バニラ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
バニラ
Vanilla planifolia 1.jpg
バニラ
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 単子葉類 Monocots
: キジカクシ目 Asparagales
: ラン科 Orchidaceae
: バニラ属 Vanilla
: バニラ V. planifolia
学名
Vanilla planifolia
和名
バニラ
英名
Vanilla

バニラ(vanilla、学名 Vanilla planifolia)はラン科バニラ属蔓性植物。または、その植物から抽出された香料などのこと。

概説[編集]

原産地はメキシコ中央アメリカといわれている。現在の主たる栽培地はマダガスカルメキシコグアテマラブラジルパラグアイインドネシアなど。種小名ラテン語で「扁平な葉」を意味する。

蔓()は樹木やそのほかのものにからんで成長していく。長いときは60 mを超える。種子は香料の原料となるが、収穫した豆(種子鞘)には香りはない。ここから発酵乾燥を繰り返すキュアリングを行う事によって初めて独特の甘い香りがするようになる。鞘の中には非常に微細な黒色の種子が無数に含まれている。キュアリングを経た種子鞘が「バニラ・ビーンズ」として、またその成分を抽出し溶剤に溶かしこんだバニラ・エッセンスやバニラ・オイルが、アイスクリームケーキスイーツ全般などをはじめとして様々なものに利用されている。

日本国内でも観葉植物として苗が流通することがあり、植物の入手自体はそれほど難しくない。しかし栽培には冬期に高い温度を必要とすることと、大きな株にならなければ開花しないこともあり、個人栽培で開花・結実させるのは難しい。バニラのの寿命は短く、普通は1日しか開花していない。

バニラの花は虫媒花である[1]:87。原産地の中央アメリカでは Melipona beecheii などのハリナシバチ英語版[2]花粉を運ぶ[1]:87[3]。自然界において総状花序単位の受粉率は1%程度である[1]:87受粉した花は約6週間で長さ30cmほどの長細い果実になる[4]

栽培(生産)[編集]

バニラの生産順位[5]
(2008年、単位は100万トン)
 インドネシア 4.1
マダガスカルの旗 マダガスカル 3.1
中華人民共和国の旗 中国 1.4
メキシコの旗 メキシコ 0.6
トンガの旗 トンガ 0.2
トルコの旗 トルコ 0.2
全世界 9.8
バニラの栽培地域

自然界においてはハリナシバチ以外のポリネーターがバニラを受粉させることはないと考えられている[1]:87ユカタン半島ではナワトル語で「貴婦人の蜂」('royal lady' bee)を意味する ‘xunan-kab’と呼ばれているハリナシバチは、中央アメリカの固有種である[3][6]。そのため、バニラの苗を原産地から持ち出して他の地域で育成する試みが18世紀から19世紀半ばにかけて何度も繰り返されたが、いずれの試みにおいても原産地以外の地域ではバニラを結実させることができなかった[1]:88[7]:PT161[8]

ところが、1841年にレユニオン島の12歳の奴隷の少年、エドモン・アルビウスが人工授粉の方法を考案し、それをレユニオン中の農園に広めたことにより状況は一変した[1]:88[7]:PT161[8]。レユニオンとマダガスカルはバニラ・ビーンズの一大産地になった[7]:PT161。なお、アルビウスの考案以前の1836年に、ベルギーの植物学者シャルル・モレンもバニラの受粉がどのように行われるかを論じ、人工授粉法について示唆的な言及をしている[1]:88[8]

メキシコか、中央アメリカ原産であるが、現在はマダガスカルを中心に熱帯各地で栽培されている。2008年の全世界生産量980万トンのうち、インドネシアマダガスカル中国の3カ国で9割弱を占める。次いで、メキシコトンガトルコである。

日本では福岡県等で商業用にバニラが栽培されている[9]。このほか気候が冷涼な北海道でも、石屋製菓が試験栽培に取り組んでいる[10]

歴史[編集]

バニラは、コロンブス以前の中央アメリカでタバコやカカオ飲料の香り付けに用いられていた香味料であり、スペインの征服者によってヨーロッパへと持ち帰られた。古代メキシコ以来、19世紀中頃にフランス人の栽培者が、彼らの知っていた花の人工受粉の方法の知識と、トトナコ族のバニラ・ビーンズの製法の知識を交換するまで、トトナコ族の人々が最良のバニラの生産者とされていた。


栽培、花、種などの写真

香料[編集]

乾燥されたバニラの果実

バニラ・ビーンズバニラ・エッセンスバニラ・オイルの三種類がある。

バニラ・ビーンズは、名称的には「バニラの種子」ではあるが、実際には種子を含んだ種子ごと発酵乾燥を繰り返す「キュアリング」を行うことによって初めて香料となり、通常「バニラ・ビーンズ」と言えばキュアリングを経たものを指している。原料として主に使用されるのはバニラ (Vanilla planifolia) の種子鞘で、この他に品質は少し劣るものの、同じバニラ属であるニシインドバニラ (V. pompona) も原料として利用される。

バニラ・エッセンス、バニラ・オイルは成分抽出して溶剤にとかしたものであるが、バニラ・ビーンズ(vanilla pod、バニラのさや)は非常に高価(一本数百円)なため、人工的に合成された成分(人工香料)を大なり小なり溶かしたものが多い。

人工香料を使わず、酒類にバニラ・ビーンズを直接漬け込み作られたバニラ・エッセンスは特にバニラ・エキストラクトと呼ばれ区別される。

成分[編集]

バニリンの構造式

天然のバニラは数百種類の化合物から成る非常に複雑な混合物であるが、バニラ特有の風味や香味の元となる化合物は主にバニリンである(詳細についてはバニリンの記事を参照)。

バニラ・ビーンズは非常に高価なため、その香り主成分の合成には長い間興味が持たれていた。最初の工業的合成は、より簡単に得られる天然物のオイゲノールを出発物質としていた。これをイソオイゲノールへと異性化させ、次に酸化することによりバニリンが得られる。現在では、ライマー・チーマン反応によるグアイアコールの合成を含む工程や、紙工業の副生物として得られる木材の構成成分、リグニンの発酵によって作られている。リグニンを原料とする人工バニラの香りは、バニラエクストラクトよりも豊かな香りを持つとされる。

バニラエッセンスは主にエタノールを、バニラオイルは油脂を溶剤としている。

用途[編集]

一番よく利用されるのはアイスクリームである。単に「アイスクリーム」という場合はバニラアイスクリームのことを指すことがほとんどである。

ケーキなどの洋菓子の香りつけにも利用される。またコーヒーココアワインなどにも入れられる。

オイルもエッセンスも非常に香りが強く、特にオイルは数滴で十分な香りを放つため使用分量には注意が必要である。

バニラエッセンスは開封後も長期間の匂いを保つが、賞味期間は概ね未開封で一年である。加熱によって香りが揮発しやすいため、焼き菓子など高温で加熱するものにはバニラオイルのほうが適している。

主な使用例[編集]

その他[編集]

花言葉は「永久不滅」。

比喩表現[編集]

バニラがアイスクリームの最も代表的かつ飾り気の少ないフレーバーとして用いられることから、英語における形容詞"vanilla"は「普通の」「つまらない」「凡庸な」の意で用いられる[11][12][13]。コンピュータゲームやアプリケーションソフトウェアにおいてアップグレードしていない状態、あるいは「MOD(モッド, modification)やスキン、追加コンテンツを適用していない素の状態」の意となった[14]。音楽アルバムやシングルにて本来の構成に含まれない追加曲 (ボーナス・トラック) がない状態や、トレーディングカードゲームでは特殊な能力を持たないカードの呼称になっている。

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g Vanilla, Medicinal and Aromatic Plants - Industrial Profiles. Eric Odoux, Michel Grisoni. CRC Press. (2010). pp. 420. ISBN 9781420083385. https://books.google.com/books?id=xwTMBQAAQBAJ&pg=PAPA266. 
  2. ^ ノア・ウィルソン=リッチ 著『世界のミツバチ・ハナバチ百科図鑑』,原野健一 日本語版監修,矢能千秋, 寺西のぶ子, 夏目大 訳, 河出書房新社, 2015年, 初版, ISBN 9784309253213, pp.173-174. ではMelipona beecheiiを「ロイヤル・レディー・ビー」と紹介している。
  3. ^ a b La fécondation des fleurs de vanille (PDF)”. 2018年6月18日閲覧。
  4. ^ Life History & Reproduction”. Vanilla planifolia. 2018年6月18日閲覧。
  5. ^ 国際連合食糧農業機関 (FAO). “FAOSTAT”. 2011年8月10日閲覧。
  6. ^ Villanueva-G, Rogel; Roubik, David W; Colli-Ucán, Wilberto (2005年). “Extinction of Melipona beecheii and traditional beekeeping in the Yucatán peninsula”. Bee World. doi:10.1080/0005772X.2005.11099651. 
  7. ^ a b c Ecott, Tim (2005). Vanilla: Travels in Search of the Luscious Substance. Penguin UK. ISBN 9780141967400. https://books.google.com/books?id=XQGQxa7mN3cC&pg=PAPT161. 
  8. ^ a b c Lohman, Sarah (2017年1月4日). “The Marriage of Vanilla -- In 1841 twelve-year-old slave Edmond Albius invented the technique that made the vanilla industry possible.”. Lapham's Quarterly. 2018年6月17日閲覧。
  9. ^ 国内ではじめて生産から加工まで行う バニラビーンズの試作、開発および販路開拓|農商工連携パーク|J- Net21[中小企業ビジネス支援サイト]
  10. ^ 「道産バニラ」栽培に挑戦 - 石屋製菓(2018年1月4日)2018年3月11日閲覧
  11. ^ Hilden, Katri; Robinson, Tim; Currie, Lee; Hutchinson, Emma (2006). Iced: 180 Very Cool Concoctions. Murdoch Books. p. 15. ISBN 978-1-74045-818-4. http://books.google.com/books?id=02YG2aTL89MC 2013年4月4日閲覧. "Vanilla has become a synonymous with 'plain'- perhaps most vanilla ice cream is flavoured with fake vanilla extract" 
  12. ^ Definition of "vanilla" adjective from the Oxford Advanced Learner's Dictionary” (2016年). 2018年9月11日閲覧。
  13. ^ Wiktionary:vanilla
  14. ^ What is vanilla?”. techtarget.com (2005年9月). 2013年11月17日閲覧。

外部リンク[編集]

関連項目[編集]