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「地震警報システム」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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[[Image:Earthquake Early Warning (Japan).jpg|thumb|300px|[[緊急地震速報]]システム]]
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'''地震警報システム'''(じしんけいほうシステム)とは、「'''''[[地震]]が起こった後に'''''、[[震源]]要素{{efn|震源の経緯度、深さ、マグニチュードを指す。断層のパラメータ(走向、傾斜角、すべり量)を含める場合もある。}}や[[地震動]]の分布を迅速に解析し、その情報をいろいろなユーザー([[防災]]関係者、電気、ガス、水道、電話、交通、[[報道機関|報道]]、個人)に伝えて防災に役立てること<ref>菊池正幸『リアルタイム地震学』([[東京大学出版会]]、2003年)p.2022</ref>」であり、地震の際に[[警報]]を発して被害を最小限に抑えるための安全管理システムである。
'''地震警報システム'''(じしんけいほうシステム)とは、「'''[[地震]]が起こった後に'''、[[震源]]要素{{efn|震源の経緯度、深さ、マグニチュードを指す。断層のパラメータ(走向、傾斜角、すべり量)を含める場合もある。}}や[[地震動]]の分布を迅速に解析し、その情報をいろいろなユーザー([[防災]]関係者、電気、ガス、水道、電話、交通、[[報道機関|報道]]、個人)に伝えて防災に役立てること<ref>菊池正幸『リアルタイム地震学』([[東京大学出版会]]、2003年)p.2022</ref>」であり、地震の際に[[警報]]を発して被害を最小限に抑えるための安全管理システムである。


構造物の[[耐震]]化や地震時対応の強化などの事前防災、'''''発生前に'''''地震を予測する[[地震予知]]と並ぶ地震対策の一つであり、1990年代以降大きく発達し普及が進んでいる。
構造物の[[耐震]]化や地震時対応の強化などの事前防災、発生前に地震を予測する[[地震予知]]と並ぶ地震対策の一つであり、1990年代以降大きく発達し普及が進んでいる。


== 仕組み ==
== 各種の地震警報システム ==
地震警報システムは、地震の[[初期微動]]を観測して、早い段階で対応をとることにより、被害を最小限に抑えようと開発されたシステムである。
地震警報システムは1990年代以降多様なシステムが考案されていて、その特性や目的が異なる。

地震が起こると、特性の異なる主に2種類の[[地震波]]が周囲に広がることにより振動が発生する。地震波のうち[[地震波#S波 (S-wave)|S波]]は大きな揺れ(主要動)で被害を引き起こす地震波で、毎秒約4km程度と比較的ゆっくり伝わる波である。対する[[地震波#P波 (P-wave)|P波]]は小さな揺れ(初期微動)のため被害を起こす地震波ではないものの、毎秒約7km程度とS波の約2倍の速さで伝わるため、このP波を観測して素早く情報を伝えることで、被害を未然に防ぐことができるというのが基本的な考え方である{{efn|しばしば、P波を雷光に、S波を[[雷]]の音にたとえて説明がなされる。このたとえに従えば、雷光があったら素早くそれを伝えることで、ゴロゴロという音に備えることができるというわけである。}}。

原理自体は極めて単純であり、19世紀後半から20世紀初頭にはこれに類似したアイディアが既に存在しており、初期のものとしてカリフォルニア州でしばしば発生する[[サンアンドレアス断層]]を震源とする地震に対するアイディアなどが知られる<ref name="yobo23121"/><ref name="yoshii-1"/>。しかし、通信、観測、処理(揺れが地震のものであるか否かの判断を要する)などに多くの知識・技術や資金を要したため、実験・実用に至ったのは1990年代以降である。


まず、激しい揺れ([[主要動]])の前に揺れの大きさを予測して揺れに備えることを目的とする早期警戒型(early, real-time)と、揺れに備えることを目的とせず揺れの大きさや地震の規模を予測して警報を出す直後型(immediately)の2種類に分けられる。直後型の中にも、激しい揺れの前に予測できるシステムがいくつか開発されている。早期警戒型はさらに、主に複数点観測により精度の高い警報を発する震源から数十km以上の近隣地域に適した広域型(地域型, regional)と、主に単独点観測によりスピードを重視して警報を発する震源周辺地域に適した現地型(on-site)の2種類に分けられる。
まず、激しい揺れ([[主要動]])の前に揺れの大きさを予測して揺れに備えることを目的とする早期警戒型(early, real-time)と、揺れに備えることを目的とせず揺れの大きさや地震の規模を予測して警報を出す直後型(immediately)の2種類に分けられる。直後型の中にも、激しい揺れの前に予測できるシステムがいくつか開発されている。早期警戒型はさらに、主に複数点観測により精度の高い警報を発する震源から数十km以上の近隣地域に適した広域型(地域型, regional)と、主に単独点観測によりスピードを重視して警報を発する震源周辺地域に適した現地型(on-site)の2種類に分けられる。


早期警戒型の中でも、広域型と現地型では手法が異なり、算出に用いる計算式や地震計が異なる場合がある。広域型は複数点の観測値を取り入れることで誤差や誤報を少なくし、多少の時間をかけてでも正確な警報を発する事に重きを置いている。これは広域型が、[[海溝型地震]]における沿岸部への速報など、ある程度離れた地域での大地震による揺れや津波の被害を軽減することを主な目的としているためであり、震源距離に比例して長くなる主要動までの猶予時間を利用して精度を上げている。一方、現地型は単独または少数の観測点の限られた観測値から地震の規模を割り出し、一刻も早く警報を発することに重きを置いている。現地型は[[内陸地殻内地震]]や陸域の浅い震源の[[プレート境界型地震]]における震央周辺への速報など、いわゆる[[直下型地震]]での揺れの被害を軽減することを目的としていて、過去の観測値を解析するなどして求めた理論により、できるだけ短い初期波形から震源要素や揺れの大きさを推定して、広域型に比べ精度が落ちるという犠牲を払ってでも警報を発する時間を早くしている。
=== 早期警戒型 ===

直後型のシステムは、各地の揺れの大きさから被害の程度を推定し、救援や救助などの対策に応用するものである。実際の観測値により正確な値が得られるという特徴があり、観測網を密にすれば地盤特性や土地利用などにより異なる被害の違いを早期に予測できる。

== 一般公衆向けの主なシステム ==
一般公衆向けの地震警報システムは、[[日本]]のほか、[[アメリカ合衆国|アメリカ]](西海岸)、[[イタリア]]、[[スイス]]、[[台湾]]、[[中華人民共和国|中国]]、[[トルコ]]、[[チリ]]、[[ニカラグア]]、[[ルーマニア]]などで運用されている<ref>"[http://www.seismo.ethz.ch/en/research-and-teaching/fields_of_research/earthquake-early-warning/ Fields of Research - Earthquake Early Warning]", Swiss Seismological Service, </ref><ref name="Allen2019">Richard M Allen, Diego Melgar, "Earthquake Early Warning: Advances, Scientific Challenges, and Societal Needs", Annual Review of Earth and Planetary Sciences, 47(1), 2019 {{DOI|10.1146/annurev-earth-053018-060457}}</ref>。

=== 日本 ===
'''[[緊急地震速報]]'''は日本全域を対象に[[気象庁]]が発表する地震動の警報・予報。予想[[気象庁震度階級|震度]]5弱以上の場合に震度4以上の地域を発表する一般向けが2007年10月に開始。テレビ放送や携帯電話への通知などで広く周知される。主に陸上、一部は海底にも分布する、気象庁の約690か所および[[防災科学技術研究所]]の約1,000か所の地震計のデータを利用し、初動のP波から地震の震源や規模<ref name="EEWexp">「[https://www.data.jma.go.jp/svd/eew/data/nc/shikumi/shousai.html 緊急地震速報(警報)及び(予報)について]」「https://www.data.jma.go.jp/svd/eew/data/nc/shikumi/shikumi.html 緊急地震速報のしくみ]」、気象庁、2022年10月24日閲覧</ref>

気象庁の資料をもとに各地点の地震動や到達時刻を計算して付加価値を付けたり、独自に開発した端末を利用したりする「地震動の予報業務」は[[気象業務法]]が規制する許可事業であり、要件を満たした[[予報業務許可事業者|許可事業者]]にのみ認めている{{efn|参考:「[https://www.jma.go.jp/jma/kishou/minkan/minkan_jishin.html 予報業務の許可事業者一覧(地震動)]」、気象庁}}。ただし、気象庁や許可事業者の提供情報(時刻・震源・規模)をそのまま配信するものはその対象外。なお一定の質を保つためにガイドライン{{efn|「緊急地震速報を適切に利用するために必要な受信端末の機能及び配信能力に関するガイドライン」。許可事業に係る基準も含まれている。}}が定められており、任意加入の緊急地震速報利用者協議会も組織されている{{efn|「[http://www.eewrk.org/eewrk_members-hp/eewrk-hp_katsudo-top.html 緊急地震速報 関連事業者の紹介]」、緊急地震速報利用者協議会(注:許可事業を行う事業者も含まれている)}}<ref>「[https://www.jma.go.jp/jma/kishou/minkan/q_a_s.html 地震動の予報業務許可についてよくある質問と回答]」、気象庁、2022年10月24日閲覧</ref>。

=== メキシコ ===
[[File:Receptor del Sistema de Alerta Sísmica para la Ciudad de México.JPG|thumb|200px|メキシコのSASの端末]]
[[File:Receptor del Sistema de Alerta Sísmica para la Ciudad de México.JPG|thumb|200px|メキシコのSASの端末]]
{{仮リンク|メキシコ地震警報システム|en|Mexican Seismic Alert System}} (SASMEX):メキシコ中部と南部の一部を対象に、公衆向けに地震動の警報を行う。テレビ・ラジオ放送、小学校などに設置された専用受信機のほか、首都[[メキシコシティ]]では街灯のスピーカーによるアラーム発信が行われている<ref name="CIRESn">{{cite journal|url=http://www.cires.mx/sasmex_n.php|title=Sistema de Alerta Sísmica Mexicano|publisher=CIRES, A. C.|accessdate=2022-10-24|language=es}}</ref>。
'''早期警戒システム'''、'''地震早期警報システム'''、即時情報とも呼ばれる。日本では2007年12月以降、[[気象業務法]]に基づいて「地震動の予報業務」は[[気象庁]]の許可事業となった。許可を要しないものとして、気象庁の提供情報をそのまま伝達する事業と、[[地震波]]のうち最初に伝わる[[地震波#P波 (P-wave)|P波]]検知型のシステムがある<ref>「[https://www.jma.go.jp/jma/kishou/minkan/q_a_s.html 地震動の予報業務許可についてよくある質問と回答]」気象庁(2013年10月18日閲覧)</ref>。


==== 日本国内 ====
=== チリ ===
2020年から北部で地震警報システムが運用されており、テレビ放送も行われている。2010年から試験運用と観測網拡大が行われていた<ref name="Hudson2022">Hudson Kaleb Dy, Hsi-Jen James Yeh, "[https://arxiv.org/abs/2209.02416 Crowd-Funded Earthquake Early-Warning System]", arXiv preprint, 2022 {{DOI|10.48550/arXiv.2209.02416}}</ref><ref>Medina, Miguel, et al. "An Earthquake Early Warning System for Northern Chile Based on ElarmS‐3", Seismological Research Letters, 2022 {{DOI|10.1785/0220210331}}</ref><ref name="Allen2019"/>。
* [[ユレダス]](UrEDAS):[[鉄道総合技術研究所]](旧[[日本国有鉄道|国鉄]]鉄道技術研究所) - P波検知型。気象業務法改正以前に、[[鉄道]]の機器制御を目的に開発されたもの。当初、[[東海道新幹線]]に採用されていた。
* [[緊急地震速報]]:気象庁<ref>{{PDFlink|[https://www.jma.go.jp/jma/press/0605/22b/chuukanhokoku.pdf 「緊急地震速報の本運用開始に係る検討会」中間報告]}}(気象庁)</ref> - 「一般向け」は広域型、「高度利用者向け」は広域型・現地型。
** 緊急地震速報の再送(許可事業ではない):気象庁の提供情報(時刻・震源・規模)をそのまま配信するもの。ガイドライン{{efn|「緊急地震速報を適切に利用するために必要な受信端末の機能及び配信能力に関するガイドライン」。許可事業に係る基準も含まれている。}}が定められている。任意加入の事業者組合として緊急地震速報利用者協議会があり、ホームページ(HP)上で加入事業者を紹介している<ref>「[http://www.eewrk.org/eewrk_members-hp/eewrk-hp_katsudo-top.html 緊急地震速報 関連事業者の紹介]」緊急地震速報利用者協議会(許可事業を行う事業者も含まれている。)</ref>。
** 緊急地震速報の二次利用(許可事業):気象庁の提供資料をもとに各地点の地震動や到達時刻を計算して付加価値を付けたり、独自に開発した端末を利用したりするもの。認定状況は気象庁のHP上で公開されている<ref>「[https://www.jma.go.jp/jma/kishou/minkan/minkan_jishin.html 予報業務の許可事業者一覧(地震動)]」気象庁</ref>。
* コンパクトユレダス、フレックル('''FREQL'''、'''F'''ast '''R'''esponse '''E'''quipment against '''Q'''uake '''L'''oad)・[[システムアンドデータリサーチ]]:P波検知型。鉄道関係では[[東京地下鉄|東京メトロ]]などで採用されているほか、[[上越新幹線]]でも採用されていた。広域型・現地型(現地型を強化)。
* [[早期地震警報システム]]:気象庁、鉄道総合技術研究所 - P波検知型(S波も併用)。気象庁緊急地震速報の併用。鉄道関係では[[新幹線]]全線で採用されているほか、一部[[在来線]]システムにも連動している。広域型・現地型(現地型を強化)。


==== 海外 ====
=== アメリカ ===
[[:en:ShakeAlert|ShakeAlert]]:[[アメリカ地質調査所]](USGS)と大学・民間組織が共同で[[カリフォルニア州]]を対象に開発を行っている。カリフォルニア統合地震観測網(California Integrated Seismic Network, CISN)は2012年から実証実験を行っている<ref>Christina Nyquist "[https://archive.usgs.gov/archive/sites/www.usgs.gov/blogs/features/usgs_top_story/the-usgs-brings-an-earthquake-early-warning-system-to-california/index.html The USGS and Partners Work to Develop an Earthquake Early Warning System for California]" U.S. Geological Survey, 2012-04-17,2020年07月25日閲覧</ref><ref>"[http://www.cisn.org/eew/ CISN: EEW Project]" California Integrated Seismic Network</ref>。2021年[[3月11日]]には[[オレゴン州]]でも運用が始まり、同年5月には[[ワシントン州]]でも運用が開始される予定で、[[アメリカ合衆国西海岸|アメリカ西海岸]]三州をカバーすることとなる。[[マグニチュード]]5以上の地震で[[携帯電話]]に通知され、[[モバイルアプリケーション|アプリ]]を[[ダウンロード]]すればマグニチュード4.5以上でも通知される<ref>{{Cite web|title=アメリカ版緊急地震速報 オレゴン州で開始 5月には西海岸全体で|url=https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4220163.html|website=[[TBSテレビ|TBS NEWS]]|accessdate=2021-03-14}}</ref>。
* {{仮リンク|メキシコ地震警報システム|en|Mexican Seismic Alert System}}('''SAS'''、'''S'''istema de '''A'''lerta '''S'''ísmica):[[メキシコ]]中部と南部の一部を対象に、地震動の警戒発令を行う。広域型。
* [[アメリカ合衆国]]の[[:en:ShakeAlert|ShakeAlert]]:[[アメリカ地質調査所]](USGS)と大学・民間組織が共同で[[カリフォルニア州]]を対象に開発を行っている。カリフォルニア統合地震観測網(California Integrated Seismic Network, CISN)は2012年から実証実験を行っている<ref>Christina Nyquist "[https://archive.usgs.gov/archive/sites/www.usgs.gov/blogs/features/usgs_top_story/the-usgs-brings-an-earthquake-early-warning-system-to-california/index.html The USGS and Partners Work to Develop an Earthquake Early Warning System for California]" U.S. Geological Survey, 2012-04-17,2020年07月25日閲覧</ref><ref>"[http://www.cisn.org/eew/ CISN: EEW Project]" California Integrated Seismic Network</ref>。2021年[[3月11日]]には[[オレゴン州]]でも運用が始まり、同年5月には[[ワシントン州]]でも運用が開始される予定で、[[アメリカ合衆国西海岸|アメリカ西海岸]]三州をカバーすることとなる。[[マグニチュード]]5以上の地震で[[携帯電話]]に通知され、[[モバイルアプリケーション|アプリ]]を[[ダウンロード]]すればマグニチュード4.5以上でも通知される<ref>{{Cite web|title=アメリカ版緊急地震速報 オレゴン州で開始 5月には西海岸全体で|url=https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4220163.html|website=[[TBSテレビ|TBS NEWS]]|accessdate=2021-03-14}}</ref>。
* {{仮リンク|緊急地震速報 (台湾)|zh|強震即時警報}}:[[台湾]]の[[中央気象局]]が、台湾全域を対象に2014年より運用を開始。
* {{仮リンク|ICL地震早期警報技術システム|zh|ICL地震预警技术系统}}:[[中華人民共和国]]の地震早期警戒システムで、[[成都]]ハイテク防災研究所によって開発された。2012年より順次運用を開始し、2016年時点で人口の90%をカバーしている。
* {{仮リンク|全国地震強度速報と早期警報プロジェクト|zh|国家地震烈度速报与预警工程}}:全土での早期警報システムの構築を目指して開発が進められている、中華人民共和国の国家プロジェクト。ICL地震早期警報技術システムも利用されている。
* {{仮リンク|地震早期警報|ko|지진조기경보}}:[[大韓民国気象庁]]が提供する早期警報システム。[[朝鮮半島]]での地震のほかに、距離が近い日本の[[九州]]地方で発生した大規模な地震に対しても警報を行う。
* {{仮リンク|地震ネットワーク|en|Earthquake Network}}:[[スマートフォン]]の加速度センサーを利用して地球規模での地震警報を行う、[[クラウドソーシング]]による研究プロジェクト。[[イタリア]]の{{仮リンク|ベルガモ大学|en|University of Bergamo}}のFrancesco Finazziが主導し、2013年より運用を開始。


=== 直後型 ===
=== 台湾 ===
{{仮リンク|緊急地震速報 (台湾)|zh|強震即時警報}}:台湾の[[中央気象局]]が、台湾全域を対象に2014年より運用を開始。
地震後情報、直後情報とも呼ばれる。被害推定に特化したものは特に、早期地震被害推定システムと呼ばれる。


==== 日本 ====
=== 国 ===
* {{仮リンク|ICL地震早期警報技術システム|zh|ICL地震预警技术系统}}:中国の地震早期警戒システムで、[[成都]]ハイテク防災研究所によって開発された。2012年より順次運用を開始し、2016年時点で人口の90%をカバーしている。
* [[防災科学技術研究所]]の[[AQUAシステム]]:震源の他に、地震の発震機構(メカニズム)も同時に解析する。震源要素解析に特化。
* {{仮リンク|全国地震強度速報と早期警報プロジェクト|zh|国家地震烈度速报与预警工程}}:全土での早期警報システムの構築を目指して開発が進められている、中華人民共和国の国家プロジェクト。ICL地震早期警報技術システムも利用されている。
* 防災科学技術研究所のJ-RISQ地震速報:K-NETおよびKiK-netの震度データ、地方公共団体と気象庁の震度データを使用し、被害規模の即時推定を行うシステム<ref>{{cite web|url=http://www.j-risq.bosai.go.jp/report/instruction.html|title=J-RISQ地震速報 解説ページ|publisher=防災科学技術研究所|accessdate=2020/7/25}}</ref>。
* [[内閣府]]地震被害早期評価システム(EES):地震後の被害推定を行う<ref>{{cite web|url=https://www.bousai.go.jp/kazan/kakonotaisaku/sinkasai/s308.htm|title=s308 : 防災情報のページ |publisher=内閣府|accessdate=2020/7/25}}</ref>。
* [[東京ガス]]のSIGNAL(シグナル)、SUPREME(シュープリーム):被害推定、機器制御を行う<ref>{{Wayback|url=http://www.jecc.co.jp/topics/050609_1html.htm|title=技術概要|date=20070814031753}}(共同開発者による紹介)、[http://www.jishin.net/ システムを利用した有料サービス](東京ガスの関連会社のサイト)</ref>。
* [[横浜市|横浜]]高密度強震計ネットワーク(READY):地震後の被害推定を行う<ref>{{cite web|url=https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/bousai-kyukyu-bohan/bousai-saigai/bosai/jishinjoho/eq.html|title=強震計ネットワーク|publisher=横浜市|accessdate=2020/7/25}}</ref>。
* [[川崎市]]震災対策支援システム:地震後の被害推定を行う<ref>{{Wayback|url=http://www.city.kawasaki.jp/53/53bosai/home/sinsaisys/system.htm|title=川崎市震災対策支援システムについて|date=20050309114749}}(川崎市)</ref><ref>{{Cite journal |和書|author=小山 真紀、翠川 三郎 |authorlink= |title=市町村における地震時の意思決定支援に向けた災害応急対応モデル化の試み |url=https://www.jsnds.org/ssk/ssk_25_1_051.pdf |year=2006 |publisher=[[日本自然災害学会]] |journal=自然災害科学 |volume=25 |issue=1 |naid= |pages=51-70 |ref= }}</ref>。


==== 海外 ====
=== その他 ===
* {{仮リンク|地震早期警報|ko|지진조기경보}}:[[大韓民国気象庁]]が全土を対象に提供する早期警報システム。携帯電話への通知が行われる<ref name="Allen2019"/>。[[朝鮮半島]]での地震のほかに、距離が近い日本の[[九州]]地方で発生した大規模な地震に対しても警報を行う。
* [[アメリカ地質調査所]]'''PAGER'''('''P'''rompt '''A'''ssessment of '''G'''lobal '''E'''arthquakes for '''R'''esponse):地震後の被害推定を行う。全世界が対象で、発生から30分以内に、死者数・被害額と災害の深刻度レベルを算出する<ref>"[http://earthquake.usgs.gov/earthquakes/pager/ PAGER]", "[http://earthquake.usgs.gov/earthquakes/pager/background.php PAGER - Background]", U.S. Geological Survey(2013年10月29日閲覧)</ref>。
* トルコでは、[[イスタンブール]]で地震検知の警報を受けてガス供給や海底鉄道トンネル[[マルマライ]]の運行が制御される(2018年時点)<ref name="Allen2019"/>。
* [[南カリフォルニア]]CUBE:地震動直後の情報発信を行う。
* REWS (Rapid Earthquake Early Warning) - ルーマニアの地震早期警報システム。2013年に運用開始。首都[[ブカレスト]]周辺が対象で、原子力施設や橋の交通制限に連動するほか、情報は配信を行う企業を経由して市民にも提供されている(2018年時点)<ref>Ionescu, Constantin Aurelian, et al. "Rapid Earthquake Early Warning (REWS) in Romania: Application in Real Time for Governmental Authority and Critical Infrastructures", 2016 {{DOI|10.1007/978-3-319-29844-3_31}}</ref><ref name="Allen2019"/>。
* TRUAA - イスラエルの地震早期警報システム。2014年に試験運用、2022年に本運用開始<ref> Sue Surkes, "[https://www.timesofisrael.com/israel-gets-new-earthquake-warning-system-sends-alert-within-seconds-of-1st-tremor/ Israel gets new earthquake warning system, sends alert within seconds of 1st tremor]", The Times of Israel, 2022-02-08付, 2022-10-24閲覧</ref>。
* イタリアでは、南部ナポリ周辺で試験運用が行われている(2018年時点)<ref name="Allen2019"/>。
* スイスでは、全土に展開した高精度地震計を利用して試験運用が行われている(2018年時点)<ref name="Allen2019"/>。
* [[エルサルバドル]]、[[グアテマラ]]、[[コスタリカ]]、[[ニカラグア]]では、データを相互に活用するためATTACという共通システムに統合し試験運用が行われている。ニカラグアでは2021年に部分的に市民向け提供が開始。また4か国では日本の協力により[[緊急警報放送]]を現地仕様に合わせたEWBSのテレビ放送への導入が試行され、その中で地震早期警報も伝達される計画<ref name="Allen2019"/><ref>Beatriz Valero de Urquia, "[https://eandt.theiet.org/content/articles/2022/04/central-america-drives-forward-earthquake-early-warning-technology/ Central America drives forward earthquake early-warning technology]", Institution of Engineering and Technology, 2022-04-22付, 2022-10-24閲覧</ref><ref>阪口安司「[https://www.jtec.or.jp/activities/JTEC10_final_ewbs.pdf JTECの最近の活動から 中南米 EWBS -緊急地震速報(EWARNICA)接続と受信機普及拡大の取り組み-]」、一般財団法人 海外通信・放送コンサルティング協力、『JTECリポート』、10号、2022年</ref>。
* [[インド]]では、北部[[ウッタラーカンド州]]で[[インド工科大学]]により断層周辺に観測網が展開され警報を提供している(2018年時点)<ref name="Allen2019"/>。


== 仕組み ==
=== 国際 ===
先行する緊急地震速報システムに採用されている高感度の地震計は高価であり、地震リスクが高い低所得国では普及に課題がある。そのため、精度は下がるものの低価格のセンサの設置を進めて観測網を展開する試みや、すでに普及しているスマートフォンのセンサなどを利用する試みがいくつか行われている<ref name="AWS202208"/><ref name="Google202106"/>。
地震警報システムは、地震の[[初期微動]]を観測して、早い段階で対応をとることにより、被害を最小限に抑えようと開発されたシステムである。
* {{仮リンク|地震ネットワーク|en|Earthquake Network}}:[[スマートフォン]]の加速度センサーを利用して地球規模での地震警報を行う、[[クラウドソーシング]]による研究プロジェクト。[[イタリア]]の{{仮リンク|ベルガモ大学|en|University of Bergamo}}のFrancesco Finazziが主導し、2013年より運用を開始。
* OpenEEW - [[オープンソース]]のソフトウェアで構成される地震警報システムで、[[Linux Foundation]]や[[IBM]]の支援を受けてソフトウェア企業Grilloが行う。低価格センサと[[機械学習]]を利用したシステムで、メキシコやチリで運用されているほか、[[ハイチ]]南部では2022年にセンサ網構築を終える計画<ref name="AWS202208"/><ref name="AWS202208">Marcia Villalba, "[https://aws.amazon.com/jp/blogs/aws/how-grillo-built-a-low-cost-earthquake-early-warning-system-on-aws/ How Grillo Built a Low-Cost Earthquake Early Warning System on AWS]" AWS News Blog, 2022-08-16付, 2022-10-24閲覧</ref><ref> R. Dallon Adams , "[https://www.techrepublic.com/article/open-source-earthquake-alert-system-aims-to-revolutionize-seismic-monitoring/ Open-source earthquake alert system aims to revolutionize seismic monitoring]", TechnologyAdvice (TechRepublic), 2020-08-11付, 2022-10-24閲覧</ref>。
* Android Earthquake Alerts System - [[Google]]が[[Android (オペレーティングシステム)|Android]]搭載スマートフォンのセンサを利用して地震を検出し警報を通知するシステムで、いくつかの国で構築を開始。2021年に[[ニュージーランド]]、[[ギリシャ]]、[[トルコ]]、[[フィリピン]]、[[カザフスタン]]、[[キルギス]]、[[タジキスタン]]、[[トルクメニスタン]]、[[ウズベキスタン]]で、2022年に[[パキスタン]]で開始されている<ref name="Google202106">Fiona Lee, "[https://blog.google/products/android/new-features-summer-2021/ 6 new features on Android this summer]", Google, 2021-06-10付, 2022-10-24閲覧</ref><ref>佐藤信彦、「[https://japan.cnet.com/article/35172517/ グーグル、Androidスマホ向け緊急地震速報の対象地域を拡大--トルコやフィリピンなど]」CNET Japan、2021年06月17日、2022年10月24日閲覧</ref><ref>"[https://tribune.com.pk/story/2366527/google-expands-android-earthquake-alerts-system-to-pakistan Google expands ‘Android Earthquake Alerts System’ to Pakistan]", The Express Tribune, 2022-07-19付, 2022-10-24閲覧</ref>。


2015年に採択された[[仙台防災枠組]]は災害の早期警報システムの可用性とアクセス性を高める目標を掲げており、[[ユネスコ]]は緊急地震速報に関する国際プラットフォーム (IP-EEWS)を設立、先行的取り組みを行う各国の研究機関が参加して科学的な協力を支援している<ref>"[https://en.unesco.org/disaster-risk-reduction/early-warning-systems/IP-EEWS International Platform on Earthquake Early Warning Systems (IP-EEWS)]", UNESCO, 2022年10月24日閲覧</ref>。
地震が起こると、特性の異なる主に2種類の[[地震波]]が周囲に広がることにより振動が発生する。地震波のうち[[地震波#S波 (S-wave)|S波]]は大きな揺れ(主要動)で被害を引き起こす地震波で、毎秒約4km程度と比較的ゆっくり伝わる波である。対する[[地震波#P波 (P-wave)|P波]]は小さな揺れ(初期微動)のため被害を起こす地震波ではないものの、毎秒約7km程度とS波の約2倍の速さで伝わるため、このP波を観測して素早く情報を伝えることで、被害を未然に防ぐことができるというのが基本的な考え方である{{efn|しばしば、P波を雷光に、S波を[[雷]]の音にたとえて説明がなされる。このたとえに従えば、雷光があったら素早くそれを伝えることで、ゴロゴロという音に備えることができるというわけである。}}。


== 業務向けの主なシステム ==
原理自体は極めて単純であり、19世紀後半から20世紀初頭にはこれに類似したアイディアが既に存在しており、初期のものとしてカリフォルニア州でしばしば発生する[[サンアンドレアス断層]]を震源とする地震に対するアイディアなどが知られる<ref name="yobo23121"/><ref name="yoshii-1"/>。しかし、通信、観測、処理(揺れが地震のものであるか否かの判断を要する)などに多くの知識・技術や資金を要したため、実験・実用に至ったのは1990年代以降である。
以下は一般公衆向けのいわゆる「警報」とは性格が異なるが、開発史が一部重なり技術的にも関連する。


日本の鉄道事業では、すべての[[新幹線]]路線のほか主なJR[[在来線]]や一部[[私鉄]]で、開発事業者と協力して各自で地震計網を構築し、沿線の地震動の監視と遠方の地震予測を組み合わせて列車の自動停止などを行うシステムを採用している([[早期地震警報システム]])。例として、東海道新幹線では[[早期地震警報システム|TERRA-S]]、JR東日本の在来線では[[早期地震警報システム|PreDAS]]、[[東京地下鉄|東京メトロ]]では[[ユレダス|FREQL]]など。緊急地震速報を利用している事業者もある<ref name="yoshii-1"/>。
早期警戒型の中でも、広域型と現地型では手法が異なり、算出に用いる計算式や地震計が異なる場合がある。広域型は複数点の観測値を取り入れることで誤差や誤報を少なくし、多少の時間をかけてでも正確な警報を発する事に重きを置いている。これは広域型が、[[海溝型地震]]における沿岸部への速報など、ある程度離れた地域での大地震による揺れや津波の被害を軽減することを主な目的としているためであり、震源距離に比例して長くなる主要動までの猶予時間を利用して精度を上げている。一方、現地型は単独または少数の観測点の限られた観測値から地震の規模を割り出し、一刻も早く警報を発することに重きを置いている。現地型は[[内陸地殻内地震]]や陸域の浅い震源の[[プレート境界型地震]]における震央周辺への速報など、いわゆる[[直下型地震]]での揺れの被害を軽減することを目的としていて、過去の観測値を解析するなどして求めた理論により、できるだけ短い初期波形から震源要素や揺れの大きさを推定して、広域型に比べ精度が落ちるという犠牲を払ってでも警報を発する時間を早くしている。


インフラ事業者の中には被害を早期に推定して対応に生かすシステムを運用するものがある。例として[[東京ガス]]は自前の地震計網を有しSIGNAL(シグナル)とSUPREME(シュープリーム)により被害推定、機器制御を行う<ref>{{Wayback|url=http://www.jecc.co.jp/topics/050609_1html.htm|title=技術概要|date=20070814031753}}(共同開発者による紹介)、[http://www.jishin.net/ システムを利用した有料サービス](東京ガスの関連会社のサイト)</ref>。
直後型のシステムは、各地の揺れの大きさから被害の程度を推定し、救援や救助などの対策に応用するものである。実際の観測値により正確な値が得られるという特徴があり、観測網を密にすれば地盤特性や土地利用などにより異なる被害の違いを早期に予測できる。


政府・行政が災害応急対策のために運用するものがある。日本の[[内閣府]]は地震後の被害推定を行う地震被害早期評価システム(EES)を構築している<ref>{{cite web|url=https://www.bousai.go.jp/kazan/kakonotaisaku/sinkasai/s308.htm|title=s308 : 防災情報のページ |publisher=内閣府|accessdate=2020/7/25}}</ref>。自治体の例では、横浜市は自前の地震計150か所のデータから揺れ・液状化・建物倒壊率の推計を算出して対応に生かすシステムを1998年に導入した<ref>{{cite journal|和書|url=https://www.isad.or.jp/pdf/information_provision/information_provision/no58/29p.pdf|title=横浜市リアルタイム地震防災システム|author=鈴木誠|publisher=消防科学総合センター|journal=消防科学と情報|issue=58|year=1999|accessdate=2022-10-24}}</ref>。専門機関の[[防災科学技術研究所]]は地震計データから震度分布と遭遇人口などを算出するJ-RISQ地震速報を公表している<ref>{{cite web|url=http://www.j-risq.bosai.go.jp/report/instruction.html|title=J-RISQ地震速報 解説ページ|publisher=防災科学技術研究所|accessdate=2020/7/25}}</ref>。アメリカでは[[アメリカ地質調査所|地質調査所]]がPAGER (Prompt Assessment of Global Earthquakes for Response)を運用しており、発生から30分以内に、死者数・被害額と災害の深刻度レベルを算出する。これは全世界の地震が対象<ref>"[http://earthquake.usgs.gov/earthquakes/pager/ PAGER]", "[http://earthquake.usgs.gov/earthquakes/pager/background.php PAGER - Background]", U.S. Geological Survey(2013年10月29日閲覧)</ref>。
== 開発の歴史 ==
地震波の速度に限りがあるという性質は[[19世紀]]後半の地震学では既に知られていて、低速の地震波と高速の電気信号の速度差を利用した警報システムのアイデアは既に存在していた。例えば、アメリカのクーパー(J.D.Cooper)は[[1868年]]にこのアイデアを発表している。しかし、実用化に必要な地震波の解析技術や伝達技術がまだ無かった。


日本では[[都市ガス]]・[[プロパンガス]]ともに、各家庭の[[ガスメーター]]は一定以上の揺れを検知すると自動で遮断する機能が標準となっている。[[エレベーター]]では地震を感知して最寄り階に停止する機能が設置時の標準となっている。産業分野においては、[[原子力発電所]]では地下の地震計で強い揺れを検知すると制御棒を挿入して自動停止する。他にも[[感震計]]を用いた制御の例は多岐に亘る<ref name="松村2010"/>。
そのしばらく後、日本でも同種のアイデアが見出されるようになった。1972年、伯野元彦らは海底の地震計から波形を収集して都市に警報を発する「10秒前大地震警報システム」を考案している<ref name="yobo23121">福和伸夫, 新井伸夫「[http://www.sonpo.or.jp/archive/publish/bousai/jiho/pdf/no_231/yj23121.pdf 緊急地震速報の本運用に当たって] 」『予防時報』231号(2007年)pp.21-27, 2007</ref><ref name="yoshii-1"> [[吉井博明]]「[http://www.tku.ac.jp/kiyou/contents/communication/30/Yoshii.pdf 緊急地震速報の有効性と限界]」</ref>。こうしたアイデアは[[20世紀]]終盤に入り、[[情報通信技術]]の発達と地震研究の進展を背景にしてシステムの開発が行われることになる。


== 開発の歴史 ==
初期のシステムとして以下のものが挙げられる。
;考案
*[[1989年]] [[鉄道技術研究所]](現在の[[鉄道総合技術研究所]])が、鉄道路線周辺に設置した地震計で大きな加速度を検知した際に警報を発する[[ユレダス]]の試行を開始。1992年には[[東海道新幹線]]で全面採用される<ref name="yobo23121" />。
:地震波の速度に限りがあるという性質は[[19世紀]]後半の地震学では既に知られていて、低速の地震波と高速の電気信号の速度差を利用した警報システムのアイデアは既に存在していた。例えば、アメリカのクーパー(J.D.Cooper)は[[1868年]]にこのアイデアを発表している。しかし、実用化に必要な地震波の解析技術や伝達技術がまだ無かった<ref name="yobo23121">福和伸夫, 新井伸夫「[http://www.sonpo.or.jp/archive/publish/bousai/jiho/pdf/no_231/yj23121.pdf 緊急地震速報の本運用に当たって] 」『予防時報』231号(2007年)pp.21-27, 2007</ref><ref name="yoshii-1"> [[吉井博明]]「緊急地震速報の有効性と限界」、東京経済大学 コミュニケーション学会、『コミュニケーション科学』、30号、pp.15-28、2009年 {{hdl|11150/231}}</ref>。
*[[1990年]] アメリカ合衆国[[カリフォルニア州]]で、高精度デジタル地震計網を利用して数分以内に震源要素(震源、時刻、規模など)を算出するCUBEシステムの開発を開始。当初の提供先はインフラ事業者数者だったが、順次拡大された。1993年にはその地震情報をカリフォルニア中部に広く速報するREDIが開発され、1994年には2つが統合され対象地域をカリフォルニア全域に広げる<ref name="yobo23121" /><ref>内閣府(防災部門)[https://www.bousai.go.jp/jishin/epcf/epcf1/07-02.html 南カリフォルニア地域におけるリアルタイム地震情報システム利用現況と今後の利用] 第1回日米地震防災政策会議</ref>。
:そのしばらく後、日本でも同種のアイデアが見出されるようになった。1972年、伯野元彦らは海底の地震計から波形を収集して都市に警報を発する「10秒前大地震警報システム」を考案している。こうしたアイデアは[[20世紀]]終盤に入り、[[情報通信技術]]の発達と地震研究の進展を背景にしてシステムの開発が行われることになる<ref name="yobo23121"/><ref name="yoshii-1"/>。
*[[1991年]] [[メキシコ]]で、[[中央アメリカ海溝]]で発生した海溝型の大地震を常時観測して内陸の首都[[メキシコシティ]]に警報を発するSASの運用が開始される<ref name="yobo23121" />。


;S波警報
日本では当初、[[1970年代]]からにわかに発生が懸念されるようになった[[東海地震]]への対策が大きな目的であり、被害範囲が広い海溝型地震を念頭に開発されたのがユレダスであった。一方で、[[建築基準法]]の度重なる改正等により建造物の耐震に関する規制が強化されたものの、耐震化が進まず、建物被害が大きな地震が何度も発生したことも地震防災の大きな問題となっていた。そのような中で、[[1995年]]に起きた[[兵庫県南部地震]]([[阪神・淡路大震災]])は直下型地震対策の見直しの大きな契機となり、高密度の地震観測網を条件とした直下型地震の警報にも関心が高まっていく。
:まず実用化されたのが[[地震波#S波 (S-wave)|S波]]([[主要動]])を検知する方式である。1965年に日本の[[日本国有鉄道|国鉄]]が[[東海道新幹線]]全線に導入した対震列車防護装置は、世界で最初に地震の検知を自動的に制御に結び付けるシステムとなった。この方式は検知から大きな揺れまでの猶予時間が短く改良の余地があった<ref name="yobo23121" /><ref name="中村1999">中村豊「[https://www.jsce.or.jp/library/eq10/proc/02006/1-0037.pdf リアルタイム地震動モニタリング]」、土木学会、『第1回リアルタイム地震防災シンポジウム論文集 - リアルタイム地震防災の現状と今後』、pp.37-41、1999年</ref><ref name="佐藤2013">佐藤新二、「[https://www.rtri.or.jp/publish/rrr/2013/rrr01.html 鉄道技術 来し方行く末 第10回 地震計と警報システム]」、鉄道総合技術研究所『RRR』Vol.70、No.1、pp.31-33、2013年</ref>。
:S波検知は各国で開発が行われている。アメリカでは、[[金森博雄]]が充実した観測網による検知で地震被害を早期把握し即応的な[[危機管理|緊急事態管理]]に役立てるリアルタイム地震学を提唱。カリフォルニア州において、金森が所属する[[カリフォルニア工科大学]] (Caltech)や[[アメリカ地質調査所]] (USGS)が中心となって、高精度デジタル地震計網を利用して数分以内に震源要素(震源、時刻、規模など)を算出するCUBEシステムの開発を[[1990年]]に開始。当初の提供先はインフラ事業者数者だったが、順次拡大された。1993年にはその地震情報をカリフォルニア中部に広く速報するREDIが開発され、1994年には2つが統合され対象地域をカリフォルニア全域に広げる。更に震度分布図を即時に作成する[[:en:ShakeMap|ShakeMap]]の提供が始まる<ref name="yobo23121" /><ref>内閣府(防災部門)[https://www.bousai.go.jp/jishin/epcf/epcf1/07-02.html 南カリフォルニア地域におけるリアルタイム地震情報システム利用現況と今後の利用] 第1回日米地震防災政策会議</ref><ref>「[https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8672046 特別講演「地球科学における科学と技術の調和」(2) : 平成10年度海洋科学技術センター研究報告会]」、海洋研究開発機構、『JAMSTEC』、44号、pp.11-19、1999年</ref><ref name="松村2010"/>。
:一方、メキシコでは1985年[[メキシコ地震 (1985年)|メキシコ地震]]の教訓から[[中央アメリカ海溝]]で発生した海溝型の大地震を常時観測して内陸の首都[[メキシコシティ]]に警報を発するシステムが研究され、[[1993年]]には一般公衆向けとしては世界初となる地震警報システム (SAS)の運用が開始される(現在のSASMEX)<ref name="yobo23121" /><ref name="CIRESn"/><ref name="松村2010"/>。


;P波警報
* [[1996年]] 兵庫県南部地震などを契機に[[高感度地震観測網]](Hi-net)の整備が決定。後に緊急地震速報の為の観測の要となる、高感度地震計の設置が開始される(2011年現在は700か所以上に設置)。一方、[[デジタル]]地震計による過去の地震波形の解析、高速大容量化が進む[[通信]]技術を応用して、速報的な地震情報の提供が検討され始める。
:一方、猶予時間が伸びる[[地震波#P波 (P-wave)|P波]]([[初期微動]])検知を目指した開発が行われる。[[鉄道技術研究所]](現・[[鉄道総合技術研究所]])は[[東北新幹線]](1982年開業)向けに開発を行っていたが間に合わず、1991年に[[東海道新幹線]]の一部区間に導入(1992年に全線導入)した[[ユレダス]]により実用化された<ref name="中村1999"/><ref name="佐藤2013"/>。
* [[2003年]]4月 [[文部科学省]]、気象庁、防災科学技術研究所の共同で、リアルタイム地震情報の伝達が実用的に行えるようにすることを目的としたリーディングプロジェクト「[http://www.bosai.go.jp/kenkyu/sokuji/index.htm 高度即時的地震情報伝達網実用化プロジェクト]」を開始。平成19年度までに、防災科学技術研究所の「リアルタイム地震情報」と気象庁・鉄道総合技術研究所の「ナウキャスト地震情報」<ref>{{Wayback|url=http://www.hiroi.iii.u-tokyo.ac.jp/index-genzai_no_sigoto-bosai_joho_system-kinkyujishinjoho-kaishi.pdf|title=緊急地震速報の試験運用開始について|date=20160305005628}}</ref>を実用化に向けて統合し、地震情報を高速・高度化、迅速で正確な伝達手法の開発を目指すもの。
:主に被害範囲が広い[[海溝型地震]]に対応して開発されたのがユレダスである一方、[[1995年]]に起きた[[兵庫県南部地震]]([[阪神・淡路大震災]])は日本の[[直下型地震]]対策の見直しの大きな契機となった。[[高感度地震観測網]] (Hi-net)の高感度地震計の設置が始まり、防災科学技術研究所はこれを利用した「リアルタイム地震情報」、それとは別に気象庁も「ナウキャスト地震情報」の研究を開始。両プロジェクトは統合され、一般公衆向けにP波検知を実用化した「[[緊急地震速報]]」となり、2004年に試験運用を開始、2007年10月には全国で正式運用を開始した。国内全域を対象とするシステムとしては世界初となった<ref name="松村2010">松村正三、「[緊急地震速報の開発と効用]」、『科学技術動向』、No.114、pp.3-34、2010年{{HDL|11035/2181}}</ref><ref>上垣内 修「[一般への提供が開始された緊急地震速報]」、日本地震工学会、『日本地震工学会誌』、第7号、pp.3-7、2008年{{ CRID|1520009409868242688}}</ref>。
* [[2004年]]2月「ナウキャスト地震情報」と「リアルタイム地震情報」を統合、「緊急地震速報」へと改編。
* 2004年[[2月25日]] 希望する行政機関や企業に対し緊急地震速報の試験運用を開始。対象は、九州東岸から関東までの地域。
* 2007年10月1日 9:00([[日本標準時|JST]]) より、緊急地震速報の正式運用(予想震度5弱以上の際の「一般向け」速報の発表)を開始。先行的に提供していた速報は「高度利用者向け」として区別した。テレビ放送や一部の公共施設などでも速報が導入された。
* 2007年[[12月1日]] この日施行の[[気象業務法]]改正で、緊急地震速報が予報および[[気象警報|警報]]として位置づけられる。


=== 実用例 ===
== 実用例 ==
*[[新潟県中越地震]]([[2004年]])の際の新幹線停止([[上越新幹線脱線事故]])。
*[[新潟県中越地震]]([[2004年]])の際の新幹線停止([[上越新幹線脱線事故]])。
**P波が検出された後、1秒で警報を出し、200[[キロメートル毎時|km/h]]で進行中の新幹線に緊急ブレーキをかけた。結果的に[[列車脱線事故|脱線]]をしてしまったが、早期警報システムは計画通りに動いた。
**P波が検出された後、1秒で警報を出し、200[[キロメートル毎時|km/h]]で進行中の新幹線に緊急ブレーキをかけた。結果的に[[列車脱線事故|脱線]]をしてしまったが、早期警報システムは計画通りに動いた。
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**[[東北新幹線]]では架線が倒壊するなどの大きな被害を受け1ヶ月以上運休することとなったが、地震警報システムにより営業列車の脱線は1両も起こらず、死者・負傷者は出なかった。[[東日本旅客鉄道|JR東日本]]は、当時270km/h前後に達していた5本を含む計18本が営業運転中だったが、最初の揺れが到達する約10秒前、最も強い揺れが到達する約70秒前には緊急警報が発せられ、揺れが来る前には30〜170km/h程度減速し、安全に停車できたとしている<ref>{{Wayback|url=http://www.sankeibiz.jp/business/news/110530/bsd1105300904003-n1.htm|title=乗客犠牲者一人もなし、新幹線の地震対策は?([[フジサンケイビジネスアイ]])|date=20120212224011}}</ref>。
**[[東北新幹線]]では架線が倒壊するなどの大きな被害を受け1ヶ月以上運休することとなったが、地震警報システムにより営業列車の脱線は1両も起こらず、死者・負傷者は出なかった。[[東日本旅客鉄道|JR東日本]]は、当時270km/h前後に達していた5本を含む計18本が営業運転中だったが、最初の揺れが到達する約10秒前、最も強い揺れが到達する約70秒前には緊急警報が発せられ、揺れが来る前には30〜170km/h程度減速し、安全に停車できたとしている<ref>{{Wayback|url=http://www.sankeibiz.jp/business/news/110530/bsd1105300904003-n1.htm|title=乗客犠牲者一人もなし、新幹線の地震対策は?([[フジサンケイビジネスアイ]])|date=20120212224011}}</ref>。


== 研究中の技術 ==
=== 重力変化による早期検知の研究 ===
地震波より早く伝わる、地震発生時の[[地殻]]密度の変化に伴う[[重力]]変化を検知するシステムを[[東京大学]]の[[宇宙物理学]]と[[地震学]]の研究者が開発中である。[[日本列島]]の沿岸部に75キロメートル間隔で設置して、沖合100キロメートルで[[マグニチュード]]6以上の地震が発生した場合、重力変化のわずかな時間差から震源を推定して、地震波による現状より10秒早く警報できるという<ref>重力変化で地震を検知 光速で伝わる性質利用 警報発令「より早く」『[[東京新聞]]』夕刊2022年9月1日5面掲載の[[共同通信]]記事</ref>。
地震波より早く伝わる、地震発生時の[[地殻]]密度の変化に伴う[[重力]]変化を検知するシステムを[[東京大学]]の[[宇宙物理学]]と[[地震学]]の研究者が開発中である。[[日本列島]]の沿岸部に75キロメートル間隔で設置して、沖合100キロメートルで[[マグニチュード]]6以上の地震が発生した場合、重力変化のわずかな時間差から震源を推定して、地震波による現状より10秒早く警報できる可能性があるという<ref>重力変化で地震を検知 光速で伝わる性質利用 警報発令「より早く」『[[東京新聞]]』夕刊2022年9月1日5面掲載の[[共同通信]]記事</ref>。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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* [[断層]]
* [[断層]]
* [[地震観測網]]
* [[地震観測網]]
* [[列車集中制御装置]]
* [[減災]]
* [[減災]]



2022年10月24日 (月) 21:07時点における版

緊急地震速報システム

地震警報システム(じしんけいほうシステム)とは、「地震が起こった後に震源要素[注釈 1]地震動の分布を迅速に解析し、その情報をいろいろなユーザー(防災関係者、電気、ガス、水道、電話、交通、報道、個人)に伝えて防災に役立てること[1]」であり、地震の際に警報を発して被害を最小限に抑えるための安全管理システムである。

構造物の耐震化や地震時対応の強化などの事前防災、発生前に地震を予測する地震予知と並ぶ地震対策の一つであり、1990年代以降大きく発達し普及が進んでいる。

仕組み

地震警報システムは、地震の初期微動を観測して、早い段階で対応をとることにより、被害を最小限に抑えようと開発されたシステムである。

地震が起こると、特性の異なる主に2種類の地震波が周囲に広がることにより振動が発生する。地震波のうちS波は大きな揺れ(主要動)で被害を引き起こす地震波で、毎秒約4km程度と比較的ゆっくり伝わる波である。対するP波は小さな揺れ(初期微動)のため被害を起こす地震波ではないものの、毎秒約7km程度とS波の約2倍の速さで伝わるため、このP波を観測して素早く情報を伝えることで、被害を未然に防ぐことができるというのが基本的な考え方である[注釈 2]

原理自体は極めて単純であり、19世紀後半から20世紀初頭にはこれに類似したアイディアが既に存在しており、初期のものとしてカリフォルニア州でしばしば発生するサンアンドレアス断層を震源とする地震に対するアイディアなどが知られる[2][3]。しかし、通信、観測、処理(揺れが地震のものであるか否かの判断を要する)などに多くの知識・技術や資金を要したため、実験・実用に至ったのは1990年代以降である。

まず、激しい揺れ(主要動)の前に揺れの大きさを予測して揺れに備えることを目的とする早期警戒型(early, real-time)と、揺れに備えることを目的とせず揺れの大きさや地震の規模を予測して警報を出す直後型(immediately)の2種類に分けられる。直後型の中にも、激しい揺れの前に予測できるシステムがいくつか開発されている。早期警戒型はさらに、主に複数点観測により精度の高い警報を発する震源から数十km以上の近隣地域に適した広域型(地域型, regional)と、主に単独点観測によりスピードを重視して警報を発する震源周辺地域に適した現地型(on-site)の2種類に分けられる。

早期警戒型の中でも、広域型と現地型では手法が異なり、算出に用いる計算式や地震計が異なる場合がある。広域型は複数点の観測値を取り入れることで誤差や誤報を少なくし、多少の時間をかけてでも正確な警報を発する事に重きを置いている。これは広域型が、海溝型地震における沿岸部への速報など、ある程度離れた地域での大地震による揺れや津波の被害を軽減することを主な目的としているためであり、震源距離に比例して長くなる主要動までの猶予時間を利用して精度を上げている。一方、現地型は単独または少数の観測点の限られた観測値から地震の規模を割り出し、一刻も早く警報を発することに重きを置いている。現地型は内陸地殻内地震や陸域の浅い震源のプレート境界型地震における震央周辺への速報など、いわゆる直下型地震での揺れの被害を軽減することを目的としていて、過去の観測値を解析するなどして求めた理論により、できるだけ短い初期波形から震源要素や揺れの大きさを推定して、広域型に比べ精度が落ちるという犠牲を払ってでも警報を発する時間を早くしている。

直後型のシステムは、各地の揺れの大きさから被害の程度を推定し、救援や救助などの対策に応用するものである。実際の観測値により正確な値が得られるという特徴があり、観測網を密にすれば地盤特性や土地利用などにより異なる被害の違いを早期に予測できる。

一般公衆向けの主なシステム

一般公衆向けの地震警報システムは、日本のほか、アメリカ(西海岸)、イタリアスイス台湾中国トルコチリニカラグアルーマニアなどで運用されている[4][5]

日本

緊急地震速報は日本全域を対象に気象庁が発表する地震動の警報・予報。予想震度5弱以上の場合に震度4以上の地域を発表する一般向けが2007年10月に開始。テレビ放送や携帯電話への通知などで広く周知される。主に陸上、一部は海底にも分布する、気象庁の約690か所および防災科学技術研究所の約1,000か所の地震計のデータを利用し、初動のP波から地震の震源や規模[6]

気象庁の資料をもとに各地点の地震動や到達時刻を計算して付加価値を付けたり、独自に開発した端末を利用したりする「地震動の予報業務」は気象業務法が規制する許可事業であり、要件を満たした許可事業者にのみ認めている[注釈 3]。ただし、気象庁や許可事業者の提供情報(時刻・震源・規模)をそのまま配信するものはその対象外。なお一定の質を保つためにガイドライン[注釈 4]が定められており、任意加入の緊急地震速報利用者協議会も組織されている[注釈 5][7]

メキシコ

メキシコのSASの端末

メキシコ地震警報システム英語版 (SASMEX):メキシコ中部と南部の一部を対象に、公衆向けに地震動の警報を行う。テレビ・ラジオ放送、小学校などに設置された専用受信機のほか、首都メキシコシティでは街灯のスピーカーによるアラーム発信が行われている[8]

チリ

2020年から北部で地震警報システムが運用されており、テレビ放送も行われている。2010年から試験運用と観測網拡大が行われていた[9][10][5]

アメリカ

ShakeAlertアメリカ地質調査所(USGS)と大学・民間組織が共同でカリフォルニア州を対象に開発を行っている。カリフォルニア統合地震観測網(California Integrated Seismic Network, CISN)は2012年から実証実験を行っている[11][12]。2021年3月11日にはオレゴン州でも運用が始まり、同年5月にはワシントン州でも運用が開始される予定で、アメリカ西海岸三州をカバーすることとなる。マグニチュード5以上の地震で携帯電話に通知され、アプリダウンロードすればマグニチュード4.5以上でも通知される[13]

台湾

緊急地震速報 (台湾)中国語版:台湾の中央気象局が、台湾全域を対象に2014年より運用を開始。

中国

その他

  • 地震早期警報朝鮮語版大韓民国気象庁が全土を対象に提供する早期警報システム。携帯電話への通知が行われる[5]朝鮮半島での地震のほかに、距離が近い日本の九州地方で発生した大規模な地震に対しても警報を行う。
  • トルコでは、イスタンブールで地震検知の警報を受けてガス供給や海底鉄道トンネルマルマライの運行が制御される(2018年時点)[5]
  • REWS (Rapid Earthquake Early Warning) - ルーマニアの地震早期警報システム。2013年に運用開始。首都ブカレスト周辺が対象で、原子力施設や橋の交通制限に連動するほか、情報は配信を行う企業を経由して市民にも提供されている(2018年時点)[14][5]
  • TRUAA - イスラエルの地震早期警報システム。2014年に試験運用、2022年に本運用開始[15]
  • イタリアでは、南部ナポリ周辺で試験運用が行われている(2018年時点)[5]
  • スイスでは、全土に展開した高精度地震計を利用して試験運用が行われている(2018年時点)[5]
  • エルサルバドルグアテマラコスタリカニカラグアでは、データを相互に活用するためATTACという共通システムに統合し試験運用が行われている。ニカラグアでは2021年に部分的に市民向け提供が開始。また4か国では日本の協力により緊急警報放送を現地仕様に合わせたEWBSのテレビ放送への導入が試行され、その中で地震早期警報も伝達される計画[5][16][17]
  • インドでは、北部ウッタラーカンド州インド工科大学により断層周辺に観測網が展開され警報を提供している(2018年時点)[5]

国際

先行する緊急地震速報システムに採用されている高感度の地震計は高価であり、地震リスクが高い低所得国では普及に課題がある。そのため、精度は下がるものの低価格のセンサの設置を進めて観測網を展開する試みや、すでに普及しているスマートフォンのセンサなどを利用する試みがいくつか行われている[18][19]

2015年に採択された仙台防災枠組は災害の早期警報システムの可用性とアクセス性を高める目標を掲げており、ユネスコは緊急地震速報に関する国際プラットフォーム (IP-EEWS)を設立、先行的取り組みを行う各国の研究機関が参加して科学的な協力を支援している[23]

業務向けの主なシステム

以下は一般公衆向けのいわゆる「警報」とは性格が異なるが、開発史が一部重なり技術的にも関連する。

日本の鉄道事業では、すべての新幹線路線のほか主なJR在来線や一部私鉄で、開発事業者と協力して各自で地震計網を構築し、沿線の地震動の監視と遠方の地震予測を組み合わせて列車の自動停止などを行うシステムを採用している(早期地震警報システム)。例として、東海道新幹線ではTERRA-S、JR東日本の在来線ではPreDAS東京メトロではFREQLなど。緊急地震速報を利用している事業者もある[3]

インフラ事業者の中には被害を早期に推定して対応に生かすシステムを運用するものがある。例として東京ガスは自前の地震計網を有しSIGNAL(シグナル)とSUPREME(シュープリーム)により被害推定、機器制御を行う[24]

政府・行政が災害応急対策のために運用するものがある。日本の内閣府は地震後の被害推定を行う地震被害早期評価システム(EES)を構築している[25]。自治体の例では、横浜市は自前の地震計150か所のデータから揺れ・液状化・建物倒壊率の推計を算出して対応に生かすシステムを1998年に導入した[26]。専門機関の防災科学技術研究所は地震計データから震度分布と遭遇人口などを算出するJ-RISQ地震速報を公表している[27]。アメリカでは地質調査所がPAGER (Prompt Assessment of Global Earthquakes for Response)を運用しており、発生から30分以内に、死者数・被害額と災害の深刻度レベルを算出する。これは全世界の地震が対象[28]

日本では都市ガスプロパンガスともに、各家庭のガスメーターは一定以上の揺れを検知すると自動で遮断する機能が標準となっている。エレベーターでは地震を感知して最寄り階に停止する機能が設置時の標準となっている。産業分野においては、原子力発電所では地下の地震計で強い揺れを検知すると制御棒を挿入して自動停止する。他にも感震計を用いた制御の例は多岐に亘る[29]

開発の歴史

考案
地震波の速度に限りがあるという性質は19世紀後半の地震学では既に知られていて、低速の地震波と高速の電気信号の速度差を利用した警報システムのアイデアは既に存在していた。例えば、アメリカのクーパー(J.D.Cooper)は1868年にこのアイデアを発表している。しかし、実用化に必要な地震波の解析技術や伝達技術がまだ無かった[2][3]
そのしばらく後、日本でも同種のアイデアが見出されるようになった。1972年、伯野元彦らは海底の地震計から波形を収集して都市に警報を発する「10秒前大地震警報システム」を考案している。こうしたアイデアは20世紀終盤に入り、情報通信技術の発達と地震研究の進展を背景にしてシステムの開発が行われることになる[2][3]
S波警報
まず実用化されたのがS波主要動)を検知する方式である。1965年に日本の国鉄東海道新幹線全線に導入した対震列車防護装置は、世界で最初に地震の検知を自動的に制御に結び付けるシステムとなった。この方式は検知から大きな揺れまでの猶予時間が短く改良の余地があった[2][30][31]
S波検知は各国で開発が行われている。アメリカでは、金森博雄が充実した観測網による検知で地震被害を早期把握し即応的な緊急事態管理に役立てるリアルタイム地震学を提唱。カリフォルニア州において、金森が所属するカリフォルニア工科大学 (Caltech)やアメリカ地質調査所 (USGS)が中心となって、高精度デジタル地震計網を利用して数分以内に震源要素(震源、時刻、規模など)を算出するCUBEシステムの開発を1990年に開始。当初の提供先はインフラ事業者数者だったが、順次拡大された。1993年にはその地震情報をカリフォルニア中部に広く速報するREDIが開発され、1994年には2つが統合され対象地域をカリフォルニア全域に広げる。更に震度分布図を即時に作成するShakeMapの提供が始まる[2][32][33][29]
一方、メキシコでは1985年メキシコ地震の教訓から中央アメリカ海溝で発生した海溝型の大地震を常時観測して内陸の首都メキシコシティに警報を発するシステムが研究され、1993年には一般公衆向けとしては世界初となる地震警報システム (SAS)の運用が開始される(現在のSASMEX)[2][8][29]
P波警報
一方、猶予時間が伸びるP波初期微動)検知を目指した開発が行われる。鉄道技術研究所(現・鉄道総合技術研究所)は東北新幹線(1982年開業)向けに開発を行っていたが間に合わず、1991年に東海道新幹線の一部区間に導入(1992年に全線導入)したユレダスにより実用化された[30][31]
主に被害範囲が広い海溝型地震に対応して開発されたのがユレダスである一方、1995年に起きた兵庫県南部地震阪神・淡路大震災)は日本の直下型地震対策の見直しの大きな契機となった。高感度地震観測網 (Hi-net)の高感度地震計の設置が始まり、防災科学技術研究所はこれを利用した「リアルタイム地震情報」、それとは別に気象庁も「ナウキャスト地震情報」の研究を開始。両プロジェクトは統合され、一般公衆向けにP波検知を実用化した「緊急地震速報」となり、2004年に試験運用を開始、2007年10月には全国で正式運用を開始した。国内全域を対象とするシステムとしては世界初となった[29][34]

実用例

  • 東日本大震災(2011年)の際の新幹線停止。
    • 東北新幹線では架線が倒壊するなどの大きな被害を受け1ヶ月以上運休することとなったが、地震警報システムにより営業列車の脱線は1両も起こらず、死者・負傷者は出なかった。JR東日本は、当時270km/h前後に達していた5本を含む計18本が営業運転中だったが、最初の揺れが到達する約10秒前、最も強い揺れが到達する約70秒前には緊急警報が発せられ、揺れが来る前には30〜170km/h程度減速し、安全に停車できたとしている[35]

研究中の技術

地震波より早く伝わる、地震発生時の地殻密度の変化に伴う重力変化を検知するシステムを東京大学宇宙物理学地震学の研究者が開発中である。日本列島の沿岸部に75キロメートル間隔で設置して、沖合100キロメートルでマグニチュード6以上の地震が発生した場合、重力変化のわずかな時間差から震源を推定して、地震波による現状より10秒早く警報できる可能性があるという[36]

脚注

注釈

  1. ^ 震源の経緯度、深さ、マグニチュードを指す。断層のパラメータ(走向、傾斜角、すべり量)を含める場合もある。
  2. ^ しばしば、P波を雷光に、S波をの音にたとえて説明がなされる。このたとえに従えば、雷光があったら素早くそれを伝えることで、ゴロゴロという音に備えることができるというわけである。
  3. ^ 参考:「予報業務の許可事業者一覧(地震動)」、気象庁
  4. ^ 「緊急地震速報を適切に利用するために必要な受信端末の機能及び配信能力に関するガイドライン」。許可事業に係る基準も含まれている。
  5. ^ 緊急地震速報 関連事業者の紹介」、緊急地震速報利用者協議会(注:許可事業を行う事業者も含まれている)

出典

  1. ^ 菊池正幸『リアルタイム地震学』(東京大学出版会、2003年)p.2022
  2. ^ a b c d e f 福和伸夫, 新井伸夫「緊急地震速報の本運用に当たって 」『予防時報』231号(2007年)pp.21-27, 2007
  3. ^ a b c d 吉井博明「緊急地震速報の有効性と限界」、東京経済大学 コミュニケーション学会、『コミュニケーション科学』、30号、pp.15-28、2009年 hdl:11150/231
  4. ^ "Fields of Research - Earthquake Early Warning", Swiss Seismological Service,
  5. ^ a b c d e f g h i Richard M Allen, Diego Melgar, "Earthquake Early Warning: Advances, Scientific Challenges, and Societal Needs", Annual Review of Earth and Planetary Sciences, 47(1), 2019 doi:10.1146/annurev-earth-053018-060457
  6. ^ 緊急地震速報(警報)及び(予報)について」「https://www.data.jma.go.jp/svd/eew/data/nc/shikumi/shikumi.html 緊急地震速報のしくみ]」、気象庁、2022年10月24日閲覧
  7. ^ 地震動の予報業務許可についてよくある質問と回答」、気象庁、2022年10月24日閲覧
  8. ^ a b (スペイン語) Sistema de Alerta Sísmica Mexicano. CIRES, A. C.. http://www.cires.mx/sasmex_n.php 2022年10月24日閲覧。. 
  9. ^ Hudson Kaleb Dy, Hsi-Jen James Yeh, "Crowd-Funded Earthquake Early-Warning System", arXiv preprint, 2022 doi:10.48550/arXiv.2209.02416
  10. ^ Medina, Miguel, et al. "An Earthquake Early Warning System for Northern Chile Based on ElarmS‐3", Seismological Research Letters, 2022 doi:10.1785/0220210331
  11. ^ Christina Nyquist "The USGS and Partners Work to Develop an Earthquake Early Warning System for California" U.S. Geological Survey, 2012-04-17,2020年07月25日閲覧
  12. ^ "CISN: EEW Project" California Integrated Seismic Network
  13. ^ アメリカ版緊急地震速報 オレゴン州で開始 5月には西海岸全体で”. TBS NEWS. 2021年3月14日閲覧。
  14. ^ Ionescu, Constantin Aurelian, et al. "Rapid Earthquake Early Warning (REWS) in Romania: Application in Real Time for Governmental Authority and Critical Infrastructures", 2016 doi:10.1007/978-3-319-29844-3_31
  15. ^ Sue Surkes, "Israel gets new earthquake warning system, sends alert within seconds of 1st tremor", The Times of Israel, 2022-02-08付, 2022-10-24閲覧
  16. ^ Beatriz Valero de Urquia, "Central America drives forward earthquake early-warning technology", Institution of Engineering and Technology, 2022-04-22付, 2022-10-24閲覧
  17. ^ 阪口安司「JTECの最近の活動から 中南米 EWBS -緊急地震速報(EWARNICA)接続と受信機普及拡大の取り組み-」、一般財団法人 海外通信・放送コンサルティング協力、『JTECリポート』、10号、2022年
  18. ^ a b c Marcia Villalba, "How Grillo Built a Low-Cost Earthquake Early Warning System on AWS" AWS News Blog, 2022-08-16付, 2022-10-24閲覧
  19. ^ a b Fiona Lee, "6 new features on Android this summer", Google, 2021-06-10付, 2022-10-24閲覧
  20. ^ R. Dallon Adams , "Open-source earthquake alert system aims to revolutionize seismic monitoring", TechnologyAdvice (TechRepublic), 2020-08-11付, 2022-10-24閲覧
  21. ^ 佐藤信彦、「グーグル、Androidスマホ向け緊急地震速報の対象地域を拡大--トルコやフィリピンなど」CNET Japan、2021年06月17日、2022年10月24日閲覧
  22. ^ "Google expands ‘Android Earthquake Alerts System’ to Pakistan", The Express Tribune, 2022-07-19付, 2022-10-24閲覧
  23. ^ "International Platform on Earthquake Early Warning Systems (IP-EEWS)", UNESCO, 2022年10月24日閲覧
  24. ^ 技術概要 - ウェイバックマシン(2007年8月14日アーカイブ分)(共同開発者による紹介)、システムを利用した有料サービス(東京ガスの関連会社のサイト)
  25. ^ s308 : 防災情報のページ”. 内閣府. 2020年7月25日閲覧。
  26. ^ 鈴木誠「横浜市リアルタイム地震防災システム」『消防科学と情報』第58号、消防科学総合センター、1999年、2022年10月24日閲覧 
  27. ^ J-RISQ地震速報 解説ページ”. 防災科学技術研究所. 2020年7月25日閲覧。
  28. ^ "PAGER", "PAGER - Background", U.S. Geological Survey(2013年10月29日閲覧)
  29. ^ a b c d 松村正三、「[緊急地震速報の開発と効用]」、『科学技術動向』、No.114、pp.3-34、2010年hdl:11035/2181
  30. ^ a b 中村豊「リアルタイム地震動モニタリング」、土木学会、『第1回リアルタイム地震防災シンポジウム論文集 - リアルタイム地震防災の現状と今後』、pp.37-41、1999年
  31. ^ a b 佐藤新二、「鉄道技術 来し方行く末 第10回 地震計と警報システム」、鉄道総合技術研究所『RRR』Vol.70、No.1、pp.31-33、2013年
  32. ^ 内閣府(防災部門)南カリフォルニア地域におけるリアルタイム地震情報システム利用現況と今後の利用 第1回日米地震防災政策会議
  33. ^ 特別講演「地球科学における科学と技術の調和」(2) : 平成10年度海洋科学技術センター研究報告会」、海洋研究開発機構、『JAMSTEC』、44号、pp.11-19、1999年
  34. ^ 上垣内 修「[一般への提供が開始された緊急地震速報]」、日本地震工学会、『日本地震工学会誌』、第7号、pp.3-7、2008年CRID 1520009409868242688
  35. ^ 乗客犠牲者一人もなし、新幹線の地震対策は?(フジサンケイビジネスアイ) - ウェイバックマシン(2012年2月12日アーカイブ分)
  36. ^ 「重力変化で地震を検知 光速で伝わる性質利用 警報発令「より早く」」『東京新聞』夕刊2022年9月1日5面掲載の共同通信記事

関連項目

外部リンク