警察不祥事

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警察不祥事(けいさつふしょうじ)とは、警察官・警察組織が起こす不祥事。

日本の警察不祥事[編集]

日本では最も問題となる警察不祥事に、警察組織すべてが関わっているとみられている『捜査報償費の私的流用等』に代表される裏金・不正経理問題がある。なお、過酷な検挙ノルマ警視庁では「活動目標」と表記している)に原因する、検挙報告捏造や裏金作りの問題は、1980年代から指摘され続けている。退職した元・警察官による告発本も著され(松本均幕田敏夫など。第三書館による)、はては現職の警察官が告発したところ、問題の表面化を恐れた上層部によって閑職に追いやられ、訴訟を起こす事態になった(愛媛県警察仙波敏郎による体験)。

不祥事の傾向[編集]

警察の不祥事とよばれるものは多様である。単純なものとしては警察官個人が窃盗や暴行・傷害などの明確な犯罪行為を行うものがある。

犯罪者暴力団員酔っ払い不良少年暴走族などの不道徳者と日常的に接するため、ストレスが溜まりやすい(職務の性格上、私生活にも様々な制限や不利益が加えられる)ことに加えて、教員などと同様に『市民の模範』たる行動を求められるなど一般人よりも高い道徳性が要求されるため[1]、不倫など非社会的行為を行えば、たとえ、違法でなくても強く非難されやすい[2]

また、警察組織も一種の行政機関・官僚機構であることから、他の組織と同じような不正も当然起こしえる。例えば、許認可権限や利権をめぐる汚職裏金問題や不正経理、不都合な事例の隠蔽、本庁や警察署内での上下関係を盾に取ったパワーハラスメントなどである。1988年昭和63年)に大阪府で発生した警察官ネコババ事件1997年平成9年)から2000年(平成12年)に相次いだ神奈川県警察の不祥事に見られるように、組織の保身のため不正に不正を重ねることもあった。

過失などにより市民の通報に適切に対処できずみすみす犯罪を見逃すようなこと、果ては容疑者確保失敗など、職務怠慢による事件や、検挙実績を挙げんが為の犯罪捏造が発生している(グリコ・森永事件足利事件桶川ストーカー殺人事件栃木県警察#不祥事 ・冤罪志布志事件神戸大学院生リンチ殺人事件氷見事件世田谷一家殺害事件リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件東電OL殺人事件パソコン遠隔操作事件熊谷連続殺人事件)。捜査の誤り・事件の長期化から生じる捜査部門の焦りが原因で起きる誤認逮捕冤罪事件も不祥事とされる(政治的な理由によるものはここでは除く)。

また、一般的に警察官の特権として拳銃警棒手錠などで武装しているが、本来、治安を守るための武器が奪われ、犯罪に使われるのは大変な失態であるとされる。1974年韓国の大統領に向けられた銃は日本の派出所から盗みだされたものであった(文世光事件)。

対処[編集]

不祥事事件の際は各都道府県警察本部の警務部にある監察官室が速やかに事態収拾を図る。当該警察官に懲戒処分の可能性がある場合、監察官と部下にあたる監察席付調査官で構成された班員で事実関係を調査する。この時点で監察事案となり、調査中は機密扱いとなる。

処分については、調査内容を元に内部の幹部で行う懲戒審査委員会と、公安委員が呼ばれる会議が行われ、その上で警察庁に上げ、処分にばらつきが出ないように全国の警察での懲戒処分との調整を行い処罰を決定する。この警察官の懲戒処分については「懲戒処分の指針」である程度決まっている。

しかし、警察官の不正を調査する立場である監察官自らが不祥事を起こす事件も発生している。また、監察自体が警察の内部機構であり、監察官自体も内部の警察官であるために絶対に不祥事を起こさないとはいえない上に、不祥事を起こした当該警察官と知り合いである可能性も少なくはない。監察官も通常の事件捜査と同様3人一組等の班員と共に行動をするが、これも通常の警察業務と同じで、監察官は多くが警視で最も高い階級であり、次いで監察調査官である班員は警部警部補と階級が下であるがゆえに、監察官に最も裁量権が与えられており、監察官自身が不祥事や不正を犯した場合、それを関知することは難しい。

また、やはり国の管轄機関であるため、たとえ組織的な関わりがあったとしても当の警察組織の方は、組織的な関わりはなしとして直接的に関わっている事が明るみになった者を懲戒処分にして不祥事の解決を図ろうとするいわゆる「トカゲ尻尾切り」のような事が行われる事がある。

発砲事件[編集]

警察官職務執行法に定められた要件を守らずに発砲を行うという不適正な武器の使用や、手入れ中の誤射や暴発[3]、及び他の警察官に拳銃を突き付けることなどについては不祥事として扱われることが多い。

処分の不透明性と監視体制の問題[編集]

現在、確認されている不祥事において、一般の公務員や一般人なら確実に逮捕される事件で逮捕されず任意調べに留められ懲戒処分のみとなったり、不祥事を起こした警察官の氏名や年齢、所属先や処分内容など通常の刑事事件などで公表されるべき情報が公表されなかったりするケースが多く(もっとも処分を受けた警察官のほとんどが直後に依願退職し、降格や懲戒免職の処分にされることは少ない。処分された以上昇進などは困難なため)、「身内に甘い」という批判の声もある[4]

報道関係者の間で警察不祥事などを報道することは「桜タブー」とも呼ばれ、大々的に批判すると、事件取材の際や別の事件の取材などで取材拒否・記者クラブの出入り差し止め・嫌がらせを受けることがあると指摘される[5]。あまりの酷さに記者が記事にしようにも、編集デスクが記事にさせないこともあるといわれている[6]

もっとも、マスコミの警察攻撃が多いと感じるか少ないと感じるかはもっぱら視聴者個人の主観と思想によるところが大きく、一概にはいえない。「タブー」の存在を疑う声もある。2007年には冤罪事件が連続して2件発覚するという事態が起こったため、報道も比較的行われている。現役の警察官が顔を出さず、音声を変えてテレビ朝日の『スーパーモーニング』や『ザ・スクープ』へと不祥事を匿名で内部告発する事があり、また元・警察官がテレビの取材に顔出しで出ることもある。

2013年5月にはNHKが『クローズアップ現代』中で、大阪府警察警察学校での教育における対策例を採り上げたが(2013年5月16日放送「揺らぐ警察」)、弁護士の清水勉はブログで「真に必要なのは警察がノルマ主義をやめる事だ、自分も取材を受けたが焦点が意図的に外されているとしか思えない」とこの内容を批判している[7]

裏金問題[編集]

警察の組織的不正経理については、元警視監松橋忠光1984年に著書『わが罪はつねにわが前にあり』で初めて告発したものの、警察庁は「コメントする内容のものではない」と無視した。また、1987年にも、元兵庫県警巡査松本均が、著書『交番のウラは闇』などで、同県警における組織的な裏金作りや、超過勤務手当の不払い等の不正を告発していた。裏金など、金がからむ不祥事については、責任者が自殺することや告発者が逆に抑圧されることがあり(愛媛県警察での事例)、真相の究明を困難にしている。2000年前後の不祥事発覚後に国家公安委員会が設置した警察刷新会議も、少なくとも裏金問題への対応は消極的である[8]

2003年には北海道警察での裏金事件が発覚(北海道警裏金事件)し、2008年には岩手県警千葉県警で、2009年には滋賀県警で、2010年には福井県警広島県警山形県警で不正経理が発覚した。

公文書偽造・廃棄など[編集]

捜査書類や交通切符などを偽造・捏造したり、正当な手続きに依らず廃棄したりする事案が発生している[9](先述の“検挙ノルマ”に起因する)。

収賄[編集]

捜査に手心を加える、捜査情報を事前に提供するなどの見返りとして金品などの提供を受ける事案が発生している[9]

わいせつ事件[編集]

警察官によるわいせつ行為(未成年者へのわいせつ行為を含む)やセクシャルハラスメント買春、性器露出などのわいせつ事案が発生している(1978年に発生した警視庁北沢警察署経堂駅前派出所の巡査による制服警官女子大生殺人事件。“お巡りさん”に寄せられる信頼を悪用したもので、警視庁始まって以来の汚点と評され、時の警視総監土田國保が引責辞任した。警察内部でのセクハラが訴訟に発展したケースもある(愛媛県警察#最近の主な事件)。

殺人事件[編集]

違法とまではいかない不祥事[編集]

2015年11月11日、埼玉県草加市内の男性に振り込め詐欺の電話があり、それに気付いた男性の息子が「父親が被害に遭いそうだ」と埼玉県警に110番通報し、草加署の交番勤務の巡査が男性宅へ向かうこととなったが、この巡査が署にいる警部補に無線で「ミニパトで行ってもいいか?」と聞くと「(ミニパトで行っても)大丈夫」と言われ、巡査はこれを「現場に向かわなくて大丈夫」との意味だと誤解し対応せず、男性は息子の同僚を装って自宅に来た人物に200万円を騙し取られた[12]

日本以外の国の警察不祥事[編集]

アメリカ合衆国の警察ではロス暴動ゴードン・ノースコット事件など処理の不手際、初動の失敗と隠蔽が問題になっている。

イギリスでは2005年7月、ロンドン同時爆破事件で過剰反応状態になっていた私服の対テロ要員が、地下鉄駅で全く無関係のブラジル人男性乗客をテロリストと勘違いして射殺する事件が起きた。ロンドン同時爆破事件#誤射事件を参照。

警察不祥事に対する報道と世論[編集]

警察の不祥事は他の役所に増してマスコミや世論の強い反感をかいやすい。日本第22次西成暴動では1人の警察官の不祥事が明らかになったことをきっかけとして、それまでの警察に対する不信感が噴出した。1978年(昭和53年)に日本で起きた制服警官女子大生殺人事件では当時の警視総監が減給処分となり、その直後に引責辞任している。

イギリスではマクニー元警視総監が、「二万数千人の警察官がいるのだから、ある程度非行警察官が出るのは当然だ。警察官に二十年間の訓練を施そうと、二ヵ月間訓練を施そうと、悪いことをする奴は出てきてしまうものだ」と言明しているという[13]

脚注[編集]

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  1. ^ 警察職員の職務倫理及び服務に関する規則”. 法令データ提供システム. 総務省 (2000年1月25日). 2009年10月29日閲覧。
  2. ^ 井上浩芳 (2009年2月14日). “あるキャリア官僚の没落”. G trekker. 2009年10月29日閲覧。
  3. ^ 拳銃誤射:青森県警三沢署内で、警部が点検中に 毎日新聞 2011年10月29日
  4. ^ 袴田貴行、安達恒太郎 (2016年4月1日). “北海道警 ひき逃げ警官、訓戒止まり 身内に甘く 横領や傷害も”. 毎日新聞 (毎日新聞社). http://mainichi.jp/articles/20160401/ddr/041/040/004000c 2016年4月7日閲覧。 
  5. ^ 北海道新聞の体験。北海道警察の裏金を追い始めた直後に社が横領で捜査されたり、報道ソース提供を断られたりし「特オチ」が続いた
  6. ^ 三上英次 (2009年10月28日). “〈酒井法子報道〉から考えるメディアの使命(2)”. JANJAN (日本インターネット新聞). http://voicejapan2.heteml.jp/janjan/living/0910/0910282306/1.php 2009年10月29日閲覧。 
  7. ^ 清水勉 (2013年5月17日). “NHK『クローズアップ現代』は現代をクローズアップしたか?”. さくら通り法律事務所 〜清水勉の小市民的心意気!. 2016年4月7日閲覧。
  8. ^ 激白!警察の裏金問題 Vol.6(証言③ & 裏金の本質)仙波敏郎講演会. http://www.watchme.tv/v/?mid=7d5606f1526df7e82bea99eb41c87d8d 2009年10月29日閲覧。 
  9. ^ a b 野村一也 (2005年9月29日). “警察の犯罪・不祥事・疑惑の30年史”. PBI - 交通行政監察官室. 2009年11月16日閲覧。
  10. ^ 不倫の末、交際女性殺害の元大阪府警巡査長に懲役18年判決 「殺意、執拗で悪質」 産経WEST 2015年10月6日 2015年12月17日閲覧
  11. ^ “なぜ埼玉県警巡査部長は殺人に手を染めたのか? 犯行後に不倫旅行や借金返済… 二重生活で困窮”. 産経ニュース (産経新聞社). (2015年9月30日). http://www.sankei.com/premium/news/150927/prm1509270020-n1.html 2016年4月7日閲覧。 
  12. ^ 埼玉県警、詐欺通報に警官対応せず 上司の「大丈夫」誤解日本経済新聞2015年11月14日13時36分配信
  13. ^ 平沢勝栄『警察官僚がみた「日本の警察」』講談社89頁‐92頁

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]