トロイアの人々
『トロイアの人々』(Les Troyens)H.133/133aは、エクトル・ベルリオーズが作曲した、全5幕からなるグランドオペラである。『トロイ人』や『トロイア人たち』などと日本語では訳されるが、訳は必ずしも一定しない。
目次 |
概要 [編集]
『トロイアの人々』はベルリオーズによって完成された3作のオペラの2作目にあたる作品で、『トロイの木馬』で知られるウェルギリウスの壮大な叙事詩『アエネーイス』を題材としている。
全5幕の長大なオペラ作品として知られているが、全曲が上演される機会は少ない。ベルリオーズは1859年から1860年にかけて改訂版 (H.133a) を作成しているが、この改訂版が現在上演されている版である。
作曲の経緯 [編集]
作曲から完成まで [編集]
ベルリオーズは1855年から1856年にかけてヴァイマルに滞在中、同地でフランツ・リストと同棲していたカロリーネ・ツー・ザイン=ヴィトゲンシュタイン侯爵夫人の家に訪問する。訪問の際、侯爵夫人にウェルギリウスの叙事詩『アエネイス』の第2巻と第4巻を題材とするオペラ化の構想、及びそのアイデアについて話したところ、夫人はオペラ化を喜んで勧め、ベルリオーズを激励したと伝えられる。
当時病身であったベルリオーズは奮起し、早速1856年5月5日に自ら台本を執筆し始め、6月末頃にかけてわずか2か月で完成にこぎ着けた。台本の完成後はすぐさま作曲に着手し、一気呵成に書き上げ、1858年4月12日にフルスコアを含む全曲を完成させた。
初演 [編集]
完成後、ベルリオーズは本作の初演を行うため5年間に亘ってパリ・オペラ座での上演を準備していたが、長期の交渉の挙句、結局実現に至ることはできなかった。ベルリオーズは苦心の末、リリック座の支配人カルヴァロに頼み込み、同劇場で上演をすることに決定する。この5年の間にベルリオーズはオペラを全5幕のうち、第1幕と第2幕を第1部(トロイアの陥落)、第3幕と第4幕、第5幕を第2部(カルタゴのトロイア人たち)として2部に分け、初演はその第2部のみ1863年の11月4日にパリのリリック座で行われた。しかしベルリオーズの生前に全曲が上演されることはなかった。
初演後の反応は賛否両論でどちらとも言えず、パリの聴衆からは不評であったが、批評家からはごく少数を除いて非常に好意的に受け止め、新聞でベルリオーズのオペラを称賛したという。その後22回ほど上演されたが、大幅なカットが施されていたため、ベルリオーズは上演に満足できなかったと伝えられる(ただし、ある程度の収入は得られた)。
全曲上演 [編集]
全曲の上演はベルリオーズの死後21年を経た1890年12月6日に、南ドイツのカールスルーエにてフェリックス・モットルの指揮によって行われているが、この時はドイツ語版による上演であった。1899年にパリ・オペラ座で第1部『トロイアの陥落』が上演が行われ、1921年に同劇場で大幅にカットされた全曲版も上演されている。またこの同じ短縮された版で1957年にロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスでも行われている(指揮はラファエル・クーベリック)。
フランス語版による全曲上演は、ベルリオーズの死から100年を経た1969年にコリン・デイヴィスによって実現された。その後1973年にメトロポリタン歌劇場でも上演され、この時はアメリカ初演であった(指揮はロンドン公演と同じくラファエル・クーベリック)。
楽曲 [編集]
王の狩りと嵐 [編集]
第4幕の前半に奏される間奏曲である。現在は演奏会において単独でも演奏されている楽曲として有名である。
トロイア人の行進曲 H.133b [編集]
オペラの第1幕において演奏される行進曲で、1864年に作曲されて新たに付け加えた作品である。「王の狩りと嵐」に比べて演奏会においては頻繁に演奏されない。
楽器編成 [編集]
- 木管楽器:ピッコロ1、フルート2、古代フルート3、オーボエ3(1人はコーラングレに持ち替え)、クラリネット2(1人はバスクラリネットに持ち替え)、ファゴット4
- 金管楽器:トランペット2、ホルン4、コルネット2、トロンボーン3、オフィクレイド(またはテューバ)
- 打楽器:ティンパニ(2対、奏者3人)、大太鼓、小太鼓、シンバル、トライアングル、テナードラム、小シンバル、タムタム
- その他:ハープ4(6台ないし8台)、弦5部
- 舞台裏(バンダ)
- 木管楽器:ピッコロ3
- 金管楽器:トロンボーン3、ピッコロ・サクソルン、ソプラノ・サクソルン2(またはトランペット)、コントラルト・サクソルン2(またはトランペット)、テノール・サクソルン2(またはホルン1)、コントラバス・サクソルン2(またはテューバ)
- 打楽器:ティンパニ(2対)、シンバル多数、古代シストルム(古代エジプトの鈴)、エジプトの太鼓、タムタム、雷鳴の太鼓(雷鳴装置、サンダーマシーン)
- その他:ハープ(2台)
登場人物 [編集]
| 人物名 | 声域 | 役 |
|---|---|---|
| アエネーアス(エネ) | テノール | トロイアの英雄、ウェヌスとアンキセスとの息子 |
| カッサンドラ(カサンドル) | ソプラノ | トロイアの王女、予言者 |
| コロエブス(ロレーブ) | バリトン | 小アジアの王子、サンドラの婚約者 |
| パントオス(パンテ) | バス | トロイアの神官、アエネーアスの友人 |
| ディドー(ディドーン) | メゾソプラノ | カルタゴの女王、テュロスの王子シュカイオスの寡婦 |
| プリアム(プリアモス) | バス | トロイアの王 |
| アスカーニュ(アスカニオス) | ソプラノ | アエネーアスの息子(15歳) |
| エクトル(ヘクトル) | バス | プリアム王の息子、亡霊 |
| エレニュス | テノール | トロイアの予言者、プリアム王の息子 |
| ポリュクセーヌ(ポリュクセネ) | ソプラノ | カッサンドラの妹 |
| メルキュール(メルクリウス) | バス バリトン |
|
| エキュブ(ヘカベ) | ソプラノ | トロイアの王妃 |
| アンドロイマク(アンドロマケ) | (黙役) | エクトルの寡婦 |
| アスティアナクス(アステュアナクス) | (黙役) | 8歳の息子 |
| ギリシアの指揮官 | バス | |
| 冥界の神 | バス | |
| 2人のトロイア兵士 | バス | |
| アンナ | コントラルト | ディドーの娘 |
| ナルバル | バス | ディドーの高官 |
| イオパ | テノール | ディドーの宮廷のテュロスの詩人 |
| その他:トロイア人たち、ギリシア人たち、テュロス人たち、カルタゴ人たち、ニンフたち、サテュロス(サティール)たち、 フォーヌ(ファウヌス)たち、シルヴァン(シルヴァヌス、森の精)たち |
||
演奏時間 [編集]
全曲カットなして約4時間(第1部85分、第2部152分)
あらすじ [編集]
時と場所:古代トロイアとカルタゴ
第1部 トロイアの陥落 [編集]
第1幕 トロイア平原のギリシア軍の陣営(トロイアの城壁) [編集]
第2幕(第1景、第2景) [編集]
第2部 カルタゴのトロイア人たち [編集]
第3幕 カルタゴの女王ディドの宮殿 [編集]
第4幕 アフリカの森 [編集]
第5幕(第1景、第2景、第3景) [編集]
録音 [編集]
| 指揮者 | 管弦楽団・合唱団 | 配役 | 録音年 | レーベル | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| ラファエル・クーベリック | ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団 ロイヤル・オペラ・ハウス合唱団 |
ジョン・ヴィッカース Michael Langdon David Kelly Richard Verreau Blanche Thebom 他 |
1957 | テスタメント | 短縮版によるライヴ録音 |
| コリン・デイヴィス | ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団 ロイヤル・オペラ・ハウス合唱団 |
ジョン・ヴィッカース Peter Glossop Roger Soyer Ian Partridge Josephine Veasey 他 |
1969 | フィリップス | 初の全曲版による録音 |
| ジェームズ・レヴァイン | メトロポリタン歌劇場管弦楽団]] メトロポリタン歌劇場合唱団 |
プラシド・ドミンゴ ジェシー・ノーマン Paul Plishka タティアナ・トロヤノス 他 |
1983 | DG | DVDとしてのライヴ収録 |
| コリン・デイヴィス | ロンドン交響楽団 ロンドン・シンフォニー・コーラス |
ベン・ヘップナー Peter Mattei Michelle DeYoung 他 |
2000 | LSO Live | |
| ジョン・エリオット・ガーディナー | レヴォリューショネル・エ・ロマンティック シャトレ座合唱団 モンテヴェルディ合唱団 |
スーザン・グレアム グレゴリー・クンデ リュドヴィク・テジエ ニコラ・テステ 他 |
2003 | Opus Arte | DVDとしてのライヴ収録 |
| ヴァレリー・ゲルギエフ | バレンシア州立管弦楽団 バレンシア自治州合唱団 |
ダニエラ・バルチェッローナ エリザベーテ・マトス ステファン・ミリング エリック・カトラー 他 |
2009 | C Major | DVDとしてのライヴ収録 |
参考文献 [編集]
- 作曲家別名曲解説ライブラリー ベルリオーズ(音楽之友社)、他
|
|||||||