生物圏保護区
生物圏保護区(せいぶつけんほごく)は、ユネスコの「人間と生物圏計画」(Programme on Man and the Biosphere ; MAB計画) に基づいて成立した国際的な指定保護区の名称。生物圏保存地域(せいぶつけんほぞんちいき)とも呼ぶ。「生物圏保護区世界ネットワーク」(World Network of Biosphere Reserves) には、2008年5月現在で105か国531保護区が登録されている。
履歴
1970年に開始された「人間と生物圏計画」は、14の研究分野を対象としている。その中の一つが「自然地域とそこに存在する遺伝物質の保護研究」である。その実現のため「生物圏保護区世界ネットワーク」と「生物保護区」を構築することが、1974年に提示された。
意義・対象域
「生物圏保護区世界ネットワークの法的枠組み」(The Statutory Framework of the World Network of Biosphere Reserves) によれば、生物圏保護区は、人間と生物圏との相互間の均衡が取れた関係を明示すると同時に進展させるために創設された。生物圏保護区は複数の生態系を含んでいる必要があり、したがって地上・沿岸部・海洋の生態系の組み合せから構成されると、この枠組みの第4条に規定されている。生物圏保護区が設定されると、そこでの生態系や生物多様性を保持することが求められる。
設定
保護区の設定は、法的に保護される中核地域 (core area)、保護の妨げになる活動が禁じられている緩衝地域 (buffer area)、許可を得た活動は認められる移行地域 (transition zone) の3層に分かれている。この地域区分けは、地元の利益となるように自然資源の持続可能な使用を行う観点から導入されたものである。また、保護区内の活動には、それを支えるような適切な調査やモニタリング、教育、訓練などが要請されている。
以上は、アジェンダ21や生物の多様性に関する条約などの国際的合意を履行していくための手段である。
登録要件
具体的な登録要件は以下のとおり。
- 重要な生物群集を持つ地域で、保護された中核地域を含む。
- 異なった管理がなされている複数の地域を含む。
- 調査、教育、訓練に対してサポート態勢を取れる。
- 法律上の適切な保護がある。
主な生物圏保護区
世界遺産に登録されているものや、それ以外で有名なもの
アジア太平洋
- オーストラリア - マッコーリー島(世界遺産)、ウルル=カタ・ジュタ国立公園(世界遺産)
- カンボジア - トンレサップ
- 中国 - 武夷山(世界遺産)、九寨溝(世界遺産)、黄龍風景区(世界遺産)
- インド - ナンダ・デヴィ国立公園(世界遺産)
- インドネシア - コモド国立公園(世界遺産)
- キルギスタン - イシク・クル
- 朝鮮民主主義人民共和国 - 妙香山
- スリランカ - シンハラジャ森林保護区(世界遺産)
- 大韓民国 - 済州島(一部世界遺産)
- 日本 - 屋久島(世界遺産)、志賀高原、大峰山と大台ヶ原山、 白山
- ベトナム - メコン・デルタ、チャム諸島とホイアン
- 中国/朝鮮民主主義人民共和国 - 白頭山
- 中国/ネパール - エベレスト(世界遺産)
アラブ諸国
アフリカ(アラブ諸国を除く)
- タンザニア - セレンゲティ国立公園(世界遺産)とンゴロンゴロ保全地域(世界遺産)
- ケニア - ケニア山国立公園(世界遺産)、アンボセリ国立公園
- コートジボワール - タイ国立公園(世界遺産)、コモエ国立公園(世界遺産)
- セネガル - ニョコロ=コバ国立公園(世界遺産)
- カメルーン - ジャー動物保護区(世界遺産)
- ギニア/コートジボワール - ニンバ山厳正自然保護区(世界遺産)
- ニジェール/ブルキナファソ/ベナン - W国立公園(世界遺産)
ヨーロッパ
- オーストリア/ハンガリー - ノイジードル湖(世界遺産)
- ベラルーシ - ビャウォヴィエジャの森(世界遺産)
- ブルガリア - スレバルナ自然保護区(世界遺産)
- デンマーク - 北東グリーンランド国立公園
- フランス - モン・ヴァントゥ、カマルグ
- ドイツ - ワッデン海(世界遺産)、テューリンゲンの森、リューゲン島
- ギリシャ - オリンポス山
- ハンガリー - ホルトバージ国立公園(世界遺産)
- イスラエル - カルメル山
- イタリア - チレントおよびヴァッロ・ディ・ディアーノ国立公園(世界遺産)、トスカーナ群島
- ポーランドとスロバキア - タトラ山脈
- ポルトガル - グラシオーザ島、フローレス島
- ルーマニア/ウクライナ - ドナウ・デルタ(世界遺産)
- ロシア - 西カフカース(世界遺産)、バイカル自然保護区(世界遺産)、アルタイの黄金山地(世界遺産)、ハンカ湖
- スロベニア - クラス地方
- スペイン - ドニャーナ国立公園(世界遺産)、ランサローテ島、メノルカ島、グラン・カナリア島、フエルテベントゥラ島
- トルコ/ブルガリア/ルーマニア/ウクライナ/ロシア/グルジア - 黒海
北米
- カナダ - ノバスコシア州南西部、マニクアガン・クレーター
- アメリカ合衆国 - アリューシャン列島、ビッグ・ベンド国立公園、グレートプレーンズ、チャネル諸島国立公園、デナリ国立公園、エバーグレーズ国立公園(世界遺産)とドライ・トートゥガス国立公園、グレイシャー国立公園(世界遺産)、オリンピック国立公園(世界遺産)、ロッキーマウンテン国立公園、セコイア国立公園とキングズ・キャニオン国立公園、ヴァージン諸島国立公園、イエローストーン国立公園(世界遺産)、ハワイ諸島(一部世界遺産)、コンガリー国立公園、マンモス・ケーブ国立公園(世界遺産)
中南米とカリブ海
- ブラジル - 大西洋岸森林(一部世界遺産)、パンタナル(世界遺産)、アマゾン熱帯雨林
- エクアドル - ガラパゴス諸島(世界遺産)、ヤスニ生物圏保護区
- ホンジュラス - リオ・プラタノ生物圏保護区(世界遺産)
- メキシコ - シアン・カアン生物圏保護区(世界遺産)、エル・ビスカイノ生物圏保護区(世界遺産)、オオカバマダラ生物圏保護区(世界遺産)
- パナマ - ダリエン国立公園(世界遺産)
- ペルー - ワスカラン国立公園(世界遺産)、マヌー国立公園
参考資料
- 生物多様性政策研究会(2002年)『生物多様性キーワード事典』中央法規出版 ISBN 978-4805844229