大地の妖蛆

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大地の妖蛆』(だいちのようしゅ、原題:: Worm of the Earth)は、アメリカ合衆国のホラー小説家ロバート・E・ハワードが創造した架空の種族。複数の作品に登場するが、ハワードは固有名を設定しておらず、後にクトゥルフ神話TRPGにて、「大地の妖蛆」という名前で記載されている。

蛇人間(おそらくヴァルーシアの蛇人間)の退化亜種である[1]

本記事では、当該種族および登場作品『夜の末裔』『闇の種族』『大地の妖蛆』『妖蛆の谷』について解説する。

固有種族「大地の妖蛆」

短身醜躯で、皮膚は鱗に覆われている。黄色い目が特徴。言語や剣を扱う知性がある。独自の原始宗教を有し、黒の碑[注 1]や邪神を崇拝する。

爬虫類や蛇に形容される。Wormは妖蛆と訳されているが、爬虫類を指す言葉で、この種族の蛇への形容を表現する。

ブリテン島に最初に住んだ民族であるが、後にやって来たピクト[注 2]などの異民族に敗れて地底へと追いやられ、小鬼や妖精や小人や魔女伝説の原型となった。

この種族は、ハワード以外の作家はほとんど使っていない。ハワードは種族名を設定しておらず、「夜の末裔」「闇の種族」「大地の妖蛆」など、言及ごとに呼び名を変えている。

クトゥルフ神話TRPGでは『闇の種族』の文章が引用文として用いられ、退化した蛇人間または人間との雑種と説明されている[1]。TRPGの基本ルールブックには載っておらず、副読本の『マレウス・モンストロルム』や[1]、事典の『エンサイクロペディア・クトゥルフ英語版』などに載っている[2]

関連

類例

クトゥルフ神話において、ヒューマノイド奉仕種族は頻出する。

『夜の末裔』

よるのまつえい。原題は: The Children of the Night。『ウィアード・テールズ』1931年4・5月合併号に掲載された[3]。日本では青心社文庫『ウィアード3』に三宅初江訳で収録。en:The Children of the Night

ラヴクラフトとの交流を経て生まれた作品である。ハワードの1929年作品『影の王国』を読んだラヴクラフトは、ハワードの「ヴァルーシアの蛇人間」について、自作内で言及した。その返歌として、ハワードはラヴクラフト作品に登場する魔道書「ネクロノミコン」や邪神の固有名詞を借りて登場させた。

特記すべきは、「無名祭祀書」が最初に登場した作品であること[4][5]。他にも、後続作品にも登場するコンラッドとキロワン教授英語版の2人が先行して登場し[6]、ハワードの邪神であるゴル=ゴロスが名前だけ初登場している[7]

主人公の言葉を借りる形で、エドガー・アラン・ポーアッシャー家の崩壊』、アーサー・マッケン黒い石印』、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトクトゥルーの呼び声』が賞賛されている[8]

あらすじ(夜の末裔)

蔵書家コンラッドの書斎に6人が集い、喧々囂々の議論が交わされる[注 3]。そして話題は、イギリス最古の種族である、小柄で非人間的な、トロール矮人伝説のモデルとなった種族へと移る。

コンラッドが新石器時代の槌を取り出し、他に類のない珍しいものだと、皆に披露する。ケトリックが槌を手に取り、使い方のコツを掴もうとする。ところが、槌がケトリックの手の中で「蛇のように」ねじれて飛び出し、そばで見ていたわたしの頭に命中し、わたしは昏倒する。わたしは気が付くと古代人の格好をして、暗い森の中に横たわっていた。近くには5人の男の惨殺死体が転がっており、周囲には悪鬼どもが屯していた。

わたし=アリテラは、仲間5人と狩猟のために森に来ていたことを思い出す。皆が休んで眠っている間、わたしは見張り役を務めていたのだが、自分も眠ってしまった。その隙に仲間5人は悪鬼種族「夜の末裔ども」に殺され、わたしは失態に蒼ざめる。わたしは復讐心から単独で敵の集団に襲い掛かり、何人も虐殺した挙句、そのまま敵の村を襲撃する。部族の神イル=マリネンに、わたしは血の生贄を捧げ続ける。だが数には勝てず、わたしは全身に、悪鬼どもの石剣や槍による攻撃を浴び、ついに絶命する。

我に返ったわたしは安楽椅子に寝かされており、5人が心配そうにのぞき込んでいる。ケトリックの黄色い目を見たとたん、わたしの奥底から敵意が沸き起こり、わたしはケトリックに襲い掛かり首を絞める。コンラッドはわたしが発狂したと判断し、ケトリックを部屋の外に避難させる。 コンラッドたちは、わたしの頭に槌が当たったせいで正気を失ったと考える一方、わたしはケトリックが「夜の末裔」の末裔であるとして殺意をむき出しにする。

主な登場人物(夜の末裔)

20世紀

6人全員が、イギリス人またはイギリス人の血を引くアメリカ人

  • ジョン・オドンネル(わたし) - ポオマッケンラヴクラフトを怪奇小説の三巨匠と評価する。昏倒した拍子に、前世の記憶が蘇る。
  • コンラッド - 部屋の主。蔵書家であり、「無名祭祀書」を持っている。
  • キロワン教授英語版 - 人類学者。ラテン語版ネクロノミコンを読んだ。
  • クレマンツ - 作家であり、詩雑誌の編集長。
  • タヴェラル - 無名祭祀書を読んだ。
  • ケトリック - つり目で、瞳は琥珀色(ほとんど黄色)。何らかの隔世遺伝と思われるが、貴族に連なる家系には混血の介在した痕跡がなく、謎である。
過去
  • アリテラ(わたし) - アーリア人。「剣の種族」の若者。
  • フォン・ユンツト - 19世紀のドイツ人神秘家。「無名祭祀書」の著者。ギリシア語版ネクロノミコンを読んでいたらしい。
  • ブラン・マク・モーン - 3世紀スコットランド、古代ピクト人の蛮王。闇の帝国を支配する王であると、神格化されてカルトが結成された。
  • 「夜の末裔」 - 矮躯の古代人。名称は「剣の種族」による呼称。剣の種族にもピクト人にも、同様に嫌悪され、害獣のように森の奥へと追いやられた。

関連作品(夜の末裔)

『闇の種族』

やみのしゅぞく。原題は: The Children of the Night。『ストレンジ・テールズ』1932年6月号に掲載された。日本では創元推理文庫『黒の碑』に夏来健次訳で収録。

ヒロイック・ファンタジーの短編であり、クトゥルフ神話。蛮族の豪傑vs邪神の眷属。輪廻転生前の記憶が蘇り、主人公のモノローグががシームレスに古代に移行するという構成をとっている。

後にシリーズ化する「英雄コナン」が最初に登場した作品。だがあくまで初期版であり、後のコナンとは設定が大きく異なっており、実質的に名前が同じだけの別人である。本作の「略奪者コナン」はゲール人とされているが、「英雄コナン」はハイボリア時代英語版のキンメリア人[注 4](アトランティス人の子孫)と設定されている。

あらすじ(闇の種族)

彼女エリナが愛しているのが、おれジョン・オブライエンと彼リチャードのどちらなのか、彼女が明言しないために、おれにはわからない。おれは、エリナへの思慕とリチャードへの憎悪を募らせ、気が狂いそうになる。そんな折に、恋敵リチャードが一人きりで<ダゴンの洞窟>に遊山に行くと聞き、おれは彼を謀殺すべく後を追う。矮人族が掘ったと伝説されている洞窟に、おれは今まで一度も来た事などないにもかかわらず、妙な見覚えを感じる。おれは階段で足を踏み外し、転げ落ちて失神する。目を覚ますと、自分の姿が変わっていた。腰布を巻き、皮草履を履き、足元には幅広の鉄剣が落ちている。そうか、おれは略奪者コナンであったと、己の耄碌を呆れる。おれはブリトン人に攻撃を仕掛けている最中であり、敵の女たちの中に惚れた女がいたために、追いかけていたことを思い出す。

恋敵ヴェルトーリクスが、彼女タメラを逃がして、おれの前に立ちはだかる。2人は武器を打ち合うも、両者致命打には至らない。女は、洞窟に逃げ込むように男に言う。男は、忌まわしい洞窟に入るのはやめて森に逃げるように言うが、女は洞窟に入り込む。男はおれを無視して飛び去り、洞窟に駆け込んだ女を追う。おれと男は、洞窟の入口付近でなお戦い続けるも、洞窟の奥から女の絶叫が響くと、男は戦いをやめ、女を追って奥に入り込む。おれは、ひょっとするとこの洞窟こそ、かの忌まわしき<魔の夜の末裔>の洞窟である可能性に思い至る。

洞窟内の一室で、おれは髑髏を積み上げた祭壇と、伝説の<黒の碑>をみつける。その横では、タメラとヴェルトーリクスの2人が縛られており、さらに悪鬼のごとき原始人が1人いた。おれは、生き残るためにはもはやヴェルトーリクスと共闘するしかないと判断し、原始人を斬殺して、ヴェルトーリクスとタメラの縄を切り、3人で道すらわからない地下道に逃げ込む。背後からは、悪鬼の仲間たちの気配が迫りくる。おれは女の護衛を恋敵に任せて先行させ、自分は悪鬼たちの足止めを図る。だが迷路のような地下道を進んだヴェルトーリクスとタメラは、崖の袋小路へと追い詰められ、抱擁し合い崖下の激流に身を投げる。別ルートを行ったおれは、離れた場所から2人の最期を見届ける。

呆然とするおれ=コナンは、いつの間にかジョン・オブライエンに戻っていた。今までの異様な記憶は、階段から落ちたショックで見た夢か? だがおれは、この洞窟が、記憶の洞窟と同じであることに気づく。あの悪鬼どもは20世紀の現代にもまだいるのだろうかという疑問を抱きつつ、記憶をたどり地下道を進むと、そこにはリチャードとエリナがいた。2人はおれに気づいておらず、おれはポケットの中の拳銃を掴む。エリナには、おぼろげに前世タメラの記憶があるらしく、洞窟の光景に覚えがあると言う。続いてエリナはリチャードに、自分が愛しているのはリチャードだと明言し、それを聞いたおれはここに至ってようやく自分こそが異物だったのだと理解する。

2人の前に、1匹の悪鬼が姿を現す。そいつを見たおれは、闇の種族の最後の1匹だと察する。悪鬼は2人に襲い掛かろうとし、リチャードはエリナを守るべく素手で悪鬼に立ち向かう。おれは拳銃を構え、悪鬼を射殺する。

主な登場人物(闇の種族)

20世紀
  • ジョン・オブライエン(おれ) - 語り手。アメリカ南西部生まれ。
  • リチャード・ブレント - ブロンドのイギリス人。明るく容姿端麗。
  • エリナ・ブランド - 想い人。
古代
  • コナン(おれ) - ゲール人の略奪者。筋骨隆々。武器は鉄剣。
  • ヴェルトーリクス - ブリトン人。タメラの恋人。痩躯敏捷の戦士。武器は青銅の斧。
  • タメラ - ブリトン人。ヴェルトーリクスの恋人で、コナンに恋慕されている。
  • 「闇の種族」 - ブリテン島に最初に住んだ民族であるが、後にやって来た異民族に敗れて地底へと追いやられ、小鬼や妖精や小人や魔女伝説の原型となった。

関連作品(闇の種族)

  • 英雄コナン - キンメリアの英雄コナンを主人公とする。

『大地の妖蛆』

だいちのようしゅ。原題は: Worm of the Earth。『ウィアード・テールズ』1932年11月号に掲載された。日本では創元推理文庫『黒の碑』に夏来健次訳で収録。en:Worm of the Earth

ブラン・マク・モーンのシリーズの一編。ヒロイック・ファンタジーの短編であり、クトゥルフ神話

ローマ属州時代のブリトン島(ブリタンニア)が舞台となっている。蛮族の豪傑が、ローマに対抗するために、邪神の眷属の力を借りようとするストーリーが展開される。

ハワードが、ラヴクラフトから固有名詞を借りて登場させている。ルルイエダゴンの名前が出ているほか、初期の版ではクトゥルフの名前が出ていたが後の版では無くなっている[9]

あらすじ(大地の妖蛆)

はるかな古代、ブリテン島には、<闇の種族>が住んでいたが、後から来たピクト人に追いやられ、ひっそりと隠れ住むようになる。ローマも台頭しブリテンに進出する。

3世紀。ピクト王ブラン・マク・モルンは、ピクト大使パルタ・マク・オツナと身分を装い、敵情を視察すべくエボラクムに滞在していた。あるとき、ピクト人の男が死罪を宣告されるが、その裁判はローマ人側に一方的に有利な判決であった。刑場にて、ローマ総督スラは、処刑をパルタに見せつけ、尊大にふるまう。総督の側近である将官ヴァレリウスが、十字架上の男を嘲笑すると、男はヴァレリウスの顔に唾をはきかける。ヴァレリウスが激昂して剣を抜き男を刺し殺すと、スラ総督は「できるだけ苦しめて死なせたいのに、即死を与えてやるなどとは軽率だ」と言う。ピクトを侮辱され、ブランは怒りを押し殺す。

夜、夢に現れた老ゴナルに対し、ブランは「邪神の力を借りてスラに復讐する」と主張する。ゴナルはブランの判断を狂気とたしなめるが、ブランは聞き入れない。ブランはヴァレリウスを暗殺して男の仇を取り、もはや仮の名で潜伏するつもりもなく、馬を飛ばして西方に向かう。ブランの作戦は、北のゲール族をそそのかして挙兵させ、自分は西でスラ総督を待ち伏せすること[注 5]

ブランは沼地で、異民族の魔女と出会う。<ダゴンの浦>の魔女、沼地の妖女アトラは、古い闇の種族との混血であり、忌まれ差別を受けていた。「邪神に接触する扉を探している」「復讐のために邪神の力を借りる」と言うブランを、アトラは狂っているのかと問う。アトラは彼がブラン王と見抜いており、「あたしは半分は人間だ」「いくら忌まれようとも、心がある」「呪われたあたしに、王との愛の接吻をくれ」と言う。ピクト王と魔女の取引は成立した。

ブランは「ダゴンの塚」の洞窟に入り、髑髏の祭壇と黒の碑を見つける。ブランは碑を抱えて持ち帰り、ダゴンの沼に投げ込んで隠す。ブランが碑を盗んだことを感づいた<やつら>は、ブランとアトラを取り囲む。無数の悪鬼に包囲されたブランは、啖呵を切り「黒の碑を渡す代わりに、邪神の力を貸せ」と言い、悪鬼たちを脅す。ピクト王と闇の種族の取引は成立した。

ブランは沼から碑を回収し、予測通りならばスラが来ているであろう要塞塔に偵察に行くも、その塔は消え失せていた。生存者の兵士から、地の底から現れた「蛆虫」が塔の礎石を破壊したことや、スラ総督が悲鳴を上げていたという証言を得たブランはようやく、己が召喚した存在の危険性に気づく。

ブランは碑を携え、悪鬼たちとの取引場所、石柱群「ダゴンの環」に行く。アトラが先に来ており、悪鬼たちもやって来て、「暗黒の渦」からスラが姿を現す。スラは拷問を受けていたわけではなかったものの、やつらのあまりの忌まわしさに耐えきれず、精神が崩壊していた。ブランはスラを惨殺してやろうと考えていたが、彼の惨状を見て考えを改め、一刀のもとに首を刎ね、介錯する。

アトラは「こいつらがそんなに忌まわしいものか、そんなやつらの手を借りる人間と比べてもか」と言う。ブランは態度を豹変させ、おぞましさで一杯となり、悪鬼の一人に碑を力任せに投げつけ、ぶつける。掌を返して逃げようとするブランを、アトラは嘲笑する。ブランは忌まわしい邪悪から離れ、戦場の血で己の身と心を清めようと、北に馬を飛ばす。

主な登場人物(大地の妖蛆)

ピクト族
  • ブラン・マク・モルン - 蛮族ピクトの大王。ブリトンからローマを追い払ってピクト古代王国を再興することを悲願とする。一人称は
    • パルタ・マク・オツナ - ピクトのローマ大使。ブラン王の偽名。
  • グロム - パルタの従僕。せむしの大男。ブラン王の使者として、北のコルマク太子のもとに赴く。
  • 老ゴナル - ピクト國王の最高助言者。月神教の高僧・妖術師。邪神の力を利用しようとするブランを諫める。
  • 死刑囚 - ピクトの民。ローマの悪徳商人に騙され、殴ったことで逮捕され、ローマ側に有利なだけの裁判で死罪を宣告された。
ローマ軍
  • ティトゥス・スラ - ローマ帝国領エボラクム(現代英国のヨーク)の軍政総督。ローマの力を誇るがあまり尊大な態度をとる。
  • ヴァレリウス - 若い将官。ピクトの死刑囚を愚弄したところ、思わぬ反撃に遭い、激昂して斬り殺す。頭を冷やすために数日間の禁牢を命じられ、牢に侵入してきたブランに暗殺される。
  • カイウス・カミルス - 西の要塞で国境警備をしている。スラ総督により、北部戦線の指揮官に任命される。
その他
  • コルマク・ナ・コナハト - 北のゲール族の太子。ローマのスラ総督を敵視する。
  • アトラ - 沼地の妖女と呼ばれる魔女。黄色い目と蛇のような雰囲気の女。人間と闇の種族の混血であり、差別を受けている。
  • 「大地の妖蛆」 - ブリテン先住の古代人。ピクトに敗れて追いやられた。邪神(ルルイエの暗黒神、名状しがたきもの[注 6])を崇拝する。
  • ダゴン - 謎の固有名詞。邪神の名前であるらしい。「ダゴンの浦」「ダゴンの塚」「ダゴンの沼」「ダゴンの環」など、地名に冠されている。ダゴンの沼には、不気味な水棲生物が棲む。

関連作品(大地の妖蛆)

『妖蛆の谷』

ようしゅのたに。原題は: The Valleyof the Worm。『ウィアード・テールズ』1934年2月号に掲載された。日本では創元推理文庫『黒の碑』に夏来健次訳で収録。

ヒロイック・ファンタジーの短編であり、クトゥルフ神話。蛮族の豪傑と邪神の眷属の戦いを描いている。語り手のジェームズ・アリスンは『恐怖の庭』にも登場する。ブラン・マク・モーンの輪廻転生譚でもある。

北欧だが、ブリテン島とは明言されていない。また闇の種族への言及はあるが直接登場はせず、邪神の方が登場している。ほかには「旧支配者[10]や「宇宙的恐怖」[11]など、ラヴクラフトから語を借用してきている。

あらすじ(妖蛆の谷)

わたし、ジェームズ・アリスンは、アーリア人の男性として、何度も輪廻転生を続けてきた。ブラン・マク・モーン[12]もニオルドも、わたしの前世である。

全男子500名が兵士を務めるアサ神族は、放浪の末に<妖蛆の国>に迷い込んだ際にピクト族と遭遇し、戦いへと発展する。わたし(ニオルド)はグロムという強敵と闘って勝利するも、気まぐれからとどめを刺さず、手当てして帰してやる。するとピクトの者たちはアサの強さに感服し、両部族間で和約が成立する。

わたしはグロムと友になり、共に狩りに出るようになる。グロムは、ピクト族は「密林の大蛇サーダ」と<廃墟の谷>を恐れ近づかないと語る。曰く、古代ピクトの部族が谷に入り込んだところ、そっくり消え去ってしまったという。

わたしは剣歯虎を狩った際に死にかけ、数ヶ月間生死の境をさまよう。その間に、アサの民族から、ニオルドの友・ブラギの一族が分離独立を果たし、<廃墟の谷>に移り住む。古潭を信じるピクト族は諫めるも、アサの者たちは一笑に付しただけであった。やがて恢復したわたしが谷を訪問したところ、小屋はぺちゃんこに潰れ、人体の残骸が散乱しており、彼らは全滅していた。巨大な芋虫がごとき足跡が、谷の下の方に続いている。わたしが剣を抜いて足跡を追跡しているところにグロムが助けに来る。

わたしは密林に赴き、知恵をしぼって大蛇サーダを討ち取り、毒を採取する。続いて谷に行き、ブラギ一族の仇である「蛆のような怪物」に、サーダの毒矢を射かけ、剣で致命傷を与える。妖蛆は地下の闇へと転がり落ちて絶命する。傷を負ったわたしは、グロムに己の雄姿を語り継ぐよう言い残して落命する。

主な登場人物(妖蛆の谷)

  • ジェームズ・アリスン - 語り手の現代人。病で死が目前に迫っている。自らの前世をニオルドと称し、古潭を語る。
  • ニオルド - 主人公。アサ神族。勇猛な豪傑。
  • グロム - ピクト人の戦士。ニオルドとは、好敵手として出会い、親友となる。
  • ブラギ - アサ神族。ニオルドの友人。民族から分離して己の部族を立ち上げた。
  • 剣歯虎 - 古代生物。猫頭で、胴体部は熊に近いという猛獣。
  • 大蛇サーダ - 古代生物。密林に棲む巨蛇。エジプト人のセト、セム人のレヴィヤタンサタンの原型となった獣。
  • 「蛆」 - 異界の生物。はるか古代に、半人類種族が崇めた邪神。
  • 半人類 - 毛深い半鬼半鬼。谷に石柱群を建造し、邪神を崇めた。

関連作品(妖蛆の谷)

  • 恐怖の庭 - ジェームズ・アリスンを語り手とする。
  • 大地の妖蛆(先述) - アサ神族のニオルドとは輪廻転生である、ピクトのブランを主人公とする。

脚注

注釈

  1. ^ ハワードには『黒の碑』という作品があるが、形状が異なっている。これはハワードが固有名詞を複数を作品で使い回しているため。
  2. ^ ハワード設定のピクト人であり、歴史上のピクト人とは名前が同じだけの別物。
  3. ^ タヴェラル「フォン・ユンツトは狂ってる」コンラッド「いや、正気だったのさ」キロワン「クトゥルーヨグ=ソトースツァトゥグァゴル=ゴロスブラン崇拝などが、かつて存在したのは認めよう。現代まで残っているなど、莫迦げている」クレマンツ「ぼくの若い頃の友人は、夢見ながらうわごとで、ブラン崇拝について喋っていたよ」タヴェラル「ピクト人か」
  4. ^ ハワード設定のキンメリア人であり、歴史上のキンメリア人とは名前が同じだけの別物。
  5. ^ スラは北のコルマク太子を天敵として恐れているため、自身は北には行かずに西に逃げて、国境警備をしているカミルス将軍と交代するだろう。ブランの予想では、スラは北部戦線の指揮をカミルスに任せ、自分は後方の安全圏から采配を振るおうとするはずである。
  6. ^ これらは作中における表現そのまま。

出典

  1. ^ a b c KADOKAWA『マレウス・モンストロルム』「大地の妖蛆」67-68ページ。
  2. ^ 新紀元社『エンサイクロペディア・クトゥルフ』「大地の妖蛆」159-160ページ。
  3. ^ 青心社『ウィアード3』56ページ。
  4. ^ SBクリエイティブ『ゲームシナリオのためのクトゥルー神話事典』森瀬繚「無名祭祀書」190-191ページ。
  5. ^ 学研『クトゥルー神話事典第四版』東雅夫、473-475ページ。
  6. ^ 学研『クトゥルー神話事典第四版』東雅夫、347-348ページ。
  7. ^ SBクリエイティブ『ゲームシナリオのためのクトゥルー神話事典』森瀬繚「ゴル=ゴロス」120ページ。
  8. ^ 青心社『ウィアード3』61ページ。
  9. ^ SBクリエイティブ『ゲームシナリオのためのクトゥルー神話事典』森瀬繚「蛇人間」148-149ページ。
  10. ^ 創元推理文庫『黒の碑』「妖蛆の谷」149ページ。
  11. ^ 創元推理文庫『黒の碑』「妖蛆の谷」159ページ。
  12. ^ 創元推理文庫『黒の碑』「妖蛆の谷」133ページ。