走れメロス
『走れメロス』(はしれメロス)は、太宰治の短編小説。処刑されるのを承知の上で友情を守ったメロスが、人の心を信じられない王に信頼することの尊さを悟らせる物語。
概要[編集]
初出 | 『新潮』1940年5月号 |
---|---|
単行本 | 『女の決闘』(河出書房、1940年6月15日) |
執筆時期 | 1940年3月23、24日までに完成(推定)[1] |
原稿用紙 | 26枚 |
地中海・中東文学の長い系譜の末端に連なる作品である[2]。
あらすじ[編集]
純朴な羊飼い[注 1]の青年メロスは、16歳になる妹の結婚のために[注 2]必要な品々を買い求めにシラクス[注 3]の町を訪れたが、町の様子がひどく暗く落ち込んでいることを不審に思い、市民に何が起きているのかを問う。そしてその原因である、人間不信のために多くの人を処刑している暴君ディオニスの話を聞き、激怒する。メロスは王の暗殺を決意して王城に侵入するが、あえなく衛兵に捕らえられ、王のもとに引き出される。人間など私欲の塊だ、信じられぬ、と断言する王にメロスは、人を疑うのは恥ずべきことだと真っ向から反論する。当然、死刑に処されることになるが、メロスはシラクスで石工をしている竹馬の友で親友のセリヌンティウスを身代わりの人質として王のもとにとどめおくのを条件に、妹の結婚式をとり行なうための3日後の日没までの猶予を乞い願う。王はメロスを信じず、死ぬために再び戻ってくるわけがないと考えるが、セリヌンティウスを処刑して人を信じることの馬鹿らしさを証明してやる、との思惑でそれを許した。王城に召されたセリヌンティウスはメロスの願いを快諾し、縄を打たれる。
メロスは急いで村に帰り、誰にも真実を打ち明けないで妹の結婚式を急ぎ、夫を信じて誠心誠意尽くすように言い含め、式を無事に終えると、3日目の朝まだき、王城に向けて走り出す。難なく夕刻までに到着するつもりが、前日の豪雨によって起こった川の氾濫による橋の流失や王の命令で待ち伏せしていた山賊の襲来など、度重なる不運に出遭う。濁流の川を懸命に泳ぎ切り、山賊を打ち倒して必死に駆けるが、無理を重ねたメロスはそのために心身ともに疲労困憊して倒れ込み、一度は王のもとに戻ることをあきらめかける。セリヌンティウスを裏切って逃げてやろうかとさえ思うようになる。しかし、近くの岩の隙間から湧き出てきた清水を飲み、疲労回復とともに義務遂行の希望が生まれ、再び走り出す。人間不信の王を見返すために、自分を信じて疑わない友人の命を救うために、そして自分の命を捧げるために。
こうして、メロスは全力で、体力の限界まで達するほどに走り続け、日没直前、今まさにセリヌンティウスが磔刑に処されようとするところに到着し、約束を果たす。メロスはセリヌンティウスに、ただ一度だけ裏切ろうとしたことを告げて詫び、セリヌンティウスもまた、一度だけメロスをちらと疑ったことを打ち明けて詫びる。王城に集った人々は二人に喝采を浴びせた。そして、それらの一部始終を群衆の背後から見ていたディオニス王の心も、凝り固まった澱(おり)が流れ落ちたように、暴君のそれではなくなっていた。メロスとセリヌンティウスの真の友情に改心した王は、わしも仲間に加えてはくれまいか、どうか頼むとまで言うのだった。
登場人物[編集]
![]() | この節には独自研究が含まれているおそれがあります。 |
- セリヌンティウス
-
- ラテン文字表記・英語表記・イタリア語表記・フランス語表記:Selinuntius。
- 石工。メロスの竹馬の友。都市シラクスで暮らしている。妹の婚礼準備の買い出しのためにシラクスに来たメロスは本来なら、彼のもとにも立ち寄るつもりであった。
- 老爺(ろうや)
-
- シラクスの住民。保身を考えて口にするのを拒んでいたが、強引な正義漢メロスに迫られて、暴君ディオニスが犯してきた悪行の数々を彼に語って聞かせた。
- ディオニス
-
- ラテン文字表記・フランス語表記:Dionys、英語表記:Dionysius (en) 。イタリア語表記:Dionisio。
- 人間不信から暴政をおこなうシラクスの君主。メロスのことを信じようとはせず、そればかりか正直者を騙って我が身かわいさに卑怯で惨めな逃走を図るに違いないと予想し、妹の結婚式を挙げた後で死刑になるために戻るというメロスに、望みどおりの猶予を敢えて与え「いのちが大事だったら、おくれて来い。そうすればお前の罪も許してやろう」と嗤いつつ言い放った。
- 妹
-
- メロスの妹。16歳。メロスのたった一人の家族で、結婚を間近に控えている。内気で素直な性格をしている。一旦シラクスから帰宅したメロスは、取り急ぎ妹の結婚式を挙げさせ、彼女と僅かな蓄え(羊たち)の全てを花婿に託した。
- 妹の許嫁
-
- メロスの妹の許嫁。「今からすぐに妹と結婚式を挙げてくれ」と言って聞かないメロスに困惑し、準備ができていないから無理だと断り続ける。メロスは彼を説得するのに一晩を費やした。
- 山賊
-
- 都市シラクスへ戻ろうと疾駆するメロスが山の頂に達した時、目の前に立ちはだかった一団だが、腕の立つメロスに一蹴される。メロスは「その、いのちが欲しい」と言う山賊たちを王の差し向けた刺客と見做した。
- フィロストラトス
-
- ラテン文字表記:Philostratos。
- セリヌンティウスの弟子。処刑の刻が迫るなか、ボロボロになりながらも王城へ駆け戻ろうとするメロスを、もう間に合わないからせめて貴方だけでも助かるべきだと引き留めるが、メロスは聞き入れなかった。
基になった伝承とその系譜[編集]

作品の最後に「古伝説とシルレルの詩から」と記述され、古代ギリシアの伝承とドイツの「シルレル」、すなわちフリードリヒ・フォン・シラーの詩を基に創作したことが明らかにされている。
『走れメロス』のもとになった伝承は、杉田英明によると、古代ギリシアのピュタゴラス派(ピタゴラス派)の教団員の間の団結の固さを示す逸話として発生したものである[2]。広義の地中海・中東世界で発展し、日本に伝わった[2]。杉田は著作で、伝承の発生と広がり、日本への伝来の経緯を詳細に論じている[2]。
ピュタゴラス派は宗教・政治団体の性格を持つ秘密結社を組織しており、構成員は財産を共有して共同生活を行い、強い友愛の絆で結ばれていることで知られていた。杉田が伝承のもっとも初期の一つとして挙げている、新プラトン主義者であるカルキスのイアンブリコス(240年頃 - 325年頃)が著した『ピュタゴラス伝』(De vita pythagorica) では、ディオニュシオス2世が治めるシケリア島(現・シチリア島)のシュラクサイ(現・シラクサ)が舞台となっており、のちにコリントスに追放されたディオニュシオス2世が体験談として哲学者で音楽理論家のアリストクセノス(紀元前4世紀頃)に語ったものであるとされている。ピュタゴラス派の教団員である Δάμων(Damon;ダモン)/Damon(ダモン、デイモン)と Πυθιάς(Pythias;ピュティオス/ピュティアス)/Pythias(ピシアス)/Phintias(フィンティアス)の友情の美談であり[注 4]、西洋ではメロスとセリヌンティウスよりこちらの名前が有名である。英語において二人の名は "Damon and Pythias(デイモン アンド ピシアス)" もしくは "Damon and Phintias(デイモン アンド フィンティアス)" であるが[6]、無二の友[7][8](固い友情で結ばれた親友[3])を意味する慣用句になっている。
『ピュタゴラス伝』に収録された内容は次のとおりである。ピュタゴラス派に反感を持つ者たちの口から発せられた事実無根の告発または冗談によって、ディオニュシオス2世からピュティオスに対して、王に向けて陰謀を企てた罪による死刑が申し渡される。実のところ、これは、ピュティオスの反応を見るための芝居であった。ピュティオスは身辺整理のため、その日の残り時間を猶予として願い、そのための保証人にダモンを指名する。事情を聴いたダモンは保証人を引き受けたが、はかりごとの張本人たる反ピュタゴラス派の者たちは「お前は結局見捨てられる」と言ってダモンを嘲笑する。ところが、日が沈みかけた頃、ピュティオスは約束どおりに現れた。その場にいた誰もがみな感動し、魅了される。ディオニュシオス2世は「わしも第三の男として友情に加えてほしい」と頼むが、拒否される。ピュティオスやダモンの深い心理描写は無く、最後にピュティオスが許されたかどうかも明らかにされていない。物語というより、実際あった事件の報告といった趣で、ピュティオスが走って現れる描写も無い。一方、紀元前1世紀の歴史家であるシケリアのディオドロスが『歴史叢書』に記した伝承は、イアンブリコスのものと影響し合うことなく成立したと思われるが、より物語性が強く緊迫した内容で、ピュティオスが刻限ぎりぎりに登場するなど、『走れメロス』に近い筋書きになっている。「わしも第三の男として友情に加えてほしい」という台詞はイアンブリコスのものと共通しており、この言葉は、以後、シラーから太宰にまで伝承されている。1世紀の共和政ローマの独裁官ウァレリウス・マクシムスが『著名言行録』で、2世紀のローマ帝国の著作家ヒュギヌスが『説話集』で、この伝承に文学的装飾を施し、後世に大きな影響を与えた。ヒュギヌスは『説話集』「友情で最も固く結ばれた者たち」でピュティオスとダモンの名をモイロス[注 5]とセリヌンティオス[注 6]に変え(モイロスがドイツ語圏でメーロスとなった)、ピュタゴラス派の団員という設定を消した。また、3日間という猶予、妹の婚礼、暴風雨による川の氾濫という障害を追加し、処刑方法を具体的に磔刑にした。シラーが直接典拠にしたのは、ヒュギヌスの作品である[2]。
古代ギリシア・ローマ世界で広く流布した友情物語は、舞台設定や登場人物を変えながらアラブ世界に広まり、9世紀から10世紀にはアラビア語で記録されるようになった。杉田は、アラブ世界に流入した経緯や時期は不明であり、ビザンツ文化と共に伝承した可能性もあるが、「アッバース朝最盛期のギリシア文献の翻訳時代に、その担い手であるネストリウス派キリスト教徒の手で移入された可能性のほうが大きいかもしれない。」と述べている。イスファハーニーの『歌謡集』にアラブ世界における初期の形が見られ、『千夜一夜物語』でも「ウマル・アル=アッターブと若い牧人との話」(第395話 - 第397話)として、イスラーム黄金時代を舞台に変奏しつつ展開されている[2]。
地中海世界およびアラブ世界で発展した伝承は、中世ヨーロッパに流入し、復活した。杉田は、ヨーロッパでの復活は14世紀以降と思われ、ウァレリウス・マクスィムス(1世紀)『著名言行録』がキリスト教の僧侶が説教を行う際の手引きとして活用されたことが大きいと述べている。様々な媒体で伝承は広く流布し、18世紀末の1799年にシラーの『人質』が発表された[2]。1815年にはオーストリアの作曲家フランツ・シューベルトがこの詩の歌曲(D 246)を作曲した。
太宰は、小栗孝則(20世紀前半のドイツ文学者)が1937年(昭和12年)7月に翻訳したシラーのバラード『Die Bürgschaft』の初版[注 7]『人質』(『新編シラー詩抄』改造文庫)を参考にした[10]。小栗は訳注にメロスの友人の名がセリヌンティウスであることを記しており、太宰の書く「古伝説」とはこれを指す[3]。
日本では、太宰以前に、明治初期に幕末を舞台にした翻案(シラーの詩を直接的にか間接的にか参照したと思われるもの)があり、この伝承は青少年の道徳心を育てる目的で学校教育に採用され、広く読まれていた。太宰が使った高等小学校1年生の国語の教科書にも「真の知己」のタイトルで所収されている。1921年(大正10年)には鈴木三重吉により「デイモンとピシアス」の題で『赤い鳥の本』(第9冊)に収録された[11][12]。「走れメロス」の登場後は、教育で使われるのは同作になり、第二次世界大戦後はほぼずっと中学校の国語の教科書で使われている[2]。
創作の発端[編集]
![]() |
懇意にしていた熱海の村上旅館に太宰が入り浸って、いつまでも戻らないので、妻が「きっと良くない生活をしているのでは……」と心配し、太宰の友人である檀一雄に「様子を見て来て欲しい」と依頼した。
往復の交通費と宿代などを持たされて熱海を訪れた檀を大歓迎する太宰であったが、檀を引き止めて連日飲み歩いた挙げ句の果てに、預かってきた金を全て使い切ってしまった。太宰は、飲み代や宿代も溜まってきたところで、今度は、宿の人質になってくれるよう檀に願い出る。自分の身代わりとして今回の借金の支払いの担保になってくれ[13]、宿に留まってくれれば自分が金を工面してきて君を質屋の質草宜しく受け戻すから、ということであった。檀を説き伏せた太宰は、東京にいる井伏鱒二のところに新たな借金をしに行ってしまう[13]。
ところが、数日待ってもいっこうに音沙汰が無い[13]。痺れを切らした檀は、宿屋と飲み屋に支払いを待ってもらい、井伏のもとへ駆けつける[13]。するとそこでは、井伏と太宰が夢中で将棋を指していた[13]。激怒する檀に太宰は言ったという。「待つ身が辛いかね。待たせる身が辛いかね。」 どうやら太宰は、今まで散々面倒をかけてきた井伏だけに、新たな借金の申し出をどのように切り出したらいいものやらと、タイミングが掴めずにいたらしい。
後日、発表された『走れメロス』を読んだ檀は、太宰の死後に著した『小説 太宰治』(1964年/昭和39年刊)[14]の中で、「おそらく私達の熱海行が少なくもその重要な心情の発端になっていはしないかと考えた」と述べている。
評価[編集]
主題の美しさと文体の力強さを維持したままテンポよく読み終えられるため、短編ながら太宰の代表作の一つとして現在でも高い評価を受けている。その反面、一部の声に学校教材独特の徳目を褒め称えることへの「白々しさ」や、寺山修司の「歩け、メロス」(1975年/昭和50年)[15]のように、メロスを「無神経な自己中心性・自己陶酔の象徴」と考える否定的意見もある[2][16]。
派生作品[編集]
映像[編集]
- ドラマ『走れメロス』(1955年、NHK)
- 映画『奇巌城の冒険』(1966年、東宝・三船プロダクション)- メロス役は三船敏郎(役名は大角)。
- TVアニメ『赤い鳥のこころ 日本名作童話シリーズ 第19回 走れメロス』(1979年、テレビ朝日)
- TVアニメ『走れメロス』(1981年、「日生ファミリースペシャル」にて放送、フジテレビ)
- 制作:東映動画
- 声の出演:あおい輝彦、マキノ佐代子、檀ふみ、古川登志夫
- 主題歌
- 「走れ!青春」作詞 - 保富康午 / 作曲 - 浜圭介 / 編曲 - 井上鑑 / 歌 - ささきいさお
- 「友よ友よ」作詞 - 保富康午 / 作曲 - 浜圭介 / 編曲 - 井上鑑 / 歌 - ささきいさお
- 原作と並行して、その舞台化を依頼された劇作家「高田」と彼との約束を破った旧友「城島」のストーリーが描かれる。
朗読[編集]
- 太宰治『走れメロス;駈込み訴え―[録音資料]』草野大悟 朗読(カセットテープ)、新潮社〈新潮カセットブック 43〈D-1-3〉〉、1988年2月1日。ISBN 978-4108201439。NCID BA54818145、OCLC 26564237。
- 太宰治『走れメロス 畜犬談』奥野健男 監修、西田敏行 朗読(カセットテープ)、岩波書店、NHKサービスセンター〈文芸カセット[日本近代文学シリーズ]太宰治作品集 5〉、1988年6月6日。ISBN 978-4-00120025-6。NCID BA4936316X 。2022年9月10日閲覧。
- 太宰治『朗読の時間 太宰治』市原悦子 朗読(CD)、東京書籍〈朗読CD付き名作文学シリーズ〉、2011年7月18日。ISBN 978-4-487-80592-1。NCID BB0692423X、OCLC 749784282 。2022年9月10日閲覧。
- 「走れメロス」『国語二年生』光村図書出版、2016年。
- 補足資料:“走れメロス <単元8 < 教材別資料一覧 2年”. 光村図書出版. 2022年9月10日閲覧。
- YouTube動画「窪田等 朗読『走れメロス』作:太宰治」(2020年7月21日)[17]
舞台[編集]
CLIEが製作する朗読演劇シリーズで舞台化された。キービジュアルはしりあがり寿。
- 極上文學 第7弾『走れメロス』(2014年12月、製作:CLIE・企画:MAG.net・制作:Andem)
- 出演
- 宮﨑秋人、大河元気、佐藤永典、椎名鯛造、西村ミツアキ、鈴木裕斗、村田充、萩野崇、川下大洋、名高達男
- スタッフ
- 演出:キムラ真(ナイスコンプレックス)
- 脚本:神楽澤小虎(MAG.net)
- 音楽:橋本啓一
パロディ他[編集]
この作品は、メッセージ性の高さや尺加減のよさなどから、義務教育の国語の教科書などで扱われ、知名度が高いため、一話完結系の連載物などでパロディの材料にされることも多い。
- 『ヤッターマン』(第1作)第74話「ハシレメドスの友情だコロン」(1978年5月27日放送、フジテレビ) - ハシレメドス(←メロス)を塩沢兼人が演じている。
- 『オバケのQ太郎』(第3作)第184話「走れメロQ」(1985年11月7日放送、テレビ朝日) - 国語の授業で「走れメロス」を取り上げていたのだが、宿題を忘れた正太は立たされていた。正太は「宿題はやってあるが持ってくるのを忘れただけ」と言い、Q太郎はそれを信じ家まで宿題を取りに行く。先生には「時間内に持ってこなければトイレ掃除だ」と言われ、正太はQ太郎がなかなか戻らないため焦りだす。やがてQ太郎が学校に戻り正太と泣きながら抱き合い、「本当は宿題もやっていなかった」と嘘をついたことを明かす。それを聞いていた先生も一応は感動するのだが、ほどなく「でもトイレ掃除はやってもらうぞ」とあっさり言う。
- 『ザ・ウルトラマン』「鎧を着込んだウルトラマン」というコンセプトのオリジナルキャラクター・メロスの名前の由来になっている。
- AKB48 teamK 4thの楽曲『メロスの道』はこの作品をモチーフにしている。作詞は秋元康。
- 『蒼き流星SPTレイズナー』オープニング主題歌『メロスのように-LONELY WAY-』(歌:AIRMAIL from NAGASAKI)はこの作品をモチーフにしている。作詞は秋元康。
- 『走れセリヌンティウス』 - 漫画家ながいけんが、このタイトルのパロディ作を『ファンロード』誌上で発表している(後に「チャッピーと愉快な下僕ども」に収録)。原作とは全く逆で、王がメロスを信じつつも苦渋の決断をする善人、メロスは犯罪者で妹の結婚式をでっち上げ、セリヌンティウスを勝手に身代わりに立てて脱走をはかろうとする極悪人で、セリヌンティウスはメロスが戻らないことを最初から確信しており、処刑をまぬがれるために脱走、メロスを捕らえて「親友を救うために走る」というシナリオを実行させようとする。劇中の台詞も原作をいちいち反転させた利己的・邪悪なものばかりで、最後のオチも含めて全編にブラックユーモアが溢れる怪作となっている。
- 『新・必殺仕置人』第32話「阿呆無用」 - 佐渡へ出張仕事に向かう念仏の鉄(と仲間たち)が、寅の会の掟に際して、仲間の一人・巳代松を人質に置いていく。
- 『もーれつア太郎』(第1作)第71話「走れニャロメロス」
- 『ケロロ軍曹』(6thシーズン)第275話Bパート「ケロロ 走れケロロ であります」
- 『【新釈】走れメロス』(【新釈】走れメロス 他四篇)森見登美彦
- 『セリヌンティウスの舟』石持浅海
- 『風雲児たち 幕末編』(みなもと太郎) - 第2巻にて脱藩した吉田松陰をメロス、その罪をかぶった来原良蔵をセリヌンティウスに喩えたギャグを展開。
- 『ついでにとんちんかん』(えんどコイチ)アホその112「走れヌケス!の巻」
- 『団地ともお』第4話Bパート「あの坂をのぼっていくともお」
- 『燃える!お兄さん』第11巻「走れメロス!早見先生の巻」
- 『かのこん』第8巻「恋の骨折り損?」で、冒頭が「走れメロス」のパロディ。
- 2011年から2012年にかけて放送された大塚食品「MATCH」のCMで、メロスをモチーフにしたキャラクターが現代日本の高校生として登場[18][19]。演じたのは手越祐也[18][19]。
その他[編集]
![]() | この記事に雑多な内容を羅列した節があります。 |

- 津軽鉄道津軽21形気動車に「走れメロス」と車両の愛称が付けられている。
- 青森市中央市民センター前に、この作品の一節を刻んだ文学碑「友情の碑」が設置されている。
- 本作品をモチーフにしたパチスロ機がJPSよりリリースされた。
- 本作品名を曲名とする楽曲が多数存在するため、それらの作品を集めた『「走れメロス」音楽祭』[注 8]が太宰ゆかりの弘前市にて開催された[21][22]。
- 2013年度 塩野直道記念 第1回「算数・数学の自由研究」作品コンクールにおいて、メロスの走った距離はメロスは行きも帰りも歩く速度でしか移動しておらず、最後の必死のラストスパートでさえ時速5.3キロにすぎないとした論文が最優秀賞をとった。ただしこれは小説内の「10里」という単語を「1里 = 3.9km」と設定仮定した場合である(実際は十里という単語は「遠い」という比喩表現でも使われる)。実際はメロスは何km走って何km泳いだか書かれていないため、メロスの速度を計算することはできない[23][24]。
脚注[編集]
注釈[編集]
- ^ メロスの職業を牧人とするのは太宰の創作[3]。
- ^ メロスにはすでに両親はなく、妹と2人暮らしで、妹の結婚もメロスが取り仕切ることになっている。
- ^ 現在のシラクサ (Siracusa)。イタリア半島の南に位置するシチリア島の中心都市。ドイツ語ではSyrakusと綴られる。
- ^ ダモンとピュティオス、ドイツ語版Damon und Phintias、英語版Damon and Pythiasを参照。
- ^ 「壁」「市壁」を意味する。
- ^ 元々シチリア島南西岸の町セリヌスから派生した形容詞で、その出身者という意味を込めていると思われる[2]。
- ^ 伝承の人物の名はヨーロッパではDamonとPythiasが有名であったため、シラーは初版の後で作品名をDamon und Pythiasに改訂し、主人公名もDamonに改めた[9]。
- ^ 「走れメロス」音楽祭実行委員会の主催[20]。地元音楽関係者、弘前ペンクラブや弘前読書人倶楽部有志らにより構成。
出典[編集]
- ^ 太宰治全集3 (1988), p. 423, 山内祥史による「解題」.
- ^ a b c d e f g h i j 杉田 (2002).
- ^ a b c 五之治 (1999), pp. 39–59.
- ^ a b 西井奨 (2012年12月8日). “西洋古典と『走れメロス』(2)”. 日本西洋古典学会. 2021年9月29日閲覧。
- ^ Guerber (2010).
- ^ “Damon and Pythias” (英語). Encyclopedia Britannica. Encyclopædia Britannica, Inc.. 2022年9月12日閲覧。
- ^ 英辞郎 D&P.
- ^ kb D&P.
- ^ “Friedrich Schiller, Damon und Pythias, 1799” (ドイツ語). NETZFIT. 2021年9月29日閲覧。
- ^ 「太宰治が「走れメロス」の着想を得たというシルレル(シラー)の「担保」という詩を探している。」 - レファレンス協同データベース 2022年9月10日閲覧。
- ^ 赤い鳥の本 ; 第9冊
- ^ 『デイモンとピシアス』:新字新仮名 - 青空文庫
- ^ a b c d e 清水 (2013), p. 30.
- ^ 檀 (1964).
- ^ 寺山 (1975).
- ^ 中村 (2021), p. 41, 「走れメロス」「無神経さをメロスに与えることによって、最初から一つの滑稽譚の様相を見せている」として、「走れメロス」を辛辣に批評したのは寺山修司であった。「妹の結婚に兄がいなければならぬというのも、説得力の乏しい理由」であり、それは「ある種の思い上がり」で、「このエゴチストの道化の頭を去来しているのは、ひたすら、自分のことばかり」「卑劣漢」で、ここに信頼・友情・反抗・正義・感動などを読み取るのは「極めて困難である」と寺山はいう。.
- ^ 窪田 2020.
- ^ a b 『すべてに一生懸命で憎めないキャラクターの‘高校生メロス’が登場! 手越祐也さんが‘走れメロス’衣装で出演 大塚食品 「マッチ」新CM 6月18日(土)から全国の各放送局にて放映開始』(プレスリリース)大塚食品、2011年6月17日 。2022年9月10日閲覧。
- ^ a b “手越祐也扮する“高校生メロス”「マッチ」新CM、今度は親友の海水パンツから逃げる!”. クランクイン!. ブロードメディア (2012年5月25日). 2021年9月29日閲覧。[リンク切れ]
- ^ 川村昇一郎 (2017年2月23日). “「走れメロス音楽祭」を開催したい。太宰ファンのみなさまご協力ください!”. CAMPFIRE(キャンプファイヤー). CAMPFIRE. 2021年9月29日閲覧。
- ^ “25日、弘前市で「走れメロス音楽祭」”. Web東奥. 東奥日報社 (2017年6月22日). 2017年9月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年9月11日閲覧。
- ^ 「「走れメロス」音楽で表現」『陸奥新報』陸奥新報社、2017年6月27日。2021年9月29日閲覧。
- ^ “村田一真「メロスの全力を検証」< 2013年度 塩野直道記念 第1回「算数・数学の自由研究」作品コンクール 最優秀賞「塩野直道賞 中学校の部」受賞作品 < 過去の受賞作品”. 一般財団法人 理数教育研究所 Rimse. 2021年9月29日閲覧。
- ^ 「「走れメロス」は走っていなかった!? 中学生が「メロスの全力を検証」した結果が見事に徒歩 検証した村田少年「メロスはまったく全力で走っていないことが分かった」。」『ねとらぼ』アイティメディア、2014年2月6日。2021年9月29日閲覧。
参考文献[編集]
- 事辞典
- “Damon and Pythias”. 英辞郎 on the WEB. アルク. 2022年9月12日閲覧。
- 小学館『プログレッシブ英和中辞典』第4版. “Damon and Pythias”. コトバンク. 2022年9月12日閲覧。
- 書籍、ムック
- 太宰治『太宰治全集 3』筑摩書房〈ちくま文庫、太宰治全集〉、1988年10月25日。ISBN 978-4-480-02253-0。OCLC 674335202。全国書誌番号:90008901 。
- Guerber, H. A. (27 October 2010) (英語). The Story of the Greeks (paperback ed.). Scotts Valley, California: Createspace Independent Pub. ISBN 978-1456314996. OCLC 1033617653
- 杉田英明「第7章 走れメロス」『葡萄樹の見える回廊─中東・地中海文化と東西交渉』岩波書店、2002年11月28日。ISBN 978-4000246163。OCLC 676198495。[要ページ番号]
- 檀一雄 『小説 太宰治』
- 審美社版:檀一雄『小説 太宰治』1964年。ASIN B000JAFVXC。
- 岩波書店版:檀一雄(著)、沢木耕太郎(解説)『小説 太宰治』(初版)〈岩波現代文庫 文芸12〉、2000年2月16日(原著1964年) 。ISBN 4-00-602012-0、ISBN 978-4-00-602012-5、OCLC 44581975 。
- 小学館版:檀一雄『小説 太宰治』(初版)〈P+D BOOKS〉、2019年6月13日(原著1964年) 。ISBN 4-09-352366-5、ISBN 978-4-09-352366-0、OCLC 1107500918 。
- 中村三春 (2021年). “太宰治の物語芸術─作品集『女の決闘』より”. 昭和文学会 編集委員会. 笠間書院. 2022年9月11日閲覧。
- 雑誌
- 清水義和「08 太宰治と寺山修司の『走れメロス』< 太宰治と寺山修司─アポカリプスからアンチオイディプスへの転換─」『愛知学院大学教養部紀要』第61巻第2号、愛知学院大学教養部、愛知学院大学一般教育研究会、2013年、30頁。
- ※本文抜粋:太宰治が1940年に小説『走れメロス』を執筆した後、様々な劇団によって舞台化されたりミュージカル化されたりした。さて、檀一雄は、太宰治の『走れメロス』が書かれた経緯を記している。太宰が檀一雄たちと遊興して気前良く散財した揚句、お金が足りなくなり、檀一雄を借金の支払いの担保にして、太宰は井伏鱒二にお金を無心に行く。檀一雄がいくら待っても太宰が帰ってこないので、事情を説明して、檀一雄は井伏宅に駆け付けた。すると、どんな理由があったにせよ、太宰は井伏にお金を無心するどころか将棋に夢中になっていたという逸話を特記している。
- ※閲覧の手順:(1) URLで示したウェブページ「教養部紀要」を開く。(2)「2013」の「第61巻 第2号」をクリックして目次のPDFを開く。(3) 2番目の論文をクリックして論文を開く。(4) 30頁(31/164コマ)に飛ぶ。
- 「ユリイカ 1975年3-4月号 ─詩と批評 太宰治 私とは何か」『ユリイカ』3-4月号(通巻 第7巻第3号)、青土社、1975年4月1日。
- 寺山修司「歩け、メロス」136頁。
- 補足資料:“『ユリイカ 特集 太宰治 私とは何か』 所収 寺山修司 「歩け、メロス・・太宰治のための俳優術入門」”. 野散 NOSAN 散種 野の鍵 贈与のカオスモス ラジオ・ヴォルテール (2017年6月9日). 2022年9月12日閲覧。
- 論文
- 五之治昌比呂「『走れメロス』とディオニュシオス伝説」『西洋古典論集』第16巻、京都大学西洋古典研究会、1999年8月31日、39-59頁、hdl:2433/68656。 CRID 1050001201691585920