福井弁

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「いいよ福井」を意味する福井弁。

福井弁(ふくいべん)は、福井県嶺北地方敦賀市を除く旧越前国)で話される日本語の方言で、北陸方言の一種である。同じ福井県内の嶺南地方敦賀市と旧若狭国)で話される方言(嶺南方言)は福井弁とはアクセントが異なり、通常は近畿方言に分類される。

福井県の方言分類

福井県の方言は嶺北と嶺南に大きく分けられる。嶺南方言アクセント京阪式アクセントあるいはその変種であり、嶺南方言は通常の分類では近畿方言に含まれる。本項では嶺北方言を扱う。

嶺北方言の下位分類については以下のような区分が提唱されている[1]

発音

福井弁には北陸方言特有の間投イントネーションがあり、文節の終わりがうねるようなイントネーションになる。北陸・関西およびその周辺と共通の特徴として、単音節の単語は「目え」「手え」のように長く伸ばして発音する。また、語中の「が」は鼻濁音で発音される(嶺北西部では非鼻音)[2]

指示語に含まれる「そ」は「ほ」になることが多い。「そんなもの→ほんなもん、んなもん」「その→ほの」「それで→ほれで」「そして→ほして」「そこ→ほこ」「そっち→ほっち」など。相づちの言葉として「そうや(=そうだ)」から転じた「ほや」が多用される(例:ほやのー、ほやって、ほやざ)。「ほやほや」や「ほやほやほや」と2〜3回重ねて言うことが多いのが福井弁の特徴である[2]。また「そうか」も「ほうか」となり、道を尋ねて教えてもらった際に「あー、ほうか(あー、そうか)」と言って、「阿呆か」に聞き間違われて県外の人に怒られることもある。

老年層の福井弁では、古い日本語の発音であるシェ・ジェが現在も残っている[2]。「先生」を「しぇんしぇえ」、「千円札」を「しぇんえんさつ」、「全部」を「じぇんぶ」、「全然」を「じぇんじぇん」など。ただし、「臭い→くせえ」「遅い→おせえ」など、連母音変化によって生じた「せ」「ぜ」は「しぇ」「じぇ」とは発音されない(×くしぇえ、おしぇえ)[2]。奥越では、1円を「いっちぇん」、50円を「ごっじぇん」、100円を「ひゃっけん」と発音することもある。

アクセント

福井市越前市(旧今立町・旧武生市)・鯖江市などの嶺北地方中心部[3]は、アクセントで語の区別を行わない無アクセント地帯である(範囲は、さらに広く坂井市あわら市を含むとも言われる[4])。無アクセントは、「箸・橋・端」などの同音異義語を全て同じ高低で発音するもので、北陸地方のなかでは異質なアクセントである。

無アクセント地帯を取り囲むようにして、坂井市三国町などには「三国式アクセント」と呼ばれるアクセントがある[3][5]。三国式アクセントは、音の下がり目の有無だけを区別するアクセントであり、拍数に関わらずアクセントの型(パターン)が2種類ある二型アクセントである[6][7]。二拍名詞でいうと、「風」「肩」「雨」などの一・四・五類は下がり目を持ち、助詞なしでは「ぜ」、助詞付きでは「かが」(または「かぜが」)になる。また、「川」「花」などの二・三類は下がり目がなく、助詞なしでは「か」(または「かわ」)、助詞付きでは「かわが」(または「かわ」「かわが」)になる。ただし、三国式アクセントは型の区別が曖昧で、発音が安定せず揺れのあるアクセントである。福井市内でも三国式アクセントが報告されているが[5]、一方で、福井市・三国町ともに被調査者全員が無アクセントと判定されたこともある[8]。最近の調査では、あわら市では、これまで報告のなかった新種を含む多様なアクセント体系が複雑に分布することがわかった[9]

また旧今庄町(現南越前町の一部)付近には、また別体系のアクセントがある。二拍名詞でいうと一・二・三類(風・川・花など)が頭高型(ぜが)、四・五類(肩・雨など)が平板型(あめが)というアクセントである[3][10]

大野市勝山市には明瞭な垂井式アクセントが分布する。垂井式アクセントとは、京阪式アクセントと東京式アクセントの中間のアクセントで、近畿の周縁部や北陸の一部などに分布する。大野市東部の旧和泉村地区は内輪東京式アクセントである。

文法

文法はおおむね西日本方言の特徴を有している。断定「や」、動詞の否定形「ん」、「さいた(刺した)」や「だいた(出した)」のようなサ行イ音便、「こーた(買った)」や「しろーなる(白くなる)」のようなウ音便は福井弁でも使われる。ただし、西日本では存在動詞として「おる」が多用されるが、福井弁では「いる」が多用される。「いない」という意味では「いん」の変形「えん」が使われ、「〜していない」という補助動詞の用法も「〜してえん」となる[2]。「誰もえんのか?(=誰もいないのか?)」「まだ宿題やってえんのやって(=まだ宿題やっていないんだよ)」など。

「〜してしまった」「〜しちゃった」に相当する表現には関西と同じく「〜してしも(ー)た」や「〜しても(ー)た」が使われるが、福井弁では「しても(ー)た」が「しとぅんた」や「してんた」「しつんた」などと変化して使われることもある。「こーてしもーた→こーてもた→こーとぅんた・こーてんた・こーつんた(=買っちゃった)」や「やってしもーた→やってもた→やっとぅんた・やっつんた(=やっちゃった)」など。

命令表現では「動詞の連用形+ね」という形がよく使われる。「〜なさい→〜ない→〜ねえ→〜ね」となったもので、例えば「しなさい」は「しね」、「来なさい」は「きね」、「行きなさい」は「行きね」、「食べなさい」は「食べね」、「おくれ」は「おくんね」などとなる。否定形の場合は「〜ねばん」と使う(奥越)。「する」の命令表現「しね」は県外の者には「死ね」と聞こえるため時折トラブルになるが、「死ぬ」の命令表現は「死にね」。

「昨日は風邪で休んだの?」「ほーなんやって(=そうなんだよ)」のように、自分が持っている情報を聞き手に伝える際の表現として、「〜やって」「〜ですって」という形が使われる。「天気予報で言うてたけどー、明日は雨なんやって」のような伝聞表現と同じ語形だが、伝聞表現の「〜やって」「〜ですって」は「て」でアクセントが上がるのに対して、こちらは「て」でアクセントが下がる[2]

助詞

準体助詞は「の」または「ん」であり、金沢弁富山弁で使われる「が」や「げん」などは使われない。

「から」「ので」を意味する接続助詞には「さけー(に)」や「で」や「し」が使われる。「さけー(に)」は上方語の「さかい(に)」が変化したもので、関西・北陸各地で使われる表現。「で」は東海地方とその周辺で盛んな表現で、長野・岐阜・愛知・三重・滋賀などと共通する。

共通語の「ね」や「な」に相当する間投助詞として、「の」が多用される。表現を柔らかくするほか、相手への呼びかけにも使われる。

福井弁で特徴的な終助詞としては、以下のものがある。

  • っさ - 相手を誘う助詞で、「っせ」とも言う。「あおっさ(=会おうよ)」や「いこっさ(=行こうよ)」など。
  • ざ - 相手への主張の意を強める助詞で、主に女性が使う。意味合いは関西の「で」に近い。「はよせなあかんざ(=早くしないといけないよ)」や「水ようかんは冬に食べるもんやざ(=食べるものだよ)」など。
  • が - 「ざ」よりもさらに主張の意を強める助詞で、男性は「げ」とも言う。共通語の「じゃないか」や「じゃん」に相当。愛知・岐阜・滋賀などとも共通。
  • ま - 命令文を強調する助詞で、石川・富山と共通。「はよしねま(=早くしなさいよ)」や「そっち行けま(=そっち行けよ)」など。
  • け - 疑問文を作る助詞で、共通語の「か」に相当。石川・富山では男女問わず使われるのに対し、福井では主に男性が使用。

語彙

福井弁で使われる語彙を挙げる。福井弁特有の単語ばかりでなく、福井県以外の地方の方言と共通する語彙も多い。

あ行

  • あっぱ【名】 - 糞。偶然であるが、南部弁(岩手県)や下北弁(青森県)で「あっぱ」というと「お母さん」、仙台弁で「あっぱ」というと「唖」を意味する。
  • あかん【連語】 - いけない。駄目。
  • あける【動】 - (水などを)こぼす。類義語:「かやす」
  • あたる【動】 - 貰う。「ボーナスあたったけぇ?(ボーナスは貰えたか?)」
  • あばさける【動】― ふざける。はしゃぐ。
  • あや - 肖る(アヤカリ) バカ、アホ
  • あやまち【名】 ― 怪我。「あやまちしたんけ?(けがしたの?)」
  • あんじょう - 完全に。「味良く」の変形。
  • いけえ【形】 ― 大きい。「いかい」「いっけぇ」「いけ」とも言う。
  • いしな【名】 ― 石。
  • いっぷく - 休憩。一服。「ちょっといっぷくしよっさ」。
  • イラチカ - パンツなどのゴムひも。
  • うら【人名代名詞】 ― わたし、ぼく、俺
  • 複数形は「うらら」。「うらの畑」と言われると、「家の裏」なのか「自分の」なのか分からないが、後者の意味の場合が多い。
  • うてえ【形】 - のくてえと同意。
  • えれえ【形】 ― 程度が甚だしい。辛い。「えらい長いんやわあ(すごく長いなあ)」「今日は体がえらいんやってえ(今日は具合が悪いのだよ)」
  • えんめ【名】 - 犬。貶めて言った「犬め」の変形。
  • おいや - そうだ。最近は「ほや」「ほーや」が主流。
  • おえ【感動詞】 - おいおい(不満)。おい(呼びかけ)。うわー(驚き)。
  • おうきにのう - ありがとうね。
  • おぞい【形】 - 「おぜぇ」とも言い、ぼろぼろである。質が悪い。古い。岐阜でも共通して使われる。
  • おちょきん【名】 - 正座。関西の「ちんとする(しっかり座る→正座)」から変化したもの。「おちょきんしねま(正座しなさい)」
  • 落った - 落ちた。
  • おとましい【形】 - もったいない。
  • おとろっしゃ、お(っ)とろしい【形】 - 恐ろしい。困ったものだ(心配の要素も含む)。
  • おぼこい【形】 - 純粋無垢。子供っぽいという皮肉にも使われる。
  • おもっしぇえ【形】 - 面白い、訳の分からない。おかしい。「おもっせえ」と発音することもある。
  • おめえ【人名代名詞】- お前。同格以下の相手を呼ぶ男性語。
  • おんちゃん【代名】 - おじさん。親しみのこもった呼び方。
  • おんさん【代名】 -おっさん。関西の「おっちゃん」に近い。

か行

  • かくし - ポケット。
  • かざ - 臭い。
  • かしく【動】 - 米を研ぐ。「米かしいだでの(米研いたからね)」。語源は調理を意味する古語の「かしく」。「かしぐ」や「かせぐ」という語形もある。加賀弁と共通。
  • かぜねつ【名】 - 口内炎の一種。「かざねつ」とも。 風邪や疲労など体調不良のとき、口元に出来る赤い発疹。痛みがある。標準語には対応する語彙が存在しない。北陸各地で使われる。「かぜ」も「ねつ」も一般的な語彙のため、「かぜねつ」は共通語だと誤解されていることが多い。
  • かたい【形】 - 健康であるさま。「かたいけの?(元気でいるか?)」「かたいもん(いい子)」
  • かたがる【動】 - (物が)傾く。
  • かど【名】 - 家・建物の外。「角」の意味にあたる言葉は、「角んとこ」(角のところ)があるため、混同しない。福井市旧美山町の一部で主に使われている。
  • がぼる【動】 - (雪や泥の中に足が)はまる。「ごぼる」と言う地区もある。
  • かやす【動】 - ひっくり返す、倒す。(容器を倒して)内容物を散乱させる。「誤って」という過失の意味合いが強い。
  • から【名】 - 身体。
  • からげる【動】 - 結ぶ。
  • かる【動】 - 借りる。「借りた」は「かった」となる。逆に返すときは「なす」という。例―この本、ないといて。(この本、返しておいて。)
  • かわおび - ズボンのベルト。「バンド」とも言う。
  • がんど【名】 - のこぎり
  • 汽車【名】 - JR(旧国鉄)。今では北陸本線を走る気動車(ディーゼル)はないが、永年の名残でそう呼ぶ。越美北線は非電化のため、現在も気動車。私鉄は「電車」。
  • ぎっちょさん【名】 - 左利きの人。単に「ぎっちょ」とも。
  • ぎっとな【形】 - 義理堅い。
  • きのどくな - ありがとう。申し訳ない(感謝の意味で)すみません。気に毒(気を遣わせた)から変化したものと思われる。好意や便宜を受けたとき、相手の負担を思いやる言葉。石川とも共通。
    • 「こんなにしてもろて、きのどくな(こんなにしていただいて、本当に大変だったでしょう)」
  • ぎりぎり【名】-頭のつむじ。
  • きんの【名】 - 昨日。
  • くどい - 【形】しつこい、度か過ぎる。そこから「塩くどい」となってその短縮形。塩辛い。逆に塩辛いでは通じないことがある。
  • けなるい【形】 - うらやましい。
  • ける【動】 - 盗む。万引きをする。「けってきた」
  • ごえんさん【名】 - 寺院住職
  • こうか(校下)【名】 - 校区。主に小学校の範囲で用いられる。
  • こざにくい【形】 - 生意気な。
  • ごしんさん【名】 - 住職の妻。
  • こべんたま【名】 - ひたい。おでこ。旧清水町(現・福井市)で行われていた「こべんたまつり」(合併時に廃止)の由来となった言葉。
  • こしょばい【形】 - くすぐったい。「こしょばす」は動詞形で「くすぐる」の意。
  • ごっつぉ【名】 - ご馳走。ご馳走様は「ごっつぉさん」
  • こっぺな【形】 - (無理に大人ぶっていて)生意気な。
  • こっぺこっぺと【動】 - 生意気に。
  • こんか【名】 - 米糠。
  • ごんばこ【名】 - ごみ箱。
  • こんだ - 今度。

さ行

  • ざいご【名】 ― 田舎。在郷。転じて実家を指すこともある。「ざいごのもん」は「田舎者」。
  • しかえる【動】 ― 取り替える、着替える。
  • しなあっと【擬態】 - ゆっくり、そーっと、慎重に。あるいは、さりげなくの意。
  • しめだる【名】 - 結納。
  • じゃけらくせえ【形】 - 子供っぽい。幼稚な行いを諭す際使う場合が多い。「わらびしい」とも。
  • しゃば - 世間。
  • じゃみじゃみ【擬態語】 - テレビの砂嵐。もともと方言で「目が疲れてしょぼしょぼしたり、かすんで見えたりする様子」をさした擬態語「じゃみじゃみ」が、テレビの普及後に画面の砂嵐状態を指して使われるようになった。英語のJamming(妨害電波)に由来するとの説は俗説に過ぎない。
  • せわしねえ【形】 - 落ち着きが無い。
  • じょろにしる【動】 - 話を無しにする。始めに戻す(旧清水町。特に旧三方村の世代が使用)。
  • じょろ【名】 - あぐら。「じょろかく」(あぐらをかく)」、「ねまる」とも。
  • すまし【名】 - 醤油。
  • すらえる【動】 - 触れる。
  • ぜん、じぇん - お金。「銭」の変形。

た行

  • たいげえ【名】 - ほどほど。大概。
  • たく【動】 - 煮る。米以外にも、煮ることを「炊く」と表現することが多い。「おでんを炊く」「魚を炊く」など。
    • たいたの【名】 - 煮物。「煮たの」とも言う。「大根の炊いたの(大根の煮物)」「たくあんの煮たの(福井の郷土料理)」など。
  • だたねえ【形】 - だらしない、きたない、醜い。
  • だちゃかん【形】 - 駄目だ。「埒があかん」が訛ったもの。
  • たな、~(ん)たな【連体】 - ~みたいな。「この機械、壊れたんたなやな。(この機械、壊れたみたいだな。」
  • だら、だわ【形】 - 怠けている様子。「だわもん」で怠け者を指す。あわら市などでは馬鹿、阿呆の意味でも使われる。
  • だんねえ - 別にかまわない。気にしなくて良い。京都弁の「だんない」の変化形。丹南地区(福井市殿下・清水地区などを含む)で用いられる。殿下地区では「だんのね」とも言う。
  • たんまで【形】 - 全然、全く。
  • ちかっぺ【形】 - 力一杯。とっても。「ちゃらっぺ」とも言う。
  • ちっくりさす【動】 - (爪楊枝など棒状のものを)刺す。
  • ちぇえ【形】 - 小さい。「ちんちぇー」とも言う。
  • ちゃう - 違う。近畿地方と共通。
  • ちゃがちゃが - めちゃくちゃ。散らかっている様子。
  • ちゃまる【動】 - (警察などに)捕まる。能動の「捕まえる」の場合は「ちゃめる」と言う。
  • ちゃんぺ【名】 - 女性器、性交。
  • チューブ【名】 - 輪ゴム
  • ちゅんちゅん【形】 - 物が高温になっているさま。水がかかると「チュン」と音を立てて蒸発する「焼け石に水」状態を指す。「メカがチュンチュンでやばい(機械が異状に高温でまずい)」
  • ちょっきり【形】 - ちょうど。
  • ちょっこし【形】 - 少し。「ちょっこり」とも言う。
  • つかがる【動】 - (手すりや、人の腕などに)掴まる。
  • つばき【名】 - 唾
  • つまる【動】 - 主にノートなどを使い切ってしまった場合に使われる。
  • つるつるいっぱい【形】 - コップやお椀などに液体が並々とそそがれた様子。液体が表面張力により器から盛り上がって、あふれる寸前の状態を指す。北陸で広く使用されており、方言だと知らずに使用している場合が多い。
  • つんつん【形】 - 鉛筆が削ったばかりで尖っているさま。
  • てきねえ【形】 - 病気・体の調子が悪いこと。「てきない」とも言う。「てきねぇんけ?(具合悪いの?)」
    • 怪我の場合(痛み、四肢の不自由など)には使用しないが、怪我に付随する発熱やだるさなど、病と共通する体調不良には使用する。怪我の場合は「えらい」を使うことが多い。
  • てな、~(ん)てな【連体】 - ~みたいな。
  • てなわん【形】 - 気がきつい。やんちゃな。抜け目が無い。手に負えない。性格の悪い。嫌味な。
  • どぼすずく【形】 - (滴が落ちるくらいに)濡れている。ずぶ濡れ。水が大量にどっぷり有る様をドボドボと言う。すずくは「雫(しずく)」のこと。
  • どんならん【形】 - どうにもならん、どうしようもない。「てなわん」の類義語。「どーんならん」と伸ばしたり、「どんなん」と略したりすることもある。例 「どんならんやっちゃな」(どうしようもない奴だな)

な行

  • ながたん【名】 - 包丁。「菜刀」の変形。
  • なげる【動】 - 捨てる。
  • なも、なんも - 重ねて使うことも多い。重ねない場合は「なぁも」と伸ばし気味になることが多い。英語の 「you are welcome」や「何も~ない」、「別に~ない」 に相当する語。「悪いのう」「なもなも。だんねってぇ(別にいいよ、気にしないで)」
  • ~なる - 「~なさる・なはる」の変形。例「てんしゃばのあんさん来なったざあ」
  • なんきん【名】 - かぼちゃ。南京。
  • なんぼ - どれだけ、どれほど。
  • なんにゃ~よう(か)【反語】 - 嫌味交じりの完全否定。「何が~あろうか(しようか)」例「なんにゃ役所がほんな気の利いたことしようか」
  • ぬれんざ【動】 - 濡れないよ。濡れない傘【ヌレンザ(福井洋傘)】はここから来ている。
  • ねんね【名】- 赤ん坊、幼い子どもを指す
  • のくてえ【形】 - 愚かなさま。トロい。馬鹿だ。「温い(ぬくとい)」の音便形。「のくてえのう(バカだなあ)」「のくてえやっちゃ(馬鹿なヤツだ)」
  • のうなる【動】 - (物が)無くなる。(人が)亡くなる。
  • のんのさん【名】 - 仏様。「なんなさん」、「なんなんさん(ちゃん)」とも。語源は「南無」から。

は行

  • ばい【名】 - 棒。
  • はえめ・はいめ【名】 - 蠅。
  • はぐし【名】 - つっかえが外されてガクっとするさま。「はぐしをくらう」「(ひざカックンをされ)はぐしこく」。
  • 羽二重餅【名】 - 福井の銘菓。やわらかいもの、木目が細かい物の例えによく用いられる。羽二重は、薄くて上質の絹織物のこと。正絹の中でも最上級とされる。かつての繊維王国福井ならではの表現。
  • びい ‐ 女子
  • ひっで(もんに)【副詞】 - とても。甚だしく。ひどく。【形容詞】凄まじい。ひどい。「しってぇ」「ひってもん」と発音する場合もある。
  • ひにしばら【動詞】 - やっかみ
  • ひとこっぱ【副】 - 一まとまり。思いっきり。たくさん。
  • へくさんぼ【名】 - カメムシのこと。主に嶺北地方(越前国)で用いられる。
  • べさ【名】 - 「女」の蔑称。貞操感やモラルがない女性を「どすべさ」と表現する。
  • へず菓子【名】 - 駄菓子。
  • べと【名】 - 土。泥。「べとに ばいをちっくりさす」という表現は「土に棒を突き刺す」という意味である。
  • ぼう - 男子。

ま行

  • まんぽ【名】 - トンネル。
  • まいど - いつも。「まいどおおきに」で「いつもありがとう」になる。
  • めんぽ【名】 - カワハギ(魚類)。
  • ももた(ももたん)【名】 - 太股。
  • もつけない(もつけねえ)【形】 - かわいそうな。相手への同情を示す間投詞としても用いられる。語呂での覚え方は「もつけねえのはかわいそう」。
  • ~もてら - ~ごと。「箱もてら持ってきて(箱ごと持ってきて)」
  • ものごい【形】 - 精神的に苦痛を感じること。大きな不安を感じていること。病による身体的苦痛の場合は「てきない」になる。
  • まんまんちゃん【名】 - 仏様。転じて仏壇や墓。主に福井市旧清水町で使われる。

「まんまんさん」とも。

や行

  • やだ【名】 - 言い掛かり。悪意のあるいやがらせ。「やだをする」は「いやがらせをする。無理難題をおしつける」、「やだを言う」は「イチャモンをつける。言い掛かりをつける」という意味。
  • ゆうちゃん【名】 - Uチャン。県内で唯一UHF放送を行う福井テレビジョン放送のこと。
  • よう【副】 - よく。
  • ようけ【形】 - たくさん。大阪弁の「ようけ」と同じ。「いっぺえ」「ぎょうさん」とも言う。
  • よさ・よさり【名】 - 夜中のこと。夜更け(ヨフケ)。古語の「夜更なり(ヨルサラナリ)」がつまったもの。「よんべ」とも言う。
  • よしかかる【動】 - よりかかること。
  • よだがり【名】 - 晩御飯。
  • よぼる - 呼ぶ。「よばる」とも。

わ行・ん

  • わかいしゅ【名】 - 若者。「若い衆」のこと。
  • わけなし - 馬鹿、あほ、幼稚。「聞き分けのない」が語源か。
  • わせる - 忘れる。
  • わめ【名】 - 自分、自ら。
  • わやくそ ‐ 散らかって収集がつかない状態。
  • わらびしい【形】 - 幼稚な。悪い意味で幼い。田舎者。語源は「童しい(ワラベシイ)」。反対語は「大人しい」になるが、意味的には「大人びた」{(幼稚な行為などせず)静かな」「成熟した」あたりになる。
  • んだる、うんだる【動】 - くれる、くださる。「この本、誰が(う)んだったの?(この本、だれがくれたの?)」

使用例

会話

  • 会話例1
    • A「のー、この靴下あ、おぞなってもたんやけどー」
      【訳】「ねえ、この靴下、ぼろぼろになっちゃったんだけど」
    • B「あらあ、はよからおもっしぇとこに穴空いてもてえ。どもならんで、もうなげてまいねのう。もつけねえ……」
      【訳】「あら、こんなに早くから変な所に穴が開いちゃって。どうにもならないから、もう捨てちゃったら?」(文末の「もつけねぇ」は社交辞令的に感情を述べるだけの働き)
  • 会話例2
    • 孫「おじいちゃん、遅いんやって!はよしねま!」
      【訳】「おじいちゃん、遅いよ!早くしなよ!」
    • 爺「ほんなこというなま。今行くで、もうちょっこし待てや」
      【訳】「そんなこと言うなよ。今行くから、もう少し待てよ」
  • 会話例3[2]
    • A「まいどー。お父さん、いなるけのー?」
      【訳】「こんにちは。ご主人、いらっしゃるかね?」
    • B「あー、えんのやって。よんべ、急に熱出いてー、今医者行ってるんにゃわのー。さっきまでいたんにゃけど、病院っぺ行ってくるっちゅーて、行ったんにゃわの」
      【訳】「あー、いないんですよ。ゆうべ、急に熱を出して、今医者に行ってるんだよ。さっきまでいたんだけど、病院でも行ってくると言って、行ったんだよ」
    • A「ほーか。ほりゃ、おごっちゃのー。帰んなったら、いっぺん、電話してんでのーって、言うてんで」
      【訳】「そうか。それは大ごとだね。帰られたら、一度、電話してくださいねって、言ってください」

メディア・固有名詞において

福井弁に関連した作品など

その他

  • 福井弁を用いた英単語の覚え方「どっちでも『いいざあ(either:どちらも~)』」「どっちでも『ねえざあ(neither:どちらも~ない)』がある。
  • 文章を音節に区切るとき、福井弁のように「の」(発音は「のー」)をつけると分けやすいという。共通語の「ね」に当たる。
    • 例文:「今日、私は家で数学の勉強をした。」→「今日、私は家で数学の勉強をした。」

現状

若者の間では、福井弁よりも共通語を使う傾向が強まっている。加藤和夫らの調査によると、「のくてえ(=あほ)」や「だんね(=大丈夫)」や「むだかる(=絡まる)」など、関西弁や共通語で言い換えができる言葉は世代が低くなるにつれて使用が減っており、北陸3県のなかで福井県が最も共通語化が進んでいるという。一方、しつけで多用される「おちょきん」や、共通語で言い換えられない「かぜねつ」などは根強く使われている。加藤は、福井弁の平板なアクセントは他県の出身者から「訛っている」と指摘されやすく、そのことが方言コンプレックスにつながり、共通語志向の一因になっていると分析している[11]。なお、ここで指摘されている共通語化は語彙の共通語化であり、アクセントは福井弁特有のものが根強く保たれている。

脚注

  1. ^ 飯豊・日野・佐藤編(1983)、373頁。
  2. ^ a b c d e f g 新田 (2003)
  3. ^ a b c 金田一(1977)。
  4. ^ 飯豊・日野・佐藤編(1983)、377頁。
  5. ^ a b 佐藤亮一(1983)。
  6. ^ 杉藤美代子監修、佐藤亮一ほか編(1997)『日本語音声1 諸方言のアクセントとイントネーション』三省堂、86頁。
  7. ^ 上野善道「日本語のアクセント」杉藤美代子編(1989)『講座日本語と日本語教育2 日本語の音声・音韻』明治書院
  8. ^ 山口幸洋「準二型アクセントについて」山口幸洋(2003)『日本語東京アクセントの成立』港の人。
  9. ^ 松倉昂平「福井県あわら市のアクセント分布」東京大学言語学論集 35, 141-154, 2014-09-30
  10. ^ 平山(1953-1954)。
  11. ^ だんね、のくてー―は死語? 嶺北の若者、福井弁より共通語、福井新聞、2011年10月5日配信・閲覧。

参考文献

  • 飯豊毅一日野資純佐藤亮一編(1983)『講座方言学 6 中部地方の方言』国書刊行会
    • 佐藤茂「福井県の方言」
  • 大野晋柴田武編(1977)『岩波講座日本語11方言』岩波書店
  • 井上史雄ほか編(1996)『日本列島方言叢書12 北陸方言考2 富山県・石川県・福井県』ゆまに書房
    • 平山輝男(1953-1954)「福井県嶺北方言の音調とその境界線」
    • 佐藤亮一(1983)「福井市、およびその周辺地域のアクセント」
  • 金田一春彦『金田一春彦 著作集 第八巻』玉川大学出版部
  • 『月刊言語』2003年1月号、大修館書店
    • 新田哲夫「〈小辞典〉ふるさとのことば 20 福井県」

関連項目

外部リンク