勝利投手

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勝利投手(しょうりとうしゅ)とは、野球試合において勝利チームの責任投手を指す。勝ち投手(かちとうしゅ)、公認野球規則においては勝投手とも記述される。基本的には、自チームのある時点での得点が決勝点となるように、守備面で貢献した投手が勝利投手となる。

規則

公認野球規則10.19により勝利投手は定められている。

  • ある投手の登板中の攻撃、あるいは登板中の投手が代打または代走と交代して退いた回の攻撃で自チームがリードを奪い、しかもそのリードが試合終了まで保たれた場合、その投手が勝利投手になる。ただし、
    1. その投手が先発投手である場合は、5イニング以上(天災等によりコールドゲームが宣告された試合で、勝利チームの守備が6イニングに満たなかったときは、5イニングでなく4イニング)の投球が必要となる(投球回が3イニングまでと制限があるオールスターゲームにおいては、この投球回の規定を適用しない)。
    2. その投手が救援投手で、投球イニングが少なくかつ勝利に効果的でなく、それに続いて登板した投手のいずれかがより勝利に効果的な投球をしたと判断される場合は、前者でなく、後者を勝利投手とする。

先発投手に記録される勝利を特に先発勝利(せんぱつしょうり)、救援投手に記録される勝利を特に救援勝利(きゅうえんしょうり)と言う。投手の勝利数は、一般的には両者を合計したものを指す。

上記1.により先発投手が投球イニングが足りないために勝利投手になれない場合は、救援投手が1人であればその投手を、複数であれば最も効果的な投球をしたと公式記録員が判断した1人の投手(ただし、日本プロ野球では2005年より、投球イニングが1回未満、かつ登板中に失点した投手には勝利投手を与えない)を勝利投手とする。

1.と2.とのいずれの場合も、勝利投手の決定に関しては試合中に同点になった時点でその試合が新たに始まったものとして扱う(敗戦投手の決定も同じ)。野球のテレビ中継などで、先発投手がリードを保ったまま降板した後に救援投手が失点してチームが同点に追いつかれた(または逆転された)際、アナウンサーが「勝利投手の権利が消滅」と発言することがあるが、これは同点に追いつかれた(または逆転された)時点よりも前に登板していた投手は勝利投手になることができないためである。

サヨナラゲームとなった場合には、最終回の表(または延長回の表)に投げていた最後の投手は無条件で勝利投手となる。また、先攻のチームでも最終回や延長で勝ち越した回の裏をリードを保ったまま終えれば、その直前まで投げていた投手が勝利投手になる。特にこうしたケースについてはアウトを1つ取っただけで勝利投手となることもあり、その球数の少なさが話題となることもある(「1球勝利投手」など)。

更に稀なケースとして、登板時点で既に出塁していた走者を牽制球でアウト、または盗塁失敗でアウトにしてイニングを終了させ、直後の攻撃で勝ち越すと、どの打者との対戦をも完了しないまま勝利投手となることができる。さらに、打者に全く投球せずに勝利投手となることも有り得る(例えば二死一塁の場面で登板し、打者に1球目を投げる前に一塁走者を牽制球でアウトにし、直後の攻撃で決勝点が入った場合)。この0球勝利は、メジャーリーグベースボール (MLB) では2003年5月1日ボルチモア・オリオールズB・J・ライアンデトロイト・タイガース戦で記録している。日本プロ野球ではまだ0球勝利は記録されていない。

正式試合として完了した試合においては、勝利チームの投手のいずれかが必ず勝利投手になり、「勝利投手なし」となることは無い。ただし、その試合が勝利チームの規則違反などで没収試合になり、勝敗が逆転した場合、その試合の勝利投手・敗戦投手の記録は取り消しとなる。

勝利投手になることは基本的にプラスとなる要素であるが、救援勝利の場合にはそれが必ずしも当てはまらない。特に勝ちパターンで登板する投手(セットアッパーやクローザーなど)に勝利が記録されている場合、それは先発投手の勝利を消す、即ち同点に追いつかれるか逆転されることでもたらされたものであることも多いので、ある種救援失敗の指標ともなりうる(無論、同点や僅差での登板後に逆転により勝ちが付くこともあり、全てが救援失敗の結果というわけではない)。

戦前は勝利投手の認定に曖昧な部分があり、公式記録員の判断(裁量)によって記録が付けられることもあった。ヴィクトル・スタルヒン1939年にシーズン42勝を記録したが、戦後になりスタルヒンが勝利投手とならないケースが2試合[1]あり、一旦40勝と訂正された。しかし1961年稲尾和久がシーズン42勝を記録した際に論議が起こり、翌年に「後から見たときにおかしな部分が存在しても、当時の公式記録員の判断は尊重されるべき」というコミッショナー裁定が出され、元の42勝に再訂正された。MLBでもチャールズ・ラドボーン1884年に達成したシーズン60勝について、同年7月28日の試合では6回から9回の4イニングを無失点に抑えたが、6回以降に味方がリードした状況での登板であったことから先発投手に勝ち星がつくものとされたことで(このケースも勝利投手の記録がスコアラーの判断でつけられていた)、59勝とする文献も存在する。

勝利投手に関する記録

日本プロ野球

最多勝利

通算記録

順位 選手名 通算勝利数
1 金田正一 400
2 米田哲也 350
3 小山正明 320
4 鈴木啓示 317
5 別所毅彦 310
6 V.スタルヒン 303
7 山田久志 284
8 稲尾和久 276
9 梶本隆夫 254
10 東尾修 251
11 若林忠志 237
野口二郎
順位 選手名 通算勝利数
13 工藤公康 224
14 村山実 222
15 皆川睦雄 221
16 山本昌 219
17 杉下茂 215
村田兆治
19 北別府学 213
20 中尾碩志 209
21 江夏豊 206
22 堀内恒夫 203
23 平松政次 201
24 藤本英雄 200


  • 記録は2014年シーズン終了時[2]
  • 他に野茂英雄が日米通算201勝を達成している。

シーズン記録

順位 選手名 所属球団 勝利数 記録年 備考
1 V.スタルヒン 東京巨人軍 42 1939年
稲尾和久 西鉄ライオンズ 1961年 パ・リーグ記録
3 野口二郎 大洋軍 40 1942年
4 真田重男 松竹ロビンス 39 1950年 セ・リーグ記録
5 須田博 東京巨人軍 38 1940年
杉浦忠 南海ホークス 1959年
7 稲尾和久 西鉄ライオンズ 35 1957年
権藤博 中日ドラゴンズ 1961年 NPB新人記録
9 藤本英雄 東京巨人軍 34 1943年
10 野口二郎 東京セネタース 33 1939年
野口二郎 翼軍 1940年
別所毅彦 読売ジャイアンツ 1952年
稲尾和久 西鉄ライオンズ 1958年
小野正一 毎日大映オリオンズ 1960年
  • 記録は2015年シーズン終了時[3]

連続勝利記録

連続勝利は、敗戦投手にならない限り中断されない。間にセーブや引き分けが入っても継続される。

通算記録
順位 選手名 連勝記録 開始日 終了日
1 田中将大 28 2012年8月26日 継続中
2 松田清 20 1951年5月23日 1952年3月22日
稲尾和久 1957年7月18日 1957年10月1日
4 御園生崇男 18 1937年7月3日 1938年6月4日
須田博[4] 1940年8月7日 1940年11月17日
中田良弘 1981年7月21日 1985年8月11日
シーズン記録
順位 選手名 所属球団 連勝記録 記録年
1 田中将大 楽天 24 2013年
2 稲尾和久 西鉄 20 1957年
3 松田清 巨人 19 1951年
4 須田博 巨人 18 1940年
5 斉藤和巳 ダイエー 16 2003年

先発勝利記録

救援勝利記録

通算勝利数のうち、救援勝利の数。

順位 選手名 勝利数
1 金田正一 132
2 稲尾和久 108
3 荒巻淳 98
4 米田哲也 90
5 秋山登 89
6 皆川睦雄 88
7 鹿取義隆 85
8 梶本隆夫 83
9 杉下茂 82
10 杉浦忠 75

1球勝利投手

選手名 所属球団 記録日 対戦相手 備考
G.ミケンズ 近鉄 1963年8月21日 南海 日本プロ野球史上初、パ・リーグ
板東英二 中日 1966年8月26日 巨人 セ・リーグ初、日本人初
菅原勝矢 巨人 1967年8月15日 阪神
安仁屋宗八 広島 1968年6月30日 阪神
宮本洋二郎 広島 1971年5月13日 ヤクルト
高橋里志 近鉄 1985年4月25日 南海
土屋正勝 ロッテ 1986年5月10日 西武
弓長起浩 阪神 1993年10月21日 広島
落合英二 中日 1999年7月11日 阪神 1球敗戦、1球セーブ、1球ホールドも記録
森中聖雄 横浜 2000年5月25日 巨人
吉田修司 ダイエー 2000年6月2日 ロッテ
葛西稔 阪神 2000年8月3日 中日
山崎貴弘 ロッテ 2001年5月29日 ダイエー プロ初勝利かつプロ唯一の勝利
後藤光貴 西武 2001年7月27日 日本ハム プロ初勝利
愛敬尚史 近鉄 2001年9月24日 西武
林昌樹 広島 2003年10月12日 ヤクルト プロ初勝利
小野晋吾 ロッテ 2004年4月28日 ダイエー
土肥義弘 横浜 2004年7月7日 巨人
岡島秀樹 巨人 2004年7月27日 広島
山崎健 ロッテ 2005年6月11日 中日 セ・パ交流戦初
五十嵐亮太 ヤクルト 2006年5月2日 広島
石井貴 西武 2006年8月1日 ロッテ
平井正史 中日 2007年7月31日 広島
江尻慎太郎 日本ハム 2007年8月12日 西武
C.ニコースキー ソフトバンク 2007年9月7日 オリックス 来日初勝利、史上初めて日米両国で記録
佐竹健太 楽天 2008年10月7日 ソフトバンク
小林正人 中日 2009年4月24日 巨人 同年中に2球勝利も記録
清水章夫 オリックス 2009年8月25日 日本ハム
真田裕貴 横浜 2010年8月1日 ヤクルト
渡辺恒樹 ヤクルト 2010年8月10日 巨人
石井裕也 日本ハム 2011年8月8日 楽天 同月中に2球勝利も記録
山村宏樹 楽天 2011年8月25日 日本ハム
谷元圭介 日本ハム 2012年5月20日 広島
田島慎二 中日 2013年8月31日 巨人
土田瑞起 巨人 2014年6月15日 楽天 プロ初勝利
金田和之 阪神 2014年7月22日 巨人
横山貴明 楽天 2014年8月30日 ソフトバンク プロ初登板初勝利、打者をアウトにせずに達成
益田直也 ロッテ 2014年9月9日 西武

5イニング未満の投球で勝利投手になった先発投手

いずれも当該試合がコールドゲームになったためのもの。

  • 柴田保光(西武) - 1982年10月2日、日本ハム戦、4回0/3を6失点
  • 川越英隆(オリックス) - 2000年5月9日、近鉄戦、4回0/3を8失点
  • 関根裕之(日本ハム) - 2000年8月22日、オリックス戦、4回を1失点

対戦打者0の勝利投手

メジャーリーグベースボール

最多勝利

通算記録


  • 記録は2013年シーズン終了時[5]

シーズン記録

順位 選手名 所属球団 勝利数 記録年 備考
1 ジャック・チェスブロ ニューヨーク・ハイランダース 41 1904年 ア・リーグ記録
2 エド・ウォルシュ シカゴ・ホワイトソックス 40 1909年
3 クリスティー・マシューソン ニューヨーク・ジャイアンツ 37 1908年 ナ・リーグ記録
4 ウォルター・ジョンソン ワシントン・セネタース 36 1913年
5 ジョー・マッギニティ ニューヨーク・ジャイアンツ 35 1904年
6 スモーキー・ジョー・ウッド ボストン・レッドソックス 34 1912年
7 サイ・ヤング ボストン・アメリカンズ 33 1901年
クリスティー・マシューソン ニューヨーク・ジャイアンツ 1904年
ウォルター・ジョンソン ワシントン・セネタース 1912年
ピート・アレクサンダー フィラデルフィア・フィリーズ 1916年
  • 1901年以降の記録を対象とする[6]

1900年以前の参考記録

その他の記録

0球勝利

脚注

  1. ^ 何れも先発の中尾輝三が5イニング以上投げ、且つ中尾の登板中に巨人がリードして、そのままリードを保って巨人が勝利したにもかかわらず、先発の中尾ではなくリリーフのスタルヒンが勝利投手とされた。
  2. ^ NPB 通算勝利記録 - 日本野球機構オフィシャルサイト(シーズン中は毎日更新)
  3. ^ NPB シーズン勝利記録 - 日本野球機構オフィシャルサイト
  4. ^ ヴィクトル・スタルヒンと同一人物。
  5. ^ 通算記録 (MLB) (Baseball-Reference.com)
  6. ^ シーズン記録 (MLB) (Baseball-Reference.com)
  7. ^ 9回表二死満塁で登板し、牽制球でいずれかの走者をアウトにしたあと、味方がサヨナラ打を打ち勝利投手になったとされている。

関連項目