風呂敷 (落語)

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風呂敷(ふろしき)は古典落語の演目の一つ。別題は風呂敷間男(ふろしきまおとこ)。主に東京落語で広く演じられる。

概要[編集]

原話は諸説あり、1855年安政2年)に刊行された笑話集『落噺笑種蒔』の一編「みそかを」ともいわれるが、『百花園』第7巻74号には初代三遊亭圓遊が台湾の話を翻案した[1]とある。

上記の別題からわかるように、元は艶笑落語(バレ噺)であったが、昭和の戦時中に「禁演落語」として自粛対象となったことをきっかけに、エロティックな要素を排した滑稽噺としての演じ方が成立した。

主な演者に、初代柳家小せん5代目古今亭志ん生らが知られる。

あらすじ[編集]

以下は5代目志ん生の演じ方に準じる。

お崎が夫・熊五郎の帰りを待つ長屋に、幼なじみの半七が遊びに来る。ふたりで語り合っていると、「おい、今帰(けえ)った」と戸を叩く熊五郎の声がする。熊五郎は飲み込みが悪く、嫉妬深く、粗暴であったため、お崎は「不倫と勘違いされて殺されかねない」と恐れるあまり、とっさに半七を押し入れ(あるいは、戸棚)に隠す。お崎は、熊五郎が眠った隙に半七を逃がそうと考えたが、酒に酔っている熊五郎は、「なぜ予定より早く帰って来たの」と問うお崎に対し、「貞女は屏風にまみえず(=貞女は両夫にまみえず)」「女は三階に家なし(=女は三界に家なし)」などと、覚え間違いの訓戒を垂れるうえ、押し入れをふさぐような形で横になり、寝込んでしまう。

困ったお崎のもとに、鳶頭(かしら)の政五郎がやって来る。ことの次第を聞いた政五郎は、隣の家から1枚の風呂敷を借り、お崎を外出させ、熊五郎をゆさぶり起こす。

「ああ、かしら。お崎はどうしました」「買い物に行ったよ。ところで、面白い話があるんだ。今日、友達の家(うち)に行ったらな、おかしな話があったんだよ。そこのカミさんが留守番をしていると、そこへ、幼なじみが遊びに来た。乱暴者の亭主の手前、追い返そうとしたカミさんだが、結局男を家に入れた」「悪いアマ(=女)だ! 俺が亭主だったら、張り倒してやりますよ」「そうか。まあ、その幼なじみと一献まじえていると、亭主が不意に帰ってきたと思え。で、そのカカアがあわ食って(=あわてて)、押し入れに男を隠しちまった。すると、亭主が酔っぱらって、その前に寝ちまった」「そりゃ、困ったろうな」「そこで、俺がカミさんに頼まれて、そいつを逃がしてやったんだ」「どうやったんです」「寝ころんでたやつを、首に手をかけて起こして、よそ見をされちゃいけないから、脇から風呂敷を持ってきて亭主の顔へ……」政五郎は、熊五郎の顔に「こう巻き付けて……」と言いながら風呂敷を巻く。

「そこでな、俺は戸を、こういう塩梅(あんばい=具合)に、ガラリ、と開けた」戸が開け放たれ、半七が転がり出る。「おい、拝んでねえで早く逃げろ、……と目で合図をして。下駄なんかを忘れるな! ……と声をかける」「へえ」「そいつが影も形もなくなったら、戸を閉めて、それから亭主にかぶせた風呂敷を、こうやって……」政五郎が熊五郎の顔から風呂敷を取ると、熊五郎は膝をたたき、

「なるほど、そいつはいい工夫だ」

エピソード[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 延広真治編 『落語の鑑賞201』143頁 新書館、2002年、ISBN 4403250645
  2. ^ DVD『古典落語名作選 其の一』NHKエンタープライズ