禁酒番屋

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禁酒番屋(きんしゅばんや)は古典落語の演目の一つ。元々は『禁酒関所』という上方落語の演目で、3代目柳家小さん江戸落語に持ち込んだ。

主な演者には、5代目柳家小さん8代目三笑亭可楽5代目鈴々舎馬風10代目柳家小三治、上方では4代目林家小染6代目笑福亭松喬などがいる。

あらすじ[編集]

きっかけは、とある武家の家中の事件。

『月見の宴』というものの最中、泥酔した二人のお侍がチャンバラを始め、一人がもう片方をバッサリ。

斬った方はそのまま帰って酔いつぶれ寝込んでしまったが、翌朝目覚めて我に返るや、「主君に申し訳ない」とこちらも切腹をしてしまった。

その話を聞いた主君、「酒が災いしての無益な斬り合い、何とも嘆かわしい事じゃ。今後、わが藩では藩士が酒を飲む事を禁ずる。余も飲まぬからみなも飲むな」。

殿様自ら『余も飲まぬ』とのお達しがあれば、藩士一同否応なく禁酒するしかない。

こうして家中一党禁酒、となったが……何しろものが酒である。そう簡単にやめられるわけがない。なかなか禁令が行き届かず、隠れてチビリチビリやる者が続出。

また騒動になることを恐れた重役が会議をした結果、屋敷の門に番屋を設け、出入りの商人の持ち込む物まで厳しく取り締まる事になった。人呼んで「禁酒番屋」。

近藤の注文[編集]

番屋ができてしばしのち……

家中の侍でも大酒飲みの筆頭である近藤、酒屋にやって来てグイッと一気に三升。『禁酒なんど糞くらえ』で、すっかりいい心持ち。

「いい酒であった。小屋でも飲みたいから、今晩中に一升届けてくれ」

つっと帰ってしまった。太い奴もいたものである。

もとより上得意、亭主も無下には断れないが、近藤の長屋は武家屋敷の門内、配達が露見すれば酒屋は営業停止もの。しかも入口には例の「禁酒番屋」が控えている。どうやれば突破できるのか……

突破失敗また失敗[編集]

亭主が頭を抱えていると、小僧の定吉、恐る恐る手を上げる。

「正直に酒徳利を持って関所を通ろうとしたら止められます。菓子屋の梅月堂で南蛮菓子のカステラを売り出したとか。そいつに見せかけたらどうです」

もとよりお菓子は御法度の外である。酒屋ではカステラを買ってきて中身を抜き、五合徳利を二本、菓子折りに詰めてきれいに包装する。定吉、菓子屋の小僧に衣装を借りて禁酒番屋へ……

「お頼み申します」

「通れ……そのほうは何じゃ?」

「向こう横丁の菓子屋です。近藤様に、カステラのお届け」

近藤は家中屈指のウワバミ、そこに菓子屋からカステラ……あ奴いつ甘党になった、おかしい、と指摘する番人もいたが、『進物の菓子』を止める理由もない。「よし、通れ」ということになった、ところまでは良かったが……

「有難うございます……ドッコイショ!」

「待てい!! 菓子折り一つで『どっこいしょ』とは何だ!?」

抗議の声も聞かばこそ、折りを改められて「この徳利は何じゃ?」。

「えー、それはその、先ごろ出ました、『水カステラ』という新製品で……」

「たわけたことを申すな! そこに控えおれ。中身を改める」

一升すっかり飲まれてしまった。

「かようなカステラがあるか。この偽り者!!」

飲まれて追い出され、見事に失敗。

カステラで失敗したので、今度は油だとごまかそうとしたが、これも失敗。

酒屋から酒を巻き上げた番屋の藩士、もとより酒は嫌いでない。「次はどうやって来るだろう」と待ち構えているから酷い話で……

酒屋の逆襲[編集]

都合二升もただでのまれ、酒屋の一同は怒り心頭に発した。

店の若い衆、「この際突破は諦めて、仕返ししてやりましょうや」

「どうする」「番屋の連中に小便を飲ませます」

「小便?飲むか!?」「初めから『小便です』と言えばいい。嘘はついてないでしょう」

話は決まった。店の一同、大徳利を取り囲んでジャァジャァ……

「お頼み申します!」

「とォ~れェィ!」

番人たち、もうベロベロに酔っていて、何を言っているんだがわからない。

「向こう横丁の植木屋でございます、近藤様が植木の肥やしにする……との事で、『小便』のご注文で……」

内心『また呑める!』とほくそ笑む番人、「馬鹿ァ!! 出せ!!」と徳利を供出させる。

「おお、これはまた、ヒック……ぬる燗がついておるな……まったくけしからん……小便などと偽って……」

徳利の中身を湯飲みに注ぐ。

「……だいぶ黄色い……古酒だな。それも、またよし……まったく、けしからんな……」

おもむろに一口……ぶーっと吹き出す。

「ウグッ!? これは小便ではないか! 何とけしからん奴だ!! かような物を持参しおって!」

「ですから、初めに小便と申し上げました」

「うーん……あの、ここな……正直者めが」

攻防戦の演出[編集]

「酒を売りたい」と思う『酒屋』と、「何とか阻止したい(表向き)」「役目と称して酒が飲みたい(本心)」と思う『禁酒番屋』……。この両者の攻防を、いろいろな噺家が面白おかしく演出してきた。

例えば、上記のあらすじでも採用した、「手代が思わず『ドッコイショ』と言ってしまい、怪しまれてしまう」演出は5代目柳家小さんが採用したもの。

また、以前は『小石川新坂の安藤という旗本屋敷』と限定されていた「禁酒する藩」を、ぼやかして演じたのも五代目の演出である。

関連項目[編集]

酒の出てくる噺[編集]

  • 居酒屋』:居酒屋で酔っ払いが、店の小僧相手に大騒ぎ。
  • 富久』:お酒が原因で失業した幇間が、火事見舞いに行ってまた泥酔してしまう。
  • 棒鱈』:料理屋で泥酔した江戸っ子が、うるさい隣室に怒鳴り込んで大暴れする。
  • らくだ』:お通夜の酒で酔っ払った紙屑屋が、騒動の原因を作ったヤクザ相手に立場を逆転させて暴走する。
  • 試し酒』:大店・近江屋と馴染みの旦那が、下男の久蔵が五升飲めるかどうか賭けをする。

食のイタズラ噺[編集]

  • ちりとてちん』:何を食べてもおいしいとは言わない六さんを懲らしめようと、腐ってカビが生えた豆腐を「台湾名物ちりとてちん」と偽って食べさせようとする。
  • 家見舞』:知り合いの引越祝いの品として、水瓶をあげようと思うが、金がないため、使用済みの肥瓶を水瓶としてプレゼントする。