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誤認逮捕

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

誤認逮捕(ごにんたいほ)とは、警察などの捜査機関がある人物を被疑者として逮捕したものの、実際にはその人物は無実であったことが判明した場合の逮捕行為を指す俗語である[1][2][3]

概要

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捜査機関がある人物を逮捕した場合に、その後の捜査によってその者の無実が判明し、釈放される場合がある[1]。この場合の逮捕を誤認逮捕という[1]。なお、法的用語とはいえず、マスコミ・一般用語である[1][2][3]

誤認逮捕は、下記に述べるように、現行刑事裁判制度においては逮捕制度に内包された起こり得る状態であるため、被疑者の無罪が確定し、なおかつ真犯人を特定できても直ちに違法行為とはならない[1][4]

誤認逮捕であっても被疑者解雇実名報道による信用失墜に繋がる可能性が高い[5]

誤認逮捕の発生原因・違法性

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発生原因

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逮捕は、ある人物に対して犯罪の嫌疑を持った場合に必要性があればなしうるが、捜査機関は逮捕を行うことで犯人の逃亡防止や証拠隠滅を防止し、逮捕した人物を起訴をして有罪判決を得られるだけの証拠を集めるための捜査を行うため、この「嫌疑」はその時点の証拠関係から判明した相当程度のものでよい、とされる。したがって、必ずしも確実ではないが、その者の逃走や証拠隠滅を防ぐ必要がある場合には逮捕がなしえ、その人物が無実であった場合も含まれうる[1][3]

逮捕した者が実は犯罪を犯していなかった、と後から判明することは制度上起こり得る事態で、捜査機関が適切な努力のもとに、適切な確信をもって逮捕行為を行ったとしても、被逮捕者が犯罪行為者ではないことが捜査の結果判明することは有り得る[4][3]

「先行して逮捕された者」が「無実の者」を共犯者として罪を着せようとする場合もある。逮捕後の捜査でその供述が嘘であり、無実が判明すれば、誤認逮捕であったことになるが、この場合の捜査機関の行為は適切である。もっとも、捜査機関の完全な怠慢によって、あやふやな証拠を妄信し、事実を確認する捜査を怠ったために誤認逮捕が発生してしまう場合もある[6][7]

違法性

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一般的には「逮捕された人物」=即座に「犯罪者」と確信されがちであり、被逮捕者が犯罪行為者ではないと判明した場合には、警察発表を信じたマスコミによって「捜査機関の誤り」として報道される場合があるが、逮捕手続き自体は適法である[8]

逮捕などの捜査機関の行為は、裁判所に対し被疑者被告人が有罪か無罪かの判断を求めるための行為であり、逮捕から捜査が進んでもなお被疑者が無実であると判明せず、そのまま起訴した場合にもそれ自体は国家賠償法上の違法性を有しない(「芦別事件最高裁判所判決要旨)[9]

もっとも、明らかに捜査機関が努力を怠るなどして、無実であることが明らかであるのに敢えて逮捕を行った場合には国家賠償法上違法とされる余地がある[10][11]

補償

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「被疑者補償規定」という法務省訓令があり、検察官は、被疑者として拘束された者(以下、本人)のうち、「嫌疑なし」として不起訴処分とした者(本人が死亡した場合は相続人その他適当と認める者)に対し、補償の申し出があった場合、勾留日数1日につき1,000円以上12,500円以下の補償金を交付することとなっている[12]。補償金の額は、拘束の種類及び期間、本人が受けた財産上の損失、得る筈であった利益の喪失及び精神上の苦痛その他一切の事情を考慮して決められる[12]

但し、以下の場合は補償の一部または全部が行われないことがある[12]

  • 本人の行為が刑法第39条または41条に規定する事由によって罪とならない場合。
  • 本人が捜査または審判を誤らせる目的で、虚偽の自白をし、その他有罪の証拠を作ることにより、勾留されるに至ったと認められる場合。
  • 勾留期間中に捜査(少年法の規定による審判を含む)が行われた他の事実につき犯罪が成立する場合。

起訴され、無罪判決を受けた者に対しては、刑事補償法に基づく補償が行われる[13]

2000年以降の誤認逮捕の例

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※逮捕されたが起訴されなかった事件、あるいは逮捕・起訴されたが有罪判決が出なかった事件で大きく取り上げられた事件。
監視カメラの映像が原因の誤認逮捕の例は「監視カメラ#誤認逮捕」を参照。

  • 2002年6月8日、『ウルトラマンコスモス』第49話放送後、主演の杉浦太陽が本作放映開始前の2000年に起こった傷害・恐喝事件の容疑者として逮捕された。被害者が事件の一部を虚偽と認める陳述書を提出したため不起訴処分となった。
  • 2004年2月17日、三重県四日市市の商業施設で、財布を盗んだとされた68歳の男性が、周囲の店員や警察官に長時間取り押さえられ、心臓発作で死亡するという事件が起きた。後に誤認逮捕と判明した[14]

脚注

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  1. ^ a b c d e f 読売新聞』2000年3月23日 全国版 東京朝刊 一面1頁「愛媛の男性を窃盗・詐欺で誤認起訴、1年以上拘置 判決4日前に釈放」(読売新聞東京本社
  2. ^ a b 窃盗で誤認逮捕、別の容疑者が犯行自供 福島県警」『朝日新聞朝日新聞社、2005年2月24日。オリジナルの2005年2月26日時点におけるアーカイブ。2025年11月14日閲覧。
  3. ^ a b c d 「取り調べは誘導」強盗誤認逮捕の男性に無罪判決」『読売新聞読売新聞社、2005年3月10日。オリジナルの2005年3月12日時点におけるアーカイブ。2025年11月14日閲覧。
  4. ^ a b 誤認逮捕:窃盗、詐欺容疑で逮捕起訴の男性釈放 松山地検」『毎日新聞毎日新聞社、2000年3月23日。オリジナルの2001年6月28日時点におけるアーカイブ。2025年2月3日閲覧。
  5. ^ 『読売新聞』2001年8月14日 全国版 大阪夕刊 夕2社10頁「宇和島の誤認逮捕 刑事補償482万認める 会社解雇など損失分/松山地裁」(読売新聞大阪本社
  6. ^ 3年服役男性 無実」『朝日新聞』朝日新聞社、2007年1月20日。オリジナルの2007年1月23日時点におけるアーカイブ。2007年1月20日閲覧。
  7. ^ 埼玉県警が誤認逮捕、20日間勾留 30代男性に謝罪」『朝日新聞』朝日新聞社、2018年8月27日。オリジナルの2018年8月27日時点におけるアーカイブ。2020年10月15日閲覧。
  8. ^ 『読売新聞』2000年6月10日 全国版 東京朝刊 社会39頁「愛媛の誤認逮捕 県警、処分行わず 捜査ミス認めたが 違法性なしと判断」(読売新聞東京本社)
  9. ^ 田中二郎, 佐藤功 & 野村二郎 (1980), p. 285.
  10. ^ 鹿児島県警の「踏み字強要」に賠償命令 鹿児島地裁」『朝日新聞』朝日新聞社、2007年1月18日。オリジナルの2007年1月19日時点におけるアーカイブ。2025年11月14日閲覧。
  11. ^ 「踏み字」取り調べ事件、控訴を断念 鹿児島県警」『朝日新聞』朝日新聞社、2007年1月31日。オリジナルの2007年2月2日時点におけるアーカイブ。2025年11月14日閲覧。
  12. ^ a b c 被疑者補償規程(16.1.16現在)” (PDF). 検察庁. 2018年10月21日閲覧。
  13. ^ 朝日新聞』2001年8月14日 夕刊 2社会10頁「被害の男性に482万円を補償 愛媛・誤認逮捕で勾留【大阪】」(朝日新聞大阪本社
  14. ^ 強盗に間違われ男性死亡 立ち去った女性 映像公開 きょう三重県警」『読売新聞』読売新聞社、2005年2月17日。オリジナルの2005年2月19日時点におけるアーカイブ。2005年2月17日閲覧。
  15. ^ 警視庁も誤認逮捕を謝罪へ 襲撃予告、容疑者供述は虚偽」『朝日新聞』朝日新聞社、2012年10月21日。オリジナルの2012年10月21日時点におけるアーカイブ。2012年10月21日閲覧。
  16. ^ 産経新聞 (2019年12月16日). “大手不動産「プレサンス」社長を逮捕 明浄学院横領容疑 大阪地検特捜部”. 産経新聞:産経ニュース. 2025年5月8日閲覧。
  17. ^ 日本弁護士連合会:プレサンス事件”. 日本弁護士連合会. 2025年5月8日閲覧。
  18. ^ 日本放送協会 (2025年1月24日). “「えん罪の被害にあうとは思わなかった」検察と闘う社長が語る | NHK | WEB特集”. NHKニュース. 2025年5月8日閲覧。

参考文献

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  • 田中二郎佐藤功野村二郎 編『戦後政治裁判史録 2』第一法規出版、1980年10月1日。ASIN 4474121120ISBN 9784474121126 

関連項目

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