知的・精神)。発行無料、乗車無料[17]。
- 従来の「川崎市内回数乗車券(ふれあい回数乗車券)」「市バス特別乗車証」「民営バス定期券」を廃止し「ふれあいフリーパス」に一本化[17]。
- 横浜市 - 対象路線は横浜市交通局(横浜市営地下鉄・横浜市営バス全線)、横浜シーサイドライン(全線)、民営バス・川崎市営バス(横浜市内路線。横浜市内と川崎市内を跨って利用する場合、乗降停留所のどちらかが横浜市内停留所が含まれていれば乗車可能(乗車の際に自己申告が必要。横浜市営バス7系統は全区間利用可能)[16][20]。
中部地方[編集]
- 名古屋市 - 名古屋市交通局以外で利用するとmanaca定期として扱われる。
- 浜松市 - 浜松市ナイスパスにて支給。現在は障がい者用のみ。
- 長野市周辺のバスICカード「KURURU」(アルピコ交通・長電バス)で、以下の高齢者用福祉乗車証がある。詳細は「KURURU#高齢者用ICカード」を参照。
近畿地方[編集]
- 京都市
- 大阪市 - Osaka Metro(ニュートラム含む)、大阪シティバスで利用可能[24][25]。
- 大阪市敬老優待乗車証[24]
- 堺市 - 南海バス・近鉄バス・阪堺電気軌道で利用可能。但し、乗降どちらか一方が堺市内に限る。
- 高齢者乗車券
- おでかけ応援カード(おでかけ応援制度):65歳以上が対象で誕生月の3ヶ月前に「おでかけ応援カード申請書兼納付書」が自宅に郵送される。カードを希望される場合は、書類に記載されている金融機関の窓口への提出と、カード発行負担金である1000円を納付する必要がある。なお、交付まで2~3ヶ月かかる。
- 高齢者乗車券
- 神戸市 - 下記以外の交通機関で利用するとPiTaPaプリペイドカードとして扱われる[要出典](ポストペイ乗車には非対応)。
- 神戸市敬老優待乗車証
- エリア内に西宮市山口町の一部・芦屋市の一部・三田市の一部・三木市の一部・明石市の一部が含まれている(三木市ではicカード「nicopa」による一律運賃制を導入しており、市内区間の乗降に限り上限200円(障害者は100円)となるため、神戸市福祉乗車証所持者は身障者用「nicopa」と両方所持すると神戸市から三木市内区間まで精神障害者は上限200円(その他の障害者は100円)で行くことができる(重複エリアでもある「広野高原病院前」〜「緑が丘駅」(81系統と恵比須快速線)•「三津田」〜「御坂」(西脇急行線)・「イオンモール神戸北」の各途中停留所で乗り換えまたはicカードの切り替えが必要)。
- 尼崎市
- 高齢者のバス運賃助成制度は「定期方式」「乗車払方式」の2種類がある。
- 尼崎市交通局(市営バス)の阪神バスへの移譲により、「定期方式」は「尼崎市バス特別乗車証」(尼崎市交通局#運賃などを参照)から、高齢者専用hanica定期券「グランドパス65」購入助成に、「乗車払方式」は阪神バスの割引乗車制度に変更となった[32]。
- 尼崎市障害者等バス特別乗車証:有効期限なし[33]。
- 和歌山市 - 和歌山バス・和歌山バス那賀の市内路線で利用可能[34][35]。
- 障害の程度により福祉タクシー券(500円券24枚、乗車1回につき1枚利用可)を併給[35]。
中国地方[編集]
- 岡山市
- 高齢者乗車券
- 障害者乗車券
- ハレカハーフ:65歳以上の高齢者と身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・特定医療費受給者証・障害福祉サービス受給者証を所持している人が対象。
- 呉市
- 高齢者乗車券
- 敬老いきいきパス:70歳以上が対象で、誕生月の2ヶ月前から申請することができる。ICカード方式で、1乗車につき、市内の路線バスでは、100円で利用できる。但し、運賃が140円以下の場合は、無料となる。その他、地区内生活バスでは、カードリーダーがないため、本券の提示と現金100円が必要となる。市外のPASPYに対応する交通機関でも、事前に入金すると、通常運賃で利用できる。
- 障害者乗車券
- いきいきパス:第一種全体と、第二種で身体1~3級ならびに知的〇Bが対象。ICカード方式で、無料で利用できる。その他、地区内生活バスでも利用可能。市外のPASPYに対応する交通機関でも、事前に入金すると、割引運賃で利用できる。
- 高齢者乗車券
- 山口市
- 高齢者乗車券
- 敬老福祉優待バス乗車証:70歳以上が対象で、郵送にて交付される。利用時に、本証の提示と100円が必要。
- 障害者乗車券
- 福祉優待バス乗車証:身体1〜3級・知的A・精神1・2級が対象。但し、第一種と精神1級の手帳所持者は、介護人1名と同乗する必要がある。
- 高齢者乗車券
- 宇部市
- 高齢者乗車券
- 高齢者優待乗車証:70歳以上で市内に住民登録されている人が対象で、郵送にて交付される。利用時に、本証の提示と100円が必要。
- 障害者乗車券
- 障害者優待乗車証:障害者で同上の人で、身体1~3級・知的A・精神1・2級が対象。但し、第一種と精神1級の手帳所持者は介護者1名と同乗する必要がある。
- 高齢者乗車券
四国地方[編集]
- 徳島市
- 市バス無料乗車証
- 高齢者乗車券
- 70歳以上が対象で本市に住民登録され、且つ市町村民税6万円以下の人に限る。
- 障害者乗車券
- 身体1~4級と知的ならびに精神の全体が利用できる。
- 高齢者乗車券
九州・沖縄地方[編集]
- 福岡市 - いずれも以下の5種のうちから1種を選択する。
- 福岡市高齢者乗車券:70歳以上。介護保険料所得段階区分による所得制限あり。
- 福岡市福祉乗車券:障害者対象。本人の所得(18歳未満の場合は世帯所得)による制限あり。
- 従来は磁気カード式の「福岡市高速鉄道福祉乗車証」(運賃無料)、「福岡市高速鉄道福祉割引証」(運賃半額)があり、障害者手帳所持者を対象に福岡市営地下鉄の運賃を助成していた。2017年よりICカード式の「交通用福祉ICカード」の導入により廃止。ICカード化により利用範囲がJRや民営の鉄道・バスに拡大された[36]。現金でチャージするとはやかけんとして使用できるがその残額を払い戻すことはできない。また、自動改札機にタッチして使っても普通運賃から割り引かれない。
- 2.「市営渡船回数乗船券」
- 3.「今宿姪浜線乗合マイクロバス回数乗車券」
- 4.「タクシー助成券」
- 5.「早良区大字西地区乗合タクシー回数乗車券」
- 佐世保市 - いずれも佐世保市内と佐々町の一部の西肥バスとさせぼバスの全線で利用可能。
- 佐世保市敬老特別乗車証(敬老パス):75歳以上が対象。nimoca
- 佐世保市心身障害者(児)福祉特別乗車証:障害者が対象。nimoca
- 熊本市
- 熊本市優待証「さくらカード」「おでかけICカード」[37]
- 荒尾市 - 対象路線は九州産交バスの荒尾市内路線。
- 鹿児島市 - いずれも鹿児島市内の鹿児島市電・市営バス・民間バス・鹿児島市コミュニティバス「あいばす」・桜島フェリーを利用可能。
福祉乗車証を廃止した自治体[編集]
- 千葉市
- 静岡市 - 2007年度(平成19年度)から敬老乗車証を廃止[44]。
- 浜松市 - 2017年度(平成29年度)から浜松市ナイスパスによる敬老乗車証の無料交付を廃止[44]。障がい者用の無料交付、ならびに遠州鉄道のシルバーワイドフリー定期券発売は存続。
- 北九州市 - 敬老優待乗車証を廃止[44]、北九州市営バス高齢者専用定期券「ふれあい定期券」販売へ移行[45]。
福祉乗車証の利用可能エリアが市区町村境によって重複している自治体[編集]
神戸市敬老優待乗車証・神戸市福祉乗車証と明石市敬老優待乗車券・明石市障害者優待乗車券(神戸市西区の一部・神戸市垂水区の一部・明石市の一部で敬老優待乗車証・福祉乗車証の利用範囲エリアが重複している、そのため神戸市バス車両では明石市優待乗車証が利用できない旨がある)
尼崎市障害者等バス特別乗車証•伊丹市市バス特別乗車証(尼崎市塚口地区の一部と猪名寺地区の一部で利用範囲エリアが重複している)
川崎市ふれあいフリーパス・横浜市福祉乗車券
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ^ a b c 横浜市、敬老パスで分科会が答申案 市長判断に委ねる 日本経済新聞電子版、2019年12月18日、2020年1月21日閲覧。
- ^ a b c 乗り放題の敬老パス、横浜で見直し議論 バス業界は悲鳴 朝日新聞デジタル、2019年12月16日、2020年1月21日閲覧。
- ^ a b c 横浜の敬老パス、値上げ提言へ 今は年4千円で乗り放題 朝日新聞デジタル、2019年12月20日、2020年1月21日閲覧。
- ^ a b c 障がい者交通費助成 札幌市公式サイト
- ^ 小児用カード・障がい者用カード nimoca公式サイト
- ^ a b c 高齢者福祉乗車証「いき・粋乗車証」 青森市公式サイト
- ^ 市営バス等福祉乗車証の交付 青森市公式サイト
- ^ a b 生きがいと健康づくりのために 八戸市公式サイト
- ^ a b 在宅福祉 八戸市公式サイト
- ^ a b c d 敬老乗車証 仙台市公式サイト
- ^ a b c ふれあい乗車証(バス・地下鉄の無料乗車証)の交付 仙台市公式サイト
- ^ シルバーパスについて 東京都福祉保健局公式サイト
- ^ 都営交通無料乗車券 東京都交通局公式サイト
- ^ 精神障害者都営交通乗車証 東京都福祉保健局公式サイト
- ^ a b 東急バス東山田営業所所属車、車内掲示に表記
- ^ a b c 川崎市ふれあいフリーパス 川崎市公式サイト
- ^ a b 高齢者外出促進事業 川崎市公式サイト
- ^ FAQ - 福祉パス(無料の高齢者フリーパス)について知りたい。 川崎市公式サイト
- ^ a b 敬老特別乗車証 横浜市公式サイト
- ^ 福祉特別乗車券の交付 横浜市公式サイト
- ^ a b c 敬老乗車証制度に関する手続き等についてのご案内
- ^ “財政難で敬老乗車証を75歳に段階引き上げ”. 産経新聞 (2021年8月11日). 2021年8月11日閲覧。
- ^ a b c 70歳になったら敬老優待乗車証(敬老パス)が利用できます 大阪市公式サイト
- ^ a b 交通機関乗車料金福祉措置 大阪市公式サイト
- ^ 大阪市交通局「敬老パス おでかけキャンペーン」 鉄道チャンネル、2017年9月8日、2020年1月21日閲覧
- ^ 敬老優待乗車証(敬老パス)のご利用方法について Osaka Metro 公式サイト
- ^ 「障がいがある方のための福祉のあらまし」9.交通(68~69ページに福祉乗車証についての記載あり)大阪市公式サイト
- ^ a b 敬老優待乗車制度(敬老パス)の内容について 神戸市公式サイト
- ^ 敬老優待乗車制度(敬老パス)の低所得者対策及び高頻度利用者対策について 神戸市公式サイト
- ^ 福祉乗車制度(福祉パス)について 神戸市公式サイト
- ^ 高齢者バス運賃の助成 尼崎市公式サイト
- ^ [1] 尼崎市公式サイト
- ^ a b 元気70パス 和歌山市公式サイト
- ^ a b c 障害児者外出支援事業のお知らせ 和歌山市公式サイト
- ^ 「使い勝手悪い」障害者向けICカード 利用者悩ます“欠点”とは 福岡市 西日本新聞、2018年10月4日、2020年1月21日閲覧。
- ^ a b 「さくらカード」「おでかけICカード」について 熊本市公式サイト
- ^ さくらカード利用者の方へ 熊本市交通局公式サイト
- ^ 福祉特別乗車証 荒尾市乗合バス(高齢者) 荒尾市公式サイト
- ^ 福祉特別乗車証(心身障がい者)について 荒尾市公式サイト
- ^ 敬老・友愛パス 鹿児島市公式サイト
- ^ 交通・移動の援助 鹿児島市公式サイト
- ^ 「敬老乗車券」が廃止されましたが、いつまで使用できますか。 千葉市公式サイト
- ^ a b c d 千葉県バス協会「主要都市での敬老乗車券制度導入状況」 千葉市公式サイト
- ^ 市営バスの定期券について知りたい。(ふれあい定期券の購入について) 北九州市公式サイト
関連項目[編集]
- 東京都シルバーパス
- 函館市障害者等外出支援事業・高齢者交通料金助成事業、市電・バス利用証(廃止) - 函館市
- 高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(交通バリアフリー法)