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アンチラグシステム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

アンチラグシステム (英語: Anti-lag System, ALS) とは、ターボチャージャーによる過給エンジンにおいて、アクセルオフ時後に発生するターボラグを解消するシステムである。

動作原理

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ターボチャージャーは、エンジンから排出される排気のエネルギーにより排気タービンを回転させ、タービンと接続されているコンプレッサーを駆動することで、空気をエンジンへ圧送(過給)する[1][2]。そのため、アクセルペダルを戻すと排気エネルギーが減少し、タービン回転数が徐々に下がる[2]。その後アクセルペダルを踏み込んだ際、タービン回転数が再び上昇しコンプレッサーが機能するまで遅延時間 (ターボラグ) が生じ、この間は十分な過給が行なえず、期待した機関出力を得られない[2]

アンチラグシステムは、アクセルオフ時に点火時期を遅角し、タービン直前のエキゾーストマニホールド内で未燃焼ガスを燃焼させ、排気ガスのエネルギー不足を補いタービン回転数の低下を防ぐ[3][4][5]。システム作動時には、「ポンポン」「ポコポコ」という音がするが、制御が不十分でエキゾーストマニホールド内で燃焼せずにアフターファイアーを起こしている場合には、爆発音のような「バンバン」「パパパパ」という音が発生する[6]

アンチラグシステムの方式には大きく2種類が存在する。

スロットル制御方式
アクセルオフ時にもスロットルバルブを開けることで、エンジンシリンダーを通してエキゾーストマニホールドへ空気を導入する[7]。 機械式スロットルではバルブ制御に限界があったが、電子制御スロットルの登場により制御の自由度が増している[7]
バイパス方式
吸気側からエキゾーストマニホールドへ通るバイパス路を設け、バイパス路を通して空気を導入する[7]。制御自由度の高さなど、スロットル制御方式に対して複数の利点を持つ[7][8][9]。競技によってはバイパス方式は禁止されている[注釈 1]

歴史

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アンチラグシステムは1980年代のF1WRCグループBで使用され始めた[13]

WRCでは、グループAリストラクターが小径化されるにつれて、ターボラグ解消に注力されるようになり、アンチラグシステムの使用が一般化した[14]。WRCにアンチラグシステムが導入された1990年代には、メディアでは「ミスファイアリングシステム」という呼称が用いられた[15]。また、トヨタは「フレッシュエアシステム」[16]三菱は「二次エア供給システム (PCC)」[17]と独自の名称を使用していた。ALSの制御技術は、ローンチコントロールにも適用された[18]

2010年代以降では、WTCC[7][19]SUPER GT[10][20]スーパーフォーミュラ[10]D1グランプリ[21][22]などターボエンジンを使用する競技で使用されている。

市販車での純正装着例

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世界ラリー選手権 (WRC) で使用されていたグループAの技術規則では、バイパス路を後から設置することができなかったため、市販車の中にも装着例がある[7]。ランサーエボリューションIIIを除き(車検通過範囲での作動)[23]市販状態では作動しない[7]

関連項目

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脚注

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注釈

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  1. ^

出典

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  1. ^ 稲垣秋介 2005, p. 80.
  2. ^ a b c Martin Sharp & 松沼猛 2004, p. 86.
  3. ^ 稲垣秋介 2005, p. 82.
  4. ^ 嶋村誠 et al. 2009, p. 23.
  5. ^ Martin Sharp & 松沼猛 2004, p. 87.
  6. ^ avo-motec 2013.
  7. ^ a b c d e f g h 古賀敬介 2016, p. 62.
  8. ^ 土岐文二 2014, pp. 60–61.
  9. ^ 今井清和 2007, p. 71.
  10. ^ a b c 古賀敬介 2016, p. 63.
  11. ^ RALLY PLUS 2022, p. 67.
  12. ^ 土岐文二 2014, pp. 60.
  13. ^ 古賀敬介 2016, p. 61.
  14. ^ 古賀敬介 2016, pp. 61–62.
  15. ^ 我々プレス仲間では、これをミスファイアリング・システムと呼んでいる。飯島俊行 1995, p. 87
  16. ^ 小池尚昭 2000, p. 45.
  17. ^ 飯島俊行 1995, p. 87.
  18. ^ 稲垣秋介 2005, p. 51.
  19. ^ 堀内大資 2013.
  20. ^ 土岐文二 2014.
  21. ^ ドリフト天国 2022.
  22. ^ a b weboption 2021.
  23. ^ エンスーCAR本「STRUT」 2009, p. [要ページ番号].
  24. ^ 世良耕太 2008, p. 30.
  25. ^ 世良耕太. “パワーユニットを中心としたF1の技術動向について【後編】”. 2023年1月31日閲覧。

参考文献

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書籍

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  • 稲垣秋介『三菱によるラリーカー工学 公道最速カテゴリーの技術』三菱自動車工業株式会社 監修、山海堂、2005年、82頁。ISBN 4-381-08849-2 
  • エンスーCAR本「STRUT」『ランサーエボリューション・ストーリー 三菱ラリー哲学の具現化』三樹書房〈エンスーCARガイドSP〉、2009年。ISBN 978-4-89522-533-5OCLC 401171519 
  • 小池尚昭「モータースポーツ用ターボについて」『自動車技術』第54巻第2号、自動車技術会、2000年、41-46頁、ISSN 0385-7298 
  • 嶋村誠、小澤正弘、戸叶大輔、下山浩、鈴木敦、萩原博「世界ラリー選手権参戦の総括」『自動車技術』第63巻第10号、自動車技術会、2009年、21-26頁、ISSN 0385-7298 
  • 土岐文二「SUPER GT 300用エンジン開発」『自動車技術』第68巻第9号、自動車技術会、2014年、56-61頁、ISSN 0385-7298 
  • 飯島俊行「三菱ランサーエボリューションIII インプレッション」『オートスポーツ』第32巻第4号、三栄書房、1995年、86-89頁。 
  • Martin Sharp、松沼猛「WRカー技術白書」『WRC Plus』第4巻、2004年、86-89頁。 
  • 今井清和「WRカーの過給技術」『MotorFan illustrated』第13巻、三栄書房、2007年、70-73頁。 
  • 世良耕太「ランサーエボリューションXに見る自動車技術 エンジン」『MotorFan illustrated』第17巻、三栄書房、2008年、30-37頁。 
  • 古賀敬介「アンチ・ラグ・システム in Racing Field」『MotorFan illustrated』第119巻、三栄書房、2016年、60-63頁。 
  • 「轟け! アンチラグ」『ドリフト天国』第24巻第6号、三栄、2022年5月、22-29頁。 
  • RALLY PLUS「2022年WRCレギュレーション解説」『Rally PLUS』第32巻、三栄、2022年、66-71頁。 

Web

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