カレーパン
カレーパン | |||||||
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カレーパンの断面 | |||||||
別名 | カレードーナツ | ||||||
種類 | 総菜パン | ||||||
発祥地 | 日本 | ||||||
地域 | 東京 | ||||||
関連食文化 | 洋食 | ||||||
考案者 | 中田豊治? | ||||||
誕生時期 | 1927年(昭和2年)? | ||||||
主な材料 | 小麦粉、カレー | ||||||
302 kcal (1264 kJ)日本食品標準成分表2020年版(八訂) | |||||||
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類似料理 | ピロシキ、サモサ、ムルタバ、バニーチャウ、エンパナーダ、ダブルスなど | ||||||
Cookbook ウィキメディア・コモンズ |
カレーパンは、カレーを具(フィリング)とする調理パン(惣菜パン)である[1][2]。パン生地でカレーを包み、パン粉をつけて油で揚げたものが一般的だが[1][3]、油で揚げずに焼いた「焼きカレーパン」も増えてきている[4][5]。油で揚げたものはカレードーナツとも呼ばれる[6]。昭和初期に考案された[2][7]日本生まれの西洋料理(洋食)の一つであるが[8]、カレーとパンなどを組み合わせた料理は世界各地でも見られる[9]。
惣菜パンの元祖であり、各種の惣菜パンが考案されるきっかけになったとされている[10]。さまざまなパン屋が工夫を凝らしたカレーパンで人気を競っており[11][12]、惣菜パンの定番の一つとなっている[5][13]。
特徴
カレーとカツレツをヒントに考案されたとされる[3]。カレーパンが誕生した昭和初期は、明治維新以降西洋の技術や文化を積極的に取り入れる中で[14]日本に伝来した西洋料理が日本風にアレンジされて洋食として定着した時期に当たり[15]、カレーパンもこうした流れの中で誕生したものである[14]。西洋のパンにインドのカレーを入れるという斬新な発想は[2][7]、他国から受容した食材を独自にうまく組み合わせた、日本ならではのパンと評価されている[5]。
厚い小判形あるいは潰したフットボールのような形が基本[16]。油で揚げたものが多く[1][17]、表面のサクッとした食感と[18][19]スパイシーな香りとコクが特徴である[20]。カレーフィリングは、カレーライスのカレーより固めのものを使うのが一般的で[2]、店によって辛さが異なったり[12]、キーマカレーやビーフカレーを用いる、ゆで卵を入れるなど、多様なバリエーションがある[17]。
テイクアウトもでき持ち運びも容易なカレーパンは[21]、昼食やおやつに適しており[19]、さまざまなカレー料理の中で最も親しまれているともされる[21]。辛口のカレーパンは、ビールにも合う[19]。他の惣菜パンと比べて日持ちすることからスーパーマーケットやコンビニエンスストアでも人気となっている[18]。
歴史
背景
発酵させた生地を焼く西洋風のパンは、戦国時代にポルトガル人によってもたらされ[22][23][24]、キリスト教とともに普及していった[25][26]。しかし、江戸幕府による禁教・鎖国政策によってパン食も禁じられ、忘れ去られていった[27][28][29]。西洋風のパンは、江戸時代後期に携帯用の兵糧として注目された後[30][31][32]、明治時代に入って一般に広まるようになる[33]。1860年(万延元年)に横浜で内海兵吉がのちに「冨田屋」となるパン屋を開業[34]。東京では1868年(明治元年)に銀座「風月堂」がパンづくりを始め[35]、翌1869年(明治2年)に木村安兵衛が「文英堂」(現「木村屋總本店」)を開業した[33][36][37]。
日本でパンは独自の進化を遂げた[36]。1874年(明治7年)、「木村屋」は日本酒の酒種で生地を発酵させあんを包んで焼く「酒種あんぱん」を考案[38][39]。明治天皇に献上する機会に恵まれ[38][39][40]、チンドン屋を使った宣伝も奏功して人気となった[41]。西洋のパンと日本のあんを組み合わせたあんパンは注目を集め[33][38]、その後のさまざまな日本独自のパンの発明につながっていった[42]。1900年(明治33年)には「木村屋」の木村儀四郎によってジャムパンが、1904年(明治37年)には新宿「中村屋」の相馬愛蔵によってクリームパンが考案されている[42][43][44]。こうしてパンは広く日本人の生活に浸透していった[45]。
一方、カレーが日本にもたらされたのも、江戸時代末期に鎖国が解かれて以降である[46]。イギリスを通じて持ち込まれたカレーは[46][47]、サラサラとしたインドのカレーとは異なり[48]、ルーに小麦粉でとろみが付けられたものであった[48][49]。カレーは、日本人になじみの深い米とともに食する西洋料理として受け入れられ[50]、日本軍が、体格向上のために肉食を奨励し、肉と野菜と米を一度に取れ安上がりで食べ応えもあるメニューとして取り入れ[51]、兵役を終えた兵士がそれぞれの故郷の家庭に伝えたことで全国に広まった[52]。また、大正末期から昭和初期にかけては、新宿「中村屋」や銀座「資生堂パーラー」といった高級洋食店でも人気のメニューとなった[53]。こうして日本に定着して人気となったカレーは[54]、次第に、ニンジンやジャガイモ、タマネギなどの具材を煮込んだ日本独自のカレーとして[53]、インドのものともイギリスのものとも異なるカレーへと進化した[55]。カレーは、西洋料理が米飯に合う形にアレンジされた洋食として世の中に広まっていった洋食ブームの中で[56]、コロッケ、カツレツと並ぶ三大洋食ともてはやされていった[15][18][57]。
誕生
カレーパンの起源については諸説あるが[2][58]、昭和初期に東京で考案されたとされている[7]。
一説では、深川常盤町の「名花堂」が発売した「洋食パン」が起源とされる[4][14][59]。1877年(明治10年)に創業した同店は[10][60][61]、東京でも五指に入る老舗パン屋として[59]業界で知らない者はいない店であったが[62]、1923年(大正12年)の関東大震災で店舗が全焼[11]。2代目の中田豊治は、店の立て直しのための新しいメニューの開発を模索した[60][63]。中田は、当時ブームとなっていたカレーをパンに使ってみようと考えたものの、水分が多く焼きにくかったため[2][6][7]、カツレツを参考に、カレーをパン生地で包みパン粉を付けて油で揚げる調理法とした[19][56][61]。形が小判形であるのもこれに由来している[56][61]。1927年(昭和2年)に「洋食パン」と名付けて売り出すとともに[4][14][64]、同年1月に実用新案を申請し、同年7月に「実用新案出願公示第7824号」として登録された[65]。当時の深川周辺は工場が立ち並んでおり、片手で手軽に食べられ、ボリュームがあって腹持ちの良い「洋食パン」は、工員たちに歓迎されて大ヒットとなった[15]。いつしか「洋食パン」は、誰からともなく「カレーパン」と呼ばれるようになった[6][66]。「名花堂」は、太平洋戦争後に[59]江東区森下に移転し[56]、店名も「カトレア」に改めているが[10]、辛口と甘口の「元祖カレーパン」は2022年(令和4年)現在でも看板メニューであり[2][21]、店内には「洋食パン」の実用新案認定書が掲げられている[59]。
これとは別に、東京都練馬区にある「デンマークブロート」(現「デンマークベーカリー」)もカレーパン発祥の店と主張している[2]。1934年(昭和9年)創業の同店は、創業者がカレーサンドを発売し、後に油で揚げることを思いついたとしている[2]。2022年(令和4年)現在、同店では、ゆで卵を入れた「ゆで卵カレーパン」が人気となっている[2]。
また、発案者は不明としているものや[3][67]、ピロシキが原形であるとする説のほか[2][58][68]、新宿「中村屋」が発祥であるとする説もある[2][58]。1901年(明治34年)に本郷の東大赤門前で創業した同店は、クリームパンのヒットで新宿に進出し、1927年(昭和2年)に純インド式カリーやピロシキの販売を始めていたが[69]、1940年(昭和15年)、戦争によって十分な原材料を確保できなくなったため、カリーを少しでも多くの人に味わってもらえるようにと考えて、パンの中に少しずつ入れて提供することを思いついたとされる[17]。ただし、新宿「中村屋」自身は、当時の従業員から聞いた話として、1933年(昭和8年)に他店が販売していたカレーパンを従業員で食してみたところ美味であったため、社長の相馬愛蔵・黒光夫妻に報告して「カリーパン」として作り始めたとしている[67]。
普及と展開
カレーパンの登場は、それまでのパンの常識を覆した[62]。カレーをパンに入れるという斬新なアイデアと[2][7]、パンを油で揚げるという調理法のハイカラさが受けて[59][66]、カレーパンは瞬く間に人気商品となり[7]、多くのパン屋が同様のパンを開発して全国に浸透していった[18]。
それぞれのパン屋では、キーマカレーやビーフカレー[17]、ドライカレー、多種のスパイスを用いた本格的なカレーをフィリングとしたものや[18]、ゆで卵を入れたもの[17]、あるいは、世の中の健康志向を受けて[4]油で揚げずに焼いた「焼きカレーパン」など[20][21]、工夫を凝らした様々なカレーパンが創作されている[2]。カレーパンの成功を受けて様々な惣菜パンが考案されたが[10]、その中でもカレーパンは、「カレーパングランプリ」が開催されたり、コンビニエンスストアでは店舗で揚げた揚げたてのものが販売されるなど、今日に至るまで不動の人気を獲得している[2]。
また、山崎製パンは、カレーパンをはじめとする惣菜パンや菓子パンの製造販売をアジア各地で展開し、成功を収めている[58]。
調理法
パン生地は食パンやバターロールと同じような生地を用いるが[19]、カレーを包むことから通常より固めの生地とする[70]。カレーフィリングもつなぎを多めにして[70]汁気の少ないものを用い[2]、生地に包んでしっかりと閉じる[19][70]。カレーフィリングが多すぎるとバランスが悪くなるため、生地に対して最大7割程度の量が適当である[70]。
カレーが水分を多く含み窯で焼くには技術を要するため[6]、揚げることが多い[17]。フライと同じようにパン粉を付けて油で揚げる[19]。上下の生地の厚さが均等になるのが良いとされ[3]、生地がゆるんでから揚げると形よく仕上がる[70]。揚げると生地が急激に膨張するため、カレーフィリングと生地の間には空洞が生じることになる[3]。
通常のパンとは違う材料の仕入れが必要となり、しかも長時間コンロを占領することになるため[13]、パン屋にとってカレーフィリングの自家製は容易ではない[71]。そのため、カレーパンに自家製のカレーフィリングを用いている店はそれほど多くはない[13][71]。
揚げたてのうちに食するのが最も美味であるが[19][62]、冷めた場合は、電子レンジで30秒前後温めた後、オーブントースターで表面がカリッとするまで焼くと良い[72]。
栄養素
日本食品標準成分表2020年版(八訂)によれば、皮と具を合わせたカレーパンの100gあたりの栄養成分は、エネルギー302kcal、タンパク質6.6g、脂質18.3g、炭水化物32.3gなどとなっている[73]。炭水化物(糖質)を含むパン生地やパン粉が使われており、油で揚げているためカロリーは高めである[74][75]。一方、カレーに肉や野菜などを含むため、様々な栄養素が含まれている[75]。サラダなど[19]野菜とともに食べるとバランスが良くなり[76]、カロリーや糖質が気になる場合は、朝食にしたり温かいものと食べると良いとされる[74][76]。また、焼きカレーパンであれば摂取カロリーを抑えることができるほか、低糖質のカレーパンも市販されている[75][76]。
類似料理
カレーパンは日本で生まれた惣菜パンであるが、カレーなどをパンなどで包んだり挟む料理は世界各地に存在する[77]。
アジア
- カリー・チキン・バン (Curry Chicken Bun)
- カリー・パフ (Curry Puff)
- サモサ (Samosa) ・サンブーセック (Sambousek)
- チャイニーズ・ロール (Chinese Rolls)
- ビスキーミヤ (Bis Keemiya)
- マサーラー・ドーサ (Masala Dosa)
- ムルタバ (Murtabaq) ・ムタバック (Mutabbak)
アフリカ
- ドール・プリ― (Dholl Puri)
- ナイジェリアン・スプリング・ロール (Nigerian Spring Rolls)
- バニーチャウ (Bunny Chow)
- フェトケック (Vetkoek)
ヨーロッパ
- パン・オ・キュルキュマ (Pain au Curcuma)
- ピロシキ(ベリャーシ)
南北アメリカ
- アルー・パイ (Aloo Pie)
- スパイスを効かせたジャガイモのフィリングを生地で包んで揚げたもの[79]。トリニダード・トバゴの定番のストリートフードである[79]。
- エンパナーダ (Empanada)
- ダブルス (Doubles)
オセアニア
取り上げた作品
脚注
出典
- ^ a b c d コリーン・テイラー・セン著『カレーの歴史』株式会社原書房<「食」の図書館>、2013年8月29日、161頁。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 地球の歩き方編集室編著『世界のカレー図鑑』株式会社地球の歩き方<地球の歩き方BOOKS W12>、2022年3月29日、215頁。
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- ^ 地球の歩き方編集室編著『世界のカレー図鑑』株式会社地球の歩き方<地球の歩き方BOOKS W12>、2022年3月29日、64-65頁。
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参考文献
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- 根田春子著『パンのはなし』技報堂出版株式会社、1989年2月。ISBN 4-7655-4350-1
- 柴田書店編『人気のパン★ヒットパレード 繁盛パン屋さんの菓子パン おかずパン おつまみパン』株式会社柴田書店、2011年12月。ISBN 978-4-388-06131-0
- 澁川祐子著『ニッポン定番メニュー事始め』株式会社彩流社、2013年9月。ISBN 978-4-7791-1934-7
- 成美堂出版編集部編『パンの事典』成美堂出版、2006年10月。ISBN 4-415-03995-2
- 地球の歩き方編集室編著『世界のカレー図鑑』株式会社地球の歩き方<地球の歩き方BOOKS W12>、2022年3月。ISBN 978-4-05-801751-7
- 辻製パン技術専門カレッジ監修・吉野精一著『パンの基本大図鑑』株式会社講談社、2003年3月。ISBN 4-06-210994-8
- 天然生活編集部編「特集 サンドイッチとカレーパン」『天然生活』第15巻第8号(通巻165号)、株式会社地球丸、2018年8月。
- 富田仁著『西洋料理がやってきた』東京書籍株式会社、1983年10月。
- 日本パンコーディネーター協会監修『知識ゼロからのパン入門』株式会社幻冬舎、2010年7月。ISBN 978-4-344-90194-0
- ハウス食品株式会社監修『世界のカレー図鑑』株式会社マイナビ出版、2019年7月。ISBN 978-4-8399-7013-0
- 荻山和也監修・ぱんとたまねぎ著『パン語辞典』株式会社誠文堂新光社、2013年10月。ISBN 978-4-416-61328-3
- 松宏彰著『ニッポンカレーカルチャーガイド』株式会社Pヴァイン、2022年2月。ISBN 978-4-909483-97-3
- 水野仁輔著『うっとりカレーパン』株式会社スペースシャワーネットワーク、2014年6月。ISBN 978-4-907435-24-0
- 八百啓介編著『外来食文化と日本人』株式会社弦書房、2020年9月。ISBN 978-4-86329-205-5
- 吉野精一著『基礎からわかる製パン技術』株式会社柴田書店、2011年3月。ISBN 978-4-388-06107-5
- 吉野精一著『パンづくりの科学』株式会社誠文堂新光社、2012年9月。ISBN 978-4-416-81295-2