開かずの踏切

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JR・名鉄の計8線を跨ぐため開かずの踏切となっていた神宮前駅北の手動踏切(名鉄神宮前1号踏切とJR東海御田踏切) ※2012年6月30日廃止
列車が多くて踏切が開かない時間帯に通行止めとしている、戸塚駅近くの踏切(JR東日本 東海道踏切) ※2015年3月25日廃止

開かずの踏切(あかずのふみきり)は、遮断機が降りた状態が長時間続き通行が困難な踏切の通称。線路が多く交通量が多い踏切やに近い場合に開かずの踏切となりやすい。

概要

国土交通省(旧・運輸省)では、「緊急に対策の検討が必要な踏切」として、「ピーク時の遮断時間が1時間あたり40分以上となる踏切」[1]と定義される「開かずの踏切」と、「1日あたりの踏切自動車交通遮断量が5万台時以上となる踏切」または「1日あたりの踏切自動車交通遮断量と踏切歩行者等交通遮断量の和が5万台時以上かつ1日あたりの踏切歩行者等交通遮断量が2万台人時以上になる踏切」と定義される「ボトルネック踏切」と、「歩道が狭隘な踏切」を挙げている[2]

このうち開かずの踏切は、1999年平成11年)度に日本全国に約1,000箇所、2007年(平成19年)度に約600箇所あり、その半数にあたる約300箇所は東京都内にあった[3]。近年は連続立体交差事業等の進展で開かずの踏切の除却が積極的に進められており、東京都内においては2007年度から2012年(平成24年)10月までに80箇所が除却され、以後も70箇所以上を除却する計画がある[4]

大都市圏を走る鉄道路線の朝夕の通勤ラッシュ時には、列車の運行数がきわめて多いため、踏切の遮断時間が長く、特に通過路線が多い踏切では列車の踏切通過が重なり開かずの踏切になりやすい。さらに駅至近の踏切では、停車列車の過走防護のため電車が踏切を通過するかなり前のホーム入線時から遮断機が下りていることが多く、遮断時間がより長くなる。

開かずの踏切では、長い踏切待ち時間が自動車などの渋滞を発生させ通行者のストレスを高める。通行者が僅かな開いている時間で急いで通行するため転倒事故などを誘発するほか、高齢の歩行者や幼児連れの親子などが踏切が開いている間に渡りきれない事態が発生したり、歩行者・自動車が待ち時間を嫌って遮断機が下りているにも関わらず通行を強行して、人身事故・物損事故の要因となっている。踏切待ちによる時間損失を貨幣価値に換算すると年間約1兆5,000億円にも上ると試算されている[5]

開かずの踏切の抜本的な対策は、線路や道路の立体交差化(高架化・地下化)による踏切の除却であり、線路の連続立体交差化事業は国からの補助のもと自治体の負担によって行われる。近年では開かずの踏切の解消が積極的に進められているが、立ち退きや工事騒音や日照権問題などによる住民の反対、財政状況の悪化、地価や資材価格の値上り、既設路線を運行しながらの工事により、事業に莫大なコストと時間がかかる実態は依然として解消されていない。

対策例

線路を高架化・地下化した例

道路交通が多く、鉄道路線が少ない場合に、この方法が取られることが多い。連続立体交差事業を参照。

道路を高架化・地下化した例

鉄道路線が多くて連続立体交差化が難しく、道路交通も多い場合、道路側が高架化・地下化される。

東海道本線 東海道踏切(戸塚大踏切)
戸塚駅北側に国道1号東海道)の踏切があった。通過する旅客列車・貨物列車双方の本数の多さが要因となっており、遮断時間は1時間あたり最大56分、1日あたり14時間に上っていた。朝夕ラッシュ時の一部時間帯で車両通行止めの措置が執られていたが、2015年3月25日に線路の下を潜る地下車道(戸塚アンダーパス)が開通し、踏切は閉鎖された[6]。アンダーパスには歩道はないため、歩行者は踏切があった位置にある2014年1月に完成した「戸塚大踏切デッキ」を利用する。
東北本線浦和駅北浦和駅間の踏切
現在の埼玉県道65号さいたま幸手線(旧中山道)が平面交差していたが、線路部分を掘り下げて架橋し、南側に浦和橋1931年7月20日に開通した。
大宮駅構内第一川越踏切道
二級国道129号東京環状線(現・埼玉県道2号さいたま春日部線)が平面交差していたが、1961年8月に大栄橋が開通した。

跨線橋・地下道を設けた例

歩行者が多い場合は、跨線橋や地下道を設置するだけでも意味がある。

阪和線 杉本町駅
開かずの踏切問題・東口設置計画を参照。

廃止した例

東海道本線 総持寺踏切
計11本の線路を跨ぐ長大踏切。旅客列車の本数の多さに加えて、鶴見駅で合分流する東京貨物ターミナル武蔵野線両方面の貨物列車も要因となっていた。遮断時間は1時間あたり最大58分、1日あたり15時間に及んでおり、監視員が常駐していた。北側に隣接してエレベーター・自転車用スロープ併設の歩行者用跨線橋が設置されており、歩行者は跨線橋を利用するよう看板が設置されていた。
カーブ上にあり、カントに因る路面凹凸で通行車両がバウンドすることでも有名。西側を鶴見線が、東側を京急本線が共に高架で通過しているが、1978年昭和53年)の高架化までは京急本線にも踏切が設置されていた。
2012年4月1日にこの踏切は廃止された。
大阪環状線 一ツ家踏切
新今宮駅 - 天王寺駅間にかつて存在した。JR関西本線を乗り越すために高架線になっている大阪環状線外回り線を除き、環状線内回り線・関西本線(大和路線)の列車や阪和線との直通列車も通過する地点に位置するため、朝ラッシュ時には1時間で最大54分踏切が閉まったままという、まさに開かずの踏切であった。線路内に立ち入るトラブルや人身事故につながるケースもあり、数多くの列車に影響が出ることから2012年7月1日をもって廃止された。なお、代替する地下道が近くに無いため、天王寺駅近く・もしくは動物園前駅出入口近くのジャンジャン横丁連絡地下道(環状線・関西本線をアンダーパスする)付近まで迂回する必要がある。

関連する事件・事故

  • 2003年(平成15年) - JR中央線高架化工事に際し、三鷹 - 国分寺間で踏切の横断距離が延び、また遮断時間が工事前よりも増える箇所が出るなどしたため、一時期社会問題となった。その後、切替工事が進んだため横断距離は多くの箇所で以前と同程度に戻り、2009年(平成21年)12月の線路切替工事ですべて高架となり同区間内の踏切は全廃となった。
  • 2005年(平成17年)3月 - 東武伊勢崎線の竹ノ塚駅近くの踏切において踏切保安係の誤操作が原因で人身事故が発生。通行者の苦情を避けるため保安係が規則を無視して自分の判断で遮断棒を上げ下げする行為が日常的に行われていたことがこの事故の後に発覚し、問題となった。その後人身事故の原因となった踏切保安係は業務上過失致死傷罪逮捕起訴され、禁錮1年6か月の実刑判決を受けた(竹ノ塚駅#踏切東武伊勢崎線竹ノ塚駅踏切死傷事故も参照)。該当の踏切の開閉は自動化されたが2015年3月1日にも死亡事故が発生している。
故障灯が付いた踏切
広島市 中山踏切
  • 2005年(平成17年)10月 - 京浜東北線東海道本線大森駅 - 蒲田駅間の開かずの踏切で発生した死傷事故では、列車ダイヤの乱れが原因で30分以上遮断機が下り続け、踏切に「こしょう」(故障)との表示が出ていた。これは踏切の故障でなくとも遮断機が30分以上下りていた場合は自動的に表示されるが、この表示が原因で「踏切の故障で遮断機が下り続けている」と通行者の誤解を受けたのではないかとの指摘がなされ、JR東日本では踏切の故障表示について見直しをするとの発表を行った。なお、これと同類の事故が2006年(平成18年)3月に東海道本線三河大塚駅 - 三河三谷駅間の踏切でも発生した。これらの事故を受け、国土交通省は「こしょう」の表示を廃止するよう全国の鉄道事業者に指示した。
  • 2006年(平成18年)7月 - 東武東上線池袋駅 - 北池袋駅間および埼京線の池袋駅 - 板橋駅間の開かずの踏切で東上線の池袋発志木行き下り普通列車に親子がはねられる事故が発生、母親は死亡し子供は重傷を負った。この親子は遮断機が下りていた踏切をくぐった男性に続いて踏切内に進入した模様。この踏切は以前から遮断機が下りている状態での歩行者の横断が目立っていて、2001年(平成13年)にも男性が埼京線の列車にはねられる死亡事故が起きていることも明らかになっている。また、事故当日は併走する埼京線のダイヤが乱れ、70~80分間も踏切が開かない時間があった。
  • 2008年(平成20年)8月 - JR京都線摂津富田 - 茨木間にある富田村踏切で、踏切内に入っていた男性が高槻新三田行き下り普通電車にはねられ死亡した。この踏切は、2007年(平成19年)9月に、電動車椅子の男性がはねられて死亡するなど、事故による死者が2005年以降だけで5人に上っていたため国土交通省では抜本的な対策を講じるようにJR西日本に要求してきており、 これを受けて同社は、「開かずの踏切」の状態を緩和するため、列車種別に応じて遮断時間を変え閉塞時間を最小限に抑える新システムを2008年(平成20年)秋に導入することを発表した矢先の事故であった[7][8]
  • 2009年(平成21年)1月 - 阪急京都線南方駅の隣に位置する御堂筋東踏切で、高校1年生の女子生徒が正雀梅田行き下り回送電車にはねられ死亡した。この女子高校生は上りの梅田発北千里行きの普通電車が通り過ぎた後に遮断機を潜り踏切内に入り込んだ模様。この踏切は地元では開かずの踏切として知られていた。事故に遭った女子高校生は、実用英語技能検定試験を受験するために待ち合わせ場所へ向かうため急いでいた模様である。
  • 2011年(平成23年)3月11日 - 東日本大震災では、停電後の踏切が常時遮断され続ける仕様のため、または踏切近くで列車が運転を見合わせたため、自動車車両が踏切を横断できず立ち往生し、避難できなかった自動車の多くが津波に巻き込まれる事態が発生した[9][10]
  • 2013年5月5日10時50分頃 - 広島県広島市西区山陽本線広島電鉄の踏切で、踏切待ちの長さに立腹した男が遮断棒を切断し逮捕された[11]
  • 2015年2月12日 - 2014年12月22日0時15分頃に大和西大寺駅付近の踏切で列車に投石したとして、当時49歳の男が列車往来危険器物損壊の疑いで逮捕され、「遮断機が上がらず腹が立った」と供述した[12]

出典

  1. ^ 用語集”. 国土交通省. 2013年6月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年6月1日閲覧。
  2. ^ 国土交通省 道路局
  3. ^ 国土交通省 道路局
  4. ^ 高架化で急速に消える踏切NHK ONLINE@首都圏
  5. ^ 踏切対策のスピードアップ国土交通省(2015年12月5日閲覧)
  6. ^ 戸塚アンダーパス完成 地元住民が渡り初め|カナロコ
  7. ^ 5人死亡のJR京都線「開かずの踏切」、また死者朝日新聞デジタル2008年8月5日配信(2015年12月5日閲覧)
  8. ^ 平成19年第4回定例会(第3日 9月26日) 岡本茂議員高槻市(2015年12月5日閲覧)
  9. ^ 第2部・車避難のリスク(中)遮断/開かぬ踏切、車列進めず河北新報社2013年2月1日掲載(2015年12月5日閲覧)
  10. ^ 自動車で安全かつ確実に避難できる方策内閣府(2015年12月5日閲覧)
  11. ^ 踏切をのこぎりで切断の男逮捕TomoNews Japan公式YouTubeアカウント2013年5月6日公開(2015年12月5日閲覧)
  12. ^ 遮断機上がらず激怒 電車に投石した男逮捕TomoNews Japan公式YouTubeアカウント2015年2月13日公開(2015年12月5日閲覧)

関連項目

外部リンク