エーリッヒ・ツァンの音楽

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エーリッヒ・ツァンの音楽』(エーリッヒ・ツァンのおんがく)は、1921年アメリカの怪奇幻想小説家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトによって書かれた短編小説である。

概要[編集]

日本で初めて翻訳されたラヴクラフトの作品で、『宝石』1955年9月号に掲載された[1]

クトゥルフ神話で知られるラヴクラフトの短編で、最初にクトゥルフ神話作品を取りまとめたオーガスト・ダーレスは、本作をクトゥルフ神話に数えていなかった。だが、後に本作の続編がクトゥルフ神話作品として書かれた[2]こともあって、今ではクトゥルフ神話作品として知られている。

また、音楽の要素を取り入れた怪奇小説を執筆し、クトゥルフ神話の書き手としても知られているスティーブン・マーク・レイニーは、1981年にジョージアの大学で本作を読んだのがラヴクラフトとの、クトゥルフ神話との出会いであったと、彼が編んだ音楽クトゥルフ神話集の「Song of Cthulhu」(本作も収録されている)で語っている[3]

あらすじ[編集]

貧しい大学生であった「私」こと主人公は、オーゼイユ街という老人ばかりの貧民街の安下宿に流れ着いた。同じ下宿屋の高い屋根裏部屋には、場末の劇場での演奏で生計を立てている、ドイツ人で唖のヴィオル奏者のエーリッヒ・ツァンという老音楽家が一人で住んでいた。主人公は、毎夜耳にする、ツァンが奏でるヴィオルの、この世ならぬ不気味で暗澹たる調べに魅了され、ツァンの部屋を訪ね演奏を聞かせてもらうが、例の怪奇な音楽を奏でるよう所望すると、ツァンは激しく拒絶する。その時主人公は、彼がカーテンに遮られたままの窓の外を警戒していることに気付く。その後も主人公は、ツァンの怪奇な音楽を廊下で盗み聞きし続けたが、演奏は日ごとに激しくなっていき、それと逆比例してツァンは憔悴し、やつれていった。

ある夜、いつものように主人公が廊下で音楽を盗み聞きしていると、ツァンの演奏は急に荒々しい騒音と化し、続いて彼の悲鳴が響く。ドアを激しく叩くと、意識を回復したらしいツァンが安堵したように迎え入れ、今恐ろしい怪異に襲われたが、一部始終を書き留めたいと筆談で示し、大量の草稿を書き始めた。約1時間後、突然外から美しい音が聞こえ出すとツァンも慌てたようにヴィオルを奏で始めるが、まるで外から聞こえてくる音楽を打ち消そうとするかのようだった。彼の様子がさらに狂乱したものになっていくと、今度は、はるか西の空から悪魔のような音色が響き出す。そして、窓から突風が飛び込み、ツァンの草稿を残らず外へ吸出した。その時、主人公が見た開いた窓の外はこの世ではなく、真っ暗な空間が続いていた。次の瞬間、突風が蝋燭の火を吹き消し、暗闇の中でなおもツァンは狂ったようにヴィオルを弾き続けるが、主人公が触れるとツァンの身体は冷たく硬直しており、すでに息はなく、呪われたヴィオルが鳴り響く中、主人公4は街を逃げ出す。

その後、主人公の記憶には欠落があるようであり、今ではオーゼイユ街そのものを見つけることができなくなってしまったが、そのことを少しも残念とは思っていないとしめられる。

出典[編集]

脚注[編集]

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  1. ^ 東(1995)pp.021-023
  2. ^ ジェイムズ・ウエイド『The Silence of Elika Zann』(「Disciple of Cthulhu ISBN-10: 0879972580」所収)
  3. ^ 「Song of Cthulhu 」INTRODUCTION、ISBN 13-1568821174

関連項目[編集]

  • 山田章博 - 「怪奇骨董音楽箱」(『紅色魔術探偵団』第四話)に、聴くと死に誘われるヴィオル演奏のエーリッヒ・ツァンと書かれたラベルの貼られたレコードが登場する。