鉛蓄電池

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鉛蓄電池
Photo-CarBattery.jpg
自動車用鉛蓄電池
重量エネルギー密度 30-40 Wh/kg
体積エネルギー密度 60-75 Wh/l
出力荷重比 180 W/kg
充電/放電効率 50%-92% [1]
エネルギーコスト 7(sld)-18(fld) Wh/US$ [2]
自己放電率 3%-20%/ [3]
サイクル耐久性 500-800 c
公称電圧 2.105 V
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リサイクルマーク(リサイクル法による)

鉛蓄電池(なまりちくでんち)とは、電極を用いた二次電池の一種である。

概要[編集]

鉛蓄電池は、1859年にガストン・プランテにより発明された最初の再充電可能な電池であり、現在では正極(陽極板)に二酸化鉛、負極(陰極板)に海綿状の電解液として希硫酸を用いた二次電池として広く用いられている。正極・負極の双方から電解液中に硫酸イオンが移動することで充電され、電解液中の硫酸イオンが正極・負極の双方に移動することで放電を行う(詳細は後述)。放電すると、硫酸イオンが正極・負極の双方に移動するために電解液の比重は低下し、逆に充電すると上昇する。なお、電解液の比重の変化は、放電時に正極で水が作られることも関係している。

公称電圧は単セルあたり2ボルトと、比較的高い電圧を取り出すことができ、電極材料の鉛も安価であることから、二次電池の中では世界でも最も生産量が多い。短時間で大電流を放電させても、長時間で緩やかな放電を行っても比較的安定した性能を持ち、ほかの二次電池と異なり、放電しきらない状態で再充電を行ってもメモリー効果は表れない。

一方、他の蓄電池に比べて大型で重く、希硫酸を使うために漏洩や破損時に危険が伴う。過放電によりサルフェーション(白色硫酸鉛化)と呼ばれる現象が生じて容量が低下する。また、充電量の低下に伴って電解液の濃度が低下し、凝固点が上がるため、極寒地では電解液が凍結しやすくなり、凍結時の膨張によりケースが破損する場合もある。このことから、こまめに充電して過放電を避けたほうがより長く機能を維持できる[1]。空になるまで放電させる用途のために電極を改良したディープサイクルバッテリーも存在する。

用途[編集]

自動車バッテリーとして広く利用されているのをはじめ、産業用として商用電源が停電した時における浮動充電用無停電電源装置の用途や、バッテリーで駆動するフォークリフト・ゴルフカートといった電動車用主電源などにも用いられている。また小型飛行機用としても広く使われている。自動車・小型飛行機いずれの場合も、オルタネーター交流発電機)で発生した交流ダイオードなどによって整流することによって直流にして充電される。小さなところでは、アイワヘッドホンステレオなどのガム型電池でも使われた。

原理・構造[編集]

鉛蓄電池の電極における化学反応は下記で示され、PbとPbO2におけるPbの酸化数の差を利用した電池である。

放電時 充電時
負極
正極

上の2本の式は1本にまとめることができる

鉛蓄電池の構造は次の通りである。

  • 正極
    • 電極格子: 鉛、または鉛合金
    • 活物質: 二酸化鉛 PbO2
  • 負極
    • 電極格子: 鉛、または鉛合金
    • 活物質: Pb
  • 電解液: 希硫酸(H2SO4)濃度:30-35%程度を用途別にJISで規定
  • セパレーター: 合成樹脂製で多孔質の隔離板[1]
  • 電槽・ふた: 正極・負極板・セパレータを組み合わせた極群や電解液を収納する容器

他に電極端子や安全弁、それらのシール材や表示物がある。

従来の鉛だけで構成される電極格子に代わり、新たな材質として鉛とスズ、カルシウムの合金が使われている。材質の改良などにより自己放電が減少し、1年に20%程度しか消耗しないようになった[1]

分類[編集]

極板の種類による区分[編集]

クラッド式
ガラス繊維をチューブ状に編み上げて焼き固めたものの中に極板活物質を充填したもので構成される極板。正極板のみに採用されている。蓄電池の耐久性が向上し、主に産業用の長寿命タイプの蓄電池やフォークリフト用の蓄電池に使用されている。
ペースト式
格子体と呼ばれる極板の骨組みにペースト状にした活物質を塗り込んで極板にしたもの。正極板にも負極板にも採用されている。極板の反応面積を増やし、短時間で大電流放電させる用途の蓄電池を作ることが可能となる。
チュードル式
正極に使われる。厚さ10mmほどの鉛板に多数の縦溝を切ることで表面積を稼ぎ、表面を酸化させた極板。重量がかさむ。現在、日本では製造されていない。一部の海外製鉛蓄電池で現存。

構造上の区分[編集]

ベント式鉛蓄電池
古くからある構造のもので、電解液に極板を浸し、上部に主に充電時に発生するガスを外部に逃がすための孔が開いている。液式電池と呼ばれることがある。孔は単純にただ開いているものや、ガス排気用のチューブを接続できるものなどがある。
充電時に電解液中の電気分解され可燃性の水素ガスと酸素ガスが放出され、また電池を倒したり逆さにすると孔から電解液の希硫酸が漏れるので、取り扱いに注意を要する。
充電時の電気分解や蒸発によって電解液中の水が失われるため、電解液量を点検し精製水を補充(補水)するメンテナンスが必要である。補水を怠ると電解液量が減少し極板が露出し、電池としての性能が低下するばかりでなく、極板が不可逆的に劣化する。また電解液量が減った分ガスの溜まる量が増え、万一着火すると危険になるので、補水メンテナンスは重要である。もっとも、現在では次に述べる制御弁式と同様の技術を用いて水の減少を減らしたものが多く(メンテナンスフリー (MF) バッテリーと呼ばれる)、中には寿命まで補水の必要がないものも存在する。
日本の自動車の始動用鉛蓄電池(SLI(starting, lighting, ignition) バッテリー)は主にこのベント式だが、車室内やトランク内に搭載されるものには次に述べる制御弁式が使用されることが多い。
制御弁式鉛蓄電池 (VRLA、valve-regulated lead-acid battery)
ガスの発生を減らし容器を密閉したもの。充電時に発生する水素ガスと酸素ガスをカルシウムを含む極板で水に戻す。水が失われないので補水は不要である[2]
実際にはガスの発生を完全に防ぐことはできず、内圧が上昇したときは弁が開いてガスを放出するようになっているが、保管中はこの弁が閉じているので、電池を倒したり逆さにしても電解液が漏れない。
かつてはベント式と同様に電解液に極板を浸していたが、現在では陽極板と陰極板を隔てるガラスマットに電解液を保持させる AGM (Absorbent Glass Mat; 吸収ガラスマット)バッテリーや、シリカなどを用いて電解液をゲル状に固めたゲルバッテリーが使われるようになった。ゲルバッテリーは乾電池のようにどんな角度でも使用できるのでドライバッテリーとも呼ばれる。
制御弁式は電解液量が少ないため周囲温度の影響を受けやすく、特に高温度条件下では寿命が短くなることがある。

廃棄[編集]

鉛蓄電池は、人体や環境に有害な硫酸を含んでおり、一般の廃棄物として捨てることが出来無い。このため、電池工業会と各電池メーカーを中心に、交換用のバッテリーを販売した店が、廃棄する鉛蓄電池を下取りするリサイクル制度が整備されている。廃棄された鉛蓄電池は、大きく分けて鉛・プラスチック・硫酸に分けられるが、硫酸以外は資源として価値が高いために、業者間では有価物として取引されている。電解液の希硫酸は医薬用外劇物で、廃棄する際などには炭酸水素ナトリウム(重曹)を始めとする中和剤を用いて、適切な処理をしなければならない。

劣化現象[編集]

鉛蓄電池は放電し切ると、負極板表面に硫酸鉛の硬い結晶が生じるサルフェーション(白色硫酸鉛化)と呼ばれる現象が発生しやすくなる。鉛蓄電池では電極の表面積を広げるために表面が粒状となっているが、サルフェーションにより硫酸鉛が表面に付着して表面積が低下し起電力が低下する。硫酸鉛の結晶は溶解度が低く、一度析出すると充放電のサイクルに戻ることができない。サルフェーションが発生した鉛蓄電池は充電すると電圧は回復するものの内部抵抗が大きくなり、実際使用できる電池容量が低下する。バッテリー劣化はバッテリーテスターでCCA(Cold Cranking Amperes)値を計測することで判断できる。CCA値は-18℃で放電させた場合端子電圧が30秒間に7.2Vまで低下する場合の放電電流(A)を表している。

サルフェーションを起こした鉛蓄電池の機能回復をうたう添加剤があり、多くは炭素微粉末やゲルマニウム、リグニン、特殊ポリマーなどを使用しているが効果は限定的である。パルスを併用した充電でサルフェーションを除去する装置があるが、電極が劣化したり脱落したものには無効である。

他には正極板の二酸化鉛が使用していくにつれて徐々にはがれる脱落と呼ばれる現象が発生し、これが電池底部にたまって陽極と陰極をショートした形となって電圧が低下する。通常セル1個の電圧が2ボルトであるので、ショートしたセルの数だけ2ボルト単位で電圧が低下するのが特徴である。電解液の溶媒である水は、蒸発や充電時に水素と酸素に電気分解されることによって液量が減少する。液面が下がって電極と電解液の接触面積が減少すると起電力が低下するため、鉛蓄電池には液面高さを示す表示がされていて、下限に達した際には精製水を補充する必要がある。電解液が不足(液枯れ)状態では、充電中や衝撃等による火花(ショート)が発生し、水素ガスに引火すると爆発事故となる。

電動フォークリフトなど多数の蓄電池を日常的に使用する場合にわずらわしい補水作業を簡単にするため、蓄電池メーカーはオプションで一括補水システムを用意している。

鉛蓄電池を製造販売している企業[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b c 梅尾良之著 ブルーバックス『新しい電池の科学』 講談社 2006年9月20日第1刷発行 ISBN 4062575302
  2. ^ 酒井茂、「自動車用,産業用鉛電池の現状と将来」 電気学会論文誌D(産業応用部門誌)Vol.111 (1991) No.8 P.626-632, doi:10.1541/ieejias.111.626

関連項目[編集]