基本群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

数学、特に代数トポロジーにおいて、基本群(fundamental group)とは、ある固定された点を始点と終点にもつふたつのループが互いに連続変形可能かを測る点付き位相空間英語版に付帯するである。直感的には、それは位相空間の基本的な形や穴を記憶する。基本群はホモトピー群の最初で最も単純な例である。基本群は位相不変量である。つまり同相な位相空間は同じ基本群を持つ。

基本群は被覆空間の理論により研究することもできる。基本群は元の空間に付帯する普遍被覆空間被覆変換群に一致するからである。これのアーベル化英語版(abelianization)が空間の第一ホモロジー群に一致することができる。位相空間が単体複体に同相のとき、基本群は群の生成子と関係式英語版のことばで明確に記述することができる。

基本群はアンリ・ポアンカレによって1895年に彼の論文「Analysis situs[1]で定義された。リーマン面の概念の現れたのが、ベルンハルト・リーマンとポアンカレとフェリックス・クラインの仕事である。そこでは、基本群は完備なトポロジカルな曲面の分類と同じように、複素函数モノドロミー英語版的性質であった。

直感的説明[編集]

空間(例えば、曲面)とその中に点があり、すべてのループがこの点を始点と終点をすると、 — この点を始点とするループは、周囲を巡ってから結局始点へ帰ってくる。明確な方法で、2つのループを互いに結合すると、最初のループに沿って移動してから、第二のループに沿って移動する。2つのループは、ループを壊すことなく変形できるときに同値であると考える。この方法で結合関係と同値関係を入れるとすべてのループは、その空間の基本群を形成する。

定義[編集]

X を位相空間、x0 を X の点とする。基点 x0 を持つループと呼ばれる連続函数の集合に注目する。

\{f:[0,1]\to X : \ f(0)=x_0=f(1)\}

ここで、基点 x0 を持つ X の基本群は、ホモトピー h を法(modulo)とする集合である。

\{f:[0,1]\to X : \ f(0)=x_0=f(1)\} / h

この群の乗法は次のように与えられる。

 (f \ast g) (t) = \begin{cases} f(2t) & 0 \leq t \leq \tfrac{1}{2} \\ g(2t-1) & \tfrac{1}{2} \leq t \leq 1 \end{cases} .

このようにループ f ∗ g は最初はループ f を「2倍の速度」で回り、次にループ g を 2倍の速度で回る。2つのループ [f] と [g] のホモトピー類の積は、 [f ∗ g] として定義され、この積は代表する元の選択には依存しないことを示すことができる。

上記の積を持つと、基点 x0 を持つループのすべてのホモトピー類の集合は、基点 x0 を持つ X の基本群を形成し、この基本群を

\pi_1(X,x_0),

あるいは、単に π(X, x0) と書く。単位元は基点に留まる定数写像で、ループ f の逆元は g(t) = f(1 − t) で定義されるループ g である。すなわち、g は f の逆向きのループである。

基本群は一般的には基点の選択に依存しているにもかかわらず、空間 X が弧状連結である限り、同型の違いを除いて(実際は、内部自己同型の違いを除いて)、この選択は何の差異ももたらさないことが分かる。したがって弧状連結空間に対し、同型類英語版にさえ気を付けていれば、曖昧さなしで π1(X, x0) の代わりに π1(X) と書くことができる。

[編集]

自明な基本群[編集]

n-次元ユークリッド空間 RnRn 内の任意の凸集合に対して、唯一のループのホモトピー類があり、基本群はひとつの元からなる自明な群である。自明な基本群を持つ弧状連結な空間を単連結空間と呼ぶ。

無限巡回群になる基本群[編集]

例はであり、各々のホモトピー類はループが何回円の周りを回ったかの数からなる(巻き付く方向によって正にも負にもなりうる)。m 回巻き付いているループと n 回巻き付いているループの積は、 m + n 回巻き付いているループとなる。従って、円の基本群は (Z, +) に同型をなり、整数の加法群である。この事実は、ブラウアーの不動点定理英語版や 2 次元のボルスーク・ウラムの定理英語版を証明することに使うことができる。

基本群はホモトピー不変量であるので、複素平面から一点を除いた平面の巻き付き数英語版の理論は、円(の基本群)と同じとなる。

高次ランクの自由群[編集]

位相空間に付帯するホモロジー群や高次ホモトピー群とは異なり、基本群は可換である必要はない。例えば、ブーケ (数学)の基本群は、2つの生成子の自由群である。さらに一般的に、任意のグラフの基本群は、自由群である。グラフ G が連結であれば、自由群のランクは最小全域木の辺の数に等しい。

n 個の穴のあいた平面の基本群は、n 個の生成子を持つ自由群で、i-番目の生成子は他のどの穴の周りも回らない i-番目の穴の周りを回るループのクラスである。

結び目理論[編集]

非可換基本群を持つもう少し複雑な空間の例は、R3 の中の三葉結び目の補空間であり、この場合はブレード群 B_3 であることが知られている。

函手性(Functoriality)[編集]

f : X → Y を連続写像とし、x0 ∈ X と y0 ∈ Y は f(x0) = y0 とすると、基点 を x0 とする X の任意のループは、y0 を基点とする Y のループから構成することができる。この操作は、ループの合成のホモトピー同値関係と整合性を持っている。結果としてでてくる群準同型は、引き起こされた準同型英語版(induced homomorphism)と呼ばれ、π(f) と書く。普通は、

f_* : \pi_1(X, x_0) \to \pi_1(Y,y_0).

とも書かれる。この連続写像から群準同型への写像は、恒等写像と写像の結合と整合性を持っている。言い換えると、(この準同型は、)点付き空間の圏英語版(category of topological spaces with base point)から群の圏英語版への函手である。

この函手は、基点に対してホモトピックである写像を区別することはできないことが分かる。f, g : X → Y が連続写像で、f(x0) = g(x0) = y0 であり、f と g は {x0} と相対的にホモトピックであれば、f = g となる。結局、2つのホモトピー同値な弧状連結空間は同型な基本群を持つ。

X \simeq Y \Rightarrow \pi_1(X,x_0) \cong \pi_1(Y,y_0).

重要で特別な場合として、X が弧状連結であれば、いかなる 2つの異なる基点も同型な基本群を与え、同型は与えられた 2つの基点の間の経路を選択することで与えられる。

基本群の函手は、群の直積英語版余積を余積へ写像する。すなわち、X と Y が弧状連結であれば、

\pi_1 (X\times Y) \cong \pi_1(X) \times \pi_1(Y)

\pi_1 (X\vee Y) \cong \pi_1(X) * \pi_1(Y)

が成り立つ。(後者の公式では、\vee 位相空間のウェッジ和英語版を表し、* は群の自由積英語版を表す。)双方の公式は任意の積に対して一般化することができる。さらに後者の式は、ザイフェルト=ファン・カンペンの定理英語版(Seifert–van Kampen theorem)の特別な場合になっている。ここでザイフェルト=ファン・カンペンの定理は、基本群の函手が包含写像に沿った押し出し英語版(pushout)を定めるという定理である。

ファイバー構造[編集]

空間の積の一般化は、ファイブレーション英語版(fibration)により与えられる。

F \to E \to B.

ここに全空間(total space) E は、基礎空間(base space) B とファイバー(fiber) F の「ツイスト英語版した積」の一種である。一般に、B, E, F の基本群は、高次ホモトピー群を含むファイブレーションの長完全系列英語版(long exact sequence)の項である。空間がすべて連結のとき、この系列は次の基本群についての結果をもたらす。

  • F が単連結であれば、π1(B) と π1(E) は同型である。
  • E が可縮であれば、πn+1(B) と πn(F) は同型である。

後者の式は、しばしば次のような状況へ応用される。E を B の道の空間英語版(path space)、F を B のループ空間英語版(loop space)とするか、もしくは、B を 位相群 G の分類空間 BG とし、E を普遍 G-バンドル EG とする。

1次のホモロジー群との関係[編集]

位相空間 X の基本群は、ループは特異 1-サイクルでもあるので、1次の特異ホモロジー群と関連している。基点を x0 とする各々のループのホモトピー類をループのホモロジー類へ写像することは、基本群 π1(X, x0) からホモロジー群 H1(X) への準同型を与える。X が弧状連結であれば、この準同型は全射で、そのは、π1(X, x0) の交換子部分群であり、従って H1(X) は π1(X, x0) のアーベル化に同型である。これは代数トポロジーのフレヴィッツの定理英語版の特別な場合である。

普遍被覆空間[編集]

X が弧状連結な位相空間であり、局所弧状連結で局所単連結であれば、X は単連結な普遍被覆空間を持ち、その上で基本群 π(X,x0) は商空間 X に、被覆変換により自由に作用する。この空間は、ペア (x, γ) をとることで、基本群と同様に構成することができる。ここに x は X の点であり、γ は x0 から x への道のホモトピー類で、π(X, x0) の作用は経路を足すことによる。この空間は一意な被覆空間として決まる。

[編集]

[編集]

S1 の普遍被覆は、直線 R で、S1 = R/Z を得る。よって、任意の基点 x について、π1(S1,x) = Z となる。

トーラス[編集]

前の例である 2つの円のカルテシアン積をとることにより、トーラス T = S1 × S1 の普遍被覆は平面 R2 である。T = R2/Z2 を得る。このようにして、π1(T,x) = Z2 が基点 x について成り立つ。

同様にして、n-次元のトーラスの基本群は、 Zn となる。

実射影空間[編集]

n ≥ 1 に対し、n-次元実射影空間 Pn(R) は、n-次元球面 Sn を中心対称性で割って Pn(R) = Sn/Z2 求められる。n-球面 Sn は n ≥ 2 では単連結なので、実射影空間の普遍被覆であることが結論づけられる。このようにして、Pn(R) の基本群は、 n ≥ 2 に対して Z2 である。

リー群[編集]

G が連結かつ単連結なコンパクトリー群英語版とする。例えば、G を特殊ユニタリ群 SU(n) とし、Γ を G の有限部分群としよう。すると、等質空間英語版 X = G/Γ は基本群 Γ を持つ。Γ は右から乗法的に普遍被覆空間 G の上に作用する。この構成には多くの種類があるが、最も重要な構成は局所対称空間英語版  X = \Gamma\backslash G/K である。ここでは、

が成り立つ。

この場合には、基本群は Γ であり、普遍被覆空間 G/K は可縮である(リー群カルタン分解英語版による)。

例では、G = SL(2, R), K = SO(2) で、Γ はモジュラ群 SL(2, Z) の任意のねじれのない合同部分群英語版である。

明らかにわかるように、弧状連結な位相空間である普遍被覆空間 H が、再び、弧状連結な位相群 G である。さらに、被覆写像は G から H の上への連続で開準同型であり、は Γ で、G の閉じた離散正規部分群である。

 1 \to \Gamma \to G \to H \to 1.

G は連結群で離散群 Γ 上の共役により連続作用を持っているので、自明に作用するはずで、従って、Γ は G の中心の部分群となっているはずである。特に、π1(H) = Γ は可換群で、このことも被覆空間を使うことなしに容易に直接わかる。群 G は H の普遍被覆群と呼ばれる。

普遍被覆群が示唆しているように、位相群の基本群と群の中心とは類似関係にあり、このことは被覆群の束英語版(Lattice of covering groups)に詳しく記載されている。

単体複体のエッジ経路群[編集]

X を連結単体複体とすると、X のエッジ経路(edge-path)は、X の辺によって連結される頂点のチェイン(鎖体)として定義される。2つのエッジ経路がエッジ同値とは、途中の辺をそれを持つ X の中の三角形の反対側の2つの辺と入れ替えることを繰り返すことによって得られる場合を言う。v を X の固定した頂点とすると、v でのエッジループ(edge-loop)は、v を始点と終点とするエッジ経路であるという。エッジ経路群(edge-path group) E(X, v) は、v でのエッジループのエッジ同値な同値類の集合として定義され、積や逆元はエッジループのつなぎ合わせと逆回りにより定義される。

エッジ経路群は、X の幾何学的な対象とみなした |X| の基本群である π1(|X|, v) と自然に同型となる。このことは、X の2-スケルトン英語版 X2 (つまり、X の頂点、辺、三角形)に依存しないので、群 π1(|X|,v) と π1(|X2|, v) は同型である。

エッジ経路群は生成子と元の関係英語版のことばで明確に記述される。T を X の1-スケルトン英語版の最大スパニングツリーとすると、E(X, v) は、生成子(T には現れない X の向きづけられたエッジ経路)と元の関係(X の三角形に対応するエッジ同値)を持つ群と標準的に同型である。T を任意の単連結—特に可縮な— X の部分複体に置き換えても、同じ結果が成立する。このことはしばしば、基本群の計算をする実践的な方法をもたらし、すべての有限な群法則英語版が有限の単体複体の基本群として生成できることを示せる。このことはまた、トポロジカル曲面の古典的方法のひとつで、基本群によって分類できる。

有限で連結な単体複体 X の普遍被覆空間は、エッジ経路を使い単体複体として直接記述できる。頂点はペア (w,γ) であり、ここに w は X の頂点で、γ は v から w への経路のエッジ同値類である。 (w,γ) を含む k-複体は自然に w を含む k-単体に対応する。k-単体の各々の新しい頂点 u は、エッジ wu を与えるので、従ってつなぎ合わせ(concatenation)により v から u への新しい経路 γu を与える。点 (w,γ) と (u, γu) は、普遍被覆空間の中で「変換された」単体の頂点である。エッジ経路群は自然につなぎあ合わせにより作用し、単体構造を保存し、商空間はまさに X に一致する。

よく知られているように、この方法は任意の位相空間の基本群を計算することにも使われる。このことは疑いなく、エドアード・チェック英語版(Eduard Čech)とジャン・ルレイ英語版(Jean Leray)により知られていて、明らかには論文 Weil (1960) の中に注意として記載されていて、L. Calabi, W-T. Wu や N. Berikashvili といった多くの著者により証明が与えられている。被覆の中の有限個の開集合の空でない共通部分がいつでも可縮となるような有限な開被覆を持つコンパクト空間 X の最も単純なケースでは、基本群は開被覆の脈体英語版(nerve of the covering)に対応する単体複体のエッジ経路群と同一視することができる。

実現性[編集]

  • すべての群は、2 次元(もしくはより高次元の)連結CW複体英語版として実現することができる。上記で注意したように、自由群でさえ、1-次元のCW複体の基本群として現れる(つまりグラフである)。
  • すべての有限の群法則英語版は、4 次元(もしくは、それ以上の高次元の)コンパクトな連結微分可能多様体英語版の基本群として実現できる。しかし、低次元の多様体の基本群として実現されるには、厳しい制限がある。例えば、ランク 4 もしくはそれ以上の自由アーベル群は、次元が 3 以下の多様体の基本群としては実現できない。

関連する概念[編集]

基本群は、空間の 1-次元の穴の構造を測る。「高次元の穴」の研究のためには、ホモトピー群が使われる。X の n-ホモトピー群の元は、Sn から X への(基点を保つ)写像のホモトピー類である。

特別な基点を持つループの集合は、ホモトピックなループを同値と考えずに研究される。この大きな対象は、ループ空間英語版である。

位相群では、つなぎ合わせではなく各点における積によって、ループの集合に別の群の積を割り当てることもできる。この群がループ群英語版である。

基本亜群[編集]

さらに、ひとつの基点を選んでホモトピー同値なループを考えるのではなく、空間の中の「すべて」の道のホモトピー類を考えることもできる(始点と終点は固定する)。これは群ではなく、亜群英語版(groupoid)であり、空間の基本亜群(fundamental groupoid)となる。

さらに一般的に、幾何学的な状況に沿った選択をした基点の集合 A の上の基本亜群を考えることができて、例えば円周の場合は、共通部分が2つの連結成分を持つような、2つの連結開集合の合併として表現できるので、各成分の中から1つずつ基点を選択することができる。この理論が現れたのは、Topology and groupoidsとして現在は出版されている1968年と1988年の版で与えられ、被覆空間軌道空間と関連する考え方も記載されている。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Poincaré, Henri (1895). “Analysis situs” (French). Journal de l'École Polytechnique. (2) 1: 1–123. http://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k4337198/f7.image.  Translated in Poincaré, Henri (2009). “Analysis situs”. Papers on Topology: Analysis Situs and Its Five Supplements. Translated by John Stillwell. pp. 18–99. http://www.maths.ed.ac.uk/~aar/papers/poincare2009.pdf. 

外部リンク[編集]