ゆべし

ゆべし(柚餅子)とは、柚子ないしクルミを用いた加工食品あるいは和菓子の一種。保存食。
概要
[編集]
中身をくり抜いた柚子に練り味噌を詰めて蒸し、数か月間自然乾燥させた伝統的保存食。餅菓子のゆべしとは別物である[1]。
ゆべしは丸ゆべし(丸柚餅子)と棒ゆべし(棒柚餅子)に大別される[2][3]。先に登場した丸ゆべしは柚⼦の実をくり抜いたもの(柚釜、柚子釜)をそのまま用いて、味噌や小麦などを詰めて乾燥させたものである[4][3]。一方、1652年の『萬聞書秘伝』には丸ゆべしとともに棒ゆべしの製法も記載されており、棒ゆべしはユズの皮や実を刻んだりすりおろしたりしたものを餅粉や砂糖などとともに練って棒状に形を整え蒸し上げたものである[2][3]。
また、現代のゆべしは、丸ゆべし(丸柚餅子)、平ゆべし(平柚餅子)、小口型ゆべし、円型ゆべしの4種類に大別されることもある[4][3]。この場合も製法(調理方法)と用途を比較すると、丸ゆべしとそれ以外のゆべしで大きく異なるとされ[3]、保存性が強い丸ゆべしと菓⼦性が強いその他のゆべしに大別される[3]。
柚餅⼦が初めて文献に登場するのは『御湯殿上日記』の1484年3月18日の日記で、「りかくよりむめ。ゆへしなどまいる」と贈答品のゆべしが宮中に届けられられたことが記されている[3]。ただし、その製法の記載はなく不明である[3]。また、室町時代の『松屋会記』には茶菓子の「ユヘシ」が2例、「ゆへしもどき」という菓子が4例みられるが、これらも形状や味は明らかでない[3]。
一方、ゆべしは武士の携行食とされ、丸ゆべし(丸柚餅子)が一般的であった[3]。しかし、特に江戸後期以降になると各地の銘菓として変貌していったとされる[3]。
なお、気候の関係でユズの栽培が難しかった東北地方や北関東地域[2]、クルミの木が多く自生している三遠南信地域などでは、ユズの代わりにクルミを使ったものがみられる[3]。
製法と用途
[編集]先述のように、現代のゆべしは、丸ゆべし(丸柚餅子)、平ゆべし(平柚餅子)、小口型ゆべし、円型ゆべしの4種類に大別されるが、製法(調理方法)と用途が丸ゆべしとそれ以外のゆべしで大きく異なる[3]。ここから保存性が強い丸ゆべしと菓⼦性が強いその他のゆべしに大別される[3]。これらはそれぞれ塩辛くて硬いものと、甘くて柔らかいものの2つのタイプとして整理される[4]。
丸ゆべし
[編集]丸ゆべしは、味噌と穀粉を柚子釜(柚⼦の上部を切って中身を除いたもの)に詰めて蒸し、さらに乾燥させたものである[3]。1643年刊行の『料理物語』に掲載されている製法は丸ゆべしの製法であり、江戸初期には丸ゆべしが作られていたとみられている[3]。
和菓子のゆべし
[編集]丸ゆべし以外のゆべしは、穀粉類と砂糖を主原料とし、蒸した後に乾燥させることなく製品としている[3]。
- 小口型ゆべし
これらのうち小口型ゆべしと円型ゆべしはユズを使用しないものも多く、穀粉類と多量の砂糖を使用し、菓子として蒸した後そのままの状態で用いることができるよう調製されたものが多い[4]。
食塩含有量の平均値を比較すると、丸ゆべしが最も高く、平ゆべし、円型ゆべし、小口型ゆべしの順となる[4]。一方、全糖量の平均値を比較すると、小口型ゆべしが最も高く、平ゆべし、丸ゆべし、円型ゆべしの順となる[4]。
地域性
[編集]東北地方
[編集]
仙台のくるみ柚餅子は伊達政宗の戦の携行食だったといわれている[3]。
ゆべしは本来は柚子を利用した保存食であったが、仙台地方では一般の間食用として普及するとともに、次第にユズに代わってクルミが用いられるようになった[3]。東北の気候がユズの栽培に適さず、輸送も不便であった時代にはユズの入手が困難だったためといわれている[3]。
岡山県
[編集]岡山県の高梁市や矢掛町は柚子の産地で戦国時代から丸ゆべしの文化が残っている[3]。
高梁には丸ゆべしを製造する天保年間創業の天任堂がある[4][3]。また、同地には「ゆねり(柚練)」という柚子製品も存在する[7]。
矢掛では天正年間に豊臣秀吉が島津征伐のために西下した際に、猿掛城で毛利元親がゆべしを献上したという伝承がある[3]。また、天璋院(篤姫)が徳川家定への輿入れのため立ち寄った際、ゆべしに感銘を受けて85本購入したという記録がある[3]。同地には様々な形のゆべしがあり、独自のゆべし文化が根付いている[8]。
矢掛村(現矢掛町)からは明治時代には内国勧業博覧会に数者が丸ゆべしを出品したが、2025年度の資料では佐藤玉雲堂のみとなっている[3]。天保元年(1831年)創業の佐藤玉雲堂では、餅粉に細かく刻んだ柚子や味噌を練り込んで蒸し上げたもので、竹皮で包まれている[3]。また同社では「柚餅⼦」(綽柚餅⼦)や「丸柚餅⼦」など複数の種類のゆべしを製造している[3]。
その他のゆべし
[編集]柚子の皮の佃煮のゆべし
[編集]柚子の皮を調味料と一緒にじっくり煮詰めたもので、伝統的な郷土料理[9]。調味料は、醤油や胡椒、砂糖や塩など味によって様々である。ご飯やお茶漬けのおかずとして食べたりする。
長崎県の壱岐では、柚子の皮だけを煮たものをゆべしと呼び、薬味として用いる。
一般的な家伝壱岐ゆべしの製法は、まず柚子の皮を薄く剥き、粉砕する。醤油を加え極弱火で加熱し1時間煮て、昆布の出汁と砂糖(柚子の皮2kgに対し三温糖10kgとザラメ1〜2kg)を加えさらに2時間煮る。仕上げに調味料を入れて30分ほど煮て完成する。
脚注
[編集]- ^ “天龍村の柚餅子”. Slow Food Nippon. 日本スローフード協会 (2021年11月4日). 2024年1月21日閲覧。
- ^ a b c 吉田宗弘. “日本の香酸柑橘”. 関西大学化学生命工学部食品栄養化学研究室. 2026年2月9日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae “丸柚餅⼦の現状と未来~地域食文化の持続可能性を探る~”. 文化庁. 2026年2月9日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o 漆谷 純子、伊東 清枝「ゆべしについて」『伝統食品の研究』第7号、1989年、6-9頁、doi:10.69331/questtraditionalfood.7.0_6。
- ^ 田中敏子 『大和の味 改訂版』 奈良新聞社、2001年10月10日、ISBN 4-88856-037-4。
- ^ https://www.matsue-fukudaya.com/teibangazou/179/
- ^ 太田健一 『図説 新見・高梁・真庭の歴史』 郷土出版社、2009年。
- ^ 犬飼亀三郎 「矢掛名物ゆべし考」 『高梁川』第4号、高梁川流域連盟、1956年。
- ^ 徳島県の農業支援センター(ゆべし) Archived 2013年10月4日, at the Wayback Machine. 2013年10月2日 閲覧