ブリーシンガメン

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ブリーシンガメン (Brisingamen) は、北欧神話に登場する女神フレイヤが持っていたと伝えられている首飾りである。ブリーシンガとは炎、メンが装飾品の意[1]。日本語訳では他に、ブリージンガメン[2]ブリーシンガルの首飾り[3]ブリーシングの首飾り[4]、などがみられる。

『ソルリの話』[編集]

Friedrich Wilhelm Heineによって描かれた、ロキがフレイヤからブリーシンガメンを盗む場面。(1882年)

ソルリの話』(『ヘジンとヘグニのサガ』)に次のような話がある[5]。アジアに「アシーアランド」もしくは「アシーアヘイム」と呼ばれる国があって首都はアースガルズといった。そこに暮らす「アース族」の王がオージンでありニョルズの娘フレイヤを側室にしていた。オージンは大変フレイヤを愛していた。王宮近くの岩の奥にはアールヴリッグ(アルフリッグとも)、ドヴァリン、ベルリング(ベーリングとも)、グレールという4人のドワーフが住んでいた。彼らは素晴らしい技術を持ち何でも作ることができた。ある日フレイヤがこの岩屋の前を通りかかると、入口が開いており、ドワーフ達が黄金の首飾りを鋳造して仕上げをしているのが見えた。フレイヤは首飾りが気に入って買い取りをもちかけたが、ドワーフ達は金銭よりもフレイヤのからだを希望したため、フレイヤは彼らのそれぞれと一夜を共にするしかなかった。その代償としてドワーフたちが、彼女に首飾りを与えたのである。この一連の出来事を知ったロキがオージンへ告げ口をしたところオージンは激怒しロキを後宮に侵入させて首飾りを盗んでこさせた。そしてフレイヤには、首飾りを返す条件として、彼女の呪法と呪文によって2人の王ヘジンとヘグニを永遠に戦い合わせるよう命じたという。

『スリュムの歌』[編集]

古エッダ』の『スリュムの歌英語版』によると、巨人のスリュムトールの武器が盗まれたためトールがフレイヤに変装してスリュムの館に出向いたとき、トールは結婚の宴の装いでこの首飾りを身につけたことがある[6]

『詩語法』[編集]

ニルス・ブロメールによって描かれた、ロキからブリーシンガメンを取り戻したヘイムダルとフレイヤ。(1846年)

スノッリ・ストゥルルソンの『散文のエッダ』第二部『詩語法』によると首飾りは一度ロキに盗まれたことがある。
フレイヤが寝ている隙にロキは蝿に変身して館に侵入し首飾りを盗むが、それを見ていたヘイムダルが首飾りを取り戻そうと雲や熊に変身してロキと闘う[7]。最後にヘイムダルは自分をアザラシの姿に変え、ヴァーガ岩礁とシンガ岩において、アザラシの姿のロキと一戦を交え[8]、長い戦いの後にロキを打ち負かし、ブリーシンガメンをフレイヤに取り戻してやることができた[7]。ヘイムダルに対するケニング「ロキの敵」「フレイヤの首輪の探し手」、ロキに対する「巨人と山羊とブリーシンガメンとイズンのリンゴの盗人」はこの出来事に基づいている。またブリーシンガメンは詩人ウールヴ・ウガソン (en) の詩の中で「美しき海の石」と呼ばれている[8]

『ベーオウルフ』[編集]

首飾りはアングロ・サクソンの叙事詩『ベーオウルフ』にも「ブローシンガメン」(Brosingamen)の名で出てくる。ここでは首飾りは、ハマ(Hama、ヘイムダルの名の異伝か)により、光り輝く聖堂に返却されなくてはならないものとして語られる。光り輝く聖堂(the shining citadel )というのは、ヴァルハラが、光り輝く装飾で飾られているのを指していうものと思われる。 この叙事詩の中では、首飾りは、死ぬさだめの者たちの間に渡っているという設定である。 それは、グレンデルを倒した功によりデンマークの女王から、ベーオウルフに与えられたものである。ベーオウルフ自身が倒れた時、首飾りは、彼自身の女王ヒグリッドの持ち物となった。

脚注[編集]

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  1. ^ Onsell, Birgitta. 'Världens vackraste smycke.' in Jordens moder i Norden. Stockholm: Carlssons, 1994. p. 111-2.
  2. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』252頁(『スノッリのエッダ』の『ギュルヴィたぶらかし』第35章)。
  3. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』90頁(『古エッダ』の『スリュムの歌』第13節)。
  4. ^ 『北欧神話物語』(キーヴィン・クロスリイ-ホランド著、山室静米原まり子訳、青土社、1991年新版、ISBN 978-4-7917-5149-5)。
  5. ^ 『ソルリの話とヘジンとホグニのサガ』 112-113頁。
  6. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』90頁。
  7. ^ a b 『虚空の神々』314頁。
  8. ^ a b 『「詩語法」訳注』22-24頁。

参考文献[編集]