ワサビ

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ワサビ
ワサビの葉
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
亜綱 : ビワモドキ亜綱 Dilleniidae
: フウチョウソウ目 Brassicales
: アブラナ科 Brassicaceae
: ワサビ属 Wasabia
: ワサビ W. japonica
学名
Wasabia japonica Matsum.
syn.
Eutrema japonica (Miq.) Koidz.
和名
ワサビ
英名
Wasabi, Japanese horseradish
ワサビ(根茎、生)[1]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 368 kJ (88 kcal)
18.4 g
食物繊維 4.4 g
0.2 g
飽和脂肪酸 0 g
一価不飽和 0 g
多価不飽和 0 g
5.6 g
ビタミン
ビタミンA相当量
(0%)
1 µg
(0%)
7 µg
チアミン (B1)
(5%)
0.06 mg
リボフラビン (B2)
(13%)
0.15 mg
ナイアシン (B3)
(4%)
0.6 mg
パントテン酸 (B5)
(4%)
0.20 mg
ビタミンB6
(25%)
0.32 mg
葉酸 (B9)
(13%)
50 µg
ビタミンB12
(0%)
(0) µg
ビタミンC
(90%)
75 mg
ビタミンD
(0%)
(0) µg
ビタミンE
(9%)
1.4 mg
ビタミンK
(47%)
49 µg
ミネラル
ナトリウム
(2%)
24 mg
カリウム
(11%)
500 mg
カルシウム
(10%)
100 mg
マグネシウム
(13%)
46 mg
リン
(11%)
79 mg
鉄分
(6%)
0.8 mg
亜鉛
(7%)
0.7 mg
(2%)
0.03 mg
他の成分
水分 74.2 g
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。
出典: USDA栄養データベース(英語)
天城山の北麓、伊豆市筏場のワサビ田。天城山の清流を利用して250年以上前から栽培され、棚田は1500枚にもおよぶ[2]。
天城山の北麓、伊豆市筏場のワサビ田。天城山の清流を利用して250年以上前から栽培され、棚田は1500枚にもおよぶ[2]

ワサビ(山葵)は、アブラナ科ワサビ属の植物。日本原産。食用。独特の強い刺激性のある香味を持ち、日本原産の香辛料として、以前から、欧米や東南アジアで認知度の高まりを見せているが、東欧では自産のセイヨウワサビが伝統的に出回っているため、Wasabiを知るのは日本に興味を持つ人に限られる。 また、日本においてはセイヨウワサビを使った練りワサビが一般的に使われているが、そのワサビを日本独特のものだと誤解している人も多い。

名称

植物の学名はWasabia japonica、もしくは、ワサビ属 (Wasabia) をユートレマ属 (Eutrema) とし、Eutrema japonica とする。

多くの栽培品種があるが、「達磨」- 'Daruma' と「真妻」- 'Mazuma' が代表的。

918年の『本草和名』で、「山葵」の和名を和佐比と記している。同じく平安時代の『和名類聚抄』にも和佐比と記されている。

ワサビの名が付く近縁な植物、特にセイヨウワサビと区別するため本わさびと呼ぶことがある。

地下茎をすり下ろしたすりわさびの事をワサビと呼ぶこともある。寿司屋の符牒なみださびがある。寿司刺身の世界的な普及に伴って、英語フランス語台湾語広東語韓国語などでそのままwasabiという発音で借用されている。

ワサビが効きすぎると大人でも涙ぐんでしまうことと、わび・さびを合わせた音が近いこと、子供は好まずワサビの良さは大人にならないとわからないことから、大人の哀愁のモチーフとして題名等に使われることもある。

歴史

わさびについて記された最古の史料は、奈良県明日香村飛鳥京跡から出土した、685年(白鳳14年)に書かれたと思われる木簡である。「委佐俾三升(わさびさんしょう)」と書かれており、わさびを入れた容器に付けられた札と考えられている[3]

古くは奈良時代718年に出された「賦役令」(現代の法人税法施行令に相当)の中に「山葵」(わさび)の名前が見られる。土地の名産品としてすでに納付され、薬用として使用されていたと考えられる。

室町時代、すでに現代と同じ薬味としての利用が確立されていた。さらに江戸時代に入ると寿司蕎麦の普及とあわせ、広く一般に普及・浸透していった。古くは自生のものを採取、利用していたが、江戸時代に現在の静岡市葵区有東木(うとうぎ)地区に住む村人が、野生のわさびを栽培したのが栽培普及の初端と伝えられる。

有東木のワサビは、駿府城大御所政治を執っていた徳川家康に献じられ、その味が絶賛されたこと、またワサビの葉が徳川家家紋の「葵」に通じることから幕府の庇護を受けることとなった。一方で門外不出の扱いとなり、その栽培技術を他地区に広げることは禁じられた。

1744年延享元年)、天城湯ヶ島(現伊豆市)で山守を務めていた板垣勘四郎は三島代官の命によりシイタケ栽培の技術指導で有東木を訪れた。板垣はワサビの栽培を天城でも行いたいと懇願し、有東木の住民はシイタケの礼から禁を犯して板垣にワサビの苗を持たせた。この後、板垣の努力で天城でも栽培が始められることになる。

産地

日本の主要な産地は静岡県長野県東京都奥多摩)、島根県山梨県岩手県等である。また、台湾南部、ニュージーランド中国雲南省などでも栽培されている。

ワサビの最高級品種は静岡県産の真妻、甘みと辛味が強いのが特徴である。

ワサビの産地である伊豆市安曇野市では市の花に指定されている。

栽培法

栽培の方法は大別して、水の中で育てる水ワサビ(沢ワサビ)と、畑で育てる畑ワサビ(陸ワサビ)がある。水ワサビは、山間部の水路や沢を利用したワサビ田で栽培または自生し、生食用として利用される。畑ワサビは小形のため、主に葉や茎を加工して、酒粕と合わせ「わさび漬け」にする。

水ワサビの根は大きいが、畑ワサビや自生種のワサビの根は小さい。これはワサビが根から放出するアリルイソチオシアネートの影響による。この物質は周辺の土壌を殺菌し、根に菌を住まわせる必要がある一般的な植物が生えないようにしているが、ワサビ自身もこの物質によって大きくなれない(自家中毒)。対して水ワサビは、流水と透水性の良い土壌によってアリルイソチオシアネートが洗い流されるので、大きくなることが出来る。

水ワサビの生育には、豊富で綺麗な水温9 - 16℃ [4]の水と、砂地などの透水性が良い土壌が必要で、強い日光を嫌う。肥料等は必要なく生育の手間も殆ど要らないが、大量のきれいな水のある場所に生育が限定されるため、栽培の難しい農作物としても知られる一方、山間の沢や水路を利用して小規模に栽培されることもある。

種類は赤茎種と緑茎種の2種類がある。キャベツと同じアブラナ科の植物であるため、時としてモンシロチョウ幼虫青虫)に葉を食害される。

有効成分

ワサビの辛味成分は、芥子菜など、アブラナ科の植物が多く含むからし油配糖体(グルコシノレート)の一種のシニグリンが、すりおろされる過程で酸素に触れ、細胞にある酵素と反応することにより生成されるアリルイソチオシアネート(6-メチルイソヘキシルイソチオシアナート、7-メチルチオヘプチルイソチオシアナート、8-メチルチオオクチルイソチオシアナート)などであり、殺菌効果もある。

唐辛子の辛味成分であるカプサイシンとは辛味成分が全く異なる。

利用・加工法

採取・切断して販売される地下茎
すりおろした状態
鮫皮のワサビおろし

地下茎

地下茎をすりおろしたものは、日本料理の薬味として寿司刺身茶漬け蕎麦などに使用される。洋食のローストビーフスパゲッティに使われることもある。また西洋料理、特に日本料理に影響を受けた近代フランス料理でソースなどに使用されることがある。殺菌効果を持つため、生ものと一緒に食べるとよいと信じられている。

すりおろす道具としては、酸素と触れなければ辛味が出てこないため、細胞を細かく摩砕できるサメの皮で作られたおろし器が良いとされている。また、俗にワサビは金気を嫌うので金おろしを使わないという。ただし現実には、細目の金おろしを使っている和食店、寿司店も多いが、そのことによって料理店の良し悪しが付けられてしまうこともある。

ワサビの風味、特に辛味は揮発性のものが多いため、すり下ろして余り時間を置くと風味を失ってしまうが、すってすぐの物も味にカドが有り一般には使われない。地下茎とおろし器を供し自分でするシステムを取る店も有るが、あくまで下ろしたてという「風情」を味わう為で有る。

またワサビを醤油で溶いたりしても、殆どが醤油に含まれるメチオノールで消臭されるため、風味を弱く感じるようになる。作家・池波正太郎は著書『男の作法』の中で「刺身の上にわさびをちょっと乗せて、それにお醤油をちょっとつけて食べればいいんだ。そうしないとわさびの香りが抜けちゃう。醤油も濁って新鮮でなくなるしね」と述べている[5]

ワサビの鼻につんとくる独特の刺激的な辛さは、一般的に子供には好まれない。そのため、寿司などにワサビを入れないものを「サビ抜き」といい、子供やワサビが苦手な人のために作られる。 また、逆に鉄火巻きの要領でワサビだけを巻いた寿司として「ワサビ巻き(なみだ巻き)」がある。

刻んだ地下茎を酒粕に混ぜて漬け込んだ粕漬けの一種のわさび漬けは、酒のつまみや米飯の副菜となり、静岡県の名物となっている。

島根県の山間部には山葵の風味を生かした汁かけご飯の一種、うずめ飯がある。

葉、茎、花

葉や茎や花を軽く湯通しし、密閉した容器にしばらく保管しておくとワサビの辛い風味をおひたしで味わうことができる。同様に、葉や茎を醤油と一緒に瓶に詰めた醤油漬けもある。保存が利き、茶請けや付け合せ、酒のツマミなどとして利用される。ワサビの葉の醤油漬けは、巻き寿司にされることもある。花や葉は天ぷらとすることもある。

葉や茎は、成分・エキスを抽出したり、すり下ろして練りわさびやスナック菓子などの風味付けの材料として用いられる。ワサビ風味の食品には、冷菓(ソフトクリームアイスクリーム)、米菓(せんべいあられ)もある。

食用外でも、アリルイソチオシアネートの殺菌作用や、植物の老化を早めるエチレンガスの発生を抑制する作用を利用して、食品・野菜用の抗菌・消臭・鮮度保持剤として冷蔵庫などで使用する製品もある。弁当用の防腐剤防虫剤としても利用されている。

ワサビに対してアレルギーをもつ人がいる。

広義のわさび

わさびの名が付く植物

ワサビに似た辛味がある植物に、ワサビの名がついていることがある。ただし、必ずしもワサビと近縁ではない。

  • セイヨウワサビ(西洋山葵)、ワサビダイコン(山葵大根) Armoracia rusticana
  • ユリワサビ(百合山葵)、イヌワサビ(犬山葵) Wasabia tenuis syn. Eutrema tenuis
  • ワサビノキ(山葵の木) Moringa spp. - ワサビとは遠縁である。

粉わさび・練りわさび

現在では缶入りの粉わさびやチューブ入りあるいはパック入り(主に弁当用)の練りわさびが市販され、一般家庭ではこちらが広く用いられているが、これらの原料には匂いが少ないセイヨウワサビを緑色に着色したものが使用されていることが多い。

本わさびの入ったものもある。地下茎は保存に向いていないため、それ以外の葉や茎の部分が使用される事が多い。原料に本わさびの量が50%以上の場合は「本わさび使用」、50%未満の場合は「本わさび入り」と表示されるものもある。

脚注

  1. ^ 五訂増補日本食品標準成分表
  2. ^ 現地解説板より
  3. ^ わさびの知識/わさびの歴史”. 金印わさび. 2012年4月11日閲覧。
  4. ^ 東京都立農業高校 神代農場 ワサビ栽培
  5. ^ 池波正太郎 『男の作法』 p.83 新潮文庫 1981年

関連項目

外部リンク