夢金

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夢金(ゆめきん)は、古典落語の演目の一つ。主に東京で広く演じられる。別題に欲の熊蔵(よくのくまぞう)、錦嚢(きんのう)など。

概要[編集]

原話は、1773年安永2年)に出版された笑話本『出頬題』の一編「七ふく神」(あらすじ:七福神に「富をさずける」と言われた男が、もらった包みを「ありがたい」と握り締めたところ、謎の痛みに襲われて夢から覚める)。

主な演者に、2代目古今亭今輔3代目三遊亭金馬6代目三遊亭圓生らが知られる。

あらすじ[編集]

大雪の降る夜。山谷堀浅草とも)の船宿・吉田屋の二階では、船頭の熊蔵(熊五郎とも。以下、熊)が「金くれえ」という寝言を大声で言いながら寝ている。主人は「静かにしろ」と注意するが、眠っている熊には効き目がない。主人夫婦は、「あいつの強欲にはあきれる」とこぼしながら、茶をすすっている。

そこへ、表の戸を叩く音がする。主人は強盗が来たと思い込んで大あわてし、戸越しに「50、100両という大声をお聞きになったと存じますが、あれはバカな寝言でございます。どうかお引き取りを」と懇願する。声の主は「何を言っている。客だ」と答える。主人が戸を開けると、人相が悪く、みすぼらしい身なりをした浪人風の男が、上等な服を着た若い女を連れている。男は主人に、「この妹と一緒に、芝居を見てきた帰りだ。この雪で、身動きが取れなくなって困っておる。大橋(=千住大橋。船宿の設定が浅草の場合、新大橋。あるいは深川とも)まで、屋根舟を一艘仕立ててもらいたい」と言う。主人が「船頭はすべて出払っておりまして」と断ろうとすると、二階から熊の寝言が聞こえるため、男は「あれは船頭ではないのか」とたずねる。主人は「あれは大変な守銭奴でございまして、酒手(さかて=チップ)の無心などするとお気の毒ですから」と念を押す。男が「かまわない」と言うので、主人は大声で熊を起こす。目が覚めた熊は、寒さのために渋り、「腰を痛めて、起き上がれないんでございます」と言い、依頼を断る。男が「酒手はたんと出すぞ」と言うやいなや、熊は身支度を整えて颯爽と階段を下りてくる。

川中を漕ぎ出した熊は、きょうだいと自称したふたりの身なりがあまりにも違うことをいぶかり、「駆け落ちだな」とひとり合点する。「こっちは寒さに震えながら、舟をひとりで漕いでいる。船の中ではふたりでしっぽり。『箱根山駕籠に乗る人かつぐ人、そのまたわらじを作る人』か。おもしろくねえな」熊は(さお)をいい加減に動かし、屋根舟を大きく揺らす。男はひどく狼狽し、障子から顔を出して「どうなっているのだ」と熊を叱る。熊は悪びれることなく、「ええ、酒手ェいただけないと、舟が揺れることになってんです」

男は屋根を出て、舳先にいる熊の耳元で「酒手をやるから、船を停めろ。おぬしに相談したいことがある」とささやき、熊に屋根の中を見せる。そこでは女が居眠りをしている。「この娘、実は妹ではない。吉原土手(船宿の設定が浅草の場合、花川戸)あたりで、犬に取り巻かれて(あるいは、を起こして)難儀をしておったところを助けたのだ。介抱しながら懐に手を入れると……」「やっぱりね。この色男」「そうではない。懐にズシッ、と重い手ごたえがある。200両入りのちりめんの財布だ。聞くとこの娘、石町(こくちょう。あるいは、本町とも)の大店(おおだな)・扇屋の娘で、店の若い者と、道ならぬ恋をした。着の身着のまま、店の金を持ち出し、駆け落ち覚悟で家を飛び出したものの、男と別れ別れになったという。その場で始末し、金を奪おうと思ったが、街中では人目がある。ひと気のないところへ連れ出すため、船を仕立てたというわけだ。どうだ、手を貸さんか?」

熊は仰天し、震える声で「俺は欲張りだが、人様のカネを殺して奪うのはごめんだ」と断る。しかし男が「大事を明かした上は、おまえの命をもらう」とすごむので、熊は「いくら、くンなさいます」とたずねる。男は「2両でどうだ」と持ち掛ける。熊は「冗談言うねえ(=言うな)」と声を上げ、舟べりを蹴る。舟が大きく揺れ、男は再びうろたえる。「半分よこせ! でなけりゃ、舟をひっくり返してやる」「わかった、わかった。のんでやる。金は山分けだ」熊は、「この舟でやられたんじゃ、血のあとが残ります。これから舟を中州にやりますから、そこでバッサリおやんなさい。朝ンなれば上げ潮で水が満ちて、亡骸(なきがら)は川ン中だ」と提案し、舟を動かす。

舟は中州へ着く。男が先に中州へ降りたところで、熊は舟に残ったまま中州を蹴り、棹を突っ張って舟を川中へ出してしまう。「こら、卑怯者! 船頭、返せ、戻せ!」「ざまあみやがれ! おめえは泳げねえんだろう。今に上げ潮になるぞ。宵越しの天ぷらで、あげ(揚げ=上げ)っぱなしだ。侍(さむれえ)が弔え(とむれえ)に変わるぞ。あばよ土左衛門

熊が扇屋へ女を送り届けると、主人夫妻は大きく安堵し、熊に褒美として、の風呂敷に包んだ大金を贈る。熊は思わず、その場で風呂敷を開く。「50両の紙包みがふたつだ。こっちが50、こっちも50。合わせて100両……」熊は紙包みを両手で強く握りしめる。「ああ、痛(いて)え」

すべては夢で、目が覚めた熊は自分の睾丸を強く握りしめていた。

バリエーション[編集]

  • 大金の額は演者によって異なる。50両→100両、100両→200両で演じるなど。
  • 金の包みがひどく熱い、という展開で演じる場合がある。その場合、熊は目が覚めた時、股間に火鉢を挟んでいる。
  • サゲで下ネタに走らない演じ方がある。船宿の主人の「うるせえぞ熊、静かにしろ」という注意の声でシーンが急変し、「ああ……夢だ」で終える(3代目金馬ら)。
  • 「欲深き人の心と降る雪は積もるにつけて道を忘るる」という狂歌を冒頭に振る場合がある。