100万年地球の旅 バンダーブック
『100万年地球の旅 バンダーブック 』(ひゃくまんねんちきゅうのたび バンダーブック)は、手塚治虫原作のアニメ。
国産初のTV2時間アニメとして1978年8月27日の第1回『24時間テレビ 「愛は地球を救う」』内で10:00 - 12:00の時間帯に放送された24時間テレビアニメスペシャルの第1弾。2時間アニメと謳っているが、あくまでも枠時間であり実質的な放映時間は1時間34分。[1]
概要
鉄腕アトムアニメで虫プロ倒産の憂き目を見、もうアニメはやらないと宣言した手塚を再びアニメに取り組ませた世界初の2時間テレビアニメ[2]。
当時の製作現場では制作デスクが失踪。放送1ヶ月切っているにもかかわらず、手塚の原画が入らず手付かずのシーンがあるなど製作現場は多忙のあまり修羅場と化していたという[3]。
初回放送時には24時間テレビ内で最高の28%という高視聴率を記録。本作の成功を皮切りに、以降も数年にわたって番組内で手塚アニメが放映され続けることとなった。また、この作品が嚆矢となって、「日生ファミリースペシャル」をはじめとする2時間枠のテレフィーチャーアニメが各局で製作されるようになった。
一度きりのオンエアで放送後にビデオやキャラグッズ販売等の副次的収入による予算回収すら考慮されていなかったにもかかわらず、劇場アニメと比較しても遜色の無いほどの高いクオリティへと仕上がっている。当時多くの連載を執筆中で多忙を極めていたものの、手塚は本作に対し非常に意欲的に取り組み、原案・演出・作画にクレジットされている他に、全編に亘って絵コンテも切っており、劇中に挿入される地球の歴史の水彩イラストレーション原画まで手掛けているが、主要キャラクターデザインや美術設定・全ての作画チェックに関してまでは手が回らず、(当時)愛弟子だった[要出典]坂口尚に一任している。
このように非常に手間をかけたため、スタッフの努力にもかかわらず放送日までには当初の予定通りにはできず、不完全なかたちのまま放映されてしまった。しかし放送後も手直しが続けられ、当時ネットがなかった地域の遅れ放送や再放送時(1978年10月4日19:00 - 20:54)にようやく完全版がオンエアされている。
内容に洋画(2001年宇宙の旅、ドラキュラ、ウエストワールド、エクソシスト)のパロディ要素が見られる[4]ほか、 主人公らがタイムマシンを駆使して空間座標を固定しつつ時間軸を朔行して元凶の巨大コンピュータ内部に侵入、これを撃破というメインプロットは1983年に『週刊少年チャンピオン』で連載された手塚自身の漫画『プライム・ローズ』に類似点が見られる。
ストーリー
人種差別と環境破壊に反対・抵抗するクドー博士暗殺のため、独裁者総統ビドルは搭乗宇宙船ごと爆破を謀る。博士夫妻は幼い下の息子を人工冬眠カプセルで脱出させ、死亡。やがて、惑星ゾービにたどり着いた赤ん坊は、王妃タスカによって「バンダー」と名付けられ、我が子として育てられることになる。
17年の歳月が流れ、バンダーは逞しい王子へと成長し、日々の糧を得るため狩りに出ていた。だがゾービ人の食肉は動物の尻尾に限られ、殺すことはタブーであるのに、地球人であるバンダーは、しばしば勢い余って殺してしまい、父王に咎められていた [5]。 しかし一方で、父王はバンダーに武術の鍛錬を課し、『歪んだ進化により宇宙で最も残忍・冷酷で、争いの絶えない』地球の侵攻に備える戦士として育成してもいた。
矛盾に悩みながらも、いつしか義妹ミムルと愛し合うようになるバンダーだったが、やがて己の出生の秘密を知り、宇宙海賊ブラック・ジャックのゾービ侵攻を機に宇宙へ出る。ピンクのウサギのような変身生物ムズと共に、惑星シリウス8のマリーナ姫を救ったのち、シャラク博士が『恐怖』を密閉したカプセルを、ビドル配下のドクダミと奪い合う。
成り行きからブラックジャックと共闘するが、100万年過去へタイムスリップしたカプセルが地球に落下し、恐怖に取り憑かれた人類の歴史を目の当たりにする。さらに、両親が自分を救おうとして命を落とす瞬間に立ち会い取り乱すが、実は兄であったブラックジャックから「過去は変えられねえ。だがな、未来はいくらだって変えられるんだ」と叱責され、仇敵・総統ビドルに相対し、それもコンピュータ・マザーの操り人形だった事を知って、最後の戦いへと挑んで行く。
舞台となる星
- ゾービ星
- 物語の始まりとなる星。17年前赤ん坊だったバンダーが乗せられた退避カプセルが、宇宙船から放たれたあと偶然漂着した星。地球と似たような自然に満ちた星で比較的平和である。ただし住んでいるのは地球人とは別の種族の宇宙人や変わった姿の動物たち。
- しっぽ狩り
- この国の掟で、食用の肉として動物のしっぽの肉だけを狩ることが許されているが、動物を殺すことは禁じられている。
- 変身リング
- 腕や乳房など体に簡単につけたり取り外しができる。この国の種族がリングを身につけた状態で心で思ったものに姿を変えられるという力を持つ。ただし種族の違うバンダーはこれを身につけても変身できない。
- シリコン一家がいる星
- ゾービ星から地球の間にある星で、ブラックジャックの宇宙船からバンダーが途中で降ろされた星。シリコン一家と呼ばれる、ならずもの集団の殺し屋が、狂ってしまった地球製のロボットを従わせて街で幅を利かせている。
- シリウス星
- シリウス人が住んでいる。王が住む宮殿にいる女性たちは、鞠(まり)のような球体で色とりどりのドレスを身にまとっている。シリウス人は植物のように水さえあれば体からその水分を吸収して生きているため、物を食べない。また万が一ケガなどで体が傷つくと、生き残るには大地に根を下ろして、植物のようになるしかない。
- 地球
- 作中では「地球は緑にあふれた星に動物たちが自由に暮らしていたが、人間が自分たちの利益のために動物を殺し自然を破壊している。加えて人種差別、宗教の違い、領土問題の理由により戦争で国を奪い合うという歴史を何千何万年と繰り返している。そして、侵略や奪い合いは地球以外の星にも広がっている」と語られている。
登場人物(声の出演)
ゾービ星で登場する人物
- バンダー
- 声 - 水島裕
- 17年前にゾービ星の王妃に拾われ、この国の王子として育てられた。本人は別の種族の人間で拾われたことを知っていたが、実は地球人であることは知らなかった。赤い髪に頭に稲妻を模したような髪飾りをつけているのが特徴。武術に長けている。退避カプセルから自身が地球人であることを知り、地球へ旅立つことを決意する。
- ミムル
- 声 - 小山まみ
- ゾービ王とタスカ王妃の娘。バンダーとは血の繋がらない妹。黒い髪の少女。バンダーを異性として愛している。
- ゾービ王
- 声 - 大平透
- この星の王。この国の決まりである「しっぽ狩り」の決まりと共に生き物の命について厳しくバンダーに教える。またこの星は平和だが、作中では野蛮な地球人の領土争いが他の星まで広がっており、いつかこの星も侵略に遭うことを見越して、バンダーには武術を習得させている。
- タスカ王妃
- 声 - 武藤礼子
- この星の王妃。17年前に退避カプセル(個人用の自動操縦の宇宙船)を海岸で見つけ、中にいた赤ん坊のバンダーを拾って王子として育てた。ゾービ王が興奮して怒った時も冷静にたしなめる強さと愛情を持つ。
- 侍女ニネ
- 声 - 浅井淑子
- バンダーやミムルからは、ばあやと呼ばれている。王妃とともに、赤ん坊だったバンダーを拾った。
- 退避カプセルの声
- 声 - 野田圭一
- バンダーに地球人である実の両親が何者かに暗殺され、その仇(かたき)を討つために地球へ帰るように言う。この声は、バンダーの心の中に直接届けられたもので、他の人には聞こえない。
- ブラックジャック
- 声 - 伊武雅之
- 地球人で、宇宙ギャングのリーダー。漫画「ブラックジャック」の本人と同じような格好をしているが、上着の胸や腕の部分に飾りのようなものがついている。金に貪欲な人物。バンダーと負けず劣らず剣術に優れている。バンダーを捕らえて宇宙船で別の星に連れて行った。
- ブラックジャックの部下
- 声 - 飯塚昭三
- 全身宇宙服に銃を持って武装している。
シリコン一家がいる星で登場する人物
- エド
- 声 - 勝田久
- バーのバーテン。地球人。シリコン一家を恐れている。
- マンガン
- 声 - 玄田哲章
- シリコン一家。ドラキュラの手下。ロボットだが人間のように話したり酒を飲み、銃の扱いも上手い。エドによると地球製のロボットで人間のように作ったが狂ってしまったとのこと。美人に弱い。
- ドラキュラ
- 声 - 千葉耕市
- シリコン一家のボス。コウモリを模した一人用の空飛ぶバイクのようなものを愛用している。ボスではあるが、闘いはあまり得意ではない。
- サイクロップス
- 声 - 加藤修
- シリコン一家。一つ目の怪物で金砕棒(かなさいぼう)を武器に持ち、巨大な翼竜を操る。
- ムズ
- ピンク色の生き物。シリコン一家がいる星の住人に捕まっていた所、偶然通りかかったバンダーに助けられた。その恩を感じたのかそれ以降バンダーについて来た。見た目は子犬ぐらいの大きさで、頭部の両側と前側に短いものが3つ、同じく頭頂部にうさぎの耳ぐらいの長いものが2つ生えている。話したり鳴き声もないが、人が話すことを理解できるようで、ゼスチャーのように意思を伝える。様々なものに変身することができるため、バンダーの旅の助けになっている。
シリウス星で登場する人物
- ボルボックス王ボルボ7世
- 声 - 富田耕生
- シリウス人でこの星の王。地球人によってシリウス星を統治する権利を要求され、人質として娘のマリーナ姫を誘拐されてしまった。長い髪の毛やヒゲが花びらのように顔を中心に生やしている。
- マリーナ姫
- 声 - 岡真佐子
- シリウス人でボルボ7世の娘。シリコン一家により人質にされたがバンダーによって助け出される。それ以来バンダーに惹かれ、愛するようになった。
- ドクダミ
- 声 - 家弓家正
- 地球連邦政府の使節で、表向きはボルボ7世に従っている。裏では王を脅してこの星と自身が好意を寄せるマリーナ姫を自分の手に入れようと画策している。グレーの軍服のような格好をしており、金属のような鋭くて硬い爪がついた手袋をはめている。
- ハムエッグ
- 声 - 永井一郎
- ドクダミに使える部下。ドクダミに指示されて邪魔なバンダーを地下に閉じ込める。
- シャラク大博士
- 声 - 肝付兼太
- シリウス星の住人。知識はあるが少々ズレたところがあり、バンダーから地球の過去(17年前の地球人の暗殺事件)について聞かれたときに、なぜか地球の成り立ちや生物の進化について答えた。ちなみに自身の研究室があり、本人曰く「宇宙の謎から鼻くそのほじり方まで研究している」とのこと。この世にあるあらゆる恐怖の素(パワー)を集めた「恐怖のカプセル」なるものを開発した。
地球で登場する人物
- クドー博士
- 声 - 小林恭治
- ビドル総統の考えとは合わず、敵対している。世界の行く末の判断を「マザー」というコンピューターに委ねているビドルの考えは危険だと考え「マザー」を破壊すべきだと思っている。
- クドー夫人
- 声 - 二階堂有希子
- クドー博士の妻で、男の子の母親。クドー博士の政治的活動により我が子ともども危険な目に遭いながらも博士についていく。
- ビドル総統
- 声 - 梶哲也
- 「マザー」(ビドルは「偉大なる科学文明の女神」と形容している)の分析により政治を動かしている。これについて本人は「合理的に政治をしている」と言っている。考え方の違うクドー博士とは敵対しているが、「素晴らしい科学者」と認めている。
スタッフ
- 原案 - 手塚治虫
- 企画 - 都築忠彦(日本テレビ)
- プロデューサー - 武井英彦(日本テレビ)、吉川斌(日本テレビ)、金田啓治(手塚プロダクション)
- 演出 - 手塚治虫
- チーフディレクター - 坂口尚
- キャラクターデザイン - 坂口尚
- 美術構成 - 坂口尚
- 絵コンテ - 手塚治虫(未クレジット)
- 原画 - 手塚治虫、坂口尚、村野守美、永島慎二、正延宏三、金山明博ほか
- 動画監督 - 西村緋禄司
- 美術監督 - 牧野光成
- 音楽 - 大野雄二
- 選曲 - 鈴木清司
- 効果 - 東洋音響効果グループ
- 録音 - 東北新社
- 現像 - 東洋現像所
- 制作 - 日本テレビ、手塚プロダクション
ソフト化
ビデオ化されている他、2001年に『24時間テレビスペシャルアニメーション1978-1981』のタイトルで後継の他作品(『海底超特急マリンエクスプレス』、『フウムーン』、『ブレーメン4 地獄の中の天使たち』)とセットでジェネオン・エンタテインメントよりDVD化。翌2002年に同じくジェネオン・エンタテインメントより単品として発売された。
参考資料
- ^ 但し、静岡地区では、当時の系列局である静岡けんみんテレビではなく、TBS系列である静岡放送で、10:30から55分の短縮版で放送された。1978年8月27日付け静岡新聞テレビ欄から
- ^ ブラックジャック創作秘話、秋田書店、2011年
- ^ ブラックジャック創作秘話、秋田書店、2011年
- ^ アニメ様365日 第19回 WEBアニメスタイル
- ^ 100万年地球の旅 バンダーブック手塚治虫 公式サイト
関連項目
- 愛は地球を救う (アルバム) - 本作のサウンドトラックが収録されている。