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デコンプレッション機構

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デコンプレッション機構(デコンプレッションきこう、: compression release mechanism)とはレシプロエンジンの機構の一つで、シリンダーの圧力を解放してエンジンを始動しやすくしたり、ディーゼルエンジンを停止しやすくする機構である。デコンプ機構デコンプと略して呼ばれる場合が多い。

オートバイ

おおむね350cc以上の排気量の大きな単気筒エンジンを搭載するオートバイにはデコンプレッション機構が備えられている車種がある。

キックスターターなどの人力始動装置を用いて始動を行う際に、圧縮上死点をやや過ぎた辺りにピストンを位置させてからキックペダルを蹴り始めると、最初の(クランキングの最たる抵抗である)圧縮上死点までのクランク回転数を最大(4ストローク機関で2回転弱)にでき、始動が容易になる。ピストンの位置を合わせるにはキックペダルをゆっくりと動かしてクランクを回転させるが、このとき圧縮上死点の手前ではシリンダー内圧が上がって回転の抵抗となる。特に排気量が大きいエンジンでは抵抗が大きく、キックペダルを動かすために大きな力が必要になる。このとき力任せにキックペダルを動かすと勢い余って、初期位置として理想的なピストン位置を行きすぎてしまうことがある。デコンプレッション機構はこうした不便を解消するためにシリンダーの内圧を解放して始動前の準備をスムーズに行えるようにする機構である。

シリンダーヘッドの排気バルブやデコンプ専用のバルブを開いて圧力を逃がす構造となっていて、バルブの開放はハンドルに設けられたレバーを操作して行う場合と、キックペダルに連動してバルブが開くオートデコンプの場合がある。同時に、蹴り始める位置として理想的なピストン位置となっていることを表示するキックインジケータを装備する車種もある。現行車種ではヤマハ・SR400がデコンプレバーとキックインジケータの両方を装備している[1]

デコンプ機構もキックインジケータも始動の補助機構であり、原動機にとって必須機構ではない。慣れによりデコンプを操作しなくても始動できる場合がある。

汎用エンジン

始動装置としてリコイルスターターを用いる草刈り機チェーンソーにもデコンプレッション機構が組み込まれ、始動時の労力の軽減に寄与している。排気量25cc以下の4ストロークエンジンで電磁弁式のデコンプレッション機構が組み込まれているものは、オペレーターのボタン操作若しくはリコイルスターターの紐の位置を検出して自動的に作動する[2]。排気量35ccを超えるエンジンの場合、DSP (DECOMPRESSION VALVE STARTING) と呼ばれる機械式のバルブの開閉によってデコンプレッションを行う場合が多い。DSPは、1966年にアメリカのチェーンソーメーカーのマッカラー社 (en:McCulloch Motors Corporation) によって手動式のものが搭載[3]され、その後1972年に現在の自動式のものが登場[4]し、今日の多くのチェーンソーで用いられている[5]。このDSPはエンジン停止時は開放状態が維持されているが、クランキングによりピストンが上下し始めるとシリンダーの内圧によって自動的に閉鎖される構造である。

また、こうしたデコンプレッションとは別に、近年では2ストロークエンジン向けに、特殊な形状の排気ポートを用いることで低速回転時にデコンプレッション効果を発揮する排気デコンプ[6]構造も広く採用されている。

ディーゼルエンジン

自動車用のディーゼルエンジンのうち、古い予燃焼式エンジンにデコンプ機構を備えたものがあった。ディーゼルエンジンは圧縮比が高い一方、昔のセルモーターやバッテリーは性能が低かったため、セルモーターの負荷を軽減するためにデコンプ機構が用いられた。また、ディーゼルエンジンはイグニッションスイッチを切っても回り続ける場合があり、デコンプ機構によって圧縮を抜くことで燃焼を止めてエンジンを停止させていた。

耕耘機等に用いられているセルモーターを持たない小型の汎用ディーゼルエンジンでは、人力での容易な始動を可能にするために、デコンプ機構を作動させながら始動用クランクハンドルを回してフライホイールに十分な慣性モーメントを与えた後デコンプ機構をオフにするという方法が用いられている。

脚注

  1. ^ 各部詳細説明”. ヤマハ発動機株式会社. 2011年7月6日閲覧。
  2. ^ リコイルスタータ付エンジンのデコンプ機構 - 川崎重工業株式会社 - patentjp.com
  3. ^ U.S. Patent No. 3,538,899, "COMPRESSION RELIEF MECHANISM FOR STARTING INTERNAL COMBUSTION ENGINES", issued Nov 10, 1970
  4. ^ U.S. Patent No. 3,893,440, "AUTOMATIC DECOMPRESSION VALVE TO FACILITATE STARTING OF AN INTERNAL COMBUSTION ENGINE", issued July 8, 1975
  5. ^ デコンプ (DSP) 始動時減圧装置 - 株式会社新宮商工
  6. ^ [1]

関連項目

外部リンク