円周率

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円周率(えんしゅうりつ)(pi 英語発音: [pai])は、周長の直径に対する比率として定義される数学定数である。通常、ギリシア文字 π(パイ)で表される。数学をはじめ、物理学工学といった様々な科学分野に出現し、最も重要な数学定数とも言われる。

円周率は無理数、つまりその小数展開は循環しない。小数点以下35桁までの値は次の通りである。

π = 3.14159 26535 89793 23846 26433 83279 50288 …

円周率は、無理数であるのみならず、超越数でもある。

基礎

表記と呼び方

π という文字は、周辺・地域・円周などを意味するギリシア語 περιφέρεια(ペリフェレイア)の頭文字である。ウィリアム・オートレッドアイザック・バローにより円周を表す記号として用いられ、ウィリアム・ジョーンズレオンハルト・オイラーなどにより円周の直径に対する比率を表す記号として用いられた。日本では「パイ」と発音する。

π の別名としては、それを計算した人物の名前を取った「アルキメデス数」(: Archimedes' constant)、「ルドルフ数」(: Ludolph's constant: Ludolphsche Zahl)の他、日本・中国・韓国における「円周率」、ドイツの「Kreiszahl」などがある。

なお、「π」の字体は、表示環境によってはキリル文字п に近い π などと表示されることがある。なお、文字「π」は、数学では他に素数計数関数基本群ホモトピー群にも用いられる。またある種の写像を表すときにも慣習的に用いられることがある。

定義

幾何学的な定義

直径 1 の円の周長は π

平面幾何学において、円周率 π は、周長の直径に対する比率として定義される。円の周長を C、直径を d とすると、

全ての円は互いに相似なので、この比率は円の大きさに依らず一定である。

他の定義

上記の定義は、円の周長を用いているため、曲線の長さを最初に定義していない解析学などの分野では、π が現れる際に問題となることがある。この場合、円の周長に言及せず、解析学などにおける性質の一つを π の定義とすることが多い[1]。この際の π の定義の一般なものとして、三角関数 cos x が 0 を取るような x > 0 の最小値の2倍とするもの、級数による定義、定積分による定義などがある。

歴史

円に内接する正多角形による π の近似
円に内接・外接する正多角形による π の近似。アルキメデスによる計算。

古代

円周の直径に対する比率が円の大きさに依らず一定であり、それが 3 より少し大きい程度だということは古代エジプトバビロニアインドギリシアの幾何学者たちにはすでに知られていた。また、古代インドやギリシアの数学者たちの間では半径 r の円の面積が πr2 であることも知られていた。さらに、アルキメデスは半径 rの体積が 4/3πr3 であることや、この球の表面積が 4πr2(その球の大円の面積の4倍)であることを示した。

2千年紀

14世紀インド数学者天文学者であるサンガマグラマのマーダヴァは次のような π級数表示を見いだしている(ライプニッツの公式):

これは逆正接関数 Arctan xテイラー展開x = 1 での実現になっている。マーダヴァはまた、

を用いて π の値を小数点以下11桁まで求めている。

18世紀フランスの数学者アブラーム・ド・モアブルは、コインを 2n 回投げたときに表が x 回出る確率は、n が十分大なら、ある定数 C を取ると、

近似できることを、n = 900 における数値計算により見いだした。この正規分布の概念は1738年に出版されたド・モアブルの『巡り合わせの理論』に現れている。ド・モアブルの友人のジェイムズ・スターリングは後に、 であることを示した。

1751年ヨハン・ハインリッヒ・ランベルトは、x が 0 でない有理数ならば正接関数 tan x の値は無理数であることを示し、その系として π は無理数であることを導いた。さらに1882年フェルディナント・フォン・リンデマンπ が超越数であることを示し、円積問題(与えられた長さを半径とする円と等積の正方形作図する問題)は解くことができないことを導いた。

コンピュータによる計算の時代

20世紀以降、コンピュータの発達により、計算された円周率の桁数は飛躍的に増大した。1949年に、ジョン・フォン・ノイマンはコンピュータ ENIAC を使い70時間かけて、円周率を2037桁まで計算した[2]。その後の数十年間、さまざまな計算機科学者によって計算は進められ、1973年には100万桁を超えた。この進歩は高速なハードウェアの開発だけによるものではなく、効率のよいアルゴリズムが考案されたためである。そのうちの最も重要な発見の一つとして、1960年代高速フーリエ変換がある。これにより、多倍精度の演算が高速に実行できるようになった。

2014年現在では、円周率は小数点以下13.3桁まで計算されている[3]

性質

無理性

π無理数である。つまり、2つの整数の商で表すことはできず、小数展開は循環しない。このことは1761年ヨハン・ハインリッヒ・ランベルトが証明したが、厳密性に欠けた部分があった。その部分は1806年ルジャンドルによって補われた。

したがって、円周率のコンピュータによる計算や暗唱10進法における各数字 (0 – 9) の出現頻度は、興味の対象となる。

超越性

さらに、π は超越数である。つまり、有理数係数の有限次代数方程式の根とはならない。これは1882年フェルディナント・フォン・リンデマンによって証明された(リンデマンの定理)。これより、整数から四則演算冪根をとる操作だけを有限回組み合わせて π の正確な値を求めることはできないことが分かる。

π が超越数であることより、古代ギリシアの三大作図問題の内の一つ「円積問題」(与えられた長さを半径とする円と等積の正方形を作図すること)が不可能であることが従う。

ランダム性

π は現在小数点以下10兆桁を超える桁まで計算されている。数字0から9がランダムに現れているようには見えるが、実際は、π正規数であるかどうかは分かっていない。例えば π10進表示において、各桁を順に取り出して得られる数列

3, 1, 4, 1, 5, 9, 2, 6, 5, 3, 5, …(オンライン整数列大辞典の数列 A796

には、0から9が均等に現れるのかどうか、すなわち、この数列が乱数列になっているかどうかは分かっていない。それどころか、0から9がそれぞれ無数に現れるのかどうかすら分かっていない。

したがって、10兆桁以降の桁についてもランダムであるかどうかは、現在分かっていないのである。

ベイリーとクランドールの2000年の発表によると、ベイリー=ボールウィン=プラウフの式を用いて2進表示で様々な桁の計算をした結果では、各数字の出現率はカオス理論に基づいていると推測できるようである。

5兆桁までの数字の出現回数は以下の通りである。全てほぼ等しく、最も多いのは 8、最も少ないのは 6 である。

0:4999億9897万6328回
1:4999億9996万6055回
2:5000億0070万5108回
3:5000億0015万1332回
4:5000億0026万8680回
5:4999億9949万4448回
6:4999億9893万6471回
7:5000億0000万4756回
8:5000億0121万8003回
9:5000億0027万8819回


未解決問題

  • 超越数か?
  • 正規数か?

円周率に関する式

π についての式は非常に多い。ここではその一部を紹介する。数式によってはそれ自体が π の定義になり得るし、π近似値の計算などにも使われてきた。

幾何

解析

  • ライプニッツの公式#2千年紀も参照)
  • #2千年紀も参照)
  • ウォリス
  • 1735年オイラーバーゼル問題ゼータ関数
  • オイラー
  • Bnベルヌーイ数
  • ガウス積分
  • ガンマ関数
  • ガウス=ルジャンドルのアルゴリズム
初期値の設定:
反復式:an, bn が希望する精度(桁数)になるまで以下の計算を繰り返す。小数第 n 位まで求めるとき log2 n 回程度の反復でよい。
π の算出: 円周率 π は、an, bn, tn を用いて以下のように近似される。
非常に収束が早く[4]金田康正が1995年に42億桁、2002年に1.24兆桁を計算したスーパーπに使われていた。
  • スターリングの近似f(n)~g(n) は を表す)
  • φ(k) はオイラーのφ関数
  • eπi + 1 = 0 (オイラーの等式
(オイラーの等式の一般式)
この式は、2 以上の任意の整数 n に対して成り立ち、1 の n 乗根全ての和は 0 であることを意味している。n = 2 とするとオイラーの等式を得る。
  • ラマヌジャン
  • (ラマヌジャン)
  • ビエト
  • マチン、1709年)
ただし arctan x主値
を取るものとする。
と書かれることもある。
収束が早いため、コンピュータ初期の高精度整数演算の練習問題として、よく使われた。
  • 連分数表示:
  • (チュドノフスキー)
(各項の素因数分解:
13591409 = 13 × 1045493,
545140134 = 2 × 32 × 7 × 11 × 19 × 127 × 163,
640320 = 26 × 3 × 5 × 23 × 29)
  • (チュドノフスキー)
  •  (David Bailey, Peter Borwein and Simon Plouffe、俗称「BBP」)
  • (Adamchik and Wagon)
  • (Fabrice Bellard)[5][6]
  • [7]

数論

  • 整数全体から無作為に2つ取り出す時、その2つが互いに素である確率は 6/π2 である。

力学系・エルゴード理論

ロジスティック写像 xi+1 = 4xi(1 − xi) により帰納的に定まる数列 {xi} を考える。初期値 x0 を 0 以上 1 以下に取るとき、そのほとんど全てで、次が成り立つ。

統計

  • 正規分布確率密度関数
  • 幅 1 の無数の平行線の上から長さ 1/2 の針を落とすとき、その針が直線と共有点を持つ確率は 1/π である(ビュフォンの針)。

その他

  • 河川の長さの水源河口間の直線距離に対する比率は、平均すると円周率に近い[8]

暗唱

語呂合わせ

π の桁を記憶術に頼らずに暗記する方法が各種存在している。

日本語では、語呂合わせにより、長い桁を暗記するのも比較的簡単である。有名なものとして、以下がある。

産医師異国ニ向コー、産後厄無ク産婦御社ニ虫サンザン闇ニ鳴ク
マーティン・ガードナー著、金沢養訳、『現代の娯楽数学 新しいパズル・マジック・ゲーム』(白揚社、1960年)144頁
かう さん ざん
3. 1 4 1 59 2 6 5 3 5 89 7 9 3 2 3 8 4 6 2 64 3 3 83 2 7 9 (30桁))

英語圏では語呂合わせがうまくいかないため、単語の文字数で覚える方法がある。

Yes, I have a number.
3. 1 4 1 6 (小数点以下4桁までで四捨五入)
How I want a drink, alcoholic of course, after the heavy lectures involving quantum mechanics!
3. 1 4 1 5 9 2 6 5 3 5 8 9 7 9 (14桁)
How I want a drink, alcoholic of course, after the heavy lectures involving quantum mechanics! and if the lectures were boring or tiring, then any odd thinking was on quartic equations again
3. 1 4 1 5 9 2 6 5 3 5 8 9 7 9 3 2 3 8 4 6 2 6 4 3 3 8 3 2 7 9 5 (31桁)S.ボトムリー

これらのような覚え方は多くあり、日本語では上記のものの改編で90桁までのものや、歌に合わせたもの、数値を文字に置き換えて1,000桁近く覚える方法などがある。

暗唱記録

ギネス世界記録』によれば、円周率暗唱の世界記録は2005年11月20日に6万7890桁を暗唱した中国人、呂超(西北農林科技大学大学院生)が記録したものである[9][10]

2004年9月25日原口證が8時間45分かけて円周率5万4000桁の暗唱に成功し、従来の世界記録を更新した。しかしながら、実際はより多くの桁を覚えていたため、2005年7月1日 - 7月2日に再挑戦し、8万3431桁までの暗唱に成功した。2006年10月3日午前9時 - 10月4日午前1時30分(16時間30分)の挑戦で円周率10万桁の暗唱に成功した。ギネス世界記録に申請中である。

文化的影響

ベルリン工科大学数学科の近くにあるタイル

という日常でもよく知られた図形についての単純な定義でありながら、小数部分が無限に続くという不思議さから、数学における概念の中で最もよく知られたものの一つである。

  • 3月14日円周率の日および数学の日である。小数点以下が「永遠に続く」という意味にあやかり、3月14日に結婚するカップルもいる[11]。また7月22日は円周率近似値の日とされている(22/7 は円周率の近似値)。
  • 2012年8月14日、米国勢調査局が、米国の人口が円周率と同じ並びの3億1415万9265人に達したと発表した。アメリカには円周率の曲を作る人もいる[12]
  • 組版処理ソフトウェアTeXのバージョン番号は、 3.14, 3.141, 3.1415, … というように、更新のたびに円周率に近づいていくように一桁ずつ増やされる。

脚注・出典

  1. ^ Rudin, Walter (1976) [1953]. Principles of Mathematical Analysis (3e ed.). McGraw-Hill. p. 183. ISBN 0-07-054235-X 
  2. ^ "An {ENIAC} Determination of pi and e to more than 2000 Decimal Places", Mathematical Tables and Other Aids to Computation, 4 (29), pp. 11–15. (January, 1950)
  3. ^ “y-cruncher - A Multi-Threaded Pi-Program”. http://www.numberworld.org/y-cruncher/ 2015年2月1日閲覧。 
  4. ^ 3回の反復で小数18位まで求めることができる
  5. ^ A new formula to compute the n'th binary digit of pi - Fabrice Bellard
  6. ^ 円周率の公式集 暫定版 V er:3.141 - 松元隆二
  7. ^ 黒田 2002, p. 176.
  8. ^ サイモン・シン著、青木薫訳、『フェルマーの最終定理』、新潮社、2000年、ISBN 4-10-539301-4、42ページ
  9. ^ 陝西省の大学院生、円周率暗唱のギネス新記録樹立[リンク切れ]
  10. ^ レコードチャイナ:円周率6万桁以上を暗唱、世界記録に輝いた「記憶の達人」-陝西省楊凌市
  11. ^ 安田美沙子3・14結婚は『円周率=永遠』の意味だった[リンク切れ]スポニチアネックス 2014年3月16日(日)12時17分配信
  12. ^ 米国の人口が円周率と「同じ」に 3億1415万9265人 CNN 2012.08.15 Wed posted at 12:42 JST

参考文献

関連項目

数学に関するもの
教育に関するもの
社会に関するもの

外部リンク