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80年代以降、ベンゾジアゼピンの安全性の問題
睡眠薬は死亡リスクを増加させる
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'''睡眠導入剤'''(すいみんどうにゅうざい、[[w:Hypnotic]], [[w:soporific]])は、[[不眠症]]や[[睡眠]]が必要な状態に用いる[[薬物]]である。睡眠時の緊張や不安を取り除き、寝付きを良くするなどの作用がある。'''睡眠薬'''、'''催眠薬'''とも呼ばれる。
'''睡眠導入剤'''(すいみんどうにゅうざい、[[w:Hypnotic]], [[w:soporific]])は、[[不眠症]]や[[睡眠]]が必要な状態に用いる[[薬物]]である。睡眠時の緊張や不安を取り除き、寝付きを良くするなどの作用がある。'''睡眠薬'''、'''催眠薬'''とも呼ばれる。


化学構造により、[[ベンゾジアゼピン|ベンゾジアゼピン系]]、[[非ベンゾジアゼピン系]]、チエノジアゼピン系、[[バルビツール酸系]]、シクロピロロン系や[[抗ヒスタミン薬]]などに分類される。これらは、すべてGABA受容体に作用する。また、作用時間により、超短時間作用型、短時間作用型、中時間作用型、長時間作用型に分類される。
化学構造により、[[ベンゾジアゼピン|ベンゾジアゼピン系]]、[[非ベンゾジアゼピン系]]、チエノジアゼピン系、[[バルビツール酸系]]、シクロピロロン系や[[抗ヒスタミン薬]]などに分類される。これらは、すべてGABA受容体に作用する。また、作用時間により、超短時間作用型、短時間作用型、中時間作用型、長時間作用型に分類される。同じくGABA受容体に作用する[[気分安定薬]]として販売される[[抗てんかん薬]]と相加作用がある。特にアルコールとの併用は作用を強める危険性が、添付文書にも書かれており、特に力価の強い薬剤では呼吸中枢を抑制し死に至る危険性がある。


ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は[[抗不安薬]]としても使われ、逆に抗不安薬(マイナートランキライザー)や[[抗精神病薬]](メジャートランキライザー)を睡眠導入剤として利用することもある。
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は[[抗不安薬]]としても使われ、逆に抗不安薬(マイナートランキライザー)や[[抗精神病薬]](メジャートランキライザー)を睡眠導入剤として利用することもある。

睡眠薬の長期的な使用は死亡リスクを高めることが実証されている<ref name="pmid22371848"/><ref name="pmid19269892"/><ref name="pmid17486666"/><ref name="pmid20840803"/>。男女ともに、睡眠薬の使用が自殺の増加に結びついていることが明らかになっている<ref name="pmid19269892"/>。

バルビツール酸系とベンゾジアゼピン系の多くは、乱用の危険性があるために、国際条約上の別表(スケジュール)IIIおよびIVに指定され流通が制限される。アメリカでは[[規制物質法]]にて同様に別表にて定められている。日本では、[[麻薬及び向精神薬取締法]]において、第2種向精神薬にはバルビツール酸系の[[アモバルビタール]]や[[ペントバルビタール]]、ベンゾジアゼピン系の[[フルニトラゼパム]]、ほかのベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系の多くは第3種向精神薬に定められている{{sfn|厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課|2012}}。第2種向精神薬は別表III、第3種向精神薬に別表IVに相当する。



==概要==
==概要==
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1996年には、[[世界保健機関]]により、物質乱用や危険性について検討された「ベンゾジアゼピンの合理的な利用」という報告書が作成され、30日以下の短期間にすべきであることが提言されている。{{sfn|WHO Programme on Substance Abuse|1996}}
1996年には、[[世界保健機関]]により、物質乱用や危険性について検討された「ベンゾジアゼピンの合理的な利用」という報告書が作成され、30日以下の短期間にすべきであることが提言されている。{{sfn|WHO Programme on Substance Abuse|1996}}


[[非ベンゾジアゼピン系]]の睡眠薬が登場したが、有効性および安全性に疑問が呈されている<ref name="pmid23248080">{{cite journal|last1=Huedo-Medina|first1=T. B.|last2=Kirsch|first2=I.|last3=Middlemass|first3=J.|last4=Klonizakis|first4=M.|last5=Siriwardena|first5=A. N.|title=Effectiveness of non-benzodiazepine hypnotics in treatment of adult insomnia: meta-analysis of data submitted to the Food and Drug Administration|journal=BMJ|volume=345|issue=dec17 6|pages=e8343|year=2012|pmid=23248080|pmc=3544552|doi=10.1136/bmj.e8343|url=http://www.bmj.com/content/345/bmj.e8343}}</ref>
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日本では[[1960年代]]初頭に、若者を中心に乱用がブームとなった<ref>{{cite news |title=睡眠薬遊び流行 |url=http://showa.mainichi.jp/news/1961/11/post-3005.html |date=1961-11-12 |newspaper=毎日新聞 |accessdate=2013-03-10}}</ref>。この経緯で、規制が強化された。しかしながら[[1980年代]]からは、[[トリアゾラム|ハルシオン]]を中心とする睡眠薬の乱用がみられ、社会問題化している<ref>『精神科ポケット事典 新訂版』p.200</ref>。
日本では[[1960年代]]初頭に、若者を中心に乱用がブームとなった<ref>{{cite news |title=睡眠薬遊び流行 |url=http://showa.mainichi.jp/news/1961/11/post-3005.html |date=1961-11-12 |newspaper=毎日新聞 |accessdate=2013-03-10}}</ref>。この経緯で、規制が強化された。しかしながら[[1980年代]]からは、[[トリアゾラム|ハルシオン]]を中心とする睡眠薬の乱用がみられ、社会問題化している<ref>『精神科ポケット事典 新訂版』p.200</ref>。
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==副作用==
==副作用==
[[アルコール (食品)|アルコール]]と一緒に服用すると効果増強のおそれがある。事故のおそれがあるため[[自動車]]や機械を運転しない。
[[アルコール (食品)|アルコール]]と一緒に服用すると効果増強のおそれがある。事故のおそれがあるため[[自動車]]や機械を運転しない。

===がん===
2年半の追跡で、睡眠薬(ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系、バルビツール酸系)を使用していた群は、そうでないよりがんの危険性を35%増加させる<ref name="pmid22371848"/>。

===死亡リスクの増加===
2年半の追跡で、睡眠薬(ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系、バルビツール酸系)を使用し、死亡率は睡眠薬を服用しない対照群と比べ、年間18回分未満の服用で3.5倍、18回~132回分で4.6倍、それ以上では5.3倍であった<ref name="pmid22371848">{{cite journal|last1=Kripke|first1=D. F.|last2=Langer|first2=R. D.|last3=Kline|first3=L. E.|title=Hypnotics' association with mortality or cancer: a matched cohort study|journal=BMJ Open|volume=2|issue=1|pages=e000850–e000850|year=2012|pmid=22371848|pmc=3293137|doi=10.1136/bmjopen-2012-000850|url=http://bmjopen.bmj.com/content/2/1/e000850.long}}</ref>。
20年間の追跡で、睡眠薬の使用は全死因の増加に関連し、男性では冠動脈疾患、がん、自殺の危険因子であり、女性では自殺の危険因子であった<ref name="pmid19269892">{{cite journal|last1=Mallon|first1=Lena|last2=Broman|first2=Jan-Erik|last3=Hetta|first3=Jerker|title=Is usage of hypnotics associated with mortality?|journal=Sleep Medicine|volume=10|issue=3|pages=279–286|year=2009|month=March|pmid=19269892|doi=10.1016/j.sleep.2008.12.004}}</ref>。約15,000人の18年の追跡調査では、使用頻度の増加に伴って死亡率が高まることが見出され、抗不安薬・睡眠薬の服用群は、男性3.1倍、女性2.7倍、交絡因子を調整して、1.7倍の1.5倍であった<ref name="pmid17486666">{{cite journal|last1=Hausken|first1=Anne Margrethe|last2=Skurtveit|first2=Svetlana|last3=Tverdal|first3=Aage|title=Use of anxiolytic or hypnotic drugs and total mortality in a general middle-aged population|journal=Pharmacoepidemiology and Drug Safety|volume=16|issue=8|pages=913–918|year=2007|month=August|pmid=17486666|doi=10.1002/pds.1417}}</ref>。13年間の追跡で、抗不安薬・睡眠薬の服用群は3.22倍で、調整後1.36であった<ref name="pmid20840803">{{cite journal |author=Belleville G |title=Mortality hazard associated with anxiolytic and hypnotic drug use in the National Population Health Survey |journal=Canadian Journal of Psychiatry. Revue Canadienne De Psychiatrie |volume=55 |issue=9 |pages=558–67 |year=2010 |month=September |pmid=20840803|url=http://publications.cpa-apc.org/media.php?mid=1018|format=pdf}}</ref>。


===離脱症状===
===離脱症状===
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===フルニトラゼパム===
===フルニトラゼパム===
アメリカでは、フルニトラゼパムは、前向性健忘の危険性が強い医療用として未承認のまま、1984年11月5日にスケジュールIVに位置付けられたままである<ref>{{cite web |title=Scheduling of Drugs Under the Controlled Substances Act |url=http://www.fda.gov/newsevents/testimony/ucm115087.htm |date=March 11, 1999 |publisher=FDA |accessdate=2013-02-23}}</ref>
アメリカでは、フルニトラゼパムは、前向性健忘の危険性が強いため医療用として未承認のまま、1984年11月5日にスケジュールIVに位置付けられたままである<ref>{{cite web |title=Scheduling of Drugs Under the Controlled Substances Act |url=http://www.fda.gov/newsevents/testimony/ucm115087.htm |date=March 11, 1999 |publisher=FDA |accessdate=2013-02-23}}</ref>


イギリスでは、フルニトラゼパムは、ブラックリストに載っており、[[国民保健サービス]](NHS)を通じて処方することはできない<ref>{{cite web |author=Trisha Macnair |title=Rohypnol |url=http://www.bbc.co.uk/health/physical_health/conditions/rohypnol.shtml |date=May 2011 |publisher=BBC |accessdate=2013-02-23}}</ref>{{sfn|英国国立医療技術評価機構|2004}}。
イギリスでは、フルニトラゼパムは、ブラックリストに載っており、[[国民保健サービス]](NHS)を通じて処方することはできない<ref>{{cite web |author=Trisha Macnair |title=Rohypnol |url=http://www.bbc.co.uk/health/physical_health/conditions/rohypnol.shtml |date=May 2011 |publisher=BBC |accessdate=2013-02-23}}</ref>{{sfn|英国国立医療技術評価機構|2004}}。
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
* {{cite report |author=英国国立療技術評価機構|authorlink=英国国立医技術評価機構|title=Insomnia - newer hypnotic drugs (TA77) |url=http://www.nice.org.uk/TA077 |date=2004-04 |publisher=National Institute for Health and Clinical Excellence |accessdate=2013-03-10|ref=harv}}
*{{cite report |author=厚生労働省薬食品局監視指導・麻薬対策課|title=病院・診所における向精神薬取扱いの手引 |url=http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/dl/kouseishinyaku_01.pdf |format=pdf |date=2012-02||accessdate=2013-03-10|ollc=67091696|ref=harv}}

* {{cite web|last=Ashton|first=Heather|title=ベンゾジアゼピン - それはどのように作用し、離脱するにはどうすればよいか|url=http://www.benzo.org.uk/amisc/japan.pdf|format=pdf|publisher=Professor C H Ashton|accessdate=2013-01-19|ref=harv}}
* {{cite web|last=Ashton|first=Heather|title=ベンゾジアゼピン - それはどのように作用し、離脱するにはどうすればよいか|url=http://www.benzo.org.uk/amisc/japan.pdf|format=pdf|publisher=Professor C H Ashton|accessdate=2013-01-19|ref=harv}}
*{{cite report |author=WHO Programme on Substance Abuse|title=Rational use of benzodiazepines - Document no.WHO/PSA/96.11 |url=http://whqlibdoc.who.int/hq/1996/WHO_PSA_96.11.pdf |format=pdf |date=1996-11 |publisher=World Health Organization |accessdate=2013-03-10|ollc=67091696|ref=harv}}

*{{Cite book |和書|author=エリオット・S・ヴァレンスタイン|translator=, 功刀浩監訳、中塚公子訳|date=2008-02|title=精神疾患は脳の病気か?|publisher=みすず書房|isbn=978-4-622-07361-1|ref=harv}}、Blaming the Brain, 1998
*{{Cite book |和書|author=デイヴィッド・ヒーリー|translator=田島治監訳、谷垣暁美訳|date=2005-08|title=抗うつ薬の功罪|publisher=みすず書房|isbn=4-622-07149-5|ref=harv}}、Let Them Eat Prozac, 2003
*{{Cite book |和書|author=デイヴィッド・ヒーリー|translator=田島治監訳、谷垣暁美訳|date=2005-08|title=抗うつ薬の功罪|publisher=みすず書房|isbn=4-622-07149-5|ref=harv}}、Let Them Eat Prozac, 2003
* {{cite report |author=英国国立医療技術評価機構|authorlink=英国国立医療技術評価機構|title=Insomnia - newer hypnotic drugs (TA77) |url=http://www.nice.org.uk/TA077 |date=2004-04 |publisher=National Institute for Health and Clinical Excellence |accessdate=2013-03-10|ref=harv}}


*{{Cite book |和書|author=エリオット・S・ヴァレンスタイン|translator=, 功刀浩監訳、中塚公子訳|date=2008-02|title=精神疾患は脳の病気か?|publisher=みすず書房|isbn=978-4-622-07361-1|ref=harv}}、Blaming the Brain, 1998

*{{cite report |author=WHO Programme on Substance Abuse|title=Rational use of benzodiazepines - Document no.WHO/PSA/96.11 |url=http://whqlibdoc.who.int/hq/1996/WHO_PSA_96.11.pdf |format=pdf |date=1996-11 |publisher=World Health Organization |accessdate=2013-03-10|ollc=67091696|ref=harv}}


* 福西勇夫『詳しくわかる 睡眠薬と精神安定剤』([[法研]]、2003年3月23日)ISBN 978-4879544629
* 福西勇夫『詳しくわかる 睡眠薬と精神安定剤』([[法研]]、2003年3月23日)ISBN 978-4879544629

2013年3月10日 (日) 10:11時点における版

睡眠導入剤(すいみんどうにゅうざい、w:Hypnotic, w:soporific)は、不眠症睡眠が必要な状態に用いる薬物である。睡眠時の緊張や不安を取り除き、寝付きを良くするなどの作用がある。睡眠薬催眠薬とも呼ばれる。

化学構造により、ベンゾジアゼピン系非ベンゾジアゼピン系、チエノジアゼピン系、バルビツール酸系、シクロピロロン系や抗ヒスタミン薬などに分類される。これらは、すべてGABA受容体に作用する。また、作用時間により、超短時間作用型、短時間作用型、中時間作用型、長時間作用型に分類される。同じくGABA受容体に作用する気分安定薬として販売される抗てんかん薬と相加作用がある。特にアルコールとの併用は作用を強める危険性が、添付文書にも書かれており、特に力価の強い薬剤では呼吸中枢を抑制し死に至る危険性がある。

ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は抗不安薬としても使われ、逆に抗不安薬(マイナートランキライザー)や抗精神病薬(メジャートランキライザー)を睡眠導入剤として利用することもある。

睡眠薬の長期的な使用は死亡リスクを高めることが実証されている[1][2][3][4]。男女ともに、睡眠薬の使用が自殺の増加に結びついていることが明らかになっている[2]

バルビツール酸系とベンゾジアゼピン系の多くは、乱用の危険性があるために、国際条約上の別表(スケジュール)IIIおよびIVに指定され流通が制限される。アメリカでは規制物質法にて同様に別表にて定められている。日本では、麻薬及び向精神薬取締法において、第2種向精神薬にはバルビツール酸系のアモバルビタールペントバルビタール、ベンゾジアゼピン系のフルニトラゼパム、ほかのベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系の多くは第3種向精神薬に定められている[5]。第2種向精神薬は別表III、第3種向精神薬に別表IVに相当する。


概要

1940年代に、ホフマン・ラ・ロッシュ製薬会社のレオ・スターンバッグが、キナゾリン化合物を作ったつもりが、偶然にも後にベンゾジアゼピンとして知られる物質を合成しており、抗不安作用が見いだされ、クロルジアゼポキシドと命名された[6]バルビツール酸系フェノバルビタールのような薬の危険性が認識されるなか、クロルジアゼポキシドは、アメリカで1958年5月に特許が承認され、1960年代にリブリウムの商品名で販売が承認された[7]

この種類の薬に限らず、商業的に成功した医薬品に類似した医薬品を医薬品設計し、特許を取得し販売するのは製薬会社の戦略である[7]。同社も、そうした類似の化合物を合成し、ベストセラーとなったジアゼパムもその中に含まれる[7]

1960年代には、相加的に作用が高まり、呼吸を抑制して死亡することが知られているため危険だとされていた、バルビツール酸系とベンゾジアゼピンと、アルコールとで交叉耐性が見出され、似たような部位に作用しているのではないかと考えられた[8]。さらに研究が進むとGABA受容体に作用していることが明らかになった[8]

1969年に、女優のジュディー・ガーランドが、アルコールとベンゾジアゼピンの相加作用で死亡すると、アメリカ上院の調査委員会が発足し、処方が減っていった[7]。1975年には、ベンゾジアゼピンはスケジュールIVに指定され短期間に限った処方が認められた[9]

イギリスでは、1980年代にモーズレー病院のマルコム・レーダーが、ベンゾジアゼピンの常用量での依存の提起され、依存性の問題がメディアでたびたび取り上げられるようになった[10]

1990年代に入ると、欧米ではうつ病と抗うつ薬が登場し、ベンゾジアゼピンの危険性が指摘されるようになる[10]

1996年には、世界保健機関により、物質乱用や危険性について検討された「ベンゾジアゼピンの合理的な利用」という報告書が作成され、30日以下の短期間にすべきであることが提言されている。[11]

非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬が登場したが、有効性および安全性に疑問が呈されている[12]

日本では1960年代初頭に、若者を中心に乱用がブームとなった[13]。この経緯で、規制が強化された。しかしながら1980年代からは、ハルシオンを中心とする睡眠薬の乱用がみられ、社会問題化している[14]

副作用として、依存形成のほか、一過性の健忘、覚醒後の眠気、悪夢などがある。まれに一過性の健忘、脱抑制、自動行動などが組み合わさった奇異反応を生じる。

睡眠薬に分類される薬の多くは、麻薬及び向精神薬取締法にて向精神薬に定められ、譲渡および転売が違法である。

種類

ベンゾジアゼピン

近年は、新しい非ベンゾジアゼピン系睡眠薬と、ホルモンのメラトニンに置き換えられ、処方量も増えているが、ベンゾジアゼピンは最も著名で最も頻繁に処方される催眠薬である。ベンゾジアゼピンは、短期的には有効であるが、1-2週間後には耐性が形成され、そのため長期間の使用には無効となる。そのため入院の原因となり、とりわけ高齢者に頻繁である。

中止時にはベンゾジアゼピン離脱症候群が生じる可能性がある。これはリバウンド不眠、不安、混乱、見当識障害、不眠、知覚障害の特徴を持つ。従って、耐性、薬物依存、長期使用の副作用を避けるために処方は短期使用に制限される[15]

勧告とガイドライン

英国国立医療技術評価機構(NICE)による、2004年の不眠症のガイドラインにおいて、催眠薬の利用は重度の不眠に限り、かつ短期間に留めなければならないとしている[16]。非ベンゾジアゼピン系のゾルピデムザレプロンゾピクロン、短期作用型ベンゾジアゼピンの比較評価については有効なデータがなく、最も安価な薬物を選択すべきとしている。投与中に睡眠導入剤を切り替える場合、患者がその薬剤を直接原因とする副作用が発生した場合のみに限るべきだとしている。これらの睡眠導入剤について効果を示さなかった患者については、いかなる他の薬剤も処方すべきではないとしている。

副作用

アルコールと一緒に服用すると効果増強のおそれがある。事故のおそれがあるため自動車や機械を運転しない。

がん

2年半の追跡で、睡眠薬(ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系、バルビツール酸系)を使用していた群は、そうでないよりがんの危険性を35%増加させる[1]

死亡リスクの増加

2年半の追跡で、睡眠薬(ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系、バルビツール酸系)を使用し、死亡率は睡眠薬を服用しない対照群と比べ、年間18回分未満の服用で3.5倍、18回~132回分で4.6倍、それ以上では5.3倍であった[1]。 20年間の追跡で、睡眠薬の使用は全死因の増加に関連し、男性では冠動脈疾患、がん、自殺の危険因子であり、女性では自殺の危険因子であった[2]。約15,000人の18年の追跡調査では、使用頻度の増加に伴って死亡率が高まることが見出され、抗不安薬・睡眠薬の服用群は、男性3.1倍、女性2.7倍、交絡因子を調整して、1.7倍の1.5倍であった[3]。13年間の追跡で、抗不安薬・睡眠薬の服用群は3.22倍で、調整後1.36であった[4]

離脱症状

離脱症状を生じる可能性がある。

法律

1971年の向精神薬に関する条約は、ベンゾジアゼピンのクロナゼパムおよびバルビツールのフェノバルビタールは、別表IV(スケジュールIV)の規制が定められた。

別表IIIおよびIVに定められている。

日本において、麻薬及び向精神薬取締法で、法律上の向精神薬に定められ、一定の規制がある。

アメリカでは、規制物質法の別表IVに定められるものが多い。

フルニトラゼパム

アメリカでは、フルニトラゼパムは、前向性健忘の危険性が強いため医療用として未承認のまま、1984年11月5日にスケジュールIVに位置付けられたままである[17]

イギリスでは、フルニトラゼパムは、ブラックリストに載っており、国民保健サービス(NHS)を通じて処方することはできない[18][16]

アメリカ空軍での使用

アメリカ空軍では任務遂行後のパイロットの疲労回復のため、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の使用を認める。砂漠の作戦ではトリアゾラムが使用される。ベンゾジアゼピン系の副作用を避けるために、ゾルピデムが使用されることもある[19]

一覧

関連項目

脚注

  1. ^ a b c Kripke, D. F.; Langer, R. D.; Kline, L. E. (2012). “Hypnotics' association with mortality or cancer: a matched cohort study”. BMJ Open 2 (1): e000850–e000850. doi:10.1136/bmjopen-2012-000850. PMC 3293137. PMID 22371848. http://bmjopen.bmj.com/content/2/1/e000850.long. 
  2. ^ a b c Mallon, Lena; Broman, Jan-Erik; Hetta, Jerker (March 2009). “Is usage of hypnotics associated with mortality?”. Sleep Medicine 10 (3): 279–286. doi:10.1016/j.sleep.2008.12.004. PMID 19269892. 
  3. ^ a b Hausken, Anne Margrethe; Skurtveit, Svetlana; Tverdal, Aage (August 2007). “Use of anxiolytic or hypnotic drugs and total mortality in a general middle-aged population”. Pharmacoepidemiology and Drug Safety 16 (8): 913–918. doi:10.1002/pds.1417. PMID 17486666. 
  4. ^ a b Belleville G (September 2010). “Mortality hazard associated with anxiolytic and hypnotic drug use in the National Population Health Survey” (pdf). Canadian Journal of Psychiatry. Revue Canadienne De Psychiatrie 55 (9): 558–67. PMID 20840803. http://publications.cpa-apc.org/media.php?mid=1018. 
  5. ^ 厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課 2012.
  6. ^ エリオット・S・ヴァレンスタイン 2008, pp. 73–76.
  7. ^ a b c d エリオット・S・ヴァレンスタイン 2008, pp. 73–77.
  8. ^ a b エリオット・S・ヴァレンスタイン 2008, pp. 122–123.
  9. ^ エリオット・S・ヴァレンスタイン 2008, pp. 73–767.
  10. ^ a b デイヴィッド・ヒーリー 2005, pp. 16–20.
  11. ^ WHO Programme on Substance Abuse 1996.
  12. ^ Huedo-Medina, T. B.; Kirsch, I.; Middlemass, J.; Klonizakis, M.; Siriwardena, A. N. (2012). “Effectiveness of non-benzodiazepine hypnotics in treatment of adult insomnia: meta-analysis of data submitted to the Food and Drug Administration”. BMJ 345 (dec17 6): e8343. doi:10.1136/bmj.e8343. PMC 3544552. PMID 23248080. http://www.bmj.com/content/345/bmj.e8343. 
  13. ^ “睡眠薬遊び流行”. 毎日新聞. (1961年11月12日). http://showa.mainichi.jp/news/1961/11/post-3005.html 2013年3月10日閲覧。 
  14. ^ 『精神科ポケット事典 新訂版』p.200
  15. ^ Frighetto L, Marra C, Bandali S, Wilbur K, Naumann T, Jewesson P (March 2004). “An assessment of quality of sleep and the use of drugs with sedating properties in hospitalized adult patients”. Health Qual Life Outcomes 2 (1): 17. doi:10.1186/1477-7525-2-17. PMC 521202. PMID 15040803. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC521202/. 
  16. ^ a b 英国国立医療技術評価機構 2004.
  17. ^ Scheduling of Drugs Under the Controlled Substances Act”. FDA (1999年3月11日). 2013年2月23日閲覧。
  18. ^ Trisha Macnair (2011年5月). “Rohypnol”. BBC. 2013年2月23日閲覧。
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参考文献