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== 概要 ==
== 概要 ==
GPLは、[[二次的著作物]]([[:en:Derivative work|Derivative work]])<ref name="derivative-works" />の頒布条件を同一のライセンスに限るという、[[コピーレフト]]の[[ソフトウェアライセンス]]としては初めてのものであり、そのもっとも代表的なものである。この考えに基づき、GPLは[[プログラム (コンピュータ)|プログラム]]の''受領者''(''recipients'')に[[フリーソフトウェアの定義]]に基づく権利を与え、たとえ''著作物''(''works''; 「作品」{{ref label|gplv3-term-definitions|A|A}}とも)に変更(改変)または追加があろうとも''[[自由]]''を守るためコピーレフトを行使する。これは[[BSDライセンス]]をはじめとする[[緩やかなフリーソフトウェアライセンス]]([[:en:Permissive free software licence|Permissive free software licence]]; 寛大型フリーソフトウェアライセンス)とは明確に異なる。


ただし、GPLの条文自体はGPLの下配布されているわけではなく、ライセンス著作者は条文の改変(''modifications'')を許可していない(GPLの条文自体の[[著作権]]は[[フリーソフトウェア財団]]が持つ)。GPLはプログラムの受領者に''(本ライセンスの直接の対象となる)本プログラムと共に本ライセンスの複製を''(''a copy of this License along with the Program'')得る権利を与えているため、未改変のライセンスの複製と''頒布''(''distribution''; 配布)は許されている<ref>
GPLは、[[二次的著作物]]([[:en:Derivative work|Derivative work]])<ref name="derivative-works" />の頒布条件を同一のライセンスに限るという、[[コピーレフト]]の[[ソフトウェアライセンス]]としては初めてのものであり、そのもっとも代表的なものである。この考えに基づき、GPLは[[プログラム (コンピュータ)|プログラム]]の''受領者''(''recipients'')に[[フリーソフトウェアの定義]]に基づく権利を与え、たとえ''著作物''(''works''; 作品<ref>
GPLでは[[著作権法]]で規定された[[著作物]]だけではなく、''著作権に類似した法的権利''も対象としている。この点をGPLv3では第0節(第0項)で規定している。また、以下「'''(その)プログラム'''」('''The Program''')という用語がたびたび出てくるが、これはGPLにより許諾された著作権が主張可能な「作品」すべてを含んでいる。
</ref>)に変更(改変)または追加があろうとも''[[自由]]''を守るためコピーレフトを行使する。これは[[BSDライセンス]]をはじめとする[[緩やかなフリーソフトウェアライセンス]]([[:en:Permissive free software licence|Permissive free software licence]]; 寛大型フリーソフトウェアライセンス)とは明確に異なる。

ただし、GPLの条文自体はGPLの下配布されているわけではなく、ライセンス著作者は条文の改変(''modifications'')を許可していない(GPLの条文自体の[[著作権]]は[[フリーソフトウェア財団]]が持つ)。GPLはプログラムの受領者に''プログラムと共に本ライセンスの複製を''(''a copy of this License along with the Program'')得る権利を与えているため、未改変のライセンスの複製と''頒布''(''distribution''; 配布)は許されている<ref>
{{cite web
{{cite web
| url = http://www.gnu.org/copyleft/gpl.html
| url = http://www.gnu.org/copyleft/gpl.html
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| date = 2011-02-11
| date = 2011-02-11
| accessdate = 2011-03-01
| accessdate = 2011-03-01
}}</ref>によると、仮に改変する場合は、別の名前とし、「GNU」について言及せず、[[フリーソフトウェア財団]]から許諾を得ている場合を除いて改変版ライセンスからGPLの''前文''(''Preamble'')を削除した場合に限り、GPLの改変版を利用して新たなライセンスを作成しても良い。そのようにして作成された派生ライセンスに対し、FSFは一切の法的異議申し立てを行うことはないが、そういったライセンスは一般にGPLと''両立しない''(''互換性が無い''、''incompatible'')ので、FSFは推奨していない 。
}}</ref>によると、仮に改変する場合は、別の名前とし、「GNU」について言及せず、[[フリーソフトウェア財団]]から許諾を得ている場合を除いて改変版ライセンスからGPLの''前文''(''Preamble'')を削除した場合に限り、GPLの改変版を利用して新たなライセンスを作成しても良い。そのようにして作成された派生ライセンスに対し、FSFは一切の法的異議申し立てを行うことはないが、そういったライセンスは一般にGPLと''[[#両立性とマルチライセンス|両立]]しない''(''互換性が無い''、''incompatible'')ので、FSFは推奨していない 。


GPLは[[フリーソフトウェア財団]](Free Software Foundation。以下FSFと略称)によって公開され、その管理が行われている。
GPLは[[フリーソフトウェア財団]](Free Software Foundation。以下FSFと略称)によって公開され、その管理が行われている。
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ロシュは[[2003年]][[5月]]、要点を[http://www.tedroche.com/Present/VFPOOoAutomation.htm FoxTalk]にまとめている。
ロシュは[[2003年]][[5月]]、要点を[http://www.tedroche.com/Present/VFPOOoAutomation.htm FoxTalk]にまとめている。
別のコンサルタントであるリッチ・ヴォーダー(Rich Voder)も同様に要点を[http://www.mironov.com/open_source_tree_museums/ Open Source: Tree Museums]としてまとめている([[2005年]][[12月30日]])。
別のコンサルタントであるリッチ・ヴォーダー(Rich Voder)も同様に要点を[http://www.mironov.com/open_source_tree_museums/ Open Source: Tree Museums]としてまとめている([[2005年]][[12月30日]])。
</ref>。この方法だと、GPLを適用しないまま二次的著作物を頒布することを認めることが出来る。これは、二次的著作物に有償の商用ライセンスを適用することも可能にする。[[MySQL]]などはまさにこの例に当てはまる特筆すべき例である。詳しくはセクション"[[#マルチライセンス|マルチライセンス]]"を参照せよ。
</ref>。この方法だと、GPLを適用しないまま二次的著作物を頒布することを認めることができる。これは、二次的著作物に有償の商用ライセンスを適用することも可能にする。[[MySQL]]などはまさにこの例に当てはまる特筆すべき例である。詳しくはセクション"[[#マルチライセンス|マルチライセンス]]"を参照せよ。


GPLにより付与される強力な[[コピーレフト]]は[[GNU/Linuxシステム|GNU/Linux]]の成功にとって重要な役割を果たしているとも言われる。なぜなら、[[コミュニティ]]に全く還元しようとしないソフトウェア企業に搾取されるのではなく、著作物が世界全体に貢献し、自由であり続けるという確証をGPLは[[プログラマ]]に与えたからである<ref>
GPLにより付与される強力な[[コピーレフト]]は[[GNU/Linuxシステム|GNU/Linux]]の成功にとって重要な役割を果たしているとも言われる。なぜなら、[[コミュニティ]]に全く還元しようとしないソフトウェア企業にただ搾取されるのではなく、著作物が世界全体に貢献し、自由であり続けるという確証をGPLは[[プログラマ]]に与えたからである<ref>
{{cite web
{{cite web
| url = http://www.dwheeler.com/blog/2006/09/01/#gpl-bsd
| url = http://www.dwheeler.com/blog/2006/09/01/#gpl-bsd
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}}</ref>。
}}</ref>。


GPLは幾度か改訂されており、[[1991年]]にはバージョン2がリリースされている。バージョン3がリリースされるまで、それに従う15年間、[[FLOSS]]コミュニティの幾人かは、GPLでライセンスされているプログラムを、ライセンスの意図に反し、搾取する事につながる''抜け道''(''loopholes''; 抜け穴、ループホール)に対し懸念を抱くようになった<ref>
GPLは幾度か改訂されており、[[1991年]]にはバージョン2がリリースされている。バージョン3がリリースされるまで、それに従うこと15年間、[[FLOSS]]コミュニティの幾人かは、GPLでライセンスされているプログラムを、ライセンスの意図に反し、搾取する事につながる''抜け道''(''loopholes''; 抜け穴、ループホール)に対し懸念を抱くようになった<ref>
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| url = http://gplv3.fsf.org/rms-why.html
| url = http://gplv3.fsf.org/rms-why.html
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}}</ref>。これらの懸念の中には、[[TiVo化]](Tivoization。GPLでライセンスされたプログラムが含まれているにも関わらず、改変版ソフトウェアの稼動を拒絶するハードウェアについての問題)、Webインタフェースの裏側に隠れ公開されることのない改変版GPLソフトウェアの利用、[[Affero General Public License|AGPL]]バージョン1と同等の互換性問題、GNU/Linuxコミュニティと敵対するための武器として特許を行使する企てと見なされる、[[マイクロソフト]]とGNU/Linuxディストリビュータとの特許契約などがある。
}}</ref>。これらの懸念の中には、[[TiVo化]](Tivoization。GPLでライセンスされたプログラムが含まれているにも関わらず、改変版ソフトウェアの稼動を拒絶するハードウェアについての問題)、Webインタフェースの裏側に隠れ公開されることのない改変版GPLソフトウェアの利用、[[Affero General Public License|AGPL]]バージョン1と同等の互換性問題、GNU/Linuxコミュニティと敵対するための武器として特許を行使する企てと見なされる、[[マイクロソフト]]とGNU/Linuxディストリビュータとの特許契約などがある。


FSFならびにFLOSSコミュニティは、これら懸念に対し真剣に取り組むべく、バージョン3への改訂作業を始めた。[[2007年]][[6月29日]]、GPLバージョン3は公式にリリースされた<ref name="gpl3launch">
FSFならびにFLOSSコミュニティは、これら懸念に対し真剣に取り組むべく、バージョン3への改訂作業を始めた<ref name="dd1-rationale">
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| title = Rationale for 1st discussion draft
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| url = http://www.fsf.org/news/gplv3_launched
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# プログラムを改良し、改良を公衆にリリースする権利(ソースコードへのアクセスは、その前提になる)
# プログラムを改良し、改良を公衆にリリースする権利(ソースコードへのアクセスは、その前提になる)


GPLと、より[[緩やかなフリーソフトウェアライセンス|制限の緩いフリーソフトウェアライセンス]]([[:en:Permissive free software licence|Permissive free software licence]])([[BSD License|BSDライセンス]]など)との間の主な違いは、GPLが二次的著作物(派生的著作物<ref name="derivative-works">
GPLと、[[BSDライセンス]]などをはじめとする、より[[緩やかなフリーソフトウェアライセンス|制限の緩いフリーソフトウェアライセンス]]([[:en:Permissive free software licence|Permissive free software licence]])との間の主な違いは、GPLが二次的著作物(派生的著作物<ref name="derivative-works">
アメリカ合衆国[[著作権法]]にいう [[:en:Derivative work|derivative work]] であり、日本国著作権法では「二次的著作物」とされるものであるが、定義等に差異がある。
アメリカ合衆国[[著作権法]]にいう [[:en:Derivative work|derivative work]] であり、日本国著作権法では「二次的著作物」とされるものであるが、定義等に差異がある。
</ref>)についても、上記の4点の権利を保護しようとする点である。この仕組みは[[コピーレフト]]と呼ばれ、GPLでライセンスされた著作物は、その二次的著作物に関してもGPLでライセンスされなければならない。これは、BSDライセンスが、二次的著作物を独占的なものとして再頒布することを許しているのとは対照的である。
</ref>)についても、上記の4点の権利を保護しようとする点である。この仕組みは[[コピーレフト]]と呼ばれ、GPLでライセンスされた著作物は、その二次的著作物に関してもGPLでライセンスされなければならない。これは、BSDライセンスが、二次的著作物を独占的なものとして再頒布することを許しているのとは対照的である。
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=== バージョン1 ===
=== バージョン1 ===
GNU GPLバージョン1は、[[1989年]][[2月]]にリリースされた<ref name="gplv1">
バージョン1は、[[1989年]][[2月]]にリリースされた<ref name="gplv1">
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| url = http://www.gnu.org/licenses/old-licenses/gpl-1.0.html
| url = http://www.gnu.org/licenses/old-licenses/gpl-1.0.html
224行目: 235行目:
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate=2011-04-01
| accessdate=2011-04-01
}}</ref>。このライセンスは、ソフトウェア頒布者が制限しようとする主に2つの手段から、フリーソフトウェアの定義たる自由を守る働きを持っていた。第一の問題は、頒布者が[[バイナリ]]、すなわち[[実行ファイル]]のみを公開するかもしれないということである。しかしながらバイナリは[[人間]]にとって読み取れる形式ではなく、また改変もできない。このことを防ぐため、GPLv1では、バイナリを頒布するいかなる[[ベンダー]]も、同じライセンスの条項のもと、機械可読な[[ソースコード]]の形で利用できるようにしなければならないとしている(ライセンスの第3a節、第3b節を見よ)。
}}</ref>。このライセンスは、ソフトウェア頒布者が制限しようとする主に2つの手段から、[[フリーソフトウェアの定義]]たる自由を守る働きを持っていた。第一の問題は、頒布者が[[バイナリ]]、すなわち[[実行ファイル]]のみを公開するかもしれないということである。しかしながらバイナリは[[人間]]にとって読み取れる形式ではなく、また改変もできない。このことを防ぐため、GPLv1では、バイナリを頒布するいかなる[[ベンダー]]も、同じライセンスの条項のもと、機械可読な[[ソースコード]]の形で利用できるようにしなければならないとしている(ライセンスの第3a節、第3b節を見よ)。


第二の問題は、ライセンスに追加の制限を加える、もしくは頒布において別の制限があるソフトウェアを組み合わせることのどちらかにより、頒布者が追加の制限を加える可能性があるということだった。もしこのことが成されれば、その時、制限の2つの[[和集合|集合の和]]は、組み合わされた著作物に適用されるだろうが、それはすなわち、受け入れられない制限が加えられたことに等しい。この様な事態を避けるため、GPLv1では、改変版は、全体として、GPLv1の条項の下頒布されなければならないと規定している(ライセンスの第2b節、第4節を見よ)。このため、GPLv1の条項の下頒布されているソフトウェアは、それよりも緩やかなライセンスで保護されるソフトウェアと組み合わせて頒布することが可能となる。なぜなら、組み合わせによって全体を通して頒布に係るライセンス条項に変化はないからである。しかし、GPLv1の条項の下頒布されているソフトウェアとそれよりも制限の厳しいライセンスで頒布されるソフトウェアを組み合わせることは、GPLv1の条項の下全体が頒布されるという要件と衝突するため、できない。
第二の問題は、ライセンスに追加の制限を加える、もしくは頒布において別の制限があるソフトウェアを組み合わせることのどちらかにより、頒布者が追加の制限を加える可能性があるということだった。もしこのことが成されれば、その時、制限の2つの[[和集合|集合の和]]は、組み合わされた著作物に適用されるだろうが、それはすなわち、受け入れられない制限が加えられたことに等しい。この様な事態を避けるため、GPLv1では、改変版は、全体として、GPLv1の条項の下頒布されなければならないと規定している(ライセンスの第2b節、第4節を見よ)。このため、GPLv1の条項の下頒布されているソフトウェアは、それよりも緩やかなライセンスで保護されるソフトウェアと組み合わせて頒布することが可能となる。なぜなら、組み合わせによって全体を通して頒布に係るライセンス条項に変化はないからである。しかし、GPLv1の条項の下頒布されているソフトウェアとそれよりも制限の厳しいライセンスで頒布されるソフトウェアを組み合わせることは、GPLv1の条項の下全体が頒布されるという要件と衝突するため、できない。
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| publisher = [[Free Software Foundation Europe]]
| publisher = [[Free Software Foundation Europe]]
| accessdate = 2011-03-03
| accessdate = 2011-03-03
}}[[ポルト・アレグレ]]で[[2006年]][[4月21日]]に開催された第2回GPLv3カンファレンスでのスピーチ。リンク先は"Liberty or Death"(自由か死か)節について。</ref>。他の利用者の自由を尊重するような方法で、GPLで保護されたソフトウェアの頒布が''妨げられる''場合(たとえば、法的規制によりソフトウェアを[[バイナリ]]形式でしか頒布できないとき)、この節に従えば、頒布は一切できない。これは、[[フリーソフトウェア]]開発者から金を脅し取ろうと特許を行使する企業の企みをすこしでも減らすことを見込んでいる。
}}[[ポルト・アレグレ]]で[[2006年]][[4月21日]]に開催された第2回GPLv3カンファレンスでのスピーチ。リンク先は"Liberty or Death"(自由か死か)節について。</ref>。他の利用者の自由を尊重するような方法で、GPLで保護されたソフトウェアの頒布が''妨げられる''場合(たとえば、法的規制によりソフトウェアを[[バイナリ]]形式でしか頒布できないとき)、この節に従えば、頒布は一切できない。GPLv3でも[[#他者の自由を明け渡してはならない|同様の条項]]が存在し、幾分簡素化されたうえ主旨が明確になっている。これは、[[フリーソフトウェア]]開発者や、フリーソフトウェアを単に使用する者から金を脅し取ろうと特許を行使する企業の企みをすこしでも減らすことを見込んでいる。


[[1990年]]までには、現存する[[プロプライエタリ・ソフトウェア|プロプライエタリ]]な[[ライブラリ]]と本質的には同等な機能を持つ[[C言語|C]]ライブラリやその他のソフトウェア・ライブラリに対して制限の緩いライセンスのほうが戦略的に有効なことが、明らかになってきた<ref>
[[1990年]]までには、現存する[[プロプライエタリ・ソフトウェア|プロプライエタリ]]な[[ライブラリ]]と本質的には同等な機能を持つ[[C言語|C]]ライブラリやその他のソフトウェア・ライブラリに対して制限の緩いライセンスのほうが戦略的に有効なことが、明らかになってきた<ref>
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=== バージョン3 ===<!-- このセクションは、[[ソフトウェア特許]]と関連があります。 -->
=== バージョン3 ===<!-- このセクションは、[[ソフトウェア特許]]と関連があります。 -->
{{Main|#GPLv3にまつわる話題}}
[[image:Stallman GPLv3 launch MIT 060116.jpg|thumb|GNU GPLv3の第1稿策定開始作業における[[リチャード・ストールマン]]。[[マサチューセッツ工科大学|MIT]]、[[アメリカ合衆国]]・[[マサチューセッツ州]][[ケンブリッジ (マサチューセッツ州)|ケンブリッジ]]。|right]]
[[image:Stallman GPLv3 launch MIT 060116.jpg|thumb|GNU GPLv3の初稿策定開始作業における[[リチャード・ストールマン]]。[[マサチューセッツ工科大学|MIT]]、[[アメリカ合衆国]]・[[マサチューセッツ州]][[ケンブリッジ (マサチューセッツ州)|ケンブリッジ]]。|right]]
{{wikinewshas|GPL|
{{wikinewshas|GPL|
*'''[[wikinews:en:Free Software Foundation releases first draft of GPLv3|Free Software Foundation releases first draft of GPLv3]]'''
*'''[[wikinews:en:Free Software Foundation releases first draft of GPLv3|Free Software Foundation releases first draft of GPLv3]]'''
251行目: 263行目:
*'''[[wikinews:ja:フリーソフトウェア財団がGPLv3の最初の草案を発表|フリーソフトウェア財団がGPLv3の最初の草案を発表]]'''
*'''[[wikinews:ja:フリーソフトウェア財団がGPLv3の最初の草案を発表|フリーソフトウェア財団がGPLv3の最初の草案を発表]]'''
}}
}}
'''GNU General Public License version 3'''(略称'''GNU GPLv3'''、単に'''GPLv3'''とも)は、[[ソフトウェア]]([[プログラム (コンピュータ)|プログラム]]・[[ライブラリ]]など)を含む[[著作物]]に対し、著作物の[[著作者]]・[[著作権者|著作権保持者]]やライセンスけ入れるもの(頒布改め''伝達者''(''conveyer'', ''conveyor''; ''譲渡者'')や受領者他、貢献者・外部の契約者などライセンシー)の権利、義務、また彼ら持つ権利行使([[特許]]の使用)などに関する基本理念を以前のバージョンのライセンスより明文化している。
'''GNU General Public License version 3'''(略称'''GNU GPLv3'''、単に'''GPLv3'''とも)は、[[ソフトウェア]]([[プログラム (コンピュータ)|プログラム]]・[[ライブラリ]]など)を含む[[著作物]]に対し、著作物の[[著作者]]・[[著作権者|著作権保持者]]やライセンス受{{ref label|gplv3-term-definitions|A|A}}の権利、プログラムの受領者のためにライセンス許諾者が与える権利、またソフトウェア自由と衝突するような法や法的権利の制限[[デジタル著作権管理|DRM]]、[[特許]]の、他者を差別するような特許ライセンスの排除)などに関する基本理念を以前のバージョンのライセンスより明文化している。


[[2005年]]後半、FSFは、GPLバージョン3(GPLv3)の策定に関するアナウンスを行った。[[2006年]][[1月16日]]、GPLv3の最初の''議論用草稿''(''discussion draft'')が公開され<ref>
[[2005年]]後半、FSFは、GPLバージョン3(GPLv3)の策定に関するアナウンスを行った<ref name="revising-gpl">
{{cite web
| url = http://www.fsf.org/news/gplv3launch
| title = FSF releases guidelines for revising the GPL
| date = 2005-11-30
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-05-04
}}</ref>。2005年の時点でGPLは様々な[[FLOSS]]プロジェクトのソフトウェアに採用されていたこともあり、FSFが単独で改訂することにより起こりえる問題を回避するため、改訂プロセスは公開で行うことが同時に発表された<ref name="revising-gpl" />。[[2006年]][[1月16日]]、GPLv3の最初の''議論用草稿''(''discussion draft'')が公開され<ref>
{{cite web
{{cite web
| url = http://gplv3.fsf.org/gpl-draft-2006-01-16.html
| url = http://gplv3.fsf.org/gpl-draft-2006-01-16.html
277行目: 296行目:
| publisher = www.freesoftwaremagazine.com
| publisher = www.freesoftwaremagazine.com
| accessdate = 2011-03-03
| accessdate = 2011-03-03
}}</ref>。その他の改訂点は、国際化{{ref label|gplv3-term-definitions|A|A}}、ライセンス違反時の対処手段そして可能ならば[[著作権者]]により''追加の許諾''(''additional permissions''; ''追加的許可''<ref>
}}</ref>。その他の改訂点は、国際化{{ref label|gplv3-term-definitions|A|A}}、ライセンス違反時の対処手段そして可能ならば[[著作権者]]により''追加''(''additional terms''<ref name="add-terms">
正式公開されたGPLv3の 7. Additional Terms.(第7項「追加的条項」)には、その事項記載している。またGPLv3追加的許事項をめたライセンスの一例に[[GNU Lesser General Public License|LGPL]]v3があり、これによりLGPLv3はGPLv3の補完的なライセンスとなっている。
正式公開されたGPLv3の 7. Additional Terms.(第7項「追加的条項」)には、許可・非許可事項に分けて記載している。またGPLv3を参照しつつ、追加的許事項をめたライセンスの一例に[[GNU Lesser General Public License|LGPL]]v3があり、これによりLGPLv3はGPLv3の補完的なライセンスとなっている。
</ref>)を与える手段に関連している。
</ref>)を与える手段に関連している。


他注目に値する改訂点としては、GPLv3で保護された著作物の著作権者が、[[パッチ]]などを提供しそれに改変を加えた''貢献者''(''contributor'')に対し、ある種の条件または要求を課すということを許諾する条項が加えられている。これらに加えて、新しく導入された要件の一つには、時折''Affero条項''(''Affero clause''、''Affero節'')とも呼ばれるが、[[SaaS|Software as a service]]のような[[アプリケーションサービスプロバイダ|ASP]]モデルによるGPLの条項を回避しようとする試み(''ASP loophole''; ASPの抜け道<ref name="asp-loopholes">
* {{note label|gplv3-term-definitions|A|A}}ここではライセンスの国際化について述べる。

;「コピーライト」と「作品」とは: ''copyright''(「''コピーライト''」)は[[著作権]]'''だけを意味するものではなく'''、''法による管轄を受け、著作権に似た権利すべて''を含んでおり、拠って、''works''(「''作品''」)は、[[著作物]]に留まらない。
;「ソースコード」とは: 本内容は、正式リリースされたGPLv3 第1節(第1項)にて定義されており、引用すると、''The “source code” for a work means the preferred form of the work for making modifications to it.''([[八田真行]]訳:''ある作品の「ソースコード」(source code)とは、その作品に改変を加えるに当たって好ましいと考えられる形式のことである。'')と改変が可能なものである旨明確に定義された。よってこの「ソースコード」とは、''translate'', ''[[コンパイル|compile]]''を行い、[[バイナリ]]になる[[ソフトウェア]]に留まらず[[#テキストメディアならびに他のメディアにおける利用|あらゆるメディア]]へのライセンス適用が可能であることを示唆している。実際にはGPLv2でも適用可能ではあったが、これが明示されたのは特筆すべき点である。
;「『普及』する」とは: GPLv2の用語であった''copy''(''複製する'')、''distribute''(''頒布する'')に対し、GPLv3では''propagate''(''普及する''、''伝播する'')という用語が使われている。この用語はすなわち、''複製、頒布(改変(modification)の有無を問わない)、[[公衆送信権|公衆への利用可能化]]''全てを含めた汎用的な用語である。また各国著作権法の相違点を考慮して''その他の行為''が含まれる余地があると明記されている。
;その他 : 以上条文の主要な用語に関しては、GPLv3 第0節(第0項)、第1節(第1項)にて詳細に定義されることとなった。GPLの用語は、[[アメリカ合衆国著作権法|米国著作権法]]に準拠した用語が多いが、これらを明確に定義し直したため、各国の著作権法の立ち位置から見ても理解しやすくなっている。

他注目に値する改訂点としては、著作権者が、[[パッチ]]などを提供するその''貢献者''(''contributor'')に対し、ある種の条件または要求を課すということを許諾する条項が加えられている。これら新しい追加的な要求の一つには、時折''Affero条項''(''Affero clause''、''Affero節'')とも呼ばれるが、[[SaaS|Software as a service]]のような[[アプリケーションサービスプロバイダ|ASP]]モデルによるGPLの条項を回避しようとする試み(''ASP loophole''; ASPの抜け道<ref name="asp-loopholes">
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{{cite web
| url = http://www.linux.com/archive/articles/4293
| url = http://www.linux.com/archive/articles/4293
297行目: 309行目:
| accessdate = 2011-03-30
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| quote = [...] to circumvent the GPL by means of the so-called "ASP loophole".[...]
| quote = [...] to circumvent the GPL by means of the so-called "ASP loophole".[...]
}}</ref>)に対し、これを封じようと意図しているものも含まれる。この条項が追加された結果、[[Affero General Public License|GNU Affero General Public License]]バージョン3(GNU AGPLv3)が作成されている。GPLv3とAGPLv3は相補的な関係を持っている。
}}</ref>)に対し、これを封じようと意図しているものも含まれる。この条項が追加された結果、[[Affero General Public License|GNU Affero General Public License]]バージョン3(GNU AGPLv3)が作成されている。GPLv3とAGPLv3は互いに両立はしないが、リンクや結合のみを認める相補的な条項共に持っている。


公開協議プロセスは、FSFを調整役、SFLC・[[Free Software Foundation Europe]](FSFE)<ref>
公開協議プロセスは、FSFを調整役、SFLC・[[Free Software Foundation Europe]](FSFE)<ref>
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| accessdate = 2011-03-04
| accessdate = 2011-03-04
}}</ref>というウェブポータルサイトが立ち上げられ、ここを経由し多くの一般からのコメントが集められた<ref name="draft4" />。このポータルサイトは、策定プロセスのために開発された''[[stet (ソフトウェア)|stet]]''<ref>
}}</ref>というウェブポータルサイトが立ち上げられ、ここを経由し多くの一般からのコメントが集められた<ref name="draft4" />。このポータルサイトは、策定プロセスのために開発された''[[stet (ソフトウェア)|stet]]''<ref>
''stet''とは「[[校正]]で[[朱]]書きするイキ」の意。gplv3.fsf.orgサイトを閲覧すれば分かるが、このソフトウェアは文書に対し単語単位でコメントをつけることが出来、コメント数に応じて、コメント箇所の色が目立つようになっている。
''stet''とは「[[校正]]で[[朱]]書きするイキ」の意。gplv3.fsf.orgサイトを閲覧すれば分かるが、このソフトウェアは文書に対し単語単位でコメントをつけることができ、コメント数に応じて、コメント箇所の色が目立つようになっている。
</ref>というソフトウェア上で稼働している。これらコメントは、およそ130名ほどから成る4つの''協議グループ''(''committee'')<ref>
</ref>というソフトウェア上で稼働している。これらコメントは、およそ130名ほどから成る4つの''協議グループ''(''committee'')<ref>
{{cite web
{{cite web
324行目: 336行目:
}}</ref>に渡された。この130名はFSFの目標に対しそれを支持する人物並びにそれと対立する人物双方が含まれている。これら協議グループは一般から提示されたコメントを精査し、新しいライセンスがどうあるべきか決定するため、ストールマンにその要約を回付した。
}}</ref>に渡された。この130名はFSFの目標に対しそれを支持する人物並びにそれと対立する人物双方が含まれている。これら協議グループは一般から提示されたコメントを精査し、新しいライセンスがどうあるべきか決定するため、ストールマンにその要約を回付した。


公開協議プロセスを経て、第1の草稿には962ものコメントが提出された<ref>
公開協議プロセスを経て、初回の草稿には962ものコメントが提出された<ref>
{{cite web
{{cite web
| url = http://gplv3.fsf.org/comments/gplv3-draft-1
| url = http://gplv3.fsf.org/comments/gplv3-draft-1
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[[ファイル:LogoLGPLv3.png|right|GNU LGPLv3のロゴ]]
[[ファイル:LogoLGPLv3.png|right|GNU LGPLv3のロゴ]]
[[2006年]][[7月27日]]、GPLv3の討議用草稿第2稿<ref>
[[2006年]][[7月27日]]、GPLv3の討議用第2次草稿<ref>
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| url = http://gplv3.fsf.org/gpl-draft-2006-07-27.html
| url = http://gplv3.fsf.org/gpl-draft-2006-07-27.html
371行目: 383行目:
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-03-04
| accessdate = 2011-03-04
}}</ref>が、[[GNU Lesser General Public License|LGPL]]第3版(GNU LGPLv3)の草稿第1稿とともに公開された<ref name="gplv3-dd2-released">
}}</ref>が、[[GNU Lesser General Public License|LGPL]]第3版(GNU LGPLv3)の初版草稿とともに公開された<ref name="gplv3-dd2-released">
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| url = http://www.fsf.org/news/gplv3-dd2-released.html
| url = http://www.fsf.org/news/gplv3-dd2-released.html
378行目: 390行目:
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-03-04
| accessdate = 2011-03-04
}}</ref>。初稿と第2稿の差分は、FSF<ref>
}}</ref>。初稿と第2稿の差分は、FSF<ref name="dd1to2-markup-rationale">
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390行目: 402行目:
| publisher = [[Free Software Foundation Europe]]
| publisher = [[Free Software Foundation Europe]]
| accessdate = 2011-03-04
| accessdate = 2011-03-04
}}</ref>からそれぞれ提示されている。
}}</ref>からそれぞれ提示されている。第2稿ではDRMに対抗する明確な目標が取り入れられている<ref>
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| url = http://gplv3.fsf.org/drm-dd2.html
| title = Opinion on Digital Restrictions Management
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-04-28
}}</ref>。


第3稿は[[2007年]][[3月28日]]に公開された<ref>
第3稿は[[2007年]][[3月28日]]に公開された<ref>
399行目: 417行目:
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-03-04
| accessdate = 2011-03-04
}}</ref><ref name="gplv3dd3-released">
}}</ref>。この草稿は、かの物議を醸した[[マイクロソフト]]と[[ノベル (企業)|ノベル]]が締結したような''[[特許]]相互ライセンス''(''patent cross-license'')<ref>
{{cite web
| url = http://www.fsf.org/news/gplv3dd3-released
| title = FSF releases third draft of GPLv3 for discussion
| date = 2007-03-28
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-05-03
}}</ref>。この草稿は、かの物議を醸した[[マイクロソフト]]と[[ノベル (企業)|ノベル]]が締結したような''[[特許]]相互ライセンス''(''patent cross-license'')<ref name="sec-ms-novell-agreement">
{{cite web
| url = http://www.sec.gov/Archives/edgar/data/758004/000075800406000109/novl-8k_110706.htm
| title = NOVELL, INC - COLLABORATION AGREEMENT WITH MICROSOFT
| date = 2006-11-02
| publisher = [[証券取引委員会|SEC]]
| accessdate = 2011-05-03
}}</ref><ref name="mspress-ms-novell-agreement">
{{cite web
| url = http://www.microsoft.com/presspass/press/2006/nov06/11-02MSNovellPR.mspx
| title = Microsoft and Novell Announce Broad Collaboration on Windows and Linux Interoperability and Support
| date = 2006-11-02
| publisher = [[マイクロソフト|Microsoft]]
| accessdate = 2011-05-04
}}</ref><ref name="mspress-ms-novell-agreement-ja">
{{cite web
| url = http://www.microsoft.com/japan/presspass/detail.aspx?newsid=2864
| title = マイクロソフトとNovellがWindowsとLinux間の相互運用性を強化するための広範な提携に合意
| date = 2006-11-06
| publisher = [[マイクロソフト|Microsoft]]
| accessdate = 2011-05-04
}}</ref><ref name="novellpress-ms-novell-agreement">
{{cite web
| url = http://www.novell.com/news/press/2006/11/microsoft_and_novell_announce_broad_collaboration_on_windows_and_linux_interoperability_and_support.html
| title = Microsoft and Novell Announce Broad Collaboration on Windows and Linux Interoperability and Support
| date = 2006-11-02
| publisher = [[ノベル (企業)|ノベル]]
| accessdate = 2011-05-03
}}</ref><ref name="enwp-ms-novell-agreement">
詳しくは[[英語版ウィキペディア]]の[[:en:Novell#Agreement with Microsoft|Novell#Agreement with Microsoft]]を参照せよ。
詳しくは[[英語版ウィキペディア]]の[[:en:Novell#Agreement with Microsoft|Novell#Agreement with Microsoft]]を参照せよ。
</ref>を排除する意図を持つ文言を含んでおり<ref name="draft3"></ref><ref>
</ref>を排除する意図を持つ文言を含んでおり<ref name="draft3" /><ref>
本文、11. Patents.(第11項. 特許)の第5段落を見よ。これは正式公開版の第11項第7段落に相当する。
本文、11. Patents.(第11項. 特許)の第5段落を見よ。これは正式公開版の第11項第7段落に相当する。
</ref>、反[[TiVo化]]条項(''anti-tivoization clauses'')は''ユーザ製品''(''User Product'')・''コンシューマ製品''(''Consumer Product'')に限定する旨定めている<ref name="draft3"></ref><ref>
</ref>、反[[TiVo化]]条項(''anti-tivoization clauses'')は''ユーザ製品''(''User Product'')・''コンシューマ製品''(''Consumer Product'')といった一般家庭で使用される製品に限定する旨定めている<ref name="draft3" /><ref>
本文、6.''Conveying'' Non-Source Forms. (第6項. ソースコード形式ではない''伝達''(''譲渡'')について)の第8段落以降を中心に見よ。
本文、6.''Conveying'' Non-Source Forms. (第6項. ソースコード形式ではない''伝達''(''譲渡'')について)の第8段落以降を中心に見よ。第3稿では「ユーザ製品」の定義として[[マグナソン・モス保証法]]([[:en:Magnuson–Moss Warranty Act|Magnuson–Moss Warranty Act]], {{usc|15|2301}} ''et seq.'')を直接参照している。しかしこの参照部分が米国法依存になりライセンスの国際化に逆行するものであるとして批判を受けたため、定義部分をより明確化した上で、当該法への参照は第4稿そして正式版で完全に削除されている
</ref>。また、公開協議開始時点で削除が予告されていた''地理的(頒布)制限''(''Geographical Limitations'')<ref>
</ref>。また、公開協議開始時点で削除が予告されていた''地理的(頒布)制限''(''Geographical Limitations'')<ref>
GPLv2の第8節を参照せよ。特定国の準拠法により、特許や著作権を持つ「''インタフェース''」(''interfaces'')が、本プログラムの頒布や利用を制限する場合は、プログラムの著作権者がそのような特定国での本プログラムの頒布を禁止する条項である。第3次議論用草稿趣旨説明書によると、この条項が利用されることが稀であったことが削除の理由としているが、条項自身にも問題があると述べられている。{{cite web
GPLv2の第8節などを参照せよ。ライセンスの国際化{{ref label|gplv3-term-definitions|A|A}}により不要となった。
| url = http://gplv3.fsf.org/gpl3-dd3-rationale.pdf
</ref>の節(項)については、明白に削除されている。
| title = GPLv3 Third Discussion Draft Rationale
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| pages = 58
| quote = Having gathered comment on this provision for many months, we have decided to proceed with its removal.
Although a principal reason for removing the provision is the fact that it has rarely been used,
we have also encountered one current example of its use that we find troubling.
| accessdate = 2011-05-04
}}</ref>の項については、明白に削除されている。


最終稿となった第4の議論草稿<ref>
最終稿となった第4の議論草稿<ref>
416行目: 477行目:
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-03-04
| accessdate = 2011-03-04
}}</ref><ref>
}}</ref>は[[2007年]][[5月31日]]に公開された。この草稿では、[[Apache License]]との組み合わせを可能にする条項が導入された他、外部''契約者''(''contractor'')の役割を明確化し、マイクロソフト&ndash;ノベル間の契約のような明白な問題を回避する例外条項を加えている。この最後の例外条項は、第11節(第11項)第7段落に次のように記載されている(条文は正式公開版と同一である)。
{{cite web
| url = http://www.fsf.org/news/gpl3dd4-released
| title = FSF Releases "Last Call" Draft of GPLv3
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-05-03
}}</ref>は[[2007年]][[5月31日]]に公開された。この草稿では、[[Apache License]]との組み合わせを可能にする条項が導入された他、外部''契約者''(''contractor'')の役割を明確化し、マイクロソフト&ndash;ノベル間の契約のような明白な問題を回避する例外条項を加えている。この最後の例外条項は、第11項<ref>
Section 11. [[八田真行]]による条文非公式日本語訳ではGPLv3のSectionに相当する語を''項''と訳している。GPLv2では''節''と訳されていた。[[GNU Lesser General Public License|LGPL]]v3もGPLv3の条文を内部的に参照しているが、同じく「項」と訳してある。以下これに従う。
</ref>第7段落に次のように記載されている(条文は正式公開版と同一である)。


{{quote|You may not convey a covered work if you are a party to an arrangement with a third party that is in the business of distributing software, under which you make payment to the third party based on the extent of your activity of conveying the work, and under which the third party grants, to any of the parties who would receive the covered work from you, a discriminatory patent license [...]}}
{{quote|You may not convey a covered work if you are a party to an arrangement with a third party that is in the business of distributing software, under which you make payment to the third party based on the extent of your activity of conveying the work, and under which the third party grants, to any of the parties who would receive the covered work from you, a discriminatory patent license [...]}}


これは、そのような契約を将来に渡って無効化することを目的としている。また本ライセンスは、マイクロソフトが、あるGPLv3ソフトウェアを利用するノベルの顧客に許諾した特許契約事項を、まさにそのGPLv3ソフトウェアを利用するユーザー'''すべて'''にまで(ユーザーの行為如何に全く関わらず)自動的に拡大適用することを意味する。ただし、マイクロソフトが法的にGPLv3ソフトウェアの''伝達者''(''conveyor''; ''譲渡者'')でもない限り、それは不可能である<ref>
これは、そのような契約を将来に渡って無効化することを目的としている。また本ライセンスは、マイクロソフトが、あるGPLv3ソフトウェアを利用するノベルの顧客に許諾したような特許契約([[特許ライセンス]]、パテントライセンス)を、まさにそのGPLv3ソフトウェアを利用するユーザー'''すべて'''にまで(ユーザーの行為如何に全く関わらず)自動的に拡大適用することを意味する。ただし、マイクロソフトが法的にGPLv3ソフトウェアの''伝達者''(''conveyor''; ''譲渡者'')でもない限り、それは不可能である<ref>
{{cite web
{{cite web
| url = http://gplv3.fsf.org/dd3-faq
| url = http://gplv3.fsf.org/dd3-faq
427行目: 496行目:
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-03-04
| accessdate = 2011-03-04
}}ドラフト段階のFAQ。ライセンスの言い回しよりも幾分その目的が読みやすく示されている。</ref><ref>
}}ドラフト段階のFAQ。ライセンスの言い回しよりも幾分その目的が読みやすく示されている。</ref><ref name="dd4-rationale">
{{cite web
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| url = http://gplv3.fsf.org/gpl3-dd4-rationale.pdf
| url = http://gplv3.fsf.org/gpl3-dd4-rationale.pdf
442行目: 511行目:
| accessdate = 2011-03-04
| accessdate = 2011-03-04
}}</ref>。ただし本条項導入の直接の契機となった、ノベルの行為そのものに対しては、本項第7段落最後に例外を設け、[[既得権条項]]([[:en:Grandfather clause|Grandfather clause]])を適用している<ref>
}}</ref>。ただし本条項導入の直接の契機となった、ノベルの行為そのものに対しては、本項第7段落最後に例外を設け、[[既得権条項]]([[:en:Grandfather clause|Grandfather clause]])を適用している<ref>
正式リリースされたGPLv3第11項(節)第7段落より引用すると、
正式リリースされたGPLv3第11項第7段落より引用すると、
"You may not convey a covered work [...] unless you entered into that arrangement, or that patent license was granted, ''prior to 28 March 2007''."
"You may not convey a covered work [...] unless you entered into that arrangement, or that patent license was granted, ''prior to 28 March 2007''."
([[八田真行]]訳:「(前略)いる場合、あなたは『保護された作品』を伝達してはならない。ただし、あなたがそのような協定を締結したり、『パテントライセンス』を授与されたのが''2007年3月28日より以前''である場合は本節の例外とする。 )</ref>。
([[八田真行]]訳:「(前略)いる場合、あなたは『保護された作品』を伝達してはならない。ただし、あなたがそのような協定を締結したり、『パテントライセンス』を授与されたのが''2007年3月28日より以前''である場合は本節の例外とする。 )</ref>。


方、態度を鮮明にしている幾人かの有名な[[Linuxカーネル]]開発者は、[[マスメディア]]に対しコメントを出し、議論用の初稿ならびに第2稿の一部に反対する旨の声名を発表した<ref>
方、態度を鮮明にしている幾人かの有名な[[Linuxカーネル]]開発者は、[[マスメディア]]に対しコメントを出し、議論用の初稿ならびに第2稿の一部に反対する旨の声名を発表した<ref>
{{cite web
{{cite web
| url = http://lwn.net/Articles/200422/
| url = http://lwn.net/Articles/200422/
473行目: 542行目:
| publisher = [[ZDNet]]
| publisher = [[ZDNet]]
| accessdate = 2011-03-04
| accessdate = 2011-03-04
}}</ref>、が最終稿が提出された後のコメントで、GPLv3はGPLv2と比べ(両者の[[デュアルライセンス]]が可能か考慮に入れた上ような手間を掛けたとしても)移行メリットはない述べて<ref name="linus-statement-for-final-draft">
}}</ref>、が最終稿が提出された後のコメントで、GPLv3はGPLv2と比べ(両者の[[デュアルライセンス]]が可能か考慮に入れた上、コード全著作者からライセンス移行の合意を得るという途方も無い手間<ref name="gplv3-not-applied">
{{cite web
| url = http://blogs.fsfe.org/ciaran/?p=58
| title = (About GPLv3) Can the Linux Kernel Relicense?
| author = Ciaran O’Riordan
| date = 2006-10-16
| quote = While discussing GPLv3, some people have suggested that even when version 3 of the GPL is released,
the Linux kernel developers will not have the option of using it due to copyright reasons.
This is incorrect, but it is based on a real problem: The Linux kernel has no structures in place to facilitate relicensing.
Moving to an incompatible licence requires that current code is relicenced with permission from the copyright holders, or is removed.
| publisher = [[Free Software Foundation Europe|FSFE]]
| accessdate = 2011-04-29
}}</ref>を掛けたとしても)移行するメリットはないと述べていた<ref name="linus-statement-for-final-draft">
{{cite web
{{cite web
| url = http://www.linux.com/archive/articles/114336
| url = http://www.linux.com/archive/articles/114336
490行目: 571行目:
| accessdate = 2011-03-26
| accessdate = 2011-03-26
}}</ref>。
}}</ref>。

概ねこれらの議論は本質的には全く同じ視点に立ってはいるが、ソフトウェアのコードの自由を重視する[[オープンソース]]陣営とそれのみではなくソフトウェアを利用するユーザーの自由の最大化を目的とする[[フリーソフトウェア]]陣営の考え方の違いが浮き彫りになったに過ぎない。ソフトウェアの自由な利用のためには、ソフトウェアの範疇に留まらず、広く働きかけることを厭わないとする後者の考え方が、GPLv3には色濃く出ている。


GPLv3はGPLv2と比べ、条文の大幅な変更にも関わらず、内容自体には大きな変更はないとも言える。しかし全く無いわけではなく、とりわけGPLv3の特許関連条項と、(反DRM条項改め)反[[TiVo化]]条項などは、GPLv2の第6節にある「(GPLv2で認められた)''これ以上他のいかなる制限''」(''further restriction''、同様の条項がGPLv3の第10項の''さらなる権利制限'')に相当するため、原則GPLv3はGPLv2と[[#両立性とマルチライセンス|両立]]しない(ただし、GPLv2で保護される著作物が[[#両立性とマルチライセンス|ある条件]]を満たすとこれは解決する)。
GPLv3はGPLv2と比べ、条文の大幅な変更にも関わらず、内容自体には大きな変更はないとも言える。しかし全く無いわけではなく、とりわけGPLv3の特許関連条項と、(反DRM条項改め)反[[TiVo化]]条項などは、GPLv2の第6節にある「(GPLv2で認められた)''これ以上他のいかなる制限''」(''further restriction''、同様の条項がGPLv3の第10項の''さらなる権利制限'')に相当するため、原則GPLv3はGPLv2と[[#両立性とマルチライセンス|両立]]しない(ただし、GPLv2で保護される著作物が[[#両立性とマルチライセンス|ある条件]]を満たすとこれは解決する)。


== 利用条件 ==
== 利用条件 ==
GPLが適用された著作物の複製を受け取る者すべて(''the licensee''; ''許諾された者''、''ライセンシー''。ソフトウェアを利用するだけの人物や再頒布者もこの中に含まれる。記事"[[ライセンス]]"も見よ)に対し、GPLの''条項と条件''(''terms and conditions''; ''利用条件'')は遵守されなければならない。利用条件に従うライセンシーは著作物を改変する許諾を与えられるのと同時に著作物または二次的著作(派生 ''derivative'')物の複製と頒布を許諾される。ライセンシーは、このようなサービスを提供するのに料金を課してもよいし、また無料で行ってもよい。この後者の許諾は、GPLと商用再頒布禁止のソフトウェアライセンスとの相違点である。FSFは、フリーソフトウェアは商用利用を制限するべきではないと主張している<ref>
GPLが適用された著作物の複製を受け取る者すべて(''the licensee''; ''許諾された者''、''ライセンシー''。ソフトウェアを受領して利用するだけの人物や再頒布者もこの中に含まれる。記事"[[ライセンス]]"も見よ)に対し、GPLの''条項と条件''(''terms and conditions''; ''利用条件'')は遵守されなければならない。利用条件に従うライセンシーは著作物を改変する許諾を与えられるのと同時に著作物または二次的著作(派生 ''derivative'')物の複製と頒布を許諾される。ライセンシーは、このようなサービスを提供するのに料金を課してもよいし、また無料で行ってもよい。この後者の許諾は、GPLと商用再頒布禁止のソフトウェアライセンスとの相違点である。FSFは、フリーソフトウェアは商用利用を制限するべきではないと主張している<ref>
{{cite web
{{cite web
| url = http://www.gnu.org/philosophy/selling.html
| url = http://www.gnu.org/philosophy/selling.html
505行目: 588行目:
加えて、GPLは、頒布者が''GPLにより許諾される以上のさらなる権利制限''(''further restrictions on the rights granted by the GPL'')を課してはならないと述べている(GPLv2第6節、GPLv3第10項)。これは(純粋に[[契約]]である)[[秘密保持契約]](''non-disclosure agreement''または''non-disclosure contract'')のもとソフトウェアを頒布するような手法を禁ずる。GPLのもと、頒布者はまた、GPLなソフトウェアにおける特許を行使するために、ソフトウェアにより行使されるいかなる特許をもライセンスとして許諾する。
加えて、GPLは、頒布者が''GPLにより許諾される以上のさらなる権利制限''(''further restrictions on the rights granted by the GPL'')を課してはならないと述べている(GPLv2第6節、GPLv3第10項)。これは(純粋に[[契約]]である)[[秘密保持契約]](''non-disclosure agreement''または''non-disclosure contract'')のもとソフトウェアを頒布するような手法を禁ずる。GPLのもと、頒布者はまた、GPLなソフトウェアにおける特許を行使するために、ソフトウェアにより行使されるいかなる特許をもライセンスとして許諾する。


GPLv2の第3節とGPLv3の第6節(第6項)によると、事前コンパイルされた[[バイナリ]]として頒布されるプログラムは次のいずれかを満たさなければならない。
GPLv2の第3節とGPLv3の第6項によると、事前コンパイルされた[[バイナリ]]として頒布されるプログラムは次のいずれかを満たさなければならない。
# [[ソースコード]]の複製の直接の添付
# [[ソースコード]]の複製の直接の添付
# 事前コンパイルされたバイナリと同一の手段でソースコードを頒布するという書面での提案の添付
# 事前コンパイルされたバイナリと同一の手段でソースコードを頒布するという書面での提案の添付
# GPLのもと、事前コンパイルされたバイナリを受け取った場合に得た何かを、ソースコードを提供する旨の文書で提示
# GPLのもと、事前コンパイルされたバイナリを受け取った場合に得た何かを、ソースコードを提供する旨の文書で提示
また、GPLv2の第1節とGPLv3の第4節(第4項)は、''プログラムの受領者すべてにプログラムと共にGPLライセンスの複製を''(''all recipients a copy of this License along with the Program'')与えなければならないと規定している。GPLv3ではその第6節(第6項)を満たす限りにおいて、ソースコードを利用可能な状態にするために、GPLv2で指定された物理媒体以外にも、明示的に追加の手段を講じても良いとする。コンパイル済みコードを取得する方法とソースコードのありかが明確に分かる場合、近くのネットワーク[[サーバ]]からまたは[[Peer to Peer|P2P]]送信によりソースコードを[[ダウンロード]]させる手段などもこの追加の手段に含まれる。
また、GPLv2の第1節とGPLv3の第4項は、''プログラムの受領者すべてにプログラムと共にGPLライセンスの複製を''(''all recipients a copy of this License along with the Program'')与えなければならないと規定している。GPLv3ではその第6項を満たす限りにおいて、ソースコードを利用可能な状態にするために、GPLv2で指定された物理媒体以外にも、明示的に追加の手段を講じても良いとする。コンパイル済みコードを取得する方法とソースコードのありかが明確に分かる場合、近くのネットワーク[[サーバ]]からまたは[[Peer to Peer|P2P]]送信によりソースコードを[[ダウンロード]]させる手段などもこの追加の手段に含まれる。


=== コピーレフト ===
=== コピーレフト ===
522行目: 605行目:
| date = 2011-02-11
| date = 2011-02-11
| accessdate = 2011-03-11
| accessdate = 2011-03-11
}}</ref>で述べられている通り、フェアユースに''world-wide principle''; ''世界的な原則''、''統一見解''などない)。再頒布のような、通常[[著作権法]]で制限される権利をある人物が行使しようと考える場合、その人物はGPLの条項をただ従う必要がある。逆に、GPLの条項を遵守せず(例えば、ソースコードを開示しない)著作物の複製を頒布すると、著作権法に基づき著作権者から頒布[[差止請求権|差止]]等で[[訴訟|提訴]]される可能性がある。
}}</ref>で述べられている通り、フェアユースに''world-wide principle''; ''世界的な原則''、''統一見解''などない)。再頒布のような、通常[[著作権法]]で制限される権利をある人物が行使しようと考える場合、その人物はGPLの条項をただ従う必要がある。逆に、GPLの条項を遵守せず(例えば、ソースコードを開示しない)著作物の複製を頒布すると、著作権法に基づき著作権保持者から頒布[[差止請求権|差止]]等で[[訴訟|提訴]]される可能性がある。


コピーレフトは、これ故、著作権法を本来の使用目的と正反対の目的を実現するために利用する。すなわち制限を課す代わりに、コピーレフトは、権利がのちに消失しないような方法で、他者への権利を許諾するのである<ref>
コピーレフトは、これ故、著作権法を本来の使用目的と正反対の目的を実現するために利用する。すなわち制限を課す代わりに、コピーレフトは、権利がのちに消失しないような方法で、他者への権利を許諾するのである<ref>
528行目: 611行目:
</ref>。GPLはまた、ライセンシーに対し再頒布の権利を無制限に許諾するのではなく、コピーレフトが主張する点において発見されるのは法律上の任意の欠陥であるべきことを保証している。
</ref>。GPLはまた、ライセンシーに対し再頒布の権利を無制限に許諾するのではなく、コピーレフトが主張する点において発見されるのは法律上の任意の欠陥であるべきことを保証している。


GPLで保護されるプログラムを頒布する多くの者は、ソースコードと共に[[実行ファイル]]を添付する。コピーレフトを満たす別の方法は、要求に応じて([[コンパクトディスク|CD]]のような)物理媒体を用いてソースコードを提供するという文書を提示することである。事実GPLで保護されるプログラムの多くは、[[インターネット]]上で頒布されており、ソースコードは[[File Transfer Protocol|FTP]]または[[Hypertext Transfer Protocol|HTTP]]上などでソースコードを遣り取り出来るようにしているものが多い。インターネット上での頒布は本ライセンスを満たしている。
GPLで保護されるプログラムを頒布する多くの者は、ソースコードと共に[[実行ファイル]]を添付する。コピーレフトを満たす別の方法は、要求に応じて([[コンパクトディスク|CD]]のような)物理媒体を用いてソースコードを提供するという文書を提示することである。また事実としてGPLで保護されるプログラムの多くは、[[インターネット]]上で頒布されており、ソースコードは[[File Transfer Protocol|FTP]]または[[Hypertext Transfer Protocol|HTTP]]上などでソースコードを遣り取りできるようにしているものが多い。インターネット上での頒布は本ライセンスを満たしている。


コピーレフトが適用されるのは、ある人物がプログラムを再頒布しようと求める場合にのみである。改変したソフトウェアを他の誰にも頒布しない限り、改変箇所を公開しなければならない如何なる義務も免ぜられ、その改変版を私的な物とすることは許される。コピーレフトはソフトウェア自身のみに適用されるのであって、ソフトウェアの''出力''(''outputs'', アウトプット)には適用されないことには注意しておきたい(ただし、そのアウトプット自身がプログラム自体の二次的著作物ではない場合)。例えば 、GPLで保護された[[コンテンツマネージメントシステム|コンテンツ管理システム]]("Contents Management Systems"; CMS)に対しその改変した派生版を動作させる一般ウェブポータル([[ブログ]]ソフトウェアなど)は、その出力自体はプログラム自体の派生物ではないから、土台としたソフトウェアならびにその改変部分を頒布する必要はない。反例は、GPLで保護されたソフトウェア"[[Bison|GNU bison]]"である。この[[構文解析器]]の出力は、その派生物の一部を''まさに''含んでおり、そのため、この事実に対しGNU bisonにより許諾される''特殊な例外条項''(''a special exception'')が仮に存在しないならば、出力結果はGPLで保護される派生物となっていたであろう<ref>
コピーレフトが適用されるのは、ある人物がプログラムを再頒布しようと求める場合にのみである。改変したソフトウェアを他の誰にも頒布しない限り、改変箇所を公開しなければならない如何なる義務も免ぜられ、その改変版を私的な物とすることは許される。コピーレフトはソフトウェア自身のみに適用されるのであって、ソフトウェアの''出力''(''outputs'', アウトプット)には適用されないことには注意しておきたい(ただし、そのアウトプット自身がプログラム自体の二次的著作物ではない場合)。例えば 、GPLで保護された[[コンテンツマネージメントシステム|コンテンツ管理システム]]("Contents Management Systems"; CMS)に対しその改変した派生版を動作させる一般ウェブポータル([[ブログ]]ソフトウェアなど)は、その出力自体はプログラム自体の派生物ではないから、土台としたソフトウェアならびにその改変部分を頒布する必要はない。反例は、GPLで保護されたソフトウェア"[[Bison|GNU bison]]"である。この[[構文解析器]]の出力は、その派生物の一部を''まさに''含んでおり、そのため、この事実に対しGNU bisonにより許諾される''特殊な例外条項''(''a special exception'')が仮に存在しないならば、出力結果はGPLで保護される派生物となっていたであろう<ref name="gcc-not-link-with-runtime">
{{cite web
{{cite web
| url = http://www.gnu.org/licenses/gpl-faq.html#CanIUseGPLToolsForNF
| url = http://www.gnu.org/licenses/gpl-faq.html#CanIUseGPLToolsForNF
546行目: 629行目:
}}</ref>。
}}</ref>。


なお(GPLに従う著作物に限ったことではないが)、GPLのもとで公開された著作物の著作権は、前述の通り譲渡しなければ個々のコードの著作権者が保有している。従ってGPLを無視した再頒布に対して、頒布の差止やGPL違反是正を求める権利があるのはプログラムの著作権者だけであり、一般のライセンシーにはない<ref name="gpl-violations">
なお(GPLに従う著作物に限ったことではないが)、GPLのもとで公開された著作物の著作権は、前述の通り譲渡しなければ個々のコードの著作権者が保有している。従ってGPLを無視した再頒布に対して、頒布の差止やGPL違反是正(エンフォースメント)を求める権利があるのはプログラムの著作権者だけであり、一般のライセンシーにはない<ref name="gpl-violations">
{{cite web
{{cite web
| title = Violations of the GNU Licenses
| title = Violations of the GNU Licenses
590行目: 673行目:
}}</ref>。
}}</ref>。


GPLの条項や条件に同意しない人々は、著作権法のもと、GPLライセンスされたソフトウェアまたはその二次的著作物(派生物)を複製または頒布する許諾を得ることはない(GPLv2第5節、GPLv3第9項(節))。しかしながら、もし彼らがGPLで保護されたプログラムを再頒布しないならば、彼らは猶も彼らの組織内でそのソフトウェアを好きなように使用しても構わない。そして、プログラムの利用により作成された著作物(生成されたプログラムもこの中に当てはまる)はこのライセンスの影響範囲に含めることを要求されない。<!-- 例えば、GPLv2でライセンスされた改変版Webサーバをソースコードを公開することなく、一般サイト上で稼動・利用する権利は留保されることなど。ただし、GPLv3ではこのことは特殊な条項により制限され得る。-->
GPLの条項や条件に同意しない人々は、著作権法のもと、GPLライセンスされたソフトウェアまたはその二次的著作物(派生物)を複製または頒布する許諾を得ることはない(GPLv2第5節、GPLv3第9項)。しかしながら、もし彼らがGPLで保護されたプログラムを再頒布しないならば、彼らは猶も彼らの組織内でそのソフトウェアを好きなように使用しても構わない。そして、プログラムの利用により作成された著作物(生成されたプログラムもこの中に当てはまる)はこのライセンスの影響範囲に含めることを要求されない。<!-- 例えば、GPLv2でライセンスされた改変版Webサーバをソースコードを公開することなく、一般サイト上で稼動・利用する権利は留保されることなど。ただし、GPLv3ではこのことは特殊な条項により制限され得る。-->


[[アリソン・ランダル]]は、ライセンスとしてのGPLv3はその支持者を不必要に混乱させており、同一の条件や法的効力を維持しつつ、簡略化すべきだと主張した<ref>
[[アリソン・ランダル]]は、ライセンスとしてのGPLv3はその支持者を不必要に混乱させており、同一の条件や法的効力を維持しつつ、簡略化すべきだと主張した<ref>
603行目: 686行目:
}}</ref>。
}}</ref>。


日本の[[独立行政法人]]、[[情報処理推進機構]]が[[Software Freedom Law Center]]の協力の下作成した「GNU GPLv3 逐条解説書」<ref name="cmtr">
== ライセンス著作権保持者 ==
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 147-150
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>によると、GPLが契約かライセンスかの論争は、GPLがエンフォーシブル(''enforceable'')か否かという問題と同値であると結論付けられている<ref>
{{cite web
| url = http://www.gnu.org/philosophy/enforcing-gpl.html
| title = Enforcing the GNU GPL
| date = 2001-09-10
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-05-01
}}</ref>。すなわち、ライセンス違反が発生し、解決が法廷に持ち込まれた場合、認められる要求が[[著作権侵害]]による違反者の頒布[[差止請求権|差止請求]]や[[損害賠償]]請求に留まるのか、はたまた、ライセンスをエンフォース(強制)し、ソースコードの開示にまで持っていけるのか、といった議論は、GPLが契約か否かという問題に帰着する。大陸法ではGPLを契約と見なせるので(とりわけGPLv2の第2節、GPLv3の第9項は[[申込]]と[[承諾]]の[[意思表示]]であると解釈できる)、仮に法廷に持ち込まれた場合、大陸法の法体系では、差止請求だけに留まらずソースコードの開示まで請求できるとの解釈が述べられている。ただし実際にそのような法廷判断が下されたわけではない。

== ライセンス条文の著作権者 ==
前述のとおり、GPLの条文自体は著作権で管理されており、その保持者は[[フリーソフトウェア財団|FSF]]である。しかしながら、FSFはGPLのもとリリースされた著作物の著作権は保持しない。これも前述したが、例外は、著作権者が明示的にFSFに著作権を譲渡した場合である。ただし、そのような事例は[[GNU]]プロジェクトに属するプログラムを除いて滅多にない。ライセンス違反が発生した場合、個々の著作権保持者のみが、[[訴訟]]を起こす権限を持つ<ref name="gpl-violations" />。
前述のとおり、GPLの条文自体は著作権で管理されており、その保持者は[[フリーソフトウェア財団|FSF]]である。しかしながら、FSFはGPLのもとリリースされた著作物の著作権は保持しない。これも前述したが、例外は、著作権者が明示的にFSFに著作権を譲渡した場合である。ただし、そのような事例は[[GNU]]プロジェクトに属するプログラムを除いて滅多にない。ライセンス違反が発生した場合、個々の著作権保持者のみが、[[訴訟]]を起こす権限を持つ<ref name="gpl-violations" />。


FSFは、FSFの許可なくGPLの''前文''(''Preamble'')を含めた、派生ライセンスを使用しない限り、GPLに基づいた新しいライセンスを作成することを許可する。しかしながら、このようなライセンスは一般的にはGPLと''両立しない''(''incompatible'')ので、作成しないほうがよい<ref name="ModifyGPL" />(より詳しい情報は、[http://www.gnu.org/licenses/gpl-faq.html#ModifyGPL GPL FAQ]を参照せよ)。またそれは、[[ライセンスの拡散]]を生む。
FSFは、FSFの許可なくGPLの''前文''(''Preamble'')を含めた、派生ライセンスを使用しない限り、GPLに基づいた新しいライセンスを作成することを許可する。しかしながら、このようなライセンスは一般的にはGPLと''両立しない''(''incompatible'')ので、作成しないほうがよい<ref name="ModifyGPL" />(より詳しい情報は、[http://www.gnu.org/licenses/gpl-faq.html#ModifyGPL GPL FAQ]を参照せよ)。またそれは、[[ライセンスの氾濫]]を生む。[[翻訳]]も[[翻案権]]の行使であるため、ライセンスの翻訳は原則認められないが、その翻訳が非公式であることを明記し、FSFの求めに応じて翻訳をアップデートできるならば翻訳を許可される<ref>
{{cite web
| url = http://www.gnu.org/licenses/translations.html
| title = Unofficial Translations
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| date = 2011-04-07
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。


その他、GNUプロジェクトにより作成されたライセンスには、[[GNU Lesser General Public License]]、[[GNU Free Documentation License]]が含まれる。
その他、GNUプロジェクトにより作成されたライセンスには、[[GNU Lesser General Public License]]、[[GNU Free Documentation License]]が含まれる。
721行目: 828行目:


GPLv3では、条項の文面は異なっているが<ref>
GPLv3では、条項の文面は異なっているが<ref>
とりわけ"a work based on the Program"はGPLv2とは全く同じ用語であるが、単なる著作権法上二次的著作物だけを指のではな
とりわけ"a work based on the Program"はGPLv2とは全く同じ用語であるが、意味るところ
</ref>、上記と同様の内容が、以下となる。
</ref>、上記と同様の内容が、以下となる(詳しくはセクション"[[#改変版ソースの伝達|改変版ソースの伝達]]"を参照)
{{quote|
{{quote|
You may convey a work based on the Program, or the modifications to produce it from the Program, in the form of source code under the terms of section 4, provided that you also meet all of these conditions:
You may convey a work based on the Program, or the modifications to produce it from the Program, in the form of source code under the terms of section 4, provided that you also meet all of these conditions:
748行目: 855行目:
| publisher = [[Drupal]]
| publisher = [[Drupal]]
| accessdate = 2011-03-27
| accessdate = 2011-03-27
| quote = Yes. Drupal modules and themes are a derivative work of Drupal.
| quote = Yes. Drupal modules and themes are a derivative work of Drupal.
If you distribute them, you must do so under the terms of the GPL version 2 or later.
If you distribute them, you must do so under the terms of the GPL version 2 or later.
}}</ref><ref>
}}</ref><ref>
764行目: 871行目:
| date = 2010-07-26
| date = 2010-07-26
| accessdate = 2011-03-28
| accessdate = 2011-03-28
}}</ref><ref>
{{cite web
| url = http://sourceforge.jp/magazine/09/07/06/0313240
| title = WordPress.org、テーマについてもGPLを要求へ
| publisher = [[SourceForge.JP]] Magazine
| date = 2009-07-06
| accessdate = 2011-04-24
}}</ref>。
}}</ref>。

一方、[[Linuxカーネル]]ではこのような結合の状況分析を行うことなく、カーネルの著作権の影響範囲とユーザ空間プログラムが派生物ではないことをライセンステキスト冒頭<ref>
{{cite web
| url = http://git.kernel.org/?p=linux/kernel/git/torvalds/linux-2.6.git;a=blob_plain;f=COPYING
| title = COPYING of Linux kernel
| publisher = git.kernel.org
| accessdate = 2011-05-05
}}</ref>で述べている<ref>
これはGPLの例外条項(GPLv3でいうところの「追加的許可条項」)ではなく、本来は司法の場で決定されるべき派生物に対しての一解釈を述べているだけに過ぎない。ライセンステキストに書かれてしまっているので、よくこのことは混同されがちである。
</ref>。

<pre>
NOTE! This copyright does *not* cover user programs that use kernel
services by normal system calls - this is merely considered normal use
of the kernel, and does *not* fall under the heading of "derived work".[...]
</pre>
参考訳:
<pre>
注意! この(Linuxカーネルの)著作権は通常のシステムコールによる
カーネル・サービスを利用するユーザ空間プログラムを影響下に置くことは「ない」。
このことは、カーネルの通常利用を考慮したものであるに過ぎない。
そして、このことは「派生物」との分類を受けるものではない。(後略)
</pre>

=== 集積物の別の部分と見なされるパッチ ===
前述のセクションの実例を挙げる。GPLソフトウェアへの[[パッチ]]を提供した場合は、そのパッチが「適用したGPLソフトウェアとは別の著作物」とみなされる''可能性''も含んでいる。これは、前述の通り、
* GPLv2の第2節後半部分 ''These requirements [...] do not apply to those sections when you distribute them as separate works.''
* GPLv3第5項最終段落 ''Inclusion of a covered work in an aggregate does not cause this License to apply to the other parts of the aggregate.''<ref>
[[八田真行]]訳: ''単に『保護された作品』を集積物に含めるだけでは、その集積物の他の部分にまで本ライセンスが適用されるということにはならない。''</ref>
に規定されている。即ちGPLソフトウェアを含む「''集積物''(''aggregate'')の他の部分」と認められれば、GPLに反しない、言い換えればGPLより緩やかなライセンスでパッチを公開しても良い<ref>
[[#改変版ソースの伝達|GPLv3の規定]]に従えば「集積物の他の部分」には任意のライセンスが適用できるが、そのパッチを作る基となったGPLv3ソフトウェアと両立しないライセンスでリリースすることは、基となったGPLv3ソフトウェアにはパッチを適用できないのでナンセンスである。
</ref>。例えばパッチが単なる修正ではなく、単体で再利用可能な全く別種の機能強化と見なされればそれは集積物の別の部分と規定でき、そのパッチのみに対しGPLと矛盾せずかつGPL以外のライセンス([[BSDライセンス]]や[[zlib License]]など)を適用する事も可能である。一例をあげると、[[MySQL]]は、「リンク例外条項付きGPLv2」と商用ライセンスとで[[デュアルライセンス|デュアルライセンシング]]されている。これに対し[[Google]]はMySQL向けのパッチをBSDライセンスで提供していた<ref>
{{cite web
| url = http://code.google.com/p/google-mysql-tools/wiki/Mysql5Patches
| title = Mysql5Patches
| date = 2009-08-10
| publisher = code.google.com
| accessdate = 2011-03-11
}}</ref>。このパッチはオリジナルのMySQLに由来しないコードのため、GPLで保護されたMySQLの「集積物とは別の部分」となる。BSDライセンスは独占的なライセンスであろうとも両立するので、結果的にこのパッチは、MySQLをGPLで利用するライセンシーと共に商用ライセンスで利用する者も適用可能である<ref>
{{cite web
| url = http://nippondanji.blogspot.com/2009/10/gplmysqlbsd.html
| title = 漢(オトコ)のコンピュータ道: GPLが適用されているソフトウェア=MySQLのパッチをBSDライセンスでリリースする。
| date = 2009-10-30
| author = 奥野幹也
| publisher = nippondanji.blogspot.com
| accessdate = 2011-03-11
}}</ref><ref name="BSDL'ed-patch-may-apply-GPL'ed-s/w">
{{cite web
| url = http://nippondanji.blogspot.com/2009/11/gplbsd.html
| title = 漢(オトコ)のコンピュータ道: GPLソフトウェアのパッチをBSDライセンスで提供することの意義
| date = 2009-11-02
| author = 奥野幹也
| publisher = nippondanji.blogspot.com
| accessdate = 2011-03-11
}}</ref>。また同時にそのパッチから[[サブルーチン]]のみを取り出し、BSDライセンスされたソフトウェアにも同様のルーチンを導入する事も可能となる<ref name="BSDL'ed-patch-may-apply-GPL'ed-s/w" />。


=== 非GPLプログラムとの結合や組み合わせ ===
=== 非GPLプログラムとの結合や組み合わせ ===
799行目: 969行目:


GPL FAQでは「結合メカニズム」(「コミュニケーションのメカニズム」)の例として、[[プロセス間通信]]、[[RPC|リモート・プロシージャ・コール]]、[[カーネル空間]]・[[ユーザー空間]]の通信や[[システムコール]]、[[パイプ (コンピュータ)|パイプ]]、[[exec (オペレーティングシステム)|exec]]によるプロセス起動などを挙げている。これら「結合メカニズム」を用いてGPLなソフトウェアと接続する場合は、個別のプログラムであるため結合ではないとも見なせるが、そのやり取りするデータの如何によって接続先が二次的著作物であると見なされる余地も残されている(「コミュニケーションのセマンティクス」)。これに対する明確な法廷判断はまだない。
GPL FAQでは「結合メカニズム」(「コミュニケーションのメカニズム」)の例として、[[プロセス間通信]]、[[RPC|リモート・プロシージャ・コール]]、[[カーネル空間]]・[[ユーザー空間]]の通信や[[システムコール]]、[[パイプ (コンピュータ)|パイプ]]、[[exec (オペレーティングシステム)|exec]]によるプロセス起動などを挙げている。これら「結合メカニズム」を用いてGPLなソフトウェアと接続する場合は、個別のプログラムであるため結合ではないとも見なせるが、そのやり取りするデータの如何によって接続先が二次的著作物であると見なされる余地も残されている(「コミュニケーションのセマンティクス」)。これに対する明確な法廷判断はまだない。

=== パッチ ===
前セクションと関連し、GPLソフトウェアへの[[パッチ]]を提供した場合は、そのパッチが「適用したGPLソフトウェアとは別の著作物」とみなされる''可能性''も含んでいる。これは、前述の通り、
* GPLv2の第2節後半部分 ''These requirements [...] do not apply to those sections when you distribute them as separate works.''
* GPLv3第5節(第5項)最終段落 ''Inclusion of a covered work in an aggregate does not cause this License to apply to the other parts of the aggregate.''<ref>
[[八田真行]]訳: ''単に『保護された作品』を集積物に含めるだけでは、その集積物の他の部分にまで本許諾書が適用されるということにはならない。''</ref>
に規定されている。即ちGPLソフトウェアとは別の、「''集積物''(''aggregate'')の他の部分」と認められれば、GPLに反しない、言い換えればGPLより緩やかなライセンスでその集積物を公開しても良い。例えばパッチが単なる修正ではなく、単体で再利用可能な全く別種の機能強化と見なされればそれは集積物の別の部分と規定でき、そのパッチのみに対しGPLと矛盾せずかつGPL以外のライセンス([[BSDライセンス]]や[[zlib License]]など)を適用する事も可能である。一例をあげると、[[MySQL]]は、「リンク例外条項付きGPLv2」と商用ライセンスとで[[デュアルライセンス|デュアルライセンシング]]されている。これに対し[[Google]]はMySQL向けのパッチをBSDライセンスで提供していた<ref>
{{cite web
| url = http://code.google.com/p/google-mysql-tools/wiki/Mysql5Patches
| title = Mysql5Patches
| date = 2009-08-10
| publisher = code.google.com
| accessdate = 2011-03-11
}}</ref>。このパッチはオリジナルのMySQLに由来しないコードのため、GPLで保護されたMySQLの「集積物とは別の部分」となる。従ってこのパッチは、MySQLをGPLで利用するライセンシーと共に商用ライセンスで利用する者も適用可能である<ref>
{{cite web
| url = http://nippondanji.blogspot.com/2009/10/gplmysqlbsd.html
| title = 漢(オトコ)のコンピュータ道: GPLが適用されているソフトウェア=MySQLのパッチをBSDライセンスでリリースする。
| date = 2009-10-30
| author = 奥野幹也
| publisher = nippondanji.blogspot.com
| accessdate = 2011-03-11
}}</ref><ref name="BSDL'ed-patch-may-apply-GPL'ed-s/w">
{{cite web
| url = http://nippondanji.blogspot.com/2009/11/gplbsd.html
| title = 漢(オトコ)のコンピュータ道: GPLソフトウェアのパッチをBSDライセンスで提供することの意義
| date = 2009-11-02
| author = 奥野幹也
| publisher = nippondanji.blogspot.com
| accessdate = 2011-03-11
}}</ref>。また同時にそのパッチから[[サブルーチン]]のみを取り出し、BSDライセンスされたソフトウェアにも同様のルーチンを導入する事も可能となる<ref name="BSDL'ed-patch-may-apply-GPL'ed-s/w" />。


== 法廷におけるGPL ==
== 法廷におけるGPL ==
870行目: 1,009行目:
| title = GPL enforcement goes to court for first time in MySQL case
| title = GPL enforcement goes to court for first time in MySQL case
| date = 2002-02-26
| date = 2002-02-26
| author = JT Smith
| author = JT Smith
| publisher = Linux.com
| publisher = Linux.com
| accessdate = 2011-03-27
| accessdate = 2011-03-27
}}</ref>。[[2002年]][[2月27日]]、[[パティ・サリス]]([[:en:Patti B. Saris|Patti Saris]])判事の[[予備審問]]ののち、当事者らは[[和解]]協議に入り、最終的に事実上合意に至った<ref>
}}</ref>。[[2002年]][[2月27日]]、[[パティ・サリス]]([[:en:Patti B. Saris|Patti Saris]])判事の[[予備審問]]ののち、当事者らは[[和解]]協議に入り、最終的に事実上合意に至った<ref>
詳細は裁判記録「''Progress Software Corporation v. MySQL AB'', 195 F. Supp. 2d 328 (D. Mass. 2002)」における「'''[[予備的差止請求権|予備的差止命令]]'''('''[[:en:Preliminary injunction|preliminary injunction]]''')に対する'''[[被告]][[動機 (法)|動機]]'''('''[[:en:defendant|defendant]]'s [[:en:Motion (legal)|motion]]''')」を参照のこと。
詳細は裁判記録「''Progress Software Corporation v. MySQL AB'', 195 F. Supp. 2d 328 (D. Mass. 2002)」における「'''[[予備的差止請求権|予備的差止命令]]'''('''[[:en:Preliminary injunction|preliminary injunction]]''')に対する'''[[被告]][[動機 (法)|動機]]'''('''[[:en:defendant|defendant]]'s [[:en:Motion (legal)|motion]]''')」を参照のこと。
</ref>。審問終了後、FSFは「サリス判事は、GNU GPLが強制力と束縛力を持つライセンスであることが分かったことを明らかにした」とのコメントを発表した<ref>
</ref>。審問終了後、FSFは「サリス判事は、GNU GPLが強制力と束縛力を持つライセンスであることが分かったことを明した」とのコメントを発表した<ref>
{{cite web
{{cite web
| url = http://www.gnu.org/press/2002-03-01-pi-MySQL.html
| url = http://www.gnu.org/press/2002-03-01-pi-MySQL.html
895行目: 1,034行目:
[[ドイツ]]の[[コンピュータネットワーク|ネットワーク]]機器メーカー[[Sitecom]]は、GPLの条項に違反して、[[netfilter|netfilter/iptables]]<ref>
[[ドイツ]]の[[コンピュータネットワーク|ネットワーク]]機器メーカー[[Sitecom]]は、GPLの条項に違反して、[[netfilter|netfilter/iptables]]<ref>
[[:en:netfilter|netfilter]]/[[iptables]]: [[Linuxカーネル]]に実装されたGPLのネットワーク・[[パケットフィルタリング|フィルタリング]]/[[ファイアーウォール]][[ソフトウェアフレームワーク|フレームワーク]]。各記事も参照せよ。
[[:en:netfilter|netfilter]]/[[iptables]]: [[Linuxカーネル]]に実装されたGPLのネットワーク・[[パケットフィルタリング|フィルタリング]]/[[ファイアーウォール]][[ソフトウェアフレームワーク|フレームワーク]]。各記事も参照せよ。
</ref>プロジェクトのGPLで保護されたソフトウェア頒布していたが、彼らは頒布停止を拒絶した。この後、事態は法廷に持ち込まれ、[[2004年]][[4月]]、[[ミュンヘン]]地方裁判所はnetfilter/iptablesプロジェクトの訴えに対し、Sitecomドイツ法人の製品に対する[[予備的差止請求権|予備的差止命令]]([[:en:Preliminary injunction|preliminary injunction]])を認める[[決定 (裁判)|決定]]を下した。[[2004年]][[7月]]、ドイツの法廷は、この[[差止請求権|差止命令]]がSitecomへの[[判決]]になると確定し、結審した<ref>
</ref>プロジェクトのGPLで保護されたソフトウェア頒布していたが、彼らは頒布停止を拒絶した。この後、事態は法廷に持ち込まれ、[[2004年]][[4月]]、[[ミュンヘン]]地方裁判所はnetfilter/iptablesプロジェクトの訴えに対し、Sitecomドイツ法人の製品に対する[[予備的差止請求権|予備的差止命令]]([[:en:Preliminary injunction|preliminary injunction]])を認める[[決定 (裁判)|決定]]を下した。[[2004年]][[7月]]、ドイツの法廷は、この[[差止請求権|差止命令]]がSitecomへの[[判決]]になると確定し、結審した<ref>
次のウェブページは、本訴訟「[[ハラルト・ヴェルテ]]対Sitecom事件」についての結審に係る判決文の英訳である。原文はドイツ語で、翻訳者はジェンズ・モーラー(Jens Maurer)。
次のウェブページは、本訴訟「[[ハラルト・ヴェルテ]]対Sitecom事件」についての結審に係る判決文の英訳である。原文はドイツ語で、翻訳者はジェンズ・モーラー(Jens Maurer)。
{{cite web
{{cite web
916行目: 1,055行目:
netfilter/iptablesの開発者でその著作権を持つもののひとりでもある、[[ハラルト・ヴェルテ]]は、[[ドイツ]]にある[[FLOSS]]関連の法的係争を扱う組織、[[ifrOSS]]([[:en:ifrOSS|en]])の共同設立者、ティル・イェーガー(Till Jaeger)に自身の法的代理人を要請した。この判決文は当時FSFの[[顧問]]だった[[エベン・モグレン]]が以前予想した通りの内容を反映していた。これは、GPLの条項違反が著作権侵害に与える影響を法廷が初めて認めた重要な判決だった。
netfilter/iptablesの開発者でその著作権を持つもののひとりでもある、[[ハラルト・ヴェルテ]]は、[[ドイツ]]にある[[FLOSS]]関連の法的係争を扱う組織、[[ifrOSS]]([[:en:ifrOSS|en]])の共同設立者、ティル・イェーガー(Till Jaeger)に自身の法的代理人を要請した。この判決文は当時FSFの[[顧問]]だった[[エベン・モグレン]]が以前予想した通りの内容を反映していた。これは、GPLの条項違反が著作権侵害に与える影響を法廷が初めて認めた重要な判決だった。


[[2005年]][[5月]]、ダニエル・ウォレス(Daniel Wallace)は「GPLは価格を零にしようとする違法な企て、すなわち[[価格固定]]([[:en:Price fixing|price fixing]])や[[不当廉売|ダンピング]]である」と主張し、[[フリーソフトウェア財団|FSF]]を[[インディアナ南部連邦地方裁判所]]([[:en:United States District Court for the Southern District of Indiana|United States District Court for the Southern District of Indiana]])に[[訴訟|提訴]]した。[[2006年]][[3月]]、ウォレスはGPLが[[独占禁止法|反トラスト法]]的であるとの正当な主張を法廷で明らかにすることができなかったため、原告[[不服申立|申立]]ては[[棄却]]された。「GPLは、[[自由競争]]や、コンピュータ・[[オペレーティングシステム]]・ソフトウェアと消費者が直接得られる利益双方の頒布を阻害するというより、むしろ促進している」と、法廷は言い渡した<ref name="groklawwallacevsfsfdismiss">
[[2005年]][[5月]]、ダニエル・ウォレス(Daniel Wallace)は「GPLは価格を零にしようとする違法な企て、すなわち[[価格固定]]([[:en:Price fixing|price fixing]])や[[不当廉売|ダンピング]]である」と主張し、[[フリーソフトウェア財団|FSF]]を[[インディアナ南部連邦地方裁判所]]([[:en:United States District Court for the Southern District of Indiana|United States District Court for the Southern District of Indiana]])に[[訴訟|提訴]]した。[[2006年]][[3月]]、ウォレスはGPLが[[独占禁止法|反トラスト法]]に違反す行為を促すとの正当な主張を法廷で明することができなかったため、原告[[不服申立|申立]]ては[[棄却]]された。「GPLは、[[自由競争]]や、コンピュータ・[[オペレーティングシステム]]・ソフトウェアと消費者が直接得られる利益双方の頒布を阻害するというより、むしろ促進している」と、法廷は言い渡した<ref name="groklawwallacevsfsfdismiss">
[[Groklaw]]の[http://www.groklaw.net/article.php?story=20060320201540127 当該記事]からリンクされているウォレス対FSF事件の[http://www.groklaw.net/pdf/WallaceFSFGrantingDismiss.pdf 判決(原告提訴棄却)]
[[Groklaw]]の[http://www.groklaw.net/article.php?story=20060320201540127 当該記事]からリンクされているウォレス対FSF事件の[http://www.groklaw.net/pdf/WallaceFSFGrantingDismiss.pdf 判決(原告提訴棄却)]
</ref>。その後、ウォレスは、[[不服申立]]の[[控訴]]状も[[却下]]され、FSFへの[[訴訟費用]]の支払いを命じられた。
</ref>。その後、ウォレスは、[[不服申立]]の[[控訴]]状も[[却下]]され、FSFへの[[訴訟費用]]の支払いを命じられた。
{{Main|ウォレス対インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション事件}}([[:en:Wallace_v._International_Business_Machines_Corp._et_al.|Wallace v. International Business Machines Corp. et al.]])
{{Main|ウォレス対インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション事件}}([[:en:Wallace_v._International_Business_Machines_Corp._et_al.|Wallace v. International Business Machines Corp. et al.]])


[[2005年]][[9月8日]]、[[ソウル特別市|ソウル]]中央[[大韓民国の法制度#地方法院|地方法院]](''서울중앙지방법원'', ''Seoul Central District Court'', ソウル中央地方裁判所)は、GPLでライセンスされた著作物から派生した二次的著作物を[[企業秘密]]([[:en:Trade secret|trade secret]])とする契約事項に対し、GPLは本件と関連なしとの判決を下した<ref>
[[2005年]][[9月8日]]、[[ソウル特別市|ソウル]]中央[[大韓民国の法制度#地方法院|地方法院]](''서울중앙지방법원'', ''Seoul Central District Court'', ソウル中央地方裁判所)は、GPLでライセンスされた著作物から派生した二次的著作物を[[企業秘密]]([[:en:Trade secret|trade secret]])とする契約事項に対し、GPLは本件と関連なしとの判決を下した<ref>
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ソフトウェアパッケージを、Linksysの次に述べる製品の[[ファームウェア]]に[[GNU/Linuxシステム]]の形で組み込んで、対価を取って頒布、すなわち販売していたが、GPLの条項に違反していたためFSFの[[著作権侵害|著作権を侵害]]している、と原告のFSFは主張した。該当する製品は、Linksysの有名な[[無線LAN]][[ルーター]][[:en:Linksys WRT54G series|WRT54G]]やその他[[デジタル加入者線|DSL]][[モデム]]、[[ケーブルモデム]]、[[ネットワークアタッチトストレージ]]機器、[[VoIP|Voice-Over-IP]][[ゲートウェイ]]、[[Virtual Private Network]]機器そして[[ホームシアター]]、[[デジタルメディアプレーヤー|メディアプレーヤー]]機器などその他多くの機器にも及ぶ。
ソフトウェアパッケージを、Linksysの次に述べる製品の[[ファームウェア]]に[[GNU/Linuxシステム]]の形で組み込んで、対価を取って頒布、すなわち販売していたが、GPLの条項に違反していたためFSFの[[著作権侵害|著作権を侵害]]している、と原告のFSFは主張した。該当する製品は、Linksysの有名な[[無線LAN]][[ルーター]][[:en:Linksys WRT54G series|WRT54G]]やその他[[デジタル加入者線|DSL]][[モデム]]、[[ケーブルモデム]]、[[ネットワークアタッチトストレージ]]機器、[[VoIP|Voice-Over-IP]][[ゲートウェイ]]、[[Virtual Private Network]]機器そして[[ホームシアター]]、[[デジタルメディアプレーヤー|メディアプレーヤー]]機器などその他多くの機器にも及ぶ。


FSFがシスコを提訴するまでの6年間、FSFはシスコに何度も[[異議申立て]]を行ったが、シスコは、「われわれは、(GPLで保護されたプログラムの全てのソースコードならびにその改変箇所を含む完全な複製を提供しなかったというGPLの)条項違反についての問題を修正予定もしくは修正中である」と主張し、そして、より多くの製品から新たな違反が発覚し報告を受け、Linksysと多くの会談を持ったが、結局実りは少なかった。FSFの[[ブログ]]では、この過程を「''5年間にも及ぶ[[モグラ叩き]]ゲーム''」("''five-years-running game of Whack-a-Mole''")と評している<ref>
FSFがシスコを提訴するまでの6年間、FSFはシスコに何度も[[異議申立て]]を行ったが、シスコは、「われわれは、(GPLで保護されたプログラムの全てのソースコードならびにその改変箇所を含む完全な複製を提供しなかったというGPLの)条項違反についての問題を修正予定もしくは修正中である」と主張したが、その後も、より多くの製品から新たな違反が発覚し報告を受け、Linksysと多くの会談を持ったが、結局実りは少なかった。FSFの[[ブログ]]では、この過程を「''5年間にも及ぶ[[モグラ叩き]]ゲーム''」("''five-years-running game of Whack-a-Mole''")と評している<ref>
{{cite web
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| url = http://www.fsf.org/blogs/licensing/2008-12-cisco-complaint
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| url = http://www.fsf.org/news/2009-05-cisco-settlement.html
| url = http://www.fsf.org/news/2009-05-cisco-settlement.html
| title = FSF Settles Suit Against Cisco
| title = FSF Settles Suit Against Cisco
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-03-28
| accessdate = 2011-03-28
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== 両立性とマルチライセンス ==
== 両立性とマルチライセンス ==
[[Image:Quick-guide-gplv3-compatibility.svg|350px|thumb|GPLと両立するライセンスについてのクイックガイド。上段から順に[[コピーレフト]]性がまったく無い[[パブリックドメイン]]を含む[[緩やかなフリーソフトウェアライセンス|緩やかなライセンス]]から、弱いコピーレフトを持つ[[GNU Lesser General Public License|LGPL]]、コピーレフトが最も強い'''GPL'''を示し、左列は(GPLv2を除いて)GPLv2・GPLv3双方と両立、右列はGPLv3''のみ''と両立するライセンスである。矢印の向かう先がある場合はそのライセンスと互換性があり、そうでない場合は印がない。左最上部のライセンス群は相互再ライセンス可能である。GPLv2とGPLv3は互換性がないが、GPLv2に本セクションで説明する条件を満たす場合は、GPLv3に再ライセンスされる(そのためか、GPLv2からGPLv3へ破線矢印が記されている)。]]
[[Image:Quick-guide-gplv3-compatibility.svg|350px|thumb|GPLと両立するライセンスについてのクイックガイド。上段から順に[[コピーレフト]]性がまったく無い[[パブリックドメイン]]を含む[[緩やかなフリーソフトウェアライセンス|緩やかなライセンス]]から、弱いコピーレフトを持つ[[GNU Lesser General Public License|LGPL]]、コピーレフトが最も強い'''GPL'''を示し、左列は(GPLv2を除いて)GPLv2・GPLv3双方と両立、右列はGPLv3''のみ''と両立するライセンスである。矢印の向かう先がある場合はそのライセンスと互換性があり、そうでない場合は印がない。左最上部のライセンス群は相互再ライセンス可能である。GPLv2とGPLv3は互換性がないが、GPLv2に本セクションで説明する条件を満たす場合は、GPLv3に再ライセンスされる(そのためか、GPLv2からGPLv3へ破線矢印が記されている)。]]

あるオープンソースソフトウェアでライセンス上考慮すべき点があるなどして、またはもっと極端な例では、GPLの思想的な面に反発があるなどして、GPLと''両立性''(''compatible'')を欠くようなライセンスを自身のオープンソースプロダクトに敢えて採用するケースがあるかもしれない。しかし、GPLを採用するフリーソフトウェア、オープンソースソフトウェアが多数存在するため(セクション"[[#採用実績|採用実績]]"を参照)、現実問題としてそのような行為はコードの再利用性を著しく欠く結果につながる(記事"[[ライセンスの氾濫]]"を参照)。このため、自身の採用するライセンスをGPLと非互換にしないよう、GPLとのライセンス両立性を考慮することは重要である。


著作物全体として影響を受けるライセンスの持つ制限の組み合わせにより、GPLが許諾する事項を越えるいかなる追加的制限が課されない限り、いくつかその他のライセンスで許諾されたコードは、GPLで許諾されたプログラムと衝突することなく組み合わせること(''両立する''、''互換性がある''; ''compatible''。逆は''両立しない''、''非互換である''; ''incompatible'')も可能である<ref name="gpl-all-text">
著作物全体として影響を受けるライセンスの持つ制限の組み合わせにより、GPLが許諾する事項を越えるいかなる追加的制限が課されない限り、いくつかその他のライセンスで許諾されたコードは、GPLで許諾されたプログラムと衝突することなく組み合わせること(''両立する''、''互換性がある''; ''compatible''。逆は''両立しない''、''非互換である''; ''incompatible'')も可能である<ref name="gpl-all-text">
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| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-03-28
| accessdate = 2011-03-28
}}</ref><ref>
}}</ref>
よくある表明文の例は、"either version 2 of the License, or (at your option) any later version"(「本ライセンスのバージョン2、または(あなたの選択で)任意の以後のバージョン」)である。
</ref><ref>
対照的な例は[[Linuxカーネル]]や、バージョン1.9.1までのプログラミング言語[[Ruby]]である。これらは"any later version" statementなしのGPLv2単独でライセンスもしくは[[デュアルライセンス]]されている。従ってGPL''v3''のコードを組み合わせることは出来ないので注意を要する。しかし、[[Ruby]]はデュアルライセンスのGPLを、バージョン1.9.2より、GPLより[[緩やかなフリーソフトウェアライセンス]]([[:en:Permissive free software licence|Permissive free software licence]])である[[BSDライセンス]]にコンバートしたため、以後のバージョンのRubyではGPLv3で保護されるプログラムを組み合わせることも可能である。</ref>。
# [[GNU Lesser General Public License|LGPL]]のもとライセンスされるコードは、そのコードのライセンス如何に関わらず([[プロプライエタリ・ソフトウェア|独占的]]なコードでさえも)、いかなるその他のコードともリンク可能である<ref>
# [[GNU Lesser General Public License|LGPL]]のもとライセンスされるコードは、そのコードのライセンス如何に関わらず([[プロプライエタリ・ソフトウェア|独占的]]なコードでさえも)、いかなるその他のコードともリンク可能である<ref>
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| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-03-28
| accessdate = 2011-03-28
}}</ref>。組み合わせた全体の著作物がGPLv2またはGPLv3でライセンスされる場合において、LGPLv2でライセンスされたコードに"any later version" statementが''存在しない''場合はコードを当該ライセンスで再ライセンスすることが出来る<ref>
}}</ref>。組み合わせた全体の著作物がGPLv2またはGPLv3でライセンスされる場合において、LGPLv2でライセンスされたコードに"any later version" statementが''存在しない''場合はコードを当該ライセンスで再ライセンスすることができる<ref>
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| url = http://www.gnu.org/licenses/gpl-faq.html#AllCompatibility
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1,050行目: 1,188行目:
| accessdate = 2011-03-28
| accessdate = 2011-03-28
}}</ref>。
}}</ref>。
上述1.について、よくある表明文の例は、"either version 2 of the License, or (at your option) any later version"(「本ライセンスのバージョン2、または(あなたの選択で)任意の以後のバージョン」)である。また対照的な例は[[Linuxカーネル]]や、バージョン1.9.2までのプログラミング言語[[Ruby]]の処理系([[インタプリタ]])である。これらは"any later version" statement(''表明文''、''宣言'')なしのGPLv2単独でライセンスもしくはGPLv2を''内部的に参照する''形式を採る[[Rubyライセンス]]である(後者は[[デュアルライセンス]]と類似する)。従ってGPL''v3''のコードを組み合わせることはできないので注意を要する。しかし、[[Ruby]]の処理系はデュアルライセンスのGPLを、バージョン1.9.3より、GPLより[[緩やかなフリーソフトウェアライセンス]]([[:en:Permissive free software licence|Permissive free software licence]])である2条項[[BSDライセンス]]にコンバートしたため、以後のバージョンのRubyの処理系ではGPLv3で保護されるプログラムを組み合わせることも可能である。このような許諾変更が許されるのは、デュアルライセンスの片方である[[Rubyライセンス]]が著作権者(Rubyの処理系の場合は[[まつもとゆきひろ|まつもと]])に許諾条件の変更を一任する条項(2.(d))が存在する為である。一般的に、ソフトウェアのライセンスを非互換なライセンスに変更する場合は、コードの全[[著作権者]]からライセンス変更の同意を取り付けなければならない<ref name="gplv3-not-applied" />。LinuxカーネルはRuby処理系のような特殊な規定を持っているわけではないので、そうせざるを得ない<ref name="gplv3-not-applied" />。GNUプロジェクトはこのような事態に陥ることを回避するため、前述の通り、著作権者からコードの著作権をFSFに譲渡するよう勧め、また彼らのソフトウェアのライセンスほぼ全てに"any later version"表明文を付したGPLを適用している。


FSFは、GPLと[[ライセンスの互換性|両立する]][[フリーソフトウェアライセンス]]のリストを維持管理している<ref>
FSFは、GPLと[[ライセンスの互換性|両立する]][[フリーソフトウェアライセンス]]のリストを維持管理している<ref>
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=== マルチライセンス ===
=== マルチライセンス ===
{{Main|デュアルライセンス}}
{{Main|デュアルライセンス}}
GPLのもとで頒布するとともに、[[静的リンク]]などを使用する場合やそうではなく[[動的リンク]]を使用する場合においても、パッケージに[[プロプライエタリ・ソフトウェア|プロプライエタリ]]なコードを組み合わせたいと望む[[企業]]のため、二次的著作物を[[プロプライエタリ・ソフトウェア|独占的な]]条件・ライセンスで頒布・販売可能にする商用ライセンスを同時に提供するマルチライセンシング・[[ビジネスモデル]]が多く存在する。このようなビジネスモデルを採用する企業(ソフトウェア)には、[[MySQL AB]]社([[MySQL]])、[[ノキア]]社(旧[[Qt Development Frameworks|Trolltech]]社の[[Qt|Qtフレームワーク]])、[[Namesys]]社([[ReiserFS]])、[[レッドハット|Red Hat]]社([[Cygwin]])、Riverbank Computing社([[PyQt]]([[:en:PyQt|en]]))などがある。
GPLのもとで頒布するとともに、[[静的リンク]]などを使用する場合やそうではなく[[動的リンク]]を使用する場合においても、パッケージに[[プロプライエタリ・ソフトウェア|プロプライエタリ]]なコードを組み合わせたいと望む[[企業]]のため、二次的著作物を[[プロプライエタリ・ソフトウェア|独占的な]]条件・ライセンスで頒布・販売可能にする商用ライセンスを同時に提供するマルチライセンシング・[[ビジネスモデル]]が多く存在する。このようなビジネスモデルを採用する企業(ソフトウェア)には、[[オラクル (企業)|Oracle]]社[[MySQL AB]]社の[[MySQL]]、[[Digia]][[:en:Digia|en]])<ref>
{{cite web
| url = http://www.digia.com/C2256FEF0043E9C1/0/405002251
| title = Digia to acquire Qt commercial licensing business from Nokia
| publisher = [[Digia]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>社(旧[[Qt Development Frameworks|Trolltech]]社の[[Qt|Qtフレームワーク]]<ref>
[[2008年]][[6月]]から[[2011年]][[3月]]までは[[ノキア]]が所有していた。
{{cite web
| url = http://qt.nokia.com/about-jp/
| title = Qt Development Frameworks について
| publisher = [[ノキア|Nokia]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>
)、[[Namesys]]社([[ReiserFS]])、[[レッドハット|Red Hat]]社([[Cygwin]])、Riverbank Computing社([[PyQt]]([[:en:PyQt|en]]))などがある。


[[デュアルライセンス|マルチライセンス]]等で動的リンクでGPLの裏をかいたり、著作権保持者に提訴された際には、係争者が存在しない。マルチライセンス下の商用ライセンスによる制限は''正式'' ([[デ・ジュリ|de jure]]) にではないにしろ、''事実上の'' ([[デ・ファクト|de facto]]) 強制といえる。
[[デュアルライセンス|マルチライセンス]]等で動的リンクでGPLの裏をかいたり、著作権保持者に提訴された際には、係争者が存在しない。マルチライセンス下の商用ライセンスによる制限は''正式'' ([[デ・ジュリ|de jure]]) にではないにしろ、''事実上の'' ([[デ・ファクト|de facto]]) 強制といえる。
1,165行目: 1,318行目:
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-03-28
| accessdate = 2011-03-28
}}</ref>。

== GPLv3にまつわる話題 ==
ここではGPLv3で改訂された内容や新規に導入された事項を理解するため、条項の逐条的な説明を行う。内容は[[情報処理推進機構|IPA]]の「GNU GPLv3 逐条解説書」<ref name="cmtr" />を参考に、一部を除き括弧内に対応する条項名を記載した。「[[Software Freedom Law Center|SFLC]]によると」の部分は、原典のIPAの「GNU GPLv3 逐条解説書」と同一の扱いである。

=== 主要な用語の定義{{note label|gplv3-term-definitions|A|A}} ===
バージョン2以前のGPLで使用された用語は、[[アメリカ合衆国著作権法|米国著作権法]]に準拠したものが多い。GPLv3ではこのことを踏まえ、各種用語を定義し直し、主張する内容を明瞭化した。よって各国著作権法との親和性は幾分かは上がった。この点を述べてライセンスの米国法依存脱却、すなわち「国際化」と呼んでいる<ref name="cmtr-p26">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 26
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。また用語の曖昧さについては、詳細な定義を加えることにより極力排除されている。しかし実は、GPLに[[準拠法|準拠する法]]は、GPLv2でもGPLv3でも同じく、いかなる国の法はGPLの準拠法となり得る<ref>
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 30
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。実際の実務として検討する課題は少し存在するが<ref>
{{cite web
| url = http://www.softic.or.jp/publication/oss/071116.pdf
| title = オープンソースソフトウェアライセンスの最新動向に関する調査報告書 平成19年11月16日
| pages = 41-48
| date = 2010-05-26
| publisher = [[ソフトウェア情報センター|SOFTIC]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>、この法的解釈はGPLv2からは何も変わっていない。このことは、議論用第2稿と同時に提出された"Opinion on Denationalization of Terminology"(「用語の特定国家依存からの脱却に関する意見」)に記載されている、"Rejection of [[:en:Choice of law|Choice of Law]] Clauses"(「[[法の選択]]条項の拒絶」)<ref>
{{cite web
| url = http://gplv3.fsf.org/denationalization-dd2.html
| title = Opinion on Denationalization of Terminology
| date = 2006-08-03
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-04-27
| quote = Rejection of Choice of Law Clauses
}}</ref>にて明確に趣旨が説明されている。すなわち、後述する第7項第3段落の「''追加的非許可条項''」("''non-permissive additional terms''")には[[法の選択]]による追加的非許可条項(特にその小項b))が存在しないため、仮にそれを行使するならば第10項第3段落の「''さらなる権利制限''」("''further restrictions''")となり第8項の終了条項が発動、ライセンス違反となる。条文の主要な用語に関しては、正式リリースされたGPLv3の主に第0項、第1項を中心に、場合によっては各項の冒頭段落にて定義されている。

; 「コピーライト」と「作品」 : ''copyright''(''コピーライト'')とは[[著作権法]]で規定された[[著作権]]'''だけを意味するものではなく'''、''法による管轄を受け、著作権に似た権利すべて''を含んでおり、よって''works''(''作品'')は[[著作物]]に留まらない(第0項第2段落<ref>
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 24
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。また以下コピーライト保持者(コピーライト保有者)とは、コピーライトを主張できる部分に対する権利を保持するものを指し、著作権では[[著作権者]]に相当する。
; 対象となる作品と「ライセンシー」 : ''本プログラム''(''the Program'')という用語はGPLv2でも頻繁に登場するが、これはコピーライトが直接主張可能な作品のうち、''ライセンサー''(''licensor'')たるオリジナルのコピーライト保持者(原著作者)がGPLv3で許諾した作品を指す(第0項第3段落)。本ライセンスを受諾する個人、[[法人]]は''受領者''(''recipient'')と''ライセンシー''(''licensee'')の2種類に分けられる。受領者とは、本プログラムをライセンサーから直接間接問わず受け取り、''組織内でのプログラム実行''を専ら行うだけの個人・法人を指す<ref name="cmtr-p25">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 25
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。受領者は第9項によりGPLv3の条件(例えば第6項の「オブジェクトコード」形式の作品に対する「対応するソース」の伝達義務や第10項第3段落の特許非係争義務)を免除される<ref name="cmtr-p25" />。ライセンシーとはライセンスに従い作品を「伝達する」(後述)個人・法人を指す<ref name="cmtr-p25" />。よって"ライセンシー<math>\varsubsetneq</math>受領者"という図式が成立する<ref name="cmtr-p25" />。その他、当ライセンスの一部条項においてのみ対象となる、''伝達者''(''conveyer''または''conveyor'')<ref>
GPLv2での'''頒布者'''('''distributor''')に当たる。
</ref>、改変を行う''貢献者''(''contributor''<ref>
[[パッチ]]などの些細な変更をGPLv3では「改変点」("modifications")と呼んでいるが、貢献者は単に改変を行う人物とは別に定められる。これは第11項の[[特許]]許諾条項との関連がある。
</ref>)やライセンスの埒外に位置する「外部の契約者」など様々な個人・法人が存在する。
; 改変と二次的著作物 : GPLv3の全ての条項に従う限り、後述する「普及」行為の形態の一つ(複製、[[翻案権|翻案]])である''改変行為''(''modify'')を許諾される。後述の通り、この改変も含むすべての「普及」行為をコピーライト保持者の許諾なく行うのは[[違法行為]]にあたる。改変の結果作成された[[二次的著作物]](GPLv2での''derivative works'')を''改変されたバージョン''(改変版、''modified version'')や以前の作品を''基にした''(''based on'')作品と呼ぶ(第0項第4段落)。「未改変プログラム」そのもの、または「プログラムを基にした作品」は本ライセンスの対象となる著作物であり、これらを合わせて''保護された作品''(''covered work'')と呼ぶ(第0項第5段落)。
; 「普及」と「伝達」 : GPLv2の用語であった''copy''(''複製する'')、''distribute''(''頒布する'')に対し、GPLv3では''propagate''(''「普及」する''や''伝播する''と翻訳される)という用語が使われている(第0項第6段落)。これは''複製、頒布(改変の有無を問わない)、[[公衆送信権|公衆への利用可能化]]''など、いわゆる「権利者の許諾を得ず行使した場合に、法で定められる権利侵害になり、直接、間接の責任を負う行為」(著作権法上で言えば[[著作権侵害]]行為)を表す汎用的な用語である。各国の著作権法は著作権者の権利であるとしてこれらの行為を許諾を受けず第三者が行使することを禁じている。従って普及することが許されるのは、''著作権者が「利用方法及び条件」のもと許諾した場合に限られる''([[s:著作権法#第七節 権利の行使|日本国著作権法第六十三条二項]])。この'''著作権者の課した「利用方法及び条件」がまさにGPLなのである'''。GPLならば''GPLの条文全てに従う場合にのみ''これら「著作権法上の違法行為」がコピーライト保持者たる著作権者によりライセンシーに許諾されるのである(改変・普及行為双方の許可が第9項にて定められる)。[[Software Freedom Law Center|SFLC]]によると、普及行為の対象となる著作権者の権利には、[[s:著作権法#第三款 著作権に含まれる権利の種類|日本国著作権法第二十一条~第二十八条]]の[[著作権#支分権|支分権]]([[公衆送信権]]を含む)、[[s:著作権法#第二款 著作者人格権|第十八条~第二〇条]]の[[著作者人格権]]が含まれているとされる<ref name="cmtr-p26" />。同時に権利侵害の間接責任は、著作権の例では、著作権に対する著作権侵害の[[共同不法行為]]([[b:民法第719条|民法第719条]]二項、「教唆及び幇助」)に相当するとされる<ref name="cmtr-p27">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 27
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。普及行為には著作権法を含む各国[[準拠法]]の相違点を考慮して''その他の行為''が含まれる余地があるとも明記されている。またこの普及行為には、GPLv2と同じく組織内部における私的改変(例:改変版GPLv3ソフトウェアを利用しているが頒布(伝達)されないケース)や単なるコンピュータ上でのプログラムの実行は含まれない<ref name="cmtr-p27" />。とりわけコンピュータ上でのプログラム実行のみを行う[[人 (法律)|人]]を前述の通り受領者と呼び、GPLv3の条件を免除している。「『伝達』する」(''convey'')とは、普及行為のうち、第三者に複製や頒布を可能にさせる行為を指す。具体例としては、複製物の[[譲渡]]、複製物の[[売買]]や機器などに組み込んで売買すること、複製物を[[インターネット]]上の[[ウェブサイト]]に[[アップロード]]することなどが当てはまる。よって、"伝達行為<math>\varsubsetneq</math>普及行為"という図式が成立する。このことから「伝達行為ではない普及行為」が存在することが分かる。複製や頒布を伴わないが、第三者が著作権者の許諾無く行うと侵害行為となる[[著作者人格権]]の行使が、日本国著作権法における伝達行為ではない普及行為の一例である<ref>
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 30-31
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。この「伝達」という実態に即した用語は、議論用第2次草稿と同時に提出された"Opinion on Denationalization of Terminology"(「用語の特定国家依存からの脱却に関する意見」)という文書にて導入意図が語られている。「伝達」に関する部分を抜粋、要約すると「伝達行為は、ソフトウェアの複製物の移転(transfer、条項中にて[[八田真行]]は「転送」と訳している)行為を特定の法律の枠組みに抑えることを目的とせず、むしろ行為主体であることをライセンスにて明確化したいがために導入した」と述べられている<ref>
{{cite web
| url = http://gplv3.fsf.org/denationalization-dd2.html
| title = Opinion on Denationalization of Terminology
| date = 2006-08-03
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-04-27
| quote = Conveying is defined to include activities that constitute propagation of copies to others.
With these changes, GPLv3 addresses transfers of copies of software in behavioral rather than statutory terms.
}}</ref>。このことを例示する形で、第0項第7段落後半の条文では「''コンピュータネットワーク越しにユーザとやりとり<ref>
interaction. プログラムを利用してデータのやり取りだけを行うこと。
</ref>するだけで、コピーの転送<ref>
複製の移転
</ref>を伴わない場合は、伝達ではない。''」([[八田真行]]訳)と規定されている(第0項第7段落)。GPLv3プログラムが[[SaaS]]で利用されている場合、この条文により伝達ではないので、GPLv3の作品伝達に係る義務(第6項の対応するソースの伝達等)を負う必要はない。この点はGPLv2プログラムでも同じであり、"ASP loopholes"と呼ばれたのは前述の通りだが、[[Affero General Public License|AGPL]]v3で保護される作品とGPLv3で保護される作品をリンクもしくは結合した場合、GPLv3第13項により、結果として作品全体としてはGNU AGPLv3第13項に従う必要がある(対応するソースの伝達義務)。ただし、GPLv3で保護される作品部分はそのままGPLv3の許諾条件で維持される。
; 対話的[[ユーザインタフェース]](UI)の「適切な法的告知」 : 第4項第1段落、第5項では、対話的UIを備えている作品について「''適切な法的告知''」(''Appropriate Legal Notices'')を行わなければならないとしている。別途両項でも述べられるが、そのUIは、コピーライトを告知し、かつ、無保証性(no [[:en:Warranty|warranty]]. 保証が第7項の追加的条項などにより加えられる場合を除く)・伝達時のライセンシーのGPLv3遵守・GPLv3の内容を確認する方法、以上3点の告知を「便利かつ顕著に視認できるような」([[八田真行]]訳)方法で表示できなければならない<ref name="cmtr-p28">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 28
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。[[FLOSS]]で使用される主要な[[グラフィカルユーザインタフェース|GUI]][[ウィジェット・ツールキット|ツールキット]]はこの条件に合致する[[アプリケーションプログラミングインタフェース|API]]をデフォルトで備えているものが多い<ref>
{{cite web
| url = http://developer.gnome.org/gtk/2.24/GtkAboutDialog.html
| title = GtkAboutDialog
| publisher = developer.gnome.org
| accessdate = 2011-04-25
}}</ref>。
; 「ソースコード」とは : 「''ある作品の「ソースコード」(source code)とは、その作品に改変を加えるに当たって好ましいと考えられる形式のことである。''」([[八田真行]]訳)と改変が可能な作品と第1項で定義されている。これは[[ソフトウェア]]に留まらず[[#テキストメディアならびに他のメディアにおける利用|あらゆるメディア]]へのライセンス適用が可能であることを示唆している(同様の規定がGPLv2にもある)。また作品のうち「ソースコード」形式ではないものは''すべて''「''オブジェクトコード''」("''object code''")形式であると見なされる<ref name="cmtr-p34-35">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 34-35
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。オブジェクトコードというのは、[[オブジェクトコード|文字通りのもの]]だけを指すのではなく、「'''改変を加えるに当たって好ましくない'''」もの'''すべて'''を指している<ref name="cmtr-p34-35" />。例えば「[[難読化コード|意図的に読みにくくしたコード]]」("[[:en:Obfuscated code|Obfuscated code]]")<ref>
かつて[[climm|mICQ]]([[:en:climm|en]])は次のページのような難読化コードを忍ばせていたことがあった。mICQ(現在ではclimmと名を変えている)は当初よりGPLv2でリリースされているが、仮にGPLv3でリリースされていたならば、後述の通りユーザの要求に従い「難読化部分を解除したコード」を提供しなければならなかったはずである。
{{cite web
| url = http://sourceforge.jp/magazine/08/11/03/0424229
| title = バイナリ・ブロブの恐怖
| date = 2008-11-03
| publisher = [[SourceForge.JP]] Magazine
| accessdate = 2011-04-26
}}</ref>は改変に当たり好ましくないのでGPLv3上の「オブジェクトコード」である<ref name="cmtr-p34-35" />。この難読化に対する懸念は、第1の議論用草稿が提出された際に同時に発表されたライセンス改訂の趣旨説明書(Rationale)にも具体的に言及されている<ref name="dd1-rationale-ja" /><ref name="cmtr-p34-35" />。「オブジェクトコード」の定義が明示されたのは、GPLv3での特筆すべき点である。
; 「標準インタフェース」 : [[標準化団体]](もしくは標準化団体と認められる組織)が制定した[[標準規格]]や、ある[[プログラミング言語]]において広く利用されるインタフェースを「''標準インタフェース''」("''Standard Interface''")と定義する(第1項第2段落)。[[国際標準化機構|ISO]]により制定される[[C言語]](ただし実装は提供されず、各ベンダー毎に異なる)、[[Java Community Process|JCP]]による[[Java]](JCPによる参照用ソースコードも提供されている)、[[Internet Engineering Task Force|IETF]]による[[Transmission Control Protocol|TCP]]/[[Internet Protocol|IP]]各仕様はその例である。
; 「主要コンポーネント」 : 「''主要コンポーネント''」("''Major Component''")とは、作品が実行可能である場合、動作する特定の[[オペレーティングシステム]]の主要な必須コンポーネント(例: [[カーネル]]、[[ウィンドウシステム]])、実行形式である作品の生成に供するもの(例: [[コンパイラ]])、作品を実行するために利用されるオブジェクトコード[[インタプリタ]]などを指す(第1項第3段落)。
; 「システムライブラリ」 : 「''システムライブラリ''」("''System Libraries''")とは、作品が実行可能である場合、次の小項a)とb)双方を満たすもののうち、その実行可能な作品そのものではないものを指す。a)主要コンポーネントのパッケージに存在するが、主要コンポーネントの一部ではない別の頒布物であるもの。b)①作品を「主要コンポーネント」において利用可能とするためにのみ機能するもの、または、②「標準インターフェース」を実装するためにのみ機能するもの(ただし、その機能が、一般に公開されているソースコードを用いて実装できるもの)、のどちらか一方(第1項第3段落)。例えば、[[Linux]]用のC言語で作成されたある[[Executable and Linkable Format|ELF]]バイナリである作品の立場から見た場合、[[Linuxカーネル]]はOSの主要コンポーネントと見なせる。このとき、[[GNU Cライブラリ|glibc]]は、カーネルの一部ではない頒布物であるため小項a)を満たし、かつそのCでかかれた作品が、glibcを[[静的リンク]]か[[動的リンク]]しているかに関わらずどちらであっても動作に必要であるため([[ランタイムライブラリ]]としての側面)、小項b)の①に相当する。ゆえにglibcはシステムライブラリである。同時に、glibcは[[Linuxディストリビューション]]をOSと見なした(通常そうであるが)場合においては、ディストリビューションインストール直後にはすでに存在する[[パッケージ管理システム|パッケージ]]であり、ディストリビューションの動作に必須なので、主要コンポーネントとも見なせる。仮にCをOSの動作に利用しないものがあるならば、[[標準Cライブラリ]]は主要コンポーネントではない。[[Microsoft Windows]]オペレーティングシステムの、Cならびに[[C++]]APIを提供するランタイムライブラリ<code>msvcrt.dll</code>は、カーネルの一部ではない(記事"[[Windows API]]"、"[[:en:Microsoft Windows library files|Microsoft Windows library files]]"などを参照すると、主要なインタフェースであるWin32 APIを構成するライブラリではないことが分かる)。よってglibcと同じくシステムライブラリである。しかし通常主要コンポーネントではない<ref>
{{cite web
| url = http://www.gnu.org/licenses/gpl-faq.html#WindowsRuntimeAndGPL
| title = Frequently Asked Questions about the GNU Licenses - I'm writing a Windows application with Microsoft Visual C++ (or Visual Basic) and I will be releasing it under the GPL. Is dynamically linking my program with the Visual C++ (or Visual Basic) run-time library permitted under the GPL?
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-04-27
}}</ref>。ただし近年のWindows OSでは、<code>msvcrt.dll</code>がKnown DLL<ref>
{{cite web
| url = http://msdn.microsoft.com/ja-jp/library/ms811694.aspx
| title = DLL Hell の終焉
| date = 2000-03-02
| publisher = [[マイクロソフト|Microsoft]]
| accessdate = 2011-04-27
}}</ref>であると[[レジストリ]]に指定されている<ref>
{{cite web
| url = http://msdn.microsoft.com/ja-jp/library/abx4dbyh%28v=vs.80%29.aspx
| title = C ランタイム ライブラリ
| publisher = [[マイクロソフト|Microsoft]]
| accessdate = 2011-04-27
}}</ref>ので、すなわち、これはGPLv3の条項における主要コンポーネントであると見なせる。自明ではあるが、OSに付属しない(前述a)を満たさない)ライブラリならば、システムライブラリではない。システムライブラリかそうでは無いかを正確に考慮する必要があるのは、とりわけ主に次の「対応するソース」の対象範囲の決定と、第6項においてである(セクション"[[#ソース以外の形式における伝達|ソース以外の形式における伝達]]"を参照)。
;「対応するソース」 : 作品の2つの形態に対し、それぞれ「''対応するソース''」("''Corresponding Source''")を定義する。対応するソースとは、''その作品を[[ビルド (ソフトウェア)|生成]]、[[インストール]]、([[実行ファイル|実行可能な作品]]に関しては)オブジェクトコードを実行、または作品を改変する上で必要とされるソースコードのすべて''([[八田真行]]訳)すなわち、作品本体のソースコードだけではなく、作品の改変とインストール、実行に供するもの全てを指す。ただし「システムライブラリ」と、対象となる作品を除く汎用ツール、または一般的なフリープログラムであって改変することなく前述の行為に用いられるものは、たとえ前述の行為に必要だったとしても、対応するソースからは除外される(第1項第4段落)。システムライブラリには前述の通りプロプライエタリなライブラリが含まれる可能性がある。仮にこれらを対応するソースの対象に入れてしまうと第6項の通り伝達義務が発生しソースコードを開示しなければならなくなるが、概ねこれらは''バイナリ形式''で主要コンポーネントとともに''広範に提供されることが多く''、それらを単に作品の実行のために(''[[ランタイムライブラリ]]''として)利用するだけであるから、敢えて対応するソースに含めなかったのである。以上のことを踏まえて一つのケースを挙げると、オブジェクトコード形式の作品たるソフトウェアの[[バイナリ]](Cでかかれたものとする)をビルドするのに必要なスクリプト([[Autotools|GNUビルドシステム]]などを参照)は「対応するソース」に含まれる。しかし[[カーネル]]などの主要コンポーネントから見て、OS付属の[[プリプロセッサ]]、[[コンパイラ]](主要コンポーネントでもある)、[[アセンブラ]]、[[リンケージエディタ|リンカ]]などは改変からビルドやインストールのプロセスにおいて必須ではあるが、「汎用ツール」であるため、「対応するソース」の対象作品には含まれない。同様に作品をインストールした後、インストールしたシステムのOSがLinuxならば、作品の実行に利用するglibcは「システムライブラリ」であるため「対応するソース」の対象作品からは除外される。また第1項第5段落に記載があるが、GNUビルドシステムがOSにマッチするよう自動生成する[[Make|Makefile]]やプリプロセッサ、コンパイラ、リンカが生成する中間オブジェクトコードは自動再生成可能であるため、「対応するソース」の対象からは除外される<ref>
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 35-38
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。またOSに付属するが、実行形式作品と静的または動的リンクした場合、「対応するソース」に「OSに付属する静的または動的リンク用のライブラリ」とリンクするためのスクリプト等を含める必要がある。第1項第4段落の後半では、「対応するソース」の例として次のものが挙げられている。その作品のソースファイルと連携するインタフェース定義ファイル(プログラム専用に設計された[[ヘッダファイル]]等)、[[共有ライブラリ]]、動的リンクされるサブプログラム(下位プログラム、subprogram)であり、その作品が特に必要とするように設計されているもの、例えば、サブプログラムとその作品の間の親密なデータ交換(intimate data communication)や[[制御構造|制御フロー]]に関するようなもの、などである。なおどこからが「対応するソース」の対象となるか、その線引きはセクション"[[#非GPLプログラムとの結合や組み合わせ|非GPLプログラムとの結合や組み合わせ]]"でも述べたとおり2つの観点でみる必要がある。作品が「ソースコード形式」である場合「対応するソース」はそれ自身である(第1項第6段落)。これは中間オブジェクトコードを原則生成しない[[スクリプト言語]]を想像すると理解しやすい<ref>
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 38
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。これ以降の条文では、「保護された作品」の改変や普及行為の許可される条件や伝達の権利や義務、そしてそれらを行ううえで利点となる追加的な権利が定義され、対象となる個人、法人の権利が順次規定される。

=== 基本的な許可 ===
; 権利創出の根拠 : 本ライセンスが与える権利はプログラムのコピーライトに依拠している。よってライセンス違反による終了(第8項)や、コピーライトが消滅する(著作権については[[著作権の保護期間]]を参照)と権利を失う(第2項第1段落<ref>
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 41
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。
; 単純実行の無条件許可 : 伝達せず、かつ改変も行わないプログラムの実行は[[自由]]である(第2項第1段落<ref>
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 41-42
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>、第9項<ref name="cmtr-p101-102">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 101-102
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。
; 出力結果へのライセンス適用 : GPLv3で保護された作品を実行し、その出力結果(アウトプット)が保護された作品を構成する場合はやはりGPLv3が適用される(第2項第1段落)。保護された作品を構成するアウトプットとは、保護された作品を含む場合等を指す。例えば前述した[[bison|GNU bison]]が当てはまる。しかし、bison自体は例外条項(この例外条項は第7項の追加的許可条項と見なされ、GPLv3とは矛盾しない)でアウトプットをGPLv3で保護することを放棄していると述べた(セクション"[[#コピーレフト|コピーレフト]]")。[[GNUコンパイラコレクション|GCC]]は、GPLと両立しないライセンスや[[プロプライエタリ・ソフトウェア|独占的]]な許諾条件のソースコードをコンパイルしたとしても、通常その出力結果たる「オブジェクトコード」形式の作品をGPLで許諾する必要はない。その理由は[[#GCCランタイムライブラリ例外|後述]]する。この二つの事例のように、GPLで保護された作品の実行プロセスにおいて、その作品の一部を直接含むかたちや、その保護された作品の一部にリンクする際、''追加的許可条項がなければ、原則GPLに従わなければならない''。実際にはこのような場合はかなり注意しなければならないということになる。もちろん、保護された作品を実行するのみでありそのプロセスで「保護された作品」と直接リンク、結合しない場合はGPLに従う必要はない。例えばGPLなテキストエディタを使ってソースコードを作成しても、そのソースコードはGPLで許諾する必要はない。とはいえ、エディタによっては、エディタと同時に頒布されるテンプレートがエディタ起動中に自動挿入される形式もあると思うが、これも前述同様、このテンプレートがGPL自体で許諾されているか、それとも例外条項つきGPLなのかは注意しなければならない。
; フェアユース : GPLv3の作品にも[[フェアユース]]が認められるのは[[#コピーレフト|前述]]の通りである(第2項第1段落)。
; ライセンス有効下における許可行為 : 第8項によるライセンスの終了とならない限り、保護された作品の作成([[make]]、[[ビルド (ソフトウェア)|ビルド]]のこと)や実行、「伝達ではない普及」行為(日本国著作権法では著作者人格権の行使)は許可される(第2項第2段落<ref>
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 42-43
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。
; 特定目的下における第三者への伝達 : ライセンシーが第三者に専用の改変を行わせる、あるいは機能を追加させることを唯一の目的とする場合、保護された作品は第三者に伝達できる(第2項第2段落)。その場合ライセンス第3項以降の条件を負う必要はない。GPLv3ソフトウェアの受託開発がこのケースに当てはまる([[#受託開発|後述]])。
; その他の伝達 : 上記以外の伝達を行う場合、本ライセンスの第3項以降に従う必要がある(第2項第3段落)。
; サブライセンス : サブライセンス(再許諾)は許可されない。なぜなら、受領者は第10項第1段落に基づき原著作者たるライセンサーから直接本ライセンスを許諾されるのでサブライセンスは不要である(第2項第3段落)。ちなみに第7項第2段落の追加的許可条項の制限も同様であり、追加的許可条項の追加もしくは削除ができるのはライセンシーがコピーライトを主張できる部分でしかないと規定されている。これはライセンシーによるサブライセンスが許可されていないためこのように制限されるのである。「''追加的非許可条項''」("''non-permissive additional terms''")をライセンシーが全く変更できないのも同様である<ref>
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 63,88,89,105,106
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。

==== GCCランタイムライブラリ例外 ====
現行のGCCはGPLv3で保護される作品である。しかし、''GCCやその頒布物のソースコードを利用していない''「ソースコード」形式の作品はそれが従う許諾条件によらず、''GCCのランタイムライブラリをリンクしない限り''、出力される「オブジェクトコード」形式の作品がGPLに従う必要はない<ref name="gcc-not-link-with-runtime" />。そのような場合、通常[[C言語|C]]で書かれたソースコードは<code>gcc</code>コマンド(このようなコンパイラ本体を呼び出すフロントエンド・コマンドは、コンパイラドライバ、コンパイラ駆動プログラムと呼ばれる)でコンパイルすると、LGPLでライセンスされる[[GNU Cライブラリ|glibc]]のみリンクしていることが分かる(特にglibcが共有ライブラリとしてストレージ上に存在する場合は、<code>ldd</code><ref>
{{cite web
| url = http://linuxjm.sourceforge.jp/html/LDP_man-pages/man1/ldd.1.html
| title = Manpage of LDD
| date = 2000-10-30
| publisher = [[JM Project]]
| accessdate = 2011-05-05
}}</ref>をコンパイル済みバイナリに対して実行してみると状況を理解しやすい)。「''GCCのランタイムライブラリ''」("''GCC Runtime Library''")とは、具体的には
* 乗算・除算、浮動小数点演算、特殊な数学関数用ライブラリ libgcc
* [[標準C++ライブラリ]](標準[[テンプレート (プログラミング)|テンプレート]]もカバーする)libstdc++
* [[FORTRAN]]用ライブラリ libfortran
* [[OpenMP]] APIライブラリ libgomp
* 十進演算(例: [[十進浮動小数点数]]、[[:en:Decimal floating point|DFP]])用ライブラリ libdecnumber
* [[コード網羅率|テストカバレッジ]]用ライブラリ libgcov
その他多数のGCCの頒布物に同梱されている各種演算補助用ライブラリなどである。

さて、そのソースコードが各種演算補助を利用して作成されている時、GCCのランライムライブラリに動的、静的問わずリンクされる場合がある。これらのライブラリはGCCの頒布物であるから、GPLで保護される。よって原則、GCCのランタイムライブラリとリンクする場合は、GPLに従う必要がある(この件については派生物としての疑義があるとする人々も多いが、GCCの著作権者であるFSFは、[[#見解: プロプライエタリ・ソフトウェアを動的リンク、静的リンクすることはGPLに違反する|前述]]の通り、GPLのライブラリは静的、動的問わずGPLに従わなければならないとの立場である)。これではプロプライエタリなソースをはじめとして、GPL非互換なソフトウェアは一切コンパイルして頒布できなくなる。これに対して、FSFは「''GCCのランタイムライブラリ例外''」(''GCC Runtime Library Exception'')<ref name="gcc-excpt">
{{cite web
| url = http://www.gnu.org/licenses/gcc-exception.html
| title = GCC Runtime Library Exception
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-03-26
}}</ref>を設けている。これは後ほど述べる通り、GPLv3の第7項に規定されている「追加的許可条項」と呼ばれる、GPLの制限を緩める条項である。この条項を追加することはGPLv3第7項で許可されている。この例外により、GPL非互換なソースコードのコンパイルを許可する仕組みは以下の通りである<ref name="gcc-excpt-faq">
{{cite web
| url = http://www.gnu.org/licenses/gcc-exception-faq.html
| title = GCC Runtime Library Exception Rationale and FAQ
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-05-05
}}</ref>。

通常、ソースコードをコンパイルするとき、[[プログラミング言語|言語]]やコードにより常に全てとは限らないが、主に次のような段階を踏む。
# ソースコード生成
# [[プリプロセッサ|プリプロセス処理]]
# 低水準コードのコンパイル
# [[アセンブル]]
# リンク
コンパイラたるGCC本体はこのうち、3.を担っており、これを「''コンパイルプロセス''」(''Compilation Process'')と呼ぶこととする(のちほど正確な定義を述べる)。またソースコードをGCCに入力してから、3.のプロセスが終了した直後出力される、物理[[CPU]]もしくは[[仮想機械]]をターゲットとしたコードのことを「''ターゲットコード''」(''Target Code'')と定義する。ただしターゲットコードには、「コンパイルプロセス中に生成されるコンパイラ[[中間表現]]」やコンパイラ中間表現を生成する目的のコードを含まない。ターゲットコードは、4.のプロセス以降で使用されるアセンブラ・[[リンケージエディタ]]の入力コードまたは実行ファイルである。この考え方から、コンパイルプロセスは、より正確には、「中間(表現)言語を除く、人間が作成可能な高水準コードや[[Java]][[バイトコード]]などで完全に表現されているコードを、ターゲットコードに変換する過程」であると理解できる(実際にそのように例外条項の中で定義している)。そしてコンパイルプロセス中に、GCCの各種演算補助用ルーチンやコンパイルされた標準テンプレートが入力コードとリンクされる。次に、コンパイルプロセスに関与するプログラムの状況からコンパイルプロセスの「性質」を定義する。コンパイルプロセスが、そのプロセス実行中以下いずれかの状況に当てはまれば、そのコンパイルプロセスは「''適確''」(''Eligible'')であると定義する。
* コンパイルプロセスはGCC単独の処理で完了、またはGCCとGPL互換なソフトウェアを共に利用して達成された。
* コンパイルプロセスは「任意のGCCを基にした作品」を利用せず完了した。
コンパイルプロセスの外(上記のプロセス1.に当てはまる高水準コード生成処理や2.のプリプロセス処理)で使用するプログラムがたとえプロプライエタリだったとしても、そのプロセスは適確である。しかし、コンパイルプロセス中にGCCと共にGPL非互換なソフトウェアを使用した場合、コンパイルプロセス中にGCCやGCCのランタイムライブラリ、またはその他GCCの頒布物のソースコードを利用した場合、そのプロセスは適確ではない。この定義のもと、仮に'''全てのターゲットコードを生成するコンパイルプロセスが適確ならば、GCCのランタイムライブラリと入力ソースコードをリンクすることで生成される任意のターゲットコードは任意の許諾条件のもと「普及」すること(例: コンパイラからターゲットコードを生成(generate)することや、ターゲットコードを複製することなど)を許可する。また入力ソースコードの頒布条件が一貫性を維持できるならば、ターゲットコードの「伝達」(例: 頒布)も任意の許諾条件で許可される。'''これがGCCのランタイムライブラリ例外の規定である。

例えば、GCCと高水準コードジェネレータ(プロセス1.で利用)やプリプロセッサを利用し、GPL非互換なソースコードをコンパイルしようとした場合、たとえ両ユーティリティがプロプライエタリだったとしても、「コンパイルプロセス」の外で両者を利用するだけなので、GCCのランタイムライブラリ例外による、任意の「ターゲットコード」のランタイムライブラリとのリンク許可が与えられる。また「ターゲットコード」が生成完了してから、プロプライエタリなアセンブラでアセンブル、プロプライエタリなリンケージエディタを利用して各種ライブラリ(この中にGPL非互換なライブラリが含まれていても構わない)と適確なコンパイルプロセスで生成したターゲットコードとをリンクすることも、ターゲットコードが任意の許諾条件を許可するから、可能となる。伝達する場合は、入力ソースコードの許諾条件、かつリンクプロセスでリンクしたライブラリ(GCCのランタイムライブラリ、また第1項で定義した「システムライブラリ」に当てはまるものを除く)の許諾条件などとの一貫性が保てなくなる場合は許可されないが、そうでなければ伝達も可能となる。[[インラインアセンブラ]]等で入力コード中にアセンブラを書き込んだ際、コンパイルプロセスではそのアセンブラ部分の一部コードは処理されない場合もある。このような場合でもその入力コードは「中間(表現)言語を除く、''人間が''作成可能な高水準コード」であるから、コンパイルプロセスに投入しても適確である。ただし、そのインラインアセンブラが、プログラマが手書きしたものではなく、例えばコンパイルプロセス処理中にプロプライエタリなツールなど'''機械が生成した'''場合はこの限りではない。また本セクション冒頭で述べたとおり、「GCCのランタイムライブラリにリンクしない場合はGPLに従う必要がない」というのは、正確には「''GCCのランタイムライブラリにリンクしない、かつGCCのコンパイルプロセスが適確である場合、入力ソースコードと出力バイナリはGPLに従う必要はない。」''と修正される。

しかし、例えば、ターゲットコードではなく、コンパイラ中間表現を直接出力するようGCCを改変して使用した場合はどうなるか。その場合は、''3のプロセスが完了した時点では、「コンパイルプロセス」は終了していないことになる''。従ってこの後に、プロプライエタリなツールを利用して3.のプロセス終了後のデータを操作した場合、「コンパイルプロセス」はもはや適確ではない。よって以後のコードは全てGPLに従わなければならないし、入力ソースコードがプロプライエタリならば、伝達は完全に禁止される。またコンパイルプロセス中にGPL非互換なプログラムを割り込ませる場合もそのコンパイルプロセスは適確ではない。

なぜコンパイラ中間表現のみをターゲットコードから差別しているのか。GCCは各種言語サポートや[[コンパイラ最適化|コンパイルの最適化]]を図る処理などを「コンパイルプロセス」に組み込むことができる「プラグイン・アーキテクチャー」を採用している。このことはGCCの拡張性を向上させたのは間違いないが、同時に例えば、コンパイルプロセスに割り込んで内部の低水準コンパイルデータ構造のみを取り出すようなプラグインを作ることも可能となる。このようなプラグインを作成すること自体は問題ないが、GCCと直接結合せずとも、はたまたGCCのソースコードを参照せずとも、コードの最適化等を行うことができるようになる。仮にそのような有益なプラグインがプロプライエタリなどGPL非互換なソフトウェアならば、それらがコピーレフトの保護におかれることもなく、GCCの開発の外側で''のみ''しか利用できない。このことを回避することがその主旨である。また本例外条項にも注意書きされているが、「サードパーティ・ソフトウェアがGCCのコピーレフトの影響を受けないとの解釈に本例外条項を利用してはならない」。原則GCCとそのランタイムライブラリのコードの利用やリンクなどで結合するプログラムは'''GPLに従わなければならない'''。ただし、「コンパイルプロセスが適確ならば」GPLv3の義務を''一部''緩める。本項はこのことを主張しているだけに過ぎない。

まとめると、GCCのコンパイルプロセスに関与せずかつGCCのコンパイラ中間表現を操作しない、その他直接間接問わずコンパイラ中間表現のデータを利用しない条件で「プロプライエタリなプログラム・ビルド・ソフトウェアや[[ツールチェーン]]」とGCCを同時に使用し、プロプライエタリ・ソフトウェアを作成、その際GCCのランタイムライブラリに静的・動的問わずリンクしたとしても、プロプライエタリ・ソフトウェア自体はGPLに従う必要は全くない。

C++(<code>g++</code>)の場合は、コンパイル時にソースコード中の[[テンプレート (プログラミング)|テンプレート]]を展開する。このとき、ソースコードとコンパイラが持っているテンプレートコード(もちろんこれはGCCの付属物であるからGPLで保護される)を「コンパイルプロセス」中にリンクする。よって入力ソースコードがGPL非互換な許諾を受ける場合、「コンパイルプロセス」中に、例えばテンプレート展開を操作するような、GPL非互換のプログラムを使用した場合、出力コードはGPLに従うようになる。しかし、コンパイルプロセスの外でそのようなプログラムを利用するならば、ランタイムライブラリとリンクしてもGPLに従う必要はない。

注意すべきこととして、ランタイムライブラリ単独ではGPLで保護される作品であるから、ランタイムライブラリを伝達した場合はやはり、GPLの義務を負う。例えば第6項-GPLで保護された「オブジェクトコード」形式作品の伝達時の義務は、「対応するソース」の伝達を強制するものである。後ほど述べるとおり、これにかかるコストはライセンシーによってはかなりの負担となるケースがあることも留意しておきたい。そこで、共有ライブラリのメカニズムを利用し実体ライブラリを頒布しないという手段を採りたいと考えるだろう。共有ライブラリとしてプログラムに動的リンクした場合は、実体ライブラリはそのプログラムに添えて伝達せずとも、受領者は受領者のマシンでライブラリを入手すればプログラムを実行できる、しかし必ずしもそれが適切とは限らない。「GCCのランタイムライブラリ」はGPLv3第1項の規定から、「主要コンポーネント(この場合、コンパイラたるGCC)に付属するシステムライブラリ」とみなせるOSも''ある程度存在する''。例えば[[Linuxディストリビューション]]では、libgccなどGCCのランタイムライブラリをGPLのもと[[パッケージ管理システム|パッケージ]]としてGCC本体からばらして頒布している場合もある<ref>
{{cite web
| url = http://packages.debian.org/unstable/libgcc1
| title = Package: libgcc1 (GCC support library)
| publisher = [[Debian]]
| accessdate = 2011-05-05
}}</ref>。OSがこのような[[Linuxディストリビューション]]と同等の条件を満たす場合は、GCCのランタイムライブラリにリンクしたプログラムを単独で頒布しても問題ないだろう。ところが、[[Microsoft Windows]]オペレーティングシステムはGCCをそもそもインストールしていない環境のほうが圧倒的に多い。なぜならGCCはOSの主要コンポーネントではないからである。よって'''Microsoft Windowsオペレーティングシステムにおいて「GCCのランタイムライブラリ」はシステムライブラリではない'''。このようなOS向けに共有ライブラリのメカニズムを利用して実体ライブラリを頒布しないということは、殊の外注意を要する。このようなOS向けのGCCのバリエーションでは、システムライブラリである<code>msvcrt.dll</code>やその他システムライブラリのみにリンクするようなオプションを持つよう注意深く設計されたものが存在する(例: [[MinGW]])。

==== 受託開発 ====
興味深い例として、GPLのソフトウェアを修正し、新たな機能を追加したものを、商業的な対価を受け取り顧客に納入する場合、少なくともそのソフトウェアがGPLv3で保護されるものである場合については、受託企業は改変部分を含めたソースコードを開示する必要はない、というものがある<ref name="cmtr-p44">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 44
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-22
}}</ref><ref name="entrusted-development-and-gpl">
{{cite web
| url = http://nippondanji.blogspot.com/2010/06/gpl.html
| title = 漢(オトコ)のコンピュータ道: 受託開発とGPL
| date = 2010-06-03
| author = 奥野幹也
| publisher = nippondanji.blogspot.com
| accessdate = 2011-03-11
}}</ref>。これはGPLソフトウェアの頒布形態の一つと見なせる。まず、GPLv3で保護された作品たるソフトウェアを原著作者から受領した企業が発注側として、受託企業に「伝達」する。伝達行為は後ほど説明するとおり第6項において「対応するソース」も受領者たる受託側に「伝達」しなければならない(改変を受託企業に行わせるので当然ではあるが)。受託側は「対応するソース」に改変を加えたのち、今度は逆に受託企業をライセンサー、発注企業をライセンシーとして発注側に「伝達」する。よって第6項の「対応するソース」の開示義務(や第10項第3段落の「特許非係争義務」)を負うことになるはずである。しかし、受託契約は第2項第2段落の第2文以降に該当する。即ち「ライセンシーの改変要求(ソースコードレベルでの改変要求などを含む)や機能追加要求(ソースコードレベルでの改変要求でなくてもよい)に従って、保護された作品を作成、実行する第三者は、ライセンシーの管理監督下において、専らライセンシーのためにそれらを実施しなければならない。ただしライセンシーの関係の範囲外ではライセンシーの作品の複製を彼らに禁ずる。」という契約形態になるからである。この条件に当てはまる場合はGPLv3の伝達時の義務が例外的に免ぜられる。従って受託企業は発注企業から要求された改変部分のソースコードを一切開示する必要はない。ちなみに納品が頒布に相当しないとの解釈はGPLv2の条文で明記されていない<ref name="cmtr-p44" />。

その他、ソフトウェアを受け取った顧客が「それを'''再頒布'''しない」限り、ソースコードを受託側と発注側以外に対し、非公開にすることには全く問題ない。また、発注企業が社内のみで利用する限り、ソースコードは、たとえそれを改変したとしても、非公開で問題ない(「ライセンシーによる組織内での私的な改変による利用」となるからである)<ref name="entrusted-development-and-gpl" />。ここまでの説明では、受託側が発注側に著作権を譲渡しない場合を想定している。そうでないならば、受託側はそのソフトウェアのコントロールはできなくなる(GPL以外で再ライセンスされることもあり得る)。GPLなソフトウェアを複数のソフトウェアと組み合わせて発注側に納入する場合もほぼ同様だが、GPLと矛盾するライセンスに従うソフトウェアはGPLの条項により、当然[[#両立性とマルチライセンス|組み合わせることはできない]]。以上は受託開発における[[ライセンス]]の考え方であるが、受託開発の[[契約]]はこれとは別に定められるので注意が必要である。

=== 技術的保護手段回避を禁ずる法への対抗措置 ===
第3項は主に[[デジタル著作権管理|DRM]]をはじめとする技術的保護手段を目的としたGPLv3プログラムを作成した場合、当該プログラムの保護手段を第三者が解除する[[自由]]を認める条項である。

; 作品は技術的保護手段と見なされない : GPLv3で保護された作品は[[著作権に関する世界知的所有権機関条約|WIPO著作権条約]]第11条の[[準拠法]]またはそれに類似する法の定める効果的な技術的保護手段と(''[[裁判所]]によって''<ref name="cmtr-p49">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 49
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-22
}}</ref>)見なされない(第3項第1段落<ref name="cmtr-p49" />)。GPLv3で保護されるプログラムを利用して、DRMなどの技術的保護手段を実装するプログラムを作成することは本ライセンスでは禁じていない。しかし、その保護手段を回避するプログラムが仮に公開されたとしても、回避プログラムは「技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とするプログラム」([[s:著作権法#第八章 罰則|日本国著作権法第百二十条の二第一号]])とは見なされないと述べている<ref name="cmtr-p50">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 50
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-22
}}</ref>。実質的にこれはDRMを含む技術的保護手段の無効化を狙っている。ただし、DRMの全面的否定、すなわちコンテンツプロバイダがDRMを利用することを禁止する、ということを規定しているのではなく、仮にそのDRMテクノロジーがGPLを基にした著作物で構成されている場合、そのようなコンテンツプロバイダからコンテンツを購入した消費者やそのコンテンツを受領した第三者が、例えば何らかの形でDRMを解除できなくなった場合などに、中身のコンテンツを自由に利用できるようにしようと、[[リバースエンジニアリング]]をはじめとする技術的保護の回避手段を講じてもよいとするものである。コンテンツプロバイダの規制ではなく、あくまでコンテンツ利用者の自由を守るという条項である。この条項が、FSFがDRM廃絶運動である[[Defective by Design]]を支持していることと関連して、「DRM廃絶を目指している条項」との誤解を受けているのは事実ではある。関連法として挙げられているWIPO著作権条約第11条に相当する日本の国内法は、前述の改正著作権法(平成十一年法律第七十七号)第百二十条の二第一号<ref>
{{cite web
| url = http://www.shugiin.go.jp/itdb_housei.nsf/html/housei/h145077.htm
| title = 著作権法の一部を改正する法律
| publisher = [[衆議院]]
| accessdate = 2011-04-23
}}</ref>における「回避プログラムの譲渡に対する罰則規定」である。また類似法は改正[[不正競争防止法]](平成十一年法律第三十三号)第二条第一項第十号および第十一号<ref>
{{cite web
| url = http://www.shugiin.go.jp/itdb_housei.nsf/html/housei/h145033.htm
| title = 不正競争防止法の一部を改正する法律
| publisher = [[衆議院]]
| accessdate = 2011-04-23
}}</ref>である。各法の条文は技術的保護手段の対象範囲が異なる([[アクセスコントロール]]、[[コピーコントロール]]の違いなど。それぞれの記事を参照)<ref name="cmtr-p50" />。また前者は非親告罪による[[刑罰|刑事罰]]であるため、少なくとも日本法における本条項の実効性には疑問がある<ref name="cmtr-p51">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 51
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-22
}}</ref>。[[2010年]]頃からは著作権法に「アクセス権」を支分権として導入し、[[アクセスコントロール]]を強化する動きも日本では見られる<ref>
{{cite web
| url = http://www.cric.or.jp/houkoku/h23_1a/h23_1a_main.html#2_2
| title = 文化審議会著作権分科会 報告書の概要 平成23年1月25日 文化審議会著作権分科会
| publisher = [[著作権情報センター]]
| accessdate = 2011-04-25
}}</ref>ので、本項の対象となる条文が拡大される可能性もある。ちなみに同様の米国法は[[デジタルミレニアム著作権法|DMCA]]である。
; 技術的保護手段の回避を禁ずる法的権利の放棄 : ライセンシーがGPLv3で保護された作品を伝達した場合、技術的保護手段の回避を禁止する法的権利を放棄しなければならない(第3項第2段落)。前述の不正競争防止法第二条第一項第十号および第十一号に違反した場合の[[差止請求権]](同法第三条)、[[損害賠償請求権]](同法第四条)<ref>
{{cite web
| url = http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H05/H05HO047.html
| title = 不正競争防止法(平成五年五月十九日法律第四十七号)
| publisher = [[総務省]]法令データ提供システム
| accessdate = 2011-04-27
}}</ref>が該当する法的権利である<ref name="cmtr-p51" />。
; 技術的保護の回避手段を禁ずる意図の否定 : ライセンシーは、技術的保護手段回避の禁止に関わるライセンシー自身または第三者の法的権利を行使する手段として、作品の動作(註: ''operation'' 操作。''run'' 実行とは別用語と識別される)または改変を制限する意図を放棄しなければならない(第3項第2段落)。

ちなみに[[GNU Lesser General Public License|LGPL]]v3はGPLv3を参照しつつ第7項の追加的許可条項を認めたライセンスであるので、本質的には「GPLv3そのもの」であるが、第3項の規定は全て免除されている。

=== 忠実な複製の伝達 ===
受領したプログラムのソースコードに対し、その'''未改変'''の完全な複製を以下に示す条件を遵守した上で再伝達してもよい(第4項第1段落<ref>
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 54-55
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。
# (第0項で述べた)コピーライトに関する適切な法的告知を複製すべてに目立つように適切な方法で掲載すること。
# 再伝達するプログラムに、GPLv3の条項と第7項に依拠する非許可条項が(仮に存在する場合は)適用される旨の告知を「上流伝達者から受領した告知内容を一字一句変えずに」再伝達すること。
# 完全無保証である告知(第15項参照)を一字一句変えずに保全すること。ただし第7項に依拠する追加的非許可条項に、仮に保証に関する告知が含まれていた場合は、条件2.に従い保証に関する告知をそのまま保全して再伝達すること。
# 伝達するプログラムと一緒に本ライセンスの完全な複製を受領者に与えること。
以上の条件に従う限り、複製を有償無償問わず伝達できる。また複製に対し有償サポートや有償での保証(''[[:en:Warranty|warranty]] protection'')を提供してもよい(第4項第2段落<ref name="cmtr-p55-56">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 55-56
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。

条件1.は、「再伝達者は受領したプログラムのコピーライトを有していない」旨、下流受領者に通知させる。条件2.は第7項第3段落などに規定されている「''追加的非許可条項''」("''non-permissive additional terms''")を再伝達者は勝手に削除できないということを示している。具体的な条項の内容は追加的許可条項(additional permissions)ともに第7項にて説明される。条件3.は無保証性告知(ただし、その内、保証に関する追加的非許可条項は条件2.に従う)、条件4.は本ライセンスの完全な複製の添付を定めている。

本項第2段落は伝達が有償無償を問われないことを示し、[[レッドハット]]などGPLv3ソフトウェアを販売する企業が、サブスクリプションサービスなどを事業として成立させることを可能にしている<ref name="cmtr-p55-56" />。第6項のオブジェクトコード形式の作品伝達とは異なり、伝達の手段は条文で問うていない。物理的媒体またネットワークを通じてなどあらゆる伝達が認められる<ref>
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 55
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。GPLv3な作品を直接頒布していないが、機器に[[組み込みシステム|組み込み]]、頒布に係る''実費を請求する''ような形は、GPLv3の条項のもと何ら問題は無く、これも伝達に当たる。ただし、その組み込んだ作品の形式を問わず「対応するソース」の伝達義務が発生するのは後述の通り。

=== 改変版ソースの伝達 ===
第4項で規定した「保護された作品の未改変ソースの伝達」の条件に対し、第5項では改変した場合について、「ソースコード」形式(第1項参照)での伝達の際に課せられる条件を述べている。

ライセンシーは、本プログラムを基にした作品(第0項参照)、または本プログラムから作成するための「''改変点''」("''modifications''")を、第4項の規定に従ってソースコード形式で伝達、もしくは再伝達できる。その際、以下4つの小項a)~d)全てを遵守しなければならない(第5項第1段落<ref name="cmtr-p59">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 59
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。
* a) 改変した人と改変日時を記載した改変履歴を添付する(このような履歴ファイルは[[Changelog|ChangeLog]]([[:en:Changelog|en]])と呼ばれる)<ref name="cmtr-p59" />。
* b) 伝達時にはGPLv3(と、仮に存在する場合は第7項の追加的条項も)のもと公開されていることを明記する(本小項は第4項の「告知保全条項」に対する改変、修正に当たる)<ref name="cmtr-p60">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 60
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。
* c) 改変点も含めた改変された''作品全体''(''entire work'')にGPLv3を適用する(作品全体に別の許諾が適用されている場合はその許諾を無効化しないよう取り計らう)<ref name="cmtr-p60" />。
* d) 改変後の作品は、対話的UIを利用している場合は適切な法的事項を告知する(ただし元の作品の対話的UIに法的告知がない場合はそのままでよい)<ref name="cmtr-p61">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 61
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。

「改変点」は「改変されたバージョン」(modified version、第0項)とはいえないまでも、「本プログラムを基にした作品」の[[パッチ]]など元の作品に対する非常に小さい差分が含まれることを([[Software Freedom Law Center|SFLC]]は)示唆している。従って小項c)により、''本プログラムを基にした作品''のパッチもGPLv3に従う必要がある<ref name="cmtr-p59" />。「本プログラムを基にした作品」''ではないと識別される場合の''パッチには第5項第2段落の条項が適用できる余地が残されている。蛇足だが、第5項では「ソースコード」形式のパッチを取り扱っているので、[[パッチ#バイナリ|「オブジェクトコード」形式のパッチ]](いわゆる「バイナリパッチ」であるが、「オブジェクトコード」が単なるバイナリデータだけを意味しないと第1項で述べた)である場合は第6項の規定に従う。小項b)は、第4項第1段落に対応する規定である。ただし、第7項の追加的許諾条項すべてを対象としており(対して、第4項第1段落では追加的''非許可''条項のみ対象)、その追加的条項の保全は規定されていない(第7項により、ライセンシーは適宜追加的''許可''条項を削除できるからである)。さらに無保証性の告知の保全も要求されていない。これは、第7項の各規定に従い、ライセンシーのコピーライトを主張できる部分には、許可、非許可問わずすべての追加的条項が適用可能であること、そして可能ならばライセンシーが保証を行うことを考慮しているためである(その保証の形態は、通常は無保証であるが、特定のライセンシーの保証を追加する形で提供する。無保証性が消えるわけではない点に注意せよ<ref name="cmtr-p60" />)。よってこのことをもってして、「この条件は、上記第4項における『告知をすべてそのまま保全』するための条項を改変する。」([[八田真行]]訳)と言っている<ref name="cmtr-p60" />。小項c)は、改変を包含した作品全体がGPLv3に従うことを要求している。その際、作品のパッケージ方法などに関わらず、たとえ作品が巧妙に細分化(artful subdivision)されていようが<ref name="dd1to2-markup-rationale" />、作品全体にGPLv3が適用される<ref name="cmtr-p60" />。ただしその際その作品全体に課せられている[[デュアルライセンス|マルチライセンス]]が無効化されることがあってはならない<ref name="cmtr-p61" />。小項d)は、改変後の作品が対話的UIを持つ場合、適切な法的事項を告知できるよう、ライセンシーはそのような機能を追加しなければならないとしている。ただし受領した時点で作品に対話的UIが付いているが、法的事項を告知していない(告知機能がない、告知機能があっても法的事項を告知していない等)場合は、わざわざ改変してまで適切な法的事項を告知する必要はないと規定している<ref name="cmtr-p61" />。

セクション"[[#集積物の別の部分と見なされるパッチ|集積物の別の部分と見なされるパッチ]]"で言及したが、第5項第2段落は''集積物''(''aggregate'')について定義している。保護された作品と、それに対し独立した他の別の作品を、同一の[[メディア (媒体)|記録媒体]]または伝達時に使用する媒体上に''集めたもの''(''編集物''、''compilation'')のうち、以下3つの条件全てを満たす場合、「集積物」(aggregate)という<ref name="cmtr-p61" />。
# 本質的には保護された作品の拡張ではない。
# より大規模なプログラムを構成する目的で、保護された作品とそれが組み合わされていない。
# 集積行為及び集積物についてのコピーライトが、個々の作品の許諾の範囲を超えて、その編集物の利用または、利用者の法的権利を制限するために用いられない。

この時、GPLv3で保護された作品を集積物に含めたとしても、その「集積物の他の部分」に本ライセンスが適用されることはない<ref name="cmtr-p61" />。「保護された作品を含む集積物の全体」は「保護される作品全体」とは異なるのである。適用例は[[#集積物の別の部分と見なされるパッチ|前述]]の通り。

=== ソース以外の形式における伝達 ===
ここまでで「ソースコード」形式の伝達の条件を述べた。第6項では主に「ソースコード」以外の形式における伝達の条件を述べている。ライセンシーは第4項、第5項双方の規定に従い、保護された作品を「オブジェクトコード」形式で伝達することができる。ただし、本ライセンスの規定に従い、「オブジェクトコード」形式の保護された作品に「対応するソース」(ただし機械可読であるもの。「対応するソース」は第1項で定義した)を次に述べる5つの方法のうちいずれかで伝達しなければならない(第6項第1段落<ref>
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 67
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。
* a) オブジェクトコードを物理的製品に格納する、または伝達に利用できる物理的媒体に格納する、あるいは物理的製品に組み込んで伝達する場合は、対応するソースを、ソフトウェアのやり取りで一般的に利用される耐久性のある物理的媒体に固定して、オブジェクトコードとともに伝達する<ref name="cmtr-p68">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 68
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。
* b) オブジェクトコードを物理的製品に格納する、または伝達に利用できる物理的媒体に格納する、あるいは物理的製品に組み込んで伝達する場合、オブジェクトコードを保有する全ての[[人 (法律)|人]]に対して、彼らが請求する場合に応じて、「対応するソース」を提供するという、次の2つの請求事項のどちらか一方を記載した申出書(a written offer)を添付する。そして「対応するソース」の提供義務は最低3年間は維持し、3年間以上当該製品のモデルの補修用部品(スペアパーツ)またはカスタマーサポートを提供する場合はその期間維持する<ref name="cmtr-p68" />。
** (1) 当該製品に含まれるソフトウェアのうち本ライセンスにより「保護される」ソフトウェアすべてについて、ソフトウェアのやりとりで一般的に利用される耐久性のある物理的媒体を使用して、物理的な伝達に要する合理的なコストを超えない価格で、対応するソースを伝達する<ref name="cmtr-p68-69">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 68-69
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。
** (2)ネットワークサーバから対応するソースを複製するためのアクセスを無料で提供する<ref name="cmtr-p68-69" />。
* c) 請求があった場合に対応するソースを提供することを記載した「申出書の写し」(a copy of ''the'' written offer)を添付し、オブジェクトコードを伝達する。ただしこの方法は、ライセンシー・伝達者が本第6項小項b)に定める条件に従ってオブジェクトコードを受領した場合で(よって、添付する「申出書の写し」というのは、第6項小項b)の形式で上流伝達者から受け取った「申出書」そのものの写しである)、非定常的(occasionally)かつ非商業的な場合に限り許される<ref name="cmtr-p69-70">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 69-70
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。
* d) オブジェクトコードを所定の場所にアクセスして複製することにより伝達する場合、対応するソースについても同一場所から同一の方法で得ることができるよう、ほぼ同等のアクセス手段を提供できるようにする。ただし、オブジェクトコードの伝達は無償有償問わないが、対応するソースへのアクセスに対して追加的な対価を課してはならない。受領者に対し、対応するソースをオブジェクトコードと一緒に複製することを義務づける必要はない。オブジェクトコードをネットワークサーバにアクセスして複製する場合、対応するソースは同等の複製機能をサポートする他のサーバ(ライセンシーまたは第三者が運用するもの)上にあっても良い。ただし、その場合は、対応するソースのある場所を示す記載をオブジェクトコードに隣接する箇所に添えなければならない。対応するソースを、どこの何のサーバでホスティングするかに関係なく、これらの条項を満たす義務が存続する限り、ライセンシーは対応するソースにアクセス可能にすることを保証する義務を負う<ref name="cmtr-p70">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 70
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。
* e) オブジェクトコードを[[Peer to Peer|peer-to-peer]]伝送を用いて伝達する場合、本第6項小項d)に従って当該オブジェクトコードおよび対応するソースが無償で公開されている場所を他のピア(ノード)に対して通知する<ref name="cmtr-p70-71">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 70-71
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。

小項a)は、オブジェクトコードを、例えば[[ルーター]]などの物理的製品に[[組み込みシステム|組み込んで]]伝達する場合や[[光ディスク|光学メディア]]などの[[メディア (媒体)|物理的媒体]]に格納する、もしくは組み込んで伝達する場合は、対応するソースを耐久性のある物理的媒体で必ず伝達しなければならないとの規定である<ref name="cmtr-p68" />。小項b)は小項a)と同一のオブジェクトコードの伝達方法の場合であり、対応するソースを受け取る方法を記載した文書を添付する規定である<ref name="cmtr-p68" />。対応するソースの伝達方法自体は、(1)小項a)と同じく物理媒体を利用、ただし伝達に係る合理的な実費を請求可<ref name="cmtr-p68-69" />もしくは(2)ネットワークによる無償提供<ref name="cmtr-p68-69" />である。請求権を持つものは、'''オブジェクトコードを保有するもの全て'''(すなわち「'''受領者'''」)である。従って''本ライセンスを許諾するしないに関わらず''(すなわち''ライセンシーか否かに関わらず'')対応するソースを「請求する権利」を得る。しかし、オブジェクトコードを持たないものは一切対応するソースを「請求する権利」はない(作品を所持していないのだから、改変などを行使しようとする必要性が無いともいえる)。しかし、結果としてそのようなものでも、対応するソースを受け取ったものが第4項もしくは第5項の方法でソースコードを頒布できるので、それを無条件に頒布すれば第三者が受け取る可能性もある<ref name="cmtr-p69-70" />。またオブジェクトコードの再伝達は(仮にライセンシーがGPLv3違反になり、第8項でライセンス終了にならない限り)禁止されないから、ライセンシーがオブジェクトコードを任意の者に伝達することは制限されない<ref name="cmtr-p69-70" />。小項c)は小項b)と対応関係にあり、オブジェクトコードを伝達し、対応するソースを提供する文書をそれに添付する規定である。対応するソースは小項b)と同じく、オブジェクトコードと一緒に伝達しなくてもよい。ただし本小項は条件があり、ライセンシーが上流伝達者からオブジェクトコードを受領した手段が小項b)の場合に合致し、非定常的かつ非商業的に(すなわち継続的でもなく、かつ事業としてでもなく)対応するソースを伝達する場合に限り認められる<ref name="cmtr-p69-70" />。要するに小項b)で受領したオブジェクトコードと申出書を受け取ったものが両方を忠実に複製し、下流の受領者に渡すケースを想定している。小項b)、c)は理論的には、オブジェクトコードを受け取った受領者から対応するソースの請求が来なければ、その作品は非公開になってしまうということもあり得る<ref name="cmtr-p69-70" />。さて、「非定常的」という用語であるが、この小項に対応するGPLv2第3節第1段落小節c)では伝達を選択できる条件として単に「非商業的」となっている。例えば商業的ではないが定常的な二次伝達者の例として、小項b)に従ってオブジェクトコードと申出書を受け取り、ウェブサイトなどで継続的に両者の複製を頒布するケースが挙げられる。このサイトから両複製を受け取った受領者は小項b)の伝達を行ったもともとの一次伝達者に対応するソースを請求できる。しかし、これを継続的に行えば、受領者の数は極めて多くなり、一次伝達者の請求に対応する業務が増大する一方、中間の二次伝達者は対応するソースの請求を受けることなく、一次伝達者に[[フリーライダー|ただ乗り]]する形になる。このようなネットワークの発達に伴う不均衡を防止するため、「非定常的」という条件が加えられたのである。従って保護された作品がGPLv3である場合は、二次伝達者は小項b)を選択し自身が一次伝達者になるか、もしくは小項c)以外の選択肢を選べばよい。ところで[[卸売]]業者や[[流通]]業者、「一般的な意味でのディストリビューター」<ref>
いわゆる[[Linuxディストリビューション|Linuxディストリビューター]]などは改変を行って伝達することが多いので、むしろ伝達者である。
</ref>は、改変、普及行為を一切行わず、単に上流からコードを受領してそのまま忠実に下流業者に[[譲渡]]するだけなので、第9項により本第6項の規定を受けない<ref name="cmtr-p73-74">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 73-74
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。さらにSFLCによると、一次伝達者がライセンス違反を犯し、ライセンスで保護される作品を伝達できなくなった(第8項)場合、二次伝達者が対応するソースの伝達義務を負うようになるのではないか、と勘違いしがちではあるが、そうではないとのことである。つまるところ、実際には小項c)は対応するソースの伝達義務を負うのではなく、「対応するソースを提供する一次伝達者を紹介する義務」を負う<ref name="cmtr-p71">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 71
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。小項d)はオブジェクトコードをサーバから有償無償問わずダウンロードできるようにした場合、対応するソースもダウンロードできるようにすることを規定している。ただし、オブジェクトコードにアクセスさせる際に費用を徴収している場合は、それ以上請求してはならない<ref name="cmtr-p70" />。対応するソースのホスティングについては、条文の通り運営者、実体サーバは問わない。またそのサーバがどのような運用が成されていても、ライセンシーは対応するソースのホスティングが停止されないように努力するなど、対応するソースの提供を維持しなければならない<ref>
極端な場合、ホスティング業者など第三者が運用するサーバに、対応するソースをホストした場合、場合によっては転送量過多でホスティングが業者に止められるかもしれない。しかし、そのような場合でもライセンシーは何らかの方法で代替サーバを用意し対応するソースを提供する義務を負っている。
</ref>。小項e)はP2Pでオブジェクトコード転送を行う場合、対応するソースを得ることのできる小項d)に対応する場所を、まだその場所を知らないピア(ノード)に無償で通知しなければならない<ref name="cmtr-p70-71" />。そもそもオブジェクトコードとその対応するソースを両方ともP2P伝送する場合は、小項d)(両者を類似の方法で伝送)に相当するので、わざわざこの条項を規定する理由が無いように思える。この条項を設けた理由は第2次議論用草稿が提出された際に同時に提出された、"Opinion on [[BitTorrent]] Propagation"(「BitTorrentの普及行為に関する意見」)<ref name="torrent-dd2">
{{cite web
| url = http://gplv3.fsf.org/bittorrent-dd2.html
| title = Opinion on BitTorrent Propagation
| date =2006-08-03
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-04-29
}}</ref>で述べられている。P2Pはその技術的特性からファイルの頒布開始ノードがどこであるかをユーザーが知ることは不可能ではないにしろ、きわめて困難である。よって確実に頒布しようと考えるならば、(ファイルサイズの増加そして必要伝送時間の増加につながるが)オブジェクトコードとその対応するソースを同一の[[アーカイブ (コンピュータ)|アーカイブ]]に格納して伝送することになるだろう。しかし、たとえそのような対策を講じたとしても、ユーザーの需要の大小等に関連し、ファイルによってはあまりP2Pネットワーク上に伝播(シーディング、seeding)されないこともある。また頒布開始ノードが十分なシーディングの時間を待たずネットワークを切断すれば、場合によってはピアでシードが完成せず不完全なファイルになってしまう可能性もある。P2P伝送はファイルのビット毎、ブロック毎の伝送や授受には適しているといえるが、「完全なファイルの頒布手段」としてはあまり適切ではない方法であるとの意見が同文書には記載されている。この指摘を受けて小項e)が設けられた。

さて対応するソースには、システムライブラリなどは含まれないと第1項で述べた。これとはまた別に、オブジェクトコードの''分離可能な部分''(''separable portion'')で、システムライブラリとしてそのソースコードが対応するソースから''除外''(''be excluded from'')されている場合、分離可能なオブジェクトコードの部分は、オブジェクトコードの作品伝達に含める必要は無い(第6項第2段落<ref name="cmtr-p71">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 71
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。システムライブラリは、(要約すると、)OSの一部からは除外されるがOSに付属するライブラリで、ランタイムもしくは標準インタフェースの実装であると述べた。これらはオブジェクトコード形式でOSに付属しているもしくはソースコードが公開されているものが多い。従って「対応するソース」の対象としたりオブジェクトコードを伝達する必要性は薄いといえる。ただ注意しておくべきこととして、「分離可能」という文言がある。GPLv3第6項第1段落、第2段落は、概ねGPLv2第3節に相当するとSFLCは述べているが<ref name="cmtr-p72">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 72
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>、そこで述べられていたGPLv2のシステムライブラリの判別基準は、いわゆる作品を[[静的リンク]]するか否かという側面で定めている。

{{quote|<ref>
ここでは、ソースコードや「完全なソースコード」に対して、それには当てはまらないコンポーネントを定義している。GPLv3でいうところの「対応するソース」の対象から除外された「システムライブラリ」である。
</ref>しかし特別な例外として、そのコンポーネント自体が実行形式に付随するのでは無い限り、 頒布されるものの中に、実行形式が実行されるオペレーティングシステムの主要なコンポーネント(コンパイラやカーネル等)と通常一緒に(ソースかバイナリ形式のどちらかで)頒布されるものを含んでいる必要はないとする。}}

「そのコンポーネント自体が実行形式に付随するのでは無い限り」(unless that component itself accompanies the executable)というのは、SFLCによると実際には「そのコンポーネント自体がそれらライブラリを含んでいる実行形式に静的にリンクしない限り」(unless that component itself statically linked executable containing those libraries)ということを意味する。これに対しGPLv3は、どのような形式で分離可能が何も述べておらず、リンク形式の判断などといった前提すらない。SFLCより助言を受けたIPAは「GNU GPLv3 逐条解説書」で
{{quote|「分離可能」という文言は、リンクの形態について言及したものではなく、論理的な形態を意味している}}
との解釈を述べている<ref name="cmtr-p72" />。この考え方は、LGPLv2.1第6節小節bまたはLGPLv3第4項小項d)-1)での「共有ライブラリの判断基準」とは異なる。かなり大雑把に述べると、システムライブラリはランタイム、共有ライブラリは「標準ではないインタフェース(cf. 第1項の「標準インタフェース」も参照)の提供」という役割の相違があり、この点を考慮すれば判断基準が分かれるのは自明ではある。

第3段落から第6段落は、「''ユーザ製品''」("''User Product''")と定義される製品にGPLv3で保護されるオブジェクトコード形式の作品を組み込んだ場合の伝達に対する条件を規定している。この条件は'''反[[TiVo化]]条項'''('''anti-tivoization clause''')と呼称される。ユーザ製品とは、次のいずれか一方を指す(第6項第3段落<ref name="cmtr-p78">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 78
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。
* (1) 「コンシューマ製品」(consumer product)、すなわち、個人、家族でまたは家庭で「''通常使用される''」("''normally used''")個人用の有体物(無形物ではない)
* (2) 住宅に設置することを目的として設計または販売されるもの
概ね軍事用などではない[[民生用]]機器の内、[[消費者]]の家庭で使用するものに対象を絞っている。しかし、実際はそれだけとは限らない。コンシューマ製品に該当するかどうかの判断において、個々のユーザーがどのような方法で使用するかは考慮されず、''製品の典型的または一般的な使用方法に基づいて判断される''。このように使用される形態を''通常使用される''と条項内で呼称している(第6項第3段落)。よって[[業務用]]を謳っていても「ユーザ製品」に該当する場合もある。例えばどう見ても個人用途ではない製品を家庭内で使用した場合はコンシューマ製品に該当しない。しかしある製品が[[業務用]]や工業用など、非家庭向け用途がある場合でも、「通常使用」の観点で家庭内での用途などが1つ以上存在する場合には、コンシューマ製品に該当する。ある製品がコンシューマ製品に該当するかどうか疑義がある場合は、極力コンシューマ製品に該当すると見なす(第6項第3段落)。機器にオブジェクトコードを実務上組み込めるか否か別として、かなり特異な例ではあるが、[[薬事法]]で定義される[[医療機器]]の内、[[家庭用医療機器]]はユーザ製品に該当する。しかし、それを除いた医療機器で医師などの専門家の補助なしには使用できないものは、家庭での用途は全く考慮されていないのであるから、ユーザ製品ではないのは確実である<ref name="cmtr-p78" />。

続いてそのユーザ製品の改変の鍵となるものを定義する。ユーザ製品の「''インストール用情報''」(''Installation Information'')とは、ユーザ製品に組み込まれている、保護された作品の対応するソースを、改変して作成した改変バージョンを、当該ユーザ製品にインストールし実行するために必要とされる手法、手順、認証キー及びその他の情報の全てをいう。その情報は、改変されたオブジェクトコードの継続的な動作が、改変が為されたということによってのみ拒否されたり妨害されることが決してないことを保証するのに十分なものでなければならない(第6項第4段落<ref name="cmtr-p79-80">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 79-80
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。ソフトウェアに何らかの制限を加えるハードウェアがたとえ存在したとしても、そのソフトウェアがGPLv3で保護されるならば、ハードウェアを所持するユーザーは何の問題も無く改変後のソフトウェアを動作できることをライセンシーに保証させる条項である。「''改変されたオブジェクトコードの''継続的な動作が(中略)拒否されたり妨害されることが決してないことを保証」とあるので、実際にはハードウェアが継続的に動作することを保証しなければならないわけではなく、GPLv3で保護される作品を改変した二次的著作物がそのハードウェアで継続的に動作することを保証しなければならない、と規定している<ref name="cmtr-p79">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 79
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。後述の第6段落の内容から判断して、製品ユーザーがソフトウェアを改変して動作させることは自由にするが、[[生産者|メーカー]]はそれによって起こりうる事態、事故は一切関知しないということになる。インストール用情報は機器により様々なものが想定されるが、概念的には、ライセンシーたるメーカーが自由に改変バージョンを動作できるのに、受領者たるユーザーが一切できない場合、メーカー側で保持する情報がインストール用情報に該当する。ちなみにSFLCによると、場合によっては、インストール用情報を得ても専門的知識や設備が無ければユーザーがうまくその情報を利用できないケースも想定されるが、それを何らかの形でメーカーが補填する義務などないと述べている<ref name="cmtr-p79" />。またあくまで情報であって、その情報を利用するのに必要なユーティリティ、ツールまでもメーカーが用意してやる義務も無い。例えばインストール用情報として、機器のプロテクト解除を行うソースコードを提供した場合、そのコードを実際に機器にインストールするには[[クロスコンパイラ]]等でビルドする必要がある。しかしクロスコンパイラをメーカー側で用意してやる義務は無い。どのようなクロスコンパイラが必要であるか、どこでそれを入手できるか、などの情報を記載するのみに留めておいてよい<ref name="cmtr-p79-80" />。また「認証キー」についてであるが、「改変されたバージョンを動作させるのに必要な」認証キーであるから、例えば、正規の認証キー自体ではなく、改変版の動作を行う''だけ''のキー(例: [[公開鍵基盤|PKI]]の適切な[[自己署名証明書]])を別個作成するなどして頒布、もしくはその作成方法を「インストール用情報」に記載するだけでもよいと解釈される。

保護される作品たるオブジェクトコードを、ユーザ製品に組み込む、またはユーザ製品に付属する、またはユーザ製品で使用するためのもの(例えばGPLv3ソフトウェアを含むインストール用物理的媒体)として伝達し、かつそのユーザ製品の所有及び使用にかかる権利を永久に、または一定期間譲渡する取引の一部として行われる場合は、取引の(法的)類型に関わらず、本第6項に基づいて伝達される対応するソースは、インストール用情報と共に伝達されなければならない。ただし、ライセンシーやいかなる第三者も改変されたオブジェクトコードをそのユーザ製品にインストールすることができない場合は適用されない。一例を挙げると、作品が[[Read Only Memory|ROM]]に格納されている場合改変しようがないので本項は適用されない(第6項第5段落<ref name="cmtr-p80-81">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 80-81
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。伝達者は改変部分を含む「対応するソース」を本第6項第1段落に従って伝達しなければならないが、同時にインストール用情報も伝達すべしとの規定である。受領できる対象者は、ユーザ製品の[[所有権]]を永久、もしくは有期で[[譲渡]]されるものに限られる。ユーザ製品を購入、譲渡された[[エンドユーザー]]はこれに該当する。また「対応するソース」の伝達義務を負う者は、「保護された作品に改変を加えたオブジェクトコード形式の作品」を伝達するもの全てであった(本項第1段落)が、「インストール用情報」を伝達する義務を負うものは、「オブジェクトコードを伝達するもの」のうち、永久もしくは有期でユーザ製品を譲渡するものが対象となる。例えばユーザ製品のメーカー、ユーザ製品のレンタル業者はその対象となり、ユーザ製品を最終消費者に売りさばく[[小売|小売店]]は入らない。しかし、オブジェクトコードとインストール用情報を同時に添付することになるので、実質的にその対象となるのはメーカーである<ref name="cmtr-p80">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 80
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。

さて、対応するソースとインストール用情報を手に入れた受領者が実際にユーザ製品に組み込んだ時点でのユーザーに対するメーカーの免責を規定する。インストール用情報の提供に関する条件には、受領者が改変もしくはインストールした作品、またはその作品が改変もしくはインストールされたユーザ製品に対して、保守サービス、保証、アップデートを提供し続けるという条件は含まれない。一例を挙げると、改変によってネットワークの運用に重大かつ有害な影響をもたらす場合、もしくはネットワーク上での通信に関する規約または[[通信プロトコル|プロトコル]]に違反するような場合には、ネットワークへのアクセスを拒絶することは何ら問題ない(第6項第6段落<ref name="cmtr-p81">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 81
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。メーカーはユーザーの改変によるハードウェアの保証は必要ないとの規定だが、インストール用情報をユーザーに提供することで、何らかの法律に違反する行為を助長したり、[[幇助]]することにつながる可能性もある。例に挙げたネットワークへの影響は一例に過ぎず、ユーザ製品の用途によっては改変版ソフトウェアの利用によって、危険行為や極端な例では死亡事故につながる可能性もある。

さらなる注意点として、SFLCによれば、それぞれの国の法律の規制を遵守するために組み込みソフトウェアの改変を禁止するような場合では、本条項の履行を強制することはないと述べている<ref name="cmtr-p80" />。例えば、[[携帯電話]]端末などのユーザ製品で、[[電波]]を用いて組み込みソフトウェアのアップデート情報が送信され、機器により自動的にソフトウェアのアップデート処理が実行される場合がある。この場合メーカー側は改変の自由が確保されている。しかし、日本の携帯電話自体は、[[電波法]]ならび[[電波法施行規則|その 施行規則]]により、[[技術基準適合証明]]を受けることになっている。このため改変版ソフトウェアの導入により、改造を行うと再度証明を受ける必要があり、再証明を受けず使用すると電波法違反となる<ref>
{{cite web
| url = http://www.tele.soumu.go.jp/j/adm/monitoring/summary/qa/giteki_mark/index.htm
| title = 総務省 電波利用ホームページ <nowiki>|</nowiki> 技適マーク、無線機の購入・使用に関すること
| publisher = [[総務省]]
| accessdate = 2011-04-30
}}</ref>。インストール用情報を提供することによりこのような違法行為を助長することになる、と想定したうえで、インストール用情報を提供する必要性の有無を考えると、このような場合は必ずしも必要とはいえないのではないかと述べている。これとは対照的に[[携帯情報端末]]やいわゆる[[スマートフォン]]の一部は、もとよりユーザーに改変版ソフトウェアのインストールを部分的に許容している。このような場合はハードウェアによる制限を何らかの形で課すことによって、改変の自由におけるユーザー間での差別を生む(例えば、ハードウェアメーカーから認証を受けたアプリケーション業者がソフトウェアを自由に改変できる一方、一般ユーザーは一切改変できない)。道義的な問題でしかないが、仮にそのユーザ製品に組み込んだソフトウェアがGPLv3で保護されているならば、メーカーはユーザーからインストール用情報の提供を迫られるだろう。ユーザ製品にGPLv3ソフトウェアを組み込むメーカーは、法的な制限を考慮する必要がある<ref name="cmtr-p81-82">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 81-82
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。

最後に本第6項で述べた対応するソースとインストール用情報の[[ファイルフォーマット]]を規定する。本第6項に基づく対応するソースの伝達及びインストール用情報の提供は、文書化され一般に公開されておりかつソースコード形式で一般に利用可能な何らかの実装方法を有する、フォーマットにより提供されなければならない。このような場合、[[アーカイブ (コンピュータ)|アーカイブ]]の[[データ圧縮|圧縮]]展開、読み込み、または複製に特別な[[パスワード]]や[[鍵 (暗号)|鍵]]などのキーを必要としてはならない(第6項第7段落<ref name="cmtr-p81" />)。[[FLOSS]]の実装を持つフォーマットとなるので、対応するソース、インストール情報である中身は[[テキストファイル]]でなければならないと考えがちだが、[[Portable Document Format|PDF]]、[[Rich Text Format|RTF]]、[[DOC (ファイル フォーマット)|DOC]]、はたまた[[Office Open XML|DOCX]]はFLOSS実装があるので<ref>
例を挙げるときりがないが、PDFは"[[PDFソフトウェアの一覧#オープンソース]]"のうちビューアに当たるもの、残りのフォーマットも[[AbiWord]]や[[OpenOffice.org|OOo]]、[[LibreOffice|LO]]などが存在する。
</ref>問題ない。ただし、その文書が「『ソースコード形式』で一般に利用可能」でなければならないので、例えば、そのPDFなどにコピー禁止を施したり、ソースコードをスクリーンショット等の画像で貼り付けるなどといった「''改変を加えるに当たって好ましくない''」形式は許されない(第1項)。またその中身を圧縮したアーカイブもFLOSS実装があるものでなければならない。[[ZIP (ファイルフォーマット)|ZIP]]([[Info-ZIP]]([[:en:Info-ZIP|en]])参照)、[[LHA]]<ref>
{{cite web
| url = http://sourceforge.jp/projects/lha/
| title = LHa for UNIX
| publisher = [[SourceForge.JP]]
| accessdate = 2011-04-30
}}</ref>、[[7z]]は問題ない。しかし、[[DGCA]]などは、[[2011年]]時点で、[[プロプライエタリ・ソフトウェア|プロプライエタリ]]な実装しか存在しないので、このようなフォーマット形式を使用してはならない。いずれにせよ受領者が中身を取り出す上で[[FLOSS]]な実装のみに依存し、パスワード等を掛けていない場合は問題ない。

=== 追加的条項 ===
第7項は、GPLとの両立性を向上させることを主な目的として、ライセンスを補足する追加的条項<ref name="add-terms" />を課すことができると述べている。それは''追加的許可条項''(''additional permissive terms''または''additional permissions'')と''追加的非許可条項''(''non-permissive additional terms'')と定義される。

「追加的許可条項」(Additional permissions)とは、本ライセンスが課す条項に例外を設けることにより、本ライセンスの条項を補足するものと定義する。追加的許可条項が本プログラムの全体に適用される場合、準拠法の下で有効とされる限り、追加的許可条項は本ライセンスに含まれているもの(本ライセンスと一体のもの)と見なされなければならない。追加的許可条項が本プログラムの一部分にのみ適用される場合は、その部分のみに関しては課される追加的許可条項に基づいて別途利用可能であるが、本プログラム全体については、追加的許可条項の内容如何に関わらず、本ライセンスが適用される(第7項第1段落<ref name="cmtr-p87-88">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 87-88
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。結果として追加的許可条項は、GPLv3で課される条件を一部緩和することになる。このような例は、GPLv3なソフトウェアがGPLと両立しないライセンスで頒布されるライブラリとリンクしたい場合は、そのGPLv3なソフトウェアに「当該ライブラリのリンクを許諾する」という''例外条項''をライセンスに明記する<ref>
{{cite web
| url = http://www.gnu.org/licenses/gpl-faq.html#GPLIncompatibleLibs
| title = Frequently Asked Questions about the GNU Licenses
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| quote = What legal issues come up if I use GPL-incompatible libraries with GPL software?
| accessdate = 2011-05-01
}}</ref>。この例外条項が追加的許可条項の一例である(そもそも追加的許可条項は従来慣習的に用いられていた例外条項の一般化に等しい<ref name="dd1-rationale-ja" />)。GPLv3で保護される[[GNU Wget]]は[[OpenSSL]]とリンクするため実際に例外条項を定めている。また既に何度も述べてきたが、[[GNU Lesser General Public License|LGPL]]v2.1そしてLGPLv3は共にあらゆるライセンスのソフトウェアのリンクを許諾する条項、すなわち追加的許可条項を持つライセンスであると見なせる(LGPLv3はさらに内部的にGPLv3を参照しているので条文全体が追加的許可条項であると見なせる)。

保護された作品を伝達する場合(第4項、第5項、第6項参照)、ライセンシーは追加的許可条項のいかなる条項についても、その作品の全体または一部を削除できる(追加的許可条項は、所定の改変がなされた場合はその追加的許可条項自体を削除するように規定することすらもできる)。ライセンシーは、ライセンシーが保護された作品に加えた部分であって、ライセンシーがコピーライトを持つ、もしくは与えることができる(許諾できる)部分について、追加的許可条項を定めることができる(第7項第2段落<ref name="cmtr-p88">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 88
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。一般的に、コピーライト保持者(著作権者)がコピーライト(著作権)を主張できる部分にしか許諾条件を定めることはできない。このことによりライセンシーがコピーライトを主張できる部分のみに対しては新たに追加的許可条項を定めることができる。また当然ライセンサーは全ての許諾の変更・削除ができる。しかし、GPLv3では、任意の追加的許可条項についてはライセンシーなら誰でも削除できると本段落で規定している。

本ライセンスの他の条項に関わらず、保護された作品にライセンシーが加えた部分については(当該部分のコピーライト保持者が認める場合)、本ライセンスの条項に加え、以下の条項のいずれかを追加することができる(第7項第3段落<ref name="cmtr-p88-89">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 88-89
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。
* a) 本ライセンス第15項そして第16項の規定とは異なる内容の保証の否認または責任の限定を規定すること<ref name="cmtr-p88">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 88
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。
* b) 追加した部分に対して、特定の合理的な法律上の告知事項または作成者の記載や作者を特定できる記述、もしくは追加した部分を含む作品によって表示される適切な法的告知やそれと同様の情報を、そのまま保全するよう要求すること<ref name="cmtr-p88-89" />。
* c) 追加した部分の作成者について虚偽または不当、不正確な表示をすることを禁じること、もしくは、改変されたバージョンにオリジナルのバージョンとは異なっていることを合理的な方法で明示することを要求すること<ref name="cmtr-p89">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 89
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。
* d) 追加した部分のライセンサーまたは作成者の名前を、[[宣伝]]目的で利用することを制限すること<ref name="cmtr-p89" />。
* e) 商品名、[[商標]]または[[サービスマーク]]の使用に関して、[[商標法]]に基づく権利の許諾を拒否すること<ref name="cmtr-p89" />。
* f) 追加した部分(または改変されたバージョン)を伝達する者が受領者に対する契約上の責任を負って伝達する場合、ライセンサー及びコピーライト保持者に直接的に課される責任を免責することを要求すること<ref name="cmtr-p89" />。
これらは結果としてGPLv3で規定される条件よりも厳しい要求を課すので、「追加的非許可条項」(non-permissive additional terms)と呼ばれる。小項a)は、SFLCによると特定国家の準拠法によって無保証性や免責が認められない場合があるため規定された<ref name="cmtr-p88"/>。小項b)はSFLCによると[[Mozilla Public License|MPL]]やその一部派生ライセンスが課す法的な義務や作成者の表示に関する条項(MPLv1.1 "3.5. Required Notices."など)<ref>
{{cite web
| url = http://www.mozilla.org/MPL/MPL-1.1.html
| title = Mozilla Public License Version 1.1
| publisher = mozilla.org
| accessdate = 2011-05-01
}}</ref>と両立できるようにするものである。これによりMPLでライセンスされたソフトウェアを(個々のコードの著作権者の許諾を得ることもなく)GPLv3で再ライセンスできる<ref name="cmtr-p88-89" />。小項c)は虚偽記載の禁止事項であり、故意では無い記載ミスはフェアユースで救済すべきとも考えられるが、同時にこのような制限を設けることにも合理的で異論は無いため規定されている<ref name="dd1-rationale-ja" />。小項d)も同様の規定をFLOSSライセンスで採用しているものが多数存在する。小項e)も小項c)と同じく、商標のフェアユースは認められてしかるべきであるが、合理的であるため規定されている<ref name="dd1-rationale-ja" />。小項f)は[[Apache License]] v2.0 "9. Accepting Warranty or Additional Liability."<ref>
{{cite web
| url = http://www.apache.org/licenses/LICENSE-2.0.html
| title = Apache License, Version 2.0
| publisher = www.apache.org
| accessdate = 2011-05-01
}}</ref>に規定されている免責条項との両立性を確保する条項である<ref name="dd4-rationale" />。このほかにもApache License v2.0はGPLv2と両立しない条項があり、前述の小項e)のような商標の取り扱い("6. Trademarks")、「特許停止条項」("3. Grant of Patent License.")が当てはまる。特許停止条項とGPLv3で対応する条項が第10項第3段落で述べる「特許非係争条項」条項である。これら3つの改訂点を取り入れたため、GPLv3はApache License v2.0と完全な両立性がある。

本項第3段落で規定した以外の追加的非許可条項を定めることは許されず、それらは全て本ライセンス第10項の「''さらなる権利制限''」("''further restrictions''")とみなされる。ライセンシーが受領した本プログラムまたはその一部に、本ライセンスに加えてさらなる権利制限が適用される旨が記載されている場合、ライセンシーはそれらを(無許可で)削除することができる。さらなる権利制限を含むライセンス文書が本ライセンスに基づく再許諾または伝達行為を認めている場合は、再許諾または伝達においてそのさらなる権利制限を存続させないことを条件として、ライセンシーはそのライセンス文書の条項が適用されている部分を本ライセンスで保護された作品に追加することができる(第7項第4段落<ref name="cmtr-p89-90">
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| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 89-90
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。のちほど述べるとおり第10項の「さらなる権利制限」はライセンスを自動的に終了させる(第8項)。これにより作品伝達ができなくなってしまうので、「さらなる権利制限に相当する追加的非許可条項」をコピーライト保持者以外が例外的に削除できるようにしている。

以上のように本項では、GPL以外の[[フリーソフトウェアライセンス]]、オープンソースソフトウェアライセンスとの両立性を考慮した一種の妥協点を条項化したものであるといえる。本項に記載されている許可・非許可条項を中心に別のフリーソフトウェアライセンス、オープンソースソフトウェアライセンスを策定することでGPLv3と完全な両立性のあるライセンスを作成できる。もちろんソースコードを開示しない、または開示しても[[フリーソフトウェア|フリー]]な利用を許さない[[プロプライエタリ・ソフトウェア|独占的]]ライセンスはこのようなことを考慮しても無駄であり、([[デュアルライセンス|マルチライセンシング]]を除き)両立することは決してない(セクション"[[#両立性とマルチライセンス|両立性とマルチライセンス]]"を参照)。

第7項の第5段落では、追加的条項の記載箇所(ソースファイル内に直接記載またはその他参照できる場所の記載)、第6段落では追加的条項のフォーマット(独立したライセンス文書形式または本ライセンスの例外規定として記述。形式に関係なくどちらでも適用される)を規定している。

=== 終了 ===
第8項では、前述した保護された作品の改変、普及(伝達含む)や後述のパテントライセンスなどGPLv3で許諾された権利が行使できなく、すなわちライセンシーがライセンス違反を行ってからそのライセンスの終了を迎えるまでを規定している。基本的にGPLv3はGPLv2と同じくライセンス違反による''自動終了''の形態を採用している(その他のライセンスでは、著作権者による個別終了方式を採用しているものもある)。しかし、GPLv2とは異なり幾つか特例を設けて違反者の負担軽減を図っている。

本ライセンスで明示的に定められている場合を除いて、保護された作品を普及または改変してはならない。そのような規定以外に保護された作品を普及または改変しようとする''企て''(''attempt'')はすべて無効であり、そのような企てをした場合は、本ライセンスに基づくライセンシーの権利(この権利には第11項第3段落に基づいて許諾された「''パテントライセンス''」("''patent license''")も含まれる)は'''自動的に終了する'''('''automatically terminate''')ものとする(第8項第1段落<ref name="cmtr-p97-98">
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| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 97-98
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。このようにしてライセンスが自動的に終了した場合、作品の改変や再伝達などをコピーライト保持者(著作権者)の許諾なく行使すれば[[著作権侵害]]となる(第9項)。ちなみに第9項で定められる、ライセンス受諾の不要な行為(例: 本プログラムの実行)は引き続き許可される。終了の条件に、ライセンスに従わない改変行為等の企て、とあるので、ライセンス違反[[未遂]]であっても終了に追い込まれる可能性もある。

前述の規定はかなり厳しいように思えるが、GPLv2も全く同じ規定である。しかし、GPLv3では第8項第2段落以降である期間内に違反者がライセンス違反全て中止した場合の救済措置を規定している。考慮不足に起因する不用意な違反の救済を目的としている<ref name="cmtr-p98">
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| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 98
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。

(第1段落に対して)しかしながら、本ライセンスに違反する行為のすべてが中止された場合、特定のコピーライト保持者から違反者に供与されたライセンスは、
* (a) そのコピーライト保持者が違反者に許諾したライセンスを明示的かつ確定的に終了させるまでの間は、暫定的に回復するものとし(違反時からのフロー: 違反→暫定的回復→終了)、
* (b) 違反行為の中止後60日以内に、そのコピーライト保持者が違反者に対して合理的な手段で違反の事実を告知しなかった場合は、恒久的に回復するものとする(違反時からのフロー: 違反→60日以内に合理的手段による告知なし→恒久的回復)
(第8項第2段落<ref name="cmtr-p98" />)。ここで注意すべきなのは、違反したライセンシーの許諾終了に対し、保護された作品の「ライセンサー」が包括的な違反告知を行うのではなく、(巨大なソフトウェアだと多数に上るはずだが)個々の「コピーライト保持者」(著作権者)が違反者に働きかけることになる点である。著作権を主張できるのは著作権者のみであるから、当然といえる。違反者が(a), (b)どちらの裁定を下されるかは、ライセンス違反行為を中止してからの、コピーライト保持者が違反事実を違反者に告知する日に因るところとなる。このことから、コピーライト保持者はライセンシーの違反行為を直接的または間接的に察知しなければならない。違反者が違反行為を中止して60日以内にコピーライト保持者から違反の合理的手段による事実の告知を受けた場合、違反者は暫定的なライセンス回復を受けた後、最終的には、明示的、確定的にライセンスを終了させられる。違反者が違反行為を中止して60日を越えてから、コピーライト保持者から違反の合理的手段による事実を告知された、または、60日たってからも一切告知を受けていない場合、違反者はライセンスを恒久的に回復させられる。通常、ライセンス違反により、ライセンスを停止させられた場合、個々の著作権者と再度交渉して合意を得れば、個々の著作権者が著作権を主張する部分のみライセンスを回復できるが、それが膨大な数にのぼるケースもある。そのような事態に陥るケースに比べて、本段落の条項は容易に回復できる手段を提供している<ref name="cmtr-p98" />。

(第2段落に追加して)さらに、あるコピーライト保持者が違反者に対して合理的な手段で違反の事実を告知した場合において、それが本ライセンスの違反(ここではコピーライト保持者のいかなる作品に関して違反したかを問わず)に関するそのコピーライト保持者からの最初の告知であり、かつその告知を違反者が受領したあと、30日以内に違反を是正した場合は、そのコピーライト保持者から違反者に供与されたライセンスは、恒久的に回復するものとする(第8項第3段落<ref name="cmtr-p99">
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| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
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| date = 2010-05-26
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| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。ライセンス違反が、該当するコピーライト保持者のGPLv3で保護される全ての作品のライセンス違反を勘定してなお、初回の場合はこのような特例が適用される。この段落も第2段落と同じく、個々のコピーライト保持者毎に違反者に下される決定が変わってくるので、作品のコピーライト保持の区分けによって、ある部分では初回の違反で、別の部分は初回ではないというケースもある。初回ではない、また初回であってもコピーライト保持者からの違反告知から30日を越えて違反が是正されなかった場合、第2段落の条項による裁定に移る。

本項に基づいてライセンシーの権利が消滅した場合でも、本ライセンスに基づいてそのライセンシーから複製物、または権利を受領、または承継した者に対する許諾は、消滅しないものとする。ライセンシーの権利が消滅し、恒久的に回復されないこととなった場合、同一のライセンス対象に対する新たなライセンスを本第10項に基づいて再度受領することは許されない(第8項第4段落<ref name="cmtr-p99-100">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 99-100
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。よって違反者とは対照的に、その下流受領者においては、引き続きライセンスが有効となり、''違反者がコピーライトを持つ改変点すらも含めて''、作品の改変、普及、パテントライセンスなどの各種GPLv3の権利が下流ライセンシーに保証される。この規定は第2項第3段落のサブライセンスの否定や第10項第1段落のライセンサーからの直接許諾規定から判断して妥当といえる。しかし、このままでは同じ第10項第1段落の規定によりプログラムの複製を受領すれば、一度ライセンスを終了させられたものですら、ライセンスを再度得ることになってしまうので、「一度ライセンスを終了させられたものは、たとえ本プログラムを受領したとしても、そのライセンスは二度と得ることはできない」というペナルティを課している。

=== 複製の受領の為の行為とその行使における許諾の不要 ===
本プログラムの受領またはその実行については、本ライセンスの承諾を必要としない。peer-to-peer伝送を使用して本プログラムを受領することに伴って生ずる保護された作品の付随的普及についても、同様に承諾を必要としない。しかしながら、それら行為を除き、ライセンシーに対して、保護された作品の普及または改変を許諾するものは、本ライセンスのみであり、このこと以外は認められない。これらの行為は、本ライセンスを承諾しない限り、コピーライトを侵害することとなる。したがって、保護された作品を改変または普及することにより、ライセンシーは当該行為を行うために本ライセンスを[[承諾]]する旨、[[意思表示]]したことになる(第9項<ref name="cmtr-p101-102">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 101-102
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。プログラムの実行は普及行為ではなかった(第0項第6段落)。このことを鑑みプログラムを実行するのにライセンスを承諾する必要はないと第2項第1段落で規定した事項を再度述べている。極端な例、第8項でライセンスを終了させられたとしてもプログラムの実行は許可される。また、受領も同様である。これも極端な例では、ライセンス違反者ですらもプログラムを受領(そしてそれを実行)できる。ただし、このままでは、次の第10項第1段落の規定により、ライセンス違反者だろうが何だろうが全ての受領者はライセンス許諾を得ることになってしまう。これを防止するためそのプログラムのライセンスに以前違反違反し、かつ(明示的かつ確定的に)終了させられたものは二度とそのライセンスの許諾を得ることはないと第8項第4段落に規定した。また第6項第1段落小項e)でオブジェクトコードの伝達に利用できると規定したpeer-to-peer伝送においては、その技術的性質により、作品を受領したものは、同時に作品を[[公衆送信権|他者に送信可能な状態]]に置いている。これは普及行為なので、通常はライセンスの承諾なく行使できないが、このための例外を設けており、許可を得る必要はない<ref name="torrent-dd2" />。これ以外の、保護された作品の普及、改変をコピーライト保持者の許可無く行う行為は全てコピーライト保持者のコピーライトを侵害する([[著作権者]]の[[著作権侵害]])故、'''仮にこれら行為を行ったということは、GPLv3という契約書を[[承諾]]したという[[意思表示]]に等しい'''、と規定している。すなわちこれら行為を無許可で行った場合、ライセンシーは[[b:民法第526条|民法第526条]]に従って、GPLv3という[[契約]]書に沿った[[契約#契約の成立|契約を締結した]]と解釈できる<ref name="cmtr-p102">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 102
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。セクション"[[#ライセンスと契約にまつわる問題|ライセンスと契約にまつわる問題]]"でGPLは契約ではなくライセンスであると述べたが、[[大陸法]]では両者を区別できない。従ってこのような法体系を持つ法のもと、GPLを契約と見なすことも可能であり、この第9項にその承諾規定が記載されている(日本の[[民法]]は大陸法を法体系に持っているものの、GPLが契約と見なせるかは判例などの法的根拠がないため不明である)。ところで、前述の通り「改変」にライセンスの承諾が必要とあった。普及行為の定義(第0項第6段落)で述べたような、「私的な改変か否かの区別」はここではなされていない。「組織内部の私的改変」は第0項第6段落によると普及ではなく、また伝達でもない。この行為が許諾されるか否か、第2項の「基本的な許諾」など、その他の条項などに定められていない。組織内部であるか否かに関わらず、改変はこの第9項第4文にて許可されるので、無許可で行使した場合、そのことがGPLv3を改変者たるライセンシーが承諾したとの意思表示になり、GPLv3という[[契約]]書の成立と解される<ref name="cmtr-p43">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
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| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。よって'''組織内部での改変を行うライセンシーはGPLv3の義務を免除されたわけではない'''<ref name="cmtr-p43" />ということに注意すべきである。例えば第10項第3段落の「特許非係争義務」が免ぜられることはない<ref name="cmtr-p43" /><ref name="cmtr-p102" />。例を述べる。ある組織が受領したGPLv3プログラムをその組織内部で私的に改変して利用していたが、自組織の持つ特許がそのプログラムに勝手に組み込まれていたことにある日気づいたとしても、パテントクレーム侵害を[[訴訟]]の手段で解決することは許されない。仮にそのような訴訟を起こした場合、第10項第3段落により、第8項第1段落の「ライセンス終了」となる。ライセンス終了により、当該組織は第8項第4段落の規定から、以後その保護された作品を受け取ってGPLv3のライセンスを受領することは一切できなくなる。ライセンス終了時点で使用しているGPLv3プログラムに関しては、それも「利用を停止すべき」という解釈と「引き続き利用できる」という解釈の二通り存在する<ref name="cmtr-p102" />。前者は第8項の''terminate''を[[b:民法第545条|民法第545条 1.]]の「直接効果を持つ[[解除]]」と解釈した場合である。この場合、解除の遡及的効果によって''単なる私的な改変であっても''それは'''ライセンス無効下において、著作権者からの許可を得ることなき改変であった'''と''遡及的に''解釈されるから、ライセンスを終了させられた組織は逆にそのプログラムの個々の著作権者から、[[著作権侵害]]で[[反訴]]、逆提訴される可能性すらもある。後者は[[b:民法第620条|民法第620条]]に記載されている通り、「解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる」となるので、もう既になされた行為までその違反性を問われることはないとする解釈である。

=== 下流の受領者への自動的許諾 ===
第10項は主に受領者(recipient)に対する許諾を規定している。

保護された作品の受領者は、ライセンシーがその保護された作品を伝達するごとに、オリジナルのライセンサーから、本ライセンスに基づいてその作品を実行、改変、及び普及する許諾を自動的に得るものとする。なお、ライセンシーは、第三者に本ライセンスの規定を遵守させる義務を負わない(第10項第1段落<ref name="cmtr-p105-106">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 105-106
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。この規定により、受領者は、直接作品を受領したライセンシーからではなく、オリジナルのライセンサー(原著作者)から直接GPLv3を受諾したことになり、その許諾は誰かに許可を得ることなく、作品を受領した瞬間に受け取る。このことを根拠として、第2項第3段落のサブライセンスの否定、第8項第4段落の下流受領者のライセンス継続の確保、が成立する。またこれを悪用することにより、既に第8項によりライセンスを終了させられたものですら再許諾を許すので、これを防止する規定(違反者の再許諾禁止、第8項第4段落)も存在する。

第2段落は、受領者たる組織が[[企業組織再編]]などにより第三者に保護された作品を移転した場合、どのような解釈がなされるかを規定する。
「''企業体取引''」("''entity transaction''"。企業間主体取引など)とは、[[事業譲渡]]、[[会社分割]]、または[[合併 (企業)|合併]]に関する[[取引]]をいう。企業体取引の結果として保護された作品の「普及」が生じた場合、その保護された作品を受領した当事者は、譲渡当事者が前段落(第10項第1段落)の条項に基づいて保有していた、または保有し与え得た許諾に係るすべてを承継するものとする。また、譲渡当事者が保護された作品の対応するソースを保有していた場合、または合理的な努力により入手できる場合、受領の当事者は、その対応するソースを保有する権利もまた承継するものとする(第10項第2段落<ref name="cmtr-p106-107">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 106-107
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。企業組織再編の手続きは各種法律に従う必要があり、日本の場合[[会社法]]が当てはまる。「企業体取引」の定義に含まれている[[事業譲渡]](''transferring control of an organization'')は[[b:会社法第467条|会社法第467条]]、[[b:会社法第468条|同第468条]]等により定められている(詳細は[[ウィキブックス]] "[[b:第2編 株式会社 (コンメンタール会社法)#7|事業の譲渡等(会社法第467条~第470条)]]"を参照)。事業譲渡により事業譲渡会社は事業譲受会社に「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産を譲渡」する(記事"[[事業譲渡#事業の意義]]"を参照)。GPLv3で保護された作品が、当該財産に含まれていた場合、このことにより全く別の第三者組織に対して作品を複製し譲渡することになる。これは、事業譲渡会社をGPLv3に従うライセンシーと見て、その作品をコピーライト保持者の許可無く「普及」(そのうちの「複製」。第0項第6段落より)し、事業譲受会社はその作品を受領する、という作品の「伝達」(''convey''。もとよりこの語は日本語で「譲渡」とも訳される)の一形態であるに過ぎない(第0項第7段落)<ref>
ちなみに、事業譲渡会社が既に作品の伝達を行っている場合はまだしも、組織内の私的な改変のみで留めていた場合、事業譲渡によりはじめてGPLv3のライセンシーの各種義務(主に第6項、第10項第3段落など)を負うことになる。また、事業譲受会社は事業譲渡取引完了直後の時点では、単なる受領者である。
</ref>。ここまでは既に述べた条項からすぐさま解釈できることである<ref name="cmtr-p106-107" />。この第2段落は、企業組織再編の結果として普及行為が発生した場合、事業譲受会社が事業譲渡会社の本ライセンスの許諾一切を承継すると規定している。すなわち、この条項に従って事業譲受会社は、事業譲渡会社からGPLv3のライセンシーとしての立場を引き継ぐということを規定しているのである。従って事業譲受会社はあたかも事業譲渡会社の立場で例えば第6項の「対応するソース」を上流伝達者に請求することもできる。なおたとえ企業組織再編が発生しても普及を伴わないものであれば、本項の対象外となる。会社法で規定される[[会社分割]]([[b:第5編_組織変更、合併、会社分割、株式交換及び株式移転_(コンメンタール会社法)#3|会社法第757条~第766条]])、[[合併 (企業)|合併]]([[b:第5編_組織変更、合併、会社分割、株式交換及び株式移転_(コンメンタール会社法)#2|会社法第748条~第756条]])について、少なくとも日本において、両者は[[一般承継|包括承継]]であり、事業譲受会社が事業譲渡会社の法律関係をそのまま承継するため、ライセンシーとしての立場もそれと同じである<ref name="cmtr-p107">
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| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
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| pages = 107
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。その際本項の規定は不要である。

第10項第3段落では、「さらなる権利制限」の禁止と「特許非係争義務」というライセンスの終了とも関連する重要な事項について述べている。

ライセンシーは本ライセンスに基づいて許諾され、または確認された権利の行使に対して、本ライセンスが規定する以上の「''さらなる権利制限''」(''further restrictions'')を課してはならない。例えば、ライセンシーは本ライセンスに基づく権利の行使に対してライセンス料、[[ロイヤルティー|ロイヤルティ]]その他の対価を課してはならない(第10項第3段落第1文<ref name="cmtr-p107-108">
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| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 107-108
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| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。第7項第3段落で規定した追加的非許可条項に含まれない権利制限は全て「さらなる権利制限」となり、いずれもライセンス違反となる。ところで、その一例として「ライセンス料、ロイヤルティその他の対価」を徴収してはならないと書かれている。一見これは第4項第2段落、第6項第1段落小項b),d)その他と矛盾する内容に思える。しかし実は、本項は「本ライセンスの下でライセンシーに認められている権利行使」に対する課金を禁じているだけに過ぎない。「ソースコードの改変」などといったライセンシーに対しGPLv3で許諾されている改変行為に課金すること、GPLv3ソフトウェアを他のコンピュータにコピーした際に追加のライセンス料金を請求すること(「普及」行為への課金)、物理的マシン単位もしくは[[仮想機械]]、インスタンス単位でのソフトウェア利用へ課金すること(「普及」行為への課金やGPL承諾不要のプログラム実行への課金)などはいずれも、本来GPL違反にならない限り自由に行使してよいと定めているはずの行為に、不必要な制限を加えているので「さらなる権利制限」なのである。従ってこれらの行為に対する課金を禁ずる本項は、「伝達行為の課金を許可した」各項とは矛盾していない<ref>
{{cite web
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}}</ref>。

(第10項第3段落第1文より続き)また、ライセンシーは「''そのプログラム''」("''the Program''")の全体またはその一部の作成、使用、[[販売]]、販売の申出または[[輸入]]が[[特許]]を侵害することを理由として、訴訟([[交差請求]]<ref>
[[:en:Crossclaim|Crossclaim]]
</ref>及び[[反訴]]を含む)を提起してはならない(第10項第3段落第2文<ref name="cmtr-p108-109">
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| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 108-109
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| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。この規定を一般には「'''[[特許非係争義務]]'''」('''Non assertion of patent clause''', NAP. 特許不係争条項)と呼ぶ。非係争の対象となる作品は「''そのプログラム''」("''the Program''")、すなわち上流から受領したプログラム自体である(受領していないプログラムは無関係である)。また特許を持つ受領者は誰を訴えることができないのかについてであるが、それは条文中に明文化されていない。ただ本項の主旨から考えて少なくともそれには「下流の受領者」が含まれているのは間違いなく、仮に上流から受領した時点で自身の特許を侵害していることを察知し、それを知っておきながら故意に下流に伝達して、下流の受領者を訴える、などといった不道徳な行為を是正する働きがあるといえる。では、上流の伝達者や、特許を侵害するような改変点を組み込んだ当事者はいったいどうなるのかは、条文から明確な解釈はできない(提訴することでライセンス違反となるかは、誰を提訴できないかが明確化されていないため不明である。また、条文に書かれていないのであるから、全てのひとを対象としている、と考えるのも妥当といえる)<ref name="cmtr-p108-109" />。ちなみにセクション"[[#複製の受領の為の行為とその行使における許諾の不要|複製の受領の為の行為とその行使における許諾の不要]]"で少し述べたとおり、この義務はGPLv3の許諾が必要な行為(作品の改変、普及。第9項)を行使する、しないに限らずライセンシーが負うこととなるので、単なるプログラムの実行や組織内部での私的な改変を行っているだけでもその対象となっている。よって例えばプログラム実行時に自組織の特許侵害に気づいても訴訟は問題解決の手段として採用できない。これは自組織の持つ特許が自分たちの与り知らないところでGPLv3プログラムに混入していたとしても、全くもって問題を解決することはできない、という企業組織にとってはかなり頭痛の種となる条項である。次の第11項も特許権不行使を定めたものであるが、これは個人、団体、組織、企業など特許を持つ人物が積極的な改変を行った場合を想定しており(多くの企業によるコントリビューションから成る[[GNUコンパイラコレクション|GCC]]などはそのようなプロジェクトの例)、特許を有効活用する目的で、譲り渡すことを規定している。そのような場合はある程度自組織で特許権をコントロールできる可能性が高い。しかし、本項で対象となる特許は全てであり、あらゆる特許に関して訴訟による解決の放棄を迫っており、これも実質的な特許権不行使、特許開放にあたる<ref name="cmtr-p108-109" />。改訂プロセスでもこの条項はかなりの論争があったとされるが、企業が個人ユーザーを法廷に訴えるという脅迫行為をやめさせる目的で、FSFは一切妥協しなかった<ref name="dd1-rationale-ja" /><ref name="cmtr-p108-109" />。

=== 特許 ===
GPLv3では、以前のバージョンには存在しなかった特許に関する取り扱いが明文化されており、前述の第10項第3段落の「特許非係争義務」だけではなく、第11項でGPLv3で保護された作品に加えられた特許や第三者の特許の取り扱いを規定している。この条項によりGPLv3プログラムを受領するものはその不当な特許攻撃から概ね守られることとなる。

「'''貢献者'''」('''contributor''')とは、本許諾書の下で「本プログラム」、あるいは「プログラムを基にした作品」を使用出来るコピーライトを保持するものとする。このようにしてライセンスされた作品を貢献者による「''貢献者バージョン''」(''contributor version'')と呼ぶ(第11項第1段落<ref name="cmtr-p115-116">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 115-116
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。保護された作品(「本プログラム」と「プログラムを基にした作品」)の貢献者に該当するのは、保護された作品の個々のコピーライト保持者である。まず、「本プログラム」のオリジナル開発者、原著作者で本プログラムをGPLv3で利用することを許諾したライセンサーが当てはまる。上流の伝達者から受領しGPLv3のもと改変、それを再度伝達したものは、コピーライトを主張できる部分を持つ、すなわち改変点についてのコピーライト保持者となり、貢献者である。対照的に、上流の伝達者から受領した保護された作品に改変を一切加えず下流に横流ししただけの伝達者は、コピーライトを主張できる部分がないので、その作品に関しては貢献者ではない。貢献者バージョンとは貢献者のコピーライトを主張できる部分を持つ作品のバリエーションのことで、その作品全体を指す(コピーライトを主張できる部分に限定されるのではなく作品''全体''である)<ref name="cmtr-p115-116" />。貢献者バージョンは、保護される作品の対象よりも範囲が狭い。この二つの用語は、[[Mozilla Public License|MPL]]のある条項で定義されているものに類似している(1.2. "Contributor Version")<ref name="cmtr-p115-116" />。ここまでの定義ではほとんど「改変した者」や「改変バージョン」との違いが見当たらないが、以降の段落で規定されるとおり、貢献者は特許を保持していることが、一般の改変者とは違う点である。

ある貢献者の「'''必須[[特許請求の範囲|パテントクレーム]]'''」('''essential patent claims''')とは、取得済み、あるいは今後取得する予定があり、その貢献者が現在所有ないし「支配」("control")していると言える特許のうち、貢献者バージョンに対して、本ライセンスで許可されているような作成や利用、販売といった何らかの形の行為を行うことにより侵害される可能性がある[[特許請求の範囲|パテントクレーム]]のすべてと定義する。ただし、貢献者バージョンをさらに改変した結果としてのみ初めて侵害されるようなクレームは含まれない。この定義において、「支配」には本ライセンスが課す条件と整合的なやり方で特許の再許諾(サブライセンス)を認める権利も含まれる(第11項第2段落<ref name="cmtr-p116-120">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 116-120
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。「必須パテントクレーム」は、日本の[[特許法]]では、第七十条「特許発明の技術的範囲」<ref>
{{cite web
| url = http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S34/S34HO121.html
| title = 特許法(昭和三十四年四月十三日法律第百二十一号)
| publisher = [[総務省]]法令データ提供システム
| accessdate = 2011-05-02
}}</ref>に属する[[特許請求の範囲|請求項]](クレーム)の一つの類型となる<ref name="cmtr-p116">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 116
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。[[特許権侵害]]([[:en:Patent infringement|Patent infringement]])とは、「他者の特許権を無断で利用し業をなすことである」<ref>
{{cite web
| url = http://www.furutani.co.jp/cgi-bin/term.cgi?title=%93%C1%8B%96%8C%A0%90N%8AQ
| title = 特許権侵害
| publisher = www.furutani.co.jp
| accessdate = 2011-05-02
}}</ref><ref>
{{cite web
| url = http://www.meti.go.jp/policy/ipr/infringe/about/patent.html
| title = 特許権の侵害とは
| publisher = [[経済産業省]]
| accessdate = 2011-05-02
}}</ref>。通常、特許権侵害はパテントクレーム(特許クレーム、特許請求項)の[[直接侵害]]や請求項の[[文言侵害]]、[[均等論]]の法理下における侵害、[[間接侵害]]、[[寄与侵害]]など多岐に渡る(記事"[[特許権侵害訴訟]]"なども参照。この点をもって、[[ソフトウェア特許]]などに否定的な人物・団体からは激しく非難されている)。本段落ではGPLv3で許諾される行為を貢献者バージョンに対し行使することで特許権侵害にあたる請求項、パテントクレーム全てを、作品毎に「必須パテントクレーム」と定義している。必須パテントクレームには前述の条件に一致しかつ貢献者が現時点で保持しているもの、または将来取得予定のものも含まれる。また貢献者自身が保持していないがサブライセンスにより貢献者が授与されているパテントクレームも含まれる。しかし重要な例外があり、「貢献者バージョンをさらに改変した結果としてのみ初めて侵害されるようなクレームは含まれない。」という規定がある。よってある貢献者が上流の貢献者から作品を受領した時点、もしくはそれに'''貢献者自身で'''改変を加えて、その貢献者自身が保有する「特許を構成する要件」(これを「構成要件」と一般には定義される。侵害のケースで変化するが、「特許発明の技術的範囲」として具体的にパテントクレームに列挙される「請求項」という箇条書きの文言に合致する要件を備えている場合、文言侵害に当たる。この場合、箇条書きの文言に合致する要件が「構成要件」である)を備えた場合、両作品が必須パテントクレームに該当する''可能性''があるが、下流の貢献者の改変の時点で初めてパテントクレームに抵触した場合、そのようなクレームは「必須パテントクレーム」ではない。必須パテントクレームに含まれる、含まれないケースを考察するため以下のような例を採り挙げる<ref name="cmtr-p117-119">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 117-119
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref><ref name="gplv3-and-patents">
{{cite web
| url = http://nippondanji.blogspot.com/2010/11/gplv3.html
| title = 漢(オトコ)のコンピュータ道: GPLv3とソフトウェア特許
| date = 2010-11-25
| author = 奥野幹也
| publisher = nippondanji.blogspot.com
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。

各伝達過程にある作品とパテントクレームに抵触する可能性のある構成要素を定義する。
* 上流伝達者(upstream conveyer, UC)の作品 : W<sub>uc</sub>
* 特許保持者(patent holder, PH)の作品 : W<sub>ph</sub>
* 下流受領者(downstream recipient, DR)の作品 : W<sub>dr</sub>
* パテントクレームの構成要素 : C<sub>1</sub>, C<sub>2</sub>, C<sub>3</sub>
作品が伝達する流れは次の通りである。伝達過程はUC->PH->DRと考える。原著作者たるライセンサーからGPLv3のもと「本プログラム」を受け取ったUCは、構成要素C<sub>1</sub>を組み込んで「本プログラムを基にした作品」W<sub>uc</sub>に改変する。そしてUCはW<sub>uc</sub>をPHに伝達する。同様にPHはW<sub>uc</sub>に構成要素C<sub>2</sub>を組み込んで「本プログラムを基にした作品」W<sub>ph</sub>に改変し、DRに伝達する。DRは構成要素C<sub>3</sub>を組み込んで「本プログラムを基にした作品」W<sub>dr</sub>に改変する。各作品に対し「コピーライト」を及ぼす関係から、各人物それぞれの「貢献者バージョン」(すなわちコピーライトを及ぼす部分を持つ全体としての作品)は以下となる(○: 貢献者バージョン ×: 貢献者バージョンではない)。

{| class="wikitable" border="1" style="text-align:center; white-space:nowrap"
|+ 貢献者バージョン
! 人物&#x5C;作品 !! UC !! PH !! DR
|-
! W<sub>uc</sub>
| ○ || × || ×
|-
! W<sub>ph</sub>
| ○ || ○ || ×
|-
! W<sub>dr</sub>
| ○ || ○ || ○
|}

また伝達の過程にある各作品が備えるパテントクレームの構成要素は以下となる(○: 備えている ×: 備えていない)。

{| class="wikitable" border="1" style="text-align:center; white-space:nowrap"
|+ 作品の構成
! 作品&#x5C;構成 !! W<sub>uc</sub> !! W<sub>ph</sub> !! W<sub>dr</sub>
|-
! C<sub>1</sub>
| ○ || ○ || ○
|-
! C<sub>2</sub>
| × || ○ || ○
|-
! C<sub>3</sub>
| × || × || ○
|}

この時、PHの持つパテントクレームの構成要件を次のように定義する。
* 構成要件R<sub>1</sub>: C<sub>1</sub>+C<sub>2</sub>
* 構成要件R<sub>2</sub>: C<sub>1</sub>+C<sub>2</sub>+C<sub>3</sub>
* 構成要件R<sub>3</sub>: C<sub>1</sub>

上記の条件の下、PHのパテントクレームに抵触するケース、並びにPHに対する「必須パテントクレーム」に該当するしないを考察する。特許権を侵害するケースは多岐に渡るので、考察を容易にするため、文言侵害のみを考える。この場合は、構成要件が少なくとも一つでも欠ければパテントクレームに抵触しないことになる。

; パテントクレームの構成要件がR<sub>1</sub>であるとき : W<sub>uc</sub>は構成要件を欠いているので、R<sub>1</sub>に抵触しない。一方W<sub>ph</sub>とW<sub>dr</sub>はR<sub>1</sub>を満たす。よってDRが受領した作品W<sub>ph</sub>とそれを改変した作品W<sub>dr</sub>はパテントクレームの構成要件R<sub>1</sub>に抵触する。ところで、W<sub>ph</sub>とW<sub>dr</sub>はPHの貢献者バージョンであった。よって構成要件R<sub>1</sub>は作品W<sub>ph</sub>に対する、そしてW<sub>dr</sub>に対する「必須パテントクレーム」である。まとめると、W<sub>ph</sub>とW<sub>dr</sub>は「本ライセンスで許諾されている行為」により'''必須パテントクレームたる'''構成要件R<sub>1</sub>に抵触する作品である(第11項第3段落の規定により「必須パテントクレーム」であるかが非常に重要な救済の要件となる)。
; パテントクレームの構成要件がR<sub>2</sub>であるとき : W<sub>uc</sub>とW<sub>ph</sub>は構成要件を欠いているので双方共にR<sub>2</sub>に抵触しない。しかし、W<sub>dr</sub>はR<sub>2</sub>を満たすため、パテントクレームに抵触し、また同時に、PHの貢献者バージョンであるから、「必須パテントクレーム」、となるはずだが、これはまさに「貢献者バージョンをさらに改変した結果としてのみ''初めて''侵害されるようなクレーム」という例外規定に当てはまる。結論として、構成要件R<sub>2</sub>は作品W<sub>dr</sub>に対する必須パテントクレームではない。いいかえると、W<sub>dr</sub>は'''必須パテントクレームではない'''構成要件R<sub>2</sub>に抵触する作品である。
; パテントクレームの構成要件がR<sub>3</sub>であるとき : W<sub>uc</sub>、W<sub>ph</sub>、W<sub>dr</sub>は全て構成要件R<sub>3</sub>を満たす。しかし、W<sub>uc</sub>はPHの貢献者バージョンではない。よって構成要件R<sub>3</sub>はW<sub>uc</sub>に対する''必須パテントクレームではない''。いいかえると、W<sub>uc</sub>は'''必須パテントクレームではない'''構成要件R<sub>3</sub>に抵触する作品である。一方、W<sub>ph</sub>とW<sub>dr</sub>はPHの貢献者バージョンである。よって構成要件R<sub>3</sub>はW<sub>ph</sub>に対する、そしてW<sub>dr</sub>に対する''必須パテントクレームである''。まとめると、W<sub>ph</sub>とW<sub>dr</sub>は'''必須パテントクレームたる'''構成要件R<sub>3</sub>に抵触する作品である。

さて、このようなケースに対しGPLv3は下流の必須パテントクレームに対する特許権侵害を免責する条項を規定している。
各貢献者はライセンシーに対して、貢献者バージョンの内容の作成、利用、譲渡、譲渡の申し出、または輸入、並びに実行、改変、または普及を行う場合に必要となる必須パテントクレームを対象とする、非排他的かつロイヤルティフリー(無償)の全世界で有効なパテントライセンスを授与する(第11項第3段落<ref name="cmtr-p120">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 120
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。いいかえると、ある特許を持つ貢献者は、仮にその''下流の''受領者が必須パテントクレームに抵触した場合でも特許権を行使することは許されない。よって前述の例で特許に関する事象をまとめると、
# PHの持つ特許のパテントクレームの構成要件がR<sub>1</sub>であるならば、W<sub>ph</sub>、W<sub>dr</sub>を保有するDRはPHからR<sub>1</sub>のパテントライセンスを授与される。
# PHの持つ特許のパテントクレームの構成要件がR<sub>2</sub>であるならば、W<sub>dr</sub>を保有するDRはPHのパテントクレームに抵触、すなわち特許権を侵害する。
# PHの持つ特許のパテントクレームの構成要件がR<sub>3</sub>であるならば、W<sub>uc</sub>を保有するUCはPHのパテントクレームに抵触、すなわち特許権を侵害する。一方、W<sub>ph</sub>、W<sub>dr</sub>を保有するDRはPHからR<sub>3</sub>のパテントライセンスを授与される。

1.および2.は至極合理的な結果であり、1.については、自ら持つ特許を混入しておきながら、下流受領者を特許で脅迫するような暴挙をライセンスで封じることになる。2.については、特許権保持者に与り知らず無断で特許を組み込むことは特許権侵害行為であるのは当然である。奇妙な結果となるのは3.である。PHが受領した時点で既にPHの特許が侵害されているが、'''それをPHが発見したしないに全く関わらず'''、PHの責任で下流のDRに伝達することは、下流のDR(DRがその作品を伝達した場合は、さらに受領した下流の受領者も)に対し特許権を行使しないという責務を負うと解釈される。この3.の結果は特許権不行使を規定するその他のライセンス(例:[[IBM Public License|IPL]])と比べるとかなり異質である<ref name="cmtr-p119">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 119
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。また、必須パテントクレームであるか否かを考慮せず、PHの特許権を侵害するケースすべてに対し、実際にPHがこれを解決する手段に「訴訟」を選ぶことは注意を要する。構成要件がR<sub>2</sub>またはR<sub>3</sub>いずれの場合においても、PHが特許権侵害でDRを提訴した場合、第10項第3段落により、第8項第1段落のライセンス終了条件が発動、PHのライセンス終了につながる。(このためPHがライセンサーの保護された作品に改変を加えて伝達した事実から、ライセンサーにより著作権の遡及的な侵害で逆に提訴される可能性がある、というのはともかくとして、)このような場合、必須パテントクレームであるか否かで状況が一変する。まず、PHはライセンス終了によりライセンスで許諾された権利一切を喪失するが、一方下流のDRは第8項第4段落の規定により、ライセンスで許諾される権利は引き続き保護される。従って未だもって「必須パテントクレーム」を成すパテントライセンスがPHから授与されていることになる。これにより、'''PHのパテントクレームの構成要件がR<sub>3</sub>ならば、DRは裁判において、この事実が[[抗弁]]となる'''可能性が高い。一方、必須パテントクレームでなければ、パテントライセンスは授与されないから、'''PHのパテントクレームの構成要件がR<sub>2</sub>ならば、DRは前述のような抗弁はできない'''<ref name="cmtr-p120" />。

まとめると、GPLv3で保護されるソフトウェア開発プロジェクトに参加する人物、団体、企業などは、仮に彼らが保有する特許構成要素をそのソフトウェアに組み込んだ場合、もしくは既に組み込まれているが自らの責任で伝達した場合は、下流の受領者に対し、部分的に開放することになる。もしそれを避けたければ、彼ら自らの手でソフトウェアに特許構成要素を組み込まないようにすることになる。

ここまでは、特許保有者がGPLv3で保護される作品に改変を加えたり、直接の伝達者となるケースであった。今度はGPLv3の直接の貢献者や伝達者ではない、ライセンスの埒外に位置する第三者、外部の契約者の保有する特許についての取り扱いを規定する。

セクション"[[#バージョン3|バージョン3]]"で述べたとおり、GPLv3への改訂プロセス中に[[マイクロソフト]]と[[ノベル (企業)|ノベル]]が特許契約を締結したとの報道が舞い込んできた<ref name="enwp-ms-novell-agreement" />。両者が[[証券取引委員会|SEC]]へ提出した資料<ref name="sec-ms-novell-agreement" />や両社の[[プレスリリース]]<ref name="mspress-ms-novell-agreement" /><ref name="mspress-ms-novell-agreement-ja" /><ref name="novellpress-ms-novell-agreement" />によると、[[Microsoft Windows]]と[[SUSE]] Linux Enterprise Severの[[相互運用性]]を高めるとの名目で互いにロイヤルティーを支払い、その見返りに互いの(互いの顧客も含む)特許権侵害を見逃す、すなわちパテント[[クロスライセンス]](特許相互許諾)を付与するという契約を締結したとされる。このマイクロソフト-ノベル間の特許ライセンス契約は、GPLのライセンス埒外にいるマイクロソフトと、GPLのライセンシーであるノベルが、その他多くのGPLのライセンシーを差し置いて、自分たちのみが特許攻撃を回避、ライセンシーを不当に差別する不公平な特許契約であるといえる。以下の段落では、その他のライセンシー、受領者を不当に差別するような特許契約を締結させないようにすること、そして特定のライセンシーが締結した場合の対抗措置が定められている。

以下の3つの段落において「''パテントライセンス''」(''patent license''、[[特許ライセンス]]、特許許諾)とは、名称に関わらず、特許権を行使しないという明示的な契約または誓約(''commitment''、コミットメント)(ある特許の明示的な実施許可、または特許権侵害訴訟を提起しないことに合意する非係争条項等)のすべてをいう。そのようなパテントライセンスをある当事者に「授与する」(''grant'')とは、相手方当事者に対して特許権を行使しないという契約締結または誓約を指す(第11項第4段落<ref name="cmtr-p120-121">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 120-121
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。前段落で既に使用していた用語「パテントライセンス」を再度定義しなおしている。これは特許権不行使を述べた契約、[[覚書|メモランダム]]など、名前によらず特許権不行使を述べているものは全て該当する。また特許権侵害訴訟の不行使を要求する[[特許非係争条項]](Non assertion of patent clause, NAP)も含まれる。パテントライセンスを授与するとは、該当特許の権利不行使を意味する。よって「特許ライセンス契約」を締結する場合も本段落の対象となる。

保護された作品が「''パテントライセンスに依存していることを知りながら''」("''knowingly relying on a patent license''")伝達する場合において、保護された作品の「対応するソース」が公衆が利用可能なネットワークサーバまたは他の容易にアクセス可能な手段を通じて、無料かつ本ライセンスに基づいて複製可能ではない場合、ライセンシーは、以下の3つのいずれかの措置を取らなければならない。
* (1) 対応するソースを先述した規定(本段落第1文)に従い利用可能とする。
* (2) ライセンシー自身、保護された作品に関してそのパテントライセンスにより得られる利益を放棄する。
* (3) 本ライセンスの規定に適合する条件で、下流の受領者にもパテントライセンスが拡大適用されるようにする。
ここで「パテントライセンスに依存していることを知りながら」とは、ある国においてパテントライセンスなくして保護された作品を伝達、またはライセンシーの下流の受領者が保護された作品を利用すると、その国における特定の特許権を侵害することに繋がるということ、及びその特許権が有効であると信ずるべき合理的理由が少なくとも一つ以上あること、以上のケースいずれについて、ライセンシーが実際に知っていることを指す(第11項第5段落<ref name="cmtr-p121-122">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 121-122
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。「パテントライセンスに依存していることを(実際に)知りながら」というケースは具体的には、
* 侵害している特許の特許番号を認識すること。
* 特許のいずれの[[特許請求の範囲]](特許クレーム、パテントクレーム、請求項、構成要件)に抵触するかを把握すること。
* 請求項について無効事由がないと判断できること。
など、侵害を示す有効な事実を知っている場合が当てはまるとされる<ref name="cmtr-p121-122" />。調査のコストに比し、このようなことを「知っている」とされる受領者はかなり限定される。また[[クロスライセンス]]契約に基づく特許権を侵害していた場合は、「基本特許」が包括的で広範囲なものとなる場合が多く、侵害の事実を「知る」人物はさらに限定される。誤解を恐れず言うと、例えばある特許を侵害しているとされる著作物を受領したものが、特許被侵害者から直接、間接問わず働きかけられ、その事実を「知った」場合が最も多いと想定される。講ずる措置(1)は、本段落のもともとの大前提となっている条件であり、この措置を実施することで、少なくとも受領者はGPLv3に従って改変できる故、''理論上は''特許権侵害を回避できる。もし対応するソースを開示伝達しなければ、「侵害事実を知っている」ライセンシー以外は特許攻撃を受けてしまう。措置(2)は、下流の受領者に特許攻撃の危険をはらむ物を伝達しておきながら、自らは回避しようとし、受領者を保護しないという[[不作為]]に対し、そのような行為を直接やめさせる措置である。措置(3)は全ての受領者を特許権保護下におくことで、全ての受領者への特許攻撃を回避する措置である。いずれもライセンシーの実施コストが大きい、もしくは全く実現しない可能性が高いが、相対的に措置(1)は講じ易いとみられる<ref name="cmtr-p121-122" />。

ある''一対一の''(''単一の'', ''single'')取引や協定に基づき、あるいはそれに関連しライセンシーが保護された作品の伝達、または伝達によって引き起こされる普及を行う場合、保護された作品を受領した一部の当事者に対して、保護された作品の特定の複製の利用、普及、改変、または伝達する権限を持つパテントライセンスを授与するならば、ライセンシーが授与したそのパテントライセンスは保護された作品や「保護された作品を基にした作品」の全ての受領者にまで自動的に拡大されるものとする(第11項第6段落<ref name="cmtr-p122">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 122
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。受領者の行為如何に関わらず、ある特定のライセンシーが締結した''全ての''パテントライセンスが''全''受領者に自動拡大されるというのが本段落の内容である。ある組織が別の組織(やその顧客)のみを対象に、自組織の持つ特許侵害を特別に赦すのであるならば、そのような契約を締結していない人物、団体、企業などにも譲歩してしかるべきであるというのが本旨である。仮に特許侵害訴訟を受けた受領者は本規定を抗弁にできる可能性が高い<ref name="cmtr-p122" />。

あるパテントライセンスが「''差別的''」(''discriminatory'')であるとは、本ライセンスの下で明確に認められた一つかそれ以上の権利を、パテントライセンスがカバーする範囲内に含めなかったり、そうした権利の行使を禁じたり、あるいは権利不行使を条件として課すようなものである場合を指す。本ライセンスのライセンシーを一方の当事者とし、ソフトウェアの頒布をなりわいとする第三者との間で、ライセンシーは第三者に対し、保護された作品を伝達する活動の程度に基づいて対価を支払う一方、その第三者は、ライセンシーから保護された作品を受領したすべての当事者に対して、
* (a) ライセンシーが伝達した「保護された作品」の複製(またはそうした「保護された作品」から作成された複製)を対象として、または
* (b) 保護された作品を含む特定の製品や''それと他のものとを同梱したもの''(''編集物''、''compilation''。第5項参照)を、主要な、あるいは関連した対象として授与する、
という「差別的」なパテントライセンス、またはそれに類似する協定を結んでいる場合、ライセンシーは保護された作品を伝達することはできない。ただし、ライセンシーがそのような協定を締結したり、パテントライセンスを授与されたのが[[2007年]][[3月28日]]より以前である場合は本節の例外とする(第11項第7段落<ref name="cmtr-p123">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 123
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。特許攻撃から回避できるようなパテントライセンスを授与し、残りのGPLv3プログラム受領者を特許攻撃に晒したまま「差別」するような不公平な遣り口に対し、そのような誘惑に陥ってしまったライセンシーには報復措置を加えるのが本項第7段落の主旨である。本項第6段落ではそのような差別的パテントライセンスを自発的に結ばせないことを期待しそれを無効化するアプローチを取ったが、本段落は、差別的特許契約を締結したライセンシーからGPLの権利一切を積極的に剥奪する。差別的特許契約の締結対象である第三者は「ソフトウェアの頒布をなりわいとする第三者」、すなわちソフトウェアを頒布(販売など)するまたはソフトウェア専業である人物、企業、団体、組織などに限られる。このことからソフトウェアを一切取り扱わない人物、企業、団体、組織(例: ハードウェア専業企業、ITとは別業種の企業)などは対象外となる。また(b)で「保護された作品を含む特定の作品」とあるが、「本第三者」はソフトウェア専業に限っていないので、例えばハードウェア製品に保護された作品を組み込むケースも該当する。注意すべきこととして、条件(a), (b)は共に特定(''specific'')の製品を対象としていることから、製品が特定されていないパテントライセンス(例えば、クロスライセンス契約は前述の通り、包括的な技術提携など、特定の製品に限定しないものがある)は本規定の対象ではないとSFLCは述べている<ref name="cmtr-p123" />。最終文の[[既得権条項]]([[:en:Grandfather clause|Grandfather clause]])の期限日は、本条項が初めて導入された第3次議論用草稿の公表日当日(2007年3月28日 [[東部夏時間|EDT]])である<ref name="gplv3dd3-released" />。本条項導入のきっかけとなったマイクロソフトとノベルの行いは目溢しを受けたが、その後ノベルに倣って同様の契約を結んだものは対象となる(例: [[Xandros]]<ref>
{{cite web
| url = http://cloud.watch.impress.co.jp/epw/cda/foreign/2007/06/05/10433.html
| title = 米Microsoft、次はXandrosと提携-対Linux特許提携戦略
| date = 2007-06-05
| publisher = cloud.watch.impress.co.jp
| accessdate = 2011-05-03
}}</ref>)。

第8段落は以下の通りである。
本ライセンスのいかなる条項や記述は、準拠法国の特許法において、黙示的ライセンスやその他認められ得る特許侵害に対する防御手段を否定しまたは制限する意図と解釈してはならない(第11項第8段落<ref name="cmtr-p123" />)。特許に対し暗黙的立場であったGPLv2は、GPLv3の本項を[[法解釈#反対解釈|反対解釈]]したものではない、ということを改めて主張している。即ち「GPLv3のソフトウェアで'''あれば'''特許は'''制限される'''」という事実に対し、「GPLv3のソフトウェアで'''なければ'''(→GPLv2のソフトウェアならば)特許は'''制限されない'''」というのは誤解である。GPLv2第7節でもその第1段落、第3段落で特許権行使による[[#他者の自由を明け渡してはならない|他者の自由の不当な制限]]を(直接的ではないにしろ)禁じている。

=== 他者の自由を明け渡してはならない ===
本ライセンスの条件と矛盾する何らかの条件(裁判所の[[命令 (裁判)|命令]]や契約・協定など、その他)がライセンシーに課されたとしても、ライセンシーが本ライセンスの条件を免れることにはならない。ライセンシーが保護された作品を、本ライセンスが課す義務と他の関連した義務の両方を同時に満たすような形で伝達できないのであれば、結果としてライセンシーがそれを伝達することは完全に不可能ということになる。例えばライセンシーが、自身で「本プログラム」を伝達した人々がさらに行う伝達するその行為に対して、彼らからロイヤルティを徴収するような義務を負う条項に同意していた場合、ライセンシーがその条項と本ライセンスの両方を満たす唯一の方法は、「本プログラム」の伝達を完全に停止することである(第12項<ref name="cmtr-p125-126">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 125-126
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。いわゆる「'''自由か然らずんば死を'''」条項<ref name="dd1-rationale-ja" />である。例として挙げられているのは、GPLv3で許諾された「本プログラム」を利用するもの(下流の受領者)から、''利用''料金としてロイヤルティを徴収するような別の契約を(著作権者であるライセンサーなどと)締結することである。このようなロイヤルティの徴収は、第10項第3段落からライセンス違反となるのは既に述べた。よってこのようなGPLv3と矛盾する契約を締結した後、ライセンス違反とならないようにするためには「本プログラム」の伝達を中止する他ない。本項はこのことの再確認である。本項の題目にある「''他者''の自由を明け渡してはならない」(No Surrender of ''Others''<nowiki>'</nowiki> Freedom)の「他者」とはライセンシーに対する'''下流の受領者'''のことを指している。ライセンシーが下流の受領者にプログラムを伝達しつつも、他方[[フリーソフトウェア]]の[[自由]](改変やプログラム実行の自由など)を不当に制限する契約を受領者に強要することを禁じているのである<ref name="cmtr-p125-126" />。第11項で述べた「差別的特許契約」(差別的パテントライセンス)も契約の対象とならない他多数の受領者の「自由を(特許侵害訴訟で)明け渡す」ことになるので、本項で制限対象となる契約の一つである<ref>
{{cite web
| url = http://sourceforge.jp/magazine/journals/mhatta/407
| title = MSとNovellの提携について
| date = 2006-11-06
| author = [[八田真行]]
| publisher = [[SourceForge.JP]]
| accessdate = 2011-05-03
}}</ref>。その他GPLと矛盾する契約の最たるものが、ソースコード非開示を強要する[[秘密保持契約]](Non disclosure agreement, NDA)である<ref name="cmtr-p125-126" />。余談ではあるが、本項と対応するGPLv2の節は第7節である。しかし「第7節の規定の一部が無効もしくは強制(エンフォース)不可能という場合は残りの部分が適用される」といういわゆる''限定的[[分離条項]]'' (limited [[:en:Severability|severability clause]])が消滅している。第1次議論用草稿趣旨説明書によると、この条項があると裁判においてライセンスの一部分が確実に認められる可能性は高まるが、同時にライセンス全てが認められなくなってしまう。よってむしろこの条項を削ったほうが、法廷にてライセンス全部を認めてもらえる、ということを期待して削ったとのことである<ref name="dd1-rationale-ja" />(ただ逆に全部却下されるという危険性も増大した)<ref name="cmtr-p126">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 126
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。

=== GNU Affero 一般公衆利用許諾書との利用 ===
本ライセンスのいかなる他の条項に関わらず、ライセンシーは保護された作品をGNU Affero 一般公衆利用許諾書バージョン3に基づいて許諾された作品とリンクまたは結合して単一の結合された作品とすること、及びその結果として作成された作品を伝達することができる。本ライセンスの条項は、その結合された作品全体における、保護された作品の部分に対しては引き続き適用されるが、結合された作品それ自体としては、GNU Affero 一般公衆利用許諾書の特定の条件、すなわちネットワーク上の''相互作用''(やり取り、インタラクション、''interaction'')に関する第13項も適用される(第13項<ref>
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 129-130
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。

[[Affero General Public License|AGPL]]はいずれのバージョンもGPLv3と原則両立しない。AGPLv3では"13. Remote Network Interaction"(「第13項 リモートネットワーク上の相互作用」)という規定があり、要約すると「ネットワーク相互作用を通じて保護された作品にアクセスするユーザーに、対応するソースを伝達しなければならない」{{ref label|agplv3-remote-network-interaction|B|B}}ということを規定している。一方、GPLv3ではウェブアプリケーションとして使用しかつそのオブジェクトコードを伝達しない場合(第0項第7段落では、「コンピュータネットワーク越しにユーザとやりとりするだけで、コピーの転送を伴わない場合」と規定していた<ref>
ちなみにあるGPLv3ソフトウェアが一見してネットワーク上の相互作用を提供しているだけだからといって第4項、第5項、第6項の義務を免れる、とはいえないケースがあることに注意しなければならない。[[JavaScript]]などは[[HyperText Markup Language|HTML]]に埋め込むなり、scriptタグで呼び出すなりで、結合した作品の伝達にあたるから、仮にあるJavaScriptがGPLv2またはGPLv3でリリースされていた場合、改変した場合に対応するソースを伝達する義務が生じる。ちなみにこのJavaScriptの非フリー性をFSFは危険視している。
{{cite web
| url = http://www.gnu.org/philosophy/javascript-trap.html
| title = The JavaScript Trap
| author = [[リチャード・ストールマン|Richard Stallman]]
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-05-01
}}</ref>)は、GPLv3の義務(例えば、第6項: 対応するソースの伝達 の規定)に従う必要はなかった。よってAGPLv3第13項はGPLv3で「規定されていない追加的非許可条項」すなわち「さらなる権利制限」に相当するため両立しないライセンスなのである。このような非互換性を回避する目的のもと、GPLv3第13項でAGPLv3の作品とGPLv3の作品のリンクや結合を意図的に許可している。とは言え相互再ライセンスは許可されないので、AGPLv3とGPLv3が完全に両立するわけではないから、両者の[[ソースコード]]を混合して頒布することは出来ない(バイナリコードならば問題ないが)という点には注意すべきである<ref name="cmtr-p129">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 129
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。結合された作品は全体として(GPLv3のコード部分も含めて)"Remote Network Interaction"条項に従う必要がある。個々のコピーライト保持部分はそれぞれ、GPLv3、AGPLv3で保護されたままとなる。

"Remote Network Interaction"条項が実際に適用されるか否かは、「ネットワーク上の相互作用」の有り無しに係ってくる。ネットワーク上の相互作用を提供するソフトウェアは、[[コンテンツマネージメントシステム|CMS]]が一例として挙げられる。ネットワーク上の相互作用でこれらにアクセスするユーザーに対し、CMSがGPLv2でリリースされている場合は改変バージョンの対応するソースを公開する必要はない。GPLv3ならば、仮に他のAGPLv3ソフトウェアと結合、リンクしている場合は両ソフトウェア全体として、改変バージョンの対応するソースを伝達することになる(そうでなければ、対応するソースを伝達する必要はない)。AGPLv3ならばいかなる場合でも改変バージョンの対応するソースを伝達することになる。一方、GPLv3プログラムを組み込んで、GPLv3で保護される[[Secure Shell|SSH]]サーバを作成、さらにAGPLv3でリリースされるCMSと連携するため両者を「結合」した場合(技術的に詳しくないユーザーの為に[[ユーザビリティ]]を向上する目的で、[[ウェブブラウザ|ブラウザ]]による[[フロントエンド]]・[[インタフェース (情報技術)|インタフェース]]を設置することは一般的である)、果たしてSSHサーバ部分まで対応するソースを公開する必要があるか、というのはよくあるケースである。SFLCによるとCMS部分はAGPLv3に従って対応するソースを伝達する必要があるのは当然だが、SSH部分は専らユーザー同士のインタラクティブなインタフェースを提供しているわけではないので、"Remote Network Interaction"条項には当てはまらない<ref name="cmtr-p129" />。よってSSH部分については伝達する必要はないと述べている。

ちなみに、条文の文字を実際に読むなり、[[diff]]コマンドで両条文テキストに行差分をかけて見ただけでも分かるとおり、第13項を除けばAGPLv3はGPLv3の完全な複製であることが理解できる。前文の一部やライセンス名称の違いなどの瑣末な点、条項の外に書かれているソースコードのネットワークインタラクティブな伝達の方法を勧める旨の規定ぐらいしか相違点が存在しないほどである。またAGPLv3第13項にGPLv3第13項の裏返しとなる規定が(当然ながら)なされている{{ref label|agplv3-remote-network-interaction|B|B}}。

{{note label|agplv3-remote-network-interaction|B|B}}AGPLv3の非公式日本語訳が存在しないため、第13項のみ、以下あくまで私的に翻訳したものを、非公式訳として、参考までに記載する。用語の定義はAGPLv3第0項、その他条項に定義されているが、一字一句GPLv3と同じなので省略する(例えば、「本ライセンス」はAGPLv3を指すなど)。

{{quote|13. リモートネットワーク上の相互作用; GNU 一般公衆利用許諾書との同時適用

本ライセンスのいかなる他の条項に関わらず、仮にあなたが「本プログラム」を改変した場合、あなたによって「改変されたバージョン」は(あなたの作成したバージョンがそのような、ネットワーク上でやりとり、相互作用をサポートするものであるならば)コンピュータネットワークを通じて遠隔的に相互作用を行う全てのユーザーに対し、ある種の標準的あるいはソフトウェアの複製に適した通常の手段を利用しネットワークサーバから無料で「保護された作品」の「対応するソース」へのアクセスが提供されることによる、あなたのバージョンの「対応するソース」を受け取る機会が目立つ形で提供されていなければならない。この「対応するソース」とは次の段落の条文に従い、GNU 一般公衆利用許諾書バージョン3が適用されるすべての「保護された作品」のための「対応するソース」も含むものとする。

本ライセンスのいかなる他の条項に関わらず、あなたは保護された作品をGNU 一般公衆利用許諾書バージョン3に基づいて許諾された作品とリンクまたは結合して単一の結合された作品とし、かつその結果として作成された作品を伝達することができる。本ライセンスの条項は,その結合された作品に含まれる、保護された作品の部分に対しては引き続き適用されるが、その結合された作品は引き続きGNU 一般公衆利用許諾書バージョン3の基にあるものとする。
}}

=== 本ライセンスの改訂されたバージョン ===
フリーソフトウェア財団は、改訂された、あるいは新しいバージョンの GNU 一般公衆利用許諾書を折りに触れて発行することができる。そのような新バージョンは、その精神においては現在のバージョンと似たものになるだろうが、細部については新たな問題や懸念を解決すべく異なるものになる可能性もある(第14項第1段落<ref name="cmtr-p134">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 134
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。GPLは前文で「条文の完全な複製と頒布は許可するが変更は不可」としているため、本段落の規定も考慮すると、GPLの新しいバージョンは常にライセンス条文の著作権者であるFSFから発行される。

それぞれのバージョンには、見分けがつくようなバージョン番号が振られている。本プログラムに、ある特定のバージョン番号が振られたGNU 一般公衆利用許諾書「か、またはそれ以降のバージョンのいずれか(or any later version)」が適用されると指定されていた場合、ライセンシーは指定された番号のバージョンか、またはそれ以降にフリーソフトウェア財団によって発行されたバージョンのどちらの利用条件に従うかを選ぶことができる。本プログラムが本ライセンスのバージョン番号を指定していなかった場合には、ライセンシーはフリーソフトウェア財団がそれまでに発行したバージョンの中からどれを選択しても構わない(第14項第2段落<ref name="cmtr-p134-135">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 134-135
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。ライセンスリリースされた時期によらず、適切な指定があればライセンシーがライセンスのバージョンをあるバージョン以降で任意に選べる。将来新しいライセンスが発行された場合、それを自動的に選択するような方法(any later version)も採用できる。バージョン指定がなければ任意のバージョンを指定できる。ライセンサーが特定のライセンスバージョンを指定する場合、ライセンシーもそれに従う必要がある。そしてそのような場合は自動的にバージョンアップされない。詳しくはセクション"[[#両立性とマルチライセンス|両立性とマルチライセンス]]"を参照せよ。

本プログラムにおいて、GNU 一般公衆利用許諾書の将来のバージョンのうちどれが適用され得るかは代理人が決定できる、と指定されていた場合、その代理人が、あるバージョンを受諾すると述べた公的な声明は、ライセンシーに対し、そのプログラムに関してそのバージョンのGNU GPLを選ぶことを永続的かつ正式に許可するのと等しい(第14項第3段落<ref name="cmtr-p135">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 135
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。このような「代理人」の例はFLOSS開発プロジェクトの[[リーダーシップ|指導者]]である。プログラムの個々の著作権者がライセンスを指定できるのは、著作権法の要請するところだが、一方GPLは両立しないライセンスとの混合を許さない(GPLv2とGPLv3が両立しないのは前述した)ので、代理人が一括してバージョンを決定できるようにしたほうが都合がよい。またこれにより特定のバージョンのみをピンポイントで選択できる利点がある(any later version方式ではこのようなことはできない)。注意すべき部分は、次の文言「将来のバージョンのうちどれが適用''され得る''か(''can be used'')」である。代理人がバージョンを変更しないことも許されている。

本ライセンスの以後のバージョンでは、ライセンシーに追加的な(additional)な、または従来とは異なる形式の許可条項(permissions)が与える可能性がある。しかし、著作権者やコピーライトを保持するものに対し、ライセンシーが以後のバージョンに従うことを選んだ結果として、追加的な義務が課せられることはない(第14項第4段落<ref name="cmtr-p135-136">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 135-136
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>)。将来のバージョンに自動的にアップグレードした場合、そのバージョンで初めて導入される「追加的許可条項」やその他異なる扱いの許諾などは、適用されず破棄されるということを定めている。例えばGPLv2とGPLv3の相違点を考える。大きな違いは特許の取り扱いであった。GPLv3のパテントライセンス付与は極めて強力な権利であるが、"GPLv2 or (at your option) any later version"で頒布したプログラムのライセンサーが、許諾時点でこのようなことを想定していないのは容易に想像できる。そのようなことがライセンサーの許可なく執行されることはないという規定である<ref name="dd4-rationale" />。さて、ライセンシーは前述したそのプログラムをGPLv2ではなくGPLv3で伝達することは可能である。ここで仮にライセンシーが下流の受領者に伝達した場合、ライセンシーはその受領者に対して、''ライセンシーの持つ特許のパテントライセンスを付与している''。ライセンシーが"GPLv2 or (at your option) any later version"というライセンサーの許諾からGPLv3に一本化しているのだから、ライセンシーは下流の受領者に完全な形のGPLv3で許諾しているのである。その他反[[TiVo化]]条項(第6項第3段落~第7段落)によるインストール用情報の請求もライセンサーには請求できないが、プログラムを組み込んだユーザ製品を伝達すれば、逆に下流の受領者からインストール用情報の提供がライセンシーに求められる。ライセンシーの得られる権利は少なくなるが、与える権利は変化がないという当然の帰結である。本段落では明文化はされていないが、ライセンシーが特定のバージョンに一本化することなく、"any later version"を表明していた場合は、同様の規定となる<ref name="cmtr-p136">
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 136
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。

=== 無保証性 ===
==== 保証の否認 ====
第15項では、[[準拠法]]国における[[強行法規]]によって[[保証]]が義務づけられている場合(ただしそれが「準拠法の下で認められる限りにおいて」)、および当事者間で書面による合意を締結した場合を除き、GPLv3プログラムの性能や品質の保証をコピーライト保持者やその他当事者は一切行わない旨述べている。「''これと異なる書面による定めがなされる場合を除き''」("''EXCEPT WHEN OTHERWISE STATED IN WRITING''")というのは、第4項第1段落、セクション"[[#忠実な複製の伝達|忠実な複製の伝達]]"で説明した条件3.に当てはまる追加的非許可条項としての保証の告知が存在する場合を想定している。条件3.に相当する告知は、第4項第1段落の条件2.に従って当該告知を保全しなければならないため本項の対象外となる。またプログラムの品質や性能に関するリスクはすべてライセンシーに帰属する。プログラムに[[瑕疵]]があると判明した場合、ライセンシーはすべての保守、修補、修正にかかる必要なコスト、費用を負わなければならない。ライセンサー、伝達者は(ライセンシーの用途を予測できないから)一切その[[責任]]を負わない<ref>
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 137-138
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。余談だが第15項、第16項の条文が全て大文字なのは、[[統一商事法典]]2‐316条において、黙示の保証を排除する場合はそれを目立つように記載すべき、と定められているためである<ref>
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 138
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。

==== 責任の限定 ====
第16項では、準拠法国における強行法規によって[[損害賠償|賠償責任]]が義務づけられている場合(ただしそれが「準拠法の下で認められる限りにおいて」)、および当事者間で書面による合意をした場合を除き、GPLv3プログラムの瑕疵に起因して生じた損害について、コピーライト保持者やプログラムを改変した者、保護された作品を伝達した者といった当事者は一切賠償責任を負わない。たとえ、そのような瑕疵をそのような当事者に事前に通知していても同じであり、彼らが補修する義務はない<ref>
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 139-140
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。

==== 補足事項 ====
第17項では、第15項、第16項に対する補足事項を述べている。準拠法国の強行法規等により第15項、第16項の規定が覆された場合、[[民事法|民事]]上の責任の絶対的な放棄に最も近い法、すなわちコピーライト保持者や伝達者等が負担する責任の最も軽い法が、''裁判官によって''選択・適用されるべきであると述べている。ただし、コピーライト保持者や伝達者等が本プログラムを''有償''で譲渡し、それに伴い保証や賠償責任を負担することを合意している場合は、本項の例外とする。プログラムの有償譲渡(販売)は、保証、賠償責任も込みで成されることが多いからであるとみられる<ref>
{{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| pages = 142
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}</ref>。
}}</ref>。


== 批判 ==
== 批判 ==
=== マイクロソフト ===
=== マイクロソフト ===
[[2001年]]、[[マイクロソフト]] [[最高経営責任者|CEO]][[スティーブ・バルマー]]は、[[GNU/Linuxシステム|GNU/Linux]]のことを「[[知的財産権]]の意味において、触れるもの全てにくっつく[[癌]]である」と呼んだ<ref>
[[2001年]]、[[マイクロソフト]][[最高経営責任者|CEO]][[スティーブ・バルマー]]は、[[GNU/Linuxシステム|GNU/Linux]]のことを「[[知的財産権]]の意味において、触れるもの全てにくっつく[[癌]]である」と呼んだ<ref>
{{cite news
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| first = Dave
| first = Dave
1,210行目: 2,584行目:
| url = http://www.theregister.co.uk/2009/07/20/microsoft_windows_drivers_linux/
| url = http://www.theregister.co.uk/2009/07/20/microsoft_windows_drivers_linux/
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| accessdate = 2011-03-29
}}</ref><ref>
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| url = http://sourceforge.jp/magazine/09/07/21/0342227
| title = 米Microsoft、「Hyper-V」LinuxドライバをカーネルコミュニティにGPLv2で提供
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| accessdate = 2011-04-25
}}</ref>。ただし、提供されたコードの一部に相当するLinux用の[[Hyper-V]]ドライバコードが、GPLのもとライセンスされている[[オープンソース]]・[[ソフトウェアコンポーネント|コンポーネント]]を利用しており、当初[[プロプライエタリ・ソフトウェア|プロプライエタリ]]な[[バイナリ]]部分と[[静的リンク]]していた。後者はGPLライセンスソフトウェアに対するライセンス違反である<ref>
}}</ref>。ただし、提供されたコードの一部に相当するLinux用の[[Hyper-V]]ドライバコードが、GPLのもとライセンスされている[[オープンソース]]・[[ソフトウェアコンポーネント|コンポーネント]]を利用しており、当初[[プロプライエタリ・ソフトウェア|プロプライエタリ]]な[[バイナリ]]部分と[[静的リンク]]していた。後者はGPLライセンスソフトウェアに対するライセンス違反である<ref>
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}}</ref><ref>
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| title = 米MicrosoftのLinuxドライバ公開の真相――当初GPL違反だった?
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| publisher = [[SourceForge.JP]] Magazine
| accessdate = 2011-04-25
}}</ref>。
}}</ref>。


1,240行目: 2,628行目:


==== 「ウイルス」性 ====
==== 「ウイルス」性 ====
マイクロソフトの[[シニア・バイス・プレジデント]] [[クレイグ・マンディ]]は、GPLはプログラム全体を譲渡することしか許諾せず、これは、[[プログラマ]]に、GPLと両立しないライセンスの[[ライブラリ]]と[[GPLリンク例外|リンク]]するプログラムを譲渡することを許諾しないことを意味する故、GPLは「[[ライセンス感染|ウイルス的]](''viral'')である」と評した<ref>
マイクロソフトの[[シニア・バイス・プレジデント]][[クレイグ・マンディ]]は、GPLはプログラム全体を譲渡することしか許諾せず、これは、[[プログラマ]]に、GPLと両立しないライセンスの[[ライブラリ]]と[[GPLリンク例外|リンク]]するプログラムを譲渡することを許諾しないことを意味する故、GPLは「[[ライセンス感染|ウイルス的]](''viral'')である」と評した<ref>
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1,247行目: 2,635行目:
| publisher = www.microsoft.com
| publisher = www.microsoft.com
| accessdate = 2011-03-29
| accessdate = 2011-03-29
}}''[[クレイグ・マンディ]]、Microsoft Senior Vice Presidentによる意見準備稿''、商用ソフトウェアモデルについて。</ref>。この所謂「ウイルス的」効果とは、組み合わせることを考えているソフトウェアの、複数のライセンスのうち一つが変更されないならば、そのような状況下で、異なる別のライセンスで許諾されるソフトウェアと組み合わせることができないことを指す。ライセンスのいずれか一つは理論上変更することはできるけれども、「ウイルス的」なる考えの筋書きによれば、GPLは事実上撤回することは出来ない(なぜなら、GPLソフトウェアには通常極めて多くの''貢献者''(''contributors'')の存在があるが、彼らの幾人かはこの決定をおそらく拒絶するだろう)。他方、他のソフトウェアのライセンスは実際には''可能''なのである。[[リチャード・ストールマン]]によると、「ウイルス」という描写は単なる侮辱だけではなく、誤解でもあるとしている。GPLのもとリリースされるソフトウェアは、他のソフトウェアを、決して「攻撃」したり「感染」などしない。むしろ、GPLで保護されるソフトウェアは、[[オリヅルラン]]のようなものである、と述べている。だれかが、GPLで保護されたソフトウェアのコード断片を持ち帰り、どこかよそへそれを組み込んだならば、GPLで保護されるソフトウェアもまた、そのどこかで成長するのである<ref>
}}''[[クレイグ・マンディ]]、Microsoft Senior Vice Presidentによる意見準備稿''、商用ソフトウェアモデルについて。</ref>。この所謂「ウイルス的」効果とは、組み合わせることを考えているソフトウェアの、複数のライセンスのうち一つが変更されないならば、そのような状況下で、異なる別のライセンスで許諾されるソフトウェアと組み合わせることができないことを指す。ライセンスのいずれか一つは理論上変更することはできるけれども、「ウイルス的」なる考えの筋書きによれば、GPLは事実上撤回することはできない(なぜなら、GPLソフトウェアには通常極めて多くの''貢献者''(''contributors'')の存在があるが、彼らの幾人かはこの決定をおそらく拒絶するだろう)。他方、他のソフトウェアのライセンスは実際には''可能''なのである。[[リチャード・ストールマン]]によると、「ウイルス」という描写は単なる侮辱だけではなく、誤解でもあるとしている。GPLのもとリリースされるソフトウェアは、他のソフトウェアを、決して「攻撃」したり「感染」などしない。むしろ、GPLで保護されるソフトウェアは、[[オリヅルラン]]のようなものである、と述べている。だれかが、GPLで保護されたソフトウェアのコード断片を持ち帰り、どこかよそへそれを組み込んだならば、GPLで保護されるソフトウェアもまた、そのどこかで成長するのである<ref>
{{cite web
{{cite web
| last = Poynder
| last = Poynder
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セクション"[[#ライセンスと契約にまつわる問題|ライセンスと契約にまつわる問題]]"で述べた通り、[[ライセンス]]全てにいえる事だが、[[著作権法]]が[[英米法]]([[コモン・ロー]])の法体系の影響を受けている場合では、両者は別の概念と識別されるが、[[大陸法]]の法体系([[日本]]もそうであるが)では[[契約]]と[[ライセンス]]は同一視される余地も残されている。このため、[[契約]]をもって[[ライセンス]]を制限することも理論上は可能である。したがって、GPLでの再頒布時の権限を契約を持って押さえ込むことも可能である。ただしそれが有効と認めた判例は未だもってない。
セクション"[[#ライセンスと契約にまつわる問題|ライセンスと契約にまつわる問題]]"で述べた通り、[[ライセンス]]全てにいえる事だが、[[著作権法]]が[[英米法]]([[コモン・ロー]])の法体系の影響を受けている場合では、両者は別の概念と識別されるが、[[大陸法]]の法体系([[日本]]もそうであるが)では[[契約]]と[[ライセンス]]は同一視される余地も残されている。このため、[[契約]]をもって[[ライセンス]]を制限することも理論上は可能である。したがって、GPLでの再頒布時の権限を契約を持って押さえ込むことも可能である。ただしそれが有効と認めた判例は未だもってない。


セクション"[[#リンクと派生物|リンクと派生物]]"の通り、GPLで保護されたコードからの二次的著作物はGPLでなければならない、と明白に要求されているが、GPLのライブラリに動的にリンクしたプログラムが、[[二次的著作物]]と考えられるのかどうかは、議論が分かれている。これに対し[[フリーソフトウェア財団|FSF]]とその他の人々の見解が異なることが新たな論争の種となっている。この点に関し、[[著作権法]]が二次的著作物をどう定義するかが問題になると述べたが、[[著作権]]の[[著作権#支分権|支分権]]の具体的内容についての問題が提起されている。[[アメリカ合衆国著作権法]]第101条によれば、[[著作物]]の改変・[[翻案権|翻案]]を例にあげたうえで「既存の著作物を基礎とする」ことが二次的著作物の要素となっているため、動的リンクの場合でも既存の著作物を基礎としているのかが問題となり得る。これに対し、日本国[[著作権法]]第2条によれば、二次的著作物は原著作物の「[[翻案権|翻案]]」を要素としているため、GPLのライブラリとGPLでないプログラムが動的にリンクするプログラムを作って頒布したところで、二次的著作物を作成したことにはならず、プログラムを実行したときに必然的に生じる[[記憶装置|メモリ]]への複製の段階で初めて問題になるに過ぎない。しかし、日本国著作権法ではプログラムを実行することそれ自体(これを''使用権''という)は[[著作権]]の[[著作権#支分権|支分権]]としては認められていない。事実上これを合法的に制限・許諾する仕組みが[[ライセンス]]なのであるが、法廷での明確な解釈はまだ得られていない。
セクション"[[#リンクと派生物|リンクと派生物]]"の通り、GPLで保護されたコードからの二次的著作物はGPLでなければならない、と明白に要求されているが、GPLのライブラリに動的にリンクしたプログラムが、[[二次的著作物]]と考えられるのかどうかは、議論が分かれている。これに対し[[フリーソフトウェア財団|FSF]]とその他の人々の見解が異なることが新たな論争の種となっている。この点に関し、[[著作権法]]が二次的著作物をどう定義するかが問題になると述べたが、[[著作権]]の[[著作権#支分権|支分権]]の具体的内容についての問題が提起されている。[[アメリカ合衆国著作権法]]第101条によれば、[[著作物]]の改変・[[翻案権|翻案]]を例にあげたうえで「既存の著作物を基礎とする」ことが二次的著作物の要素となっているため、動的リンクの場合でも既存の著作物を基礎としているのかが問題となり得る。これに対し、日本国[[著作権法]]第条によれば、二次的著作物は原著作物の「[[翻案権|翻案]]」を要素としているため、GPLのライブラリとGPLでないプログラムが動的にリンクするプログラムを作って頒布したところで、二次的著作物を作成したことにはならず、プログラムを実行したときに必然的に生じる[[記憶装置|メモリ]]への複製の段階で初めて問題になるに過ぎない。しかし、日本国著作権法ではプログラムを実行することそれ自体(これを''使用権''という)は[[著作権]]の[[著作権#支分権|支分権]]としては認められていない。
ちなみにGPLv3では"derivative work"という語が姿を消し、代わりに「改変されたバージョン」や「元プログラムに基づく作品」となっている。これらは「二次的著作物」を指している{{ref label|gplv3-term-definitions|A|A}}。


また、アメリカ合衆国著作権法においても、日本国著作権法においても、原著作物の著作権者は、二次的著作物に対して著作権行使をすることができるのは当然の前提なのだが、ソフトウェアが著作権の対象になるように法制度が確立する前は、改変したプログラムに対する権利の範囲等が不明確であったこともあり、法の建前を前提として議論がされていない側面がある。[[ルイス・ガルーブ・トイズ対ニンテンドーオブアメリカ事件|ガルーブ対任天堂]]訴訟においても二次的著作物の範囲が明確に定められなかったのは前述の通り。
また、アメリカ合衆国著作権法においても、日本国著作権法においても、原著作物の著作権者は、二次的著作物に対して著作権行使をすることができるのは当然の前提なのだが、ソフトウェアが著作権の対象になるように法制度が確立する前は、改変したプログラムに対する権利の範囲等が不明確であったこともあり、法の建前を前提として議論がされていない側面がある。[[ルイス・ガルーブ・トイズ対ニンテンドーオブアメリカ事件|ガルーブ対任天堂]]訴訟においても二次的著作物の範囲が明確に定められなかったのは前述の通りである


GPLが持つ制約とは全く別の問題として、一部の批判者らは、GPL前文の[[イデオロギー]]的な響きが嫌だとか、ライセンスが長過ぎて分かりにくいと愚痴をこぼす。いりもしない利用者(ライセンシー)の[[自由]]を贔屓するあまりソフトウェア・[[ビジネスモデル]]を制限し過ぎており、もっとましな「落とし所」もあるはずだ、という者もいる。この「落とし所」には、ソースやバイナリの再生産(reproduction)を認めないが、個人や会社での使用で修正の自由を認めるようなライセンス群を含むことがある。こういった変種の一つには、Open Public License (OPL)<ref>
GPLが持つ制約とは全く別の問題として、一部の批判者らは、GPL前文の[[イデオロギー]]的な響きが嫌だとか、ライセンスが長過ぎて分かりにくいと愚痴をこぼす。いりもしない利用者(ライセンシー)の[[自由]]を贔屓するあまりソフトウェア・[[ビジネスモデル]]を制限し過ぎており、もっとましな「落とし所」もあるはずだ、という者もいる。この「落とし所」には、ソースやバイナリの再生産(reproduction)を認めないが、個人や会社での使用で修正の自由を認めるようなライセンス群を含むことがある。こういった変種の一つには、Open Public License (OPL)<ref>
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}}</ref>がある。これら批判の原因は、GPLの条文が一見理解しにくいがために起こる誤解によるところもある。しかし、このGPLの手の込んだ条項は一見理解に困難を要するが、これによりコピーレフトが創出され、著作権法の枠組みを徹底して[[ハッキング|ハック]]している点も忘れてはならない。
}}</ref>がある。これら批判の原因は、GPLの条文が一見理解しにくいがために起こる誤解によるところもある。しかし、このGPLの手の込んだ条項は一見理解に困難を要するが、これによりコピーレフトが創出され、著作権法の枠組みを徹底して[[ハッキング|ハック]]している点も忘れてはならない。


セクション"[[#「ウイルス」性|「ウイルス」性]]"でも述べたが、GPLのように二次的著作物にも適用されるライセンスは、[[プロプライエタリ・ソフトウェア|独占的なソフトウェア]]を開発する企業や、他のライセンスを支持する[[ソフトウェア開発者]]から「[[ライセンス感染|感染(ウイルス)性]]」のライセンスと呼ばれることがある。[[リチャード・ストールマン]]や[[コピーレフト]]の考え方を支持する人々は、これは[[自由]]を守るために必要なことだと主張しているが、この強い制約を嫌う人もいる。これは、[[二次的著作物]]への制限が少ないBSDスタイル・ライセンスとGPLとの間の思想的違いに基づく。 GPLの支持者が「フリーソフトウェアの自由が二次的著作物でも保されることを、フリーソフトウェアが保すべき」と確信する一方そうでない人々は「フリーソフトウェアは、その再頒布にあたって利用者に最大限の自由を与えるべきだ」という。
セクション"[[#「ウイルス」性|「ウイルス」性]]"でも述べたが、GPLのように二次的著作物にも適用されるライセンスは、[[プロプライエタリ・ソフトウェア|独占的なソフトウェア]]を開発する企業や、他のライセンスを支持する[[ソフトウェア開発者]]から「[[ライセンス感染|感染(ウイルス)性]]」のライセンスと呼ばれることがある。[[リチャード・ストールマン]]や[[コピーレフト]]の考え方を支持する人々は、これは[[自由]]を守るために必要なことだと主張しているが、この強い制約を嫌う人もいる。これは、[[二次的著作物]]への制限が少ないBSDスタイル・ライセンスとGPLとの間の思想的違いに基づく。 GPLの支持者が「フリーソフトウェアの自由が二次的著作物でも保されることを、フリーソフトウェア自身が保すべき」と確信する一方そうでない人々は「フリーソフトウェアは、その再頒布にあたって利用者に最大限の自由を与えるべきだ」と主張する。後者の考え方は、例えばBSDライセンスのように敢えて「ソフトウェアの自由を捨て去る」という、[[自由意志]]、選択の自由を述べている


=== よくある誤解 ===
=== よくある誤解 ===
GPLの条文そのものや、その要求、許可する事項(義務、権利)については、GPLに賛同している者ですらも誤解していることがあり、そのことがGPLの議論に関し混乱を招く原因のひとつともなっている。既に解説済みの項目も多いが、改めて述べる。
GPLの条文そのものや、その要求、許可する事項(義務、権利)については、GPLに賛同している者ですらも誤解していることがあり、そのことがGPLの議論に関し混乱を招く原因のひとつともなっている。既に解説済みの項目も多いが、改めて述べる。


; GPLソースコードを改変・修正した場合、ソースコードを公開しなければならない: GPLで保護された著作物の修正や、GPLで保護されたコードを新しい著作物で使うとき、必ずしもソースコードの公開を要求しているわけではない(セクション"[[#コピーレフト|コピーレフト]]"を見よ)。この要求は、新しいプロジェクトが第三者に「頒布される」ときだけに発生する<ref name="redistrib" /><ref name="redistrib-ja" />。結果としてのソフトウェアが、修正者であるライセンシー(またはの組織内)のみで利用されるだけならば、ソースコードの公開は要求されない。
; GPLソースコードを改変・修正した場合、ソースコードを公開しなければならない : GPLで保護された著作物の修正や、GPLで保護されたコードを新しい著作物で使うとき、必ずしもソースコードの公開を要求しているわけではない(セクション"[[#コピーレフト|コピーレフト]]"を見よ)。この要求は、新しいプロジェクトが第三者に「頒布される」ときだけに発生する<ref name="redistrib" /><ref name="redistrib-ja" />。結果としてのソフトウェアが、修正者であるライセンシーまたはライセンシーの組織内のみで私的に利用されるだけならば、ソースコードの公開は要求されない。
; 課金が許されていない: GPLで保護された著作物の[http://www.gnu.org/licenses/gpl-faq.ja.html#DoesTheGPLAllowMoney 複製を販売]したり、[http://www.gnu.org/licenses/gpl-faq.ja.html#DoesTheGPLAllowDownloadFee ダウンロードに課金]したりすることをGPLはわざわざ許可している(セクション"[[#利用条件|利用条件]]"を見よ)。都合のよさとしては、ダウンロードより購入の方に意味があるかもしれないが、GPLの下での購入者やベンダーの権利、責任に変更の生じることはない。実のところ、非商用の頒布だけを認めるライセンスは、自動的にGPLと矛盾する。
; 課金が許されていない : GPLで保護された著作物の[http://www.gnu.org/licenses/gpl-faq.ja.html#DoesTheGPLAllowMoney 複製を販売]したり、[http://www.gnu.org/licenses/gpl-faq.ja.html#DoesTheGPLAllowDownloadFee ダウンロードに課金]したりすることをGPLはわざわざ許可している(セクション"[[#利用条件|利用条件]]"を見よ)。都合のよさとしては、ダウンロードより購入の方に意味があるかもしれないが、GPLの下での購入者やベンダーの権利、責任に変更の生じることはない。実のところ、非商用の頒布だけを認めるライセンスは、自動的にGPLと矛盾する。
; ソースコードは''無償で''頒布しなければならない : GPLが要求することは、ソースコードを入手する機会を保証することである。たとえば、ソースコードが記録されたCD-ROMを実費を請求する形で郵送しても一向にかまわない。GPLv3では第4項第2段落で「『プログラム』の『伝達』行為に対する課金」と定めている。ただ、「ライセンス料、ロイヤルティその他の対価」を徴収することは、「さらなる権利制限」になるので注意が必要である(セクション"[[#下流の受領者への自動的許諾|下流の受領者への自動的許諾]]"を参照)。
; GPLのツールを使って開発したソフトウェアはGPLでなければならない: GPLでなければならないのは、GPLのソースコードを含んでいたり、GPLのライブラリをリンクしていたりするときのみに限る。独占的なソフトウェアを[[GNUコンパイラコレクション|GCC]]でコンパイルして頒布することは、許可されている。ただし、<tr>libgcc</tr>など、GCCの各種ランタイムライブラリはGPLに関するライセンスの影響を受けることもある。プロプライエタリなソフトウェアとの動的リンクを可能とするため、<tr>libgcc</tr>は例外条項が付帯したGPLとなっている<ref>
; GPLのツールを使って開発したソフトウェアはGPLでなければならない : GPLでなければならないのは、GPLのソースコードを含んでいたり、GPLのライブラリをリンクしていたりするときのみに限る。[[プロプライエタリ・ソフトウェア|独占的なソフトウェア]]を[[GNUコンパイラコレクション|GCC]]でコンパイルして頒布することは、許可されている。ただし、<tr>libgcc</tr>など、GCCの各種ランタイムライブラリはGPLに関するライセンスの影響を受けることもある。プロプライエタリなソフトウェアとの動的リンクを可能とするため、GCCの各種ランタイムライブラリは例外条項が付帯したGPLとなっている(詳しくは、セクション"[[#GCCランタイムライブラリ例外|GCCランタイムライブラリ例外]]"を参照)<ref name="gcc-excpt" />。
{{cite web
; GPLソフトウェアは改造して公開することは不自由なくできる : GPLは[[著作権]]を規定する[[ライセンス]]であり、[[商標権]]・[[意匠権]]には効力が及ばない。また、[[フォーク (ソフトウェア開発)|フォーク]]や独自パッチ適用バージョンを「改変前とまったく同一の名前のソフトウェア」として公開し、もともとの原著作者のソフトウェアと一見して区別できない場合には、[[著作権法]]上の問題が発生する。
| url = http://www.gnu.org/licenses/gcc-exception.html
| title = GCC Runtime Library Exception
| publisher = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| accessdate = 2011-03-26
}}</ref>。
;ソースコードは''無償で''頒布しなければならない: GPLが要求することは、ソースコードを入手する機会を保証することである。たとえば、ソースコードが記録されたCD-ROMを実費で郵送する形でも一向にかまわない。
;GPLソフトウェアは改造して公開することは不自由なくできる: GPLは[[著作権]]を規定する[[ライセンス]]であり、[[商標権]]・[[意匠権]]には効力が及ばない。また、[[フォーク (ソフトウェア開発)|フォーク]]や独自パッチ適用バージョンを「改変前とまったく同一の名前のソフトウェア」として公開し、もともとの原著作者のソフトウェアと一見して区別できない場合には、[[著作権法]]上の問題が発生する。

=== 受託開発 ===
興味深い例として、『GPLのソフトウェアを修正し、新たな機能を追加したものを、商業的な対価を受け取り顧客に納入すること』はGPLを満たす上、可能であるとの意見もある<ref>
{{cite web
| url = http://nippondanji.blogspot.com/2010/06/gpl.html
| title = 漢(オトコ)のコンピュータ道: 受託開発とGPL
| date = 2010-06-03
| author = 奥野幹也
| publisher = nippondanji.blogspot.com
| accessdate = 2011-03-11
}}</ref>。これはGPLソフトウェアの頒布形態の一つと見なせる。GPLで保護されたソフトウェアを組み込んだ受託開発者はライセンス許諾者となり、発注側は受諾者、ライセンシーとなる。また、ソフトウェアを受け取った顧客が「それを'''再頒布'''しない」限り、ソースコードを開発(受託)側と顧客の間以外に対し、非公開にすることには全く問題ない。また、顧客が社内のみで利用する限り、ソースコードは、たとえそれを改変したとしても、非公開で問題ない(「ライセンシーによる組織内での私的な利用」となるからである)。ここまでの説明では、受託側が発注側に著作権を譲渡しない場合を想定している。そうでないならば、受託側はそのソフトウェアのコントロールは出来なくなる(GPL以外で再ライセンスされることもあり得る)。GPLなソフトウェアを組み合わせて発注側に納入する場合もほぼ同様だが、GPLと矛盾するライセンスに従うソフトウェアはGPLの条項により、当然組み合わせることはできない。以上は受託開発における[[ライセンス]]の考え方であるが、受託開発の[[契約]]はこれとは別に定められる。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{Reflist|2}}
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
* {{cite web
| url = http://ossipedia.ipa.go.jp/doc/187/
| title = GNU GPLv3 逐条解説書
| author = 江端俊昭、稲葉清高、岩切美和、上山浩、川上桂子、瀬戸邦雄、[[八田真行]]、松田久夫、松本美信、八木稔浩、柳沢茂樹
| date = 2010-05-26
| publisher = [[情報処理推進機構|IPA]]
| accessdate = 2011-04-21
}}なおこの文献はあくまでも[[Software Freedom Law Center|SFLC]]ならびに[[情報処理推進機構|IPA]]両者の見解であり、実際の係争事例に対するGPLについての明確な法廷判断が存在するわけではない。
* {{cite web
| url = http://www.softic.or.jp/publication/oss/071116.pdf
| title = オープンソースソフトウェアライセンスの最新動向に関する調査報告書 平成19年11月16日
| author = [[ソフトウェア情報センター|SOFTIC]] オープンソースソフトウェアライセンスの最新動向に関する調査研究委員会委員
| date = 2007-11-16
| publisher = [[ソフトウェア情報センター|SOFTIC]]
| accessdate = 2011-04-29
}}
* {{cite web
| url = http://sourceforge.jp/projects/opensource/wiki/licenses%252FGNU_General_Public_License_version_3.0
| title = GNU 一般公衆利用許諾書 バージョン3(非公式日本語訳)
| author = [[フリーソフトウェア財団|Free Software Foundation]]
| publisher = [[SourceForge.JP]]
| accessdate = 2011-04-23
}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[フリーソフトウェア]]
* [[フリーソフトウェア]]
* [[フリーソフトウェア財団]](FSF)
* [[Free Software Foundation Europe]](FSFE)
* [[Software Freedom Law Center]](SFLC)
* [[GNU]]
* [[GNU]]
* [[フリーソフトウェア財団]] (FSF)
* [[Free Software Foundation Europe]] (FSFE)
* [[Software Freedom Law Center]] (SFLC)
* [[著作権]]
* [[著作権]]
* [[著作権法]]
* [[コピーレフト]]
* [[コピーレフト]]
* 関連法
** [[著作権法]]
** [[著作権に関する世界知的所有権機関条約]](WIPO著作権条約)
** [[不正競争防止法]]
** [[デジタルミレニアム著作権法]](DMCA)
** [[民法]]
** [[会社法]]
** [[特許法]]
* [[ライセンス]]
* [[ライセンス]]
* [[ソフトウェアライセンス]]
* [[ソフトウェアライセンス]]
* [[フリーソフトウェアライセンス]]
* [[フリーソフトウェアライセンス]]
* 関連ライセンス
* [[GNU Lesser General Public License]] (LGPL)
* [[Affero General Public License]] (AGPL)
** [[GNU Lesser General Public License]](LGPL)
** [[Affero General Public License]](AGPL)
* [[BSDライセンス]]
** [[BSDライセンス]]
* [[ソフトウェアライセンスの一覧]]([[:en:List of software licenses|List of software licenses]])
* [[GNU Free Documentation License]] (GFDL)
** [[GNU Free Documentation License]](GFDL)
* [[GNAT Modified General Public License]] (GMGPL)
** [[GNAT Modified General Public License]](GMGPL)
** [[Mozilla Public License]](MPL)
** [[Apache License]]
** [[ソフトウェアライセンスの一覧]]([[:en:List of software licenses|List of software licenses]])
* [[パブリックドメインソフトウェア]]
* [[パブリックドメインソフトウェア]]
* [[フリーソフトウェアライセンス#許容型とコピーレフト型|緩やかなライセンスとコピーレフトライセンス]]
* [[フリーソフトウェアライセンス#許容型とコピーレフト型|緩やかなライセンスとコピーレフトライセンス]]
* [[デュアルライセンス]]
* [[デュアルライセンス]]
* [[European Union Public Licence]]([[:en:European Union Public Licence|en]]) (EUPL)
* [[European Union Public Licence]][[:en:European Union Public Licence|en]])(EUPL)
* [[プロプライエタリ・ソフトウェア]]
* [[プロプライエタリ・ソフトウェア]]
* [[GPLリンク例外]]
* [[GPLリンク例外]]
* [[gpl-violations.org]]
* [[gpl-violations.org]]
* [[オープンソースソフトウェアを用いたビジネスモデル]]([[:en:Business models for open source software|Business models for open source software]])
* [[オープンソースソフトウェアを用いたビジネスモデル]][[:en:Business models for open source software|Business models for open source software]]
* [[反著作権運動]]([[:en:Anti-copyright|Anti-copyright]]) (Kopimi)
* [[反著作権運動]][[:en:Anti-copyright|Anti-copyright]])(Kopimi)


{{Portal|FLOSS|}}
{{Portal|FLOSS|}}
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{{Wikibooks|:en:FOSS Licensing}}
{{Wikibooks|:en:FOSS Licensing}}
=== ライセンス ===
=== ライセンス ===
==== 原文 ====
* [http://www.gnu.org/licenses/gpl.html The GNU General Public License] (原文)
* [http://www.gnu.org/licenses/gpl.html The GNU General Public License] (原文)
** [http://www.gnu.org/licenses/gpl-3.0.txt GNU General Public License v3.0] ([[テキストファイル]]形式)
** [http://www.gnu.org/licenses/gpl-3.0.txt GNU General Public License v3.0] ([[テキストファイル]]形式)
==== 非公式日本語翻訳版 ====
* [http://sourceforge.jp/projects/opensource/wiki/licenses%252FGNU_General_Public_License_version_3.0 GNU 一般公衆利用許諾書 バージョン3 (GPLv3)] (非公式日本語訳)
* [http://sourceforge.jp/projects/opensource/wiki/licenses%252FGNU_General_Public_License_version_3.0 GNU 一般公衆利用許諾書 バージョン3 (GPLv3)] (非公式日本語訳)
==== IPAによる翻訳、解説文書 ====
* [http://ossipedia.ipa.go.jp/legalinfo/ OSSライセンス関連情報] - [[情報処理推進機構|IPA]]ならびに[[Software Freedom Law Center|SFLC]]によるGNU GPL v3の条文解説(250ページ程度)、GPLv3日本語訳、英日対訳が提供されている。
* [http://ossipedia.ipa.go.jp/legalinfo/gpl-3.0J.html IPA のリーガルタクグループによる法的チェックが行われている GPLv3 の日本語訳]
* [http://ossipedia.ipa.go.jp/legalinfo/ OSSライセン関連情報] - GPLv3逐条解説書や日本語訳、英日対訳が[[情報処理推進機構|IPA]]より提供されている。
* [http://ossipedia.ipa.go.jp/legalinfo/license1.html#GNUGPL1 GNU GPL v3 解説書] - [[情報処理推進機構|IPA]]ならびに[[Software Freedom Law Center|SFLC]]の協力によるGNU GPL v3の全条文の逐条解説。約250ページに渡りすべての条文の法的な権能に関する解説が網羅されている。
* [http://ossipedia.ipa.go.jp/legalinfo/gpl-3.0J.html IPAのリーガルタスクグループによる法的チェックが行われているGPLv3の日本語訳]
==== GNUプロジェクトによる文書 ====
* [http://www.gnu.org/licenses/gpl-faq.html Frequently Asked Questions about the GNU Licenses] (GPL FAQ) - FSFがメンテナンスしているGPLにまつわる主な争点をまとめた[[FAQ]]リスト。ライセンス著作者であるFSFの見解であるが、その他著作物の影響範囲や、CMSのインタフェースとライセンスの関連などの図表、GPL・LGPLのライセンス両立性に関する表など情報が豊富にある。
* [http://www.gnu.org/licenses/gpl-faq.html Frequently Asked Questions about the GNU Licenses] (GPL FAQ) - FSFがメンテナンスしているGPLにまつわる主な争点をまとめた[[FAQ]]リスト。ライセンス著作者であるFSFの見解であるが、その他著作物の影響範囲や、CMSのインタフェースとライセンスの関連などの図表、GPL・LGPLのライセンス両立性に関する表など情報が豊富にある。
* [http://www.gnu.org/licenses/license-list.html Various Licenses and Comments about Them] - FSFが維持管理を行う、各種ライセンスの概要とGPLとの互換性リスト。
* [http://www.gnu.org/licenses/license-list.html Various Licenses and Comments about Them] - FSFが維持管理を行う、各種ライセンスの概要とGPLとの互換性リスト。


=== GPLv3の草稿策定に関する公開協議 ===
=== GPLv3の策定に関する公開協議 ===
* [http://www.ifso.ie/documents/gplv3-launch-2006-01-16.html GPLv2からv3への変更の意図についてのFSFのプレゼンテーションの資料]。[[2006年]][[1月16日]]。
* [http://www.ifso.ie/documents/gplv3-launch-2006-01-16.html GPLv2からv3への変更の意図についてのFSFのプレゼンテーションの資料]。[[2006年]][[1月16日]]。
* [[リチャード・ストールマン]]による、[http://www.ifso.ie/documents/rms-gplv3-2006-02-25.html GPL第3版についての講演資料]。[[ベルギー]]・[[ブリュッセル]]。[[2006年]][[2月25日]]。
* [[リチャード・ストールマン]]による、[http://www.ifso.ie/documents/rms-gplv3-2006-02-25.html GPL第3版についての講演資料]。[[ベルギー]]・[[ブリュッセル]]。[[2006年]][[2月25日]]。
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* ストールマンによる、[http://fsfe.org/projects/gplv3/bangalore-rms-transcript 第4回GPLv3国際会議の資料とQ&A]。[[インド]]・[[バンガロール|ベンガルール]]。[[2006年]][[8月23日]]。
* ストールマンによる、[http://fsfe.org/projects/gplv3/bangalore-rms-transcript 第4回GPLv3国際会議の資料とQ&A]。[[インド]]・[[バンガロール|ベンガルール]]。[[2006年]][[8月23日]]。
* ストールマンによる、[http://fsfe.org/projects/gplv3/tokyo-rms-transcript 第5回GPLv3国際会議の資料]。[[東京]]。[[2006年]][[11月21日]]。
* ストールマンによる、[http://fsfe.org/projects/gplv3/tokyo-rms-transcript 第5回GPLv3国際会議の資料]。[[東京]]。[[2006年]][[11月21日]]。
==== 日本 ====
* [http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0602/08/news036.html GPLv3、オープンソース振興について聞く:「日本政府はさっさとオープンソース振興から手を引いてしまえ」――VA Linux佐渡氏 (1/2)] [[佐渡秀治]]は、[[ボストン]]で開かれた第1回GPLv3国際会議に[[日本]]から参加したのは、[[八田真行]]、[[新部裕]]の2名だけだったのではないかと話している。
* [http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0602/08/news036.html GPLv3、オープンソース振興について聞く:「日本政府はさっさとオープンソース振興から手を引いてしまえ」――VA Linux佐渡氏 (1/2)] [[佐渡秀治]]は、[[ボストン]]で開かれた第1回GPLv3国際会議に[[日本]]から参加したのは、[[八田真行]]、[[新部裕]]の2名だけだったのではないかと話している。
* [http://web.archive.org/web/20080109205949/http://gplv3.fsij.org/trac.cgi/wiki/Japanese 第5回インターナショナルGPLv3カンファレンス] - 第5回GPLv3国際会議は[[東京]]にて開催された([[インターネット・アーカイブ]]によるホスト)。
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* [http://japan.zdnet.com/business-application/analysis/20352496/ Samba、GPLv3を支持--バージョン3.2から移行へ] - [[ZDNet]]。
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** [http://www.appleinsider.com/articles/11/03/23/inside_mac_os_x_10_7_lion_server_apple_replaces_samba_for_windows_networking_services.html Inside Mac OS X 10.7 Lion Server: Apple replaces Samba for Windows networking services] - GPLv3の反[[TiVo化]]条項により、コンピュータ・セキュリティを実現するDRMを使用できなくなったため、[[Mac OS X v10.7]](Lion)より[[Samba]]は削除される予定である。
* GCCはバージョン4.2.2から、GPLv3に移行した。{{cite mailing list
* GCCはバージョン4.2.2から、GPLv3に移行した。{{cite mailing list
| url = http://gcc.gnu.org/ml/gcc-announce/2007/msg00004.html
| url = http://gcc.gnu.org/ml/gcc-announce/2007/msg00004.html
| title = GCC 4.2.2 Released
| title = GCC 4.2.2 Released
| date = 2007-10-09
| date = 2007-10-09
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=== 過去のライセンス ===
=== 過去のライセンス ===
==== Emacs General Public License ====
* [http://www.free-soft.org/gpl_history/emacs_gpl.html The Emacs General Public License], [[1988年]][[2月]]にリリースされた版。これはGNU GPLの直系の先祖にあたるライセンスである。
* [http://www.free-soft.org/gpl_history/emacs_gpl.html The Emacs General Public License], [[1988年]][[2月]]にリリースされた版。これはGNU GPLの直系の先祖にあたるライセンスである。
==== 過去のGPL ====
* [http://www.gnu.org/licenses/old-licenses/gpl-1.0.txt GNU General Public License v1.0] – FSFによりすでに廃止済。
* [http://www.gnu.org/licenses/old-licenses/gpl-1.0.txt GNU General Public License v1.0] – FSFによりすでに廃止済。
* [http://www.gnu.org/licenses/old-licenses/gpl-2.0.txt GNU General Public License v2.0] – FSFによりすでに廃止済であるが、Linux・GNUのパッケージを含む多くのソフトウェアプロジェクトで未だに使用されている。
* [http://www.gnu.org/licenses/old-licenses/gpl-2.0.txt GNU General Public License v2.0] – FSFによりすでに廃止済であるが、Linux・GNUのパッケージを含む多くのソフトウェアプロジェクトで未だに使用されている。
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* [http://www.free-soft.org/gpl_history/ History of the GPL (GPLの歴史)]
* [http://www.free-soft.org/gpl_history/ History of the GPL (GPLの歴史)]
* [http://wiki.fsfe.org/Transcripts#Licences_and_the_GNU_GPL GPLとフリーソフトウェアライセンスについての講演会のトランスクリプトのリスト]
* [http://wiki.fsfe.org/Transcripts#Licences_and_the_GNU_GPL GPLとフリーソフトウェアライセンスについての講演会のトランスクリプトのリスト]
==== 議論 ====
* [http://www.softpanorama.org/Copyright/License_classification/index.shtml The Labyrinth of Software Freedom (ソフトウェアの自由という迷宮)]、副題: BSD vs GPL and social aspects of free licensing debate (BSD対GPL、ならびにフリーライセンスの議論にまつわる社会的な側面)、ニコライ・ベズロコフ(Nikolai Bezroukov)博士による。
* [http://www.softpanorama.org/Copyright/License_classification/index.shtml The Labyrinth of Software Freedom (ソフトウェアの自由という迷宮)]、副題: BSD vs GPL and social aspects of free licensing debate (BSD対GPL、ならびにフリーライセンスの議論にまつわる社会的な側面)、ニコライ・ベズロコフ(Nikolai Bezroukov)博士による。
* [http://sourceforge.jp/magazine/07/05/15/0045254 GPLv3にまつわる8つのよくある誤解] - GPLは、著作権法をはじめとして、様々な法を利用し、その法的基礎を逆に利用することで(これも広義の[[ハッキング]]といえよう)、ソフトウェアの自由、コピーレフトを確保するための様々なからくりを仕掛けている。しかし、このことが条文の正確な内容を理解することの妨げになっている、というのも事実である。
==== 準拠法に対するGPLの法的解釈 ====
* [[コンピューティングの法的側面|コンピュータ法]]([[:en:Legal aspects of computing|Computer law]])に詳しい[[岡村久道]]によるGPL関連の考察。
* [[コンピューティングの法的側面|コンピュータ法]]([[:en:Legal aspects of computing|Computer law]])に詳しい[[岡村久道]]によるGPL関連の考察。
** [http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0504/29/news003.html いまさら人に聞けないGPLの基礎] - GPLの講演に関する記事。
** [http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0504/29/news003.html いまさら人に聞けないGPLの基礎] - GPLの講演に関する記事。
** [http://www.law.co.jp/okamura/copylaw/OssOkm.pdf オープンソース/フリーソフトウェアライセンスの法的分析] - GPLの条文解説と、フリーソフトウェアライセンス・オープンソースライセンスの比較などの解説。GPLについての課題点も記述されている。
** [http://www.law.co.jp/okamura/copylaw/OssOkm.pdf オープンソース/フリーソフトウェアライセンスの法的分析] - GPLの条文解説と、フリーソフトウェアライセンス・オープンソースライセンスの比較などの解説。GPLについての課題点も記述されている。
** [http://www.law.co.jp/okamura/copylaw/200611gplv3_okamura.pdf GPLv3の法的課題 for Second Discussion Draft] - 第5回GPLv3国際会議における 講演資料。議論草稿第2稿時点でのGPLv2とGPLv3の相違点や新規に登場した概念と著作権法との関連事項の説明がなされている。
** [http://www.law.co.jp/okamura/copylaw/200611gplv3_okamura.pdf GPLv3の法的課題 for Second Discussion Draft] - 第5回GPLv3国際会議における 講演資料。議論草稿第2稿時点でのGPLv2とGPLv3の相違点や新規に登場した概念と著作権法との関連事項の説明がなされている。
* [http://www.softic.or.jp/publication/oss/071116.pdf オープンソースソフトウェアライセンスの最新動向に関する調査報告書] - [[ソフトウェア情報センター|SOFTIC]]による[[FLOSS]]ライセンス解説。GPLが主要な対象となっている。
==== 法廷判断 ====
* [http://sourceforge.jp/magazine/06/09/27/0034210 GPLにドイツ裁判所からお墨付き] ([[SourceForge.JP]] Magazine記事)
* [http://sourceforge.jp/magazine/06/09/27/0034210 GPLにドイツ裁判所からお墨付き] ([[SourceForge.JP]] Magazine記事)



2011年5月6日 (金) 03:06時点における版

GNU General Public License
GNU GPLv3のロゴ
作者 フリーソフトウェア財団
バージョン 3
公開元 フリーソフトウェア財団 (Free Software Foundation, Inc.[1])
リリース日 2007年6月29日
DFSGとの適合性 Yes[2]
自由ソフトウェア Yes[3]
OSIの承認 Yes[4]
コピーレフト Yes[3][5]
異種ライセンスコード
からのリンク
No(但し、GNU AGPLv3ソフトウェアをGNU GPLv3ソフトウェアとリンクすることは可能。詳しくは、セクション"両立性とマルチライセンス"を参照せよ。)
ウェブサイト www.gnu.org/licenses/gpl.html
テンプレートを表示

GNU General Public License(GNU GPLもしくは単にGPLとも)とは、GNUプロジェクトのためにリチャード・ストールマンにより作成されたフリーソフトウェアライセンスである。八田真行日本語訳ではGNU 一般公衆利用許諾書と呼んでいる[6][7]

概要

GPLは、二次的著作物(Derivative work)[8]の頒布条件を同一のライセンスに限るという、コピーレフトソフトウェアライセンスとしては初めてのものであり、そのもっとも代表的なものである。この考えに基づき、GPLはプログラム受領者(recipients)にフリーソフトウェアの定義に基づく権利を与え、たとえ著作物(works; 「作品」[A]とも)に変更(改変)または追加があろうとも自由を守るためコピーレフトを行使する。これはBSDライセンスをはじめとする緩やかなフリーソフトウェアライセンス(Permissive free software licence; 寛大型フリーソフトウェアライセンス)とは明確に異なる。

ただし、GPLの条文自体はGPLの下配布されているわけではなく、ライセンス著作者は条文の改変(modifications)を許可していない(GPLの条文自体の著作権フリーソフトウェア財団が持つ)。GPLはプログラムの受領者に(本ライセンスの直接の対象となる)本プログラムと共に本ライセンスの複製を(a copy of this License along with the Program)得る権利を与えているため、未改変のライセンスの複製と頒布(distribution; 配布)は許されている[9]。GPL FAQ[10]によると、仮に改変する場合は、別の名前とし、「GNU」について言及せず、フリーソフトウェア財団から許諾を得ている場合を除いて改変版ライセンスからGPLの前文(Preamble)を削除した場合に限り、GPLの改変版を利用して新たなライセンスを作成しても良い。そのようにして作成された派生ライセンスに対し、FSFは一切の法的異議申し立てを行うことはないが、そういったライセンスは一般にGPLと両立しない(互換性が無いincompatible)ので、FSFは推奨していない 。

GPLはフリーソフトウェア財団(Free Software Foundation。以下FSFと略称)によって公開され、その管理が行われている。

FSFが著作権を持つ他のライセンスには、GNU Lesser General Public License(GNU LGPL)、GNU Free Documentation License(GNU FDL、またはGFDL)そしてGNU Affero General Public Licenseバージョン3(GNU AGPLv3)がある。

歴史

GPLは1989年リチャード・ストールマンによって、GNUプロジェクトソフトウェアの配布を目的に作られた。オリジナルのGPLは、初期のGNU EmacsGNUデバッガそしてGNU Cコンパイラの配布に利用していた類似のライセンスを基に、それらを組み合わせたものをベースとしている[11][12]。前記3つのライセンスは、現在のGPLと似たような条文を含んでいる。しかし、それらは各プログラム固有のライセンスであり、似通っているとはいえ、互いの互換性は全くなかった[13]。ストールマンの目標は、いかなるプロジェクトでも使用可能で、それゆえ多くのプロジェクトがコードを共有することを可能にさせる単一の汎用的なライセンスを作り出すことだった。

ちなみにGPL誕生以前、Emacsの頒布条件となっていたライセンス(Emacs General Public Licence)が生まれたきっかけは、ジェームズ・ゴスリンが作成し、当初自由な利用が認められていたGosling Emacsのコードが突如ゴスリンにより独占的な許諾条件にされてしまったことが契機となっている[12][14]。この許諾条件の変更の影響により、ストールマンは自身のEmacsのコードを書き換えなければならなくなった。

またGPL、GNUプロジェクトの誕生について、次のような逸話もある。 当時、ストールマンはMIT人工知能研究所Symbolics社製のLISPマシンで動くソフトウェアを開発していたが、ストールマンがSymbolics社に対して提供したソースコード(ストールマンが作ったものであるが、パブリックドメイン版であるもの)の改変版について、同社が著作権を根拠にソースコードを開示しなかったことに腹を立てGPLを考案したといわれる[15]

いずれにせよ、これ以降いかにしてソースコードの自由な利用を保証するかということにストールマンは腐心するようになる。

ストールマンは、ソフトウェアに対する自由とは何かという問題を提起し、そのひとつの答えを提示した。GPLは、「自由なソフトウェア」を、有償・無償に関係なく、頒布できるようにした、という単純な意味だけでなく、「ソフトウェアは自由であるべき」という思想が存在することを一般に認知させたという意味において極めて重要な意義がある。

普及度

GPLはフリーあるいはオープンソース・ソフトウェア用のライセンスとして圧倒的な人気がある。2007年8月の時点で、Freshmeatに掲載されている43,442のフリーソフトウェア・プロジェクトのうち65%近くが、2006年1月の時点で、SourceForge.netにホスティングされているプロジェクトの約68%が保護されるライセンスとしてGPLを使用している[16](両サイトを運営しているのはLinuxとGPLに造詣の深い企業Geeknet社である)。同様に2001年の調査では、Red Hat Linux 7.1 に使われているソースコードの 50%がGPLでライセンスされており[17]、きわめて大きいソフトウェア・アーカイブをもつMetalab(en)の1997年の調査では、約半数をGPLのソフトウェアが占めていた[18]

GPLでライセンスされている傑出したフリーソフトウェアのプログラムには、LinuxカーネルGNUコンパイラコレクション (GCC) がある。

他の一部のフリーソフトウェア・プログラムは、複数のライセンスによりデュアルライセンスされているものがある。その中にはライセンスの一つにGPLが選択されていることもよくあり、「デュアルライセンスはもっと広まる」と独立ソフトウェア・コンサルタントのテッド・ロシュ(Ted Roche)は指摘している[19]。この方法だと、GPLを適用しないまま二次的著作物を頒布することを認めることができる。これは、二次的著作物に有償の商用ライセンスを適用することも可能にする。MySQLなどはまさにこの例に当てはまる特筆すべき例である。詳しくはセクション"マルチライセンス"を参照せよ。

GPLにより付与される強力なコピーレフトGNU/Linuxの成功にとって重要な役割を果たしているとも言われる。なぜなら、コミュニティに全く還元しようとしないソフトウェア企業にただ搾取されるのではなく、著作物が世界全体に貢献し、自由であり続けるという確証をGPLはプログラマに与えたからである[20]

GPLは幾度か改訂されており、1991年にはバージョン2がリリースされている。バージョン3がリリースされるまで、それに従うこと15年間、FLOSSコミュニティの幾人かは、GPLでライセンスされているプログラムを、ライセンスの意図に反し、搾取する事につながる抜け道(loopholes; 抜け穴、ループホール)に対し懸念を抱くようになった[21]。これらの懸念の中には、TiVo化(Tivoization。GPLでライセンスされたプログラムが含まれているにも関わらず、改変版ソフトウェアの稼動を拒絶するハードウェアについての問題)、Webインタフェースの裏側に隠れ公開されることのない改変版GPLソフトウェアの利用、AGPLバージョン1と同等の互換性問題、GNU/Linuxコミュニティと敵対するための武器として特許を行使する企てと見なされる、マイクロソフトとGNU/Linuxディストリビュータとの特許契約などがある。

FSFならびにFLOSSコミュニティは、これら懸念に対し真剣に取り組むべく、バージョン3への改訂作業を始めた[22][23]2007年6月29日、GPLバージョン3は公式にリリースされた[24]

主な特徴

GPLは、プログラムの著作物の複製物を所持している者に対し、概ね以下のことを許諾するライセンスである。

  1. プログラムの実行[25]
  2. プログラムの動作を調べ、それを改変すること(ソースコードへのアクセスは、その前提になる)
  3. 複製物の再頒布
  4. プログラムを改良し、改良を公衆にリリースする権利(ソースコードへのアクセスは、その前提になる)

GPLと、BSDライセンスなどをはじめとする、より制限の緩いフリーソフトウェアライセンス(Permissive free software licence)との間の主な違いは、GPLが二次的著作物(派生的著作物[8])についても、上記の4点の権利を保護しようとする点である。この仕組みはコピーレフトと呼ばれ、GPLでライセンスされた著作物は、その二次的著作物に関してもGPLでライセンスされなければならない。これは、BSDライセンスが、二次的著作物を独占的なものとして再頒布することを許しているのとは対照的である。

バージョン履歴

バージョン1

バージョン1は、1989年2月にリリースされた[26]。このライセンスは、ソフトウェア頒布者が制限しようとする主に2つの手段から、フリーソフトウェアの定義たる自由を守る働きを持っていた。第一の問題は、頒布者がバイナリ、すなわち実行ファイルのみを公開するかもしれないということである。しかしながらバイナリは人間にとって読み取れる形式ではなく、また改変もできない。このことを防ぐため、GPLv1では、バイナリを頒布するいかなるベンダーも、同じライセンスの条項のもと、機械可読なソースコードの形で利用できるようにしなければならないとしている(ライセンスの第3a節、第3b節を見よ)。

第二の問題は、ライセンスに追加の制限を加える、もしくは頒布において別の制限があるソフトウェアを組み合わせることのどちらかにより、頒布者が追加の制限を加える可能性があるということだった。もしこのことが成されれば、その時、制限の2つの集合の和は、組み合わされた著作物に適用されるだろうが、それはすなわち、受け入れられない制限が加えられたことに等しい。この様な事態を避けるため、GPLv1では、改変版は、全体として、GPLv1の条項の下頒布されなければならないと規定している(ライセンスの第2b節、第4節を見よ)。このため、GPLv1の条項の下頒布されているソフトウェアは、それよりも緩やかなライセンスで保護されるソフトウェアと組み合わせて頒布することが可能となる。なぜなら、組み合わせによって全体を通して頒布に係るライセンス条項に変化はないからである。しかし、GPLv1の条項の下頒布されているソフトウェアとそれよりも制限の厳しいライセンスで頒布されるソフトウェアを組み合わせることは、GPLv1の条項の下全体が頒布されるという要件と衝突するため、できない。

バージョン2

リチャード・ストールマンによれば、GPLv2で最大の変更は第7節、彼に言わせると、パトリック・ヘンリーの名文句「自由か然らずんば死を」("Liberty or Death")の一節である[27]。他の利用者の自由を尊重するような方法で、GPLで保護されたソフトウェアの頒布が妨げられる場合(たとえば、法的規制によりソフトウェアをバイナリ形式でしか頒布できないとき)、この節に従えば、頒布は一切できない。GPLv3でも同様の条項が存在し、幾分簡素化されたうえ主旨が明確になっている。これは、フリーソフトウェア開発者や、フリーソフトウェアを単に使用する者から金を脅し取ろうと特許を行使する企業の企みをすこしでも減らすことを見込んでいる。

1990年までには、現存するプロプライエタリライブラリと本質的には同等な機能を持つCライブラリやその他のソフトウェア・ライブラリに対して制限の緩いライセンスのほうが戦略的に有効なことが、明らかになってきた[28]1991年6月にGPL第2版がリリースされた際、第2のライセンス、つまりLibrary General Public License (LGPL) が、(初版にもかかわらずGPLと相補的なことを示すため第2版として) 同時に導入された。GNUの思想における位置づけを反映させるため、Lesser General Public Licenseと名を変え、1999年、LGPL2.1がリリースされた。

バージョン3

GNU GPLv3の初稿策定開始作業におけるリチャード・ストールマンMITアメリカ合衆国マサチューセッツ州ケンブリッジ

GNU General Public License version 3(略称GNU GPLv3、単にGPLv3とも)は、ソフトウェアプログラムライブラリなど)を含む著作物に対し、著作物の著作者著作権保持者やライセンス受諾者[A]の権利や、プログラムの受領者のためにライセンス許諾者が与える権利、またソフトウェアの自由と衝突するような法や法的権利の制限(DRM特許の利用、他者を差別するような特許ライセンスの排除)などに関する基本理念を以前のバージョンのライセンスより明文化している。

2005年後半、FSFは、GPLバージョン3(GPLv3)の策定に関するアナウンスを行った[29]。2005年の時点でGPLは様々なFLOSSプロジェクトのソフトウェアに採用されていたこともあり、FSFが単独で改訂することにより起こりえる問題を回避するため、改訂プロセスは公開で行うことが同時に発表された[29]2006年1月16日、GPLv3の最初の議論用草稿(discussion draft)が公開され[30]、公開協議プロセスを開始した。当初公開協議は9ヶ月から15ヶ月を想定していたが、終わってみると、4つの草稿公開に延べ18ヶ月にまで要した。公式のGPLv3は2007年6月29日、FSFにより発表された。GPLv3は、リチャード・ストールマンにより起草され、エベン・モグレンならびにSoftware Freedom Law Center(SLFC)による法的助言を受けている[31]

ストールマンによると、もっとも重要な改訂点は、ソフトウェア特許、他のフリーソフトウェア・ライセンスとの両立性(compatibility; 互換性)、「ソースコード」とは何を指すのかの定義[A]、ソフトウェアの改変に関するハードウェアの制限(TiVo化)そしてデジタル著作権管理(Digital Rigits Management, DRM)との関連がある[31][32]。その他の改訂点は、国際化[A]、ライセンス違反時の対処手段そして可能ならば著作権者により追加的条項additional terms[33])を与える手段に関連している。

他注目に値する改訂点としては、GPLv3で保護された著作物の著作権者が、パッチなどを提供しそれに改変を加えた貢献者(contributor)に対し、ある種の条件または要求を課すということを許諾する条項が加えられている。これらに加えて、新しく導入された要件の一つには、時折Affero条項(Affero clauseAffero節)とも呼ばれるが、Software as a serviceのようなASPモデルによるGPLの条項を回避しようとする試み(ASP loophole; ASPの抜け道[34])に対し、これを封じようと意図しているものも含まれる。この条項が追加された結果、GNU Affero General Public Licenseバージョン3(GNU AGPLv3)が作成されている。GPLv3とAGPLv3は互いに両立はしないが、リンクや結合のみを認める相補的な条項を共に持っている。

公開協議プロセスは、FSFを調整役、SFLC・Free Software Foundation Europe(FSFE)[35]その他フリーソフトウェア開発組織による支援のもと進められた。この間、gplv3.fsf.org[36]というウェブポータルサイトが立ち上げられ、ここを経由し多くの一般からのコメントが集められた[37]。このポータルサイトは、策定プロセスのために開発されたstet[38]というソフトウェア上で稼働している。これらコメントは、およそ130名ほどから成る4つの協議グループ(committee)[39]に渡された。この130名はFSFの目標に対しそれを支持する人物並びにそれと対立する人物双方が含まれている。これら協議グループは一般から提示されたコメントを精査し、新しいライセンスがどうあるべきか決定するため、ストールマンにその要約を回付した。

公開協議プロセスを経て、初回の草稿には962ものコメントが提出された[40]。終わってみると、延べ2,636ものコメントが提出されていた[41][42][37]

初版の草稿公開ののち、GPLv2とGPLv3の非公式な差分(但し、これはdiff出力による行単位ごとの単純な差分)が、FLOSSコミュニティ向け法律サイトGroklawにより公開された[43]

GNU LGPLv3のロゴ
GNU LGPLv3のロゴ

2006年7月27日、GPLv3の討議用第2次草稿[44]が、LGPL第3版(GNU LGPLv3)の初版草稿とともに公開された[45]。初稿と第2稿の差分は、FSF[46]とFSFE[47]からそれぞれ提示されている。第2稿ではDRMに対抗する明確な目標が取り入れられている[48]

第3稿は2007年3月28日に公開された[49][50]。この草稿は、かの物議を醸したマイクロソフトノベルが締結したような特許相互ライセンス(patent cross-license)[51][52][53][54][55]を排除する意図を持つ文言を含んでおり[42][56]、反TiVo化条項(anti-tivoization clauses)はユーザ製品(User Product)・コンシューマ製品(Consumer Product)といった一般家庭で使用される製品に限定する旨定めている[42][57]。また、公開協議開始時点で削除が予告されていた地理的(頒布)制限(Geographical Limitations)[58]の項については、明白に削除されている。

最終稿となった第4の議論草稿[59][60]2007年5月31日に公開された。この草稿では、Apache Licenseとの組み合わせを可能にする条項が導入された他、外部契約者(contractor)の役割を明確化し、マイクロソフト–ノベル間の契約のような明白な問題を回避する例外条項を加えている。この最後の例外条項は、第11項[61]第7段落に次のように記載されている(条文は正式公開版と同一である)。

You may not convey a covered work if you are a party to an arrangement with a third party that is in the business of distributing software, under which you make payment to the third party based on the extent of your activity of conveying the work, and under which the third party grants, to any of the parties who would receive the covered work from you, a discriminatory patent license [...]

これは、そのような契約を将来に渡って無効化することを目的としている。また本ライセンスは、マイクロソフトが、あるGPLv3ソフトウェアを利用するノベルの顧客に許諾したような特許契約(特許ライセンス、パテントライセンス)を、まさにそのGPLv3ソフトウェアを利用するユーザーすべてにまで(ユーザーの行為如何に全く関わらず)自動的に拡大適用することを意味する。ただし、マイクロソフトが法的にGPLv3ソフトウェアの伝達者(conveyor; 譲渡者)でもない限り、それは不可能である[62][63]。これはある種、特許契約に対しそれを他者に無制限に提供してしまうことから、ポイズンピルのような働きを持つとの意見もある[64]。ただし本条項導入の直接の契機となった、ノベルの行為そのものに対しては、本項第7段落最後に例外を設け、既得権条項Grandfather clause)を適用している[65]

一方、態度を鮮明にしている幾人かの有名なLinuxカーネル開発者は、マスメディアに対しコメントを出し、議論用の初稿ならびに第2稿の一部に反対する旨の声名を発表した[66]リーナス・トーバルズは、GPLv3の反DRM条項により、GPLv3でライセンスされたソフトウェアがDRMを利用したコンピュータ・セキュリティのメカニズムを享受できなくなるとして、LinuxカーネルのGPLv3への移行には明確に反対している[67]リチャード・ストールマンは、2007年初めにもこの動きは収束すると期待していた[68]。第3稿に関しては、(反TiVo化条項が幾分緩められたため)リーナスは「満足している」と語っていた[69]、が最終稿が提出された後のコメントで、GPLv3はGPLv2と比べ(両者のデュアルライセンスが可能か考慮に入れた上、コードの全著作者からライセンス移行の合意を得るという途方も無い手間[70]を掛けたとしても)移行するメリットはないと述べていた[71][72]

概ねこれらの議論は本質的には全く同じ視点に立ってはいるが、ソフトウェアのコードの自由を重視するオープンソース陣営とそれのみではなくソフトウェアを利用するユーザーの自由の最大化を目的とするフリーソフトウェア陣営の考え方の違いが浮き彫りになったに過ぎない。ソフトウェアの自由な利用のためには、ソフトウェアの範疇に留まらず、広く働きかけることを厭わないとする後者の考え方が、GPLv3には色濃く出ている。

GPLv3はGPLv2と比べ、条文の大幅な変更にも関わらず、内容自体には大きな変更はないとも言える。しかし全く無いわけではなく、とりわけGPLv3の特許関連条項と、(反DRM条項改め)反TiVo化条項などは、GPLv2の第6節にある「(GPLv2で認められた)これ以上他のいかなる制限」(further restriction、同様の条項がGPLv3の第10項のさらなる権利制限)に相当するため、原則GPLv3はGPLv2と両立しない(ただし、GPLv2で保護される著作物がある条件を満たすとこれは解決する)。

利用条件

GPLが適用された著作物の複製を受け取る者すべて(the licensee; 許諾された者ライセンシー。ソフトウェアを受領して利用するだけの人物や再頒布者もこの中に含まれる。記事"ライセンス"も見よ)に対し、GPLの条項と条件(terms and conditions; 利用条件)は遵守されなければならない。利用条件に従うライセンシーは著作物を改変する許諾を与えられるのと同時に著作物または二次的著作(派生 derivative)物の複製と頒布を許諾される。ライセンシーは、このようなサービスを提供するのに料金を課してもよいし、また無料で行ってもよい。この後者の許諾は、GPLと商用再頒布禁止のソフトウェアライセンスとの相違点である。FSFは、フリーソフトウェアは商用利用を制限するべきではないと主張している[73]。また、GPLは、GPLが適用された著作物を如何なる値段で販売しても良い旨、明確に述べてある。

加えて、GPLは、頒布者がGPLにより許諾される以上のさらなる権利制限(further restrictions on the rights granted by the GPL)を課してはならないと述べている(GPLv2第6節、GPLv3第10項)。これは(純粋に契約である)秘密保持契約(non-disclosure agreementまたはnon-disclosure contract)のもとソフトウェアを頒布するような手法を禁ずる。GPLのもと、頒布者はまた、GPLなソフトウェアにおける特許を行使するために、ソフトウェアにより行使されるいかなる特許をもライセンスとして許諾する。

GPLv2の第3節とGPLv3の第6項によると、事前コンパイルされたバイナリとして頒布されるプログラムは次のいずれかを満たさなければならない。

  1. ソースコードの複製の直接の添付
  2. 事前コンパイルされたバイナリと同一の手段でソースコードを頒布するという書面での提案の添付
  3. GPLのもと、事前コンパイルされたバイナリを受け取った場合に得た何かを、ソースコードを提供する旨の文書で提示

また、GPLv2の第1節とGPLv3の第4項は、プログラムの受領者すべてにプログラムと共にGPLライセンスの複製を(all recipients a copy of this License along with the Program)与えなければならないと規定している。GPLv3ではその第6項を満たす限りにおいて、ソースコードを利用可能な状態にするために、GPLv2で指定された物理媒体以外にも、明示的に追加の手段を講じても良いとする。コンパイル済みコードを取得する方法とソースコードのありかが明確に分かる場合、近くのネットワークサーバからまたはP2P送信によりソースコードをダウンロードさせる手段などもこの追加の手段に含まれる。

コピーレフト

改変された著作物を頒布する権利は、GPLにより無制限に付与されるわけではない。頒布者自身による改変が加えられたGPLによる著作物を頒布する際に、著作物全体を頒布するための要件は、GPLよりも強い要件であってはならない。

その要件とは、コピーレフト (Copyleft)として知られている。これは、ソフトウェアプログラムに関し、著作権 (copyright)を利用した法的な権能をもたらす効果がある。GPLで保護される著作物もまた、著作権でも保護されているため、改変された形態でなくとも、ライセンスで規定されている場合を除き、ライセンシーはその著作物の再頒布の権利を持たない(フェアユースを除く。ただし、その記事やGPL FAQ[74]で述べられている通り、フェアユースにworld-wide principle; 世界的な原則統一見解などない)。再頒布のような、通常著作権法で制限される権利をある人物が行使しようと考える場合、その人物はGPLの条項をただ従う必要がある。逆に、GPLの条項を遵守せず(例えば、ソースコードを開示しない)著作物の複製を頒布すると、著作権法に基づき著作権保持者から頒布差止等で提訴される可能性がある。

コピーレフトは、これ故、著作権法を本来の使用目的と正反対の目的を実現するために利用する。すなわち制限を課す代わりに、コピーレフトは、権利がのちに消失しないような方法で、他者への権利を許諾するのである[75]。GPLはまた、ライセンシーに対し再頒布の権利を無制限に許諾するのではなく、コピーレフトが主張する点において発見されるのは法律上の任意の欠陥であるべきことを保証している。

GPLで保護されるプログラムを頒布する多くの者は、ソースコードと共に実行ファイルを添付する。コピーレフトを満たす別の方法は、要求に応じて(CDのような)物理媒体を用いてソースコードを提供するという文書を提示することである。また事実としてGPLで保護されるプログラムの多くは、インターネット上で頒布されており、ソースコードはFTPまたはHTTP上などでソースコードを遣り取りできるようにしているものが多い。インターネット上での頒布は本ライセンスを満たしている。

コピーレフトが適用されるのは、ある人物がプログラムを再頒布しようと求める場合にのみである。改変したソフトウェアを他の誰にも頒布しない限り、改変箇所を公開しなければならない如何なる義務も免ぜられ、その改変版を私的な物とすることは許される。コピーレフトはソフトウェア自身のみに適用されるのであって、ソフトウェアの出力(outputs, アウトプット)には適用されないことには注意しておきたい(ただし、そのアウトプット自身がプログラム自体の二次的著作物ではない場合)。例えば 、GPLで保護されたコンテンツ管理システム("Contents Management Systems"; CMS)に対しその改変した派生版を動作させる一般ウェブポータル(ブログソフトウェアなど)は、その出力自体はプログラム自体の派生物ではないから、土台としたソフトウェアならびにその改変部分を頒布する必要はない。反例は、GPLで保護されたソフトウェア"GNU bison"である。この構文解析器の出力は、その派生物の一部をまさに含んでおり、そのため、この事実に対しGNU bisonにより許諾される特殊な例外条項(a special exception)が仮に存在しないならば、出力結果はGPLで保護される派生物となっていたであろう[76]。最新のGNU bisonでは、事実として、出力コードのヘッダAs a special exception...という特殊例外条項が記述されている[77]

なお(GPLに従う著作物に限ったことではないが)、GPLのもとで公開された著作物の著作権は、前述の通り譲渡しなければ個々のコードの著作権者が保有している。従ってGPLを無視した再頒布に対して、頒布の差止やGPL違反是正(エンフォースメント)を求める権利があるのはプログラムの著作権者だけであり、一般のライセンシーにはない[78]。ただ、大規模なFLOSS開発プロジェクトは一般的にワールドワイドであり、開発者の居住国が多岐に渡るため、多かれ少なかれ差異がある各国の著作権法にプロジェクト全体で合致させるのは困難を要す。このため一部のFLOSSプロジェクトでは各著作権者に代わり、コードの著作権を一括してプロジェクト(またはそれを統括する団体・法人組織)が引き受ける場合もある。GNUプロジェクトは、コードの受け入れに関し、米国著作権法の庇護を享受するため、ライセンス如何に関わらず、寄贈されたコードの著作権を原著作者より明示的にFSFに譲渡する場合にのみ受け入れている[79]。CMSのPloneならびにPlone財団(Plone Foundation)も似たような形式を採用している。

ライセンスと契約にまつわる問題

GPLは契約ではなくライセンスとして設計されている[80][81]。いくつかコモン・ローの法的な権限の及ぶ範囲において、ライセンスと契約の法的な区別は重要である。契約は契約法により支配されるが、他方ライセンスは著作権法のもと行使される。しかしながら、大陸法のような契約とライセンスの相違点がない多くの法体系ではこの区別は意味を成さない[82]

GPLの条項や条件に同意しない人々は、著作権法のもと、GPLライセンスされたソフトウェアまたはその二次的著作物(派生物)を複製または頒布する許諾を得ることはない(GPLv2第5節、GPLv3第9項)。しかしながら、もし彼らがGPLで保護されたプログラムを再頒布しないならば、彼らは猶も彼らの組織内でそのソフトウェアを好きなように使用しても構わない。そして、プログラムの利用により作成された著作物(生成されたプログラムもこの中に当てはまる)はこのライセンスの影響範囲に含めることを要求されない。

アリソン・ランダルは、ライセンスとしてのGPLv3はその支持者を不必要に混乱させており、同一の条件や法的効力を維持しつつ、簡略化すべきだと主張した[83]

日本の独立行政法人情報処理推進機構Software Freedom Law Centerの協力の下作成した「GNU GPLv3 逐条解説書」[84]によると、GPLが契約かライセンスかの論争は、GPLがエンフォーシブル(enforceable)か否かという問題と同値であると結論付けられている[85]。すなわち、ライセンス違反が発生し、解決が法廷に持ち込まれた場合、認められる要求が著作権侵害による違反者の頒布差止請求損害賠償請求に留まるのか、はたまた、ライセンスをエンフォース(強制)し、ソースコードの開示にまで持っていけるのか、といった議論は、GPLが契約か否かという問題に帰着する。大陸法ではGPLを契約と見なせるので(とりわけGPLv2の第2節、GPLv3の第9項は申込承諾意思表示であると解釈できる)、仮に法廷に持ち込まれた場合、大陸法の法体系では、差止請求だけに留まらずソースコードの開示まで請求できるとの解釈が述べられている。ただし実際にそのような法廷判断が下されたわけではない。

ライセンス条文の著作権者

前述のとおり、GPLの条文自体は著作権で管理されており、その保持者はFSFである。しかしながら、FSFはGPLのもとリリースされた著作物の著作権は保持しない。これも前述したが、例外は、著作権者が明示的にFSFに著作権を譲渡した場合である。ただし、そのような事例はGNUプロジェクトに属するプログラムを除いて滅多にない。ライセンス違反が発生した場合、個々の著作権保持者のみが、訴訟を起こす権限を持つ[78]

FSFは、FSFの許可なくGPLの前文(Preamble)を含めた、派生ライセンスを使用しない限り、GPLに基づいた新しいライセンスを作成することを許可する。しかしながら、このようなライセンスは一般的にはGPLと両立しない(incompatible)ので、作成しないほうがよい[10](より詳しい情報は、GPL FAQを参照せよ)。またそれは、ライセンスの氾濫を生む。翻訳翻案権の行使であるため、ライセンスの翻訳は原則認められないが、その翻訳が非公式であることを明記し、FSFの求めに応じて翻訳をアップデートできるならば翻訳を許可される[86]

その他、GNUプロジェクトにより作成されたライセンスには、GNU Lesser General Public LicenseGNU Free Documentation Licenseが含まれる。

リンクと派生物

ライブラリ

FSFによると、「GPLは改変版、もしくは改変版の一部のリリースを要求することは述べていない。改変版を一切公開せず、改変を加えることや、私的に利用することは自由である。」と主張している[87][88]。しかしながら、仮にある人物がGPLライセンスされたオブジェクトを公開するならば、ライブラリリンクに関する問題が提起される。すなわち、もし、プロプライエタリなプログラムがGPLなライブラリを使用するならば、そのプロプライエタリなプログラムはGPLに違反するのか、という問題である。

この重要な論点は、非GPLソフトウェアがライセンス的、すなわち著作権法的に、GPLなライブラリに静的リンクまたは動的リンク可能であるか否かという問題に行き着く。この問題に関して、異なるいくつかの見解が存在する。GPLのもとリリースされるコードの二次的著作物が全て、それら自身もまた、GPLに従わなければならないとの要求は明白である。しかし、GPLなライブラリを使用する、そして、GPLなソフトウェアをより巨大なパッケージと組み合わせる(bundle, バンドルする)(おそらく静的リンクによりバイナリを混合する場合などを想定すればよい)点に関しては、曖昧さが惹起する。これは究極的には、GPLそれ自体(per se, in itself)とは無関係の問題であるが、著作権法が二次的著作物をどう定義するかということと関連した問題である。この議論に関して、次のようないくつかの異なる見解が存在する。

見解: プロプライエタリ・ソフトウェアを動的リンク、静的リンクすることはGPLに違反する

GPLでライセンスされた著名なソフトウェア製品ならびに、GPLのライセンス条文自体の著作権を保持する法人組織でもある、FSFは、動的リンクされたライブラリを利用する実行ファイルは、実際には二次的著作物である、と強く主張している。しかしながら、このことは、お互いを「結合する」(連携する、communicate)だけの分離された別個のプログラムには適用されないとしている[89][90]

FSFはまた、コピーレフトという点で、GPLとはほぼ同一であるが、「ライブラリ利用」という目的のために、リンクの許諾を追加的に与える、LGPLというライセンスも作成した。

リチャード・ストールマンとFSFは、プロプライエタリな世界と比較し、より豊富なツールを提供することによりフリーソフトウェアな世界を護持することを目的として、ライブラリ作者に対し、GPLの下でのライブラリのライセンシングを明確に促している。これは、プロプライエタリ・プログラムがGPLで保護されたライブラリを一切使用できないようにすることを狙っている[91]

プラグイン

FSFは、プラグインの呼び出し方法についてはまた別であると認識している。もし、プラグインが動的リンクにより呼び出され、関数呼び出しをGPLプログラムに提供するならば、その時には、プラグインは、概ね二次的著作物であると見なされる[92]

見解: プロプライエタリ・ソフトウェアを静的リンクすることはGPLに違反するが、動的リンクに関しては不明瞭

静的リンクは二次的著作物を生じるが、他方、GPLコードに動的リンクされた実行ファイルが二次的著作物であると考慮されるべきか否かははっきりしないとする意見もある。詳細は弱いコピーレフト(Weak copyleft)を参照せよ。Linuxカーネルの著作権者リーナス・トーバルズは、状況により、動的リンクは派生物を生じ得るとの見解に同意する場合と同意しない場合があるとしている[93]

ノベルの弁護士は、動的リンクが二次的著作物でないのは「もっともらしい」が「断言」はできないとし、善意による動的リンクの証拠として、プロプライエタリなLinuxカーネルドライバの存在に見てとれる、と文書にて記載している[94]

ガルーブ対任天堂(Lewis Galoob Toys, Inc. v. Nintendo of America, Inc.)訴訟において、第九連邦巡回区控訴裁判所(United States Court of Appeals for the Ninth Circuit)は、二次的著作物を「『形式』または永続性」を所持するものと定義し、「当件における侵害された著作物が、ある形式で著作権の適用された著作物の一部と協働しなければならない」と言い渡した。しかし、特にこの対立を解決する明白な法廷判断は出ていない。

見解: リンクは無関係である

Linux Journal(en)誌の記事によれば、IP法の専門家でOSI法務顧問 (General counsel)も務めるローレンス・ローゼン(Lawrence Rosen)は、リンクの動的・静的を含む種別は、ある種のソフトウェアが二次的著作物であるか否かについての問題とは概ね関係がない、すなわち、そのソフトウェアが、クライアントソフトウェアとライブラリ、またはそれら個別とのインタフェースが意図されているか否かについての問題のほうがより重要である、と主張している[95]。彼は、「新規のプログラムが二次的著作物であるか否かの主な指標は、原著作物のプログラムのソースコードが、『複製と添付(コピーアンドペースト)』する意図をもって利用され、新たなプログラムを作成する任意の手段において、改変、翻案またはその他の変更を加えたか否かに係っている。もしそうでないならば、私はその新規のプログラムは二次的著作物ではないと主張するだろう」と述べる[95]。また、彼はこの記事の中で、ソフトウェアの組み合わせ・バンドリング、リンクのメカニズムなど、その他関連する多くの指摘意図を挙げている。さらに、彼は、彼の弁護士事務所のウェブサイト[96]にて、このような「市場原理」的要素はライブラリリンクの原理といった技術的な要素よりも重要であると主張している。

プラグインまたはモジュール(例えば、nouveauとは異なるNVIDIAプロプライエタリデバイスドライバ、またATI FireGL RXなどのグラフィックカードカーネルモジュールがその一例)が固有の著作物と合理的に見なされる際、それらライブラリがGPLに従わなければならないか否かという、別個の問題もある。これに対する見解は、著作物がGPLv2ならば、分離していると合理的に理解されるプラグインまたは、プラグインを利用するために設計されたソフトウェア用のプラグインは、任意のライセンスで許諾され得る。GPLv2の条文段落において特に注目される箇所は以下の条文である。

You may modify your copy or copies of the Program or any portion of it, thus forming a work based on the Program, and copy and distribute such modifications or work under the terms of Section 1 above, provided that you also meet all of these conditions:

...

b) You must cause any work that you distribute or publish, that in whole or in part contains or is derived from the Program or any part thereof, to be licensed as a whole at no charge to all third parties under the terms of this License.

...

These requirements apply to the modified work as a whole. If identifiable sections of that work are not derived from the Program, and can be reasonably considered independent and separate works in themselves, then this License, and its terms, do not apply to those sections when you distribute them as separate works. But when you distribute the same sections as part of a whole which is a work based on the Program, the distribution of the whole must be on the terms of this License, whose permissions for other licensees extend to the entire whole, and thus to each and every part regardless of who wrote it.

GPLv3では、条項の文面は異なっているが[97]、上記と同様の内容が、以下となる(詳しくはセクション"改変版ソースの伝達"を参照)。

You may convey a work based on the Program, or the modifications to produce it from the Program, in the form of source code under the terms of section 4, provided that you also meet all of these conditions:

...

c) You must license the entire work, as a whole, under this License to anyone who comes into possession of a copy. This License will therefore apply, along with any applicable section 7 additional terms, to the whole of the work, and all its parts, regardless of how they are packaged. This License gives no permission to license the work in any other way, but it does not invalidate such permission if you have separately received it.

...

A compilation of a covered work with other separate and independent works, which are not by their nature extensions of the covered work, and which are not combined with it such as to form a larger program, in or on a volume of a storage or distribution medium, is called an “aggregate” if the compilation and its resulting copyright are not used to limit the access or legal rights of the compilation's users beyond what the individual works permit. Inclusion of a covered work in an aggregate does not cause this License to apply to the other parts of the aggregate.

事例分析として挙げると、DrupalWordPressのようなGPLv2でリリースされていたCMSに対し、それらに提供されていたプロプライエタリと想定されるプラグインテーマ(en)、スキン(en)などは、両プロジェクトサイドにて議論が巻き起こる共に、非難されるようになってしまった[98][99][100][101][102]

一方、Linuxカーネルではこのような結合の状況分析を行うことなく、カーネルの著作権の影響範囲とユーザ空間プログラムが派生物ではないことをライセンステキスト冒頭[103]で述べている[104]

  NOTE! This copyright does *not* cover user programs that use kernel
services by normal system calls - this is merely considered normal use
of the kernel, and does *not* fall under the heading of "derived work".[...]

参考訳:

  注意! この(Linuxカーネルの)著作権は通常のシステムコールによる
カーネル・サービスを利用するユーザ空間プログラムを影響下に置くことは「ない」。
このことは、カーネルの通常利用を考慮したものであるに過ぎない。
そして、このことは「派生物」との分類を受けるものではない。(後略)

集積物の別の部分と見なされるパッチ

前述のセクションの実例を挙げる。GPLソフトウェアへのパッチを提供した場合は、そのパッチが「適用したGPLソフトウェアとは別の著作物」とみなされる可能性も含んでいる。これは、前述の通り、

  • GPLv2の第2節後半部分 These requirements [...] do not apply to those sections when you distribute them as separate works.

  • GPLv3第5項最終段落 Inclusion of a covered work in an aggregate does not cause this License to apply to the other parts of the aggregate.[105]

に規定されている。即ちGPLソフトウェアを含む「集積物(aggregate)の他の部分」と認められれば、GPLに反しない、言い換えればGPLより緩やかなライセンスでパッチを公開しても良い[106]。例えばパッチが単なる修正ではなく、単体で再利用可能な全く別種の機能強化と見なされればそれは集積物の別の部分と規定でき、そのパッチのみに対しGPLと矛盾せずかつGPL以外のライセンス(BSDライセンスzlib Licenseなど)を適用する事も可能である。一例をあげると、MySQLは、「リンク例外条項付きGPLv2」と商用ライセンスとでデュアルライセンシングされている。これに対しGoogleはMySQL向けのパッチをBSDライセンスで提供していた[107]。このパッチはオリジナルのMySQLに由来しないコードのため、GPLで保護されたMySQLの「集積物とは別の部分」となる。BSDライセンスは独占的なライセンスであろうとも両立するので、結果的にこのパッチは、MySQLをGPLで利用するライセンシーと共に商用ライセンスで利用する者も適用可能である[108][109]。また同時にそのパッチからサブルーチンのみを取り出し、BSDライセンスされたソフトウェアにも同様のルーチンを導入する事も可能となる[109]

非GPLプログラムとの結合や組み合わせ

GPLなソフトウェアと別のプログラムが単に結合している場合は、本来、全てのソフトウェアをGPLにすることも要求されない、そしてGPLなソフトウェアを非GPLソフトウェアとともに頒布することも要求されない。しかし、稀な条件において、GPLの権利を保証することを妨げる障害が取り除かれるであろう。次の文は、GNU.org ウェブサイトに存在するGPL FAQからの引用である。これは、ソフトウェアが、バンドルされたGPLプログラムと結合を許される範囲がどこまでかを記述している。

'What is the difference between an “aggregate” and other kinds of “modified versions”?

An “aggregate” consists of a number of separate programs, distributed together on the same CD-ROM or other media. The GPL permits you to create and distribute an aggregate, even when the licenses of the other software are non-free or GPL-incompatible. The only condition is that you cannot release the aggregate under a license that prohibits users from exercising rights that each program's individual license would grant them.

Where's the line between two separate programs, and one program with two parts? This is a legal question, which ultimately judges will decide. We believe that a proper criterion depends both on the mechanism of communication (exec, pipes, rpc, function calls within a shared address space, etc.) and the semantics of the communication (what kinds of information are interchanged).

If the modules are included in the same executable file, they are definitely combined in one program. If modules are designed to run linked together in a shared address space, that almost surely means combining them into one program.

By contrast, pipes, sockets and command-line arguments are communication mechanisms normally used between two separate programs. So when they are used for communication, the modules normally are separate programs. But if the semantics of the communication are intimate enough, exchanging complex internal data structures, that too could be a basis to consider the two parts as combined into a larger program.

[110][111]

このように、FSFは「ライブラリ」と「その他のプログラム」とを、次の2つの観点双方を用いて線引きしている。

  1. データ・情報交換に係る「複雑さ」(complexity)と「親密さ」(intimacy) (「セマンティクス」)
  2. セマンティクスだけではなくメカニズムmechanism rather than semantics

しかし、FSFは、この問題は明確な結論はなく、複雑さの条件について判例("case law")により決められる必要があるだろう、と譲歩している。

GPL FAQでは「結合メカニズム」(「コミュニケーションのメカニズム」)の例として、プロセス間通信リモート・プロシージャ・コールカーネル空間ユーザー空間の通信やシステムコールパイプexecによるプロセス起動などを挙げている。これら「結合メカニズム」を用いてGPLなソフトウェアと接続する場合は、個別のプログラムであるため結合ではないとも見なせるが、そのやり取りするデータの如何によって接続先が二次的著作物であると見なされる余地も残されている(「コミュニケーションのセマンティクス」)。これに対する明確な法廷判断はまだない。

法廷におけるGPL

2002年MySQL AB著作権侵害ならびに商標権侵害でProgress NuSphere社[112][113]アメリカ合衆国マサチューセッツ連邦地方裁判所(United States District Court for the District of Massachusetts)に提訴した。伝えられる所では、NuSphereは、MySQLのGPLで保護されるコードを自社のGeminiテーブル型モジュール[114]静的リンクしたが、GPLの条項に従わず、Geminiのソースコードを一切公開しなかった。このためMySQLの著作権を侵害していたとされる[115][116][117]2002年2月27日パティ・サリス(Patti Saris)判事の予備審問ののち、当事者らは和解協議に入り、最終的に事実上合意に至った[118]。審問終了後、FSFは「サリス判事は、GNU GPLが強制力と束縛力を持つライセンスであることが分かったことを表明した」とのコメントを発表した[119][120]

2003年8月SCOグループは、「GPLに法的な有効性などない」と本気で考え、彼らはSCO UnixからLinuxカーネルへと不正に複製されたと疑わしいソースコードの断片を法廷で取り上げるつもりだと主張した。彼らは、当時GNU/Linuxディストリビューションを頒布しており、またそのディストリビューション、Caldera OpenLinuxディストリビューションに含まれていたその他GPLで保護されたコードも頒布していたため、これは問題のある行動であり、しかも、GPLの条項に従うことを除いてそのような問題行動をとる的な権利などほとんど有って無いに等しかった。詳しくは、記事"SCO-Linux論争"("SCO-Linux controversies")と"SCO対IBM事件"("SCO v. IBM")も参照せよ。

ドイツネットワーク機器メーカーSitecomは、GPLの条項に違反して、netfilter/iptables[121]プロジェクトのGPLで保護されたソフトウェアを頒布していたが、彼らは頒布停止を拒絶した。この後、事態は法廷に持ち込まれ、2004年4月ミュンヘン地方裁判所はnetfilter/iptablesプロジェクトの訴えに対し、Sitecomドイツ法人の製品に対する予備的差止命令(preliminary injunction)を認める決定を下した。2004年7月、ドイツの法廷は、この差止命令がSitecomへの判決になると確定し、結審した[122]。法廷で認められたのは次の内容である。

Defendant has infringed on the copyright of plaintiff by offering the software 'netfilter/iptables' for download and by advertising its distribution, without adhering to the license conditions of the GPL. Said actions would only be permissible if defendant had a license grant [...] This is independent of the questions whether the licensing conditions of the GPL have been effectively agreed upon between plaintiff and defendant or not. If the GPL were not agreed upon by the parties, defendant would notwithstanding lack the necessary rights to copy, distribute, and make the software 'netfilter/iptables' publicly available.

参考訳:

被告は、ソフトウェア'netfilter/iptables'をダウンロードできる状態にし、その頒布物を宣伝したが、GPLのライセンス条件を遵守しなかったため、原告の著作権[123]を侵害した。仮に被告がライセンスの許諾を受けている場合を除いて、当該行為は許されない。(中略) このことは、原告と被告との間で、GPLのライセンス条件に事実上合意したか否かという問題とは別である。仮に原告・被告の当事者がGPLに同意しなければ、にもかかわらず、被告は当該ソフトウェア'netfilter/iptables'を複製、頒布そして公開するのに必要な権利を失っていただろう[124]

netfilter/iptablesの開発者でその著作権を持つもののひとりでもある、ハラルト・ヴェルテは、ドイツにあるFLOSS関連の法的係争を扱う組織、ifrOSS(en)の共同設立者、ティル・イェーガー(Till Jaeger)に自身の法的代理人を要請した。この判決文は当時FSFの顧問だったエベン・モグレンが以前予想した通りの内容を反映していた。これは、GPLの条項違反が著作権侵害に与える影響を法廷が初めて認めた重要な判決だった。

2005年5月、ダニエル・ウォレス(Daniel Wallace)は「GPLは価格を零にしようとする違法な企て、すなわち価格固定(price fixing)やダンピングである」と主張し、FSFインディアナ南部連邦地方裁判所(United States District Court for the Southern District of Indiana)に提訴した。2006年3月、ウォレスはGPLが反トラスト法に違反する行為を促すとの正当な主張を法廷で証明することができなかったため、原告申立ては棄却された。「GPLは、自由競争や、コンピュータ・オペレーティングシステム・ソフトウェアと消費者が直接得られる利益双方の頒布を阻害するというより、むしろ促進している」と、法廷は言い渡した[125]。その後、ウォレスは、不服申立控訴状も却下され、FSFへの訴訟費用の支払いを命じられた。

(Wallace v. International Business Machines Corp. et al.)

2005年9月8日ソウル中央地方法院(서울중앙지방법원, Seoul Central District Court, ソウル中央地方裁判所)は、GPLでライセンスされた著作物から派生した二次的著作物を企業秘密(trade secret)とする契約事項に対し、GPLは本件と関連なしとの判決を下した[126][127]。判決主文の英文抄訳より事件のあらましを述べると、係争にあがった著作物は、GPLv2で保護されたソフトウェアVTun(en)である。被告の一人はVTunをベースとした二次的著作物であるソフトウェアを、原告である企業に雇用されている間作成した。彼が原告企業を退社後、そのソフトウェアのソースコードを個人的に複製しており、そのバグ修正を行ったうえ、そのソフトウェアを利用した商用サービスをもう一人の被告と立ち上げた[128]。これに対し、原告はそのサービスが自社の企業秘密の漏洩であると主張した。 被告らは、GPLを遵守して著作物を頒布する限りは、企業秘密を維持することなど不可能であるので、守秘義務違反ではないと主張した。ソウル地裁はこの主張の法的根拠を認めず、「ライセンス如何にかかわらず、企業秘密の漏洩により公平な競争者に対抗し不公平な利益を得ることを守秘義務で縛ることは妥当である。また企業秘密は特許とは別であり、技術的である必要は無い(1998年大韓民国大法院判決による)。」と述べた。

2006年9月6日gpl-violations.orgプロジェクトは、D-Link Germany GmbH(Dリンクのドイツ法人)を提訴し、これに勝訴した。原告は、被告が販売する(即ちこれ自体「対価を取って頒布する」ことであり、なんら問題ない)NAS機器に、Linuxカーネルの一部を利用していたが、GPLに違反した使用であり、著作権侵害である、と主張した[129]。この判決[130][131]により、GPLの有効性、法的拘束力がドイツの法廷で支持されたという判例が与えられたことになった。

2007年後半より、BusyBoxの開発者ならびにSoftware Freedom Law Center(SFLC)は、組み込みシステムに利用するBusyBoxの頒布者からGPLを遵守する旨の言質を得ることや、GPLを遵守しないものを提訴する計画に乗り出した。これら一連の訴訟は、アメリカ合衆国において、GPLの責務に対する強制力を法廷で争った初の機会であると述べられている。

2008年12月11日、FSFはシスコシステムズ提訴した[132]。被告はそのLinksys部門にて、原告のFSFがGPLでライセンスした著作物である、

ソフトウェアパッケージを、Linksysの次に述べる製品のファームウェアGNU/Linuxシステムの形で組み込んで、対価を取って頒布、すなわち販売していたが、GPLの条項に違反していたためFSFの著作権を侵害している、と原告のFSFは主張した。該当する製品は、Linksysの有名な無線LANルーターWRT54Gやその他DSLモデムケーブルモデムネットワークアタッチトストレージ機器、Voice-Over-IPゲートウェイVirtual Private Network機器そしてホームシアターメディアプレーヤー機器などその他多くの機器にも及ぶ。

FSFがシスコを提訴するまでの6年間、FSFはシスコに何度も異議申立てを行ったが、シスコは、「われわれは、(GPLで保護されたプログラムの全てのソースコードならびにその改変箇所を含む完全な複製を提供しなかったというGPLの)条項違反についての問題を修正予定もしくは修正中である」と主張したが、その後も、より多くの製品から新たな違反が発覚し報告を受け、Linksysと多くの会談を持ったが、結局実りは少なかった。FSFのブログでは、この過程を「5年間にも及ぶモグラ叩きゲーム」("five-years-running game of Whack-a-Mole")と評している[133]。この6年間の過程を経て、FSFは遂に本件を法廷に持ち込むことを決意した。

シスコは本訴訟の和解のテーブルに着き、6ヵ月後、

  • GPLのコンプライアンス遵守を保証することを目的とし「Linksysに対するフリーソフトウェアの監査役(Free Software Director)を任命すること」
  • 「GPLに基づき、FSFの著作物である当該プログラムを組み込んだLinksys製品を、対価を払って受領、すなわち購入した以前の顧客(ライセンシー)に、当該受領者の権利を保証する旨の通知を行うこと」
  • FSFのプログラムのソースコードを、シスコのウェブサイト上で自由に利用可能な状態にする(アップロードする)こと[134]
  • FSFへの金銭的支払いを行うこと

という和解内容に合意した[135]

両立性とマルチライセンス

GPLと両立するライセンスについてのクイックガイド。上段から順にコピーレフト性がまったく無いパブリックドメインを含む緩やかなライセンスから、弱いコピーレフトを持つLGPL、コピーレフトが最も強いGPLを示し、左列は(GPLv2を除いて)GPLv2・GPLv3双方と両立、右列はGPLv3のみと両立するライセンスである。矢印の向かう先がある場合はそのライセンスと互換性があり、そうでない場合は印がない。左最上部のライセンス群は相互再ライセンス可能である。GPLv2とGPLv3は互換性がないが、GPLv2に本セクションで説明する条件を満たす場合は、GPLv3に再ライセンスされる(そのためか、GPLv2からGPLv3へ破線矢印が記されている)。

あるオープンソースソフトウェアでライセンス上考慮すべき点があるなどして、またはもっと極端な例では、GPLの思想的な面に反発があるなどして、GPLと両立性compatible)を欠くようなライセンスを自身のオープンソースプロダクトに敢えて採用するケースがあるかもしれない。しかし、GPLを採用するフリーソフトウェア、オープンソースソフトウェアが多数存在するため(セクション"採用実績"を参照)、現実問題としてそのような行為はコードの再利用性を著しく欠く結果につながる(記事"ライセンスの氾濫"を参照)。このため、自身の採用するライセンスをGPLと非互換にしないよう、GPLとのライセンス両立性を考慮することは重要である。

著作物全体として影響を受けるライセンスの持つ制限の組み合わせにより、GPLが許諾する事項を越えるいかなる追加的制限が課されない限り、いくつかその他のライセンスで許諾されたコードは、GPLで許諾されたプログラムと衝突することなく組み合わせること(両立する互換性がある; compatible。逆は両立しない非互換である; incompatible)も可能である[136]。一般には(独占的ライセンスとの組み合わせを許す場合を除いて)フリーソフトウェアライセンス/オープンソースライセンスで許諾されたコードの組み合わせ全体には、そのコピーレフト性が最も強くなるライセンスに再ライセンスされる。GPLの正規の条項に加えて、追加的な制限や許諾を適用することができる組み合わせは以下の通りである。

  1. 異なるバージョンのGPLのもとライセンスされるコードを組み合わせたいと考える場合は、より古いバージョンのGPLのコードに"any later version" statement(「任意の以後のバージョン」という表明文)が認められているのならば許可される[137]
  2. LGPLのもとライセンスされるコードは、そのコードのライセンス如何に関わらず(独占的なコードでさえも)、いかなるその他のコードともリンク可能である[138][139]。組み合わせた全体の著作物がGPLv2またはGPLv3でライセンスされる場合において、LGPLv2でライセンスされたコードに"any later version" statementが存在しない場合はコードを当該ライセンスで再ライセンスすることができる[140]

上述1.について、よくある表明文の例は、"either version 2 of the License, or (at your option) any later version"(「本ライセンスのバージョン2、または(あなたの選択で)任意の以後のバージョン」)である。また対照的な例はLinuxカーネルや、バージョン1.9.2までのプログラミング言語Rubyの処理系(インタプリタ)である。これらは"any later version" statement(表明文宣言)なしのGPLv2単独でライセンスもしくはGPLv2を内部的に参照する形式を採るRubyライセンスである(後者はデュアルライセンスと類似する)。従ってGPLv3のコードを組み合わせることはできないので注意を要する。しかし、Rubyの処理系はデュアルライセンスのGPLを、バージョン1.9.3より、GPLより緩やかなフリーソフトウェアライセンス(Permissive free software licence)である2条項BSDライセンスにコンバートしたため、以後のバージョンのRubyの処理系ではGPLv3で保護されるプログラムを組み合わせることも可能である。このような許諾変更が許されるのは、デュアルライセンスの片方であるRubyライセンスが著作権者(Rubyの処理系の場合はまつもと)に許諾条件の変更を一任する条項(2.(d))が存在する為である。一般的に、ソフトウェアのライセンスを非互換なライセンスに変更する場合は、コードの全著作権者からライセンス変更の同意を取り付けなければならない[70]。LinuxカーネルはRuby処理系のような特殊な規定を持っているわけではないので、そうせざるを得ない[70]。GNUプロジェクトはこのような事態に陥ることを回避するため、前述の通り、著作権者からコードの著作権をFSFに譲渡するよう勧め、また彼らのソフトウェアのライセンスほぼ全てに"any later version"表明文を付したGPLを適用している。

FSFは、GPLと両立するフリーソフトウェアライセンスのリストを維持管理している[141][142][143]。そのようなライセンスは、もっとも広く利用されている、オリジナルのMIT/X license、(現行の3条項形式の)BSDライセンスそしてArtistic License 2.0などを対象としている[144]

デイヴィッド・A・ウィーラー(David A. Wheeler)は、GPLと非互換なライセンスを利用すると、他者のフリーソフトウェア/オープンソースソフトウェアプロジェクトへの参加や、コードの貢献が難しくなるため、フリー/オープンソース開発者はGPL互換なライセンスのみ採用するよう強く主張し続けている[18][145]。特筆すべきライセンス非互換の例として、旧サン・マイクロシステムズZFSが、GPLでライセンスされたLinuxカーネルに組み込めないというものが挙げられる。なぜなら、ZFSはGPL非互換なライセンス、CDDLで許諾されているからである。これに加え、ZFSは特許で保護されており、ZFSの機能を持つソフトウェアをサンとは独立にGPLのもと実装し頒布しようとしたとしても、それでもなおサン(現在はオラクル)の許諾が必要となると予想される[146]

(List of software licenses)

マルチライセンス

GPLのもとで頒布するとともに、静的リンクなどを使用する場合やそうではなく動的リンクを使用する場合においても、パッケージにプロプライエタリなコードを組み合わせたいと望む企業のため、二次的著作物を独占的な条件・ライセンスで頒布・販売可能にする商用ライセンスを同時に提供するマルチライセンシング・ビジネスモデルが多く存在する。このようなビジネスモデルを採用する企業(ソフトウェア)には、Oracle社(MySQL AB社のMySQL)、Digiaen[147]社(旧Trolltech社のQtフレームワーク[148] )、Namesys社(ReiserFS)、Red Hat社(Cygwin)、Riverbank Computing社(PyQt(en))などがある。

マルチライセンス等で動的リンクでGPLの裏をかいたり、著作権保持者に提訴された際には、係争者が存在しない。マルチライセンス下の商用ライセンスによる制限は正式 (de jure) にではないにしろ、事実上の (de facto) 強制といえる。

採用実績

Black Duck Software(en)社により管理される"Open Source License Resource Center"によると、フリーソフトウェア/オープンソースライセンスでリリースされたソフトウェアパッケージ全体の約60%がGPLをライセンスに採用していると示されている[149]

テキストメディアならびに他のメディアにおける利用

コンピュータ・プログラムの代わりにテキスト文書、またはより一般的にはあらゆる種類のメディア全てにGPLを採用することは可能である。ただしその条件は、それらメディアが「ソースコード」(その定義としては、「それ自身を変更することを可能にさせる著作物の好ましい形態」)を構成できるか明らかである必要がある[150]マニュアル教科書は、FSF自身はGNU Free Documentation License (GFDL)の利用を代わりに薦めるが、この目的において前述の要件を形成できる媒体である[151]。しかしながら、FSFの勧告にも関わらず、Debian開発者らは(2006年に採択された決議に基づき)、彼らのプロジェクトにおける文書をGPLのもとライセンスする勧告を出した。なぜなら、プログラム・メディア双方の著作物における「ソースコード」という概念に対し、GFDLにはGPLの条項と非互換な取り扱いが存在するからである。すなわちGFDLのもとライセンスされたテキストはGPLで保護されるソフトウェアに組み込めないというのである[152]。詳細については、記事"Debianフリーソフトウェアガイドライン#GFDL"を参照せよ。また、フリーソフトウェア用のマニュアルなどの作成に貢献している組織、FLOSS Manuals財団(FLOSS Manuals Foundation)は、2007年に、本組織のテキストにGFDLの採用を忌避しGPLの採用を決定した[153]

仮にGPLがフォントのライセンスに採用された場合、このようなフォントにより形成されるあらゆる文書、画像PDFは、これまたGPLの条項に従って配布する必要があるかもしれない。このケースは、著作権法がフォントの書体(appearance of fonts, typeface)には及ばない国々(アメリカ合衆国カナダのような国[154])では問題とならない。日本の場合も同じく、フォントの書体意匠権を持ち、意匠法が管掌する。書体には著作権はないとの考えは現状一般的である。しかし、フォントヒンティング・テクノロジーなどのフォントファイル内に存在するプログラムコードは(それが「プログラム」である[155]から、)猶も著作権法で保護され得る。また、セクション"リンクと派生物"で述べたことと同様に、フォント埋め込みは、文書がフォントと「リンク」していると見なされる[156]ので、事態をより複雑にさせる。FSFはこの想定外の事態に対し、GPLでフォントをライセンスする際には著作権者は「例外条項」を設けるべきとの解決策を与えている[157][158]

GPLv3にまつわる話題

ここではGPLv3で改訂された内容や新規に導入された事項を理解するため、条項の逐条的な説明を行う。内容はIPAの「GNU GPLv3 逐条解説書」[84]を参考に、一部を除き括弧内に対応する条項名を記載した。「SFLCによると」の部分は、原典のIPAの「GNU GPLv3 逐条解説書」と同一の扱いである。

主要な用語の定義A 

バージョン2以前のGPLで使用された用語は、米国著作権法に準拠したものが多い。GPLv3ではこのことを踏まえ、各種用語を定義し直し、主張する内容を明瞭化した。よって各国著作権法との親和性は幾分かは上がった。この点を述べてライセンスの米国法依存脱却、すなわち「国際化」と呼んでいる[159]。また用語の曖昧さについては、詳細な定義を加えることにより極力排除されている。しかし実は、GPLに準拠する法は、GPLv2でもGPLv3でも同じく、いかなる国の法はGPLの準拠法となり得る[160]。実際の実務として検討する課題は少し存在するが[161]、この法的解釈はGPLv2からは何も変わっていない。このことは、議論用第2稿と同時に提出された"Opinion on Denationalization of Terminology"(「用語の特定国家依存からの脱却に関する意見」)に記載されている、"Rejection of Choice of Law Clauses"(「法の選択条項の拒絶」)[162]にて明確に趣旨が説明されている。すなわち、後述する第7項第3段落の「追加的非許可条項」("non-permissive additional terms")には法の選択による追加的非許可条項(特にその小項b))が存在しないため、仮にそれを行使するならば第10項第3段落の「さらなる権利制限」("further restrictions")となり第8項の終了条項が発動、ライセンス違反となる。条文の主要な用語に関しては、正式リリースされたGPLv3の主に第0項、第1項を中心に、場合によっては各項の冒頭段落にて定義されている。

「コピーライト」と「作品」
copyrightコピーライト)とは著作権法で規定された著作権だけを意味するものではなく法による管轄を受け、著作権に似た権利すべてを含んでおり、よってworks作品)は著作物に留まらない(第0項第2段落[163])。また以下コピーライト保持者(コピーライト保有者)とは、コピーライトを主張できる部分に対する権利を保持するものを指し、著作権では著作権者に相当する。
対象となる作品と「ライセンシー」
本プログラムthe Program)という用語はGPLv2でも頻繁に登場するが、これはコピーライトが直接主張可能な作品のうち、ライセンサーlicensor)たるオリジナルのコピーライト保持者(原著作者)がGPLv3で許諾した作品を指す(第0項第3段落)。本ライセンスを受諾する個人、法人受領者recipient)とライセンシーlicensee)の2種類に分けられる。受領者とは、本プログラムをライセンサーから直接間接問わず受け取り、組織内でのプログラム実行を専ら行うだけの個人・法人を指す[164]。受領者は第9項によりGPLv3の条件(例えば第6項の「オブジェクトコード」形式の作品に対する「対応するソース」の伝達義務や第10項第3段落の特許非係争義務)を免除される[164]。ライセンシーとはライセンスに従い作品を「伝達する」(後述)個人・法人を指す[164]。よって"ライセンシー受領者"という図式が成立する[164]。その他、当ライセンスの一部条項においてのみ対象となる、伝達者conveyerまたはconveyor[165]、改変を行う貢献者contributor[166])やライセンスの埒外に位置する「外部の契約者」など様々な個人・法人が存在する。
改変と二次的著作物
GPLv3の全ての条項に従う限り、後述する「普及」行為の形態の一つ(複製、翻案)である改変行為modify)を許諾される。後述の通り、この改変も含むすべての「普及」行為をコピーライト保持者の許諾なく行うのは違法行為にあたる。改変の結果作成された二次的著作物(GPLv2でのderivative works)を改変されたバージョン(改変版、modified version)や以前の作品を基にしたbased on)作品と呼ぶ(第0項第4段落)。「未改変プログラム」そのもの、または「プログラムを基にした作品」は本ライセンスの対象となる著作物であり、これらを合わせて保護された作品covered work)と呼ぶ(第0項第5段落)。
「普及」と「伝達」
GPLv2の用語であったcopy複製する)、distribute頒布する)に対し、GPLv3ではpropagate「普及」する伝播すると翻訳される)という用語が使われている(第0項第6段落)。これは複製、頒布(改変の有無を問わない)、公衆への利用可能化など、いわゆる「権利者の許諾を得ず行使した場合に、法で定められる権利侵害になり、直接、間接の責任を負う行為」(著作権法上で言えば著作権侵害行為)を表す汎用的な用語である。各国の著作権法は著作権者の権利であるとしてこれらの行為を許諾を受けず第三者が行使することを禁じている。従って普及することが許されるのは、著作権者が「利用方法及び条件」のもと許諾した場合に限られる日本国著作権法第六十三条二項)。この著作権者の課した「利用方法及び条件」がまさにGPLなのである。GPLならばGPLの条文全てに従う場合にのみこれら「著作権法上の違法行為」がコピーライト保持者たる著作権者によりライセンシーに許諾されるのである(改変・普及行為双方の許可が第9項にて定められる)。SFLCによると、普及行為の対象となる著作権者の権利には、日本国著作権法第二十一条~第二十八条支分権公衆送信権を含む)、第十八条~第二〇条著作者人格権が含まれているとされる[159]。同時に権利侵害の間接責任は、著作権の例では、著作権に対する著作権侵害の共同不法行為民法第719条二項、「教唆及び幇助」)に相当するとされる[167]。普及行為には著作権法を含む各国準拠法の相違点を考慮してその他の行為が含まれる余地があるとも明記されている。またこの普及行為には、GPLv2と同じく組織内部における私的改変(例:改変版GPLv3ソフトウェアを利用しているが頒布(伝達)されないケース)や単なるコンピュータ上でのプログラムの実行は含まれない[167]。とりわけコンピュータ上でのプログラム実行のみを行うを前述の通り受領者と呼び、GPLv3の条件を免除している。「『伝達』する」(convey)とは、普及行為のうち、第三者に複製や頒布を可能にさせる行為を指す。具体例としては、複製物の譲渡、複製物の売買や機器などに組み込んで売買すること、複製物をインターネット上のウェブサイトアップロードすることなどが当てはまる。よって、"伝達行為普及行為"という図式が成立する。このことから「伝達行為ではない普及行為」が存在することが分かる。複製や頒布を伴わないが、第三者が著作権者の許諾無く行うと侵害行為となる著作者人格権の行使が、日本国著作権法における伝達行為ではない普及行為の一例である[168]。この「伝達」という実態に即した用語は、議論用第2次草稿と同時に提出された"Opinion on Denationalization of Terminology"(「用語の特定国家依存からの脱却に関する意見」)という文書にて導入意図が語られている。「伝達」に関する部分を抜粋、要約すると「伝達行為は、ソフトウェアの複製物の移転(transfer、条項中にて八田真行は「転送」と訳している)行為を特定の法律の枠組みに抑えることを目的とせず、むしろ行為主体であることをライセンスにて明確化したいがために導入した」と述べられている[169]。このことを例示する形で、第0項第7段落後半の条文では「コンピュータネットワーク越しにユーザとやりとり[170]するだけで、コピーの転送[171]を伴わない場合は、伝達ではない。」(八田真行訳)と規定されている(第0項第7段落)。GPLv3プログラムがSaaSで利用されている場合、この条文により伝達ではないので、GPLv3の作品伝達に係る義務(第6項の対応するソースの伝達等)を負う必要はない。この点はGPLv2プログラムでも同じであり、"ASP loopholes"と呼ばれたのは前述の通りだが、AGPLv3で保護される作品とGPLv3で保護される作品をリンクもしくは結合した場合、GPLv3第13項により、結果として作品全体としてはGNU AGPLv3第13項に従う必要がある(対応するソースの伝達義務)。ただし、GPLv3で保護される作品部分はそのままGPLv3の許諾条件で維持される。
対話的ユーザインタフェース(UI)の「適切な法的告知」
第4項第1段落、第5項では、対話的UIを備えている作品について「適切な法的告知」(Appropriate Legal Notices)を行わなければならないとしている。別途両項でも述べられるが、そのUIは、コピーライトを告知し、かつ、無保証性(no warranty. 保証が第7項の追加的条項などにより加えられる場合を除く)・伝達時のライセンシーのGPLv3遵守・GPLv3の内容を確認する方法、以上3点の告知を「便利かつ顕著に視認できるような」(八田真行訳)方法で表示できなければならない[172]FLOSSで使用される主要なGUIツールキットはこの条件に合致するAPIをデフォルトで備えているものが多い[173]
「ソースコード」とは
ある作品の「ソースコード」(source code)とは、その作品に改変を加えるに当たって好ましいと考えられる形式のことである。」(八田真行訳)と改変が可能な作品と第1項で定義されている。これはソフトウェアに留まらずあらゆるメディアへのライセンス適用が可能であることを示唆している(同様の規定がGPLv2にもある)。また作品のうち「ソースコード」形式ではないものはすべてオブジェクトコード」("object code")形式であると見なされる[174]。オブジェクトコードというのは、文字通りのものだけを指すのではなく、「改変を加えるに当たって好ましくない」ものすべてを指している[174]。例えば「意図的に読みにくくしたコード」("Obfuscated code")[175]は改変に当たり好ましくないのでGPLv3上の「オブジェクトコード」である[174]。この難読化に対する懸念は、第1の議論用草稿が提出された際に同時に発表されたライセンス改訂の趣旨説明書(Rationale)にも具体的に言及されている[23][174]。「オブジェクトコード」の定義が明示されたのは、GPLv3での特筆すべき点である。
「標準インタフェース」
標準化団体(もしくは標準化団体と認められる組織)が制定した標準規格や、あるプログラミング言語において広く利用されるインタフェースを「標準インタフェース」("Standard Interface")と定義する(第1項第2段落)。ISOにより制定されるC言語(ただし実装は提供されず、各ベンダー毎に異なる)、JCPによるJava(JCPによる参照用ソースコードも提供されている)、IETFによるTCP/IP各仕様はその例である。
「主要コンポーネント」
主要コンポーネント」("Major Component")とは、作品が実行可能である場合、動作する特定のオペレーティングシステムの主要な必須コンポーネント(例: カーネルウィンドウシステム)、実行形式である作品の生成に供するもの(例: コンパイラ)、作品を実行するために利用されるオブジェクトコードインタプリタなどを指す(第1項第3段落)。
「システムライブラリ」
システムライブラリ」("System Libraries")とは、作品が実行可能である場合、次の小項a)とb)双方を満たすもののうち、その実行可能な作品そのものではないものを指す。a)主要コンポーネントのパッケージに存在するが、主要コンポーネントの一部ではない別の頒布物であるもの。b)①作品を「主要コンポーネント」において利用可能とするためにのみ機能するもの、または、②「標準インターフェース」を実装するためにのみ機能するもの(ただし、その機能が、一般に公開されているソースコードを用いて実装できるもの)、のどちらか一方(第1項第3段落)。例えば、Linux用のC言語で作成されたあるELFバイナリである作品の立場から見た場合、LinuxカーネルはOSの主要コンポーネントと見なせる。このとき、glibcは、カーネルの一部ではない頒布物であるため小項a)を満たし、かつそのCでかかれた作品が、glibcを静的リンク動的リンクしているかに関わらずどちらであっても動作に必要であるため(ランタイムライブラリとしての側面)、小項b)の①に相当する。ゆえにglibcはシステムライブラリである。同時に、glibcはLinuxディストリビューションをOSと見なした(通常そうであるが)場合においては、ディストリビューションインストール直後にはすでに存在するパッケージであり、ディストリビューションの動作に必須なので、主要コンポーネントとも見なせる。仮にCをOSの動作に利用しないものがあるならば、標準Cライブラリは主要コンポーネントではない。Microsoft Windowsオペレーティングシステムの、CならびにC++APIを提供するランタイムライブラリmsvcrt.dllは、カーネルの一部ではない(記事"Windows API"、"Microsoft Windows library files"などを参照すると、主要なインタフェースであるWin32 APIを構成するライブラリではないことが分かる)。よってglibcと同じくシステムライブラリである。しかし通常主要コンポーネントではない[176]。ただし近年のWindows OSでは、msvcrt.dllがKnown DLL[177]であるとレジストリに指定されている[178]ので、すなわち、これはGPLv3の条項における主要コンポーネントであると見なせる。自明ではあるが、OSに付属しない(前述a)を満たさない)ライブラリならば、システムライブラリではない。システムライブラリかそうでは無いかを正確に考慮する必要があるのは、とりわけ主に次の「対応するソース」の対象範囲の決定と、第6項においてである(セクション"ソース以外の形式における伝達"を参照)。
「対応するソース」
作品の2つの形態に対し、それぞれ「対応するソース」("Corresponding Source")を定義する。対応するソースとは、その作品を生成インストール、(実行可能な作品に関しては)オブジェクトコードを実行、または作品を改変する上で必要とされるソースコードのすべて八田真行訳)すなわち、作品本体のソースコードだけではなく、作品の改変とインストール、実行に供するもの全てを指す。ただし「システムライブラリ」と、対象となる作品を除く汎用ツール、または一般的なフリープログラムであって改変することなく前述の行為に用いられるものは、たとえ前述の行為に必要だったとしても、対応するソースからは除外される(第1項第4段落)。システムライブラリには前述の通りプロプライエタリなライブラリが含まれる可能性がある。仮にこれらを対応するソースの対象に入れてしまうと第6項の通り伝達義務が発生しソースコードを開示しなければならなくなるが、概ねこれらはバイナリ形式で主要コンポーネントとともに広範に提供されることが多く、それらを単に作品の実行のために(ランタイムライブラリとして)利用するだけであるから、敢えて対応するソースに含めなかったのである。以上のことを踏まえて一つのケースを挙げると、オブジェクトコード形式の作品たるソフトウェアのバイナリ(Cでかかれたものとする)をビルドするのに必要なスクリプト(GNUビルドシステムなどを参照)は「対応するソース」に含まれる。しかしカーネルなどの主要コンポーネントから見て、OS付属のプリプロセッサコンパイラ(主要コンポーネントでもある)、アセンブラリンカなどは改変からビルドやインストールのプロセスにおいて必須ではあるが、「汎用ツール」であるため、「対応するソース」の対象作品には含まれない。同様に作品をインストールした後、インストールしたシステムのOSがLinuxならば、作品の実行に利用するglibcは「システムライブラリ」であるため「対応するソース」の対象作品からは除外される。また第1項第5段落に記載があるが、GNUビルドシステムがOSにマッチするよう自動生成するMakefileやプリプロセッサ、コンパイラ、リンカが生成する中間オブジェクトコードは自動再生成可能であるため、「対応するソース」の対象からは除外される[179]。またOSに付属するが、実行形式作品と静的または動的リンクした場合、「対応するソース」に「OSに付属する静的または動的リンク用のライブラリ」とリンクするためのスクリプト等を含める必要がある。第1項第4段落の後半では、「対応するソース」の例として次のものが挙げられている。その作品のソースファイルと連携するインタフェース定義ファイル(プログラム専用に設計されたヘッダファイル等)、共有ライブラリ、動的リンクされるサブプログラム(下位プログラム、subprogram)であり、その作品が特に必要とするように設計されているもの、例えば、サブプログラムとその作品の間の親密なデータ交換(intimate data communication)や制御フローに関するようなもの、などである。なおどこからが「対応するソース」の対象となるか、その線引きはセクション"非GPLプログラムとの結合や組み合わせ"でも述べたとおり2つの観点でみる必要がある。作品が「ソースコード形式」である場合「対応するソース」はそれ自身である(第1項第6段落)。これは中間オブジェクトコードを原則生成しないスクリプト言語を想像すると理解しやすい[180]。これ以降の条文では、「保護された作品」の改変や普及行為の許可される条件や伝達の権利や義務、そしてそれらを行ううえで利点となる追加的な権利が定義され、対象となる個人、法人の権利が順次規定される。

基本的な許可

権利創出の根拠
本ライセンスが与える権利はプログラムのコピーライトに依拠している。よってライセンス違反による終了(第8項)や、コピーライトが消滅する(著作権については著作権の保護期間を参照)と権利を失う(第2項第1段落[181])。
単純実行の無条件許可
伝達せず、かつ改変も行わないプログラムの実行は自由である(第2項第1段落[182]、第9項[183])。
出力結果へのライセンス適用
GPLv3で保護された作品を実行し、その出力結果(アウトプット)が保護された作品を構成する場合はやはりGPLv3が適用される(第2項第1段落)。保護された作品を構成するアウトプットとは、保護された作品を含む場合等を指す。例えば前述したGNU bisonが当てはまる。しかし、bison自体は例外条項(この例外条項は第7項の追加的許可条項と見なされ、GPLv3とは矛盾しない)でアウトプットをGPLv3で保護することを放棄していると述べた(セクション"コピーレフト")。GCCは、GPLと両立しないライセンスや独占的な許諾条件のソースコードをコンパイルしたとしても、通常その出力結果たる「オブジェクトコード」形式の作品をGPLで許諾する必要はない。その理由は後述する。この二つの事例のように、GPLで保護された作品の実行プロセスにおいて、その作品の一部を直接含むかたちや、その保護された作品の一部にリンクする際、追加的許可条項がなければ、原則GPLに従わなければならない。実際にはこのような場合はかなり注意しなければならないということになる。もちろん、保護された作品を実行するのみでありそのプロセスで「保護された作品」と直接リンク、結合しない場合はGPLに従う必要はない。例えばGPLなテキストエディタを使ってソースコードを作成しても、そのソースコードはGPLで許諾する必要はない。とはいえ、エディタによっては、エディタと同時に頒布されるテンプレートがエディタ起動中に自動挿入される形式もあると思うが、これも前述同様、このテンプレートがGPL自体で許諾されているか、それとも例外条項つきGPLなのかは注意しなければならない。
フェアユース
GPLv3の作品にもフェアユースが認められるのは前述の通りである(第2項第1段落)。
ライセンス有効下における許可行為
第8項によるライセンスの終了とならない限り、保護された作品の作成(makeビルドのこと)や実行、「伝達ではない普及」行為(日本国著作権法では著作者人格権の行使)は許可される(第2項第2段落[184])。
特定目的下における第三者への伝達
ライセンシーが第三者に専用の改変を行わせる、あるいは機能を追加させることを唯一の目的とする場合、保護された作品は第三者に伝達できる(第2項第2段落)。その場合ライセンス第3項以降の条件を負う必要はない。GPLv3ソフトウェアの受託開発がこのケースに当てはまる(後述)。
その他の伝達
上記以外の伝達を行う場合、本ライセンスの第3項以降に従う必要がある(第2項第3段落)。
サブライセンス
サブライセンス(再許諾)は許可されない。なぜなら、受領者は第10項第1段落に基づき原著作者たるライセンサーから直接本ライセンスを許諾されるのでサブライセンスは不要である(第2項第3段落)。ちなみに第7項第2段落の追加的許可条項の制限も同様であり、追加的許可条項の追加もしくは削除ができるのはライセンシーがコピーライトを主張できる部分でしかないと規定されている。これはライセンシーによるサブライセンスが許可されていないためこのように制限されるのである。「追加的非許可条項」("non-permissive additional terms")をライセンシーが全く変更できないのも同様である[185]

GCCランタイムライブラリ例外

現行のGCCはGPLv3で保護される作品である。しかし、GCCやその頒布物のソースコードを利用していない「ソースコード」形式の作品はそれが従う許諾条件によらず、GCCのランタイムライブラリをリンクしない限り、出力される「オブジェクトコード」形式の作品がGPLに従う必要はない[76]。そのような場合、通常Cで書かれたソースコードはgccコマンド(このようなコンパイラ本体を呼び出すフロントエンド・コマンドは、コンパイラドライバ、コンパイラ駆動プログラムと呼ばれる)でコンパイルすると、LGPLでライセンスされるglibcのみリンクしていることが分かる(特にglibcが共有ライブラリとしてストレージ上に存在する場合は、ldd[186]をコンパイル済みバイナリに対して実行してみると状況を理解しやすい)。「GCCのランタイムライブラリ」("GCC Runtime Library")とは、具体的には

その他多数のGCCの頒布物に同梱されている各種演算補助用ライブラリなどである。

さて、そのソースコードが各種演算補助を利用して作成されている時、GCCのランライムライブラリに動的、静的問わずリンクされる場合がある。これらのライブラリはGCCの頒布物であるから、GPLで保護される。よって原則、GCCのランタイムライブラリとリンクする場合は、GPLに従う必要がある(この件については派生物としての疑義があるとする人々も多いが、GCCの著作権者であるFSFは、前述の通り、GPLのライブラリは静的、動的問わずGPLに従わなければならないとの立場である)。これではプロプライエタリなソースをはじめとして、GPL非互換なソフトウェアは一切コンパイルして頒布できなくなる。これに対して、FSFは「GCCのランタイムライブラリ例外」(GCC Runtime Library Exception[187]を設けている。これは後ほど述べる通り、GPLv3の第7項に規定されている「追加的許可条項」と呼ばれる、GPLの制限を緩める条項である。この条項を追加することはGPLv3第7項で許可されている。この例外により、GPL非互換なソースコードのコンパイルを許可する仕組みは以下の通りである[188]

通常、ソースコードをコンパイルするとき、言語やコードにより常に全てとは限らないが、主に次のような段階を踏む。

  1. ソースコード生成
  2. プリプロセス処理
  3. 低水準コードのコンパイル
  4. アセンブル
  5. リンク

コンパイラたるGCC本体はこのうち、3.を担っており、これを「コンパイルプロセス」(Compilation Process)と呼ぶこととする(のちほど正確な定義を述べる)。またソースコードをGCCに入力してから、3.のプロセスが終了した直後出力される、物理CPUもしくは仮想機械をターゲットとしたコードのことを「ターゲットコード」(Target Code)と定義する。ただしターゲットコードには、「コンパイルプロセス中に生成されるコンパイラ中間表現」やコンパイラ中間表現を生成する目的のコードを含まない。ターゲットコードは、4.のプロセス以降で使用されるアセンブラ・リンケージエディタの入力コードまたは実行ファイルである。この考え方から、コンパイルプロセスは、より正確には、「中間(表現)言語を除く、人間が作成可能な高水準コードやJavaバイトコードなどで完全に表現されているコードを、ターゲットコードに変換する過程」であると理解できる(実際にそのように例外条項の中で定義している)。そしてコンパイルプロセス中に、GCCの各種演算補助用ルーチンやコンパイルされた標準テンプレートが入力コードとリンクされる。次に、コンパイルプロセスに関与するプログラムの状況からコンパイルプロセスの「性質」を定義する。コンパイルプロセスが、そのプロセス実行中以下いずれかの状況に当てはまれば、そのコンパイルプロセスは「適確」(Eligible)であると定義する。

  • コンパイルプロセスはGCC単独の処理で完了、またはGCCとGPL互換なソフトウェアを共に利用して達成された。
  • コンパイルプロセスは「任意のGCCを基にした作品」を利用せず完了した。

コンパイルプロセスの外(上記のプロセス1.に当てはまる高水準コード生成処理や2.のプリプロセス処理)で使用するプログラムがたとえプロプライエタリだったとしても、そのプロセスは適確である。しかし、コンパイルプロセス中にGCCと共にGPL非互換なソフトウェアを使用した場合、コンパイルプロセス中にGCCやGCCのランタイムライブラリ、またはその他GCCの頒布物のソースコードを利用した場合、そのプロセスは適確ではない。この定義のもと、仮に全てのターゲットコードを生成するコンパイルプロセスが適確ならば、GCCのランタイムライブラリと入力ソースコードをリンクすることで生成される任意のターゲットコードは任意の許諾条件のもと「普及」すること(例: コンパイラからターゲットコードを生成(generate)することや、ターゲットコードを複製することなど)を許可する。また入力ソースコードの頒布条件が一貫性を維持できるならば、ターゲットコードの「伝達」(例: 頒布)も任意の許諾条件で許可される。これがGCCのランタイムライブラリ例外の規定である。

例えば、GCCと高水準コードジェネレータ(プロセス1.で利用)やプリプロセッサを利用し、GPL非互換なソースコードをコンパイルしようとした場合、たとえ両ユーティリティがプロプライエタリだったとしても、「コンパイルプロセス」の外で両者を利用するだけなので、GCCのランタイムライブラリ例外による、任意の「ターゲットコード」のランタイムライブラリとのリンク許可が与えられる。また「ターゲットコード」が生成完了してから、プロプライエタリなアセンブラでアセンブル、プロプライエタリなリンケージエディタを利用して各種ライブラリ(この中にGPL非互換なライブラリが含まれていても構わない)と適確なコンパイルプロセスで生成したターゲットコードとをリンクすることも、ターゲットコードが任意の許諾条件を許可するから、可能となる。伝達する場合は、入力ソースコードの許諾条件、かつリンクプロセスでリンクしたライブラリ(GCCのランタイムライブラリ、また第1項で定義した「システムライブラリ」に当てはまるものを除く)の許諾条件などとの一貫性が保てなくなる場合は許可されないが、そうでなければ伝達も可能となる。インラインアセンブラ等で入力コード中にアセンブラを書き込んだ際、コンパイルプロセスではそのアセンブラ部分の一部コードは処理されない場合もある。このような場合でもその入力コードは「中間(表現)言語を除く、人間が作成可能な高水準コード」であるから、コンパイルプロセスに投入しても適確である。ただし、そのインラインアセンブラが、プログラマが手書きしたものではなく、例えばコンパイルプロセス処理中にプロプライエタリなツールなど機械が生成した場合はこの限りではない。また本セクション冒頭で述べたとおり、「GCCのランタイムライブラリにリンクしない場合はGPLに従う必要がない」というのは、正確には「GCCのランタイムライブラリにリンクしない、かつGCCのコンパイルプロセスが適確である場合、入力ソースコードと出力バイナリはGPLに従う必要はない。」と修正される。

しかし、例えば、ターゲットコードではなく、コンパイラ中間表現を直接出力するようGCCを改変して使用した場合はどうなるか。その場合は、3のプロセスが完了した時点では、「コンパイルプロセス」は終了していないことになる。従ってこの後に、プロプライエタリなツールを利用して3.のプロセス終了後のデータを操作した場合、「コンパイルプロセス」はもはや適確ではない。よって以後のコードは全てGPLに従わなければならないし、入力ソースコードがプロプライエタリならば、伝達は完全に禁止される。またコンパイルプロセス中にGPL非互換なプログラムを割り込ませる場合もそのコンパイルプロセスは適確ではない。

なぜコンパイラ中間表現のみをターゲットコードから差別しているのか。GCCは各種言語サポートやコンパイルの最適化を図る処理などを「コンパイルプロセス」に組み込むことができる「プラグイン・アーキテクチャー」を採用している。このことはGCCの拡張性を向上させたのは間違いないが、同時に例えば、コンパイルプロセスに割り込んで内部の低水準コンパイルデータ構造のみを取り出すようなプラグインを作ることも可能となる。このようなプラグインを作成すること自体は問題ないが、GCCと直接結合せずとも、はたまたGCCのソースコードを参照せずとも、コードの最適化等を行うことができるようになる。仮にそのような有益なプラグインがプロプライエタリなどGPL非互換なソフトウェアならば、それらがコピーレフトの保護におかれることもなく、GCCの開発の外側でのみしか利用できない。このことを回避することがその主旨である。また本例外条項にも注意書きされているが、「サードパーティ・ソフトウェアがGCCのコピーレフトの影響を受けないとの解釈に本例外条項を利用してはならない」。原則GCCとそのランタイムライブラリのコードの利用やリンクなどで結合するプログラムはGPLに従わなければならない。ただし、「コンパイルプロセスが適確ならば」GPLv3の義務を一部緩める。本項はこのことを主張しているだけに過ぎない。

まとめると、GCCのコンパイルプロセスに関与せずかつGCCのコンパイラ中間表現を操作しない、その他直接間接問わずコンパイラ中間表現のデータを利用しない条件で「プロプライエタリなプログラム・ビルド・ソフトウェアやツールチェーン」とGCCを同時に使用し、プロプライエタリ・ソフトウェアを作成、その際GCCのランタイムライブラリに静的・動的問わずリンクしたとしても、プロプライエタリ・ソフトウェア自体はGPLに従う必要は全くない。

C++(g++)の場合は、コンパイル時にソースコード中のテンプレートを展開する。このとき、ソースコードとコンパイラが持っているテンプレートコード(もちろんこれはGCCの付属物であるからGPLで保護される)を「コンパイルプロセス」中にリンクする。よって入力ソースコードがGPL非互換な許諾を受ける場合、「コンパイルプロセス」中に、例えばテンプレート展開を操作するような、GPL非互換のプログラムを使用した場合、出力コードはGPLに従うようになる。しかし、コンパイルプロセスの外でそのようなプログラムを利用するならば、ランタイムライブラリとリンクしてもGPLに従う必要はない。

注意すべきこととして、ランタイムライブラリ単独ではGPLで保護される作品であるから、ランタイムライブラリを伝達した場合はやはり、GPLの義務を負う。例えば第6項-GPLで保護された「オブジェクトコード」形式作品の伝達時の義務は、「対応するソース」の伝達を強制するものである。後ほど述べるとおり、これにかかるコストはライセンシーによってはかなりの負担となるケースがあることも留意しておきたい。そこで、共有ライブラリのメカニズムを利用し実体ライブラリを頒布しないという手段を採りたいと考えるだろう。共有ライブラリとしてプログラムに動的リンクした場合は、実体ライブラリはそのプログラムに添えて伝達せずとも、受領者は受領者のマシンでライブラリを入手すればプログラムを実行できる、しかし必ずしもそれが適切とは限らない。「GCCのランタイムライブラリ」はGPLv3第1項の規定から、「主要コンポーネント(この場合、コンパイラたるGCC)に付属するシステムライブラリ」とみなせるOSもある程度存在する。例えばLinuxディストリビューションでは、libgccなどGCCのランタイムライブラリをGPLのもとパッケージとしてGCC本体からばらして頒布している場合もある[189]。OSがこのようなLinuxディストリビューションと同等の条件を満たす場合は、GCCのランタイムライブラリにリンクしたプログラムを単独で頒布しても問題ないだろう。ところが、Microsoft WindowsオペレーティングシステムはGCCをそもそもインストールしていない環境のほうが圧倒的に多い。なぜならGCCはOSの主要コンポーネントではないからである。よってMicrosoft Windowsオペレーティングシステムにおいて「GCCのランタイムライブラリ」はシステムライブラリではない。このようなOS向けに共有ライブラリのメカニズムを利用して実体ライブラリを頒布しないということは、殊の外注意を要する。このようなOS向けのGCCのバリエーションでは、システムライブラリであるmsvcrt.dllやその他システムライブラリのみにリンクするようなオプションを持つよう注意深く設計されたものが存在する(例: MinGW)。

受託開発

興味深い例として、GPLのソフトウェアを修正し、新たな機能を追加したものを、商業的な対価を受け取り顧客に納入する場合、少なくともそのソフトウェアがGPLv3で保護されるものである場合については、受託企業は改変部分を含めたソースコードを開示する必要はない、というものがある[190][191]。これはGPLソフトウェアの頒布形態の一つと見なせる。まず、GPLv3で保護された作品たるソフトウェアを原著作者から受領した企業が発注側として、受託企業に「伝達」する。伝達行為は後ほど説明するとおり第6項において「対応するソース」も受領者たる受託側に「伝達」しなければならない(改変を受託企業に行わせるので当然ではあるが)。受託側は「対応するソース」に改変を加えたのち、今度は逆に受託企業をライセンサー、発注企業をライセンシーとして発注側に「伝達」する。よって第6項の「対応するソース」の開示義務(や第10項第3段落の「特許非係争義務」)を負うことになるはずである。しかし、受託契約は第2項第2段落の第2文以降に該当する。即ち「ライセンシーの改変要求(ソースコードレベルでの改変要求などを含む)や機能追加要求(ソースコードレベルでの改変要求でなくてもよい)に従って、保護された作品を作成、実行する第三者は、ライセンシーの管理監督下において、専らライセンシーのためにそれらを実施しなければならない。ただしライセンシーの関係の範囲外ではライセンシーの作品の複製を彼らに禁ずる。」という契約形態になるからである。この条件に当てはまる場合はGPLv3の伝達時の義務が例外的に免ぜられる。従って受託企業は発注企業から要求された改変部分のソースコードを一切開示する必要はない。ちなみに納品が頒布に相当しないとの解釈はGPLv2の条文で明記されていない[190]

その他、ソフトウェアを受け取った顧客が「それを再頒布しない」限り、ソースコードを受託側と発注側以外に対し、非公開にすることには全く問題ない。また、発注企業が社内のみで利用する限り、ソースコードは、たとえそれを改変したとしても、非公開で問題ない(「ライセンシーによる組織内での私的な改変による利用」となるからである)[191]。ここまでの説明では、受託側が発注側に著作権を譲渡しない場合を想定している。そうでないならば、受託側はそのソフトウェアのコントロールはできなくなる(GPL以外で再ライセンスされることもあり得る)。GPLなソフトウェアを複数のソフトウェアと組み合わせて発注側に納入する場合もほぼ同様だが、GPLと矛盾するライセンスに従うソフトウェアはGPLの条項により、当然組み合わせることはできない。以上は受託開発におけるライセンスの考え方であるが、受託開発の契約はこれとは別に定められるので注意が必要である。

技術的保護手段回避を禁ずる法への対抗措置

第3項は主にDRMをはじめとする技術的保護手段を目的としたGPLv3プログラムを作成した場合、当該プログラムの保護手段を第三者が解除する自由を認める条項である。

作品は技術的保護手段と見なされない
GPLv3で保護された作品はWIPO著作権条約第11条の準拠法またはそれに類似する法の定める効果的な技術的保護手段と(裁判所によって[192])見なされない(第3項第1段落[192])。GPLv3で保護されるプログラムを利用して、DRMなどの技術的保護手段を実装するプログラムを作成することは本ライセンスでは禁じていない。しかし、その保護手段を回避するプログラムが仮に公開されたとしても、回避プログラムは「技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とするプログラム」(日本国著作権法第百二十条の二第一号)とは見なされないと述べている[193]。実質的にこれはDRMを含む技術的保護手段の無効化を狙っている。ただし、DRMの全面的否定、すなわちコンテンツプロバイダがDRMを利用することを禁止する、ということを規定しているのではなく、仮にそのDRMテクノロジーがGPLを基にした著作物で構成されている場合、そのようなコンテンツプロバイダからコンテンツを購入した消費者やそのコンテンツを受領した第三者が、例えば何らかの形でDRMを解除できなくなった場合などに、中身のコンテンツを自由に利用できるようにしようと、リバースエンジニアリングをはじめとする技術的保護の回避手段を講じてもよいとするものである。コンテンツプロバイダの規制ではなく、あくまでコンテンツ利用者の自由を守るという条項である。この条項が、FSFがDRM廃絶運動であるDefective by Designを支持していることと関連して、「DRM廃絶を目指している条項」との誤解を受けているのは事実ではある。関連法として挙げられているWIPO著作権条約第11条に相当する日本の国内法は、前述の改正著作権法(平成十一年法律第七十七号)第百二十条の二第一号[194]における「回避プログラムの譲渡に対する罰則規定」である。また類似法は改正不正競争防止法(平成十一年法律第三十三号)第二条第一項第十号および第十一号[195]である。各法の条文は技術的保護手段の対象範囲が異なる(アクセスコントロールコピーコントロールの違いなど。それぞれの記事を参照)[193]。また前者は非親告罪による刑事罰であるため、少なくとも日本法における本条項の実効性には疑問がある[196]2010年頃からは著作権法に「アクセス権」を支分権として導入し、アクセスコントロールを強化する動きも日本では見られる[197]ので、本項の対象となる条文が拡大される可能性もある。ちなみに同様の米国法はDMCAである。
技術的保護手段の回避を禁ずる法的権利の放棄
ライセンシーがGPLv3で保護された作品を伝達した場合、技術的保護手段の回避を禁止する法的権利を放棄しなければならない(第3項第2段落)。前述の不正競争防止法第二条第一項第十号および第十一号に違反した場合の差止請求権(同法第三条)、損害賠償請求権(同法第四条)[198]が該当する法的権利である[196]
技術的保護の回避手段を禁ずる意図の否定
ライセンシーは、技術的保護手段回避の禁止に関わるライセンシー自身または第三者の法的権利を行使する手段として、作品の動作(註: operation 操作。run 実行とは別用語と識別される)または改変を制限する意図を放棄しなければならない(第3項第2段落)。

ちなみにLGPLv3はGPLv3を参照しつつ第7項の追加的許可条項を認めたライセンスであるので、本質的には「GPLv3そのもの」であるが、第3項の規定は全て免除されている。

忠実な複製の伝達

受領したプログラムのソースコードに対し、その未改変の完全な複製を以下に示す条件を遵守した上で再伝達してもよい(第4項第1段落[199])。

  1. (第0項で述べた)コピーライトに関する適切な法的告知を複製すべてに目立つように適切な方法で掲載すること。
  2. 再伝達するプログラムに、GPLv3の条項と第7項に依拠する非許可条項が(仮に存在する場合は)適用される旨の告知を「上流伝達者から受領した告知内容を一字一句変えずに」再伝達すること。
  3. 完全無保証である告知(第15項参照)を一字一句変えずに保全すること。ただし第7項に依拠する追加的非許可条項に、仮に保証に関する告知が含まれていた場合は、条件2.に従い保証に関する告知をそのまま保全して再伝達すること。
  4. 伝達するプログラムと一緒に本ライセンスの完全な複製を受領者に与えること。

以上の条件に従う限り、複製を有償無償問わず伝達できる。また複製に対し有償サポートや有償での保証(warranty protection)を提供してもよい(第4項第2段落[200])。

条件1.は、「再伝達者は受領したプログラムのコピーライトを有していない」旨、下流受領者に通知させる。条件2.は第7項第3段落などに規定されている「追加的非許可条項」("non-permissive additional terms")を再伝達者は勝手に削除できないということを示している。具体的な条項の内容は追加的許可条項(additional permissions)ともに第7項にて説明される。条件3.は無保証性告知(ただし、その内、保証に関する追加的非許可条項は条件2.に従う)、条件4.は本ライセンスの完全な複製の添付を定めている。

本項第2段落は伝達が有償無償を問われないことを示し、レッドハットなどGPLv3ソフトウェアを販売する企業が、サブスクリプションサービスなどを事業として成立させることを可能にしている[200]。第6項のオブジェクトコード形式の作品伝達とは異なり、伝達の手段は条文で問うていない。物理的媒体またネットワークを通じてなどあらゆる伝達が認められる[201]。GPLv3な作品を直接頒布していないが、機器に組み込み、頒布に係る実費を請求するような形は、GPLv3の条項のもと何ら問題は無く、これも伝達に当たる。ただし、その組み込んだ作品の形式を問わず「対応するソース」の伝達義務が発生するのは後述の通り。

改変版ソースの伝達

第4項で規定した「保護された作品の未改変ソースの伝達」の条件に対し、第5項では改変した場合について、「ソースコード」形式(第1項参照)での伝達の際に課せられる条件を述べている。

ライセンシーは、本プログラムを基にした作品(第0項参照)、または本プログラムから作成するための「改変点」("modifications")を、第4項の規定に従ってソースコード形式で伝達、もしくは再伝達できる。その際、以下4つの小項a)~d)全てを遵守しなければならない(第5項第1段落[202])。

  • a) 改変した人と改変日時を記載した改変履歴を添付する(このような履歴ファイルはChangeLogen)と呼ばれる)[202]
  • b) 伝達時にはGPLv3(と、仮に存在する場合は第7項の追加的条項も)のもと公開されていることを明記する(本小項は第4項の「告知保全条項」に対する改変、修正に当たる)[203]
  • c) 改変点も含めた改変された作品全体entire work)にGPLv3を適用する(作品全体に別の許諾が適用されている場合はその許諾を無効化しないよう取り計らう)[203]
  • d) 改変後の作品は、対話的UIを利用している場合は適切な法的事項を告知する(ただし元の作品の対話的UIに法的告知がない場合はそのままでよい)[204]

「改変点」は「改変されたバージョン」(modified version、第0項)とはいえないまでも、「本プログラムを基にした作品」のパッチなど元の作品に対する非常に小さい差分が含まれることを(SFLCは)示唆している。従って小項c)により、本プログラムを基にした作品のパッチもGPLv3に従う必要がある[202]。「本プログラムを基にした作品」ではないと識別される場合のパッチには第5項第2段落の条項が適用できる余地が残されている。蛇足だが、第5項では「ソースコード」形式のパッチを取り扱っているので、「オブジェクトコード」形式のパッチ(いわゆる「バイナリパッチ」であるが、「オブジェクトコード」が単なるバイナリデータだけを意味しないと第1項で述べた)である場合は第6項の規定に従う。小項b)は、第4項第1段落に対応する規定である。ただし、第7項の追加的許諾条項すべてを対象としており(対して、第4項第1段落では追加的非許可条項のみ対象)、その追加的条項の保全は規定されていない(第7項により、ライセンシーは適宜追加的許可条項を削除できるからである)。さらに無保証性の告知の保全も要求されていない。これは、第7項の各規定に従い、ライセンシーのコピーライトを主張できる部分には、許可、非許可問わずすべての追加的条項が適用可能であること、そして可能ならばライセンシーが保証を行うことを考慮しているためである(その保証の形態は、通常は無保証であるが、特定のライセンシーの保証を追加する形で提供する。無保証性が消えるわけではない点に注意せよ[203])。よってこのことをもってして、「この条件は、上記第4項における『告知をすべてそのまま保全』するための条項を改変する。」(八田真行訳)と言っている[203]。小項c)は、改変を包含した作品全体がGPLv3に従うことを要求している。その際、作品のパッケージ方法などに関わらず、たとえ作品が巧妙に細分化(artful subdivision)されていようが[46]、作品全体にGPLv3が適用される[203]。ただしその際その作品全体に課せられているマルチライセンスが無効化されることがあってはならない[204]。小項d)は、改変後の作品が対話的UIを持つ場合、適切な法的事項を告知できるよう、ライセンシーはそのような機能を追加しなければならないとしている。ただし受領した時点で作品に対話的UIが付いているが、法的事項を告知していない(告知機能がない、告知機能があっても法的事項を告知していない等)場合は、わざわざ改変してまで適切な法的事項を告知する必要はないと規定している[204]

セクション"集積物の別の部分と見なされるパッチ"で言及したが、第5項第2段落は集積物aggregate)について定義している。保護された作品と、それに対し独立した他の別の作品を、同一の記録媒体または伝達時に使用する媒体上に集めたもの編集物compilation)のうち、以下3つの条件全てを満たす場合、「集積物」(aggregate)という[204]

  1. 本質的には保護された作品の拡張ではない。
  2. より大規模なプログラムを構成する目的で、保護された作品とそれが組み合わされていない。
  3. 集積行為及び集積物についてのコピーライトが、個々の作品の許諾の範囲を超えて、その編集物の利用または、利用者の法的権利を制限するために用いられない。

この時、GPLv3で保護された作品を集積物に含めたとしても、その「集積物の他の部分」に本ライセンスが適用されることはない[204]。「保護された作品を含む集積物の全体」は「保護される作品全体」とは異なるのである。適用例は前述の通り。

ソース以外の形式における伝達

ここまでで「ソースコード」形式の伝達の条件を述べた。第6項では主に「ソースコード」以外の形式における伝達の条件を述べている。ライセンシーは第4項、第5項双方の規定に従い、保護された作品を「オブジェクトコード」形式で伝達することができる。ただし、本ライセンスの規定に従い、「オブジェクトコード」形式の保護された作品に「対応するソース」(ただし機械可読であるもの。「対応するソース」は第1項で定義した)を次に述べる5つの方法のうちいずれかで伝達しなければならない(第6項第1段落[205])。

  • a) オブジェクトコードを物理的製品に格納する、または伝達に利用できる物理的媒体に格納する、あるいは物理的製品に組み込んで伝達する場合は、対応するソースを、ソフトウェアのやり取りで一般的に利用される耐久性のある物理的媒体に固定して、オブジェクトコードとともに伝達する[206]
  • b) オブジェクトコードを物理的製品に格納する、または伝達に利用できる物理的媒体に格納する、あるいは物理的製品に組み込んで伝達する場合、オブジェクトコードを保有する全てのに対して、彼らが請求する場合に応じて、「対応するソース」を提供するという、次の2つの請求事項のどちらか一方を記載した申出書(a written offer)を添付する。そして「対応するソース」の提供義務は最低3年間は維持し、3年間以上当該製品のモデルの補修用部品(スペアパーツ)またはカスタマーサポートを提供する場合はその期間維持する[206]
    • (1) 当該製品に含まれるソフトウェアのうち本ライセンスにより「保護される」ソフトウェアすべてについて、ソフトウェアのやりとりで一般的に利用される耐久性のある物理的媒体を使用して、物理的な伝達に要する合理的なコストを超えない価格で、対応するソースを伝達する[207]
    • (2)ネットワークサーバから対応するソースを複製するためのアクセスを無料で提供する[207]
  • c) 請求があった場合に対応するソースを提供することを記載した「申出書の写し」(a copy of the written offer)を添付し、オブジェクトコードを伝達する。ただしこの方法は、ライセンシー・伝達者が本第6項小項b)に定める条件に従ってオブジェクトコードを受領した場合で(よって、添付する「申出書の写し」というのは、第6項小項b)の形式で上流伝達者から受け取った「申出書」そのものの写しである)、非定常的(occasionally)かつ非商業的な場合に限り許される[208]
  • d) オブジェクトコードを所定の場所にアクセスして複製することにより伝達する場合、対応するソースについても同一場所から同一の方法で得ることができるよう、ほぼ同等のアクセス手段を提供できるようにする。ただし、オブジェクトコードの伝達は無償有償問わないが、対応するソースへのアクセスに対して追加的な対価を課してはならない。受領者に対し、対応するソースをオブジェクトコードと一緒に複製することを義務づける必要はない。オブジェクトコードをネットワークサーバにアクセスして複製する場合、対応するソースは同等の複製機能をサポートする他のサーバ(ライセンシーまたは第三者が運用するもの)上にあっても良い。ただし、その場合は、対応するソースのある場所を示す記載をオブジェクトコードに隣接する箇所に添えなければならない。対応するソースを、どこの何のサーバでホスティングするかに関係なく、これらの条項を満たす義務が存続する限り、ライセンシーは対応するソースにアクセス可能にすることを保証する義務を負う[209]
  • e) オブジェクトコードをpeer-to-peer伝送を用いて伝達する場合、本第6項小項d)に従って当該オブジェクトコードおよび対応するソースが無償で公開されている場所を他のピア(ノード)に対して通知する[210]

小項a)は、オブジェクトコードを、例えばルーターなどの物理的製品に組み込んで伝達する場合や光学メディアなどの物理的媒体に格納する、もしくは組み込んで伝達する場合は、対応するソースを耐久性のある物理的媒体で必ず伝達しなければならないとの規定である[206]。小項b)は小項a)と同一のオブジェクトコードの伝達方法の場合であり、対応するソースを受け取る方法を記載した文書を添付する規定である[206]。対応するソースの伝達方法自体は、(1)小項a)と同じく物理媒体を利用、ただし伝達に係る合理的な実費を請求可[207]もしくは(2)ネットワークによる無償提供[207]である。請求権を持つものは、オブジェクトコードを保有するもの全て(すなわち「受領者」)である。従って本ライセンスを許諾するしないに関わらず(すなわちライセンシーか否かに関わらず)対応するソースを「請求する権利」を得る。しかし、オブジェクトコードを持たないものは一切対応するソースを「請求する権利」はない(作品を所持していないのだから、改変などを行使しようとする必要性が無いともいえる)。しかし、結果としてそのようなものでも、対応するソースを受け取ったものが第4項もしくは第5項の方法でソースコードを頒布できるので、それを無条件に頒布すれば第三者が受け取る可能性もある[208]。またオブジェクトコードの再伝達は(仮にライセンシーがGPLv3違反になり、第8項でライセンス終了にならない限り)禁止されないから、ライセンシーがオブジェクトコードを任意の者に伝達することは制限されない[208]。小項c)は小項b)と対応関係にあり、オブジェクトコードを伝達し、対応するソースを提供する文書をそれに添付する規定である。対応するソースは小項b)と同じく、オブジェクトコードと一緒に伝達しなくてもよい。ただし本小項は条件があり、ライセンシーが上流伝達者からオブジェクトコードを受領した手段が小項b)の場合に合致し、非定常的かつ非商業的に(すなわち継続的でもなく、かつ事業としてでもなく)対応するソースを伝達する場合に限り認められる[208]。要するに小項b)で受領したオブジェクトコードと申出書を受け取ったものが両方を忠実に複製し、下流の受領者に渡すケースを想定している。小項b)、c)は理論的には、オブジェクトコードを受け取った受領者から対応するソースの請求が来なければ、その作品は非公開になってしまうということもあり得る[208]。さて、「非定常的」という用語であるが、この小項に対応するGPLv2第3節第1段落小節c)では伝達を選択できる条件として単に「非商業的」となっている。例えば商業的ではないが定常的な二次伝達者の例として、小項b)に従ってオブジェクトコードと申出書を受け取り、ウェブサイトなどで継続的に両者の複製を頒布するケースが挙げられる。このサイトから両複製を受け取った受領者は小項b)の伝達を行ったもともとの一次伝達者に対応するソースを請求できる。しかし、これを継続的に行えば、受領者の数は極めて多くなり、一次伝達者の請求に対応する業務が増大する一方、中間の二次伝達者は対応するソースの請求を受けることなく、一次伝達者にただ乗りする形になる。このようなネットワークの発達に伴う不均衡を防止するため、「非定常的」という条件が加えられたのである。従って保護された作品がGPLv3である場合は、二次伝達者は小項b)を選択し自身が一次伝達者になるか、もしくは小項c)以外の選択肢を選べばよい。ところで卸売業者や流通業者、「一般的な意味でのディストリビューター」[211]は、改変、普及行為を一切行わず、単に上流からコードを受領してそのまま忠実に下流業者に譲渡するだけなので、第9項により本第6項の規定を受けない[212]。さらにSFLCによると、一次伝達者がライセンス違反を犯し、ライセンスで保護される作品を伝達できなくなった(第8項)場合、二次伝達者が対応するソースの伝達義務を負うようになるのではないか、と勘違いしがちではあるが、そうではないとのことである。つまるところ、実際には小項c)は対応するソースの伝達義務を負うのではなく、「対応するソースを提供する一次伝達者を紹介する義務」を負う[213]。小項d)はオブジェクトコードをサーバから有償無償問わずダウンロードできるようにした場合、対応するソースもダウンロードできるようにすることを規定している。ただし、オブジェクトコードにアクセスさせる際に費用を徴収している場合は、それ以上請求してはならない[209]。対応するソースのホスティングについては、条文の通り運営者、実体サーバは問わない。またそのサーバがどのような運用が成されていても、ライセンシーは対応するソースのホスティングが停止されないように努力するなど、対応するソースの提供を維持しなければならない[214]。小項e)はP2Pでオブジェクトコード転送を行う場合、対応するソースを得ることのできる小項d)に対応する場所を、まだその場所を知らないピア(ノード)に無償で通知しなければならない[210]。そもそもオブジェクトコードとその対応するソースを両方ともP2P伝送する場合は、小項d)(両者を類似の方法で伝送)に相当するので、わざわざこの条項を規定する理由が無いように思える。この条項を設けた理由は第2次議論用草稿が提出された際に同時に提出された、"Opinion on BitTorrent Propagation"(「BitTorrentの普及行為に関する意見」)[215]で述べられている。P2Pはその技術的特性からファイルの頒布開始ノードがどこであるかをユーザーが知ることは不可能ではないにしろ、きわめて困難である。よって確実に頒布しようと考えるならば、(ファイルサイズの増加そして必要伝送時間の増加につながるが)オブジェクトコードとその対応するソースを同一のアーカイブに格納して伝送することになるだろう。しかし、たとえそのような対策を講じたとしても、ユーザーの需要の大小等に関連し、ファイルによってはあまりP2Pネットワーク上に伝播(シーディング、seeding)されないこともある。また頒布開始ノードが十分なシーディングの時間を待たずネットワークを切断すれば、場合によってはピアでシードが完成せず不完全なファイルになってしまう可能性もある。P2P伝送はファイルのビット毎、ブロック毎の伝送や授受には適しているといえるが、「完全なファイルの頒布手段」としてはあまり適切ではない方法であるとの意見が同文書には記載されている。この指摘を受けて小項e)が設けられた。

さて対応するソースには、システムライブラリなどは含まれないと第1項で述べた。これとはまた別に、オブジェクトコードの分離可能な部分separable portion)で、システムライブラリとしてそのソースコードが対応するソースから除外be excluded from)されている場合、分離可能なオブジェクトコードの部分は、オブジェクトコードの作品伝達に含める必要は無い(第6項第2段落[213])。システムライブラリは、(要約すると、)OSの一部からは除外されるがOSに付属するライブラリで、ランタイムもしくは標準インタフェースの実装であると述べた。これらはオブジェクトコード形式でOSに付属しているもしくはソースコードが公開されているものが多い。従って「対応するソース」の対象としたりオブジェクトコードを伝達する必要性は薄いといえる。ただ注意しておくべきこととして、「分離可能」という文言がある。GPLv3第6項第1段落、第2段落は、概ねGPLv2第3節に相当するとSFLCは述べているが[216]、そこで述べられていたGPLv2のシステムライブラリの判別基準は、いわゆる作品を静的リンクするか否かという側面で定めている。

[217]しかし特別な例外として、そのコンポーネント自体が実行形式に付随するのでは無い限り、 頒布されるものの中に、実行形式が実行されるオペレーティングシステムの主要なコンポーネント(コンパイラやカーネル等)と通常一緒に(ソースかバイナリ形式のどちらかで)頒布されるものを含んでいる必要はないとする。

「そのコンポーネント自体が実行形式に付随するのでは無い限り」(unless that component itself accompanies the executable)というのは、SFLCによると実際には「そのコンポーネント自体がそれらライブラリを含んでいる実行形式に静的にリンクしない限り」(unless that component itself statically linked executable containing those libraries)ということを意味する。これに対しGPLv3は、どのような形式で分離可能が何も述べておらず、リンク形式の判断などといった前提すらない。SFLCより助言を受けたIPAは「GNU GPLv3 逐条解説書」で

「分離可能」という文言は、リンクの形態について言及したものではなく、論理的な形態を意味している

との解釈を述べている[216]。この考え方は、LGPLv2.1第6節小節bまたはLGPLv3第4項小項d)-1)での「共有ライブラリの判断基準」とは異なる。かなり大雑把に述べると、システムライブラリはランタイム、共有ライブラリは「標準ではないインタフェース(cf. 第1項の「標準インタフェース」も参照)の提供」という役割の相違があり、この点を考慮すれば判断基準が分かれるのは自明ではある。

第3段落から第6段落は、「ユーザ製品」("User Product")と定義される製品にGPLv3で保護されるオブジェクトコード形式の作品を組み込んだ場合の伝達に対する条件を規定している。この条件はTiVo化条項anti-tivoization clause)と呼称される。ユーザ製品とは、次のいずれか一方を指す(第6項第3段落[218])。

  • (1) 「コンシューマ製品」(consumer product)、すなわち、個人、家族でまたは家庭で「通常使用される」("normally used")個人用の有体物(無形物ではない)
  • (2) 住宅に設置することを目的として設計または販売されるもの

概ね軍事用などではない民生用機器の内、消費者の家庭で使用するものに対象を絞っている。しかし、実際はそれだけとは限らない。コンシューマ製品に該当するかどうかの判断において、個々のユーザーがどのような方法で使用するかは考慮されず、製品の典型的または一般的な使用方法に基づいて判断される。このように使用される形態を通常使用されると条項内で呼称している(第6項第3段落)。よって業務用を謳っていても「ユーザ製品」に該当する場合もある。例えばどう見ても個人用途ではない製品を家庭内で使用した場合はコンシューマ製品に該当しない。しかしある製品が業務用や工業用など、非家庭向け用途がある場合でも、「通常使用」の観点で家庭内での用途などが1つ以上存在する場合には、コンシューマ製品に該当する。ある製品がコンシューマ製品に該当するかどうか疑義がある場合は、極力コンシューマ製品に該当すると見なす(第6項第3段落)。機器にオブジェクトコードを実務上組み込めるか否か別として、かなり特異な例ではあるが、薬事法で定義される医療機器の内、家庭用医療機器はユーザ製品に該当する。しかし、それを除いた医療機器で医師などの専門家の補助なしには使用できないものは、家庭での用途は全く考慮されていないのであるから、ユーザ製品ではないのは確実である[218]

続いてそのユーザ製品の改変の鍵となるものを定義する。ユーザ製品の「インストール用情報」(Installation Information)とは、ユーザ製品に組み込まれている、保護された作品の対応するソースを、改変して作成した改変バージョンを、当該ユーザ製品にインストールし実行するために必要とされる手法、手順、認証キー及びその他の情報の全てをいう。その情報は、改変されたオブジェクトコードの継続的な動作が、改変が為されたということによってのみ拒否されたり妨害されることが決してないことを保証するのに十分なものでなければならない(第6項第4段落[219])。ソフトウェアに何らかの制限を加えるハードウェアがたとえ存在したとしても、そのソフトウェアがGPLv3で保護されるならば、ハードウェアを所持するユーザーは何の問題も無く改変後のソフトウェアを動作できることをライセンシーに保証させる条項である。「改変されたオブジェクトコードの継続的な動作が(中略)拒否されたり妨害されることが決してないことを保証」とあるので、実際にはハードウェアが継続的に動作することを保証しなければならないわけではなく、GPLv3で保護される作品を改変した二次的著作物がそのハードウェアで継続的に動作することを保証しなければならない、と規定している[220]。後述の第6段落の内容から判断して、製品ユーザーがソフトウェアを改変して動作させることは自由にするが、メーカーはそれによって起こりうる事態、事故は一切関知しないということになる。インストール用情報は機器により様々なものが想定されるが、概念的には、ライセンシーたるメーカーが自由に改変バージョンを動作できるのに、受領者たるユーザーが一切できない場合、メーカー側で保持する情報がインストール用情報に該当する。ちなみにSFLCによると、場合によっては、インストール用情報を得ても専門的知識や設備が無ければユーザーがうまくその情報を利用できないケースも想定されるが、それを何らかの形でメーカーが補填する義務などないと述べている[220]。またあくまで情報であって、その情報を利用するのに必要なユーティリティ、ツールまでもメーカーが用意してやる義務も無い。例えばインストール用情報として、機器のプロテクト解除を行うソースコードを提供した場合、そのコードを実際に機器にインストールするにはクロスコンパイラ等でビルドする必要がある。しかしクロスコンパイラをメーカー側で用意してやる義務は無い。どのようなクロスコンパイラが必要であるか、どこでそれを入手できるか、などの情報を記載するのみに留めておいてよい[219]。また「認証キー」についてであるが、「改変されたバージョンを動作させるのに必要な」認証キーであるから、例えば、正規の認証キー自体ではなく、改変版の動作を行うだけのキー(例: PKIの適切な自己署名証明書)を別個作成するなどして頒布、もしくはその作成方法を「インストール用情報」に記載するだけでもよいと解釈される。

保護される作品たるオブジェクトコードを、ユーザ製品に組み込む、またはユーザ製品に付属する、またはユーザ製品で使用するためのもの(例えばGPLv3ソフトウェアを含むインストール用物理的媒体)として伝達し、かつそのユーザ製品の所有及び使用にかかる権利を永久に、または一定期間譲渡する取引の一部として行われる場合は、取引の(法的)類型に関わらず、本第6項に基づいて伝達される対応するソースは、インストール用情報と共に伝達されなければならない。ただし、ライセンシーやいかなる第三者も改変されたオブジェクトコードをそのユーザ製品にインストールすることができない場合は適用されない。一例を挙げると、作品がROMに格納されている場合改変しようがないので本項は適用されない(第6項第5段落[221])。伝達者は改変部分を含む「対応するソース」を本第6項第1段落に従って伝達しなければならないが、同時にインストール用情報も伝達すべしとの規定である。受領できる対象者は、ユーザ製品の所有権を永久、もしくは有期で譲渡されるものに限られる。ユーザ製品を購入、譲渡されたエンドユーザーはこれに該当する。また「対応するソース」の伝達義務を負う者は、「保護された作品に改変を加えたオブジェクトコード形式の作品」を伝達するもの全てであった(本項第1段落)が、「インストール用情報」を伝達する義務を負うものは、「オブジェクトコードを伝達するもの」のうち、永久もしくは有期でユーザ製品を譲渡するものが対象となる。例えばユーザ製品のメーカー、ユーザ製品のレンタル業者はその対象となり、ユーザ製品を最終消費者に売りさばく小売店は入らない。しかし、オブジェクトコードとインストール用情報を同時に添付することになるので、実質的にその対象となるのはメーカーである[222]

さて、対応するソースとインストール用情報を手に入れた受領者が実際にユーザ製品に組み込んだ時点でのユーザーに対するメーカーの免責を規定する。インストール用情報の提供に関する条件には、受領者が改変もしくはインストールした作品、またはその作品が改変もしくはインストールされたユーザ製品に対して、保守サービス、保証、アップデートを提供し続けるという条件は含まれない。一例を挙げると、改変によってネットワークの運用に重大かつ有害な影響をもたらす場合、もしくはネットワーク上での通信に関する規約またはプロトコルに違反するような場合には、ネットワークへのアクセスを拒絶することは何ら問題ない(第6項第6段落[223])。メーカーはユーザーの改変によるハードウェアの保証は必要ないとの規定だが、インストール用情報をユーザーに提供することで、何らかの法律に違反する行為を助長したり、幇助することにつながる可能性もある。例に挙げたネットワークへの影響は一例に過ぎず、ユーザ製品の用途によっては改変版ソフトウェアの利用によって、危険行為や極端な例では死亡事故につながる可能性もある。

さらなる注意点として、SFLCによれば、それぞれの国の法律の規制を遵守するために組み込みソフトウェアの改変を禁止するような場合では、本条項の履行を強制することはないと述べている[222]。例えば、携帯電話端末などのユーザ製品で、電波を用いて組み込みソフトウェアのアップデート情報が送信され、機器により自動的にソフトウェアのアップデート処理が実行される場合がある。この場合メーカー側は改変の自由が確保されている。しかし、日本の携帯電話自体は、電波法ならびその 施行規則により、技術基準適合証明を受けることになっている。このため改変版ソフトウェアの導入により、改造を行うと再度証明を受ける必要があり、再証明を受けず使用すると電波法違反となる[224]。インストール用情報を提供することによりこのような違法行為を助長することになる、と想定したうえで、インストール用情報を提供する必要性の有無を考えると、このような場合は必ずしも必要とはいえないのではないかと述べている。これとは対照的に携帯情報端末やいわゆるスマートフォンの一部は、もとよりユーザーに改変版ソフトウェアのインストールを部分的に許容している。このような場合はハードウェアによる制限を何らかの形で課すことによって、改変の自由におけるユーザー間での差別を生む(例えば、ハードウェアメーカーから認証を受けたアプリケーション業者がソフトウェアを自由に改変できる一方、一般ユーザーは一切改変できない)。道義的な問題でしかないが、仮にそのユーザ製品に組み込んだソフトウェアがGPLv3で保護されているならば、メーカーはユーザーからインストール用情報の提供を迫られるだろう。ユーザ製品にGPLv3ソフトウェアを組み込むメーカーは、法的な制限を考慮する必要がある[225]

最後に本第6項で述べた対応するソースとインストール用情報のファイルフォーマットを規定する。本第6項に基づく対応するソースの伝達及びインストール用情報の提供は、文書化され一般に公開されておりかつソースコード形式で一般に利用可能な何らかの実装方法を有する、フォーマットにより提供されなければならない。このような場合、アーカイブ圧縮展開、読み込み、または複製に特別なパスワードなどのキーを必要としてはならない(第6項第7段落[223])。FLOSSの実装を持つフォーマットとなるので、対応するソース、インストール情報である中身はテキストファイルでなければならないと考えがちだが、PDFRTFDOC、はたまたDOCXはFLOSS実装があるので[226]問題ない。ただし、その文書が「『ソースコード形式』で一般に利用可能」でなければならないので、例えば、そのPDFなどにコピー禁止を施したり、ソースコードをスクリーンショット等の画像で貼り付けるなどといった「改変を加えるに当たって好ましくない」形式は許されない(第1項)。またその中身を圧縮したアーカイブもFLOSS実装があるものでなければならない。ZIPInfo-ZIPen)参照)、LHA[227]7zは問題ない。しかし、DGCAなどは、2011年時点で、プロプライエタリな実装しか存在しないので、このようなフォーマット形式を使用してはならない。いずれにせよ受領者が中身を取り出す上でFLOSSな実装のみに依存し、パスワード等を掛けていない場合は問題ない。

追加的条項

第7項は、GPLとの両立性を向上させることを主な目的として、ライセンスを補足する追加的条項[33]を課すことができると述べている。それは追加的許可条項additional permissive termsまたはadditional permissions)と追加的非許可条項non-permissive additional terms)と定義される。

「追加的許可条項」(Additional permissions)とは、本ライセンスが課す条項に例外を設けることにより、本ライセンスの条項を補足するものと定義する。追加的許可条項が本プログラムの全体に適用される場合、準拠法の下で有効とされる限り、追加的許可条項は本ライセンスに含まれているもの(本ライセンスと一体のもの)と見なされなければならない。追加的許可条項が本プログラムの一部分にのみ適用される場合は、その部分のみに関しては課される追加的許可条項に基づいて別途利用可能であるが、本プログラム全体については、追加的許可条項の内容如何に関わらず、本ライセンスが適用される(第7項第1段落[228])。結果として追加的許可条項は、GPLv3で課される条件を一部緩和することになる。このような例は、GPLv3なソフトウェアがGPLと両立しないライセンスで頒布されるライブラリとリンクしたい場合は、そのGPLv3なソフトウェアに「当該ライブラリのリンクを許諾する」という例外条項をライセンスに明記する[229]。この例外条項が追加的許可条項の一例である(そもそも追加的許可条項は従来慣習的に用いられていた例外条項の一般化に等しい[23])。GPLv3で保護されるGNU WgetOpenSSLとリンクするため実際に例外条項を定めている。また既に何度も述べてきたが、LGPLv2.1そしてLGPLv3は共にあらゆるライセンスのソフトウェアのリンクを許諾する条項、すなわち追加的許可条項を持つライセンスであると見なせる(LGPLv3はさらに内部的にGPLv3を参照しているので条文全体が追加的許可条項であると見なせる)。

保護された作品を伝達する場合(第4項、第5項、第6項参照)、ライセンシーは追加的許可条項のいかなる条項についても、その作品の全体または一部を削除できる(追加的許可条項は、所定の改変がなされた場合はその追加的許可条項自体を削除するように規定することすらもできる)。ライセンシーは、ライセンシーが保護された作品に加えた部分であって、ライセンシーがコピーライトを持つ、もしくは与えることができる(許諾できる)部分について、追加的許可条項を定めることができる(第7項第2段落[230])。一般的に、コピーライト保持者(著作権者)がコピーライト(著作権)を主張できる部分にしか許諾条件を定めることはできない。このことによりライセンシーがコピーライトを主張できる部分のみに対しては新たに追加的許可条項を定めることができる。また当然ライセンサーは全ての許諾の変更・削除ができる。しかし、GPLv3では、任意の追加的許可条項についてはライセンシーなら誰でも削除できると本段落で規定している。

本ライセンスの他の条項に関わらず、保護された作品にライセンシーが加えた部分については(当該部分のコピーライト保持者が認める場合)、本ライセンスの条項に加え、以下の条項のいずれかを追加することができる(第7項第3段落[231])。

  • a) 本ライセンス第15項そして第16項の規定とは異なる内容の保証の否認または責任の限定を規定すること[230]
  • b) 追加した部分に対して、特定の合理的な法律上の告知事項または作成者の記載や作者を特定できる記述、もしくは追加した部分を含む作品によって表示される適切な法的告知やそれと同様の情報を、そのまま保全するよう要求すること[231]
  • c) 追加した部分の作成者について虚偽または不当、不正確な表示をすることを禁じること、もしくは、改変されたバージョンにオリジナルのバージョンとは異なっていることを合理的な方法で明示することを要求すること[232]
  • d) 追加した部分のライセンサーまたは作成者の名前を、宣伝目的で利用することを制限すること[232]
  • e) 商品名、商標またはサービスマークの使用に関して、商標法に基づく権利の許諾を拒否すること[232]
  • f) 追加した部分(または改変されたバージョン)を伝達する者が受領者に対する契約上の責任を負って伝達する場合、ライセンサー及びコピーライト保持者に直接的に課される責任を免責することを要求すること[232]

これらは結果としてGPLv3で規定される条件よりも厳しい要求を課すので、「追加的非許可条項」(non-permissive additional terms)と呼ばれる。小項a)は、SFLCによると特定国家の準拠法によって無保証性や免責が認められない場合があるため規定された[230]。小項b)はSFLCによるとMPLやその一部派生ライセンスが課す法的な義務や作成者の表示に関する条項(MPLv1.1 "3.5. Required Notices."など)[233]と両立できるようにするものである。これによりMPLでライセンスされたソフトウェアを(個々のコードの著作権者の許諾を得ることもなく)GPLv3で再ライセンスできる[231]。小項c)は虚偽記載の禁止事項であり、故意では無い記載ミスはフェアユースで救済すべきとも考えられるが、同時にこのような制限を設けることにも合理的で異論は無いため規定されている[23]。小項d)も同様の規定をFLOSSライセンスで採用しているものが多数存在する。小項e)も小項c)と同じく、商標のフェアユースは認められてしかるべきであるが、合理的であるため規定されている[23]。小項f)はApache License v2.0 "9. Accepting Warranty or Additional Liability."[234]に規定されている免責条項との両立性を確保する条項である[63]。このほかにもApache License v2.0はGPLv2と両立しない条項があり、前述の小項e)のような商標の取り扱い("6. Trademarks")、「特許停止条項」("3. Grant of Patent License.")が当てはまる。特許停止条項とGPLv3で対応する条項が第10項第3段落で述べる「特許非係争条項」条項である。これら3つの改訂点を取り入れたため、GPLv3はApache License v2.0と完全な両立性がある。

本項第3段落で規定した以外の追加的非許可条項を定めることは許されず、それらは全て本ライセンス第10項の「さらなる権利制限」("further restrictions")とみなされる。ライセンシーが受領した本プログラムまたはその一部に、本ライセンスに加えてさらなる権利制限が適用される旨が記載されている場合、ライセンシーはそれらを(無許可で)削除することができる。さらなる権利制限を含むライセンス文書が本ライセンスに基づく再許諾または伝達行為を認めている場合は、再許諾または伝達においてそのさらなる権利制限を存続させないことを条件として、ライセンシーはそのライセンス文書の条項が適用されている部分を本ライセンスで保護された作品に追加することができる(第7項第4段落[235])。のちほど述べるとおり第10項の「さらなる権利制限」はライセンスを自動的に終了させる(第8項)。これにより作品伝達ができなくなってしまうので、「さらなる権利制限に相当する追加的非許可条項」をコピーライト保持者以外が例外的に削除できるようにしている。

以上のように本項では、GPL以外のフリーソフトウェアライセンス、オープンソースソフトウェアライセンスとの両立性を考慮した一種の妥協点を条項化したものであるといえる。本項に記載されている許可・非許可条項を中心に別のフリーソフトウェアライセンス、オープンソースソフトウェアライセンスを策定することでGPLv3と完全な両立性のあるライセンスを作成できる。もちろんソースコードを開示しない、または開示してもフリーな利用を許さない独占的ライセンスはこのようなことを考慮しても無駄であり、(マルチライセンシングを除き)両立することは決してない(セクション"両立性とマルチライセンス"を参照)。

第7項の第5段落では、追加的条項の記載箇所(ソースファイル内に直接記載またはその他参照できる場所の記載)、第6段落では追加的条項のフォーマット(独立したライセンス文書形式または本ライセンスの例外規定として記述。形式に関係なくどちらでも適用される)を規定している。

終了

第8項では、前述した保護された作品の改変、普及(伝達含む)や後述のパテントライセンスなどGPLv3で許諾された権利が行使できなく、すなわちライセンシーがライセンス違反を行ってからそのライセンスの終了を迎えるまでを規定している。基本的にGPLv3はGPLv2と同じくライセンス違反による自動終了の形態を採用している(その他のライセンスでは、著作権者による個別終了方式を採用しているものもある)。しかし、GPLv2とは異なり幾つか特例を設けて違反者の負担軽減を図っている。

本ライセンスで明示的に定められている場合を除いて、保護された作品を普及または改変してはならない。そのような規定以外に保護された作品を普及または改変しようとする企てattempt)はすべて無効であり、そのような企てをした場合は、本ライセンスに基づくライセンシーの権利(この権利には第11項第3段落に基づいて許諾された「パテントライセンス」("patent license")も含まれる)は自動的に終了するautomatically terminate)ものとする(第8項第1段落[236])。このようにしてライセンスが自動的に終了した場合、作品の改変や再伝達などをコピーライト保持者(著作権者)の許諾なく行使すれば著作権侵害となる(第9項)。ちなみに第9項で定められる、ライセンス受諾の不要な行為(例: 本プログラムの実行)は引き続き許可される。終了の条件に、ライセンスに従わない改変行為等の企て、とあるので、ライセンス違反未遂であっても終了に追い込まれる可能性もある。

前述の規定はかなり厳しいように思えるが、GPLv2も全く同じ規定である。しかし、GPLv3では第8項第2段落以降である期間内に違反者がライセンス違反全て中止した場合の救済措置を規定している。考慮不足に起因する不用意な違反の救済を目的としている[237]

(第1段落に対して)しかしながら、本ライセンスに違反する行為のすべてが中止された場合、特定のコピーライト保持者から違反者に供与されたライセンスは、

  • (a) そのコピーライト保持者が違反者に許諾したライセンスを明示的かつ確定的に終了させるまでの間は、暫定的に回復するものとし(違反時からのフロー: 違反→暫定的回復→終了)、
  • (b) 違反行為の中止後60日以内に、そのコピーライト保持者が違反者に対して合理的な手段で違反の事実を告知しなかった場合は、恒久的に回復するものとする(違反時からのフロー: 違反→60日以内に合理的手段による告知なし→恒久的回復)

(第8項第2段落[237])。ここで注意すべきなのは、違反したライセンシーの許諾終了に対し、保護された作品の「ライセンサー」が包括的な違反告知を行うのではなく、(巨大なソフトウェアだと多数に上るはずだが)個々の「コピーライト保持者」(著作権者)が違反者に働きかけることになる点である。著作権を主張できるのは著作権者のみであるから、当然といえる。違反者が(a), (b)どちらの裁定を下されるかは、ライセンス違反行為を中止してからの、コピーライト保持者が違反事実を違反者に告知する日に因るところとなる。このことから、コピーライト保持者はライセンシーの違反行為を直接的または間接的に察知しなければならない。違反者が違反行為を中止して60日以内にコピーライト保持者から違反の合理的手段による事実の告知を受けた場合、違反者は暫定的なライセンス回復を受けた後、最終的には、明示的、確定的にライセンスを終了させられる。違反者が違反行為を中止して60日を越えてから、コピーライト保持者から違反の合理的手段による事実を告知された、または、60日たってからも一切告知を受けていない場合、違反者はライセンスを恒久的に回復させられる。通常、ライセンス違反により、ライセンスを停止させられた場合、個々の著作権者と再度交渉して合意を得れば、個々の著作権者が著作権を主張する部分のみライセンスを回復できるが、それが膨大な数にのぼるケースもある。そのような事態に陥るケースに比べて、本段落の条項は容易に回復できる手段を提供している[237]

(第2段落に追加して)さらに、あるコピーライト保持者が違反者に対して合理的な手段で違反の事実を告知した場合において、それが本ライセンスの違反(ここではコピーライト保持者のいかなる作品に関して違反したかを問わず)に関するそのコピーライト保持者からの最初の告知であり、かつその告知を違反者が受領したあと、30日以内に違反を是正した場合は、そのコピーライト保持者から違反者に供与されたライセンスは、恒久的に回復するものとする(第8項第3段落[238])。ライセンス違反が、該当するコピーライト保持者のGPLv3で保護される全ての作品のライセンス違反を勘定してなお、初回の場合はこのような特例が適用される。この段落も第2段落と同じく、個々のコピーライト保持者毎に違反者に下される決定が変わってくるので、作品のコピーライト保持の区分けによって、ある部分では初回の違反で、別の部分は初回ではないというケースもある。初回ではない、また初回であってもコピーライト保持者からの違反告知から30日を越えて違反が是正されなかった場合、第2段落の条項による裁定に移る。

本項に基づいてライセンシーの権利が消滅した場合でも、本ライセンスに基づいてそのライセンシーから複製物、または権利を受領、または承継した者に対する許諾は、消滅しないものとする。ライセンシーの権利が消滅し、恒久的に回復されないこととなった場合、同一のライセンス対象に対する新たなライセンスを本第10項に基づいて再度受領することは許されない(第8項第4段落[239])。よって違反者とは対照的に、その下流受領者においては、引き続きライセンスが有効となり、違反者がコピーライトを持つ改変点すらも含めて、作品の改変、普及、パテントライセンスなどの各種GPLv3の権利が下流ライセンシーに保証される。この規定は第2項第3段落のサブライセンスの否定や第10項第1段落のライセンサーからの直接許諾規定から判断して妥当といえる。しかし、このままでは同じ第10項第1段落の規定によりプログラムの複製を受領すれば、一度ライセンスを終了させられたものですら、ライセンスを再度得ることになってしまうので、「一度ライセンスを終了させられたものは、たとえ本プログラムを受領したとしても、そのライセンスは二度と得ることはできない」というペナルティを課している。

複製の受領の為の行為とその行使における許諾の不要

本プログラムの受領またはその実行については、本ライセンスの承諾を必要としない。peer-to-peer伝送を使用して本プログラムを受領することに伴って生ずる保護された作品の付随的普及についても、同様に承諾を必要としない。しかしながら、それら行為を除き、ライセンシーに対して、保護された作品の普及または改変を許諾するものは、本ライセンスのみであり、このこと以外は認められない。これらの行為は、本ライセンスを承諾しない限り、コピーライトを侵害することとなる。したがって、保護された作品を改変または普及することにより、ライセンシーは当該行為を行うために本ライセンスを承諾する旨、意思表示したことになる(第9項[183])。プログラムの実行は普及行為ではなかった(第0項第6段落)。このことを鑑みプログラムを実行するのにライセンスを承諾する必要はないと第2項第1段落で規定した事項を再度述べている。極端な例、第8項でライセンスを終了させられたとしてもプログラムの実行は許可される。また、受領も同様である。これも極端な例では、ライセンス違反者ですらもプログラムを受領(そしてそれを実行)できる。ただし、このままでは、次の第10項第1段落の規定により、ライセンス違反者だろうが何だろうが全ての受領者はライセンス許諾を得ることになってしまう。これを防止するためそのプログラムのライセンスに以前違反違反し、かつ(明示的かつ確定的に)終了させられたものは二度とそのライセンスの許諾を得ることはないと第8項第4段落に規定した。また第6項第1段落小項e)でオブジェクトコードの伝達に利用できると規定したpeer-to-peer伝送においては、その技術的性質により、作品を受領したものは、同時に作品を他者に送信可能な状態に置いている。これは普及行為なので、通常はライセンスの承諾なく行使できないが、このための例外を設けており、許可を得る必要はない[215]。これ以外の、保護された作品の普及、改変をコピーライト保持者の許可無く行う行為は全てコピーライト保持者のコピーライトを侵害する(著作権者著作権侵害)故、仮にこれら行為を行ったということは、GPLv3という契約書を承諾したという意思表示に等しい、と規定している。すなわちこれら行為を無許可で行った場合、ライセンシーは民法第526条に従って、GPLv3という契約書に沿った契約を締結したと解釈できる[240]。セクション"ライセンスと契約にまつわる問題"でGPLは契約ではなくライセンスであると述べたが、大陸法では両者を区別できない。従ってこのような法体系を持つ法のもと、GPLを契約と見なすことも可能であり、この第9項にその承諾規定が記載されている(日本の民法は大陸法を法体系に持っているものの、GPLが契約と見なせるかは判例などの法的根拠がないため不明である)。ところで、前述の通り「改変」にライセンスの承諾が必要とあった。普及行為の定義(第0項第6段落)で述べたような、「私的な改変か否かの区別」はここではなされていない。「組織内部の私的改変」は第0項第6段落によると普及ではなく、また伝達でもない。この行為が許諾されるか否か、第2項の「基本的な許諾」など、その他の条項などに定められていない。組織内部であるか否かに関わらず、改変はこの第9項第4文にて許可されるので、無許可で行使した場合、そのことがGPLv3を改変者たるライセンシーが承諾したとの意思表示になり、GPLv3という契約書の成立と解される[241]。よって組織内部での改変を行うライセンシーはGPLv3の義務を免除されたわけではない[241]ということに注意すべきである。例えば第10項第3段落の「特許非係争義務」が免ぜられることはない[241][240]。例を述べる。ある組織が受領したGPLv3プログラムをその組織内部で私的に改変して利用していたが、自組織の持つ特許がそのプログラムに勝手に組み込まれていたことにある日気づいたとしても、パテントクレーム侵害を訴訟の手段で解決することは許されない。仮にそのような訴訟を起こした場合、第10項第3段落により、第8項第1段落の「ライセンス終了」となる。ライセンス終了により、当該組織は第8項第4段落の規定から、以後その保護された作品を受け取ってGPLv3のライセンスを受領することは一切できなくなる。ライセンス終了時点で使用しているGPLv3プログラムに関しては、それも「利用を停止すべき」という解釈と「引き続き利用できる」という解釈の二通り存在する[240]。前者は第8項のterminate民法第545条 1.の「直接効果を持つ解除」と解釈した場合である。この場合、解除の遡及的効果によって単なる私的な改変であってもそれはライセンス無効下において、著作権者からの許可を得ることなき改変であった遡及的に解釈されるから、ライセンスを終了させられた組織は逆にそのプログラムの個々の著作権者から、著作権侵害反訴、逆提訴される可能性すらもある。後者は民法第620条に記載されている通り、「解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる」となるので、もう既になされた行為までその違反性を問われることはないとする解釈である。

下流の受領者への自動的許諾

第10項は主に受領者(recipient)に対する許諾を規定している。

保護された作品の受領者は、ライセンシーがその保護された作品を伝達するごとに、オリジナルのライセンサーから、本ライセンスに基づいてその作品を実行、改変、及び普及する許諾を自動的に得るものとする。なお、ライセンシーは、第三者に本ライセンスの規定を遵守させる義務を負わない(第10項第1段落[242])。この規定により、受領者は、直接作品を受領したライセンシーからではなく、オリジナルのライセンサー(原著作者)から直接GPLv3を受諾したことになり、その許諾は誰かに許可を得ることなく、作品を受領した瞬間に受け取る。このことを根拠として、第2項第3段落のサブライセンスの否定、第8項第4段落の下流受領者のライセンス継続の確保、が成立する。またこれを悪用することにより、既に第8項によりライセンスを終了させられたものですら再許諾を許すので、これを防止する規定(違反者の再許諾禁止、第8項第4段落)も存在する。

第2段落は、受領者たる組織が企業組織再編などにより第三者に保護された作品を移転した場合、どのような解釈がなされるかを規定する。 「企業体取引」("entity transaction"。企業間主体取引など)とは、事業譲渡会社分割、または合併に関する取引をいう。企業体取引の結果として保護された作品の「普及」が生じた場合、その保護された作品を受領した当事者は、譲渡当事者が前段落(第10項第1段落)の条項に基づいて保有していた、または保有し与え得た許諾に係るすべてを承継するものとする。また、譲渡当事者が保護された作品の対応するソースを保有していた場合、または合理的な努力により入手できる場合、受領の当事者は、その対応するソースを保有する権利もまた承継するものとする(第10項第2段落[243])。企業組織再編の手続きは各種法律に従う必要があり、日本の場合会社法が当てはまる。「企業体取引」の定義に含まれている事業譲渡transferring control of an organization)は会社法第467条同第468条等により定められている(詳細はウィキブックス "事業の譲渡等(会社法第467条~第470条)"を参照)。事業譲渡により事業譲渡会社は事業譲受会社に「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産を譲渡」する(記事"事業譲渡#事業の意義"を参照)。GPLv3で保護された作品が、当該財産に含まれていた場合、このことにより全く別の第三者組織に対して作品を複製し譲渡することになる。これは、事業譲渡会社をGPLv3に従うライセンシーと見て、その作品をコピーライト保持者の許可無く「普及」(そのうちの「複製」。第0項第6段落より)し、事業譲受会社はその作品を受領する、という作品の「伝達」(convey。もとよりこの語は日本語で「譲渡」とも訳される)の一形態であるに過ぎない(第0項第7段落)[244]。ここまでは既に述べた条項からすぐさま解釈できることである[243]。この第2段落は、企業組織再編の結果として普及行為が発生した場合、事業譲受会社が事業譲渡会社の本ライセンスの許諾一切を承継すると規定している。すなわち、この条項に従って事業譲受会社は、事業譲渡会社からGPLv3のライセンシーとしての立場を引き継ぐということを規定しているのである。従って事業譲受会社はあたかも事業譲渡会社の立場で例えば第6項の「対応するソース」を上流伝達者に請求することもできる。なおたとえ企業組織再編が発生しても普及を伴わないものであれば、本項の対象外となる。会社法で規定される会社分割会社法第757条~第766条)、合併会社法第748条~第756条)について、少なくとも日本において、両者は包括承継であり、事業譲受会社が事業譲渡会社の法律関係をそのまま承継するため、ライセンシーとしての立場もそれと同じである[245]。その際本項の規定は不要である。

第10項第3段落では、「さらなる権利制限」の禁止と「特許非係争義務」というライセンスの終了とも関連する重要な事項について述べている。

ライセンシーは本ライセンスに基づいて許諾され、または確認された権利の行使に対して、本ライセンスが規定する以上の「さらなる権利制限」(further restrictions)を課してはならない。例えば、ライセンシーは本ライセンスに基づく権利の行使に対してライセンス料、ロイヤルティその他の対価を課してはならない(第10項第3段落第1文[246])。第7項第3段落で規定した追加的非許可条項に含まれない権利制限は全て「さらなる権利制限」となり、いずれもライセンス違反となる。ところで、その一例として「ライセンス料、ロイヤルティその他の対価」を徴収してはならないと書かれている。一見これは第4項第2段落、第6項第1段落小項b),d)その他と矛盾する内容に思える。しかし実は、本項は「本ライセンスの下でライセンシーに認められている権利行使」に対する課金を禁じているだけに過ぎない。「ソースコードの改変」などといったライセンシーに対しGPLv3で許諾されている改変行為に課金すること、GPLv3ソフトウェアを他のコンピュータにコピーした際に追加のライセンス料金を請求すること(「普及」行為への課金)、物理的マシン単位もしくは仮想機械、インスタンス単位でのソフトウェア利用へ課金すること(「普及」行為への課金やGPL承諾不要のプログラム実行への課金)などはいずれも、本来GPL違反にならない限り自由に行使してよいと定めているはずの行為に、不必要な制限を加えているので「さらなる権利制限」なのである。従ってこれらの行為に対する課金を禁ずる本項は、「伝達行為の課金を許可した」各項とは矛盾していない[247]

(第10項第3段落第1文より続き)また、ライセンシーは「そのプログラム」("the Program")の全体またはその一部の作成、使用、販売、販売の申出または輸入特許を侵害することを理由として、訴訟(交差請求[248]及び反訴を含む)を提起してはならない(第10項第3段落第2文[249])。この規定を一般には「特許非係争義務」(Non assertion of patent clause, NAP. 特許不係争条項)と呼ぶ。非係争の対象となる作品は「そのプログラム」("the Program")、すなわち上流から受領したプログラム自体である(受領していないプログラムは無関係である)。また特許を持つ受領者は誰を訴えることができないのかについてであるが、それは条文中に明文化されていない。ただ本項の主旨から考えて少なくともそれには「下流の受領者」が含まれているのは間違いなく、仮に上流から受領した時点で自身の特許を侵害していることを察知し、それを知っておきながら故意に下流に伝達して、下流の受領者を訴える、などといった不道徳な行為を是正する働きがあるといえる。では、上流の伝達者や、特許を侵害するような改変点を組み込んだ当事者はいったいどうなるのかは、条文から明確な解釈はできない(提訴することでライセンス違反となるかは、誰を提訴できないかが明確化されていないため不明である。また、条文に書かれていないのであるから、全てのひとを対象としている、と考えるのも妥当といえる)[249]。ちなみにセクション"複製の受領の為の行為とその行使における許諾の不要"で少し述べたとおり、この義務はGPLv3の許諾が必要な行為(作品の改変、普及。第9項)を行使する、しないに限らずライセンシーが負うこととなるので、単なるプログラムの実行や組織内部での私的な改変を行っているだけでもその対象となっている。よって例えばプログラム実行時に自組織の特許侵害に気づいても訴訟は問題解決の手段として採用できない。これは自組織の持つ特許が自分たちの与り知らないところでGPLv3プログラムに混入していたとしても、全くもって問題を解決することはできない、という企業組織にとってはかなり頭痛の種となる条項である。次の第11項も特許権不行使を定めたものであるが、これは個人、団体、組織、企業など特許を持つ人物が積極的な改変を行った場合を想定しており(多くの企業によるコントリビューションから成るGCCなどはそのようなプロジェクトの例)、特許を有効活用する目的で、譲り渡すことを規定している。そのような場合はある程度自組織で特許権をコントロールできる可能性が高い。しかし、本項で対象となる特許は全てであり、あらゆる特許に関して訴訟による解決の放棄を迫っており、これも実質的な特許権不行使、特許開放にあたる[249]。改訂プロセスでもこの条項はかなりの論争があったとされるが、企業が個人ユーザーを法廷に訴えるという脅迫行為をやめさせる目的で、FSFは一切妥協しなかった[23][249]

特許

GPLv3では、以前のバージョンには存在しなかった特許に関する取り扱いが明文化されており、前述の第10項第3段落の「特許非係争義務」だけではなく、第11項でGPLv3で保護された作品に加えられた特許や第三者の特許の取り扱いを規定している。この条項によりGPLv3プログラムを受領するものはその不当な特許攻撃から概ね守られることとなる。

貢献者」(contributor)とは、本許諾書の下で「本プログラム」、あるいは「プログラムを基にした作品」を使用出来るコピーライトを保持するものとする。このようにしてライセンスされた作品を貢献者による「貢献者バージョン」(contributor version)と呼ぶ(第11項第1段落[250])。保護された作品(「本プログラム」と「プログラムを基にした作品」)の貢献者に該当するのは、保護された作品の個々のコピーライト保持者である。まず、「本プログラム」のオリジナル開発者、原著作者で本プログラムをGPLv3で利用することを許諾したライセンサーが当てはまる。上流の伝達者から受領しGPLv3のもと改変、それを再度伝達したものは、コピーライトを主張できる部分を持つ、すなわち改変点についてのコピーライト保持者となり、貢献者である。対照的に、上流の伝達者から受領した保護された作品に改変を一切加えず下流に横流ししただけの伝達者は、コピーライトを主張できる部分がないので、その作品に関しては貢献者ではない。貢献者バージョンとは貢献者のコピーライトを主張できる部分を持つ作品のバリエーションのことで、その作品全体を指す(コピーライトを主張できる部分に限定されるのではなく作品全体である)[250]。貢献者バージョンは、保護される作品の対象よりも範囲が狭い。この二つの用語は、MPLのある条項で定義されているものに類似している(1.2. "Contributor Version")[250]。ここまでの定義ではほとんど「改変した者」や「改変バージョン」との違いが見当たらないが、以降の段落で規定されるとおり、貢献者は特許を保持していることが、一般の改変者とは違う点である。

ある貢献者の「必須パテントクレーム」(essential patent claims)とは、取得済み、あるいは今後取得する予定があり、その貢献者が現在所有ないし「支配」("control")していると言える特許のうち、貢献者バージョンに対して、本ライセンスで許可されているような作成や利用、販売といった何らかの形の行為を行うことにより侵害される可能性があるパテントクレームのすべてと定義する。ただし、貢献者バージョンをさらに改変した結果としてのみ初めて侵害されるようなクレームは含まれない。この定義において、「支配」には本ライセンスが課す条件と整合的なやり方で特許の再許諾(サブライセンス)を認める権利も含まれる(第11項第2段落[251])。「必須パテントクレーム」は、日本の特許法では、第七十条「特許発明の技術的範囲」[252]に属する請求項(クレーム)の一つの類型となる[253]特許権侵害Patent infringement)とは、「他者の特許権を無断で利用し業をなすことである」[254][255]。通常、特許権侵害はパテントクレーム(特許クレーム、特許請求項)の直接侵害や請求項の文言侵害均等論の法理下における侵害、間接侵害寄与侵害など多岐に渡る(記事"特許権侵害訴訟"なども参照。この点をもって、ソフトウェア特許などに否定的な人物・団体からは激しく非難されている)。本段落ではGPLv3で許諾される行為を貢献者バージョンに対し行使することで特許権侵害にあたる請求項、パテントクレーム全てを、作品毎に「必須パテントクレーム」と定義している。必須パテントクレームには前述の条件に一致しかつ貢献者が現時点で保持しているもの、または将来取得予定のものも含まれる。また貢献者自身が保持していないがサブライセンスにより貢献者が授与されているパテントクレームも含まれる。しかし重要な例外があり、「貢献者バージョンをさらに改変した結果としてのみ初めて侵害されるようなクレームは含まれない。」という規定がある。よってある貢献者が上流の貢献者から作品を受領した時点、もしくはそれに貢献者自身で改変を加えて、その貢献者自身が保有する「特許を構成する要件」(これを「構成要件」と一般には定義される。侵害のケースで変化するが、「特許発明の技術的範囲」として具体的にパテントクレームに列挙される「請求項」という箇条書きの文言に合致する要件を備えている場合、文言侵害に当たる。この場合、箇条書きの文言に合致する要件が「構成要件」である)を備えた場合、両作品が必須パテントクレームに該当する可能性があるが、下流の貢献者の改変の時点で初めてパテントクレームに抵触した場合、そのようなクレームは「必須パテントクレーム」ではない。必須パテントクレームに含まれる、含まれないケースを考察するため以下のような例を採り挙げる[256][257]

各伝達過程にある作品とパテントクレームに抵触する可能性のある構成要素を定義する。

  • 上流伝達者(upstream conveyer, UC)の作品 : Wuc
  • 特許保持者(patent holder, PH)の作品 : Wph
  • 下流受領者(downstream recipient, DR)の作品 : Wdr
  • パテントクレームの構成要素 : C1, C2, C3

作品が伝達する流れは次の通りである。伝達過程はUC->PH->DRと考える。原著作者たるライセンサーからGPLv3のもと「本プログラム」を受け取ったUCは、構成要素C1を組み込んで「本プログラムを基にした作品」Wucに改変する。そしてUCはWucをPHに伝達する。同様にPHはWucに構成要素C2を組み込んで「本プログラムを基にした作品」Wphに改変し、DRに伝達する。DRは構成要素C3を組み込んで「本プログラムを基にした作品」Wdrに改変する。各作品に対し「コピーライト」を及ぼす関係から、各人物それぞれの「貢献者バージョン」(すなわちコピーライトを及ぼす部分を持つ全体としての作品)は以下となる(○: 貢献者バージョン ×: 貢献者バージョンではない)。

貢献者バージョン
人物\作品 UC PH DR
Wuc × ×
Wph ×
Wdr

また伝達の過程にある各作品が備えるパテントクレームの構成要素は以下となる(○: 備えている ×: 備えていない)。

作品の構成
作品\構成 Wuc Wph Wdr
C1
C2 ×
C3 × ×

この時、PHの持つパテントクレームの構成要件を次のように定義する。

  • 構成要件R1: C1+C2
  • 構成要件R2: C1+C2+C3
  • 構成要件R3: C1

上記の条件の下、PHのパテントクレームに抵触するケース、並びにPHに対する「必須パテントクレーム」に該当するしないを考察する。特許権を侵害するケースは多岐に渡るので、考察を容易にするため、文言侵害のみを考える。この場合は、構成要件が少なくとも一つでも欠ければパテントクレームに抵触しないことになる。

パテントクレームの構成要件がR1であるとき
Wucは構成要件を欠いているので、R1に抵触しない。一方WphとWdrはR1を満たす。よってDRが受領した作品Wphとそれを改変した作品Wdrはパテントクレームの構成要件R1に抵触する。ところで、WphとWdrはPHの貢献者バージョンであった。よって構成要件R1は作品Wphに対する、そしてWdrに対する「必須パテントクレーム」である。まとめると、WphとWdrは「本ライセンスで許諾されている行為」により必須パテントクレームたる構成要件R1に抵触する作品である(第11項第3段落の規定により「必須パテントクレーム」であるかが非常に重要な救済の要件となる)。
パテントクレームの構成要件がR2であるとき
WucとWphは構成要件を欠いているので双方共にR2に抵触しない。しかし、WdrはR2を満たすため、パテントクレームに抵触し、また同時に、PHの貢献者バージョンであるから、「必須パテントクレーム」、となるはずだが、これはまさに「貢献者バージョンをさらに改変した結果としてのみ初めて侵害されるようなクレーム」という例外規定に当てはまる。結論として、構成要件R2は作品Wdrに対する必須パテントクレームではない。いいかえると、Wdr必須パテントクレームではない構成要件R2に抵触する作品である。
パテントクレームの構成要件がR3であるとき
Wuc、Wph、Wdrは全て構成要件R3を満たす。しかし、WucはPHの貢献者バージョンではない。よって構成要件R3はWucに対する必須パテントクレームではない。いいかえると、Wuc必須パテントクレームではない構成要件R3に抵触する作品である。一方、WphとWdrはPHの貢献者バージョンである。よって構成要件R3はWphに対する、そしてWdrに対する必須パテントクレームである。まとめると、WphとWdr必須パテントクレームたる構成要件R3に抵触する作品である。

さて、このようなケースに対しGPLv3は下流の必須パテントクレームに対する特許権侵害を免責する条項を規定している。 各貢献者はライセンシーに対して、貢献者バージョンの内容の作成、利用、譲渡、譲渡の申し出、または輸入、並びに実行、改変、または普及を行う場合に必要となる必須パテントクレームを対象とする、非排他的かつロイヤルティフリー(無償)の全世界で有効なパテントライセンスを授与する(第11項第3段落[258])。いいかえると、ある特許を持つ貢献者は、仮にその下流の受領者が必須パテントクレームに抵触した場合でも特許権を行使することは許されない。よって前述の例で特許に関する事象をまとめると、

  1. PHの持つ特許のパテントクレームの構成要件がR1であるならば、Wph、Wdrを保有するDRはPHからR1のパテントライセンスを授与される。
  2. PHの持つ特許のパテントクレームの構成要件がR2であるならば、Wdrを保有するDRはPHのパテントクレームに抵触、すなわち特許権を侵害する。
  3. PHの持つ特許のパテントクレームの構成要件がR3であるならば、Wucを保有するUCはPHのパテントクレームに抵触、すなわち特許権を侵害する。一方、Wph、Wdrを保有するDRはPHからR3のパテントライセンスを授与される。

1.および2.は至極合理的な結果であり、1.については、自ら持つ特許を混入しておきながら、下流受領者を特許で脅迫するような暴挙をライセンスで封じることになる。2.については、特許権保持者に与り知らず無断で特許を組み込むことは特許権侵害行為であるのは当然である。奇妙な結果となるのは3.である。PHが受領した時点で既にPHの特許が侵害されているが、それをPHが発見したしないに全く関わらず、PHの責任で下流のDRに伝達することは、下流のDR(DRがその作品を伝達した場合は、さらに受領した下流の受領者も)に対し特許権を行使しないという責務を負うと解釈される。この3.の結果は特許権不行使を規定するその他のライセンス(例:IPL)と比べるとかなり異質である[259]。また、必須パテントクレームであるか否かを考慮せず、PHの特許権を侵害するケースすべてに対し、実際にPHがこれを解決する手段に「訴訟」を選ぶことは注意を要する。構成要件がR2またはR3いずれの場合においても、PHが特許権侵害でDRを提訴した場合、第10項第3段落により、第8項第1段落のライセンス終了条件が発動、PHのライセンス終了につながる。(このためPHがライセンサーの保護された作品に改変を加えて伝達した事実から、ライセンサーにより著作権の遡及的な侵害で逆に提訴される可能性がある、というのはともかくとして、)このような場合、必須パテントクレームであるか否かで状況が一変する。まず、PHはライセンス終了によりライセンスで許諾された権利一切を喪失するが、一方下流のDRは第8項第4段落の規定により、ライセンスで許諾される権利は引き続き保護される。従って未だもって「必須パテントクレーム」を成すパテントライセンスがPHから授与されていることになる。これにより、PHのパテントクレームの構成要件がR3ならば、DRは裁判において、この事実が抗弁となる可能性が高い。一方、必須パテントクレームでなければ、パテントライセンスは授与されないから、PHのパテントクレームの構成要件がR2ならば、DRは前述のような抗弁はできない[258]

まとめると、GPLv3で保護されるソフトウェア開発プロジェクトに参加する人物、団体、企業などは、仮に彼らが保有する特許構成要素をそのソフトウェアに組み込んだ場合、もしくは既に組み込まれているが自らの責任で伝達した場合は、下流の受領者に対し、部分的に開放することになる。もしそれを避けたければ、彼ら自らの手でソフトウェアに特許構成要素を組み込まないようにすることになる。

ここまでは、特許保有者がGPLv3で保護される作品に改変を加えたり、直接の伝達者となるケースであった。今度はGPLv3の直接の貢献者や伝達者ではない、ライセンスの埒外に位置する第三者、外部の契約者の保有する特許についての取り扱いを規定する。

セクション"バージョン3"で述べたとおり、GPLv3への改訂プロセス中にマイクロソフトノベルが特許契約を締結したとの報道が舞い込んできた[55]。両者がSECへ提出した資料[51]や両社のプレスリリース[52][53][54]によると、Microsoft WindowsSUSE Linux Enterprise Severの相互運用性を高めるとの名目で互いにロイヤルティーを支払い、その見返りに互いの(互いの顧客も含む)特許権侵害を見逃す、すなわちパテントクロスライセンス(特許相互許諾)を付与するという契約を締結したとされる。このマイクロソフト-ノベル間の特許ライセンス契約は、GPLのライセンス埒外にいるマイクロソフトと、GPLのライセンシーであるノベルが、その他多くのGPLのライセンシーを差し置いて、自分たちのみが特許攻撃を回避、ライセンシーを不当に差別する不公平な特許契約であるといえる。以下の段落では、その他のライセンシー、受領者を不当に差別するような特許契約を締結させないようにすること、そして特定のライセンシーが締結した場合の対抗措置が定められている。

以下の3つの段落において「パテントライセンス」(patent license特許ライセンス、特許許諾)とは、名称に関わらず、特許権を行使しないという明示的な契約または誓約(commitment、コミットメント)(ある特許の明示的な実施許可、または特許権侵害訴訟を提起しないことに合意する非係争条項等)のすべてをいう。そのようなパテントライセンスをある当事者に「授与する」(grant)とは、相手方当事者に対して特許権を行使しないという契約締結または誓約を指す(第11項第4段落[260])。前段落で既に使用していた用語「パテントライセンス」を再度定義しなおしている。これは特許権不行使を述べた契約、メモランダムなど、名前によらず特許権不行使を述べているものは全て該当する。また特許権侵害訴訟の不行使を要求する特許非係争条項(Non assertion of patent clause, NAP)も含まれる。パテントライセンスを授与するとは、該当特許の権利不行使を意味する。よって「特許ライセンス契約」を締結する場合も本段落の対象となる。

保護された作品が「パテントライセンスに依存していることを知りながら」("knowingly relying on a patent license")伝達する場合において、保護された作品の「対応するソース」が公衆が利用可能なネットワークサーバまたは他の容易にアクセス可能な手段を通じて、無料かつ本ライセンスに基づいて複製可能ではない場合、ライセンシーは、以下の3つのいずれかの措置を取らなければならない。

  • (1) 対応するソースを先述した規定(本段落第1文)に従い利用可能とする。
  • (2) ライセンシー自身、保護された作品に関してそのパテントライセンスにより得られる利益を放棄する。
  • (3) 本ライセンスの規定に適合する条件で、下流の受領者にもパテントライセンスが拡大適用されるようにする。

ここで「パテントライセンスに依存していることを知りながら」とは、ある国においてパテントライセンスなくして保護された作品を伝達、またはライセンシーの下流の受領者が保護された作品を利用すると、その国における特定の特許権を侵害することに繋がるということ、及びその特許権が有効であると信ずるべき合理的理由が少なくとも一つ以上あること、以上のケースいずれについて、ライセンシーが実際に知っていることを指す(第11項第5段落[261])。「パテントライセンスに依存していることを(実際に)知りながら」というケースは具体的には、

  • 侵害している特許の特許番号を認識すること。
  • 特許のいずれの特許請求の範囲(特許クレーム、パテントクレーム、請求項、構成要件)に抵触するかを把握すること。
  • 請求項について無効事由がないと判断できること。

など、侵害を示す有効な事実を知っている場合が当てはまるとされる[261]。調査のコストに比し、このようなことを「知っている」とされる受領者はかなり限定される。またクロスライセンス契約に基づく特許権を侵害していた場合は、「基本特許」が包括的で広範囲なものとなる場合が多く、侵害の事実を「知る」人物はさらに限定される。誤解を恐れず言うと、例えばある特許を侵害しているとされる著作物を受領したものが、特許被侵害者から直接、間接問わず働きかけられ、その事実を「知った」場合が最も多いと想定される。講ずる措置(1)は、本段落のもともとの大前提となっている条件であり、この措置を実施することで、少なくとも受領者はGPLv3に従って改変できる故、理論上は特許権侵害を回避できる。もし対応するソースを開示伝達しなければ、「侵害事実を知っている」ライセンシー以外は特許攻撃を受けてしまう。措置(2)は、下流の受領者に特許攻撃の危険をはらむ物を伝達しておきながら、自らは回避しようとし、受領者を保護しないという不作為に対し、そのような行為を直接やめさせる措置である。措置(3)は全ての受領者を特許権保護下におくことで、全ての受領者への特許攻撃を回避する措置である。いずれもライセンシーの実施コストが大きい、もしくは全く実現しない可能性が高いが、相対的に措置(1)は講じ易いとみられる[261]

ある一対一の単一の, single)取引や協定に基づき、あるいはそれに関連しライセンシーが保護された作品の伝達、または伝達によって引き起こされる普及を行う場合、保護された作品を受領した一部の当事者に対して、保護された作品の特定の複製の利用、普及、改変、または伝達する権限を持つパテントライセンスを授与するならば、ライセンシーが授与したそのパテントライセンスは保護された作品や「保護された作品を基にした作品」の全ての受領者にまで自動的に拡大されるものとする(第11項第6段落[262])。受領者の行為如何に関わらず、ある特定のライセンシーが締結した全てのパテントライセンスが受領者に自動拡大されるというのが本段落の内容である。ある組織が別の組織(やその顧客)のみを対象に、自組織の持つ特許侵害を特別に赦すのであるならば、そのような契約を締結していない人物、団体、企業などにも譲歩してしかるべきであるというのが本旨である。仮に特許侵害訴訟を受けた受領者は本規定を抗弁にできる可能性が高い[262]

あるパテントライセンスが「差別的」(discriminatory)であるとは、本ライセンスの下で明確に認められた一つかそれ以上の権利を、パテントライセンスがカバーする範囲内に含めなかったり、そうした権利の行使を禁じたり、あるいは権利不行使を条件として課すようなものである場合を指す。本ライセンスのライセンシーを一方の当事者とし、ソフトウェアの頒布をなりわいとする第三者との間で、ライセンシーは第三者に対し、保護された作品を伝達する活動の程度に基づいて対価を支払う一方、その第三者は、ライセンシーから保護された作品を受領したすべての当事者に対して、

  • (a) ライセンシーが伝達した「保護された作品」の複製(またはそうした「保護された作品」から作成された複製)を対象として、または
  • (b) 保護された作品を含む特定の製品やそれと他のものとを同梱したもの編集物compilation。第5項参照)を、主要な、あるいは関連した対象として授与する、

という「差別的」なパテントライセンス、またはそれに類似する協定を結んでいる場合、ライセンシーは保護された作品を伝達することはできない。ただし、ライセンシーがそのような協定を締結したり、パテントライセンスを授与されたのが2007年3月28日より以前である場合は本節の例外とする(第11項第7段落[263])。特許攻撃から回避できるようなパテントライセンスを授与し、残りのGPLv3プログラム受領者を特許攻撃に晒したまま「差別」するような不公平な遣り口に対し、そのような誘惑に陥ってしまったライセンシーには報復措置を加えるのが本項第7段落の主旨である。本項第6段落ではそのような差別的パテントライセンスを自発的に結ばせないことを期待しそれを無効化するアプローチを取ったが、本段落は、差別的特許契約を締結したライセンシーからGPLの権利一切を積極的に剥奪する。差別的特許契約の締結対象である第三者は「ソフトウェアの頒布をなりわいとする第三者」、すなわちソフトウェアを頒布(販売など)するまたはソフトウェア専業である人物、企業、団体、組織などに限られる。このことからソフトウェアを一切取り扱わない人物、企業、団体、組織(例: ハードウェア専業企業、ITとは別業種の企業)などは対象外となる。また(b)で「保護された作品を含む特定の作品」とあるが、「本第三者」はソフトウェア専業に限っていないので、例えばハードウェア製品に保護された作品を組み込むケースも該当する。注意すべきこととして、条件(a), (b)は共に特定(specific)の製品を対象としていることから、製品が特定されていないパテントライセンス(例えば、クロスライセンス契約は前述の通り、包括的な技術提携など、特定の製品に限定しないものがある)は本規定の対象ではないとSFLCは述べている[263]。最終文の既得権条項Grandfather clause)の期限日は、本条項が初めて導入された第3次議論用草稿の公表日当日(2007年3月28日 EDT)である[50]。本条項導入のきっかけとなったマイクロソフトとノベルの行いは目溢しを受けたが、その後ノベルに倣って同様の契約を結んだものは対象となる(例: Xandros[264])。

第8段落は以下の通りである。 本ライセンスのいかなる条項や記述は、準拠法国の特許法において、黙示的ライセンスやその他認められ得る特許侵害に対する防御手段を否定しまたは制限する意図と解釈してはならない(第11項第8段落[263])。特許に対し暗黙的立場であったGPLv2は、GPLv3の本項を反対解釈したものではない、ということを改めて主張している。即ち「GPLv3のソフトウェアであれば特許は制限される」という事実に対し、「GPLv3のソフトウェアでなければ(→GPLv2のソフトウェアならば)特許は制限されない」というのは誤解である。GPLv2第7節でもその第1段落、第3段落で特許権行使による他者の自由の不当な制限を(直接的ではないにしろ)禁じている。

他者の自由を明け渡してはならない

本ライセンスの条件と矛盾する何らかの条件(裁判所の命令や契約・協定など、その他)がライセンシーに課されたとしても、ライセンシーが本ライセンスの条件を免れることにはならない。ライセンシーが保護された作品を、本ライセンスが課す義務と他の関連した義務の両方を同時に満たすような形で伝達できないのであれば、結果としてライセンシーがそれを伝達することは完全に不可能ということになる。例えばライセンシーが、自身で「本プログラム」を伝達した人々がさらに行う伝達するその行為に対して、彼らからロイヤルティを徴収するような義務を負う条項に同意していた場合、ライセンシーがその条項と本ライセンスの両方を満たす唯一の方法は、「本プログラム」の伝達を完全に停止することである(第12項[265])。いわゆる「自由か然らずんば死を」条項[23]である。例として挙げられているのは、GPLv3で許諾された「本プログラム」を利用するもの(下流の受領者)から、利用料金としてロイヤルティを徴収するような別の契約を(著作権者であるライセンサーなどと)締結することである。このようなロイヤルティの徴収は、第10項第3段落からライセンス違反となるのは既に述べた。よってこのようなGPLv3と矛盾する契約を締結した後、ライセンス違反とならないようにするためには「本プログラム」の伝達を中止する他ない。本項はこのことの再確認である。本項の題目にある「他者の自由を明け渡してはならない」(No Surrender of Others' Freedom)の「他者」とはライセンシーに対する下流の受領者のことを指している。ライセンシーが下流の受領者にプログラムを伝達しつつも、他方フリーソフトウェア自由(改変やプログラム実行の自由など)を不当に制限する契約を受領者に強要することを禁じているのである[265]。第11項で述べた「差別的特許契約」(差別的パテントライセンス)も契約の対象とならない他多数の受領者の「自由を(特許侵害訴訟で)明け渡す」ことになるので、本項で制限対象となる契約の一つである[266]。その他GPLと矛盾する契約の最たるものが、ソースコード非開示を強要する秘密保持契約(Non disclosure agreement, NDA)である[265]。余談ではあるが、本項と対応するGPLv2の節は第7節である。しかし「第7節の規定の一部が無効もしくは強制(エンフォース)不可能という場合は残りの部分が適用される」といういわゆる限定的分離条項 (limited severability clause)が消滅している。第1次議論用草稿趣旨説明書によると、この条項があると裁判においてライセンスの一部分が確実に認められる可能性は高まるが、同時にライセンス全てが認められなくなってしまう。よってむしろこの条項を削ったほうが、法廷にてライセンス全部を認めてもらえる、ということを期待して削ったとのことである[23](ただ逆に全部却下されるという危険性も増大した)[267]

GNU Affero 一般公衆利用許諾書との利用

本ライセンスのいかなる他の条項に関わらず、ライセンシーは保護された作品をGNU Affero 一般公衆利用許諾書バージョン3に基づいて許諾された作品とリンクまたは結合して単一の結合された作品とすること、及びその結果として作成された作品を伝達することができる。本ライセンスの条項は、その結合された作品全体における、保護された作品の部分に対しては引き続き適用されるが、結合された作品それ自体としては、GNU Affero 一般公衆利用許諾書の特定の条件、すなわちネットワーク上の相互作用(やり取り、インタラクション、interaction)に関する第13項も適用される(第13項[268])。

AGPLはいずれのバージョンもGPLv3と原則両立しない。AGPLv3では"13. Remote Network Interaction"(「第13項 リモートネットワーク上の相互作用」)という規定があり、要約すると「ネットワーク相互作用を通じて保護された作品にアクセスするユーザーに、対応するソースを伝達しなければならない」[B]ということを規定している。一方、GPLv3ではウェブアプリケーションとして使用しかつそのオブジェクトコードを伝達しない場合(第0項第7段落では、「コンピュータネットワーク越しにユーザとやりとりするだけで、コピーの転送を伴わない場合」と規定していた[269])は、GPLv3の義務(例えば、第6項: 対応するソースの伝達 の規定)に従う必要はなかった。よってAGPLv3第13項はGPLv3で「規定されていない追加的非許可条項」すなわち「さらなる権利制限」に相当するため両立しないライセンスなのである。このような非互換性を回避する目的のもと、GPLv3第13項でAGPLv3の作品とGPLv3の作品のリンクや結合を意図的に許可している。とは言え相互再ライセンスは許可されないので、AGPLv3とGPLv3が完全に両立するわけではないから、両者のソースコードを混合して頒布することは出来ない(バイナリコードならば問題ないが)という点には注意すべきである[270]。結合された作品は全体として(GPLv3のコード部分も含めて)"Remote Network Interaction"条項に従う必要がある。個々のコピーライト保持部分はそれぞれ、GPLv3、AGPLv3で保護されたままとなる。

"Remote Network Interaction"条項が実際に適用されるか否かは、「ネットワーク上の相互作用」の有り無しに係ってくる。ネットワーク上の相互作用を提供するソフトウェアは、CMSが一例として挙げられる。ネットワーク上の相互作用でこれらにアクセスするユーザーに対し、CMSがGPLv2でリリースされている場合は改変バージョンの対応するソースを公開する必要はない。GPLv3ならば、仮に他のAGPLv3ソフトウェアと結合、リンクしている場合は両ソフトウェア全体として、改変バージョンの対応するソースを伝達することになる(そうでなければ、対応するソースを伝達する必要はない)。AGPLv3ならばいかなる場合でも改変バージョンの対応するソースを伝達することになる。一方、GPLv3プログラムを組み込んで、GPLv3で保護されるSSHサーバを作成、さらにAGPLv3でリリースされるCMSと連携するため両者を「結合」した場合(技術的に詳しくないユーザーの為にユーザビリティを向上する目的で、ブラウザによるフロントエンドインタフェースを設置することは一般的である)、果たしてSSHサーバ部分まで対応するソースを公開する必要があるか、というのはよくあるケースである。SFLCによるとCMS部分はAGPLv3に従って対応するソースを伝達する必要があるのは当然だが、SSH部分は専らユーザー同士のインタラクティブなインタフェースを提供しているわけではないので、"Remote Network Interaction"条項には当てはまらない[270]。よってSSH部分については伝達する必要はないと述べている。

ちなみに、条文の文字を実際に読むなり、diffコマンドで両条文テキストに行差分をかけて見ただけでも分かるとおり、第13項を除けばAGPLv3はGPLv3の完全な複製であることが理解できる。前文の一部やライセンス名称の違いなどの瑣末な点、条項の外に書かれているソースコードのネットワークインタラクティブな伝達の方法を勧める旨の規定ぐらいしか相違点が存在しないほどである。またAGPLv3第13項にGPLv3第13項の裏返しとなる規定が(当然ながら)なされている[B]

B AGPLv3の非公式日本語訳が存在しないため、第13項のみ、以下あくまで私的に翻訳したものを、非公式訳として、参考までに記載する。用語の定義はAGPLv3第0項、その他条項に定義されているが、一字一句GPLv3と同じなので省略する(例えば、「本ライセンス」はAGPLv3を指すなど)。

13. リモートネットワーク上の相互作用; GNU 一般公衆利用許諾書との同時適用

本ライセンスのいかなる他の条項に関わらず、仮にあなたが「本プログラム」を改変した場合、あなたによって「改変されたバージョン」は(あなたの作成したバージョンがそのような、ネットワーク上でやりとり、相互作用をサポートするものであるならば)コンピュータネットワークを通じて遠隔的に相互作用を行う全てのユーザーに対し、ある種の標準的あるいはソフトウェアの複製に適した通常の手段を利用しネットワークサーバから無料で「保護された作品」の「対応するソース」へのアクセスが提供されることによる、あなたのバージョンの「対応するソース」を受け取る機会が目立つ形で提供されていなければならない。この「対応するソース」とは次の段落の条文に従い、GNU 一般公衆利用許諾書バージョン3が適用されるすべての「保護された作品」のための「対応するソース」も含むものとする。

本ライセンスのいかなる他の条項に関わらず、あなたは保護された作品をGNU 一般公衆利用許諾書バージョン3に基づいて許諾された作品とリンクまたは結合して単一の結合された作品とし、かつその結果として作成された作品を伝達することができる。本ライセンスの条項は,その結合された作品に含まれる、保護された作品の部分に対しては引き続き適用されるが、その結合された作品は引き続きGNU 一般公衆利用許諾書バージョン3の基にあるものとする。

本ライセンスの改訂されたバージョン

フリーソフトウェア財団は、改訂された、あるいは新しいバージョンの GNU 一般公衆利用許諾書を折りに触れて発行することができる。そのような新バージョンは、その精神においては現在のバージョンと似たものになるだろうが、細部については新たな問題や懸念を解決すべく異なるものになる可能性もある(第14項第1段落[271])。GPLは前文で「条文の完全な複製と頒布は許可するが変更は不可」としているため、本段落の規定も考慮すると、GPLの新しいバージョンは常にライセンス条文の著作権者であるFSFから発行される。

それぞれのバージョンには、見分けがつくようなバージョン番号が振られている。本プログラムに、ある特定のバージョン番号が振られたGNU 一般公衆利用許諾書「か、またはそれ以降のバージョンのいずれか(or any later version)」が適用されると指定されていた場合、ライセンシーは指定された番号のバージョンか、またはそれ以降にフリーソフトウェア財団によって発行されたバージョンのどちらの利用条件に従うかを選ぶことができる。本プログラムが本ライセンスのバージョン番号を指定していなかった場合には、ライセンシーはフリーソフトウェア財団がそれまでに発行したバージョンの中からどれを選択しても構わない(第14項第2段落[272])。ライセンスリリースされた時期によらず、適切な指定があればライセンシーがライセンスのバージョンをあるバージョン以降で任意に選べる。将来新しいライセンスが発行された場合、それを自動的に選択するような方法(any later version)も採用できる。バージョン指定がなければ任意のバージョンを指定できる。ライセンサーが特定のライセンスバージョンを指定する場合、ライセンシーもそれに従う必要がある。そしてそのような場合は自動的にバージョンアップされない。詳しくはセクション"両立性とマルチライセンス"を参照せよ。

本プログラムにおいて、GNU 一般公衆利用許諾書の将来のバージョンのうちどれが適用され得るかは代理人が決定できる、と指定されていた場合、その代理人が、あるバージョンを受諾すると述べた公的な声明は、ライセンシーに対し、そのプログラムに関してそのバージョンのGNU GPLを選ぶことを永続的かつ正式に許可するのと等しい(第14項第3段落[273])。このような「代理人」の例はFLOSS開発プロジェクトの指導者である。プログラムの個々の著作権者がライセンスを指定できるのは、著作権法の要請するところだが、一方GPLは両立しないライセンスとの混合を許さない(GPLv2とGPLv3が両立しないのは前述した)ので、代理人が一括してバージョンを決定できるようにしたほうが都合がよい。またこれにより特定のバージョンのみをピンポイントで選択できる利点がある(any later version方式ではこのようなことはできない)。注意すべき部分は、次の文言「将来のバージョンのうちどれが適用され得るか(can be used)」である。代理人がバージョンを変更しないことも許されている。

本ライセンスの以後のバージョンでは、ライセンシーに追加的な(additional)な、または従来とは異なる形式の許可条項(permissions)が与える可能性がある。しかし、著作権者やコピーライトを保持するものに対し、ライセンシーが以後のバージョンに従うことを選んだ結果として、追加的な義務が課せられることはない(第14項第4段落[274])。将来のバージョンに自動的にアップグレードした場合、そのバージョンで初めて導入される「追加的許可条項」やその他異なる扱いの許諾などは、適用されず破棄されるということを定めている。例えばGPLv2とGPLv3の相違点を考える。大きな違いは特許の取り扱いであった。GPLv3のパテントライセンス付与は極めて強力な権利であるが、"GPLv2 or (at your option) any later version"で頒布したプログラムのライセンサーが、許諾時点でこのようなことを想定していないのは容易に想像できる。そのようなことがライセンサーの許可なく執行されることはないという規定である[63]。さて、ライセンシーは前述したそのプログラムをGPLv2ではなくGPLv3で伝達することは可能である。ここで仮にライセンシーが下流の受領者に伝達した場合、ライセンシーはその受領者に対して、ライセンシーの持つ特許のパテントライセンスを付与している。ライセンシーが"GPLv2 or (at your option) any later version"というライセンサーの許諾からGPLv3に一本化しているのだから、ライセンシーは下流の受領者に完全な形のGPLv3で許諾しているのである。その他反TiVo化条項(第6項第3段落~第7段落)によるインストール用情報の請求もライセンサーには請求できないが、プログラムを組み込んだユーザ製品を伝達すれば、逆に下流の受領者からインストール用情報の提供がライセンシーに求められる。ライセンシーの得られる権利は少なくなるが、与える権利は変化がないという当然の帰結である。本段落では明文化はされていないが、ライセンシーが特定のバージョンに一本化することなく、"any later version"を表明していた場合は、同様の規定となる[275]

無保証性

保証の否認

第15項では、準拠法国における強行法規によって保証が義務づけられている場合(ただしそれが「準拠法の下で認められる限りにおいて」)、および当事者間で書面による合意を締結した場合を除き、GPLv3プログラムの性能や品質の保証をコピーライト保持者やその他当事者は一切行わない旨述べている。「これと異なる書面による定めがなされる場合を除き」("EXCEPT WHEN OTHERWISE STATED IN WRITING")というのは、第4項第1段落、セクション"忠実な複製の伝達"で説明した条件3.に当てはまる追加的非許可条項としての保証の告知が存在する場合を想定している。条件3.に相当する告知は、第4項第1段落の条件2.に従って当該告知を保全しなければならないため本項の対象外となる。またプログラムの品質や性能に関するリスクはすべてライセンシーに帰属する。プログラムに瑕疵があると判明した場合、ライセンシーはすべての保守、修補、修正にかかる必要なコスト、費用を負わなければならない。ライセンサー、伝達者は(ライセンシーの用途を予測できないから)一切その責任を負わない[276]。余談だが第15項、第16項の条文が全て大文字なのは、統一商事法典2‐316条において、黙示の保証を排除する場合はそれを目立つように記載すべき、と定められているためである[277]

責任の限定

第16項では、準拠法国における強行法規によって賠償責任が義務づけられている場合(ただしそれが「準拠法の下で認められる限りにおいて」)、および当事者間で書面による合意をした場合を除き、GPLv3プログラムの瑕疵に起因して生じた損害について、コピーライト保持者やプログラムを改変した者、保護された作品を伝達した者といった当事者は一切賠償責任を負わない。たとえ、そのような瑕疵をそのような当事者に事前に通知していても同じであり、彼らが補修する義務はない[278]

補足事項

第17項では、第15項、第16項に対する補足事項を述べている。準拠法国の強行法規等により第15項、第16項の規定が覆された場合、民事上の責任の絶対的な放棄に最も近い法、すなわちコピーライト保持者や伝達者等が負担する責任の最も軽い法が、裁判官によって選択・適用されるべきであると述べている。ただし、コピーライト保持者や伝達者等が本プログラムを有償で譲渡し、それに伴い保証や賠償責任を負担することを合意している場合は、本項の例外とする。プログラムの有償譲渡(販売)は、保証、賠償責任も込みで成されることが多いからであるとみられる[279]

批判

マイクロソフト

2001年マイクロソフトCEOスティーブ・バルマーは、GNU/Linuxのことを「知的財産権の意味において、触れるもの全てにくっつくである」と呼んだ[280]。マイクロソフトがGPLを嫌う理由は「取り込み、拡張して、抹殺する」という独占的ベンダーの試みにGPLが抵抗するためであるとマイクロソフトの批判者らは主張する[281]。マイクロソフトは、以前、GPLでライセンスされたコードを含む製品である、Microsoft Windows Services for UNIXを販売(のちWindowsEULAに従う者には無償ダウンロード可に)していたこともある[282]。マイクロソフトのGPLに対する攻撃に対抗するため、幾人かの著名なフリーソフトウェア開発者とフリーソフトウェアの代弁者たちはライセンスを支持する旨の共同声明を発表した[283][284]。しかしながら、この声明から7年以上たった、2009年7月、マイクロソフト自身が、GPLのもと、本体が約20,000行程度となるLinuxカーネルドライバコードをリリースした[285][286]。ただし、提供されたコードの一部に相当するLinux用のHyper-Vドライバコードが、GPLのもとライセンスされているオープンソースコンポーネントを利用しており、当初プロプライエタリバイナリ部分と静的リンクしていた。後者はGPLライセンスソフトウェアに対するライセンス違反である[287][288][289]

また、これ以外にも、同社が提供するソフトウェアに意図せずGPLで保護されたコードが混入するケースもあった[290]

「ウイルス」性

マイクロソフトのシニア・バイス・プレジデントクレイグ・マンディは、GPLはプログラム全体を譲渡することしか許諾せず、これは、プログラマに、GPLと両立しないライセンスのライブラリリンクするプログラムを譲渡することを許諾しないことを意味する故、GPLは「ウイルス的(viral)である」と評した[291]。この所謂「ウイルス的」効果とは、組み合わせることを考えているソフトウェアの、複数のライセンスのうち一つが変更されないならば、そのような状況下で、異なる別のライセンスで許諾されるソフトウェアと組み合わせることができないことを指す。ライセンスのいずれか一つは理論上変更することはできるけれども、「ウイルス的」なる考えの筋書きによれば、GPLは事実上撤回することはできない(なぜなら、GPLソフトウェアには通常極めて多くの貢献者(contributors)の存在があるが、彼らの幾人かはこの決定をおそらく拒絶するだろう)。他方、他のソフトウェアのライセンスは実際には可能なのである。リチャード・ストールマンによると、「ウイルス」という描写は単なる侮辱だけではなく、誤解でもあるとしている。GPLのもとリリースされるソフトウェアは、他のソフトウェアを、決して「攻撃」したり「感染」などしない。むしろ、GPLで保護されるソフトウェアは、オリヅルランのようなものである、と述べている。だれかが、GPLで保護されたソフトウェアのコード断片を持ち帰り、どこかよそへそれを組み込んだならば、GPLで保護されるソフトウェアもまた、そのどこかで成長するのである[292][293][294]

商用化への障害

FreeBSDプロジェクトは、「GPLソフトウェアを公開しない、そして誤ってGPLソフトウェアを利用してしまったケースなどにより、これらの行為がソフトウェア企業の価値を下げたいと考えている巨大企業の格好の餌食になっている。言い換えれば、GPLは、潜在的に経済的利益の全体を低下させ、また寡占的行為を助長するゆえ、マーケティングの武器として利用されるのに、とてもふさわしい。」と主張し、GPLは「ソフトウェアの商用化やその利益を生み出そうと考えている人々にとって現実の問題として本当に邪魔になっている」と主張している[295]

議論

既に述べた内容と関連する内容を付記する。

セクション"ライセンスと契約にまつわる問題"で述べた通り、ライセンス全てにいえる事だが、著作権法英米法(コモン・ロー)の法体系の影響を受けている場合では、両者は別の概念と識別されるが、大陸法の法体系(日本もそうであるが)では契約ライセンスは同一視される余地も残されている。このため、契約をもってライセンスを制限することも理論上は可能である。したがって、GPLでの再頒布時の権限を契約を持って押さえ込むことも可能である。ただしそれが有効と認めた判例は未だもってない。

セクション"リンクと派生物"の通り、GPLで保護されたコードからの二次的著作物はGPLでなければならない、と明白に要求されているが、GPLのライブラリに動的にリンクしたプログラムが、二次的著作物と考えられるのかどうかは、議論が分かれている。これに対しFSFとその他の人々の見解が異なることが新たな論争の種となっている。この点に関し、著作権法が二次的著作物をどう定義するかが問題になると述べたが、著作権支分権の具体的内容についての問題が提起されている。アメリカ合衆国著作権法第101条によれば、著作物の改変・翻案を例にあげたうえで「既存の著作物を基礎とする」ことが二次的著作物の要素となっているため、動的リンクの場合でも既存の著作物を基礎としているのかが問題となり得る。これに対し、日本国著作権法第二条によれば、二次的著作物は原著作物の「翻案」を要素としているため、GPLのライブラリとGPLでないプログラムが動的にリンクするプログラムを作って頒布したところで、二次的著作物を作成したことにはならず、プログラムを実行したときに必然的に生じるメモリへの複製の段階で初めて問題になるに過ぎない。しかし、日本国著作権法ではプログラムを実行することそれ自体(これを使用権という)は著作権支分権としては認められていない。 ちなみにGPLv3では"derivative work"という語が姿を消し、代わりに「改変されたバージョン」や「元プログラムに基づく作品」となっている。これらは「二次的著作物」を指している[A]

また、アメリカ合衆国著作権法においても、日本国著作権法においても、原著作物の著作権者は、二次的著作物に対して著作権行使をすることができるのは当然の前提なのだが、ソフトウェアが著作権の対象になるように法制度が確立する前は、改変したプログラムに対する権利の範囲等が不明確であったこともあり、法の建前を前提として議論がされていない側面がある。ガルーブ対任天堂訴訟においても二次的著作物の範囲が明確に定められなかったのは前述の通りである。

GPLが持つ制約とは全く別の問題として、一部の批判者らは、GPL前文のイデオロギー的な響きが嫌だとか、ライセンスが長過ぎて分かりにくいと愚痴をこぼす。いりもしない利用者(ライセンシー)の自由を贔屓するあまりソフトウェア・ビジネスモデルを制限し過ぎており、もっとましな「落とし所」もあるはずだ、という者もいる。この「落とし所」には、ソースやバイナリの再生産(reproduction)を認めないが、個人や会社での使用で修正の自由を認めるようなライセンス群を含むことがある。こういった変種の一つには、Open Public License (OPL)[296]がある。これら批判の原因は、GPLの条文が一見理解しにくいがために起こる誤解によるところもある。しかし、このGPLの手の込んだ条項は一見理解に困難を要するが、これによりコピーレフトが創出され、著作権法の枠組みを徹底してハックしている点も忘れてはならない。

セクション"「ウイルス」性"でも述べたが、GPLのように二次的著作物にも適用されるライセンスは、独占的なソフトウェアを開発する企業や、他のライセンスを支持するソフトウェア開発者から「感染(ウイルス)性」のライセンスと呼ばれることがある。リチャード・ストールマンコピーレフトの考え方を支持する人々は、これは自由を守るために必要なことだと主張しているが、この強い制約を嫌う人もいる。これは、二次的著作物への制限が少ないBSDスタイル・ライセンスとGPLとの間の思想的違いに基づく。 GPLの支持者が「フリーソフトウェアの自由が二次的著作物でも保護されることを、フリーソフトウェア自身が保証すべき」と確信する、一方そうでない人々は「フリーソフトウェアは、その再頒布にあたって利用者に最大限の自由を与えるべきだ」と主張する。後者の考え方は、例えばBSDライセンスのように敢えて「ソフトウェアの自由を捨て去る」という、自由意志、選択の自由を述べている。

よくある誤解

GPLの条文そのものや、その要求、許可する事項(義務、権利)については、GPLに賛同している者ですらも誤解していることがあり、そのことがGPLの議論に関し混乱を招く原因のひとつともなっている。既に解説済みの項目も多いが、改めて述べる。

GPLソースコードを改変・修正した場合、ソースコードを公開しなければならない
GPLで保護された著作物の修正や、GPLで保護されたコードを新しい著作物で使うとき、必ずしもソースコードの公開を要求しているわけではない(セクション"コピーレフト"を見よ)。この要求は、新しいプロジェクトが第三者に「頒布される」ときだけに発生する[87][88]。結果としてのソフトウェアが、修正者であるライセンシー、またはライセンシーの組織内のみで私的に利用されるだけならば、ソースコードの公開は要求されない。
課金が許されていない
GPLで保護された著作物の複製を販売したり、ダウンロードに課金したりすることをGPLはわざわざ許可している(セクション"利用条件"を見よ)。都合のよさとしては、ダウンロードより購入の方に意味があるかもしれないが、GPLの下での購入者やベンダーの権利、責任に変更の生じることはない。実のところ、非商用の頒布だけを認めるライセンスは、自動的にGPLと矛盾する。
ソースコードは無償で頒布しなければならない
GPLが要求することは、ソースコードを入手する機会を保証することである。たとえば、ソースコードが記録されたCD-ROMを実費を請求する形で郵送しても一向にかまわない。GPLv3では第4項第2段落で「『プログラム』の『伝達』行為に対する課金」と定めている。ただ、「ライセンス料、ロイヤルティその他の対価」を徴収することは、「さらなる権利制限」になるので注意が必要である(セクション"下流の受領者への自動的許諾"を参照)。
GPLのツールを使って開発したソフトウェアはGPLでなければならない
GPLでなければならないのは、GPLのソースコードを含んでいたり、GPLのライブラリをリンクしていたりするときのみに限る。独占的なソフトウェアGCCでコンパイルして頒布することは、許可されている。ただし、libgccなど、GCCの各種ランタイムライブラリはGPLに関するライセンスの影響を受けることもある。プロプライエタリなソフトウェアとの動的リンクを可能とするため、GCCの各種ランタイムライブラリは例外条項が付帯したGPLとなっている(詳しくは、セクション"GCCランタイムライブラリ例外"を参照)[187]
GPLソフトウェアは改造して公開することは不自由なくできる
GPLは著作権を規定するライセンスであり、商標権意匠権には効力が及ばない。また、フォークや独自パッチ適用バージョンを「改変前とまったく同一の名前のソフトウェア」として公開し、もともとの原著作者のソフトウェアと一見して区別できない場合には、著作権法上の問題が発生する。

脚注

  1. ^ 法人の意味を含めている。
  2. ^ Debian – License information”. Debian. 2011年3月1日閲覧。
  3. ^ a b Licenses”. Free Software Foundation. 2011年3月1日閲覧。
  4. ^ Licenses by Name”. Open Source Initiative. 2011年3月1日閲覧。
  5. ^ Copyleft: Pragmatic Idealism”. Free Software Foundation. 2011年3月1日閲覧。
  6. ^ Free Software Foundation八田真行 (2008年4月11日). “GNU 一般公衆利用許諾書”. SourceForge.JP. 2011年3月28日閲覧。
  7. ^ 一般には八田真行の訳が知られているが、以前SRAの社員だった引地信之美恵子の訳文も存在し、彼らは「GNU一般公有使用許諾書」と翻訳している。Free Software Foundation引地信之美恵子. “GNU一般公有使用許諾書”. GNU.org. 2011年3月28日閲覧。
  8. ^ a b アメリカ合衆国著作権法にいう derivative work であり、日本国著作権法では「二次的著作物」とされるものであるが、定義等に差異がある。
  9. ^ The GNU General Public License Version 3”. Free Software Foundation (2007年6月29日). 2009年7月21日閲覧。
  10. ^ a b Can I modify the GPL and make a modified license?”. Free Software Foundation (2011年2月11日). 2011年3月1日閲覧。
  11. ^ Li-Cheng (Andy) Tai (2001年7月4日). “The History of the GPL”. www.free-soft.org. 2011年3月1日閲覧。
  12. ^ a b 八田真行 (2003年7月1日). “GNU GPL登場前夜”. SourceForge.JP Magazine. 2011年3月1日閲覧。
  13. ^ Richard Stallman (2009年4月14日). “Transcript of Richard Stallman at the 2nd international GPLv3 conference ; 21st April 2006”. Free Software Foundation Europe. 2011年3月1日閲覧。ポルト・アレグレ2006年4月21日に開催された第2回GPLv3カンファレンスでのスピーチ。リンク先はGPL登場前の歴史について。
  14. ^ Richard Stallman山形浩生 (1986年10月30日). “RMS Lecture at KTH: Japanese”. Free Software Foundation. 2011年3月1日閲覧。ストールマンはこの一件におけるゴスリンについて「臆病でふざけたやつ」(訳: 山形浩生)と評している。
  15. ^ Richard Stallman (2002年10月28日). “My Lisp Experiences and the Development of GNU Emacs”. Free Software Foundation. 2011年3月1日閲覧。
  16. ^ SourceForge.net: Software Map”. Dwheeler.com. 2008年11月17日閲覧。
  17. ^ デイヴィッド・A・ウィーラー(David A. Wheeler) (2004年7月30日). “Estimating GNU/Linux's Size”. 2011年3月1日閲覧。
  18. ^ a b デイヴィッド・A・ウィーラー(David A. Wheeler) (2010年9月14日). “Make Your Open Source Software GPL-Compatible. Or Else.”. 2011年3月1日閲覧。文書内で、エリック・レイモンドHomesteading the Noosphere(ノウアスフィアの開墾)への言及がある。
  19. ^ ロシュは2003年5月、要点をFoxTalkにまとめている。 別のコンサルタントであるリッチ・ヴォーダー(Rich Voder)も同様に要点をOpen Source: Tree Museumsとしてまとめている(2005年12月30日)。
  20. ^ デイヴィッド・A・ウィーラー(David A. Wheeler) (2006年9月1日). “Why the GPL rocketed GNU/Linux to success”. www.dwheeler.com. 2011年3月3日閲覧。 “So while the BSDs have lost energy every time a company gets involved, the GPL'ed programs gain every time a company gets involved.(企業が関与するにつれて勢いを失うBSDソフトウェアに対し、GPLのプログラムは、企業の関与が更なる成長へとつながる。)”
  21. ^ Why Upgrade to GPL Version 3”. Free Software Foundation (2007年5月31日). 2011年3月23日閲覧。
  22. ^ Rationale for 1st discussion draft”. Free Software Foundation (2006年1月16日). 2011年5月3日閲覧。
  23. ^ a b c d e f g h GPLv3 Discussion Draft 1 Rationale 日本語訳”. SourceForge.JP Magazine (2006年9月6日). 2011年4月22日閲覧。
  24. ^ FSF releases the GNU General Public License, version 3”. Free Software Foundation (2007年7月11日). 2011年1月15日閲覧。
  25. ^ プログラムの実行はRAMに対するプログラムの複製を伴うことから、複製権との関係が問題にならないわけではないが、著作物の複製物を適法に入手した場合、当該複製物を使用すること自体に許諾を得る必要はないので、入手手段に問題がない限りライセンスとしての意味はない。
  26. ^ GNU General Public License, version 1”. Free Software Foundation. 2011年4月1日閲覧。
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参考文献

関連項目

外部リンク

ライセンス

原文

非公式日本語翻訳版

IPAによる翻訳、解説文書

GNUプロジェクトによる文書

  • Frequently Asked Questions about the GNU Licenses (GPL FAQ) - FSFがメンテナンスしているGPLにまつわる主な争点をまとめたFAQリスト。ライセンス著作者であるFSFの見解であるが、その他著作物の影響範囲や、CMSのインタフェースとライセンスの関連などの図表、GPL・LGPLのライセンス両立性に関する表など情報が豊富にある。
  • Various Licenses and Comments about Them - FSFが維持管理を行う、各種ライセンスの概要とGPLとの互換性リスト。

GPLv3の策定に関する公開協議

日本

GPLv3への移行とその影響

GPLv3を支持するフリーソフトウェアコミュニティは積極的にGPLv3への移行や採用を推し進めているが、反面これに異を唱えるオープンソース組織や営利企業も少なくない。

過去のライセンス

Emacs General Public License

過去のGPL

LGPL

GPL支持者の文書

ガイド

その他

議論

  • The Labyrinth of Software Freedom (ソフトウェアの自由という迷宮)、副題: BSD vs GPL and social aspects of free licensing debate (BSD対GPL、ならびにフリーライセンスの議論にまつわる社会的な側面)、ニコライ・ベズロコフ(Nikolai Bezroukov)博士による。
  • GPLv3にまつわる8つのよくある誤解 - GPLは、著作権法をはじめとして、様々な法を利用し、その法的基礎を逆に利用することで(これも広義のハッキングといえよう)、ソフトウェアの自由、コピーレフトを確保するための様々なからくりを仕掛けている。しかし、このことが条文の正確な内容を理解することの妨げになっている、というのも事実である。

準拠法に対するGPLの法的解釈

法廷判断