デッドマン装置


デッドマン装置(デッドマンそうち)とは、機械の安全装置の一つで、人間の操作者が死亡・意識喪失などの事態に陥ったときや、不用意に運転位置を離れた際に自動的に動作(あるいは停止)して事故を防止する装置である[1]。
とくに車両のデッドマン装置をデッドマンブレーキ(英: dead man's brake)と称することも多い。自動車のデッドマン装置はドライバー異常時対応システム(英: Emergency Driving Stop System)と呼ばれる。産業用ロボットのデッドマン装置はデッドマンスイッチ(英: dead man's switch)と呼ばれる。コンピュータなど機械の不具合を検知する類似の機構はウォッチドッグタイマーと呼ばれる。
車両
[編集]鉄道車両
[編集]1918年、アメリカで、ブルックリン・ラピッド・トランジット(BRT、現在のニューヨーク市地下鉄)が速度超過したままカーブに進入して脱線するというマルボーン・ストリート鉄道事故が起きた。死者多数の惨事を受けて、車両や信号に多数の安全装置が導入されたが、その一つが、運転席に設置され暴走を防ぐデッドマン装置であった。
デッドマンブレーキの機構としては、自動復帰型(力をかけない開放状態にすると自動的にニュートラルになる)のボタン、レバー、ペダルなどを持つ。運用中、それから手や足が離れ開放状態に戻ると、装置本体が動作する。

列車運転中に運転士の意識喪失などの異常事態が発生した場合に、自動的に列車を停止させる運転保安装置がある[2][3]。大手私鉄やJR西日本223系電車以降の新型車両[注釈 1]などで一般的に使用されている。
その言葉(Dead Man)が意味するように、「運転士が死んで車両が暴走するのを防ぐ」という発想から来た言葉ともいわれる。
デッドマン装置が搭載されている車両には、運転中に運転士が常に保持していなければならない装置部品が取り付けられている。
マスター・コントローラーとブレーキハンドルが分かれている2ハンドルタイプの車両では、手を離すとマスコンハンドルの握り部分が飛び出すもの・マスコン可動部分が跳ね上がるものなどが、マスコンとブレーキが一体化している1ハンドルタイプの車両では、ハンドルの握り部分に保持レバーがあるものが、それぞれ一般的である。その他、足元にペダルが設置された車両もある。
一般に、運転中にこれらの装置部品から手足を離すと即座に非常ブレーキがかかる仕組みになっている[注釈 2]が、力行中のみ動作するもの、ハンドルがブレーキ位置にある場合は動作しないもの、ブレーキ位置にあってもブレーキ段数が一定以下の場合にも動作するもの、力行中のみ動作するが単に力行がオフになるだけのもの、さらに、ワンマン運転の路線・車両では動作時に無線による非常信号が発信されるものなど、様々なバリエーションがある。
なお、運転士に異常が起こった際にこれらの装置を握り締めながら気絶するなど、装置が動作しないケースは起こりえる。
一方JR各社や第三セクター鉄道の場合は、一定時間運転操作をしないと非常ブレーキがかかる緊急列車停止装置(EB装置)が多く採用されている。この違いは、主に電車で運転されてきた私鉄と、もともと機関車の一人乗務化の際の安全対策として導入されたものが一般化したJR(旧国鉄)との違いによるものが主な要因である。アメリカの鉄道車両で使用されている「Alerter」もこれに類似する。ただし、私鉄でもEB装置を導入している事業者があるほか、下記の改正以降EB装置と併設・併用する事業者もある。
なお、2006年の鉄道に関する技術上の基準を定める省令の改正により、同令第79条第3項に基づき新製車両にデッドマン装置または緊急列車停止装置(EB装置)を設置することが義務付けられた(既存車両は努力義務)。これは、ツーマン運転用車両における回送列車などで車掌が乗務しない事例が増えてきており、それに対処したものである。ただし、対象から除外されている車両もあり、詳細は以下の表に記載する。
| ツーマン運転 | ワンマン運転 | |
|---|---|---|
| 地下式構造または 高架式構造 (新幹線を含む) |
設置が必要 ただしATO・ATC・ATS (常に制限速度を超過するおそれのない装置に限る) により運転する車両を除く |
設置が必要 (地下鉄等旅客車は 作動時の通報装置を含む) ただしATO・ATC・ATS (常に制限速度を超過する おそれのない装置に限る) により運転する車両を除く |
| 同一運転室に2人 以上の乗務員が 乗務する車両 |
設置対象外 | |
| 上記以外 | 設置が必要 | 設置が必要 |
自動車
[編集]国土交通省は2016年3月29日に、ドライバーが急病などで運転の継続が困難になった場合に、自動で停止させる「ドライバー異常時対応システム」のガイドラインを策定した。ガイドラインでは、異常検知では、システム作動によって非常ブレーキが作動する「異常自動検知型」とドライバー並びに同乗者が非常ボタンを押して「押しボタン型」を定めているほか、非常ブレーキ作動時の停止に関しては、単純停止方式と車線内停止方式を定めている。非常ブレーキ作動時は、周囲に知らせるためにクラクションが鳴り、尾灯とハザードランプが点灯する[5][6]。「ドライバー異常時対応システム」搭載車にはステッカーが貼られる[7]。
2018年に、日野・セレガと統合車種であるいすゞ・ガーラに世界で初めて搭載された[7][8][9]。日野のシステムは2018年にグッドデザイン賞を受賞している[10]。大型・中型トラックにも搭載が進んでおり、2021年にはいすゞ・ギガと三菱ふそう・スーパーグレートにメーカーオプションで設定された[11][12]。
押しボタン型は、ドライバーが非常ボタンを押した場合は即座に非常ブレーキが作動して停止する。同乗者が非常ボタンを押した場合は軽いブレーキが掛かった後に非常ブレーキが作動して停止する。停止後は客室内にもホーンが鳴ると同時に、赤色のフラッシャーが点灯する。
メーカー毎の状況
[編集]| 検知方式 | 主な搭載車種 | 解説 |
|---|---|---|
| トヨタ自動車 | ||
| 押しボタン型 | SORA(2019年9月一部改良以降) | 作動時と停止時にアナウンスが流れる[13]。 |
| マツダ | ||
| 異常自動検知型と押しボタン型 | CX-60 CX-80 MAZDA3(2019年以降のモデルから) |
「DEA[注釈 3]・コ・パイロット・コンセプト」の名称で展開。 運転者の異常を検知、または乗員が操作することにより作動する。作動すると非常点滅表示灯の点滅を開始し、間もなく緊急停車することを乗員に報知しながら、運転者の正常/異常判定を行う。運転者が通常運転状態に復帰せず、システムがキャンセルされない場合には、非常点滅表示灯に加えてブレーキランプの点滅とホーンの吹鳴を開始し、車両を減速・停止させる[14]。 マツダコネクトコネクティッドサービスに加入している場合は停車後、マツダエマンジェンシーコールを通じて、ヘルプネットのオペレーターにより必要に応じて緊急車両の手配がされる[15][16][17]。 |
| UDトラックス | ||
| 異常自動検知型と押しボタン型 | クオン(3代目) | いすゞからOEMを受けるクオン(=ギガ)に搭載。下記いすゞの項目を参照。 |
| コンドル(6代目) | いすゞからOEMを受けるコンドル(=フォワード)に搭載。下記いすゞの項目を参照。 | |
| カゼット(3代目) | いすゞからOEMを受けるカゼット(=エルフ)に搭載。下記いすゞの項目を参照。 | |
| 日野自動車 | ||
| 押しボタン型 | セレガ(2代目・2018年7月の一部改良後、2019年6月まで) | 停止後はICTサービスである「HINO CONNECT」にて、ユーザーが登録したメールアドレスを通じて、対象車両・作動時刻・位置情報が通知される。 |
| 異常自動検知型と押しボタン型 | セレガ(2代目・2019年7月一部改良以降) | 異常自動検知型はドライバーモニター・車線逸脱警報と連動し、ドライバーに異常が発生した場合は車両を自動的に停止させる。停止後はICTサービスである「HINO CONNECT」にて、ユーザーが登録したメールアドレスを通じて、対象車両・作動時刻・位置情報が通知される。 |
| レンジャー(6代目・2021年8月一部改良以降) | 一部車型に標準装備。その他の車型はメーカーオプション。 異常自動検知型はドライバーモニターII・車線逸脱警報と連動し、ドライバーに異常が発生した場合は車両を自動的に停止させる。 | |
| 押しボタン型 | ブルーリボン(KV系、2019年7月一部改良以降) ブルーリボンハイブリッド(2019年7月一部改良以降) ブルーリボンハイブリッド連節バス レインボー(KR系、2019年7月一部改良以降) |
いすゞとの統合車種であるブルーリボン(=エルガ)・ブルーリボンハイブリッド(=エルガハイブリッド)・ブルーリボンハイブリッド連節バス(=エルガデュオ)・レインボー(=エルガミオ)に搭載。下記いすゞの項目を参照。 |
| 押しボタン型 | メルファ(2021年10月一部改良以降) | |
| いすゞ自動車 | ||
| 押しボタン型 | ガーラ(2代目・2018年7月の一部改良後、2019年5月まで) | 日野との統合車種であるガーラ(=セレガ)に搭載。上記日野の項目を参照。 ICTサービスは未装備。 |
| 異常自動検知型と押しボタン型 | ガーラ(2代目・2019年6月一部改良以降) | 日野との統合車種であるガーラ(=セレガ)に搭載。上記日野の項目を参照。 ICTサービスは未装備。 |
| ギガ(2代目・2021年5月一部改良以降) | 全車型にメーカーオプション。 異常自動検知型はドライバーステータスモニターと連動し、ドライバーに異常が発生した場合は車両を自動的に停止させる。停止後はユーザーが登録したメールアドレスを通じて、対象車両・作動時刻・位置情報が通知される。 | |
| エルフ(7代目) | メーカーオプションである「PREMIUM」パッケージと「ADVANCE」パッケージに標準装備。 異常自動検知型はドライバーステータスモニターと連動し、車両を停止させる。 「ADVANCE」パッケージは単純停止のみ。 ISIM搭載車かつフロントインディペンデントサスペンション車の「PREMIUM」パッケージは単純停止の他にも車線内での自動停止機能も備える。停止後はユーザーが登録したメールアドレスを通じて、対象車両・作動時刻・位置情報が通知される。 | |
| フォワード(6代目) | メーカーオプションである「PREMIUM」パッケージと「ADVANCE」パッケージに標準装備。 異常自動検知型はドライバーステータスモニターと連動し、車両を停止させる。 「ADVANCE」パッケージは単純停止のみ。 「PREMIUM」パッケージは単純停止の他にも車線内での自動停止機能も備える。停止後はユーザーが登録したメールアドレスを通じて、対象車両・作動時刻・位置情報が通知される。 | |
| 押しボタン型 | エルガ(2代目、2019年6月一部改良以降) エルガハイブリッド(2代目、2019年6月一部改良以降) エルガデュオ エルガミオ(2代目、2019年6月一部改良以降) |
作動時と停止時に日本語と英語のアナウンスが流れる。 |
| 押しボタン型 | ガーラミオ(2代目、2021年9月一部改良以降) | 日野との統合車種であるガーラミオ(=メルファ)に搭載。上記日野の項目を参照。 ICTサービスは未装備。 |
| 三菱ふそうトラック・バス | ||
| 押しボタン型 | エアロクィーン(3代目、2019年4月一部改良以降) エアロエース(2019年4月一部改良以降) |
停止後はICTサービスである「バスコネクト」を通じて、対象車両・作動時刻・位置情報が通知される[18]。 |
| 押しボタン型 | エアロスター(2代目、2019年9月一部改良以降) | 作動時と停止時にアナウンスが流れる[19]。 |
| 異常自動検知型 | スーパーグレート(2代目、2021年6月一部改良以降) | プロキシミティ・コントロール・アシストが標準装備されるプレミアム・ラインとプロ・ラインは全車型にメーカーオプション。 エコ・ラインはプロキシミティー・コントロール・アシストとセットでメーカーオプション。 ハンズオン検知システムを通じて60秒間ステアリング操作が行われない場合、車両をモニターと警告音と共に車線へ自動的に停止させる。 |
| 本田技研工業 | ||
| 異常自動検知型 | アコード(11代目、Honda SENSING 360+) | フロントセンサーカメラに加え、フロントレーダーと各コーナーに計5台が設置されている。ドライバーに異常が発生した際、初期の場合は軽い警告音が表示され、反応がない場合は重大な警告音が作動する、またステアリング操作の維持機能やアクセルを無効化にし加速を抑止させる機能も搭載されている[20][21]。 |
その他の車両
[編集]この節の加筆が望まれています。 |
- リーチ式(立席型)フォークリフトに装置されたデッドマンブレーキは、放すと効くブレーキペダルによって、運転者が不用意に運転位置を離れた際の逸走を防ぐ。
- 消防車(はしご車)にも導入されている。
- 乗用車では、上記の他SUBARUも導入している[22]。
船舶
[編集]水上オートバイにおいては、船舶職員及び小型船舶操縦者法施行規則 第百二十七条により
- 「操縦者が船外に転落した際、推進機関が自動的に停止する機能を有する等操縦者がいない状態の小型船舶が船外に転落した操縦者から大きく離れないような機能を有すること。」
と、デッドマン装置の装備を義務付けている。
産業用ロボット
[編集]産業用ロボットのデッドマン装置、デッドマンスイッチは現在イネーブルスイッチ(英: Enable switch)と呼ばれるもので、いわゆる3ポジションスイッチである。つまり、力を入れていない時はOFF、適度な力をかけている時のみON、そして強い力をかけた時はOFFとなる回路である。
このデッドマンスイッチは産業用ロボットのティーチング時に有効となる装置で、スイッチがONとなっている時のみロボットに電力が流れるようになる。ティーチング時、普段はデッドマンスイッチに適切な力を加えてロボットの電力を入れて操作装置でロボットを操作するが、非常事態において手元の操作装置を手放すか強く握ってしまうかは人によって異なり、どちらの場合でもOFFとなるよう働くことで非常事態における災害発生を防止する。
医用放射線機器
[編集]医用放射線機器のうち透視型X線装置は曝射スイッチが押されている間は常に放射線が照射されるため、大線量被曝による放射線障害を防止する目的でフットペダルから足を離した瞬間に放射線の照射が止まる機構となっている。
それ以外にも透視型X線装置や放射線治療装置は、操作者(診療放射線技師)の被曝を防ぐため、通常患者から離れた位置で操作を行わなければならないので、患者と装置の衝突の危険がある場合にすぐに装置を停止できるようデッドマン型制御としなければならないことがJISに定められている。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ 逆にデッドマン装置がない乗り物において操縦者の突然死を原因とした事故の例として、2025年2月20日に発生した「80歳男性の運転するトヨタ・アリオンが、ドライバーの突然死により衝突・炎上する」という内容の事故がある。
「乗用車が電柱にぶつかった」車は炎上 運転手の男性(80)が搬送先の病院で死亡 死因は事故によるものでなく病死 相模原市中央区|TBS NEWS DIG - TBS NEWS DIG Powered by JNN 公式YouTubeチャンネル、2025年2月20日。 - ^ Newman, Andy (2010年4月28日). “Train Stopped Safely by ‘Dead-Man Feature’”. The New York Times
- ^ Newman, Andy (2010年5月7日). “Not the First Time the 'Dead-Man' Switch Did Its Job”. The New York Times 2010年5月7日閲覧。
- ^ 福原俊一『鉄道そもそも話』交通新聞社、2014年
- ^ 世界初、ドライバー異常時対応システムのガイドラインLogisticsToday 2016年3月29日
- ^ ドライバー異常時対応システム(減速停止型)基本設計書国土交通省
- ^ a b 日野自動車、商用車世界初となるドライバー異常時対応システム(EDSS: Emergency Driving Stop System)を開発 今夏、日野セレガに搭載し発売予定日野自動車 2018年5月21日
- ^ 日野自動車、大型観光バス「日野セレガ」を改良して新発売日野自動車 2018年6月26日
- ^ いすゞ、ドライバー異常時対応システムを搭載した次期大型観光バスについて-Emergency Driving Stop System(EDSS)-いすゞ自動車 2018年6月12日
- ^ 「ドライバー異常時対応システム(EDSS)」と燃料電池バス「SORA」が2018年度グッドデザイン賞を受賞日野自動車 2018年10月3日
- ^ いすゞ、大型トラック「ギガ」に新規オプションを追加-国内トラック初のドライバー異常時対応システム(EDSS)を採用-いすゞ自動車 2021年5月14日
- ^ 大型トラック「スーパーグレート」の新型モデルを発売-国内初のさらに進化した運転自動化レベル2の高度運転支援機能で安全性の強化を実現-三菱ふそうトラック・バス 2021年6月4日
- ^ 『トヨタ自動車、燃料電池バス「SORA」を改良』(プレスリリース)トヨタ自動車株式会社、2019年8月6日。2021年3月30日閲覧。
- ^ “ドライバー異常時対応システム (DEA) について”. www2.mazda.co.jp. 2026年1月13日閲覧。
- ^ Mazda Official (2023-03-30), ドライバー異常時対応システム(DEA) 2026年1月13日閲覧。
- ^ “ドライバー異常時対応システム (DEA) について”. www2.mazda.co.jp. 2025年9月2日閲覧。
- ^ “安全・安心なクルマ社会の実現|社会|サステナビリティ|MAZDA 企業サイト”. www.mazda.com. 2026年1月21日閲覧。
- ^ 大型観光バス「エアロクィーン」「エアロエース」19年型モデルを発表三菱ふそうトラック・バス 2019年2月21日
- ^ ドライバー異常時対応システム(EDSS)搭載の大型路線バス「エアロスター」2019年モデルを発売三菱ふそうトラック・バス 2019年2月21日
- ^ “2024年春発売予定の新型「ACCORD」をホームページで先行公開 | Honda 企業情報サイト”. Honda Global (2023年). 2026年1月16日閲覧。
- ^ “ドライバー異常時対応システム|テクノロジー|Honda公式サイト”. Honda公式サイト. 2025年9月2日閲覧。
- ^ “「アイサイトX」の機能、ご存知ですか?? – スバル中四国株式会社 愛媛・高知エリア”. www.shikoku-subaru.co.jp. 2025年9月2日閲覧。
関連項目
[編集]- 安全工学
- フェイルセーフ
- 信頼性設計
- 操縦席#鉄道車両の運転席・運転台
- 自動列車停止装置 (ATS)
- 自動列車制御装置 (ATC)
- 自動列車運転装置 (ATO)
- ウォッチドッグタイマー
- 先進安全自動車