川崎老人ホーム連続殺人事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
川崎老人ホーム連続殺人事件
場所 日本の旗 日本神奈川県川崎市幸区幸町2丁目632番地1
有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」
座標
標的 施設入所中の高齢者
日付 2014年平成26年)
11月4日(87歳男性)[1][2]
12月9日(86歳女性)[1][2]
12月31日(96歳女性)[1][2] (UTC+9)
概要 事件発生当時、いずれも施設職員だった男Iが当直だった日に、入所者3人が相次いで転落死した。
攻撃側人数 1人
死亡者 施設入所者3人
犯人 男X(逮捕当時23歳、元施設職員)
対処 逮捕起訴
謝罪 なし(無罪を主張)
刑事訴訟 死刑控訴中)
管轄 神奈川県警察幸警察署横浜地方検察庁
テンプレートを表示

川崎老人ホーム連続殺人事件(かわさき ろうじんホームれんぞくさつじんじけん)とは、2014年(平成26年)11月から同年12月にかけ、神奈川県川崎市幸区幸町2丁目の有料老人ホームSアミーユ川崎幸町」で発生し、2016年(平成26年)2月に施設の元職員が逮捕された連続殺人事件。

概要[編集]

2014年11月から12月にかけて川崎市の有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」にて相次いで入居者3人が転落死し、初動捜査では変死として処理されたものの殺人事件の可能性が疑われていた。2016年2月16日、神奈川県警はこの件に関わった元職員の男X(当時23歳)を殺人容疑で逮捕した[3]。元職員は2015年5月に同老人ホームで繰り返し窃盗を行った容疑で逮捕され、懲役2年6カ月・執行猶予4年の有罪判決を受けていた[1]

経過[編集]

  • 2014年
    • 5月 - Xが事件が起きた老人ホームで働き始める[2]
    • 11月4日 - 要介護3の87歳男性Aが敷地の裏庭で転落死しているのが見つかった[1][2]
    • 12月9日 - 要介護2の86歳女性Bが敷地の裏庭で転落死しているのが見つかった[1][2]
    • 12月31日 - 要介護3の96歳女性Cが敷地の裏庭で転落死しているのが見つかった[1][2]
  • 2015年
    • 5月21日 - Xが入所者の財布を盗んだとして、窃盗容疑で逮捕された[2]
    • 9月24日 - Xが窃盗罪で懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決を受けた[2]
    • 9月 - 事件が発覚。Xは毎日新聞などの取材に「家族が亡くなったのがきっかけで、お見送りをやりたいと思い、介護業界を選んだ。やりがいは感謝の言葉をかけてもらえること」などと語り、事件への関与を否定した[4]
    • 12月11日 - 別の元職員3人が入居者に暴行を加えたとして暴行容疑で書類送検され、後に1人が在宅起訴、残る2人が不起訴(理由は不明)となった[2][5]
    • 12月21日 - 川崎市が施設からの介護報酬の請求を3ヶ月間停止させる行政処分を行った[2]
  • 2016年
    • 1月下旬 - ここから数回にわたり、神奈川県警察幸警察署がXを事情聴取した[6]
    • 2月15日 - Xが殺害を認める供述をしたため、神奈川県警が殺人容疑で逮捕した。供述の中には犯人しか知り得ない情報があったという[6][2]
    • 2月16日 - Xが2014年11月4日にAを殺害した疑いで逮捕された[4]
    • 3月4日 - Xが2014年12月9日にBを殺害した容疑で再逮捕された[7]。同日、横浜地方検察庁により、1件目についての殺人罪で、横浜地方裁判所起訴された[8][9]
    • 3月5日 - 神奈川県警幸署捜査本部の捜査により、Bが転落死した際、女性の部屋の個室ベランダに、パイプ椅子があったことが判明した[10]
    • 3月25日 - Xが2014年12月31日にCを殺害した容疑で再逮捕された[11]。同日、2件目についての殺人罪で、横浜地検から追起訴された[12]
    • 4月15日 - 横浜地検が、3件目についての殺人罪でXを追起訴し、捜査が終結した[13]

刑事裁判[編集]

2017年11月6日、横浜地方裁判所渡辺英敬裁判長)で、公判前整理手続が開かれ、裁判員裁判の初公判期日が、2018年1月23日に指定された[14]

Xは逮捕直後、3人の殺害を自白していたが、公判前整理手続では一転して、事件当時について「記憶していない」と説明し、さらに「記憶はあるが、やっていない」と、説明が二転三転した[15]弁護人は「自白の内容は信用できない」と主張しており、逮捕直後の自白の信用性が、公判における最大の争点となる見通しである[15]

第一審・横浜地裁(裁判員裁判)[編集]

2018年1月23日、横浜地方裁判所(渡辺英敬裁判長)にて、裁判員裁判による、刑事裁判の初公判が開かれた[16][17][18]

冒頭陳述で、検察側は「3件の事件時、当直勤務に入っていたのは、いずれも被告人Xのみであり、X以外が犯人である可能性は極めて低い」とした上で[15]、Xが殺害を認めた取り調べの様子について「録音・録画もしており、信用性がある。本事件は、職員への信頼を利用し、非力な高齢者を狙った連続殺人事件だ」と主張した[19]

一方、Xは「起訴状記載の時間帯に施設にいたことについては記憶はあるが、何もやっていません」として、起訴内容を否認した[16]。これに加え、弁護人は、「事件性・被告人の犯人性、責任能力を争う」、「被告人は事件当時、健忘症の症状があることから、当時の記憶がない」などとして、無罪を主張した[17]

初公判以降、計23回の審理を行い、医師や施設関係者らの証人尋問など、証拠調べを行った[16]

論告求刑公判(2018年3月1日)[編集]

2018年3月1日、横浜地裁(渡辺英敬裁判長)で、論告求刑公判が開かれ、検察は被告人Xに対し、死刑を求刑した[20][21][22] [23]

その後、最終弁論で、被告人の弁護人は、「『Xが被害者らを転落させた』という客観的な証拠はなく、事故や自殺の可能性がないとはいえない。捜査段階におけるXの自白は、警察官の誘導・圧力によって、追い詰められた状況でしたものだ」と述べ、改めて無罪を主張した[23]

最終意見陳述で、被告人Xは、「取り調べから解放されたくて、虚偽の自白をしたが、法廷では真実しか話していない。自分は何もやっていない」と、無実を訴え、結審した[23]

判決公判(2018年3月1日)[編集]

2018年3月22日、判決公判が開かれた。横浜地裁(渡辺英敬裁判長)は、検察側の求刑通り、被告人Xに死刑判決を言い渡した[24][25][26]

横浜地裁は判決理由で、「被告人の自白は、捜査員から強要された可能性は低く、信用性は相当高い」と事実認定した上で、量刑理由については「情状の余地は認められず、更正の可能性も期待できない」と指弾した[25]

被告人・弁護人側は、判決を不服として、同日付で東京高等裁判所控訴した[24]

動機[編集]

動機について、Xは「様々な感情があった」と述べ[27]、転落死したAについて「手がかかる人だった」と述べた。また、「介護の仕事にストレスがたまっていた」という趣旨の供述もしたことから、神奈川県警察は介護のストレスから犯行に及んだとみている。そして、Xは「申し訳なかった」と反省の言葉を口にした[28]

被疑者・被告人について[編集]

逮捕されたXについて、知人は「優しいやつ」と語る一方、「虚勢を張る面もあった」と語った[2]

警察の対応について[編集]

被害者司法解剖が行われず、初動捜査が遅れた[2]

対策[編集]

川崎市は事件を受けて、老人ホームの管理監督を担当する部署の人員を、2016年4月から4人増やすなどして、施設への監査や指導の体制を強化していく考えを示した[29]

出典[編集]

以下の出典において、記事名に被告人の実名が使われている場合、その箇所を本記事で用いている仮名「X」とする。

  1. ^ a b c d e f g “川崎・老人ホーム 87歳転落死、元職員を殺人容疑で逮捕”. 毎日新聞. (2016年2月16日1時15分). オリジナル2016年2月15日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20160215175535/http://mainichi.jp/articles/20160216/k00/00m/040/135000c 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n “川崎・入所者殺害 「優しいやつ」なぜ… X容疑者、虚勢張る面も”. 毎日新聞. (2016年2月17日朝刊). http://mainichi.jp/articles/20160217/ddm/041/040/181000c 2016年2月18日閲覧。 [リンク切れ]
  3. ^ “川崎老人ホーム転落死 元職員を殺人容疑で逮捕”. 産経新聞. (2016年2月16日). http://www.sankei.com/affairs/news/160216/afr1602160005-n1.html 
  4. ^ a b “川崎・老人ホーム3人転落死 X容疑者「感謝の言葉がやりがい」 逮捕前、関与否定”. 毎日新聞. (2016年2月16日夕刊). オリジナル2016年2月19日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20160219010626/http://mainichi.jp/articles/20160216/dde/041/040/041000c 2016年2月16日閲覧。 
  5. ^ “暴行罪で元職員を在宅起訴 川崎・老人ホーム転落死”. 神奈川新聞. (2016年2月13日2時). オリジナル2018年1月14日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20180114143051/http://www.kanaloco.jp/article/152214 2018年1月14日閲覧。 
  6. ^ a b “老人ホーム転落死 元職員逮捕の決め手は…”. 日テレNEWS24. (2016年2月16日18時32分). オリジナル2016年2月18日時点によるアーカイブ。. https://archive.is/20160218044719/http://www.news24.jp/articles/2016/02/16/07322565.html 2016年2月18日閲覧。 
  7. ^ “川崎老人ホーム転落死、施設元職員を再逮捕 2人目の殺人容疑”. 日本経済新聞. (2016年3月5日). オリジナル2016年3月7日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20160307164930/http://www.nikkei.com/article/DGXLZO98077230V00C16A3000000/ 2016年3月5日閲覧。 
  8. ^ “【川崎老人ホーム転落死】元職員を2件目の転落死で再逮捕「黙秘します」”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2016年3月4日). オリジナル2018年1月14日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180114144133/http://www.sankei.com/affairs/news/160304/afr1603040026-n1.html 2018年1月14日閲覧。 
  9. ^ “【川崎老人ホーム転落死】87歳男性への殺人罪で元職員を起訴”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2016年3月4日). オリジナル2018年1月14日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20180114144543/http://www.sankei.com/affairs/news/160304/afr1603040020-n1.html 2018年1月14日閲覧。 
  10. ^ “【川崎老人ホーム転落死】偽装工作? 被害者死亡時、ベランダにパイプ椅子”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2016年3月5日). オリジナル2018年1月14日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180114144047/http://www.sankei.com/affairs/news/160305/afr1603050048-n1.html 2018年1月14日閲覧。 
  11. ^ 別の女性殺害容疑で元職員を再逮捕 川崎・老人ホーム” (2016年3月25日). 2018年1月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年3月27日閲覧。
  12. ^ “【川崎老人ホーム転落死】3人目殺害容疑で3度目の逮捕”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2016年3月25日). オリジナル2018年1月14日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180114143804/http://www.sankei.com/affairs/news/160325/afr1603250025-n1.html 2018年1月14日閲覧。 
  13. ^ “川崎老人ホーム転落死、3回目起訴 県警「捜査は尽くした」”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2016年4月16日). オリジナル2018年1月14日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180114144646/http://www.sankei.com/region/news/160416/rgn1604160015-n1.html 2018年1月14日閲覧。 
  14. ^ “川崎老人ホーム転落死:初公判を18年1月23日に”. 毎日新聞 (毎日新聞社). (2017年11月6日). オリジナル2018年1月14日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180114143721/https://mainichi.jp/articles/20171107/k00/00m/040/049000c 2018年1月14日閲覧。 
  15. ^ a b c “老人ホーム3人転落死、被告「何もやってない」”. 読売新聞(ライブドアニュース) (読売新聞社). (2018年1月23日). オリジナル2018年1月23日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20180123125949/http://news.livedoor.com/article/detail/14196425/ 2018年1月23日閲覧。 
  16. ^ a b c “川崎老人ホーム突き落とし初公判 被告の元職員「何もやっていない」”. 産経新聞 (産業経済新聞社): pp. 1. (2018年1月23日). オリジナル2018年1月23日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20180123130030/http://www.sankei.com/affairs/news/180123/afr1801230009-n1.html 2018年1月23日閲覧。 
  17. ^ a b “川崎老人ホーム突き落とし初公判 被告の元職員「何もやっていない」”. 産経新聞 (産業経済新聞社): pp. 2. (2018年1月23日). オリジナル2018年1月23日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20180123130039/http://www.sankei.com/affairs/news/180123/afr1801230009-n2.html 2018年1月23日閲覧。 
  18. ^ 古田寛也 (2018年1月23日). “元職員、初公判で無罪主張 川崎老人ホームの3人転落死”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). オリジナル2018年1月23日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20180123131008/https://www.asahi.com/articles/ASL1Q6F8VL1QULOB03L.html 2018年1月23日閲覧。 
  19. ^ “「何もやっていません」老人ホーム転落死裁判 被告は無罪主張”. NHKニュース (日本放送協会). (2018年1月23日). オリジナル2018年1月23日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180123131445/https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180123/k10011298701000.html 2018年1月23日閲覧。 
  20. ^ 国本愛 (2018年3月1日). “川崎老人ホーム転落死 死刑求刑 「残虐な連続殺人」”. 毎日新聞 (毎日新聞社). オリジナル2018年3月3日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180303161317/http://mainichi.jp/articles/20180301/k00/00e/040/279000c 2018年3月3日閲覧。 
  21. ^ “【川崎老人ホーム転落死】被告に死刑求刑「介護職員の立場利用した犯行。酌量の余地なし」(1/2ページ)”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2018年3月1日). オリジナル2018年3月3日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180303161742/http://www.sankei.com/affairs/news/180301/afr1803010024-n1.html 2018年3月3日閲覧。 
  22. ^ “【川崎老人ホーム転落死】被告に死刑求刑「介護職員の立場利用した犯行。酌量の余地なし」(2/2ページ)”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2018年3月1日). オリジナル2018年3月3日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180303161802/http://www.sankei.com/affairs/news/180301/afr1803010024-n2.html 2018年3月3日閲覧。 
  23. ^ a b c “老人ホームで入所者3人殺害 元職員に死刑求刑”. NHKニュース (日本放送協会). (2018年3月1日). オリジナル2018年3月3日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180303162142/https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180301/k10011347471000.html 2018年3月3日閲覧。 
  24. ^ a b “高齢者3人転落死で死刑判決 元施設職員に横浜地裁”. 神奈川新聞カナロコ. 共同通信社 (神奈川新聞社). (2018年3月22日). オリジナル2018年3月22日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180322113205/http://www.kanaloco.jp/article/319054 2018年3月22日閲覧。 
  25. ^ a b “【川崎老人ホーム転落死裁判】被告に死刑判決 「自白の信用性相当高い」 横浜地裁(1/2ページ)”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2018年3月22日). オリジナル2018年3月22日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180322113236/http://www.sankei.com/affairs/news/180322/afr1803220032-n1.html 2018年3月22日閲覧。 
  26. ^ “【川崎老人ホーム転落死裁判】被告に死刑判決 「自白の信用性相当高い」 横浜地裁(2/2ページ)”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2018年3月22日). オリジナル2018年3月22日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180322113501/http://www.sankei.com/affairs/news/180322/afr1803220032-n2.html 2018年3月22日閲覧。 
  27. ^ “逮捕の元職員 動機について「さまざまな感情あった」”. NHK. (2016年2月16日18時9分). オリジナル2016年2月16日時点によるアーカイブ。. https://archive.is/20160216115301/http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160216/k10010411481000.html 2016年2月16日閲覧。 
  28. ^ “殺害された入居者「手がかかる人」、介護のストレスから犯行か”. TBS News i. (2016年2月17日11時13分). オリジナル2016年2月18日時点によるアーカイブ。. https://archive.is/20160218050116/http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2704995.html 2016年2月18日閲覧。 
  29. ^ “老人ホーム元職員逮捕 川崎市が監査指導体制強化へ”. NHK. (2016年2月16日15時43分). オリジナル2016年2月16日時点によるアーカイブ。. https://archive.is/20160216130100/http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160216/k10010411241000.html 2016年2月16日閲覧。 

関連項目[編集]